日愛租税条約事件

目次

日愛租税条約23条を否定する明文規定無し

概要

匿名組合契約の営業者であった納税者が、日愛租税条約に基づき、所得税の源泉徴収義務を負わないと判断して、分配金に係る源泉所得税の徴収及び国への納付をしなかったことが認められた事案。

相関図

概要

■概要
■匿名組合契約の営業者であった納税者は、アイルランドの法令に基づき設立された法人である匿名組合員に対して各契約に基づき利益の分配として支払をしたが、その際、日愛租税条約の規定が適用されて被控訴人らは所得税法212条1項に基づく源泉徴収に係る所得税を徴収して国に納付すべき義務を負わないと判断して、源泉所得税の徴収及び国への納付をしなかったところ、麻布税務署長が、被控訴人らに対し、被控訴人らが利益の分配として支払をした金額のうち99%に相当する部分については日愛租税条約の規定の適用がなく、所得税法212条1項に基づき源泉所得税を徴収して国に納付すべき義務を負うものであるとして、源泉所得税の各納税の告知の処分及び不納付加算税の各賦課決定を行った。

■裁判所は、日愛租税条約には、源泉課税を制限する日愛租税条約23条の適用を否定する具体的な条項は定められていないから、同条の適用を否定することはできないと判断。組合員が各匿名組合契約に基づいて支払を受けた利益分配金の99%に課税されないとの結果が生じており、それが、税負担の公正性等の観点から問題視される余地があるとしても、そのことは、明文の条約等の規定なく、日愛租税条約23条の適用を排除する根拠となり得るものとはいえないとして、納税者を勝訴させた。
■裁判所
東京地方裁判所 平成25年11月1日判決(八木一洋裁判長)(認容)(控訴)(納税者勝訴)
東京高等裁判所 平成26年10月29日判決(瀧澤泉裁判長)(棄却)(納税者勝訴)(上告受理申立て)
最高裁判所 平成28年6月10日決定(山本庸幸裁判長)(上告不受理)(確定)

争点

原告らの本件各分配金に係る源泉徴収義務の有無

判決

東京地方裁判所
→納税者勝訴

東京高等裁判所
→納税者勝訴

最高裁判所
→上告不受理

日愛租税条約と匿名組合

日愛租税条約
アイルランドと我が国との租税条約。
原条約 署名日:1974年1月18日  発効日:1974年12月4日

第23条(その他の所得条項)
一方の締約国において生ずる他方の締約国の居住者の所得で前諸条に明文の規定がないものに対しては、当該他方の締約国においてのみ租税を課することができることを規定。


匿名組合契約
商法第535条に規定がある。「当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その営業から生ずる利益を分配することを約することによって、その効力を生ずる」契約で有り、出資者が営業者(合同会社)に出資し、営業により生じた利益を分配することを約束する契約 である。匿名組合契約とは、匿名組合員と営業者との二者間の契約であり、組合自体が権利・義務の主体とはなり得ない(商法 535、536)。また、匿名組合契約においては、匿名組合員は営業者の営業から生じる利益の分配を受ける権利(利益配当請求権)を有し(商法 538)、営業者は組合員に対して利益の分配をする義務を負うことになる (商法 535)。
このことから、匿名組合契約に基づいて営まれる組合事業に係る所得は、任意組合等の場合と異なり、匿名組合員に直接帰属せず、いったんは営業者に帰属することとなり、匿名組合員に対しては、営業者から分配される利益について課税される


任意組合契約
民法667条に規定がある。民法上の任意組合は、組合である以上、法人格を有していないため課税対象にはなり得ず、組合そのものに課税されることはない。このため、課税対象は、任意組合の各組合員となり、組合から組合員に損益が分配された時点(もしくは組合員が損益を認識した時点)で、組合員の他の事業結果と一体となって課税されることになり、これを“パススルー税制”と呼ぶ。 この結果、組合員が個人であれば最終的には所得税が適用され、組合員が法人であれば法人税適用がされる。

キーワード

■キーワード
スワップ契約、PE、課税権、組合事業、国内源泉所得、出資者、商法、租税回避行為、その他の所得、匿名組合契約、日愛租税条約、明文規定

■重要概念
適用条項

東京地裁/両者の主張

納税者の主張

原告らからKに対する利益分配金の支払が契約に基づく支払であること

原告らは、いずれも、本件各処分対象期間中、本件各匿名組合契約をKとの間で適法有効に締結していたものであり、原告らからKに対する利益分配金の支払は、本件各匿名組合契約という契約に基づいて、匿名組合員(契約の相手方)であったKに対して、原告らの契約上の義務の履行としてなされたものであった。

Kはアイルランド法人であってアイルランドの居住者であり、日愛租税条約23条に定められている特典を享受する資格がある者として租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令2条1項上に定める手続を適法に遵守していたものであるから、源泉徴収義務を含む納税義務の成立の基礎となる私法上の法律関係を離れて原告らが利益分配金の支払について源泉徴収義務を負わないことは明らかである。

本件各処分対象期間における相手方当事者はKであり、本件各処分対象期間に発生した原告らを債務者とする利益分配金の支払請求権の債権者は契約当事者であるKのみであること

本件各匿名組合契約は、匿名組合営業者と匿名組合員という二当事者間で締結される有償双務契約であるが、その匿名組合営業者たる一方当事者は、米国のEという上場企業を究極の親会社とする世界的にも有数の企業グループの支配下にある関係会社(以下「E関係会社」という。)である原告らであり、匿名組合員たる当事者は、契約締結時から平成13年6月までは、Mという米系投資ファンドを中核とするKグループの関係会社であるGであり、それ以降はGと同じくKグループの一員である法人としてGから契約を譲り受けたKである。

そして、両当事者はそれぞれ非関連の別々のグループ企業の一員であるから、本件各匿名組合契約は、相互に非関連の独立当事者間で交渉されて合意された契約であることが明白である。

そして、原告らの意思表示に心裡留保や虚偽表示といった特別な事情は一切ないから、原告ら、G及びKは、契約を証する法的文書(すなわち、本件各匿名組合契約の契約書とGからKへの譲渡通知と原告らの承諾を証する書面である本件各譲渡通知書兼承諾書がこれに当たる。)に記載されているとおりの合意をしたと認められるべきは我が国の私法上当然である。

さらに、本件各匿名組合契約は我が国の商法に定められている典型的な匿名組合契約にほかならず、内容も単純で、何のひねりも複雑なストラクチャリングも伴わないストレートなものであって、契約上の債権債務とその履行は、本件各匿名組合契約に定められている条項によることが合意されている契約である。

よって、本件各匿名組合契約に関しては、適法有効に作成された契約書その他の法的文書によって特定されている当事者以外の者が当事者であるという事実認定がなされるべき理由は何もないし、同契約上の匿名組合員たる当事者以外の者が同契約に基づく特定の一部の債権の保有者となることは、匿名組合営業者の承諾がない限り無効である。

したがって、本件各匿名組合契約における契約書の条項を精査すれば、契約上発生する債権の1%部分のみの債権者が契約上の匿名組合員として特定された者であり、残りの99%部分の債権者が契約で一言の言及もされていない第三者であるなどという事実認定がなされるべき理由も根拠もない。

被告は本件各匿名組合契約の当事者たる原告らの真意を無視して同契約の当事者の「真意」を認定するという契約の本質を無視する重大な誤りを犯していること

私法上の法律関係は、意思表示を構成要素として成立し、かつ、意思表示の内容に従ってその内容が定まるものであるから、私法上の法律関係の存否及びその内容を判断するためには、何よりもまず、その当事者の意思表示の存否及びその内容を確定させなければならない。

仮に、被告が一般論として主張するように契約当事者の真意を探求する必要があるというのであれば、原告らこそが本件各匿名組合契約の一方当事者であるから、そこで問題とされるべき契約当事者の真意とは原告らの真意を含むものでなければならない。

ところが、被告が主張する『一連の取引』の『当事者』には原告らが含まれていない(以下ではその点を踏まえて、当該『一連の取引』を「他社間海外取引」という。)のみならず、他社間海外取引は、原告らがおよそあずかり知らぬところで行われた原告らとは無関係な別の当事者間の別の取引である。

原告らは、かかる取引の契約当事者ではないだけでなく、かかる取引が存在しているのか否かを含めて一切何も知らない。

そして、他社間海外取引が仮に存在するとしても、当該取引に関する事実関係は、原告らが当事者として行った取引である本件各匿名組合契約の相手方当事者が誰であるかの事実認定とは全く無関係であることは明白である。被告は、原告らからそれぞれ資産管理等の事務委託を受けていたN及びL(以下、NとLを併せて「r」と総称することがある。)は本件各分配金がSに帰属することを認識していたとか、原告らもかかる受託者から本件各分配金がSに帰属することを知らされていたなどという誤った憶測を述べて、原告らはKが本件各匿名組合契約の100%の債権者ではなく1%の債権者であったことを認識していたはずであるという主張をしているが、この点に関する被告の主張はすべて憶測であって証拠に基づく事実ではない。

また、GからKへの本件各匿名組合契約上の匿名組合員たる地位の包括譲渡を受けた際、原告らは本件各匿名組合契約の9.1項に基づく包括譲渡の通知を受け、かつ、確認証書の交付もしているのに対し、被告が主張するSに対する一部譲渡については、原告らは通知を受けたこともないし、確認証書の交付をしたこともない。

原告らは、GからKへの包括譲渡に関連して、Kが海外でどのような取引をしていたかについては全く知らない上、本件各匿名組合契約上の唯一の匿名組合員であるKから本件各匿名組合契約の一部譲渡の打診を受けたこともなければ、全部か一部かを問わず、本件各匿名組合契約の譲渡についての通知、連絡を受けたことも一切ない。

さらに、Sから本件各匿名組合契約の匿名組合員による権利の行使を受けたこともない。結局、被告の主張する事実認定とは、本件各匿名組合契約の当事者たる原告らの真意を無視したまま、本件各匿名組合契約の当事者の『真意』を認定するという、契約の本質と正面から矛盾するものに他ならない。

