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タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の仕組みや注意点を詳細解説

税率が著しく低い国・地域であるタックスヘイブン(租税回避地)に海外子会社のある企業が知っておくべき税制が、タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)です。タックスヘイブン対策税制は、課税逃れを防ぐため、特定の海外子会社の利益を国内親会社の利益と合算して課税する制度です。
タックスヘイブン対策税制の仕組みを理解しないまま海外事業を行い、税務調査で厳しく追及された例もあるので注意しなければいけません。本記事では、国際税務を多く扱ってきた税理士が、タックスヘイブン対策税制の課税の仕組みや適用判断などをわかりやすく解説します。
タックスヘイブン利用による税務上の問題点

タックスヘイブン(租税回避地)とは、法人税や所得税などが完全に免除されるか、著しく低い税率が適用される国や地域のことです。タックスヘイブンに子会社を設立して利益を移転させれば、本来日本で課税されるはずだった税負担を軽減できます。
タックスヘイブンに子会社を設立して事業を行い、税負担が軽くなること自体は問題ではありません。しかし、タックスヘイブンは事業実態がなくても会社を設立できることが多く、国際的な課税逃れの温床となることがあります。
この問題を解消するために、日本で設けている税制の1つがタックスヘイブン対策税制です。なお、タックスヘイブンの種類や税務上の問題点の詳細は、以下の記事を参考にしてください。
タックスヘイブン対策税制(外国子会社合算税制)の課税の仕組み

タックスヘイブン対策税制を理解するため、次のように課税所得が200ある国内親会社Aと、タックスヘイブンにある課税所得0の海外子会社Bを例にします。
| 国内親会社A | 海外子会社B | |
| 税負担の割合 | 30% | 10% |
| 課税所得 | 200 | 0 |
| 税金 | 60 | 0 |
■海外子会社を利用した課税逃れの例
| 国内親会社A | 海外子会社B | |
| 税負担の割合 | 30% | 10% |
| 課税所得 | 200⇒100 | 0⇒100 |
| 税金 | 60⇒30 | 0⇒10 |
つまり、本来なら親会社に60の税金がかかるところ、所得移転によってグループ全体の税負担は40(親会社30+子会社10)しかかかりません。
こうした課税逃れを防ぐため、タックスヘイブン対策税制を適用すると、子会社Bの所得100を親会社Aの所得とみなして合算し、日本で課税することになります。ただし、同じ所得に対して日本と海外で二重課税されることを防ぐため、子会社Bが海外で支払った税金10は、親会社Aが日本で納める税金から控除されます(外国税額控除)。
■タックスヘイブン対策税制の適用
| 国内親会社A | 海外子会社B | |
| 税負担の割合 | 30% | 10% |
| 課税所得 | 100⇒200 | 100 |
| 税金 | 30⇒50 | 10 |
結果として、親会社Aの税金は50(所得200×税率30%−海外子会社Bの税金10)となり、グループ全体の税負担は合計60(親会社50+子会社10)に戻ります。これにより、所得移転による租税回避の効果が打ち消されます。
もちろん、この制度は不当な課税逃れを防ぐことが目的のため、海外で正当な事業活動を行っている子会社は原則として適用が免除されます。実際に、国税庁から課税逃れを指摘されたものの、事業実態が認められて税務訴訟で勝訴した事例もあります。
タックスヘイブン対策税制の適用フロー6STEP

タックスヘイブン対策税制が適用されるかどうかは、海外子会社の事業実態や現地の租税負担割合によって決まります。国税庁が公開している判定基準に基づき、次のフローチャートに沿ってタックスヘイブン対策税制の適用を判定します。
■タックスヘイブン対策税制の適用判定フローチャート
| ステップ | 判定事項 | YESの場合 | NOの場合 |
| STEP1 | 外国関係会社に該当するか? | STEP2へ | 適用免除 |
| STEP2 | 租税負担割合が27%以上か? | 適用免除 | STEP3へ |
| STEP3 | 事業実態のない特定外国関係会社に該当するか? | 会社単位の合算課税 | STEP4へ |
| STEP4 | 租税負担割合が20%以上か? | 適用免除 | STEP5へ |
| STEP5 | 経済活動基準をすべて満たすか? | STEP6へ | 会社単位の合算課税 |
| STEP6 | 受動的所得が少額免除基準を満たすか? | 適用免除 | 受動的所得の部分合算課税 |
上の表の通り、課税方法には、子会社の全所得が対象となる「会社単位の合算課税」と、配当や利子など一部の所得のみが対象の「受動的所得の部分合算課税」の2種類があります。以下、STEP1~6について詳しく解説します。
【STEP1】外国関係会社に該当するか?
