デンソー事件

目次

主たる事業は株式保有業ではなく地域統括業

概要

海外子会社が実体的な事業活動を行っているとして、外国子会社合算税制の適用が除外された事案。

相関図

概要

■概要
■納税者はシンガポールに100%子会社を設立していたが、課税庁より、当該子会社は外国子会社合算税制の適用対象であるとして更正処分を受けた。争点は、当該子会社の主たる事業が、外国子会社合算税制の適用対象となる、株式保有業に該当するかどうかである。

■地裁は、当該子会社は株式の配当による所得金額は多いものの、実体的な事業活動が現実に行われているとして外国子会社合算税制の適用除外要件の一つである事業基準を満たすと判示し、納税者の主張を認めた。

■高裁は、当該子会社は株式の保有を「主たる事業」とするもの、すなわち、株式保有業を目的とするものであり、納税者の主張する地域統括業務は、株式保有事業に含まれる一つの業務にすぎず、株式保有業と別個独立の業務とはいえないとして、外国子会社合算税制の適用除外要件の一つである事業基準を満たさないと判示し、納税者の主張を退けた。

■しかし、最高裁では、再び判断を覆し、当該子会社の行っていた地域統括業務は、相当の規模と実体を有するものであり、事業活動として大きな比重を占めていたということができるとして、地域統括業務が主たる事業であったと認定。当該子会社は外国子会社合算税制の適用除外要件の一つである事業基準を満たすと判示し、再び納税者の主張を認めた。納税者勝訴で確定。
■裁判所
東京地方裁判所 平成26年9月4日判決(福井章代裁判長)(一部取消し・却下)(双方控訴)
東京高等裁判所 平成28年2月10日判決(藤山雅行裁判長)(原判決中一審被告敗訴部分取消し・一審原告の控訴棄却)(上告・上告受理申立て)
最高裁判所 平成29年10月24日判決(山崎敏充裁判長)(破棄自判・被上告人の控訴棄却・その余の上告棄却)(確定)

争点

外国子会社合算税制(措置法66条の6)の適用の有無(原告子会社の主たる事業は何か)

判決

東京地方裁判所
→納税者勝訴

東京高等裁判所
→納税者敗訴

最高裁判所
→納税者勝訴

外国子会社合算税制

外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
わが国の内国法人等が、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により、わが国の税負担を軽減・回避する行為に対処するため、外国子会社等がペーパー・カンパニー等である場合又は経済活動基準(※以下参照)のいずれかを満たさない場合には、その外国子会社等の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)することを規定した税制。
租税特別措置法66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)に規定されている。

※経済活動基準は以下の通りである。
①事業基準
(主たる事業が株式の保有等、一定の事業でないこと)
②実体基準
(本店所在地国に主たる事業に必要な事務所等を有すること)
③管理支配基準
(本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること)
④次のいずれかの基準
(1) 所在地国基準
(主として本店所在地国で主たる事業を行っていること)
※ 下記以外の業種に適用
(2) 非関連者基準
(主として関連者以外の者と取引を行っていること)
※ 卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業、航空運送業、航空機貸付業の場合に適用

また、外国子会社等が経済活動基準を全て満たす場合であっても、実質的活動のない事業から得られる所得(いわゆる受動的所得)については、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税される(受動的所得の合算課税)。

受動的所得とは
配当等、利子等、有価証券の貸付対価、有価証券の譲渡損益、デリバティブ取引損益、外国為替差損益、その他の金融所得、保険所得、固定資産の貸付対価、無形資産等の使用料、無形資産等の譲渡損益 等を指す。
ただし、事務負担に配慮し、外国子会社等の租税負担割合が一定(ペーパー・カンパニー等は30%(内国法人の令和6年4月1日以後に開始する事業年度については27%)、それ以外の外国子会社等は20%)以上の場合には本税制の適用を免除されている。

キーワード

■キーワード
卸売業、海外子会社、外国関係会社、外国法人税、株式保有業務、株主総会、関係会社、経済的合理性、事業基準、実体基準、主たる事業、租税回避行為、タックスヘイブン対策税制、地域統括会社、デンソー事件、特定外国子会社、トリガー税率

■重要概念
外国子会社合算税制

東京地裁/両者の主張

納税者の主張

措置法66条の6第3項括弧書きの「株式《中略》の保有《中略》を主たる事業とするもの」に該当するためには、単に株式を保有しているだけでは足りず、何らかの事業として株式を保有していることが必要であり、株式の売買収入により収益を上げているというような資産運用的な所得の獲得を目的としていること等を要するというべきである。

また、上記「主たる事業」の判定については、種々の要素を総合的に勘案して判定しなければならず、全所得に占める配当所得の割合など特定の事項のみを重視して判定すべきものではない。さらに、「主たる事業」の判定は、当該特定外国子会社等の事業活動の実態に即して行うべきであって、「配当所得」という名目・形式のみに着目し、これを一律に評価することによって行うようなことは妥当でない。そして、タックスヘイブン対策税制の適用除外の趣旨は、民間企業の正常な海外投資活動を阻害しないため、所在地国において独立企業としての実体を備え、かつ、それぞれの業態に応じ、その地において事業活動を行うことについて経済的合理性がある場合には、租税回避行為(異常又は不自然な行為形式をとり、税負担を不当に軽減させる行為)とはいえないことから、法人税法の内国法人課税の原則(外国法人については日本国内源泉所得のみに課税するという原則)に立ち返り、外国子会社の留保所得(課税対象金額相当額)を内国法人の収益とみなすような例外的課税である上記税制を適用しないという点にある。

したがって、上記「主たる事業」の判定に当たっても、特定外国子会社等がタックスヘイブン地域に所在することに経済的合理性があるか否かという観点を考慮すべきである。

Bは、子会社の株式を単に保有していただけであり、当該株式を売買等していないし、その売買等により資産運用的な利益を得ることも企図しておらず、このような株式の保有そのものは、「事業」には該当しない。

Bの主たる事業は、ASEANにおけるAグループ全体の集中生産・相互補完体制の確立や決済システム等の構築・維持を内容とする「地域統括事業」(ASEANにおける原告グループ会社の統括事業)である。

すなわち、Bは、集中生産・有機的な相互補完体制を円滑に運用するために、①生産・輸送等に関するルール設定やシステム管理をし、②各生産拠点の価格設定の確認や価格変更の指示を行い、③発注書等の各種書類の統一的な雛形を作成したりシステムを構築するなどして、各子会社間の連絡・調整を行い、④拠点間取引を一元的に管理する情報管理システム・決済システムを構築し、⑤決済をBを介して行うことで為替リスクをBのみが負うものとし、⑥現地のパートナー(共同出資者)との協議をしたり、顧客や政府との折衝を行うなどしてきた。そして、Bは、株式保有業として典型的に想定されている株式の売買等に係る活動は行っておらず、Bによる株式の保有は、上記地域統括事業の手段ないし機能の一つにすぎず、「主たる事業」には当たらない。

すなわち、Bは、株式を保有することによって、ASEAN域内の各製造会社(原告グループ会社)の親会社ないし主要株主として、地域会議を主催したり、株主総会への出席や現地パートナーとの折衝を行ってきたところ、これらも、集中生産・相互補完体制の構築・維持・発展に向けたものなのである。

ASEANにおける原告グループ会社は他にもあるが、Bは、同社によるパートナー対応が必要ないなどの事情から、これらの会社の株式を保有しておらず、Bが株式を保有しているのは、基本的には同社を中心とした集中生産・相互補完体制に深く関わっている子会社のみである。

このことからも、Bの株式保有の目的があくまでも地域統括事業を円滑かつ効率的に推進することにあることは明らかである。

Bの何十人もの従業員が、ASEANにおける事業拡大のためにいかにして生産体制を運営していくかに頭を悩ませ、パートナーや子会社、顧客その他の取引先等と連絡を取り、また、実際に現地に赴いて直接協議や交渉等を行っているのであって、そうした事業活動の実態に即して「主たる事業」が判断されなければならない。

Bの本店がシンガポールに所在する(シンガポールに地域統括会社が置かれた)のは、シンガポールの地理的な利便性(ASEAN、オーストラリア、台湾、インドなど豪亜地域へのアクセスの容易さ)、産業インフラ(金融、物流、通信、情報等)の整備、政治の安定性、各種規制緩和、教育水準の高さ、法制度の整備、行政手続の容易・迅速性、為替の安定等の点で、経済的合理性があるからにほかならず、Bの設立は租税回避目的でされたものではない。

Bの地域統括事業によって、原告グループ会社は、ASEAN域内で業績が向上し、成功を収めた。Bの配当所得の大部分は、地域統括事業の成功の反射的効果であり、実質的にはその対価であるということができる。

なお、Bの子会社等への支援活動により生じた効果の対価は、サービス・フィーとしてあらかじめ評価し切ることが事実上不可能であるため、事後的に配当金として受領するのが合理的である(実際、Bの地域統括活動が開始された平成10年から直ちにその効果が現れたわけではなく、集中生産・相互補完体制が確立し発展していく中で徐々にその効果が現れたものであって、Bが行った上記活動については、直ちに効果が実現しないものであるから、サービス・フィーとして随時対価を徴収することが難しいものというほかはない。)。

他方、ASEANの自動車部品産業のように、特定外国子会社等が子会社の全株式を保有することが歴史的に見て必ずしも容易でなく、かつ、パートナーからの配当の要求も厳しいようなケースでは、配当を行わない(Bが配当金を受け取らない)という方針も採り得ない。被告が主張するように、「主たる事業」が「株式の保有」か否かの判断に当たり収入金額又は所得金額を重視するとなると、支援活動が失敗したときには「主たる事業」が「地域統括事業」と判定され、支援活動が効を奏したときには「主たる事業」が「株式の保有」と判定されてしまうという不合理な事態が生じかねない。

また、仮に、被告が主張するように「配当金」という対価の形式のみに着目して「主たる事業」を判断することになると、例えば、ある原材料メーカーである親会社が、当該原材料を元に製品を製造する子会社に対して、原材料を供給するに際し、コストベースの対価を設定し、子会社の利益獲得を支援し、子会社から配当を得るような場合にも、子会社に提供するための原材料の製造業務は、「配当金」を獲得するための業務であり、株式保有業の一機能と評価されることになってしまう。

Bが受領した配当は、各生産子会社が実現した利益を原資とするものであるところ、この利益は、子会社がその固有の活動によって獲得した利益と、Bが提供した役務・便益を利用して獲得した利益により構成されると考えるのが合理的である。これについて定量的に分析し、Bの収入・所得額を実質的に考慮すると、地域統括事業の対価は、Bの収入合計の71%(2007事業年度)ないし66%(2008事業年度)を占め、地域統括事業の収入・所得の方が株式保有業の収入・所得を上回る。

Bの従業員(使用人)は、全員が株式保有以外の事業に従事しており、その大半が地域統括事業に従事している。また、Bの固定施設は、全てが株式保有以外の事業に使用されており、その大半が地域統括事業に使用されている。

シンガポールの法人登録制度上、「Principal Activities」についての記載は、専ら行政監督上の必要性に基づくものであって、設立後の会社の事業実態を具体的・客観的に反映するような実質的な意味を有するものではなく、複数の活動間の主従・記載順序についても、格別意識することなく入力されるのが通常であるし、Bの「Principal Activities」について「OTHER INVESTMENT HOLDING COMPANIES」及び「MFG OF PARTS & ACCESSORIES FOR MOTOR VEHS」(自動車部品及び付属品製造)と記載されたのは、子会社株式の保有を手段として各生産拠点の自動車部品製造を地域内で統括していくことを表すものと理解することができる。

また、Bは、株式を保有しているという意味においては、「持株会社」なのであるから、BがASEAN地域における生産子会社の株式を保有して地域統括を行っている事実を分かりやすく伝えるために、ホームページ等にBの主たる機能を「持株会社」と記載したからといって、何ら不自然なことではない。

上記諸点を考慮すると、前記被告の主張で指摘されている事項は、B及び原告が、Bの主たる事業が株式保有業であることを自認していることを推認させるものではない。

以上によると、B各事業年度において、Bは、株式の保有を主たる事業(措置法66条の6第3項括弧書き)とするものではなく、事業基準を満たすというべきである。

B各事業年度において、Bの主たる事業は、次のとおり、措置法66条の6第4項1号所定の「卸売業」には該当しない。a Bの事業内容は、集中生産・相互補完体制に関する戦略の検討に始まり、これを実行するための材料メーカーとの折衝、各製造拠点及びそのパートナーとの製造方針についての協議・戦略策定、当該戦略をより効果的に進めるための各種管理システムの構築、各製造拠点で製造された製品の流通に関する支援、各製造拠点間での決済の円滑化・効率化に向けた支援、集中生産・相互補完体制の拡大(主には製造拠点の増築)のための情報収集・戦略の策定、パートナーとの協議等を含んでおり、こうした業務が一体となって集中生産・相互補完体制による製造販売を実現させている。

したがって、これらの事業から「物流改善機能」のみを取り出して「卸売業」に当たるとすることはできない。

また、Bと各生産子会社との間の売買は、グループ内部の事務的な流れの一つにすぎず、集中生産・相互補完体制の一体的な運営の中で売買のみを取り出したり、これを中核部分として評価することは誤りである。

売買に係る部分を除く地域統括事業(各種システムの構築等)こそが、収入に貢献している中核的な要因であり、決して売買が「主」なのではない。

そもそも、Bは、決済の一元化のために生産拠点間の商流に入るものの、生産拠点間の売買を代理する関係にはなく、また、受発注に関するシステムを提供するものの、実際の受発注(売買の成立)に関与するものではないから、物品の販売や売買の代理・あっせんを行うものとはいえないのであって、日本標準産業分類上も、「卸売業」には当たらない。

Bの主たる事業は、措置法66条の6第4項1号に掲げられた卸売業等の事業のいずれにも該当しないから、Bについては、非関連者基準ではなく所在地国基準によって適用除外の有無を判定すべきである。