本件各匿名組合契約が非関連の当事者間において締結された独立当事者間契約であること

原告らの投資事業はE関係会社らが主導して行った投資であること原告らによる最初の投資案件であるH生命案件は、Fが投資機会を発掘し、FとE関係会社でありニューヨーク所在の米国法人である〈A〉(以下「〈A〉」という。)が主導して実現にこぎつけた投資案件であった。

原告らによる本件各投資事業のうち、最初の投資案件であったH生命案件は、資産の数、金額とも大規模であったため、投資リスクの管理上、Fの本件各投資事業の担当者も〈A〉の本件各投資事業の担当者も、E関係会社らの資金に加えて共同投資家からも資金を調達して共同投資の形態で投資を行いたいと考えていた。

そして、通常は競合関係であって非関連独立当事者関係にあるKグループに共同投資を打診し、Kグループがこれに合意した結果、E関係会社らとKグループとの共同投資方式でこの投資が行われることとなった。

原告らによるその他の二つの投資案件である原告DによるI生命案件及び原告CによるJ生命案件は、H生命案件からほどなく実行されることとなった比較的小さな案件であったが、H生命案件との関連性もあったことから、E関係会社とKグループとの間でH生命案件と同じ方式、同じ投資割合、同じ条件で共同投資の対象とすることが合意され、原告らがSPCとして投資対象資産を取得することとなったものであった。

このような共同投資を行うことになった理由及び経緯、〈A〉及びFがKグループに共同投資を打診した動機及び理由、さらに共同投資の形態が匿名組合契約を用いる方式になった理由及び経緯などにおいて、いずれの点をとっても、本件各匿名組合契約が、非関連の独立当事者間の取引として交渉され成立したものであることを疑わせるような事情は全くない。

原告らによる本件各投資事業は、E関係会社らによる投資事業の通常の方法に従って行われていることE関係会社の自己資金を利用して市場における流動性の低い資産(典型的には不良債権ポートフォリオや不動産ポートフォリオであるが、これらに限られない。)に投資するという事業においては、E関係会社がその自己資金のみを投資する投資案件もあったが、他の投資家を共同投資家として共同投資を行う投資案件もあった。投資案件を実行する際には、特定のSPCがE関係会社の海外の資金を取り入れ、SPCの日本支店がSPC本店からその資金の融通を受けて投資対象資産を購入することにより投資が行われ、SPCの日本支店が取得して保有する投資対象資産の資産管理(債権のサービシング、不動産の管理処分を含む。)その他経理等のバックオフィス業務については外部のサービサーや管理会社に事務委託するが、SPC日本支店の業務全般については投資事業の日本における担当者であるFのローカル・チーム(E関係会社と〈B〉株式会社の合弁会社であった〈C〉証券会社の債権部門本部に設置された債権流動化チーム)が事務受託者としてこれを遂行し、外部のサービサーや管理会社からSPCに対する報告等についてはFがSPCに代わってこれを受け、外部のサービサーや管理会社に対する指示を出すというのが、通常のSPCの業務運営方法であった。

上記事業の投資案件では、E関係会社が他の投資家と共同投資を行うこともあり、共同投資の方式としては、匿名組合方式がよく利用されていた。E関係会社は自前のグループ内サービサーや管理会社を持っていなかったことから、このような投資事業の投資案件では、SPCは非関連のサービサーや管理会社に資産管理等の業務を委託していた。本件各投資事業においては、原告らは、本件各匿名組合契約の締結後も、E関係会社のSPCとしてE関係会社と資本関係を有し、かつ、E関係会社の支配下に置かれるという点には全く何の変更もされていない。

また、本件各匿名組合契約は商法に定められているとおりの典型的な匿名組合契約であるから、匿名組合員たる当事者は、原告らが保有する投資対象資産について何の権利も支配権も有することはなく、限定された範囲の検査権は有するものの受動的に匿名組合契約における営業者の営業から生ずる損益の分配を受ける権利を有するにすぎない(商法535条以下)。

そして、現に、原告らは、F及び〈A〉が行う通常の上記事業の投資案件と同じように、SPCとして投資資産を保有し、原告らの業務全般については、Fのローカル・チームが投資事業における他のSPCと同じように事務受託しており、原告らが保有する投資対象資産の資産管理等のサービシング業務を事務委託する委託先もFが選定し、原告らの業務はFの担当者が原告らの事務受託者としてかかる委託先からの報告等を受けるというかたちで遂行されたものである。

V社からの融資(本件借入契約Ⅲ)及び本件各保証書等の差入れの趣旨等本件のような不良債権等に対する投資案件においては、債権者は、債務者の全一般財産ではなく、債務者が担保として供する特定の財産に対してのみ執行を行って債権を回収できるという条件の融資(これが、通常ノンリコース・ローンと呼ばれる、ノンリコース条件による融資方式である。)が行われるのが通常であるところ、原告らがV社から受けた本件借入契約Ⅲによる融資も、ノンリコース条件での融資であり、SPCが投資にレバレッジをかけるためにノンリコース・ローン方式で第三者から借入れを受けることは珍しいことではないから、本件のような不良債権等の資産への投資においてV社からの融資はごく通常の資金調達方法であった。V社の融資条件においては、契約条項に反する担保資産の譲渡、融資に関する詐欺行為などの特定の事由が生じた場合には、融資契約上生じた原告らの債務についてはノンリコース条件が外されていたが(リコース・カーブアウト条項。

このような条項は、ノンリコース・ローンの場合によく見られるものであって、珍しいものではない。)、かかる特定の事由が生じた場合に債務者が負担する債務(以下「リコース債務」という。)は、いわゆる親保証として、通常の実務により、本件投資案件に対する投資資金の出し手であるE側の中に買収により取り込まれた証券会社・投資銀行部門であった〈I〉グループの一員であり、当時、Fの親会社であり、かつ、原告らの優先株主でもあったWと、原告らに本件各匿名組合契約により匿名組合員として当初資金を提供していたGを当時保有していたUが、V社に対してリコース債務の一部につき本件各保証書を差し入れた。そして、Uが保証を行う対象は、原則としてリコース債務の80%が上限とされており、Wが保証を行う対象は原則として20%とされているが、この保証額の割り付けは、E側とKグループ側が最終的に得ることになる経済的なベネフィットの割合での保証額の割り付けを意図して取り決められたものであった。

また、Uに対して保証料を支払っていないことについては、仮に原告らが同じく保証をしたWに対して保証料を支払わずにUに保証料を支払うなどということをすれば、E側の費用負担で匿名組合員を利することになるためであった。

本件各業務委託契約、本件各保証書等における戊宛ての通知条項の趣旨等契約の「通知」条項にわざわざ当該契約の当事者以外の者を写し送付先として記載することは、契約実務上よく行われていることであり、その理由は様々であるが、もし、そのような者が当事者間でなされた通知の写しを当事者自身から迅速かつ確実に受け取ることができる立場にある場合には、当該者としては通知条項に写し送付先として記載してもらう理由は特にないと考える方が自然であり、当事者自身から迅速かつ確実に受け取ることが保証されていない場合にこそ写し通知先に記載してもらう意味がある。

仮に、jが、rを支配しており、rはjの「影響下で受託業務を遂行していた」のであれば、jはrからいつでも迅速かつ確実にrが受領した通知のコピーを受け取るように指示しておくことが容易にできるはずであるから、jが本件各業務委託契約の通知の写し送付先として記載されているという事実こそは、まさに、rの受託業務の遂行がjの影響下にないことを示していると解する方が自然かつ合理的である。また、法律文書における通知条項において通知の写し送付先に当事者以外の誰を記載するかは最終的にはその書面の当事者(作成者)が決めるべきことであるから、Wのみが署名している法律文書であるWがV杜に対して差し入れた本件保証書2及びこれに対する第一次修正保証書の通知の写し送付先としてUを記載することを決めたのはWであると考える方がはるかに自然かつ合理的である。

実質的にも、EであるWとしては、貸主であるV社が保証人2名に対して同時に通知を送らなければならない義務があるわけでもない以上、原告らが債務者である本件借入契約ⅢについてWと同じ保証人という立場にあるUにもW宛ての通知の写しが送られるようにしておくことで、①本件借入契約Ⅲの債務者であるところの、Eの一員たる原告らが債務不履行にならないよう最大の注意を払い、かつ、②V社からの通知が遅れたことを理由にUが自己の保証債務の履行を遅延した場合には本件借入契約Ⅲについて原告らが債務不履行に陥る可能性があることから、そのような事態が生じないように、できることは何でもしておきたい等の思惑からUを通知の写し送付先として記載したとしても何ら不思議でも不自然でもない。

なお、乙は、rがかねてO、更にはそれとYとの間で締結していたサポート契約に基づき、Yのクロージング担当シニア・ヴァイス・プレジデントの立場で、rが原告らに提供する付随サービスであるノンリコース・ローンの調達支援として本件借入契約Ⅲに関するV社との交渉の業務に当たったものである。

原告ら、F、N及びLはいずれも他社間海外取引などのKグループの内部情報を知る立場になく、被告が主張する他社間海外取引について何も知らないこと

原告らはいずれもE関係会社であるSPCであって、原告らの実際の業務は、E関係会社であるFが受託し、原告らの日本における代表者はFからの説明を受けて機関決定を行い、契約締結等の署名等を行うという方法で遂行されていたものであり、日本における代表者自身は他社間海外取引について聞いたこともなく、S、X及びPのいずれについても名前を聞いた記憶もない。

したがって、海外におけるKグループ内の関係会社間取引としか考えられない他社間海外取引のようなKグループ内の内部情報を知る立場になかったことは明白である。

Fは、〈A〉とともに、Kグループと共同投資の交渉を行う立場にあったが、共同投資の交渉において、互いのグループ内でどのように資金調達を行うかは営業ノウハウに当たる重要な内部の秘密情報であるから、たとえ共同投資家であってもそのような情報を開示することはない。

そして、現に、当時のFにおいて原告ら投資事業を担当していた担当者であったgも、その上司として〈A〉とともにKグループとの共同投資の交渉に携わった責任者であったfも、他社間海外取引の存在や、S、X及びPのいずれのエンティティの名前についてもその存在について、誰からも聞いたことすらなかった。