まず、海外子会社が「外国関係会社」かどうかを判定します。外国関係会社とは、「日本の居住者・内国法人によって、実質的にコントロールされている海外法人」を指し、具体的には次のいずれかの条件を満たす会社です。
(1)日本の居住者・内国法人が、合計で50%超の資本を直接または間接的に保有している
(2)(1)に該当しなくても、日本の居住者・内国法人が事業方針を実質支配している
ここで、(2)の実質支配は「役員の半数以上を派遣している」「事業の大部分を親会社との取引に依存している」などの事実関係から総合的に判断されます。
なお、孫会社などを間接保有する場合、判定には「50%超の連鎖方式」を用いる点に注意しなければいけません。
例えば、親会社Aが、海外子会社Bの株式を80%保有し、Bが海外孫会社Cの株式を60%保有しているとします。この場合、親会社A⇒子会社B⇒孫会社Cと50%超の関係が連鎖しているため、孫会社Cは外国関係会社となります。80%×60%=48%と、掛け算で判定しない点に注意してください。
【STEP2】租税負担割合が27%以上か?
海外子会社が外国関係会社に該当したら、次に租税負担割合を計算します。租税負担割合とは、海外子会社が現地で実際にどれくらいの税金を負担しているかを示す実効税率のようなものです。
租税負担割合が27%以上であれば、海外子会社は租税回避を目的としている可能性が低いと判断され、タックスヘイブン対策税制の適用は免除されます。
【STEP3】事業実態のない特定外国関係会社に該当するか?
次に、海外子会社が特定外国関係会社に該当するかどうかを判定します。特定外国関係会社とは、事業実態が乏しく、租税回避目的で設立された可能性が高いとされた会社を指し、具体的には以下の3種類です。
■特定外国関係会社3つの種類
| ペーパーカンパニー | 事業を行うための事務所などの固定施設を持たず、かつ、現地で事業の管理・運営を自ら行っていない、事業実態のない会社 |
| 事実上のキャッシュボックス | 受動的所得(配当、利子など)が総資産の30%を超え、かつ、有価証券、貸付金等が総資産の50%を超える、事業より資産運用が実態の会社 |
| ブラックリスト国所在会社 | 租税に関する情報の交換に非協力的な国として財務大臣が指定する国・地域にある会社 |
上記のいずれかに該当し、かつ租税負担割合が27%未満であれば、会社単位の合算課税が適用されます。
【STEP4】租税負担割合が20%以上か?
特定外国関係会社に該当しない場合、再度租税負担割合を確認します。20%以上であれば、タックスヘイブン対策税制の適用は免除され、20%未満であれば、経済活動基準による詳細な判定を行います。
【STEP5】経済活動基準をすべて満たすか?