Bは、シンガポールにおいて、地域統括事業を行うために必要な事務所を賃借するとともに、事務用什器備品・車両・コンピュータなどの固定資産を保有しており、地域統括事業に従事する従業員が上記事務所で就労しているのであるから、Bが主としてその本店所在地国であるシンガポールで地域統括事業を行っていることは明らかである。したがって、本件では所在地国基準を満たすというべきである。

Bは、前記ア及びイのとおり事業基準及び所在地国基準を満たし、実体基準及び管理支配基準も満たすから、原告には本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外される。

国税庁の主張

特定外国子会社等に係る主たる事業の判定については、特定外国子会社等の事業活動の客観的結果として得られる収入金額又は所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべきである。

もっとも、事業基準の趣旨等を踏まえると、事業基準において、特定外国子会社等の主たる事業が株式の保有であるか否かを判断する場合には、その所在地国における株式保有に係る事業活動に要する使用人の数や固定施設等の状況という事業実体に係る人的・物的な規模を示す判断要素よりも、株式保有に係る事業活動の結果得られた収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素を重視して、総合的に勘案すべきである。仮に、常に事業実体に係る人的・物的な規模を示す判断要素を重視するということになれば、さしたる生産要素を要しない株式保有業と、相当規模の生産要素が投入された他の事業とを営む特定外国子会社等の場合には、当該株式の保有を通じていかに多額の所得を得ていたとしても、およそ株式の保有は主たる事業となり得ないという帰結を導くことになり、不合理であることは明らかである。なお、株式の保有は、当該株式の売買等によって利益を得ようとしているわけではなくても、措置法66条の6第3項括弧書きの「事業」となり得ることはいうまでもない。

本件についてみると、B各事業年度におけるBの損益計算は、別表7「Bの損益計算書」のとおりであり、Bの所得(税引前当期利益)のうち株式の保有に係る利益(所得金額)の割合は、2007事業年度においては92.32%、2008事業年度においては86.50%であって、Bが子会社の株式を保有することに起因する同子会社からの配当がBの所得金額の大部分を占めている。

また、Bの資産総額に占める保有株式の額の割合も、過半を占めている。他方、Bの地域統括に係る業務(地域企画、調達、材料評価、人事、情報システム及び経理の各機能に係る業務)の利益金額がBの利益金額全体に占める割合は、ごく僅かにすぎない。

また、①Bの法人登録(Business Profile)において「Principal Activities」(主たる活動)の欄の第1に「OTHER INVESTMENT HOLDINGCOMPANIES」(その他投資持株会社)と記載されていること、②Bの監査報告書において「principal activities」として「an investment holdingcompany」(投資持株会社)と記載されていること、③原告グループのホームページにおいて、Bの「Major Functions」(主たる機能)として「1.Holding Company」(持株会社)と記載されていること、④原告の会社案内及び有価証券報告書において、Bの業務内容として「持株会社」との記載がされていることなどからすれば、B及び原告は、Bの主たる事業が株式保有業であることを自認しているというべきである。

ところで、Bにおける地域統括に係る業務(原告のいう「地域統括事業」)は、Bが子会社等から受け取る配当収入を増加させるためのものであって、株式の保有によって多大な利益を生じさせるべく行われているものであるから、株式保有業の一環として行われているものということができる。Bの子会社等への支援業務の手数料の額は、各業務の機能やリスク負担に応じて設定されたものではなく、各子会社等にとって負担にならずBにとって大きな損益が発生しない範囲に収まるように、Bと各子会社等との間で調整して決定されたものである。

したがって、Bは、地域統括業務自体からの利益を追求していないということができる。

また、Bが受領する配当は、形式的にも実質的にも配当そのものであって、子会社等への支援活動の対価とは認められない。そして、原告がBにおける地域統括に係る機能であると主張する機能(地域企画機能、調達機能、材料評価機能、人事機能、情報システム機能、経理機能等)は、持株会社が本来的に有する機能(グループ全体の将来像を描く機能、モニタリング機能、人事機能、リスク管理機能等)に含まれるものであって、株式保有業における業務の1つにすぎない。

したがって、本件における使用人の従事状況及び固定施設の状況を踏まえても、なお持株会社(株式保有業)としての要素が大半を占めるというべきである。

また、仮に、地域統括業務をサービス業務であるとみたとしても、Bの主たる事業が株式の保有であることに変わりはない。

すなわち、Bが行う各機能に係る業務は、株式保有業務(持株機能に係る業務)、卸売業務(物流改善機能に係る業務)及び役務提供(サービス)業務(地域企画、調達、材料評価、人事、情報システム、経理及びその他の各機能に係る業務)の3つに分類できるところ、各業務について、収入金額、所得金額、使用人の従事状況、固定施設の状況、株式保有の状況等を総合勘案すると、株式保有業務がBの主たる事業であると認められる。

平成22年改正措置法66条の6第3項は、主たる事業が「株式等の保有」である統括会社で、被統括会社に対する統括業務を行うものについては、事業基準により適用除外規定の適用対象とならない特定外国子会社等から除く旨規定しているところ、これは、当該統括会社の主たる事業が「株式等の保有」であることを念頭に規定されたものである。

したがって、統括業務を行っていることをもって、主たる事業が株式保有業でないと判断することはできない。

原告は、Bをシンガポールに所在させ、自己が保有していたASEAN域内の原告グループ会社の株式をBに移転し保有させることにより、我が国において原告の受取配当及びこれに対する預金利息に係る所得に課されるべき租税を免れ、さらにシンガポールの優遇税制によって、B自体の受取配当や預金利息に対する租税をも免れることが可能となっている。そして、Bの子会社等の配当金額は、原告が設定したAグループ全体の配当政策に基づいて決定され、Bが介入する余地がないことからすれば、我が国において原告に課されることを回避した租税相当額、すなわちBにおける留保資金の運用及び回収を原告が主体的に行っていることは明らかである。このような税負担の軽減を図るような行為が行われていることからも、Bが配当収入の獲得を主たる目的としていることが裏付けられる。

以上の諸事情を総合的に勘案すると、B各事業年度において、Bは、株式の保有を主たる事業(措置法66条の6第3項括弧書き)とするものであり、事業基準を満たさない。

仮に、Bの主たる事業が「株式の保有」には該当せず、事業基準を満たすとしても、B各事業年度において、Bの主たる事業は、少なくとも、措置法66条の6第4項1号所定の「卸売業」に該当する。

なぜなら、Bの物流改善機能に係る業務は、所得金額が株式保有に係る業務に次ぐ金額であり、かつ収入金額という点においてもその大半を占め、使用人や固定施設も必要としているからである。

また、Bの上記業務は、Bから製造業者等である原告のアジア・オセアニア地域の生産拠点である各事業所に対し、商品又は製品を大量・多額に販売するものないしは同事業所のために商品又は製品の売買の代理行為を行うものであり、商社が一般的に行う取引と変わらず、主として手数料を得て他の事業所のために商品の売買の代理又は仲立を行う代理商ないし仲立業として、「卸売業」に分類されるからである。このような業務は、日本標準産業分類(平成19年11月改定)上も、「大分類Ⅰ-卸売業、小売業」の「中分類55-その他の卸売業」の「小分類559-他に分類されない卸売業」の「細分類5598-代理商、仲立業」に該当する。

そして、主たる事業が卸売業であるとすると、その場合の適用除外基準は非関連者基準となるところ、B各事業年度において、Bが行った物流改善機能に係る業務の売上金額(販売取扱金額)の合計額及び売上原価(仕入取扱金額)の合計額のうちに占める関連者との取引に係る割合は、別表8「B売上及び売上原価明細」のとおり、全て95%以上となっており、非関連者基準を満たさない。ウ 小括Bは、原告に係る特定外国子会社等(措置法66条の6第1項)に該当し、課税対象留保金額(同項)を有するところ、前記のいずれの点からしても、措置法66条の6第1項の適用除外要件を満たさないから、原告には本件各事業年度において同項の適用がある。

東京高裁/両者の主張

納税者の主張

追加主張無し

国税庁の主張

追加主張無し

最高裁/両者の主張

納税者の主張

追加主張無し

国税庁の主張

追加主張無し

両者の主張まとめ

■国税庁
■特定外国子会社等の主たる事業の判定については、収入金額や所得金額の状況、使用人の数、固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するべきである。

■事業基準において、特定外国子会社等の主たる事業が株式の保有であるか否かを判断する場合には、その所在地国における株式保有に係る事業活動に要する使用人の数や固定施設等の状況という事業実体に係る人的・物的な規模を示す判断要素よりも、株式保有に係る事業活動の結果得られた収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素を重視すべきである。

■B各事業年度におけるBの損益計算は、Bの所得(税引前当期利益)のうち株式の保有に係る利益(所得金額)の割合は、2007事業年度においては92.32%、2008事業年度においては86.50%であって、Bが子会社の株式を保有することに起因する同子会社からの配当がBの所得金額の大部分を占めている。

■B及び原告は、Bの主たる事業が株式保有業であることを自認しているというべきである。Bにおける地域統括に係る業務は、Bが子会社等から受け取る配当収入を増加させるためのものであって、株式の保有によって多大な利益を生じさせるべく行われているものであるから、株式保有業の一環として行われているものということができる。

■以上の諸事情を総合的に勘案すると、B各事業年度において、Bは、株式の保有を主たる事業とするものであり、事業基準を満たさない。仮に、Bの主たる事業が「株式の保有」には該当せず、事業基準を満たすとしても、B各事業年度において、Bの主たる事業は、少なくとも、措置法66条の6第4項1号所定の「卸売業」に該当する。なぜなら、Bの物流改善機能に係る業務は、所得金額が株式保有に係る業務に次ぐ金額であり、かつ収入金額という点においてもその大半を占め、使用人や固定施設も必要としているからである。

■そして、主たる事業が卸売業であるとすると、その場合の適用除外基準は非関連者基準となるところ、B各事業年度において、Bが行った物流改善機能に係る業務の売上金額(販売取扱金額)の合計額及び売上原価(仕入取扱金額)の合計額のうちに占める関連者との取引に係る割合は、全て95%以上となっており、非関連者基準を満たさない。したがって、原告には本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用すべきである。
■納税者
■Bの主たる事業が株式の保有であるかについて、単に株式を保有しているだけではなく、何らかの事業として株式を保有していることが必要である。

■また、「主たる事業」の判定は、種々の要素を総合的に勘案して行うべきである。Bの主たる事業は、ASEANにおけるAグループ全体の集中生産・相互補完体制の確立や決済システム等の構築・維持を内容とする「地域統括事業」である。

■Bの本店がシンガポールに所在するのは、シンガポールの地理的な利便性、産業インフラの整備、政治の安定性等の点で、経済的合理性があるからである。Bの地域統括事業によって、原告グループ会社は、ASEAN域内で業績が向上し、成功を収めた。Bの配当所得の大部分は、地域統括事業の成功の反射的効果であり、実質的にはその対価である。

■各事業年度において、Bは、株式の保有を主たる事業とするものではなく、事業基準を満たすというべきである。Bの主たる事業は、措置法66条の6第4項1号に掲げられた卸売業等の事業のいずれにも該当しないから、Bについては、非関連者基準ではなく所在地国基準によって適用除外の有無を判定すべきである。
したがって、本件では所在地国基準を満たすというべきである。以上により、本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外されるべきである。

関連する条文

租税特別措置法(平成21年法律第13号による改正前のもの、及び、現行のもの)

66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)

租税特別措置法(現行のもの)

66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)

租税特別措置法施行令(平成21年政令第108号による改正前のもの)

39条の14(課税対象金額の計算等)

東京地裁/平成26年9月4日判決(福井章代裁判長)/(一部取消し・却下)(双方控訴)

前記前提事実に掲記の証拠及び弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。

B設立の経緯等
ASEAN地域においては、1970年代から1980年代にかけて、自国の自動車産業を保護する目的で、一定割合の国産部品の使用強制や完成車の輸入禁止といった国産化規制が設けられていた。こうした国産化規制の下において、原告グループ会社を含む自動車部品メーカーは、ASEAN域内の各国ごとに、それぞれ、少量でも全種類(多種類)の部品を生産・供給することができるような生産拠点を設置していった。

その後、昭和60年(1985年)のプラザ合意による円高の影響で、日本企業は徹底したコスト削減を余儀なくされるようになり、1990年代以降になると、ASEAN地域においても、経済発展に伴って自動車の需要が拡大し、自由化が進展した結果、国産化規制が撤廃されるようになった。

平成4年(1992年)には、ASEAN域内の新たな産業協力体制としてASEAN自由貿易地域(AFTA)が成立し、平成8年(1996年)には、ASEAN所在の企業が域内における生産分業を促進できるようにするための産業協力プログラムとして、AICOスキーム(ASEAN産業協力体制)が構築され、ASEAN域内に立地する現地資本比率30%以上の企業は、各国政府に申請して認可を取得することにより、原材料、部品及び完成品を他のASEAN諸国から輸入する際に、0%ないし5%の特恵関税率の適用を受けられることとなった。

その結果、自動車部品メーカーについても、ASEAN諸国に点在する拠点ごとに全種類の部品を生産し、自動車を組み立てる必要がなくなり、各拠点では特定の少品目の自動車部品のみを集中生産し、これらを拠点間で融通し合う(相互に補完する)ことで、各国に点在する自動車メーカーに対して多品目の自動車部品を効率的に提供する分業体制(集中生産・相互補完体制)を組むことが可能となった。

このような状況の変化を受けて、原告は、平成7年(1995年)以降、ASEAN域内の各拠点が集中生産する品目の検討を進め、これに合わせてASEAN域内各国における生産会社の設立や新工場の建設を行って拠点を整備するとともに、域内での集中生産・相互補完体制の円滑化を図るため、平成7年(1995年)5月●日、ASEAN及び豪州における各拠点間の事業活動を調整・サポートする目的で、シンガポールに地域統括センターとして、100%子会社であるC(以下「C」という。)を設立した。