本件各業務委託契約に基づき原告らがそれぞれ保有する資産の資産管理業務の事務委託を行っていたr(N及びL)の対象資産は全て国内にあるので、両社の業務は、基本的には国内の活動と情報のみで業務が完結するという極めてローカルな(純粋国内の)業務である。

したがって、rがその業務の遂行上、海外の投資資産に投資するKグループの投資会社を顧客とすることはなく、かつ、rの顧客ではないKグループの関係会社や海外にある投資資産についての情報、さらにはrの顧客ではないKグループの関係会社間の取引について情報を収集し、そのような情報に接することは、業務の性格上あり得ない。

顧客がどのように資金調達をするかなど投資対象資産に直接関係のない業務はrの業務ではないし、ましてや両社の顧客でもない海外の会社がいかなる取引を海外で行うかはおよそrの業務とは関係がない。

また、NもLも、海外にあるqグループの関係会社(これには、O及びその親会社であるYという米国のエンティティが含まれる。)がそれぞれの顧客や、かかる顧客が海外で投資している資産について有しているであろう海外のデータにアクセスすることは電子的であれそれ以外の方法であれ、できないようにする情報遮断措置が講じられており、実際にもrは、日本の顧客のために独自の(つまり、海外のqグループとは別の)ソフトウェア等を開発して対応していた。

被告の主張に対する反論

Kが海外で締結していた契約により本件各分配金の請求権がSに帰属するとの主張について

そもそも、課税は、私法上の法律関係に即して行われるのが原則である以上、被告の主張するように、契約書どおりに当事者の合意を認定するのではなく、契約書の内容とは異なる当事者の合意を認定するためには、少なくとも、当事者の選択した法形式による契約が不存在であること又は当事者の真の効果意思がけんけつし若しくは虚偽表示により、当事者の選択した法形式による契約が無効であることを主張・立証する必要がある。

しかしながら、被告は、ただ、他社間海外取引は複雑、う遠であるなどという意味不明かつ曖昧な主張をしているだけであって、本件各取引確認書及び本件各借入契約Ⅰが不存在であること又は本件各取引確認書及び本件各借入契約Ⅰが無効であることを基礎付ける具体的な主張・立証を何一つ提出できていない。

本件各取引確認書については、変動キャッシュフローである利益分配金の収入の99%相当額と固定キャッシュフローである本件各借入契約Ⅰ上の利息(金利は固定で年3.5%)及び費用相当額をスワップする変動・固定のスワップ契約であることは、本件各取引確認書の規定上明らかであり、本件各取引確認書のどの規定をみても、それ以外の金員が当事者間で支払われる旨の規定は全くなく、Kが本件各匿名組合契約に基づいて配分を受けた匿名組合損失をSに引き受けさせる(言い換えると、SがKに対してこの損失相当額を支払う)旨の規定は、本件各取引確認書のどこにも存在しない。

加えて、本件各取引確認書の条項の中には、①KがSに対して、Sが本件各匿名組合契約上の匿名組合員の権利を直接的に原告らに対して行使させることを許容するような規定も、②SがKに対して、本件各匿名組合契約に基づいてKが原告らに対して有する全部又は一部の権利の行使を制約するような規定も、一切存在しない。

したがって、本件各取引確認書の内容をもって、KとSとの間における本件各匿名組合契約の契約上の地位又は権利の一部譲渡の合意と理解することは不可能である。

また、次に、本件各借入契約Ⅰの各契約書を精査しても、Kが本件各匿名組合契約に基づいて損失の配分を受けた場合の規定や、KがSに対して本件各匿名組合契約上の匿名組合員としての契約上の地位の一部譲渡、あるいは同契約上の権利を譲渡する旨の合意に該当するような規定は存在しない。

本件各借入契約Ⅰの各契約条項の中にも、KがSに対して、Sが本件各匿名組合契約上の匿名組合員の権利を直接原告らに対して行使させることを許容するような規定は一切存在しない。

そして、本件貸付債権譲渡契約及び本件各借入契約Ⅱにも、①KがSに対して本件各匿名組合契約上の匿名組合員としての契約上の地位の一部譲渡、あるいは同契約上の権利を譲渡し、義務を引き受けさせる合意、②KがSに対して、Sが本件各匿名組合契約上の匿名組合員の権利を直接原告らに対して行使させることを許容するような規定、③SがKに対して、本件各匿名組合契約に基づいてKが原告らに対して有する全部又は一部の権利の行使を制約するような規定は、いずれも一切存在しない。

以上のとおりであるから、被告が主張する本件の一連の契約及び取引においてKは利益が出た場合の利益分配金を取得せず損失が出た場合のリスクを負うこともないとの主張は、契約の内容に反していることは明白である。

また、もし、本件各取引確認書により法的にもSが本件各分配金の請求権を取得したものというべきであるとの被告の主張が、①Sは本件各取引確認書により本件各匿名組合契約の匿名組合員たる地位の一部譲渡を受けたという趣旨であるとすれば、この被告の主張は、上記で明らかにした本件各取引確認書の内容(すなわち、本件各取引確認書は、法的にも経済的にも本件各匿名組合契約上の匿名組合員の損失負担リスクをKからSに移転させるものではないという内容)と矛盾し、さらに、②本件各取引確認書及び本件各借入契約等を併せて評価したとしても、そのような本件各匿名組合契約の匿名組合員たる地位の一部譲渡を規定するものではない以上、被告の主張はこれらの二つの契約の内容とも矛盾することは明白である。

被告が主張するところの「通常の」金利スワップ取引とは、「特定の想定元本」に対して「金融市場で成立している変動金利」を利用して計算される変動キャッシュフローと上記と同じ金額の想定元本に対して「金融市場で成立している固定金利」を利用して計算される固定キャッシュフローを交換するという、通常プレインバニラと呼ばれる最も単純な金利スワップ取引を指しているものと思われるが、そもそも、原告らは、本件各スワップ取引が、プレインバニラの金利スワップ取引であるとは主張していない。

そもそも、スワップ取引とは、それぞれ別々に特定されて計算される、一定期間における二種類のキャッシュフローの交換であり、プレインバニラと呼ばれる単純な金利スワップだけがスワップ取引ではない。

また、スワップ取引においては、契約当事者間の合意が成立すれば、どのようなキャッシュフローでも交換可能である。

また、スワップ取引においては、想定元本を特定して交換されるキャッシュフロー計算を行うこともあれば、資産を特定して交換されるキャッシュフロー計算を特定することもあることはいうまでもない。想定元本の規定がなければ金利スワップ取引ではないというのは、金利スワップ取引なるものをプレインバニラのみに限定して認めるというわい小化された誤った独自の見解でしかない。

スワップ取引として必要十分な規定がなされているかは、スワップ取引の契約書において規定されている内容によって交換の対象となるキャッシュフローが正確に計算可能か否か、スワップ取引の条件が曖昧さを残さない程度に規定されているかであって、交換の対象となるキャッシュフローが想定元本を用いて計算されることになっているか否かがその取引がスワップ取引(あるいは金利スワップと同種のスワップ取引)に該当するか否かを決定するのではない。

したがって、プレインバニラの金利スワップ取引に該当しない金利スワップ取引あるいはアセット・スワップ取引において、そもそも合意されている内容だけでは交換の対象となるキャッシュフローが明確に特定できず、計算ができない、あるいはスワップの履行条件が不明確であるなどの問題がない限り、当該取引がスワップ取引ではなくなるということにはならない。言い換えると、本件各スワップ取引における合意の内容がスワップ契約であるかは、2つの異なるキャッシュフローを交換することを目的とする契約がなされたか、その交換条件及び交換の対象となるキャッシュフローの金額の特定が必要十分な程度に明確になされている契約か否かによって決まるのであるが、本件スワップ取引における合意の内容は、被告が証拠として提出した書面に記載されている条項のみで、スワップ契約として必要十分な程度に明確である。

N及びLが「本件の投資スキーム」の全体像を認識していたとの主張について

被告が主張する「本件の投資スキーム」が具体的に何を指すのかは、全く明らかではないが、本件の投資スキームの全体像なるものが仮に存在していたとしても、L及びNは、Kグループが日本において行った投資対象資産に関するサービスを提供する会社であって、日本における業務上そのような情報を知る必要もないし、そのような情報にアクセスすることもできなかったのであるから、L及びLの業務とは何の関係もないし、Kグループの関係会社が海外で行う取引については、現に、他社間海外取引のこともS、X及びPのことも知る立場にはなく、現実に知らなかった。

仮にYが当該他社間海外取引の計算代理人であったことが事実であるとしても、Kはrの顧客ではなく、rは海外のrが有する顧客データにアクセスすることもできなかったのであるから、被告が主張するようにNやLが他社間海外取引を知っていたことを示すことにはなり得ない。

原告らの資産管理運用の業務委託先をN及びLにするよう推薦し、決定したのは、丁でも乙でもないし、Kグループ側の誰かでもなく、原告らをSPCとしてその業務全般を受託していたFであった。また、Fがrを原告らの業務委託先に選定したのは、H生命案件の共同投資者であり、同じ投資リスクを負担しているKグループと強い関係にあるサービサー等であれば、共同投資家の利益を最大限上げるために、熱心に資産管理業務を遂行することが期待できること、Fの責任者であったfは、rのサービシング業務の質の高さもよく理解していたことなど、F独自の経済合理性に基づく検討の結果なされた判断によるものであり、その事実は、もっぱらFがその点をE関係会社側にとっては「自らのビジネス上好ましい強み」として評価したことを意味するのであって、経験則に照らしでも、丁や乙が、あるいはそれ以外のKグループの関係者が、Kグループの重要な内部情報を、日本に所在する資産の管理運用等を業とし、海外の情報を知る立場にも知る必要もないrに開示することの理由にはおよそなり得ない。

qグループがKグループを最大の顧客とする資産管理運用等のサービスを行うことを業とするグループ企業であり、そのような理由でFがqグループに属するL及びNを原告らの契約相手として選定したことと、これら2社が「本件の投資スキームの全体像を認識していたとみるのが自然」(これは、とりもなおさず、他社間海外取引について認識していたとみるのが自然、という意味にほかならない。)であるという被告の主張の間には、明らかな論理の飛躍がある。