次に、海外子会社が、経済活動基準を満たしているかどうかを確認します。経済活動基準は、正当な事業活動を行う会社をタックスヘイブン対策税制の対象外とするための基準で、次の4つです。
■4つの経済活動基準
| 事業基準 | 主たる事業が、株式の保有や知的財産権の提供など、資産運用的な事業ではないこと。 |
| 実体基準 | 主たる事業に必要な事務所や工場などの固定施設を現地に有していること。 |
| 管理支配基準 | 現地において、事業の管理、支配、運営を自ら主体的に行っていること。 |
| 所在地国基準または非関連者基準 | 事業内容に応じて、主たる事業を現地で行っているか(所在地国基準)、または、取引の過半数をグループ外の第三者と行っているか(非関連者基準)のいずれかであること |
4つの基準を1つでも満たしていない場合は、現地での事業実態が不十分とみなされて、タックスヘイブン対策税制が適用されます。この場合は、海外子会社すべての所得が、日本の親会社の所得に合算される「会社単位の合算課税」となります。
一方、4つの基準を満たしている場合は、現地で正当な事業活動を行っているとみなされます。しかし、資産運用等から得られる受動的所得(配当、利子、有価証券の譲渡益など)については、STEP6で示すように個別に判定されます。
【STEP6】受動的所得が少額免除基準を満たすか?
経済活動基準をすべて満たしている場合でも、すぐにタックスヘイブン対策税制の適用免除となるわけではありません。受動的所得は租税回避に利用されやすいため、少額免除基準を満たすかどうかで判定を行います。
少額免除基準とは、受動的所得の合計額が2,000万円以下、もしくは税引前利益の5%以下の場合を指します。少額免除基準を満たす場合は、タックスヘイブン対策税制の適用免除となります。
少額免除基準を満たさない場合は、「受動的所得の部分合算課税」が適用されます。つまり、会社全体の所得ではなく、受動的所得に該当する部分のみが国内親会社の所得に合算されます。
タックスヘイブン対策税制に関する3つの注意点
タックスヘイブン対策税制に関する主な注意点について解説します。
現地の法人税率=租税負担割合ではない
タックスヘイブン対策税制の適用判定では、「現地の法人税率=租税負担割合」ではない点は注意が必要です。租税負担割合は、日本の税法の考え方に沿って複雑な調整を加えて算出される実効税率です。
そのため、現地の税法では非課税とされている所得などを加算して、租税負担割合を計算しなければいけません。この場合、法定税率が27%を超えていても、計算上の租税負担割合は27%を下回るケースが頻繁にあります。
M&Aで買収した会社の事業内容を把握する
M&Aは、タックスヘイブン対策税制における大きなリスク要因です。
かつて、ソフトバンクグループは税務調査で、約939億円もの申告漏れを指摘されました。原因は、過去に買収した米国の会社が、タックスヘイブンであるバミューダ諸島に子会社を保有していたことでした。
国税局は、バミューダ諸島にある子会社が事業実態のないペーパーカンパニーであると認定しました。そのため、タックスヘイブン対策税制が適用となり、子会社の所得はソフトバンクグループの所得に合算されました。この事例は、買収した会社本体だけでなく、子会社、孫会社の事業形態まで把握する重要性を示しています。
海外事業から撤退する過程でペーパーカンパニーに該当する可能性がある
海外事業から撤退する際、現地従業員の整理解雇、事務所の解約、設備の売却などが行われます。その結果、事業活動が停止し、多額の資産だけを保有する状態になり、意図せずペーパーカンパニーに該当するかもしれません。
資産の売却や、国内親会社からの貸付金を債務免除によって得られた利益が、会社単位の合算課税の対象になることがあります。
【まとめ】タックスヘイブン対策税制は専門家に相談を
タックスヘイブン対策税制の仕組みと、適用判断のフローチャート、実務上の注意点を解説しました。タックスヘイブン対策税制は、租税負担割合の計算や経済活動基準の判定、最新の国際課税のルールなど、高度な専門知識が求められます。国際税務に精通した税理士に相談するなど、体制を整えるようにしましょう。
当税理士法人TAX LAWYERは、タックスヘイブン対策税制に限らず、複雑な税法や法律に絡む国際税務に精通した税理士と弁護士が連携してサポートいたします。
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