ASEAN域内における原告グループ会社は、1970年代初めから順次設立されていったが、当時は各所在地国の外資規制により現地資本の過半による資本参加が義務付けられており、多くの国において、株式の過半数が現地資本たる合弁パートナー(共同出資者)によって占められていた。このため、CのASEAN域内の原告グループ会社に対する統率力は十分ではなく、各拠点間の調整・統括機能も不完全なものにとどまったことから、原告は、平成10年(1998年)11月にAICOの認可を取得した上、同年12月●日、自らが保有していたCを含むASEAN・台湾地域のグループ会社7社(シンガポールのC、タイのD及びE、インドネシアのF、マレーシアのG、フィリピンのH並びに台湾のI)の株式を全て現物出資して、Bを設立した。

Bの設立後、ASEAN域内の原告グループ会社間では、集中生産・相互補完体制の構築が進展した。例えば、スタータ(エンジンを始動させる際に用いるスターターモーター)やオルタネータ(交流発電機)は、平成11年(1999年)以前には、タイのY工場、インドネシアのZ工場及びマレーシアのa工場で各別に生産されていたが、同年に集中生産・相互補完体制を構築した後は、専らタイのY工場で集中生産されるようになった。

また、ホーン(自動車のクラクション機器)やスパークプラグ(エンジンの点火プラグ)は、同年以前には、タイのY工場及びインドネシアのZ工場で各別に生産されていたが、同年に集中生産・相互補完体制を構築した後は、専らインドネシアのZ工場で集中生産されるようになった。このような集中生産・相互補完体制の進展の結果、ASEAN域内の原告グループ会社では、効率化や規模の経済(スケールメリット)によって、原価率が大幅に低減し、グループ全体の利益が拡大することになった。

近年、複数の国家間にまたがって世界的な規模で企業活動を行っている多国籍企業と呼ばれるような企業の間では、地域ごとに地域統括本社を置き、地域統括本社が当該地域内のグループ会社に対して生産、販売、物流、資材調達、研究開発、人事、財務等の各種業務の統括・支援活動を行う体制を採るのが世界的な潮流となっている。原告も、ASEAN地域以外の地域においても地域統括会社を設立し、これら地域統括会社が上記のような各種業務を担う体制を採っており、欧州ではJ〔その前身は昭和48年(1973年)設立のK〕を、北米ではL〔その前身は昭和60年(1985年)設立のM〕を、中国ではN有限公司〔平成15年(2003年)設立〕を、豪亜地域ではBを、それぞれ地域統括本社と位置付けている。なお、原告が作成した会社案内では、原告は「Global Headquarters」(世界的な本社)と、上記各会社は「Regional Headquarters」(地域本社)と表記されている。

ASEAN域内における原告グループ会社は、前記(ウ)のとおり、設立当初は、外資規制のため、現地資本たる合弁パートナー(共同出資者)によってその株式の過半数が保有されていたが、その後、外資規制が緩和され、さらに平成9年(1997年)に始まるアジア通貨危機を契機に、現地パートナーからの株式買収等が進んだこともあり、B各事業年度(2007事業年度及び2008事業年度)には、BがASEAN域内の原告グループ各社の株式の過半数を保有するようになっていた。Bは、このような株式保有によって上記グループ各社の最終的な支配権を有することになったことから、後記イの地域統括に関わる業務を行うに当たり、現地の有力者であり依然ある程度の割合の株式を保有しているパートナーと協議・交渉をしたり、取引先や政府との折衝を行う際、対外的な約束をすることができる立場にあるものとして、これら交渉等を円滑に進めることが可能となった。

Bの業務内容等
Bは、豪亜地域における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るため、その設立以来、順次業務を拡大してきたものであり、B各事業年度には、その業務内容は、①地域企画、②調達、③財務、④材料技術、⑤人事、⑥情報システム、⑦物流改善、⑧株式保有、⑨その他という多方面にわたっていた。これらの具体的な内容は、次のとおりであった。

地域企画Bは、原告から示されたグローバルな事業方針を具現化するため、豪亜地域の各国生産拠点と連携を図って課題の洗い出しや対応の検討等を行い、地域全体として損益目標に合致した計画を策定し、計画の遂行に必要な業務を行っている。

地域企画に関する業務として、B各事業年度には、アジア地域社長会や機能別会議を開催・運営したほか、新AICO認可取得のための活動、FTA・関税の調査、Oの新設やBとCとの合併に伴う対応の検討等を行った。

なお、地域企画に関する業務活動については、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、Bは、グループ会社から各生産拠点の対国内第三者向け売上高に一定の料率を乗じた金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

調達Bは、コスト低減や供給の安定を図るため、各生産拠点が共通して使用する金属や樹脂材料等について、グループ会社に代わって仕入れ先の選定や価格交渉を一括して行っているほか、他の地域の地域統括会社とも連携して世界的規模での集中購買を実施している。

部品についても、各生産拠点が現地仕入先から購入している部品の価格を調査し、複数の生産拠点が同様の部品を購入している場合には、より安価な仕入先からの集中購買を提案したり、各生産拠点の購買担当者を集めてコストダウンやメーカー調査の手法等に関する実務教育を実施するなどしている。調達機能に関する業務として、B各事業年度には、鉄鋼やアルミ板材の現地調達メーカーの発掘、PP.NY樹脂やアルミ押出等の世界的規模での調達交渉、部品調達システムの導入、地域標準購買マニュアルの策定等を行った。なお、Bは、調達に関する業務活動についても、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、グループ会社から各生産拠点の対国内第三者向け売上高に一定の料率を乗じた金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

財務Bは、豪亜地域内の拠点間取引に伴う為替リスクを回避するため、域内の取引に関しては各拠点の現地通貨を取引通貨とし、Bにおいて集中的に決済・為替管理を行うとともに、域外の原告グループ会社との輸出入取引についても、ネッティングセンター(決済所)としての役割を果たしている。また、Bは、月次・四半期で各生産拠点の資金状況をモニタリングし、資金不足に陥る可能性がある拠点に対しては警鐘を鳴らして資金調達手段を助言する一方、資金余剰拠点に対しては運用に関するガイドラインを示して資金運用の行き過ぎを防止したり、域内各国における移転価格税制の調査検討や税務当局に対する対応の助言等をしている。

財務に関する業務として、B各事業年度には、グローバルネッティングの対象範囲の拡大、グループローンの推進や財経システムの標準化等を実施した。なお、Bは、財務に関する業務活動についても、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、グループ会社から各生産拠点の対国内第三者向け売上高に一定の料率を乗じた金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

材料技術Bは、集中購買の対象として選定した材料メーカーの供給する材料が原告の品質基準を満たすかどうかを調査し、品質基準を満たさない材料メーカーに対する品質改善指導を行っているほか、平成15年(2003年)にEU諸国による環境負荷物質対応(RoHS規制)が発効したのに伴い、各生産拠点が取り扱う製部品の原材料を詳細に調査し、RoHS規制の基準に適合するかどうかを確認する作業を実施している。

材料技術に関する業務として、B各事業年度には、定期的な工程監査、工程能力調査、材料検査といった材料品質保証の仕組みを策定したほか、上記の恒常的な原材料の品質調査等を実施した。なお、Bは、材料技術に関する業務活動については、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、グループ会社から、事前に取り決めたレートに所要時間を乗じて算出した実費相当額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

人事Bは、原告グループ会社の幹部候補者となり得る人材を育成するため、域内の各拠点に代わって人材の統一的な評価・教育基準を策定し、研修の企画立案を行っている。

また、B自身が労務管理のために各拠点の労働者側と面談したり、日本人出向者やローカルスタッフを対象とした異文化理解のためのマネジメント研修を実施したり、各拠点の求めに応じて人事制度の見直しや人事考課制度の改善策の検討等も行っている。人事に関する業務として、B各事業年度には、これら恒常的な研修や人事制度の見直し等を行った。

なお、Bは、人事に関する業務活動については、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、グループ会社から、各会社の人員数で人事関係費用を按分した金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

情報システムBは、域内で用いる生産管理、受発注、技術開発、債権債務管理、物流管理等の基幹システムを標準化した上で、Bが設置した統合サーバーに各拠点がネットワークを繋ぐ体制を整え、これら情報の一元管理を行うとともに、そのバックアップやセキュリティー対策も実施している。

情報システムに関する業務として、B各事業年度には、上記統合サーバーへの集中化や各種ソフトの標準化を進めた。なお、Bは、情報システムに関する業務活動については、単独で定量的な効果を計ることが難しいため、グループ会社から各生産拠点の対国内第三者向け売上高に一定の料率を乗じた金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

物流改善Bは、域内の部品等の輸出入に係るインボイスの発行・決済を集中的に行っているほか、複数の船会社を対象に競争入札を実施するなどして、物流コストの削減を図っている。物流改善に関する業務として、B各事業年度には、これら恒常的な業務のほか、リインボイスの自動化等を行った。なお、Bは、物流改善に関する業務活動については、グループ会社から取引高に一定の料率を乗じた金額を徴収する方法によってその対価を回収していた。

株式保有Bは、前記のとおり、ASEAN域内における原告グループ会社の株式を保有していたが、原告グループにおいては、新規子会社の設立・増減資や企業買収、吸収・合併・分社・清算等は、原告の企画の下にその承認を受けて行われることになっており、配当についても、基本的には、原告が設定した配当性向に従って実施されることになっているため、B自身がこれらに株式保有に関する業務に直接関与することはほとんどなかった。このような状況は、B各事業年度においても変わるところはなく、Bが上記各事業年度にその保有する原告グループ会社その他の株式の売買等を行うことはなかった。

その他Bは、上記aないしgの地域統括に関わる業務(以下「地域統括業務」という。)に加え、B設立後は市販事業の統括業務を行っていたCのために備品の手配や管理といった総務業務、給与計算等の人事業務、伝票処理や決算等の経理業務、システム管理等の各種業務を代行したり、産業用ロボットやQRコードリーダー等の開発・生産等を行っている原告子会社であるPから受注してプログラムの設計業務を行うなどしている。これら代行業務やプログラム設計業務に関する活動については、Bは、実費相当額を徴収していた。

Bが行っていた地域統括業務は、例えば、FTA・関税の調査といった地域企画に関わる業務の進捗状況に応じて材料の調達先等の見直しや交渉等が行われ、これと並行して行われる品質調査の結果によって調達先の再検討が行われることになったり、あるいは調達先の変更によって物流が変化するため、それに応じた物流改善や情報システムに関わる業務が発生するなど、相互に密接に関連し合っており、これらが有機的一体をなして機能していた。

各事業年度当時、Bは、地域統括業務に係るサービスをASEAN(タイ、インドネシア、マレーシア、フィリピン、ベトナム)、インド及び豪州の原告グループ会社合計13社(以下「被統括会社」ということがある。)に提供していた。

これらBの地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築・維持・発展が図られた結果、上記グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ、B各事業年度においても、それがBの被統括会社からの配当収入の中に相当程度反映されることとなった。(甲25、26、28、乙6、弁論の全趣旨)

各事業年度におけるBの従業員や固定資産、財務等の状況
Bでは、B各事業年度当時、シンガポールの現地事務所において、現地に在住する日本人の代表取締役と現地勤務の従業員が職務に従事していた。Bの従業員は、2007事業年度が35人、2008事業年度が34人であり、その大半(28人以上)は、地域統括業務に従事し、その余(11人ないし12人)は、前記の代行業務やプログラム設計業務(以下「プログラム設計業務等」という。)に従事していたものであり、株式保有業務(持株機能に係る業務)に従事している者は、1人もいなかった。

Bは、各事業年度当時、シンガポールの事務所を賃借し、事務用什器備品、車両、コンピューター等の有形固定資産を保有してその業務に供していた。

B自身は、製造業務を行っていないため、これらのほかには有形固定資産はなく、保有している子会社等の株式の資産計上額が大きい(資産総額に占める保有株式の額の割合は2007事業年度が約60.1%、2008事業年度が約53.1%)ことから、これら有形固定資産の額が資産総額に占める割合は、約0.2%にとどまった。もっとも、これら固定施設は、すべて株式保有業務(持株機能に係る業務)以外の業務に使用されており、なかでも、地域統括業務に供されているものが大半を占めていた。

B各事業年度におけるBの損益計算書の内容は、別表7「Bの損益計算書」のとおりであり、地域統括業務のうちの物流改善業務に関する売上額は、2007事業年度では約49億星ドル、2008事業年度では約61億星ドルに上り、収入金額の約85%を占めていた。もっとも、物流改善業務については、原価率が高いことから、物流改善業務に係る売上総利益(売上額から売上原価を控除したもの)がBの所得金額(税引前当期利益)の総額に占める割合は、2007事業年度では約4.2%、2008事業年度では約5.9%にとどまり、保有株式の受取配当が占める割合(2007事業年度は約92.3%、2008事業年度は約86.5%)を大きく下回っていた。

Bは、各事業年度当時、シンガポールにおいて、株主総会及び取締役会を開催し、1か月に1回、幹部会を開催していた。また、Bの会計帳簿も、シンガポールの事務所において作成、保管されていた。

Bの法人登録の内容等
シンガポールにおけるBの法人登録(Business Profile)では、「Principal Activities」(主たる活動)の欄の第1に「OTHER INVESTMENT HOLDING COMPANIES」(その他投資持株会社)と記載され、第2に「MFG OF PARTS & ACCESSORIES FOR MOTOR VEHS(EG ENGINES,BRAKES,CLUTCHES,AXLES)」〔自動車部品及び付属品の製造(例:エンジン、ブレーキ、クラッチ、車軸)〕と記載されている。

もっとも、シンガポールにおいては、会社設立(法人格付与)の際の手続として、シンガポール会計企業規制庁に対して、電子届出システムにより申請書類を提出しなければならないものとされており、その申請書式には、シンガポール標準産業分類のコードに従って1つ又は2つの活動を入力する欄が設けられているところ、この届出は、監督官庁の許認可が必要となるような業種について当該監督官庁が入力された上記コードを参照して早期に許認可の審査を進めることを可能とするために行われるものである。