被告は「丁→Kグループを支配→qグループを支配→Yを支配→L及びNを支配→ゆえにL及びNは丁又はKグループの関係会社間の取引やスキームの全体を知っていたはず」という構図を描き、被支配者は、より上位の支配者の認識と情報を全て開示され共有しているはずであるという前提で論理を展開しているが、通常のグループ企業内あるいは同一グループに属さない場合であっても取引関係が強い企業間では、特定の個人が役員の兼任をする場合に、業務上必要な範囲を超えて一方企業が保有している情報を他方企業に提供すること、ましてや、一方企業にとっての顧客情報等の企業秘密であって、他方企業の事業活動と全く無関係な情報を提供することなど、およそ企業活動、事業活動上の常識に反するから、そもそも、その前提自体が経験則に反し、正しくない。

また、被告は、「本件各投資メモによれば、一連の契約関係が、Kグループにおける本件各匿名組合契約に係る投資スキームとして構築されたと認められる」などと主張するが、本件各投資メモには、匿名組合契約の投資の目的や、資産管理者、期待される収益等についての記載はあるものの、本件各借入契約等や、本件各取引確認書に関する記載は何ら存在しないから、本件各投資メモが、本件各借入契約等や本件各取引確認書について丁の承認があったことの根拠になるとする被告の主張は失当である。

本件各業務委託契約においては、L及びNがそれぞれ丁の支配を受けなくなった場合、すなわち丁が直接的又は間接的にL及びNの50%以上の議決権を保有しなくなった場合には、原告らは、アセット・アドバイザリー契約を終了させることができる旨の定めがあるが〔7(c)項(v)〕、この条項は、共同投資家が当該サービサー等を第三者に売却するなど支配権に変動があった場合に、当該サービサー等が共同投資家と同じ利害関係を持たなくなる結果、Eのための熱心な業務遂行が期待できなくなるおそれがあるため、そのような場合にはサービサー等を交替させる権利を原告らが留保しておくべく、Eが用意したSPCのサービサー等として共同投資家グループ内のサービサー等を起用する場合には、E関係会社側が負うこととなるビジネス・リスクを回避するための手段としてFが通常意識的に盛り込んでいた条項であった。

このように、本件各業務委託契約は、独立当事者間の合理的かつフェアな交渉によって条件が決まり、契約がなされたものである。

L及びNが本件各分配金はSに帰属することを認識していたことが認められるという主張について

そもそも、本件各匿名組合契約の原告らの相手方当事者として原告らに対し本件各分配金の請求権を有する者がSであるという被告が主張する私法上の法律関係を基礎付けるためには、原告らにおいてSを本件各分配金を支払うべき相手方当事者として契約を有効に成立させる内心的効果意思が必要であることは民法理論上疑いのないところであり、かかる内心的効果意思は、「認識できたはず」などという曖昧かつ不確定な主観的状態では到底基礎付けることができないから、原告らの認識可能性をいう被告の主張は、そもそも主張自体失当である。

本件各匿名組合契約の5.4項は、源泉徴収すべき税額がある場合には徴収し出資者に通知するということを定めている規定であって、営業者である原告らに被告主張のような事前確認義務を負わせる規定ではない。

また、原告らは、既に本件各匿名組合契約をGからKに対して譲渡した旨の正式の本件各譲渡通知兼承諾書を受領し、その文書に署名していた上、本件各処分対象期間における最初の利益分配金の支払前にKから本件各租税条約届出書を受領していたところ、原告らのみならず、原告らの業務全般を事務受託していたFにとってみれば、自己又は自己のグループ会社でもない第三者である私法上の契約の相手方当事者(すなわちK)から、適式に作成された租税条約届出書の提出をタイムリーに受けているにもかかわらず、あえて源泉徴収を行えば、当然に相手方当事者との関係では債務不履行の責めを負うというリスクがあるし、逆に第三者をして本来は租税条約の適用がないことを知りながらあえて当該第三者に虚偽の租税条約届出書を提出させて源泉徴収しないこととしたとすれば、それは源泉徴収義務違反を問われるリスクを負う行為であるのであるから、FがあえてE傘下のSPCである原告らにそのようなリスクを負わせるような行動をとるべき理由は何もない。

仮に、原告らが、本件各租税条約届出書が提出されていたにもかかわらずあえてL及びNに対して利益分配金の帰属先を尋ねるようなことを行っていたとしても、両社もまたKこそが本件各匿名組合契約の相手方当事者であり、利益分配金の債権者であると理解していたことは既に明らかはしたとおりであるから、本件各分配金の請求権の帰属先がSであると回答したはずもない。

したがって、原告らが、本件各分配金の請求権がSに帰属することを認識できた可能性は、一切存在しないといわざるを得ない。

被告は、本件各匿名組合契約の9.1項が同契約の一部譲渡を禁止していることを看過し、誤った契約解釈を前提とする主張に終始していること

本件各匿名組合契約の9.1項は、【ルール1】匿名組合員による本件各匿名組合契約上の地位ないし権利義務の一部譲渡については、営業者の事前の書面による同意及び外部カウンセルの意見書がない限りこれを禁止し、【ルール2】他方、匿名組合員による本件各匿名組合契約上の地位ないし権利義務の全部譲渡については、原則としては営業者の事前の書面による同意及び外部カウンセルの意見書がない限りこれを禁止するものの、その例外の一つとして、匿名組合員の関係者(単数)への契約上の地位ないし権利義務の包括譲渡を営業者の事前の書面による同意及び外部カウンセルの意見書なしに認める、という内容を定めているのである。

本件各匿名組合契約の9.1項の英語原文第1文の本則規定部分は、匿名組合員に対して、同契約上の地位の譲渡についても同契約上の権利義務の譲渡についても、全部譲渡か一部譲渡かを問わず、相手方当事者(つまり原告ら)の事前の書面による同意と所定の内容の外部カウンセルの意見書がない限り禁じる旨の合意である。

英語原文第1文のただし書は、英語原文第1文の本則規定部分によって課された契約上の地位ないし権利義務の全部譲渡及び一部譲渡の禁止に対する例外を定めており、このただし書によって、匿名組合員の関係者(”an”等の冠詞があることに示されているとおり単数に限られる。)に対する譲渡がその例外の一つとされている。英語原文第2文は、譲渡がなされた場合においては、譲受人が「本契約に基づく匿名組合員の全ての権利を承継する」ことの確認を義務づける内容であることから、英語原文第1文のただし書による関係者(単数)への譲渡についても、譲受人(すなわち、1名の関係者)が契約上の地位の譲渡であれ、契約上の権利義務の譲渡であれ、全ての権利を包括的に承継することの確認が義務付けられていることが分かる。

したがって、英語原文第1文のただし書に基づく関係者(1名)への譲渡とは、1名の譲受人が契約上の権利を包括的に承継するもの(言い換えると、包括的な承継である契約上の地位の譲渡あるいは権利義務の包括譲渡のみ)でなければならない。すなわち、英語原文第1文のただし書は、英語原文第1文の本則規定部分による契約上の地位ないし契約上の権利義務の全部譲渡禁止に対する例外を認めた規定ではあるが、一部譲渡禁止に対する例外を認める規定ではないことは文理上明白である。

本件各匿名組合契約の準拠法は日本法であるが、契約の言語は英語である。

したがって、契約条項の意味については、英語原文の意味を探求しなければならないことはいうまでもない。本件各匿名組合契約を締結したGのヴァイス・プレジデントであり、かつ、自身も米国において法曹資格を有する弁護士である戊も、この本件各匿名組合契約の9.1項の英語原文の意味について、まさに上記に述べたとおりに理解しており、本件各匿名組合契約の9.1項の英語原文の意味としては、上記以外の解釈を採り得る余地は全くない。

本件各匿名組合契約の9.1項第2文における「hereunder」とは、「under thisAgreement」(本契約に基づく)以外の意味ではあり得ず、かつ「TK Investor」のように大文字で表記される契約中の定義語(Kを意味する定義語である。)をわざわざ「hereunder」で修飾する必要性は全くないことから、「hereunder」は「all rightsof TK Investor」、つまり「TK Investorの全ての権利」を修飾していること(したがって、文字どおりに訳すと、「本契約に基づく、TK出資者の全ての権利」ということになる。)は明白である。以上の英文解釈の基本も踏まえると、本件各匿名組合契約の9.1項第2文は、譲渡(Transfer)がなされた場合に新譲受人が本件各匿名組合契約に基づく匿名組合員の全ての権利を承継すること(つまり、全部譲渡)を意図した英文であることは明らかである。

そして、本件各匿名組合契約の9.1項第2文は同第1文に基づいてなされる全ての譲渡(Transfer)に適用されると解するのは極めて合理的であるから、仮に同第1文により一部譲渡がなされることが許容されているということであれば、全部譲渡の場合にだけ同第2文に従って確認証書を交付すればよく、一部譲渡の場合には確認証書の交付は不要であるという解釈となろうが、かかる解釈は、あまりにも不合理であって採り得ない。

加えて、本件各匿名組合契約がそもそも匿名組合員は1名であることを前提とした規定しか置いていないことも考慮すれば、本件各匿名組合契約の9.1項第2文は同第1文に基づいてなされるすべてのTransferに適用されると解釈するのは極めて合理的でもあるし、同第1文自体、この解釈と整合的に解釈することができる。

GからKへの本件各匿名組合契約の全部譲渡には原告らの事前承諾が不要であったが、それは、GからKへの譲渡が、KというGの関係者1名に対する匿名組合契約上の地位の譲渡ないし権利義務の包括譲渡(全部譲渡)であったからである。被告が主張しているKからSへの本件各分配金の請求権の譲渡は、一部譲渡であることは明白であるから、仮にそのような一部譲渡がなされたという被告の見解に立ったとしても、そのような一部譲渡は、上記のとおり、本件各匿名組合契約の9.1項によって禁止されており、原告らが同意したこともないのであるから無効である。