また、シンガポールの会社法においては、会社は法律及び定款の規定に従ってあらゆる事業又は活動を行う権能を有するものとされており、定款や法人登録に事業の目的等を記載して会社の事業活動の範囲を制約するという制度は採られていない。

監査法人が2008事業年度のBについて作成した監査報告書では、財務諸表に関する注記において、Bの「principal activities」(主たる活動)は、「an investment holding company」(投資持株会社)及び「trading in automotive components」(自動車部品の取引)であると記載されている。(乙3)(ウ) 原告グループのホームページでは、Bの「Major Functions」(主たる機能)として、「1.Holding Company (ASEAN 9,Taiwan 1,Saudi Arabia 1)」(持株会社(ASEAN9社、台湾1社、サウジアラビア1社))、「2.RHQ and Support Centre for the Region」(地域本社及び地域サポートセンター)と記載されている。

原告作成に係る会社案内では、世界各国の原告グループ会社を列挙した部分に、Bの「主な事業内容」は「ASEAN・台湾の持ち株会社」、「豪亜地域の統括運営(物流・財務・システム開発)」であると記載されている。

また、同会社案内の問い合わせ先欄には、前記のとおり、Bは、アジア・オセアニア地域の「Regional Headquarters」(地域本社)であると表記されている。

原告の本件各事業年度の有価証券報告書では、関係会社の状況記載欄に、Bの「主要な事業の内容」は「東南アジア地域関係会社の持株会社・統括運営及び自動車部品販売」であると記載されている。

シンガポールにおける地域統括会社の設置状況等
シンガポールにおいては、近年、日系企業や欧米企業がアジアにおける地域統括拠点を開設する動きが広がっており、平成17年以降、我が国有数の電機機器会社や商社、食品会社、化学会社等が順次地域統括会社を設立し、平成20年頃からは、欧米や中国の大手企業も相次いで地域統括拠点を設置している。

このように、シンガポールが世界の大企業からアジアの地域統括拠点として選択される背景には、シンガポールが豪亜地域全体の中心部に位置し、利便性の高い空港が整備されていることのほか、英語が公用語とされていて、国民の教育水準も高いこと、国内法人からの配当金やキャピタルゲイン(投資有価証券売却益等)の非課税措置が採られているなど、企業や特定の産業に対して各種の優遇税制が設けられていること等が影響している。

ジェトロ・シンガポール、シンガポール日本商工会議所及び在シンガポール日本国大使館は、平成23年12月から平成24年1月にかけて、同商工会議所会員企業627社を対象にして、シンガポール日系企業の地域統括機能に関するアンケート調査を実施した。その結果によると、回答した企業213社のうち、日系シンガポール法人が豪亜地域のグループ企業に対して何らかの地域統括機能を有しているのは77社(36.2%)、地域統括機能はないが将来設置することを予定しているのは57社(26.8%)であった。

これら日系シンガポール法人が地域統括機能を有していると回答した企業77社のうち、55社(71.4%)が域内グループ企業の株式を全部又は一部保有していた。

このように域内グループ企業の株式を保有している企業においては、地域統括機能を設置する目的として、「経営統制を強化し、迅速な意思決定、市場ニーズに即した経営を行うため」という理由を挙げるものが多く、その割合は78.2%に達していた。また、地域統括機能をシンガポールに設置する理由を問う質問に対しては、「周辺地域へのアクセスが容易な立地にあるため」という回答(81.8%)が圧倒的多数を占めており、次いで、「物流、輸送、通信等のインフラが整備されているため」(55.8%)、「政治的に安定しているため」(54.5%)、「低い法人税率、地域統括会社に対する優遇税制など税制上の恩典が充実しているため」(48.1%)、「地域統括業務に必要な優秀な人材を確保しやすいため」及び「柔軟な金融規制、資金調達市場の整備等金融面での優位性があるため」(各42.9%)、「法制度の整備、行政手続の透明性、効率性があるため」(39.0%)などの回答が続いた。

原告がASEAN地域のグループ会社の本拠としてC、Bをシンガポールに設置するに当たっても、同国の地理的な便利性、優れたインフラ、政治的安定性、国際性、労働者の教育レベルや英語レベルの高さ等が勘案された。

措置法66条の6の要件と「主たる事業」の判定方法についてア 措置法66条の6第1項の規定は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国又は地域(タックスヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該法人に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、課税要件を明確化して課税執行面における安定性を確保しつつ、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国会社を特定外国子会社等と規定し、これが適用対象留保金額を有する場合に、その内国法人の有する株式等に対応するものとして算出された一定の金額(課税対象留保金額)を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものであると解される〔最高裁平成17年(行ヒ)第89号同19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2486頁参照〕。しかしながら、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済的合理性がある場合にまで上記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがある。

そこで、措置法66条の6第3項及び4項は、①株式の保有等を主たる事業とするものでないこと(事業基準)、②本店所在地国においてその主たる事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他の固定施設を有すること(実体基準)、③本店所在地国においてその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること(管理支配基準)、④その主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業又は航空運送業に該当する場合においては、その事業を主として関連者以外の者(非関連者)との間で行っていること(非関連者基準)、その主たる事業がこれ以外の事業に該当する場合においては、その事業を主として本店所在地国において行っていること(所在地国基準)という要件を定め、これらの要件が満たされる場合には、同条1項の規定を適用しないこととしたものである。

このようなタックスヘイブン対策税制の適用除外要件のうち事業基準を定めた措置法66条の6第3項が、特定外国子会社等が株式の保有を主たる事業とする場合を同条1項の適用除外の対象としない旨を規定している趣旨は、株式を保有又は運用することにより利益配当又はキャピタルゲインを得るといった株式の保有に係る事業は、その性質上、我が国においても十分に行うことができるものであって、これを主たる事業とする特定外国子会社等が、我が国ではなくわざわざタックスヘイブンに所在する積極的な経済的合理性は税負担の軽減以外には見出し難いため、上記のような場合には、タックスヘイブン対策税制の適用除外とする必要性をそもそも認めることができないことにあるものと解される。

また、措置法66条の6第4項が、事業基準、実体基準及び管理支配基準のほかに、特定外国子会社等の行う主たる事業の内容に応じて、非関連者基準又は所在地国基準を満たすことを要するものと規定しているのは、①特定外国子会社等がその地において当該事業活動を営むことにつき正当かつ十分な経済合理性があるかどうかの判定は、当該事業の本質的な行為が物理的にその所在地国内で行われているかどうかをみること(所在地国基準)によって行うのが最も基本的かつ簡明である一方、②同項1号が掲げる事業(卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業又は航空運送業)については、その性質上、場所的な結び付きが乏しく、どの国で業務を行っているかにさほど意味はないため、所在地国基準を適用するのは現実的に困難であり、無意味でもあることから、所在地国基準に代えて、親会社等の関連者の間に介在するだけの取引には経済合理性が乏しいという観点から、当該事業活動が主として関連者以外の者との取引から成り立っていること(非関連者基準)という要件が採用されることになったものと解される。

そして、上記の「主たる事業」については、特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定するほかないのであって、特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは、そのいずれが主たる事業であるかに関しては、当該外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、それぞれの事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等の具体的かつ客観的な事業活動の内容を総合的に勘案して判定するのが相当である。

Bの主たる事業が株式の保有であるかについて
前記で認定したとおり、B各事業年度当時、Bは、地域統括業務(具体的には、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善に関する業務)、株式保有業務(持株機能に係る業務)、プログラム設計業務等(具体的には、Cのための代行業務とプログラム設計業務)を行っていたところ、本件においては、Bの主たる事業が株式の保有であるかどうか(事業基準の充足の有無)が問題になっている。

そこで、前記の見地から、この点について検討する。前記で認定した事実によると、①B各事業年度当時、Bは、シンガポールに現地事務所を構え、現地に在住する日本人の代表取締役と現地勤務の従業員三十四、五人の態勢で職務に当たっていたところ、これら従業員の大半(28人以上)は、地域統括業務に従事し、その余(11人ないし12人)は、プログラム設計業務等に従事していたものであって、株式保有業務(持株機能に係る業務)に従事している者は1人もいなかったこと、②B各事業年度当時、Bは、シンガポールの事務所を賃借し、事務用什器備品、車両、コンピューター等の有形固定資産を保有してその業務に供していたところ、これら固定施設は、すべて株式保有業務(持株機能に係る業務)以外の業務に使用されており、なかでも、地域統括に関わる業務に供されているものが大半を占めていたこと、③Bの地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上額は、2007事業年度において約49億星ドル、2008事業年度において約61億星ドル(Bの収入金額の約85%)に上っていたこと、④原告は、ASEAN域内での集中生産・相互補完体制の円滑化を図り、豪亜地域における各拠点間の事業活動を調整・サポートする目的で、平成7年、シンガポールに地域統括センターとしてCを設立し、その後、被統括会社に対する統率力を高めるために、平成10年に、Cを含むASEAN地域の原告グループ会社の保有株式を現物出資してBを設立したものであり、Bの設立目的は、そもそも地域統括業務を行うことであったこと、⑤Bは、その設立以来、豪亜地域における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るために順次業務を拡大してきたものであり、B各事業年度には、地域統括に係る業務内容は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善といった多方面にわたるものとなっていたこと、⑥B各事業年度当時、Bは、現に、アジア地域社長会や機能別会議の開催、新AICOの認可取得活動、FTA・関税の調査、材料・資材の調達交渉や廉価調達先の発掘、グローバルネッティングの運営とその対象範囲の拡大作業、グループローンの推進、財経システムの標準化、材料品質保証の仕組みの策定、原材料の品質調査、マネジメント研修の実施、人事制度の見直し検討、統合サーバーへの集中化や各種ソフトの標準化の推進、インボイスの集中発行決済、リインボイスの自動化等、多岐にわたる地域統括業務を行っていたこと、⑦これらBの地域統括業務によって集中生産・相互補完体制の構築・維持・発展が図られた結果、上記グループ会社全体に原価率の大幅な低減による利益がもたらされ、B各事業年度においても、これがBの被統括会社からの配当収入の中に相当程度反映されることとなったこと等を指摘することができる。

これら諸点に照らすと、B各事業年度において、Bの主たる事業は、株式保有業ではなく、地域統括事業(地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善等に係る地域統括業務を行うこと)であったことは明らかというべきである。

これに対し、被告は、①特定外国子会社等が株式の保有を主たる事業とす否かの判定に当たり、事業実体に係る人的・物的な規模を示す判断要素を常に重視するとすれば、さしたる生産要素を要しない株式保有業と相当規模の生産要素が投入された他の事業とを営む特定外国子会社等については、いかに当該株式の保有を通じて多額の所得を得ていたとしても、およそ株式の保有は主たる事業となり得ないという帰結を導くことになり、不合理であるから、株式保有に係る事業活動の結果得られた収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素を重視すべきであるところ、本件では、Bの所得金額は、Bが子会社の株式を保有することに起因する同子会社からの配当がその大部分を占めている、②Bの資産総額に占める保有株式の額の割合も、過半を占めているとして、Bの主たる事業は、株式保有業である旨主張する。

しかしながら、前記で説示したとおり、措置法66条の6第3項及び4項は、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済的合理性がある場合にまでタックスヘイブン対策税制の対象とすることは、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害することになって適当ではないことから、正常かつ合理的な経済活動について同税制の適用を除外する目的で、適用除外要件を定めたものである。

特定外国子会社等が株式の保有に係る事業の他に実体的な事業活動をしており、これを当該国において行うことに十分な経済的合理性がある場合には、当該事業が主たる事業であるかどうかを検討しなければならないのは当然のことであり、たとえ株式の配当による所得金額が大きいとしても、株式保有以外の実体的な事業活動が現実に行われており、当該事業活動に相応の経営資源が投入されている場合には、事業基準(株式の保有等を主たる事業とするものでないこと)を満たすと解することこそが、タックスヘイブン対策税制の制度趣旨に適うものというべきである(そうでなければ、株式保有以外の実体的な事業活動にいかに多大な経営資源が投入されていても、当該事業活動の収益状況が芳しくない状況の下では、当該特定外国子会社等の主たる事業は株式保有業と判定されるという不合理な結果になりかねない。)。

そうすると、特定外国子会社等が株式の保有を主たる事業とするものか否かの判定に当たり、収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素のみを重視すべきであるということはできないし、前記で認定したとおり、地域統括事業においては、被統括会社に対する統率力や経営統制の強化、意思決定の迅速化を図り、さらには現地パートナー等との交渉等を円滑に進める上で、被統括会社の株式保有が重要な意味を持つ一方で、さほど多くの固定資産等を必要とするものでないことは、事業の性質上、当然のことであるから、上記判定に当たって資産総額に占める保有株式の額の割合を重視するのが相当であるということもできない。したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

また、被告は、Bの法人登録及び監査報告書、原告グループのホームページ並びに原告の会社案内及び有価証券報告書の記載内容に照らすと、B及び原告は、Bの主たる事業が株式保有業であることを自認しているというべきであるとも主張する。

しかしながら、Bの法人登録及び監査報告書、原告グループのホームページ並びに原告の会社案内及び有価証券報告書の記載内容は、前記で認定したとおりであり、Bの主たる活動や事業内容を「投資持株会社」や「持株会社」のみとしているわけではなく、これと併せて「自動車部品の製造(取引)」、「地域の統括運営」、「豪亜地域の統括運営(物流・財務・システム開発)」を行っている旨や「地域本社」である旨も記載されているのであるから、被告が主張するように、B及び原告自身がBの主たる事業を株式保有業であると自認しているということはできない。

法人登録や監査報告書、ホームページ、会社案内等における記載順序は、必ずしも企業の実際の事業活動の軽重に従っているとは限らないのであって、これらの形式的な文面やその記載順序のみによって特定外国子会社等の主たる事業が何であるかが決せられるとしたのでは、タックスヘイブン対策税制の適用除外要件を定めた措置法66条の6第3項及び4項の制度趣旨を没却することにもなりかねない。特定外国子会社等の「主たる事業」の判定に当たっては、前示のとおり、当該特定外国子会社等の実際の事業内容の実態を具体的に把握した上で判断すべきであるから、被告の上記主張は、採用することができない。

さらに、被告は、平成22年改正措置法66条の6第3項は、主たる事業が「株式等の保有」である統括会社で、被統括会社に対する統括業務を行うものについては、事業基準により適用除外規定の適用対象とならない特定外国子会社等から除く旨規定しているところ、これは、当該統括会社の主たる事業が「株式等の保有」であることを念頭に規定されたものであるから、原告の主たる事業は「株式等の保有」である旨主張する。

確かに、平成22年改正措置法66条の6第3項は、その柱書き中の括弧書きにおいて、タックスヘイブン対策税制の適用対象について、「株式等若しくは債券の保有《中略》を主たる事業とするものを除く」と定めた上、当該括弧書き中に更に括弧書きを設け、上記「株式等若しくは債券の保有《中略》を主たる事業とするもの」から、「株式等の保有を主たる事業とする特定外国子会社等のうち、当該特定外国子会社等が他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性の向上に資する業務を行う場合における当該他の外国法人として政令で定めるものの株式等の保有を行うものとして政令で定めるものを除く。」と規定しており、一見すると、統括業務を行う特定外国子会社等が「株式等の保有」を主たる事業とする特定外国子会社等の中に包含されているように見えなくもない。

しかしながら、上記改正前の措置法66条の6第3項には、統括業務についての定めはなかったのであるから、上記改正後の文言を根拠に、統括業務を行う特定外国子会社等の主たる業務は当然に「株式等の保有」に該当すると断ずることはできない。

課税実務上、特定外国子会社等の営む事業がいかなる事業に該当するかについては、原則として日本標準産業分類(総務省)の分類を基準として判定するとされているところ(租税特別措置法通達66の6-14参照)、日本標準産業分類(総務省)の中には、統括事業という業種は見当たらないことに照らすと、上記改正に当たっても、日本標準産業分類(総務省)に掲げられていない「統括事業」の文言を避け、実際には株式保有会社(持株会社)が統括業務を行っていることが多いという現状に即して、上記のような規定になったとも考えられる。

上記改正の際の立法資料では、「最近のわが国企業のグローバル経営の形態をみると、世界における地域経済圏の形成を背景に、地域ごとの海外拠点を統合する統括会社を活用した経営形態に変化してきている。そうしたいわば『ミニ本社』としての機能を有する統括会社の活用が、地域経済圏に展開するグループ企業の商流の一本化や間接部門(経理・人事・システム・事業管理等)の合理化を通じて、グループ参加の企業収益の向上に著しく寄与している実情にある。

そうした統括会社は、租税回避目的で設立したものとして捉えるのではなく、その地において事業活動を行うことに十分な経済合理性があるものと評価することが適当であることから、適用除外基準等について見直しが行われた。」旨の説明がされており、また、平成23年法律第82号による改正後の租税特別措置法においては、66条の6第3項の文言が整備され、事業持株会社については、「統括業務」を「その主たる事業」として実体基準や管理支配基準の判定を行う旨の規定が置かれたのであるから、いずれにせよ、平成22年改正後の租税特別措置法は、「統括業務」を事業として行う企業の存在を前提としているものといわなければならない。

そうすると、平成22年改正前の措置法の下では、統括会社や統括業務について何らの定めも置かれていなかったのであるから、特定外国子会社等がどのような事業を主たる事業としているかどうかを端的に探求すれば足りるのであって、それが地域統括事業であるならば、事業基準を満たすことになるというべきである。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。

以上によると、B各事業年度において、Bの主たる事業は、地域統括事業であったというべきであり、Bが株式の保有を主たる事業としていたということはできないから、事業基準を満たすことになる。

Bの主たる事業が卸売業に該当するかについて
次に、被告は、B各事業年度において、Bの主たる事業は措置法66条の6第4項1号所定の「卸売業」に該当するから、非関連者基準(その主たる事業が卸売業、銀行業、信託業、金融商品取引業、保険業、水運業又は航空運送業に該当する場合においては、その事業を主として関連者以外の者との間で行っていること)を満たす必要があるところ、B各事業年度において、Bが行った物流改善機能に係る業務の売上金額等の多くは関連者との取引であるから、非関連者基準を満たさない旨主張する。

そこで、Bの主たる事業が卸売業に該当するかどうかについてみるに、前記で認定した事実によると、①Bは、豪亜地域における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図るために地域統括業務を行ってきたものであり、②B各事業年度には、Bの地域統括業務は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善といった多方面にわたるものとなっており、②(ママ)その具体的な内容は、アジア地域社長会や機能別会議の開催、新AICOの認可取得活動、FTA・関税の調査、材料・資材の調達交渉や廉価調達先の発掘、グローバルネッティングの運営とその対象範囲の拡大作業、グループローンの推進、財経システムの標準化、材料品質保証の仕組みの策定、原材料の品質調査、マネジメント研修の実施、人事制度の見直し検討、統合サーバーへの集中化や各種ソフトの標準化の推進、インボイスの集中発行決済、リインボイスの自動化等といった多種多様なものであるばかりか、これら各種業務は相互に関連し合い、有機的一体をなして機能していたというのであるから、これら有機的一体をなしている地域統括に関する各種業務のうち売買取引のみを取り出して主たる事業が「卸売業」に当たるとすることは、事業の実態にそぐわないものであり、相当でない。

そして、前記で説示したとおり、措置法66条の6第4項が、特定外国子会社等の行う主たる事業の内容に応じて、非関連者基準又は所在地国基準を満たすことを要するものと規定しているのは、①特定外国子会社等がその地において当該事業活動を営むことにつき正当かつ十分な経済合理性があるかどうかの判定は、当該事業の本質的な行為が物理的にその所在地国内で行われているかどうか(所在地国基準)によって行うのが最も基本的かつ簡明である一方、②同項1号が掲げる事業については、その性質上、場所的な結び付きが乏しく、所在地国基準を適用するのは適当ではないため、所在地国基準に代えて、親会社等の関連者の間に介在するだけの取引には経済的合理性が乏しいという観点から、非関連者基準によることとされたものと解されるところ、Bの行っていた上記地域統括業務は、場所的な結び付きが乏しいものということはできず、Bが統括している豪亜地域の中心部にあって、域内各拠点へのアクセスも容易なシンガポールにおいて行うことに意味があるものというべきである。

また、前記で認定したとおり、Bは、単に商品の流通や物流に介在するだけではなく、各生産拠点に対して各種システムを提供・管理し、生産活動への関与(生産分業体制に関するシステムの運用や、材料調達等に関し各生産拠点の競争力を高めるための活動など)もしていたものであるから、その事業活動の内容を単なる卸売業とみるのは相当ではないし、卸売業に対して非関連者基準が適用される上述の制度趣旨が当てはまるものでもない(なお、平成22年改正施行令39条の17第10項は、卸売業を主たる事業として営む統括会社に係る被統括会社を非関連者基準における関連者から除外する旨規定し、非関連者基準の判定上、卸売業を主たる事業として営む統括会社が被統括会社との間で行う取引については、関連者取引に該当しないものとしている。このことからも、統括会社が行う地域統括業務の中から物流関係取引のみを「卸売業」として取り出してこれに非関連者基準を適用した場合には、タックスヘイブン対策税制の趣旨にそぐわない不合理な結果となることは明らかである。)。

そうすると、B各事業年度において、Bの主たる事業は、措置法66条の6第4項1号所定の「卸売業」には該当しないというべきである。

そして、Bの主たる事業は、同号が掲げるその他の事業にも該当しないから、同項2号の所在地国基準が適用されるところ、前記で認定した事実によると、Bは、B各事業年度において、シンガポール国内に、地域統括事業を行うために必要な事務所を賃借した上、事務用什器備品・車両・コンピュータなどの固定資産を保有しており、上記事務所では、28人以上の従業員が地域統括事業に係る業務に従事していたというのであるから、Bは、主としてその本店所在地国であるシンガポールにおいて地域統括事業を行っていたというべきである。したがって、Bは、所在地国基準(同号、措置法施行令39条の17第5項3号)を満たすことになる。

実体基準及び管理支配基準の充足について
前記で認定した事実によると、Bは、シンガポールにおいて、事務所を賃借して、地域統括事業に使用しているというのである。

そうすると、Bは、その本店所在地国であるシンガポールにおいて、その主たる事業である地域統括事業を行うのに必要と認められる固定施設を有しているということができるから、実体基準(措置法66条の6第4項、3項)を満たすことになる。

また、前記で認定した事実によると、Bは、シンガポールにおいて、株主総会及び取締役会を開催し、役員の職務執行や会計帳簿の作成及び保管を行っているというのである。そうすると、Bは、その本店所在地国において、事業の管理、支配及び運営を自ら行っているということができるから、管理支配基準(措置法66条の6第4項、3項)を満たすことになる。

以上によると、適用除外要件である事業基準、所在地国基準、実体基準及び管理支配基準をいずれも満たすから、原告には、本件各事業年度において、措置法66条の6第1項の適用が除外されることになる。

本件各処分の適法性について
原告の平成20年3月期の法人税については、所得金額1809億7870万9733円、納付すべき税額309億7419万2100円となるから、平成20年3月期更正処分のうち、これらの金額を超える部分は、違法というべきである。

原告の平成21年3月期の法人税については、所得金額マイナス698億6583万4166円、翌期へ繰り越す欠損金698億6583万4166円となるから、平成21年3月期第4次更正処分のうち、上記所得金額を超える部分及び上記繰越欠損金額を下回る部分は、実体的に違法というべきである。

ただし、前記で説示したところによると、上記更正処分の取消しを求める訴えのうち、所得金額マイナス688億6903万1633円を超えない部分及び翌期へ繰り越す欠損金688億6903万1633円を超える部分の取消しを求める部分は不適法であるから、本件訴訟で取り消されるべきは、上記更正処分のうち、所得金額マイナス688億6903万1633円を超える部分及び申告した翌期へ繰り越す欠損金の額688億6903万1633円を下回る部分である。

本件賦課決定処分は、通則法65条1項の要件を欠き、違法というべきである。

以上の次第で、本件訴えのうち、①平成21年3月期第1次更正処分について取消しを求める部分、②第2次更正処分について取消しを求める部分、③第4次更正処分のうち所得金額マイナス688億6903万1633円を超えない部分及び翌期へ繰り越す欠損金688億6903万1633円を超える部分の取消しを求める部分はいずれも不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求(平成20年3月期更正処分についての取消請求、平成21年3月期第4次更正処分のうち所得金額マイナス688億6903万1633円を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金688億6903万1633円を下回る部分の取消請求並びに本件賦課決定処分の取消請求)はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京高裁/平成28年2月10日判決(藤山雅行裁判長)/(原判決中一審被告敗訴部分取消し・一審原告の控訴棄却)(上告・上告受理申立て)

Bは、株式の保有を「主たる事業」(措置法66条の6第3項括弧書き)とするものかどうかについて

Bは、次のとおり株式の保有を「主たる事業」とするもの、すなわち、株式保有業を目的とするものであり、一審原告の主張する地域統括業務は、株式保有事業に含まれる一つの業務にすぎず、株式保有業と別個独立の業務とはいえないものと認められる。

すなわち、上記括弧書きの「株式の保有」という文言のみに着目すると、株式を自己のものとして持ち続けることのみを意味するものと見えないではないが、これを事業として行う以上、それによって利益を受けることが当然に含意されているのであり、その利益を得る方法としては、保有する株式数が発行済株式の半数に遠く及ばない者のように、株式発行会社の経営に介入はもとより関与することもなく、単に会社の定めた額の配当を受領するにとどまる場合もあれば、発行済株式の過半を有する者の場合には、株式発行会社を支配し、その人事や業務内容を自己の意のままに決定することを通じて、より多くの配当を得ようと活動することもあり、独占禁止法9条3項にいう持株会社は、後者の典型例である。

したがって、事業としての「株式の保有」とは、単に株式を保有し続けることのみならず、当該株式発行会社を支配しかつ管理するための業務もまた、その事業の一部をなすというべきであり、本件で問題となっている一定地域内にある被支配会社を統括するための諸業務もまた、株式保有業の一部をなし措置法66条の6第3項括弧書きの「事業」に該当することは明らかである。

上に述べた株式保有業に関する解釈は、その後の法改正によっても裏付けられる。

すなわち、平成22年改正措置法66条の6第3項により、主たる事業が「株式等の保有」である統括会社で、被統括会社に対する統括業務を行うものについては、事業基準により適用除外規定の適用対象とならない特定外国子会社等から除く旨規定された。これは、統括業務が、株式保有業の一つの業務であって配当を増加させるために行われるものであるとしても、内国法人が海外における企業戦略を有利に進めていくために有効であることから、被統括会社に対する統括業務を行うものを、事業基準により適用除外規定の適用対象とならない特定外国子会社等から除くこととしたものと理解できるのであり、以上に述べたところと整合するものである。

このことは、措置法の上記改正がされた第174回国会の参議院財政金融委員会において、青山慶二参考人が、「これまでは主な事業が株式の保有等であれば合算対象から除外されないこととされておりました。いわゆる持ち株会社等は合算対象にしてしまうということでございました。今回の法案によりますと、企業実体を伴っていると認められる統括会社につきましては、資産所得を除いて合算対象から除外することを認めることとされております。」などと述べていることからも明らかである

これについて、一審原告は、国会における参考人として、議員に制度の概要をわかりやすく説明することに主眼があったもので、事業基準に関する精緻な法解釈を踏まえた発言となっていなかったのは明らかであるなどと主張する。

しかし、上記発言は、立法機関である国会において、措置法改正の審議の中で述べられているものであるから、改正の前提となる立法事実として把握されているところが端的に述べられたものと認められるのであって、被統括会社に対する統括業務を行うものが、事業基準により適用除外規定の適用対象とならないのであれば、そもそも上記措置法の改正自体が必要がなかったのであるから、精緻な法解釈をするまでもなく、法改正の意図は明らかである。