ちなみに、合意により契約や権利義務の一部譲渡を禁じることは決して珍しいことではない。その理由は、契約や権利義務の一部譲渡がなされると、債権者や債務者が複数になることにより新たに生じる問題を契約上明確にするための合意が必要になることも多く、例えば、ある債権の債権者が一部譲渡によって複数になると、債務者としても、誰を相手にどのように債務を履行すれば債務不履行に問われないことになるのかが不明確になりやすいからである。

また、GからKへの本件各匿名組合契約上の地位の譲渡ないし権利義務の包括譲渡が同契約の9.1項の規定を遵守して行われたことは証拠上明らかである一方で、Kが、その後に同項に基づくKの関係者への譲渡を行ったことはなく、そのような譲渡がなされたことを示す証拠は一切ない。

仮に一部譲渡がなされたとすると、本件各分配金の支払時に原告らが源泉徴収義務を負うか否か、負う場合には、全額について源泉徴収する義務を負うのか、それともその一部についてのみ源泉徴収する義務を負うのかは原告らひいてはE関係会社にとって極めて重要な問題であるから、営業者の事前の書面による同意及び外部カウンセルの意見書等を要求している9.1項が規定どおりに厳格に運用されるべきところ、KからSへの一部譲渡に関する意見書も、それについての本件各匿名組合契約の9.1項の第2文に基づく原告による確認証書の交付の要請も存しない。

原告らも、Kグループ内で本件各匿名組合契約に基づく匿名組合員としての権利を有する者が交代することを予定していたとの主張につい

被告は、原告らは、Kグループ内で「本件各匿名組合契約締結後に匿名組合員が変更されることも当然予定していた」などと主張するが、そもそも、原告らは、被告が主張しているような本件各匿名組合契約の一部譲渡についてKから一度たりとも(書面か否かを問わず、また事前か事後かを問わず)同意を求められたこともなければ、何らかの通知を受けたこともない上、原告らがKから他の関係者に対する本件各匿名組合契約上の権利の一部譲渡について(書面か否かを問わず、また事前か事後かを問わず)同意を与えたなどという事実は、明示か黙示かを問わず一切なく、そのような一部譲渡について何も知らされたことがない。

被告は、「Kグループに属する者であれば、契約書で特定されている者以外の者を匿名組合員の権利を有する者と認定したとしても、原告らの意思に反することにはならない」などと主張するが、相互に非関連の独立当事者間で締結された契約において合意されている譲渡制限規定である本件各匿名組合契約の9.1項において、一部譲渡については匿名組合契約の営業者の事前の書面による同意及び外部カウンセルの意見書の取得なき限り禁じられていることは、上記で主張したとおりである。

さらに、念のためにいうと、原告らはSというエンティティの存在を知らなかったのであるから、原告らが、自身がSとの間で契約を締結したと認識していることなどあり得ない。

なお、上場企業であるのみならず、金融機関を中核としているEが、非関連の独立当事者であるKグループとの契約である本件各匿名組合契約を結ぶに当たり、Eが支配している原告らにわざわざ所得税法に違反して、本件各匿名組合契約に基づく本件各分配金は、日愛租税条約の適用がない者(すなわち、S)に対する支払であることを知りながら、所得税法上なすべき源泉徴収を行わず、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金全額の支払がKに対してなされたかのように見せかけて行わせることをKグループと合意し、かつ、原告らが本件各分配金について源泉所得税を徴収しなかった結果として、Eの一員である原告らが延滞税、加算税などを賦課され、もって金銭的な意味でも、またレピュテーションという意味でも、多大な損害を被ることになるリスクをあえて引き受けた上でKグループが構築した取引に加担することが自らの利益になることは、文字どおり何もない。それにもかかわらず、Kグループにいわば盲目的に従い、自ら不利な結果(法令違反、経済的損失、レピュテーションリスクなど)を甘受するなどということは、社会通念上も、経験則上もおよそあり得ないことである。

KがKグループ内のファイナンスセンターとして機能していたという情報を原告らが知ったのは、原告ら第2反論書を東京国税不服審判所に提出するに当たり、原告らがKから事実関係に関する情報を収集した結果初めて知ったものである。同反論書における原告らの主張は、Kの事業は、Kグループ内において、資金調達だけではなく、効率的なキャッシュマネジメント及び資金運用を図ることにあるという趣旨のものであり、効率的なキャッシュマネジメントや資金運用を図ることの中には、金融資産への投資活動と投資資産の保有も含まれると理解する方が自然であるから、ファイナンス(資金)の手当てが完了次第、匿名組合員の地位はKからKグループに属する他の事業体に変更することが当然予定されていたとの被告の主張は、被告独自の誤った思い込みでしかない。

国税庁の主張

本件各分配金はSに帰属するものであり、Sの所得税法上の「国内源泉所得」に当たること

事実認定の在り方租税法は、種々の経済活動ないし経済現象を課税の対象としているところ、それらの活動ないし現象は、第一次的には私法によって規律されているものであるから、租税法律主義の目的である法的安定性を確保するためにも、課税は、原則として、私法上の法律関係に即して行われるべきであるとされている(金子宏「租税法」第17版・115ページ)。

すなわち、課税は、それが私法上の法律関係としてどのような内容で成立し、いかなる効力を生じているかに即して行われるべきである。私法上の取引行為は、私的自治の原則上、取引行為の内容や契約類型の選択等につき、それが公序良俗に反していたり、不当な目的を実現するために濫用されるものでない限り、当事者の自由な意思に委ねられている。

しかしながら、契約書等の記載が不完全な場合等には、契約書等の外形的資料に記載されていない隠された当事者の合意内容がどのようなものであるか、あるいは表示行為から推測される効果意思と真の内心的効果意思との異同を明らかにする必要がある場合もあり得る。

これは、当事者の真意の所在を明らかにするという事実認定の問題であって、これに即して課税要件の充足を検討するものであるから、意思表示の合理的解釈の見地からしても当然に許されるものであり、租税法律主義に反するものではない。そして、選択された契約類型における「当事者の真意の探求」は、当該契約類型や契約内容自体に着目し、それが当事者が達成しようとした法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、う遠なものであって、到底その合理性を肯認できないものであるか否かについて、客観的な見地から判断して行われるべきものである(名古屋地方裁判所平成17年12月21日判決・判例タイムズ1270号248頁、その控訴審である名古屋高等裁判所平成19年3月8日判決・税務訴訟資料257号10647順号、名古屋地方裁判所平成16年10月28日判決・判例タイムズ1204号224頁、その控訴審である名古屋高等裁判所平成17年10月27日判決・税務訴訟資料255号10180順号参照)。

本件各取引確認書の解釈

SとKとの間で取り交わされた本件各取引確認書は、いずれもスワップ契約に基づき具体的な取引条件を定めたものであるから、スワップ契約という法形式を採用していることが認められるところ、具体的に何と何をスワップ(交換)するのか明確に定められていないが、本件各取引確認書に記載されている「支払い」及び「定義」の内容によれば、本件各匿名組合契約に基づくKの収入の99%(費用控除後のもの)を意味する「純受取額」と、本件各借入契約Ⅰに基づきKが負担する支払利息及び費用を意味する「債務返済額」を比較し、「純受取額」が「債務返済額」を上回る場合はKがSに対しその差額を支払い、「債務返済額」が「純受取額」を上回る場合はSがKに対しその差額を支払うこととされているので、いずれもKにおいて生じる上記の「純受取額」(収入)と「債務返済額」(支出)を総合して、利益が出た場合はSがこれを取得し、損失が出た場合はSがこれを負担するということになる。

すなわち、結局のところ、Sが、上記「純受取額」に係る収入を得るとともに、上記「債務返済額」に係る支出をすることにほかならず、①KがSに対し上記「純受取額」の定義に従って求められる金額を支払い、②SがKに対し上記「債務返済額」の定義に従って求められる金額を支払うことと同じである。スワップ取引は、一般に将来のキャッシュフローを交換する取引であり、通常は価値の異なるキャッシュフローを交換する合意が成立することはないので、少なくとも約定時点で価値がほぼ等しいものと評価されるキャッシュフローを交換の対象とすることで取引が成立すると考えられるところ、本件各取引確認書を取り交わすに当たって、SとKとの間で双方のキャッシュフローの価値が等価であるか否かの検討等が行われた形跡は認められず、等価であったのか不明である。

そうすると、本件各取引確認書は、通常のキャッシュフローの交換を目的としたスワップ契約とは認め難く、Kが、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金請求権(上記の「純受取額」を発生させる権利)をSに取得させるのと引換えに、本件各匿名組合契約の出資持分を取得するためにPと締結した本件各借入契約Ⅰに係る支払利息及び費用の合計額の支払義務(上記の「債務返済額」を発生させる債務)をSに負わせることを内容とするものともみることができ、本件各取引確認書に記載されている文言のみをもっては、正確な契約解釈をすることは困難である。

したがって、本件各取引確認書によるスワップ契約の内容を正しく解釈するには、本件各取引確認書に記載されている文言のみならず、関連する契約内容等の事実関係をも考慮して、当事者の合意内容がどのようなものであるか、あるいは表示行為から推測される効果意思と真の内心的効果意思との異同を明らかにするなどして、当事者間の合意内容を探求する必要がある。

金利スワップの契約書(取引確認書)においては、通常、変動キャッシュフロー及び固定キャッシュフローを算定するために、基本的な事項として、①想定元本、②契約日・満期、③固定金利・変動金利などが規定されるものであり、これらについては、金利スワップの契約書におけるいわば必須の規定事項といえるものである。

本件スワップ契約2及び同3や本件各取引確認書においては、金利スワップの基本的な規定事項である変動キャッシュフロー及び固定キャッシュフローの算出根拠となる想定元本の規定がなく、スワップ期間の規定もなければ、変動キャッシュフローの計算に不可欠な金利の規定もない(本件各取引確認書に固定金利の記載はない。)。

仮に、本件各借入契約Ⅰの元本相当額が想定元本に当たると解するとしても、スワップ期間や金利の規定がない以上、やはり、金利スワップ取引における必須の事項が規定されていると解することはできない。これらのことからすれば、金利スワップ取引の根幹に関わる重要な項目が規定されていない本件スワップ取引は、金利スワップ取引ではなく、極めて特殊な取引であり、通常の取引ではあり得ないものである。

さらに、SとKが本件各取引確認書を取り交わすに当たって、双方のキャッシュフローの約定時点での現在価値が等価であるか否かの検討等が行われた形跡は認められず、それが等価であったのかは不明であったにもかかわらず、これを交換していることからすれば、本件各スワップ取引が、通常、市場で成立する金利スワップとは異なり、契約当事者間に存在する個別の事情を前提に行われた特殊な取引であったというべきである。

本件の一連の取引が、法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、う遠な法形式を採用していることa 本件借入契約Ⅰ-1及びⅡ-1によれば、本件出資持分譲渡契約C1及び同D1に必要とされる資金が、同じ平成13年6月1日付けで、Q及びRからPを経由してKへ貸し付けられており、本件借入契約Ⅰ-2及びⅡ-2、本件借入契約Ⅰ-3及びⅡ-3によれば、本件出資持分譲渡契約D2及び同C2に必要とされる資金が、同じ同年8月29日付け及び同月30日付けで、SからPを経由してKへ貸し付けられている。

実際の資金の流れについては不明ではあるものの、本件各借入契約Ⅰ及び本件各借入契約Ⅱのとおりに資金が移動していたとすれば、同じ日に196億円余、29億円余、7億円余という多額の資金がデラウェア州及びバミューダからルクセンブルクを経由してアイルランドに移動していることになるが、にわかには信じ難く、そのようにあえてPを介在させた上で資金を移動させることに何ら合理的な理由は見当たらない。

また、Kは、取得費用の大部分(99%)を借入れにより調達して本件各匿名組合契約の出資持分を取得しながら、平成13年6月1日付けで本件出資持分譲渡契約C1及び同D1を締結すると同時に本件旧取引確認書を、同年8月29日付けで本件出資持分譲渡契約D2を締結すると同時に本件取引確認書2を、同月30日付けで本件出資持分譲渡契約C2を締結すると同時に本件取引確認書3をそれぞれ取り交わし、本件各匿名組合契約に係る投資の期待収益率が25%程度と極めて高く評価されていた本件各匿名組合契約の出資持分(利益分配金を受ける権利)を取得したと同時に、本件各取引確認書に基づくスワップ取引によって、その大部分(99%)に相当する本件各分配金を受領する権利をSに譲渡している。

このような取引は極めて不自然かつ不合理な取引であるといわざるを得ない。

そして、Sは、①本件借入契約Ⅱ-2及びⅡ-3による貸付けと本件取引確認書2及び同3によるスワップ取引によって、P及びKを通じて本件出資持分譲渡契約D2及び同C2に係る取得費用の99%を拠出するとともに、本件匿名組合契約D2及び同C2に基づく利益分配金の99%(費用控除後のもの)を取得し、②本件貸付債権譲渡契約と本件旧取引確認書の解約及び本件取引確認書1によるスワップ取引によって、本件出資持分譲渡契約C1及び同D1に係る取得費用の99%の拠出者になるとともに、本件匿名組合契約C1及び同D1に基づく利益分配金の99%(費用控除後のもの)を取得することになる。

本件各借入契約Ⅰによると、借主であるKは、指定の口座に全てのキャッシュフローを預け入れることとされ(3条2項)、各支払期日に当該口座に入金されている金額を限度として、元利金等の債務の支払をすることとされている(同条3項)。そうすると、Kは、上記指定口座に入金される本件各匿名組合契約に基づく利益分配金及び出資金返還額を上限として債務の弁済をすれば足り、本件各匿名組合契約に係る事業において損失が生じるなどして利益分配金及び出資金返還額が元利金等の支払に不足した場合は、不足分の弁済をしないのであるから、投資のリスクを負わず、そのリスクは貸主が負うことになる。

このことは本件各借入契約Ⅱにおいても同様であるから(3条)、結局、本件各匿名組合契約の出資持分の99%に係る投資のリスクは、その取得費用の実質的な拠出者であるSが負うことになる。

また、本件各借入契約Ⅰ及び本件各借入契約Ⅱによれば、KからPに対し利息が支払われ、これとほぼ同額がPからSに対し支払われることになるものの、本件各取引確認書によって、本件各借入契約Ⅰに係る利息相当額は本件各分配金とスワップ(交換)されているので、結局、Sの手元には本件各借入契約Ⅱによる貸付金に係る受取利息が残らず、本件各借入契約Ⅰの借主であるKに利息相当額が戻る仕組みになっている。

これらを総合すると、Sは、本件各匿名組合契約の出資持分の取得費用の99%を負担し、必要な費用を負担した上で、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%(本件各分配金)を取得するとともに、当該出資に係る投資のリスクを負っていることになり、経済的な観点から見ると、Sが自己資金により取得費用を拠出して、直接本件各匿名組合契約の出資持分の99%を取得し、本件各分配金の支払を受けるのと何ら異なるところはない。これに対し、Kは、本件各匿名組合契約の出資持分の99%については、取得費用を実質的に負担しておらず、利益が出た場合の利益分配金を取得せず、損失が出た場合のリスクを負うこともないのであり、経済的な観点からみて、Kが取引に介在することに積極的な意義を見いだすことはできない。

そして、Kを介在させずにSが直接的に利益分配金請求権を取得することが困難であった事情は何らうかがわれない。

以上の事情に加え、本件各出資持分譲渡契約、本件各借入契約Ⅰ、本件各借入契約Ⅱ及び本件各取引確認書における契約当事者はいずれもKグループに属する事業体等であり、本件各投資メモによれば、一連の契約関係が、Kグループにおける本件各匿名組合契約による事業に対する投資スキームとして構築されたと認められることも考え併せると、これらの一連の取引は、スワップ契約という法形式を採用しているものの、Sが本件各匿名組合契約の出資持分の99%を取得する費用を負担し、本件各分配金の支払を受けるために行われたものというほかない。

このように、一連の取引における当事者の真の意図・目的は、Sに本件各分配金を帰属させることにあったと認められるが、法的な観点からも経済的な観点からも、当該目的のために、Kが一連の取引に介在して、契約関係や資金の流れを複雑にしてまで本件各匿名組合契約に基づく出資持分の全部を取得することに合理的な理由は見当たらず、極めて不自然かつ不合理な取引であるというほかない。f 投資ファンドのビジネスにおいては、獲得した運用益に対して課税を受けないこと又は課税を受けるとしてもできる限り最小化することも、重要な投資判断の要素とされている。これを本件についてみると、日愛租税条約23条において、「その他所得」については居住地国のみで租税を課することができると定められているため、日本法人等を営業者、アイルランド法人を匿名組合員とする匿名組合契約によって生じた利益で、アイルランド法人が我が国の営業者から分配を受ける利益については、二重非課税の利益が生じ得るところ、本件各投資メモにおいて言及されているとおり、仮に、Kが本件各匿名組合契約に基づく利益分配金(100%)の支払を受ける場合には、日愛租税条約23条の規定により、我が国の所得税は課されない。

そして、Kが当該利益分配金のうち99%相当額をSに支払えば、アイルランドにおいては、残り1%相当額に対してのみ課税され、また、バミューダは、いわゆるタックス・へイブン国であり、所得に対する租税が存在しないから、Sが受け取った当該利益分配金の99%相当額の全部に対して課税されない。

そうすると、結局のところ、当該利益分配金のうち99%相当額については、日本、アイルランド及びバミューダのいずれの国においても課税されないことになる。

上記の点に照らせば、本件の投資スキームは、Kグループが、本件各匿名組合契約の出資持分の取得費用の99%を負担した上で、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%(本件各分配金)を取得しながらも、本件各分配金について日愛租税条約23条の適用を受けることにより我が国における課税を免れつつ、アイルランド及びバミューダの税制に基づき、それらの国々における課税を極小化することを企図してスワップ契約という法形式を採用して構築したものと認められる。そして、本件の一連の契約及び取引において、Gは、本件各投資メモで予定されていたとおり短期間のうちに本件各匿名組合契約の出資持分をアイルランド法人であるKに譲渡しているが、Kは、本件各匿名組合契約の出資持分の99%については取得費用を実質的に負担しておらず、また、利益が出た場合の利益分配金を取得せず、損失が出た場合のリスクを負うこともないのであるから、租税を極小化させること以外にKを一連の取引に介在させる合理性や必要性を見いだすことができず、SがKを介さずに直接利益分配金請求権を取得することが困難であったことをうかがわせる事情もない。

以上のとおり、本件の一連の契約及び取引は、丁を中心とするKグループによって法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、う遠な法形式を採用して実行されたものであり、その真の目的は、租税回避を図ることにあるから、到底合理性があるとは認められない。

KがKグループに属する他の事業体に対し本件各匿名組合契約の匿名組合員としての権利を譲渡することは原告らの意思に反するものではなく、原告らの承諾も要しないから、原告らの主張は、契約当事者の合理的意思解釈として、本件各分配金がSに帰属すると解釈することの妨げになるものではないこと

本件各匿名組合契約の9.1項ただし書によれば、Kは、営業者である原告らの事前の書面による同意(承諾)なしに、Kの関係者であるKグループの他の事業体に対して、本件各匿名組合契約の匿名組合員としての権利を譲渡することができるのであるから、Kが原告らの事前の同意なしに本件各分配金の請求権をKグループに属するSに譲渡したとしても、当該譲渡が無効とされることはない。

したがって、KからSへの本件各分配金の請求権の譲渡は、本件各匿名組合契約に照らしても有効である。本件各匿名組合契約の9.1項の英語原文の第2文は、同第1文を受けて、「Furthermore, in the event of such Transfer(被告指定代理人訳:さらに、かかる譲渡がなされた場合には)」と規定し、その場合に匿名組合契約の営業者が行うべきことを規定するという構造になっており、同第1文の文言に特に不明確な点もないことからすれば、同第2文の解釈は、同第1文の解釈を前提としてなされるべきであり、原告らの主張するように同第2文から同第1文を権利義務の全部譲渡の場合に限られるものと解釈するというのは、解釈の在り方として無理があり、妥当とはいえない。原告らが指摘する本条項の英語原文の第2文の「all rights of TK Investor hereunder」という文言の意味は、同第1文の本文が全部譲渡又は一部譲渡のいずれの場合にも適用されることと整合的に解釈されるべきである。このような観点から本条項を見ると、本件各匿名組合契約の出資者は、その権利義務の全部譲渡又は一部譲渡を問わず適用され、それらのいずれについても、本件各匿名組合契約の営業者による事前の書面による同意等がない限り行ってはならないのが原則であるが(本条項の英語原文の第1文本文)、その全部譲渡又は一部譲渡のいずれかが本件各匿名組合の出資者の関係者等に対するものである場合には例外として上記の同意等は不要である(同第1文ただし書)と解釈するのが相当である。