すなわち、上記の法改正は、前記のとおり、子会社に対して行われる地域統括業務は、株式保有業に本質的に伴うもので、株式保有業のための業務として含まれているものであることを前提としつつも、地域統括業務が実体を伴って行われている場合に、合算対象から除外することとしたのであって、このことは、海外進出した内国法人の置かれた環境の変化等を踏まえて新たな立法政策を採用したことを示すものであり、経済産業省作成の「平成22年度税制改正について」においても明確に示されているし、その当時、上記改正について示された国税庁の見解とも合致しているところである。

そして、実際にもBは、地域統括業務から利益を得るのではなく、保有する株式の配当によって得ているのであり、「主たる事業」は、名実ともに株式保有業と認められるのである。会社は営利法人であり、利益を上げることを目的として、集めた資本等を経済的合理性があるように運用しているのであるから、「主たる事業」の判断に当たって、当該事業のために保有している財産の資産総額に占める割合や当該事業による所得金額の多寡を重視すべきことは当然である。

そして、Bが地域統括業務自体から利益を得ていないのは、そもそも同業務の成果により被支配会社の利益を増大させ、それを配当収入として取得しようとしたものであって、地域統括業務自体から利益を得ようとはしていなかったからであり、地域統括業務による収益状況がたまたま芳しくなかったことによって、これによる所得金額が少なくなったことに起因するものではない。

一審原告は、①一審原告自身が株式を保有し、一審原告自身が地域統括業務も行うこと、②一審原告自身が株式を保有し、Bに地域統括業務を行わせること、③Bに株式を保有させ、地域統括業務も行わせること等のいずれを選択することも可能だったのである。

また、Bは、地域統括業務の対価について、実費を徴収するか、地域統括業務の提供先であるグループ会社の売上高等に一定の料率を乗じた金額として徴収しているが、実費を超えて徴収するか、上記の料率をどのように設定するかによって、地域統括業務によって得る利益を多くし、配当によって得る利益を少なくすることも、逆に、地域統括業務によって得る利益を少なくし、配当によって得る利益を多くすることも選択可能である。

そして、一審原告のグループにおいては、新規子会社の設立、増減資、企業買収、合併、分社、清算等は、一審原告の企画の下にその承認を受けて行われることになっており、配当についても、基本的に一審原告が設定した配当性向に従って実施されることになっていたのである。そのため、一審原告は、これらの選択を行うことによって、日本において課税されることを免れ、シンガポールの優遇税制により課税される額が少なくなるように調整することが可能であった。

すなわち、一審原告が主張するような地域統括業務が株式保有業に含まれるものではないとの法解釈を採ると、一審原告が実質的に支配するグループ企業の利益を、どこに留めるかということについて、グループ企業を支配している一審原告は、いかようにも行うことが可能なのであり、課税との関係で調整することが可能となるのである。

また、地域統括業務は、その多くが我が国において行うことが可能であるし、海外に支店を設けることによっても可能なものである。そして、地域統括業務は、各孫会社が利益を上げられるようにするために行うものであるから、海外に地域統括業務を行う子会社を設立して孫会社の株式を保有させる必要はなく、本社が株式を保有して地域統括業務を行えば足りるのであるから、あえて子会社にこれを行わせるのは、低い税率の適用を受けるためのものというほかない。なお、現に相当の人員と設備によって他の業務を行っている場合については、措置法の平成17年改正による人件費10%控除によって考慮されているのであるから、Bにおける地域統括業務が実体のあるものであることは、以上の認定の妨げとなるものではない。

一審原告は、前記アのような解釈は文言解釈にも私法一般に用いられている概念にも反すると主張するが、この主張は「株式の保有」という文言のみに着目しているものであり、本件で検討すべきことが「株式の保有を目的とする事業」の意義であることを看過したものというほかなく、その前提において誤っている。

また、一審原告は、投資事業有限責任組合契約に関する法律等が株式の保有と被保有会社に対する経営又は技術の指導とが別個独立の事業として規定されていることをその主張を根拠付けるものとしている。

しかし、同法は、営利法人としての会社一般を対象とするものではなく、事業者への資金供給を促進するための投資事業を行う有限責任組合に関する法律であるから、本来、同法にいう有限責任組合の行う事業は上記の目的に沿った投資事業に限定されるものであるが、同法は、これに関連する事業として一審原告の指摘する「経営又は技術の指導」も事業として行えることとし、そのことを注意的に規定したにすぎない。そのほか、一審原告がこれに関連して指摘する中小企業投資育成株式会社法についても、ほぼ同様のことが妥当するところであり、これらの法律の規定は、前記アの解釈を採ることを妨げるものではない。

一審原告は、株式の保有を事業とするといえるには、株式の売買収入により収益を上げるような資産運用的な所得の獲得を目的としていること等を要するなどと主張する。しかし、株式の保有によって得る本質的な利益は、前記のとおりであって、一審原告の主張は「資産運用的な所得の獲得」として、株式の配当を得ることや、得られる配当を増加させて所得を獲得することを含まないと主張するもののようであるが、そうであるとすれば、一審原告の主張は失当といわざるを得ない。

一審原告は、地域統括事業は、必ずしも被統括会社の株式を保有することを当然の前提とするものではなく、地域統括会社が被統括会社の株式を保有しない事例も数多く存在し、このような場合、地域統括事業の対価は、配当以外の形となり、株式保有業に包含される関係には立ら得ないなどと主張する。

しかし、地域統括業務を行っている会社が、地域統括業務の提供先の被統括会社の株式を保有していないことがあるとしても、地域統括業務と株式保有業の前記のような関係からすれば、地域統括業務が現に株式を保有している子会社に対して行われている場合に、それが株式保有業の内容をなすものとして、株式保有業を「主たる事業」と認定することの妨げとなるものではないというべきである。

そして、少なくとも、Bのように、資産の過半が株式の保有に充てられ、利益の大部分を保有する株式の配当によって得ている場合には、まさに、地域統括業務が株式保有業のために行われているといえるのであって、Bの「主たる事業」は、株式保有業と認められるのである。

また、地域統括会社が被統括会社の株式を保有しない場合には、地域統括会社の親会社(一審原告のような立場の会社)か、又は地域統括会社の親会社が支配する別の子会社が被統括会社の株式を保有しているなど、何らかの形で株式による支配力を及ぼしていることが多いと想定され、その場合は、親会社への配当に課税されることになったり、別の子会社が株式保有業を営んでいることになって、そこへの配当がタックスヘイブン対策税制の対象となったりするのであるから、地域統括会社が被統括会社の株式を保有している場合とで、実質的な不均衡が生じるものでもない。

一審原告は、特定外国子会社等が行っている実質的な能動的活動実態が一つの「事業」を構成する場合にも、当該事業が現地で営まれた結果、子会社の利益が高まり、配当が増加することになったという間接的な関連性をとらえて、これが受動的性格を有する株式保有業であると結論づけるのは、単なるご都合主義にすぎないなどと主張する。

しかし、特定外国子会社等の能動的活動によって、子会社の利益が高まり、配当が増加することについて、一審原告はその関連性を「間接的」と表現するが、特定外国子会社等の能動的活動は、子会社の利益を高め、配当を増加させるために行っているのであるから、まさに能動的活動の目的とされた結果が生じたことになるのであって、その関連性は、単なる偶然ではなく、強固なものである。むしろ、このような関連性を「間接的」と評価することはできない。

一審原告は、Bの配当所得の大部分は、地域統括事業の成功の反射的効果であり、実質的にはその対価であるなどと主張する。しかし、上記主張は、地域統括業務が、配当所得を増加させるために行われるものであり、株式保有業の一部をなすものであることを自認しているものであって、地域統括業務が株式保有業による利益を増加させるために行われているという本質がより明らかに示されているといえるのである。

一審原告は、Bが、株式保有業を独立した事業として行っていると認められたとしても、株式保有業は、被統括会社に対する統率力や経営統制の強化等の地域統括業務を効果的に行うための一つの機能ないし手段という従たるものにすぎない旨主張する。

しかし、Bは、元々株式保有業と無関係な地域統括業務を開始したものではなく、設立当初からグループ各社に対する支配権を有しつつ、地域統括業務を開始したのであるから、株式保有業が地域統括業務の機能ないし手段にすぎなかったとは認め難い。

一審原告は、地域統括業務が株式保有業とは別個独立の事業であることを前提として、いずれを主たる事業と評価すべきかについて、縷々主張しているが、アで説示したとおり、地域統括業務は株式保有業中の一つの業務にすぎず、別個独立の事業とは認め難いから、これらの主張はいずれもその前提を欠くものといわざるを得ない。

そのほか、一審原告は、平成22年の時点で、アジア事業の地域マネジメントについて、約6割弱の企業グループが日本本社直轄で行っていたことについて、Bが多くの経営資源を投下して所在地国で地域統括業務を行っているのに対し、これらの企業グループがどのような事業展開をしているのかその内容は明らかでないし、むしろ、約4割強の企業グループは、「現地での地域統括」の必要性、経済的合理性があるからこそ、現地に統括会社を設立していることが窺えるとして、一律に軽課税国に本店を置くことに積極的な経済合理性を認め難いとすることは、4割強もの企業グループが現地で地域統括を行っている実態を根拠なく無視するもので、地域統括の本質を見誤ったものであるなどと主張する。

しかし、一審原告は、Bが多くの経営資源を投下して所在地国で地域統括業務を行っているとするが、Bでは、資産の過半が株式の保有に充てられているのであるから、むしろ株式の保有に多くの経営資源が投下されているというべきである。

また、4割強の企業グループが、現地に支店を置くのではなく、地域統括会社を設立して、その本店を現地に置いて地域統括業務を行っていることについては、軽課税国であることが考慮されている可能性があるのであり、むしろ、積極的な経済合理性という観点からすれば、支店を置くことでも対応できる地域統括業務を、軽課税国であることから本店を置いて行っている可能性が高いのであって、一審原告の主張は理由がない。

以上のとおり、B各事業年度において、Bは、株式の保有を「主たる事業」(措置法66条の6第3項括弧書き)とするものと認められるから、事業基準を満たさないものである。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、一審原告の本件各事業年度において、措置法66条の6第1項が適用されることになる。そうすると、本件各処分及び本件賦課決定処分は、いずれも適法である。

一審原告の控訴について一審原告は、平成21年3月期の法人税に関する第4次更正処分の取消しを求める訴えのうち、原判決において却下された部分は適法な訴えであると主張し、同部分の訴えにかかる請求を認容するよう求めている。

しかし、一審原告は、上記処分の違法事由としては、措置法66条の6第1項の適用の誤りを主張するのみであり、しかも、同項の適用に誤りがなかった場合には、一審原告の平成21年3月期の法人税についての所得金額及び翌期へ繰り越す欠損金の額が第4次更正処分のとおりであることは当事者間に争いがないところ、前記で認定説示したとおり、上記処分における同項の適用に誤りはないのであるから、仮に上記訴え部分が適法であったとしても、同訴えにかかる請求は理由がないこととなる。

もっとも、その場合においても、一審被告はこの部分について控訴を提起していないから、控訴審における不利益変更禁止の原則により、原審において却下された訴えにかかる請求を棄却することはできない。そうすると、一審原告の上記主張が失当である場合はもとより、それが相当なものであっても、原判決中、一審原告の控訴部分はこれを取り消し又は変更することはできないのであって、一審原告の控訴はいずれにしても失当として棄却すべきものである。

以上によれば、原判決中一審原告の請求を認容した部分は不当であるから、一審被告の控訴に基づき、原判決中、一審被告敗訴部分を取り消し、同部分に関する一審原告の請求を棄却し、一審原告の控訴は失当であるから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

最高裁/平成29年10月24日判決(山崎敏充裁判長)/(破棄自判・被上告人の控訴棄却・その余の上告棄却)(確定)

原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断して、上告人の請求(平成21年3月期の法人税の再更正処分のうち確定申告に係る所得の金額を超えない部分及び翌期へ繰り越す欠損金の額を超える部分の取消しを求める請求を除く。)をいずれも棄却すべきものとした。

措置法66条の6第3項にいう株式の保有は、これを事業として行う以上、それによって利益を受けることは当然に含意されており、その利益を受ける方法としては、配当を受領するにとどまる場合もあれば、株式発行会社を支配し、その業務内容を自己の意のままに決定することを通じてより多くの配当を得ようと活動することもある。

したがって、事業としての株式の保有は、単に株式を保有し続けることに限られず、株式発行会社を支配し管理するための業務もその事業の一部を成し、一定の地域内にある被支配会社を統括するための諸業務も株式の保有に係る事業の一部を成すから、地域統括業務は、株式の保有に係る事業に含まれる一つの業務にすぎず、別個独立の業務とはいえない。

また、実質的にもBの主たる事業は株式の保有であると認められるから、いずれにしてもBは事業基準を満たさず、本件各処分は適法である。5 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。

措置法66条の6第1項は、内国法人が、法人の所得等に対する租税の負担がないか又は極端に低い国若しくは地域(タックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行い、当該子会社に所得を留保することにより、我が国における租税の負担を回避しようとする事例が生ずるようになったことから、このような事例に対処して税負担の実質的な公平を図ることを目的として、一定の要件を満たす外国子会社を特定外国子会社等と規定し、その課税対象留保金額を内国法人の所得の計算上益金の額に算入することとしたものである〔最高裁平成17年(行ヒ)第89号同19年9月28日第二小法廷判決・民集61巻6号2486頁参照〕。しかし、特定外国子会社等であっても、独立企業としての実体を備え、その所在する国又は地域において事業活動を行うことにつき十分な経済合理性がある場合にまで上記の取扱いを及ぼすとすれば、我が国の民間企業の海外における正常かつ合理的な経済活動を阻害するおそれがあることから、同条4項は、事業基準等の適用除外要件が全て満たされる場合には同条1項の規定を適用しないこととしている。

措置法66条の6第4項は、同条3項にいう株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとしているところ、株式を保有する者は、利益配当請求権等の自益権や株主総会の議決権等の共益権を行使することができるほか、保有に係る株式の運用として売買差益等を得ることが可能であり、それゆえ、他の会社に係る議決権の過半数の株式を保有する特定外国子会社等は、上記の株主権の行使を通じて、当該会社の経営を支配し、これを管理することができる。

しかし、他の会社の株式を保有する特定外国子会社等が、当該会社を統括し管理するための活動として事業方針の策定や業務執行の管理、調整等に係る業務を行う場合、このような業務は、通常、当該会社の業務の合理化、効率化等を通じてその収益性の向上を図ることを直接の目的として、その内容も上記のとおり幅広い範囲に及び、これによって当該会社を含む一定の範囲に属する会社を統括していくものであるから、その結果として当該会社の配当額の増加や資産価値の上昇に資することがあるとしても、株主権の行使や株式の運用に関連する業務等とは異なる独自の目的、内容、機能等を有するものというべきであって、上記の業務が株式の保有に係る事業に包含されその一部を構成すると解するのは相当ではない。

そして、B各事業年度において、Bの行っていた地域統括業務は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善という多岐にわたる業務から成り、豪亜地域における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものということができるのであって、個々の業務につき対価を得て行われていたことも併せ考慮すると、上記の地域統括業務が株主権の行使や株式の運用に関連する業務等であるということはできない。

また、措置法66条の6第4項が株式の保有を主たる事業とする特定外国子会社等につき事業基準を満たさないとした趣旨は、株式の保有に係る事業はその性質上我が国においても十分に行い得るものであり、タックス・ヘイブンに所在して行うことについて税負担の軽減以外に積極的な経済合理性を見いだし難いことにある。

この点、Bの行っていた地域統括業務は、地域経済圏の存在を踏まえて域内グループ会社の業務の合理化、効率化を目的とするものであって、当該地域において事業活動をする積極的な経済合理性を有することが否定できないから、これが株式の保有に係る事業に含まれると解することは上記規定の趣旨とも整合しない。

なお、平成22年法律第6号による租税特別措置法の改正によって、株式等の保有を主たる事業とする特定外国子会社等のうち、当該特定外国子会社等が他の外国法人の事業活動の総合的な管理及び調整を通じてその収益性の向上に資する業務を行う場合における当該他の外国法人として政令で定めるものの株式等の保有を行うものとして政令で定めるもの(平成22年政令第58号による改正後の租税特別措置法施行令39条の17第4項に定める統括業務を行う同条3項各号に掲げる要件を満たす統括会社)を株式等の保有を主たる事業とするものから除外することとされた(前記改正後の租税特別措置法66条の6第3項)が、これによって事業基準を満たすこととなる統括会社は、もともと株式等の保有を主たる事業とするものであって(同項柱書き)、それ以外の統括会社はその対象となるものではないから、これらの改正経過を根拠に上記の統括業務が株式の保有に係る事業に包含される関係にあるものということはできず、Bの行っていた地域統括業務が株式の保有に係る事業に含まれるということはできない

以上によれば、B各事業年度において、Bの行っていた地域統括業務は、措置法66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるものということはできない。

次に、措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は、特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは、当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。

これを本件についてみると、Bは、豪亜地域における地域統括会社として、域内グループ会社の業務の合理化、効率化を図ることを目的として、個々の業務につき対価を得つつ、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム、物流改善という多岐にわたる地域統括業務を有機的に関連するものとして域内グループ会社に提供していたものである。

そして、B各事業年度において、地域統括業務の中の物流改善業務に関する売上高は収入金額の約85%に上っており、所得金額では保有株式の受取配当の占める割合が8、9割であったものの、その配当収入の中には地域統括業務によって域内グループ会社全体に原価率が低減した結果生じた利益が相当程度反映されていたものであり、本件現地事務所で勤務する従業員の多くが地域統括業務に従事し、Bの保有する有形固定資産の大半が地域統括業務に供されていたものである。

以上を総合的に勘案すれば、Bの行っていた地域統括業務は、相当の規模と実体を有するものであり、受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても、事業活動として大きな比重を占めていたということができ、B各事業年度においては、地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうBの主たる事業であったと認めるのが相当である。よって、Bは、B各事業年度において事業基準を満たすといえる。

そして、前記の事実関係等によれば、B各事業年度において、Bは本店所在地国であるシンガポールにおいて地域統括業務に係る事業を行うのに必要と認められる固定施設を有していたこと、株主総会及び取締役会の開催、役員の職務執行並びに会計帳簿の作成及び保管がいずれも同国において行われるなど、Bが本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたこと、地域統括業務に係る事業は、措置法66条の6第4項1号に掲げる事業のいずれにも該当せず、Bはその事業を主としてシンガポールにおいて行っていたことがそれぞれ認められるから、Bは、前記の各要件に係る基準を満たすといえる。

したがって、上告人は、BにつきB各事業年度において適用除外要件を全て満たし、本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外されるから、事業基準を満たさないことを理由に同項を適用してされた本件各処分(ただし、平成21年3月期の法人税の再更正処分については確定申告に係る所得の金額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金の額を下回る部分)はいずれも違法というべきである。

以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこれと同旨をいうものとして理由があり、原判決中、主文第1項は破棄を免れない。

そして、以上に説示したところによれば、同部分につき、上告人の請求をいずれも認容した第1審判決は相当であるから、被上告人の控訴を棄却し、また、その余の上告については、上告受理申立ての理由が上告受理の決定において排除されたから、棄却することとする。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所 判示要旨

1.
■被告はB社の主たる事業は株式保有業である旨主張するが、特定外国子会社等が株式の保有に係る事業の他に実体的な事業活動をしており、これを当該国において行うことに十分な経済的合理性がある場合には、当該事業が主たる事業であるか否かを検討しなければならないのは当然のことであり、たとえ株式の配当による所得金額が大きいとしても、株式保有以外の実体的な事業活動が現実に行われており、当該事業活動に相応の経営資源が投入されている場合には、事業基準を満たすと解することこそが、タックスヘイブン対策税制の制度趣旨に適うものというべきである。
2.
■特定外国子会社等が株式の保有を主たる事業とするものか否かの判定に当たり、収入金額や所得金額という金額的な規模を示す判断要素のみを重視すべきであるということはできないし、地域統括事業においては、被統括会社に対する統率力や経営統制の強化、意思決定の迅速化を図り、さらには、現地パートナー等との交渉等を円滑に進める上で、被統括会社の株式保有が重要な意味を持つ一方で、さほど多くの固定資産等を必要とするものではないことは、事業の性質上、当然のことであるから、判定に当たって資産総額に占める保有株式の額の割合を重視するのが相当であるということもできない。

■B社の主たる事業については、適用除外要件である事業基準、所在地国基準、実体基準及び管理支配基準をいずれも満たすから、原告には、本件各事業年度において、措置法66条の6第1項の適用が除外されることになる。

東京高等裁判所 判示要旨

1.
■事業としての「株式の保有」とは、単に株式を保有し続けることのみならず、当該株式発行会社を支配しかつ管理するための業務もまた、その事業の一部をなすというべきであり、本件で問題となっている一定地域内にある被支配会社を統括するための諸業務もまた、株式保有業の一部をなし措置法66条の6第3項括弧書きの「事業」に該当することは明らかである。

■実際にもB社は、地域統括業務から利益を得ているのではなく、保有する株式の配当によって得ているのであり、「主たる事業」は名実ともに株式保有業と認められるのである。会社は営利法人であり、利益を上げることを目的として、集めた資本等を経済的合理性があるように運用しているのであるから、「主たる事業」の判断に当たって、当該事業のために保有している財産の資産総額に占める割合や当該事業による所得金額の多寡を重視すべきことは当然である。

最高裁判所 判示要旨

1.
■各事業年度において、B社の行っていた地域統括業務は、地域企画、調達、財務、材料技術、人事、情報システム及び物流改善という多岐にわたる業務から成り、豪亜地域における地域統括会社として、集中生産・相互補完体制を強化し、各拠点の事業運営の効率化やコスト低減を図ることを目的とするものということができるのであって、個々の業務につき対価を得て行われていたことも併せ考慮すると、上記の地域統括業務が株主権の行使や株式の運用に関連する業務等であるということはできない。

■以上によれば、B社各事業年度において、B社の行っていた地域統括業務は、措置法66条の6第3項にいう株式の保有に係る事業に含まれるものということはできない。
2.
■措置法66条の6第3項及び4項にいう主たる事業は、特定外国子会社等の当該事業年度における事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、特定外国子会社等が複数の事業を営んでいるときは、当該特定外国子会社等におけるそれぞれの事業活動によって得られた収入金額又は所得金額、事業活動に要する使用人の数、事務所、店舗、工場その他の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である。

■B社の行っていた地域統括業務は、相当の規模と実体を有するものであり、受取配当の所得金額に占める割合が高いことを踏まえても、事業活動として大きな比重を占めていたということができ、B社の各事業年度においては、地域統括業務が措置法66条の6第3項及び4項にいうB社の主たる事業であったと認めるのが相当である。よって、B社は、B社各事業年度において事業基準を満たすといえる。

■上告人は、B社につきB社各事業年度において適用除外要件を全て満たし、本件各事業年度において措置法66条の6第1項の適用が除外されるから、事業基準を満たさないことを理由に同項を適用してされた本件各処分はいずれも違法というべきである。

認定事実

■原告及びBの株式保有関係等
原告は、自動車関連製品(自動車部品)の製造・販売等を目的とする株式会社(内国法人)である。

■なお、原告は、35の国と地域で事業を展開し、全世界に200以上のグループ会社を有する。

■Bは、シンガポールに本店を置くシンガポール法人であり、平成19年3月31日及び平成20年3月31日において、原告の100%子会社であった。

■Bは、2006年4月1日から2007年3月31日まで及び同年4月1日から2008年3月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「2007事業年度」及び「2008事業年度」といい、併せて「B各事業年度」という。)において、ASEAN(東南アジア諸国連合)地域に存する子会社13社及び関連会社3社の株式を保有していた。

■BのB各事業年度における所得の金額及び租税の額は、別表3「Bのシンガポールにおける租税負担割合」のとおりであり、Bのシンガポールにおける所得に対する租税の負担割合は、2007事業年度においては22.89%、2008事業年度においては12.78%であった。

■Bは、2007事業年度及び2008事業年度において、それぞれ、6331万8827.94星ドル及び8657万3793.72星ドルの適用対象留保金額・課税対象留保金額(措置法66条の6第1項、措置法施行令39条の16)を有していた。

■原告の確定申告
原告は、平成20年6月30日、処分行政庁に対し、平成20年3月期の法人税について、確定申告書を提出した。

■原告は、平成21年6月30日、処分行政庁に対し、平成21年3月期の法人税について、確定申告書を提出した。

■原告は、前記の各確定申告書のいずれにおいても、Bについて措置法66条の6第1項の適用が除外されることを前提に、原告の所得金額の計算をしていた。

■本件各処分の経緯
処分行政庁は、平成21年2月17日、原告に対し、平成20年3月期の法人税について、更正処分をした上、平成22年6月28日、原告に対し、平成20年3月期の法人税について、再更正処分(以下「平成20年3月期更正処分」という。)をするとともに、同法人税に関し1億5118万6000円の過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

■また、処分行政庁は、同日、原告に対し、平成21年3月期の法人税について、更正処分(以下「平成21年3月期第1次更正処分」又は「第1次更正処分」という。)をした。

■これら平成20年3月期更正処分及び平成21年3月期第1次更正処分は、「Bは、措置法66条の6第1項所定の特定外国子会社等に該当し、その主たる事業は株式保有事業であり、同条4項所定の適用除外要件の前提となる同条3項括弧書き(事業基準)を満たさないから、同条1項が適用され、原告の本件各事業年度の所得金額の計算上、課税対象留保金額に相当する金額が益金の額に算入される。」との判断に基づくものであった。

■処分行政庁は、平成24年6月22日、原告に対し、平成21年3月期の法人税について、再更正処分(以下「平成21年3月期第2次更正処分」又は「第2次更正処分」という。)をした。

■この第2次更正処分では、所得金額の計算上、
①修繕料等のうち損金の額に算入されない金額、
②製造原価のうち損金の額に算入されない金額、
③減価償却超過額、
④売上げの計上漏れ、
⑤購入部品価格差異のうち損金の額に算入されない金額、
⑥雑費のうち損金の額に算入されない金額、
⑦特別償却準備金繰入限度超過額、
⑧特別償却準備金の益金算入額の過少額に関して各加算をする一方、
①一括償却資産損金算入限度超過額の損金算入額、
②税額控除の対象となる外国法人税の額等の損金不算入額の過大額、
③一括評価金銭債権に係る貸倒引当金の繰入限度超過額の過大額に関して各減算をした結果、
差し引き、9億9680万2533円欠損金額が増加した。

■上記減算項目②は、原告の確定申告書において、法人税法69条8項の規定を適用することができるものとして、同法28条の規定により益金の額に算入していた金額のうち、平成21年3月期においては外国税額控除の対象とならず、同法69条8項を適用できないことが判明した金額を減算したものである。

■そして、この事業年度において控除できる外国税額が減少したことにより、他方で、還付所得税額等が9億9537万3003円減少し、差引納付すべき税額が9億9537万3000円増加した。

■処分行政庁は、平成24年10月12日、原告に対し、平成21年3月期の法人税について、再々更正処分(以下「平成21年3月期第3次更正処分」又は「第3次更正処分」という。)をした。

■この第3次更正処分は、第1次更正処分前に、原告の平成16年4月1日から平成17年3月31日まで、同年4月1日から平成18年3月31日まで及び同年4月1日から平成19年3月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「平成17年3月期」、「平成18年3月期」及び「平成19年3月期」という。)の法人税につき措置法66条の4に基づいてした更正処分について、相手国(スペイン国)との間に成立した相互協議の合意に従って、平成18年3月期及び平成19年3月期の所得金額を再更正したこと等に伴い、平成21年3月期における外国税額の控除額及び還付所得税額等をいずれも1億1622万6094円増加させ、差引納付すべき税額を同額減少させたものである。