また、同第1文ただし書の規定が、譲受人を単数の者に限定して複数の者を排除する趣旨であれば、通常「an」や「a」という不定冠詞ではなく、「one(1)」と表記することになるから、「an」及び「a」は、その英文解釈上、単数を意味するものではなく、「ある(any、some)」の意を含む不特定のものを示すものと解すべきであり、ただし書が単数の者に譲渡する場合に限り適用される趣旨と解釈することはできない。なお、仮に、同第1文ただし書にいう「an」及び「a」の語意が原告らが主張するような譲受人が1名である場合に限るとする趣旨であったとしても、そのことをもって同第1文ただし書が一部譲渡の場合を排除する趣旨であると解釈する根拠にはならない。

そして、本条項の英語原文の第2文は、同第1文本文の適用を受ける譲渡であるか、あるいは同第1文ただし書の適用を受ける譲渡であるかにかかわらず、本件各匿名組合契約に基づく契約上の地位ないし権利義務の全部譲渡や一部譲渡がされた場合に、匿名組合営業者に対し、譲受人がその譲渡の対象となった全ての権利を承継することを確認する確認証書を作成し、交付することを義務付ける規定と読むべきである。

一般的に、匿名組合契約においては、匿名組合員は、営業者に対する業務及び財産状況の監視権が付与されており(商法539条参照)、それによって営業の内情に通ずることとなるから、その意味で株式会社の株主のような単なる出資者とは異なり、営業者にとって好ましくない者が匿名組合員になることを防ぐために、営業者の同意なしに匿名組合員としての権利を他に譲渡することが禁じられているとされている。

それにもかかわらず、本件各匿名組合契約では、Kグループに属する事業体に対しては、営業者である原告らの事前の同意(承諾)なしに、匿名組合員としての権利の全部又は一部を譲渡することが認められていることからすると、本件各匿名組合契約を締結するに当たり、原告らにとっては、Kグループから匿名組合に出資がされるのであれば、具体的に同グループの中で誰が匿名組合員となるかは必ずしも重要でなく、匿名組合員の選定を同グループの決定に委ねており、本件各匿名組合契約締結後に匿名組合員が変更されることも当然予定していたものと解される。

原告らを支配していたFの日本における代表者として、H生命の売却対象資産への投資案件(以下「H生命案件」という。)、I生命の売却対象不動産への投資案件(以下「I生命案件」という。)及びJ生命の売却対象債権に対する投資案件(以下「J生命案件」という。また、上記三つの投資案件による事業を総称して「本件各投資事業」という。)に直接関与したf(以下「f」という。)及び同人の部下として本件各投資事業に携わったg(以下「g」という。)の陳述を前提とすると、原告らは、その名称を聞いたこともなかったKが匿名組合員となる旨の通知を受けたにもかかわらず、Kがいかなる事業体であるのかといったことを特に気にかけることもなく、これを受け入れたものとみられるから、原告らが、Kグループ内で具体的に誰が匿名組合員となるかについて特段関心を有しておらず、その決定を同グループに委ねていたことがうかがわれる。そうすると、Kグループ内で本件各匿名組合契約に基づく匿名組合員としての権利を有する者が交代することは、原告らの意思に反するものではなく、Kグループに属する者であれば、契約書で特定されている者以外の者を匿名組合員の権利を有する者と認定したとしても、原告らの意思に反することにはならないというべきである。

上記において主張したとおり、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金をめぐる本件の一連の契約及び取引は、丁を中心とするKグループによって、社会通念に照らしておよそ合理性が認められない程著しく複雑、う遠な法形式を採用して実行されたものであり、その真の目的は、最終的に本件各匿名組合契約に係る出資の99%を実質的にSに負担させ、これに対応して、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%をSに帰属させることにあったものと認められるから、本件各取引確認書により、SがKから本件各利益分配金請求権を取得したものと解釈するのが、契約の一方当事者であるKグループ側の真意に合致する。そして、上記bで述べたとおり、本件各匿名組合契約の営業者である原告らは、匿名組合員となる者の選定をKグループ側の決定に委ねていたのであるから、同グループの決定によりSが本件各利益分配金請求権を取得したものと解釈することは、少なくとも原告らの意思に反するものではない。

以上によれば、本件においては、本件各取引確認書によるスワップ契約の内容について、それに記載されている文書のみをもって正確に解釈することは困難であるから、その記載のみならず、関連する契約内容等の事実関係をも考慮して、当事者間の真の合意内容を探求する必要があるところ、本件の一連の契約及び取引は、丁を中心とするKグループによって、租税回避を図るため、法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、う遠な法形式を採用して実行されたものであり、原告らを含む当事者の本件における真の目的は、本件各匿名組合契約に係る出資の99%を実質的にSに負担させ、これに対応して、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%をSに帰属させることにあると認められるから、本件各取引確認書により、Sが本件各分配金の請求権を取得したものと解釈するのが、当事者の真意に合致する。原告らがEの傘下にあり、Kグループ内で行われた一連の取引に関与していないとしても、本件各分配金がSに帰属すると認定することの妨げとなるものではない。

したがって、本件各匿名組合契約の営業者である原告らから支払われる本件各分配金は、Kを通じてSに支払われた利益分配金であるといえるのであり、これは、Sの所得税法161条12号に規定する「国内源泉所得」に当たる。所得税法212条の源泉徴収義務は、その対象となる国内源泉所得の支払の時に成立し、同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであり(通則法15条2項2号、3項2号)、これがその支払者の主観的事情により左右されるものではないから、原告らにおいて本件各分配金がSに対する支払であると認識していたか否かは、当該利益分配金の支払に係る源泉徴収義務の成否に影響を及ぼさない。

本件において、原告らの源泉徴収義務の有無を検討する上で問題とされるべきは、Sに本件各分配金の請求権が帰属することを前提に、原告らがSに対し(Kを通じ)本件各分配金の支払をする者として認められるか否かであり、一連の契約及び取引に関する客観的な事実関係に基づき、原告らを含む当事者の意思を合理的に解釈することにより、本件各分配金の請求権はSに帰属し、原告らが(Kを通じ)Sに対し本件各分配金の支払をしたと認められることは、明らかである。

Kは本件各租税条約届出書の「支払金額」欄にSに帰属する金額を含めた金額を記載しているが、その記載いかんは、源泉徴収義務の存否及び税額に影響を及ぼすものではない。

原告らにおいて本件各分配金がSに帰属することを認識していたか、少なくとも容易に認識することが可能であったこと

L及びNは、本件各分配金がSに帰属することを認識していたと認められること

丁は、Kグループの最高運営責任者であり、本件各匿名組合契約の締結前に、本件各投資メモの承認欄に署名して投資を実行することを承認している。そして、①本件借入契約Ⅱ-1にはRを代表し、同Ⅱ-2及び同Ⅱ-3、本件スワップ契約3並びに本件取引確認書3にはSを代表して、それぞれnのPresidentの肩書で署名し、②本件旧取引確認書にXを代表して、Presidentの肩書で署名し、③本件取引確認書2にSを代表して、Presidentの肩書で署名している。したがって、丁は、本件の一連の取引を承認して実行した責任者であると認められる。

乙は、①本件LPS契約及び本件貸付債権譲渡契約においては、Rを代表し、本件保証書1にはUを代表して、それぞれnのVicePresidentの肩書で署名し、②本件各借入契約Ⅰ、本件各借入契約Ⅱ及び本件貸付債権譲渡契約においては、Pを代表し、Manager又はAuthorized Representativeの肩書で署名し、③本件各借入契約Ⅰ、本件旧取引確認書、本件取引確認書2及び同3においては、Kを代表して、Vice President又はAuthorized Representativeの肩書で署名し、④本件匿名組合契約C1、同D1、同D2、本件各出資持分譲渡契約及び原告らに対する各譲渡の通知書においては、Gを代表して署名し、⑤本件スワップ契約1においては、XのVicePresidentの肩書で署名している。

このように、乙は、丁が直接保有し、Kグループの他の事業体を直接的又は間接的に支配するnのVice Presidentの地位にあり、本件の一連の取引の多くに直接関与しており、丁の下で、本件の一連の取引を主導的立場で実行した者であると認められる。

原告らとの間で本件各業務委託契約を締結し、本件各匿名組合契約に係る営業者の業務を遂行していたL及びNは、Kグループに含まれるqグループに属し、Y及びOを通じて、丁の支配下にあった。

なお、本件各業務委託契約においても、L及びNが丁の支配から離れた場合は契約を終了することができる旨の条項があり、丁の支配下にあることを前提として締結された契約であることが明らかである。Lが税務調査において課税庁に提出した平成17年4月8日付けの回答書(乙23の1・2)によれば、乙は、YのSenior Vice Presidentの地位にあり、本件各匿名組合契約の締結前、Kグループが投資に参加する可能性について、原告らを支配するF側との間で協議が継続していた状況下で、「取引を完了させる上での全ての重要な点において積極的に関与するようになっ」た。

そして、当初のクロージング(契約締結)前の時期においては、匿名組合出資者として投資に参加することを検討していたKグループ側のために動きながら、ある局面においては、原告らとの間の契約に関してLやNを代理しており、投資のクロージング以降は、主に原告らのためのローンに関するV社との間の交渉と調整に関連する業務に従事していた。