■処分行政庁は、平成25年2月28日、原告に対し、平成21年3月期の法人税について、再々々更正処分(以下「平成21年3月期第4次更正処分」又は「第4次更正処分」という。)をした。

■この第4次更正処分は、第1次更正処分前に、原告の平成17年3月期、平成18年3月期及び平成19年3月期の法人税につき措置法66条の4に基づいてした更正処分について、相手国(タイ王国)との間に成立した相互協議の合意に従って、平成18年3月期及び平成19年3月期の所得金額を再更正したこと等に伴い、平成21年3月期における外国税額の控除額及び還付所得税額等をいずれも8億3548万3876円減少させ、差引納付すべき税額を8億3548万3800円増加させたものである。

■本件訴訟に至る経緯等
原告は、平成20年3月期更正処分及び平成21年3月期第1次更正処分並びに本件賦課決定処分を不服として、平成22年8月26日、名古屋国税局長に対し、異議申立てをしたが、同国税局長は、同年11月24日、これを棄却する旨の決定をした。

■原告は、上記決定を不服として、平成22年12月22日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、同所長は、平成23年11月22日付けで、これを棄却する旨の裁決をした。

■原告は、平成23年8月8日、平成20年3月期更正処分及び平成21年3月期第1次更正処分のうち原告主張金額を超える部分並びに本件賦課決定処分の取消しを求めて(前記第1の1及び2の各請求を掲げて)本件訴訟を提起した。

■原告は、平成26年2月10日、平成21年3月期第2次更正処分(ただし第3次更正処分により一部取り消された後のもの)及び第4次更正処分のうち原告主張金額を超える部分の取消しを求める請求(前記の各請求)を追加する旨の訴えの変更をした。

税額等措置法66条の6第1項の適用に関する争点〔後記4(2)〕について原告の主張が容れられた場合には、原告の平成20年3月期の法人税については、所得金額1809億7870万9733円、納付すべき税額309億7419万2100円となり、原告の平成21年3月期の法人税については、所得金額マイナス698億6583万4166円、還付所得税額等75億9560万7682円、翌期へ繰り越す欠損金698億6583万4166円となる。

■他方、上記争点について被告の主張が容れられた場合には、原告の平成20年3月期の法人税については、所得金額1860億1825万5248円、納付すべき税額324億8605万5900円となり、原告の平成21年3月期の法人税については、所得金額マイナス635億5379万1108円、還付所得税額等88億8055万4484円、翌期へ繰り越す欠損金635億5379万1108円となる。

(補足)デンソー事件とは

地域統括業か株式保有業か

■日本の内国法人である納税者は、シンガポールに子会社(B社)を有していたところ、B社は他の複数のグループ会社の株式を保有した上で、その統括に関する業務を行っていた。ここで、株式の保有関係に着目して、B社の主たる事業を「株式保有業」であると認められれば、外国子会社合算税制の「事業基準」を満たさず、同税制の適用対象となる。

■このことから、納税者としては、統括事業に着目して、B社の主たる事業は、株式保有業ではなく、地域統括業である旨を主張した。これに対して、課税庁は、地域統括に関する業務は、配当所得の稼得に向けられたものであり、またB社の所得のうちに株式保有から生ずる配当所得が占める割合が8割を超えており、総資産のうちに保有株式が占める割合も過半となっていることから、主たる事業は株式保有業であると主張したのである。こうして、本事案では、海外子会社が複数の事業を営む場合に、主たる事業をどのような基準で判定するかという点が争われた。

裁判所の判断

■最高裁は、主たる事業は事業活動の具体的かつ客観的な内容から判定することが相当であり、外国子会社が複数の事業を営む場合には、①各事業からの収入又は所得金額、②各事業に要する使用人の数、③事務所等の固定施設の状況等を総合的に勘案して判定するのが相当である旨を判示した。

■その上で、本事案において事業関係を総合的に勘案して、B社の行っていた地域統括業務は、相当の規模と実態を有するものであり、事業活動として大きな比重を占めていることから、その主たる事業は株式保有業ではなく地域統括業であることが認められた。

■一般に、外国子会社の税負担割合が20%未満である場合、合算税制の適用除外が認められる為には、4つの基準(事業基準、実態基準、管理支配基準、比関連者基準又は所在地国基準)を全て充足する必要がある。そしてこの基準を満たすかどうかを判断する上で、外国子会社が複数の事業を営む場合、いずれが主たる事業であるかによって結果が異なる。

■本件では、収入や所得金額といった事業活動の結果のみならず、事業に従事する従業員や使用される固定施設の状況など、投下されている人的資本や物的資本という経済活動の規模や実態にも着目しており、そのような実質的な観点を踏まえて主たる事業の判定をすべきであることが明らかとなった。このように、実質的観点から主たる事業を判定することは、平成29年度税制改正後の経済活動基準の充足を判断する上でも同様であると考えられ、実務においても参考になる事案であろう。

編集者コメント

■デンソー事件は、内国法人の子会社である外国法人について、外国子会社合算税制の適用除外基準(平成29年度税制改正後の経済活動基準)のうち、事業基準を満たすかどうかが争われた事案である。

■海外に子会社を有する内国法人にとって、外国子会社合算税制の適用除外基準を検討することは非常に重要であろう。この点、外国子会社合算税制はここ数年毎年のように重要な改正がなされており、平成29年度税制改正では制度の抜本的な改正がなされた。

■地裁と最高裁が、地域統括事業というもののビジネス上の実態を正当に認識して判断を下した、社会通念に適合した判決であった。一方、高裁判決は、シンガポールの利用について租税回避を過度に強調した判示している感もある。確かに、日本企業がシンガポールなど軽課税国を中間持株会社の設立に利用することは税務メリットの観点が皆無ではないが、税務メリットだけではなく、英語が通じること、都市インフラが充実していることなど、税務以外のメリットも総合勘案して設立拠点に選んでいることが実態ではないだろうか。このような実態がある場合にも、外国子会社合算税制の対象とすることは、過剰包摂であると言えよう。

■適正な税収を確保するために制度の強化が必要であるとのBEPSの議論は勿論であるが、他方で、正当な経済活動を阻害しないようにするために一定の割り切りとして制度の簡素化・合理化も必要ではあり、それが日本企業の国際競争力の強化に繋がるからである。本事案では、そういった実態に着目した適正な判断がなされたものと考えるが、外国子会社合算税制の適用にあたっては、条文の文言上の問題で、必ずしも解釈でどうにもならない場合もあり得ることが懸念される。

■例えば、外国子会社が、収入の8割はA事業、②使用人の8割はB事業、③事務所等の固定施設の8割はC事業であった場合、どのように総合判断せきるだろうか?事業基準の判定は、最終的には、事実認定の問題であり、そして事実認定が問題となる場面では、同様の問題が生ずることは多いであろう。事業基準をより客観的なある意味形式的なものにすると予測可能性は高まりますが、当該基準を回避するための試みが成功しやすくなるという問題があるため、やはり実質的な基準とならざるを得ないであろう。租税訴訟において立証責任を負うのは課税当局であるため、上記のような総合判定が難しいケースでは、納税者に有利な結論になることが多いのではないだろうか。

株式保有割合の算定

■平成29年度税制改正によって「掛算方式」から「連鎖方式」に変更された。これに関して、納税者の利便性が高まった点を紹介しておく。

■同改正前は、内向法人が外国法人と50:50で組成した外国JVにつき、そのJVパートナーである外国法人の株主に1人でも日本居住者や内国法人が存在すると、そのJVは外国関係会社dえあると認定され、租税負担割合が20%未満であれば特定外国子会社として合算課税の対象となるといった事態が生じていた。これが、同改正により、関係保有割合の判定が連鎖方式となったことえ、このような想定外の事態が生ずるリスクがなくなったため、日系企業が海外でJVを組成する際の懸念点が解消されたといえる。他方、50%超の支配関係が連鎖する場合、従前は外国関係会社と認定されなかったものが同改正により認定されるようになったいるため、この点は注意すべきであろう。

実質支配関係

■外国法人の財産に対する支配権を有する内国法人が存する場合、当該内国法人は「実質支配者」として実際の株式保有割合にかかわらず、当該外国法人の株式を100%保有する者と同様に合算課税の対象になりうる。

■この点、内国法人であるA社が外国関係会社であるB社の株式を30%保有するとともに、B社に対する実質支配関係を有しており、一方で、内国法人C社がB社の株式を70%有する場合、B社の適用対象金額が100とすると、合算税制が重複する可能性がある。すなわち、A社の課税対象金額は、B社の適用対象金額100に請求権等勘案合算割合100%を乗じた100となり、また、C社の課税対象金額はB社の適用対象金額100に請求権等勘案合算割合70%を乗じた70となるため、合計すると合計対象金額が170となり、B社の適用対象金額の170%同等の合算課税が生じる可能性がある。仮に、このような課税関係が生ずるとすれば、実質支配関係に関する規定は懲罰的な制度であるとも位置づけられる。

■そもそも、実質支配関係は、合算税制の「適用外し」に対応するための規定であり、また、複数の内国法人による共同支配関係にある場合は、いずれの内国法人にも実質支配関係がないと整理されていることからすれば、内国法人が合計で100%を保有しているような上記の例では、例え形式的には実質支配関係の要件を満たす場合でも、その適用はなく、原則通り、保有割合に応じた合算対象金額を算定することになると解釈できる。他方、上記の例で、仮に70%を保有するのが非居住者や外国法人である場合には、まさに実質支配関係の規定が適用されると考えられる。

重要概念/外国子会社合算税制

3つの合算課税制度

■外国法人は日本の国内で所得を稼得するものでない限り、基本的には日本の納税義務者にはならない。これに対して、内国法人は日本の国外で所得を稼得したとしても、基本的には、その全ての所得に対して課税がなされる(全世界所得課税)。
そこで、海外において内国法人が直接所得を稼得する代わりに、外国法人を通じて所得を稼得すれば、これには日本の課税権が及ばないことになる。これが正当な事業目的を超えて濫用的になされるとすれば、日本の課税を不当に免れうることとなる。このような租税回避行為に対応するため、一定の外国法人が稼得した所得を内国法人の所得に合算して課税するための制度が合算税制である。

特定外国関係会社に係る会社単位の合算課税制度

■特定外国関係会社に係る会社単位の合算課税制度

外国子会社が以下で列挙するいずれかの種類の会社(特定外国関係会社)に該当する場合には、会社単位の合算税制が適用され、その所得の全部が株式保有割合に応じて内国法人の所得に合算されて課税されることになる。

①ペーパーカンパニー
主たる事業を行う為に必要な事務所等を有しておらず、かつ本店所在地国において、事業の管理、支配及び運営を自ら行っていない会社。
②事実上のキャッシュ・ボックス
次の2つの要件を充足する会社
1)総資産に占める受動的所得の割合が30%を超えること(利益基準)
2)総資産に占める受動的資産の割合が50%を超えること(資産基準)
※受動的資産・・・有価証券、貸付金、貸付用固定資産、無形資産等
③ブラック・リスト・カンパニー
財務大臣が指定する国、地域に所在する会社

経済活動基準を満たさない外国関係会社に係る会社単位の合算課税制度

■経済活動基準を満たさない外国関係会社に係る会社単位の合算課税制度
外国関係会社が特定外国関係会社に該当しない場合であっても、以下の4つの経済活動基準を1つでも満たさないときは、会社単位の合算課税制度が適用される。
①事業基準
主たる事業が一定の列挙された受動的な事業(株式保有業、債権保有業、知的財産提供業、船舶・呼応空気貸付業)に該当しないこと。ただし、株式保有業であっても25%以上の株式を保有する複数の子会社の統括業務(事業方針の決定や調整によって収益性の向上を図る業務)を行う場合には同基準を充足する。
②実体基準
主たる事業を行うために必要な事務所等を本店所在地国に有していること。これは現地で実体を伴う経済活動をしていることも求めるものであり、事務所等は必ずしも自ら保有しなくともよく、賃貸の場合も同基準を充足する。
③管理支配基準
本店所在地国において事業の管理、支配及び運営を自ら行っていること。これは現地で実質的な経営がなされていることを求めるものであり、その判断に当たっては、株主総会・取締役会の開催場所や役員等による意思決定の場所が重要な要素となる。
④非関連者基準又は所在地国基準
特定の業種(金融業、卸売業、運送業等)の場合、非関連者取引が全体の50%超であること。その他の業種の場合、主たる事業活動の場所が本店所在地国の国内であること。なお、実際の製造を本店所在地国以外で行ういわゆる来料加工事業であっても、重要な事業を通じて製造に主体的に関与すると認められる場合には同基準を充足する。

受動的所得に係る部分合算課税制度

■受動的所得に係る部分合算課税制度
経済活動基準を全て満たす場合でも、配当、利子、使用料、キャピタルゲインなどの一定の受動的所得については、なお部分合算課税の対象となり得る。ただしそのような受動的所得でも一定の要件を満たすものについては、部分合算の対象外とされており、その要件を検討することは必要である。

併せて読みたい/日愛租税条約事件

【源泉徴収義務/匿名組合契約に係る契約上の地位又は債権の一部譲渡に相当する利益】(東京高判平成26年10月29日)(納税者勝訴)

租税条約の濫用等を理由として租税条約の適用を否定することの可否が争点とされた事案。

匿名組合契約の営業者であった第1事件原告及び第2事件原告は、当初の匿名組合員からその地位を譲り受けたアイルランド法人に対して利益の分配として支払をしたが、その際、日愛租税条約の規定が適用されて原告らは源泉所得税を徴収して国に納付すべき義務を負わないと判断して、源泉所得税の徴収及び国への納付をしなかった。本件は、処分行政庁が、原告らが利益の分配として支払をした金額のうち99%に相当する部分については同条約の規定の適用がなく、源泉所得税を徴収して国に納付すべき義務を負うものであるとして、原告らに源泉所得税の各納税の告知の処分等をしたため、原告らがその取消しを求めるとともに、過納金の還付等を求める事案である。
裁判所は、租税条約の適用を否定することはできないとして、納税者を勝訴させた。高裁でも、納税者の主張が認められ、上告不受理で確定。