そうすると、L及びNが原告らとの間で業務委託契約を締結し、本件各匿名組合契約に係る営業者の業務を遂行することは、契約当事者のみで独自に決定したことではなく、Kグループが本件各匿名組合契約に投資することが前提とされており、丁が承認して実行された本件の投資スキームの一部に組み込まれ、丁の意思に基づき、本件の一連の取引を主導的に実行した乙が中心となって、契約締結に至ったものといえる。

その上、SとKとの間の本件各取引確認書において、L及びNを支配するYが、計算代理人とされている。これらの事情によれば、L及びNも、Kグループの一員として、本件の投資スキームの全体像を認識していたとみるのが自然であり、本件各分配金がSに帰属することを認識していたと認められる。

また、KグループでSを支配するnの幹部で、本件の一連の契約及び取引の多くに直接関与したT及び戊が、qグループでL及びNを支配するOないしYの要職を務めていたことからすると、O及びYも、本件の投資スキームの全体像を認識した上で、L及びNに原告らから業務委託を受けさせたものと認められる。

そして、YのVice Presidentの地位にあったt(以下「t」という。)が、Lの監査役及びNの取締役を務めていたこと、LとNの代表者を務めていたh(以下「h」という。)が、本件の一連の契約及び取引を主導的立場で実行していたnの乙やTと共に、本件匿名組合契約C1及び同D1の締結に至る交渉に関与していたことからすると、L及びNも、本件の投資スキームの全体像を認識した上で、原告らから業務委託を受けて本件各匿名組合契約に参加したものと認められる。したがって、これらの事情からも、L及びNは、本件各分配金がSに帰属することを認識していたものと認められる。

なお、L及びNは、Kグループで本件の一連の契約及び取引の多くに直接関与した者(t)が要職を務めており、本件の投資スキームの全体像を認識していたと認められる米国の事業体であるO及びYの支配下で、本件各匿名組合契約に参加していることに照らすと、L及びNは組織として、本件の投資スキームの全体像を認識していたものと推認できるから、仮に日本で実務を担当する役員や従業員が詳細を知らされていなかったとしても、それは組織内部の事情にすぎず、L及びNの認識には影響しないというべきである。

原告らも、本件各分配金がSに帰属することを認識していたか、容易に認識することができたと認められること

L及びNは、本件の一連の取引がKグループによる投資スキームであり、本件各分配金がSに帰属することを認識しており、原告らも、Kグループが本件各匿名組合契約に投資することを前提として本件各業務委託契約を締結したものと認められる上、本件各業務委託契約により、利益分配金の支払を含めて、本件各匿名組合契約に係る資産管理全般を包括的にL及びNに委託していることからすると、受託者であるL及びNから、本件各分配金がSに帰属することを知らされていたと考えられる。

また、原告らが本件の審査請求の際にそれぞれ東京国税不服審判所に提出した平成20年5月22日付け第2反論書において、Kが本件各匿名組合契約の当事者となった理由について、「①KがKグループ内のファイナンスセンターとして機能する金融会社として位置づけられていることから、本件各匿名組合契約の出資者、本件各取引確認書の当事者及び本件借入契約の借主をKに集中することにより、グループ内の効率的なキャッシュマネジメント、資金調達ないし資金運用を図る、という事業目的によるものである(括弧内省略)と同時に、②Kが金融取引を行う会社として本件各匿名組合契約及び本件各取引確認書を通じて1%のマージンを稼得するという経済的目的(括弧内省略)を果たすためである。」と主張していたことからすると、Kグループ内においてファイナンス・センターとしての機能を担当するKは、自らが匿名組合契約の当事者として投資損益の帰属主体となるような事業を営むことはないから、本件各匿名組合契約締結後において本件各匿名組合契約に係るファイナンス(資金)の手当てが完了次第、Kグループに属する他の事業体に匿名組合員の地位を変更することが当然予定されていたものと考えられる。そして、原告らも、KがKグループ内においてファイナンス・センターとしての機能を担当し、自らが匿名組合契約の当事者として投資損益の帰属主体となるような事業を営むことがないことを十分に認識していたことからすれば、本件各匿名組合契約締結後において本件各匿名組合契約に係るファイナンス(資金)の手当てが完了次第、匿名組合員の地位がKから投資損益の帰属者となるべきKグループに属する他の事業体に変更されることを想定していたものといえる。

匿名組合員は、営業に対する監視権を持ち、その監視権により営業の内情に通ずる関係上、その地位は、たとえ出資義務の完了後でも、営業者の同意なしに他人に譲渡することはできないものと解されているにもかかわらず、本件各匿名組合契約では、9.1項において、Kグループに属する事業体に対しては、営業者である原告らの事前の書面による同意なしに、匿名組合員としての権利の全部又は一部を譲渡することを認める旨の条項をあえて織り込んでいる。

また、本件各匿名組合契約においては、営業者は、出資者に対し直前の計算期間に係る純利益について出資持分に応じた現金の分配を行い(5.1項)、その際に源泉徴収すべき税額がある場合は、これを分配金から徴収し、出資者に通知する(5.4項)こととされており、営業者が徴収及び納付を怠れば、課税処分は源泉徴収義務者である営業者に対して行われることとされている。

そうすると、営業者である原告らにとって、利益分配金請求権が誰に帰属しているかは極めて重要な情報であるから、原告らはその変更の有無について関心を持ってその情報の把握に当たっていたものと考えるのが相当である。

また、本件各匿名組合契約において、原告らは、出資者に対し直前の計算期間に係る純利益について出資持分に応じた現金の分配を行い(5.1項)、その際、源泉徴収すべき税額がある場合は、これを分配金から徴収し、出資者に通知する(5.4項)こととされていることからして、仮に本件各分配金がSに帰属することを知らされていなかったとしても、源泉徴収義務を確実に履行するため、誰に利益分配金が帰属するのかについて、出資者であるKグループに属するL及びNに対して確認すべきであり、そうすれば、容易に本件各分配金がSに帰属することを認識できたはずである。

L及びNが原告らから業務委託を受けたことは、Kグループの投資スキームと無関係ではないことFのfの陳述書の記載の内容を前提とすると、仮に、Kグループ側から共同投資を行う条件として要求されたことはなかったとしても、原告らの業務委託先としてL及びNが選定されるのは必然のことであったといえ、Kグループ側でも両社を選定することは当初から予定されていたとみるのが自然である。

このことは、本件各匿名組合契約締結に当たり、Kグループ内で投資の意思決定をした際に作成された本件各投資メモに、LないしNが債権回収代行業者ないし資産管理者となる旨記載されていることからも明らかである。

また、本件各業務委託契約では、LないしNが丁の支配から離れた場合は契約を終了することができる旨の条項があること、LないしNに対する全ての通知等について、その写しを契約当事者でない「M」の戊宛てに送付するものとされていることからしても、L及びNは、Kグループの影響下にあることを前提として業務委託を受け、同グループの影響下で受託業務を遂行していたことがうかがわれる。そうすると、L及びNは、Kグループの影響下にあるからこそ原告らから業務委託を受けて本件各匿名組合契約に関与したものであり、Kグループによる本件の投資スキームに組み込まれていたものというべきである。

したがって、Fが業務委託先としてL及びNを選定したことを強調して、L及びNはKグループの内部情報を知るべき立場になかったという原告らの主張は相当ではない。

本件各投資事業はE傘下のFの主導で行われたものとはいえないこと原告らは、本件各匿名組合契約の営業者の当初の出資に充てるための資金を、E傘下の関係会社から融資を受けるのではなく、V社から融資を受けて調達しており(本件借入契約Ⅲ)、原告らが主張するような通常の方法によって資金を調達していない。他方、本件借入契約Ⅲによる資金調達に際して、Kグループに属するUが、原告らのためにV社に対して本件保証書を差し入れている。

この本件借入契約Ⅲによる原告らの借入れは、本件各匿名組合契約の営業者である原告らが自らの出資に充てるための資金をV社から借り入れたものであるから、第三者であるUは、原告らの借入債務を保証するに当たって原告らから保証料を徴収するのが通常であると考えられるところ、Uが原告らから保証料を徴収した形跡は認められない。

このように、原告らは、匿名組合の営業者として本件各投資事業を実行するため必要な資金を、共同出資者であるKグループ側から保証を受けて外部から調達していることからすると、本件各投資事業は、全体としても、E傘下のFが主導して行われたものというよりも、むしろ、Kグループ側が、匿名組合員として出資したというに止まらず、本件各投資事業の実行に主体的かつ積極的に関与していたことがうかがえる。

なお、原告らは、Uによる保証について、Uが、当初の組合員であるGを支配していた関係にあったことから、当該借入れについて本件保証書1を差し入れたと主張するが、そもそも、本件借入契約ⅢはE傘下の原告らにおいて自ら出資を行うための借入れであるから、Kグループ側のUがGを支配していたからといって、直ちに原告らの出資に充てるための借入れを無償で保証する理由にはなり得ないというべきであって、原告らの上記主張は失当である。

また、原告らは、本件のような投資案件においてはノンリコース・ローンによる融資で資金調達することや、上記のような保証が、本件のような投資案件においてノンリコース・レンダーに対して差し入れられることは通常の実務であるから、原告らの資金調達が通常の方法ではないという被告の主張も誤りであるなどと主張するが、原告らは、原告らが投資案件を実行する際は、特定のSPC(特別目的会社)が原告らのいうE関係会社の海外の資金を取り入れ、SPCの日本支店がSPC本店からその資金の融通を受けて投資対象資産を購入することにより投資が行われるのが通常の業務運営方法であると説明していたにもかかわらず、本件では、本件各匿名組合契約の営業者の当初の出資に充てるための資金を、Eの傘下の関係会社から融資を受けるのではなく、V社から融資を受けて調達していて、通常の方法によって資金を調達していないことから、本件における原告らの出資資金の調達方法は、原告らの上記説明とは違うものである。

ところで、Fの親会社であったWも、本件借入契約Ⅲについて、V社に対して保証しているところ、Wが平成13年5月31日に差し入れた本件保証書2(甲35)及び同年7月3日に差し入れた変更保証書(甲37)には、Wに対する全ての通知について、その写しを契約当事者でない「M」の戊宛てに送付するものとされているのに対し(各保証書の各19条)、Uが、本件借入契約Ⅲについて、V社に対して同年5月31日に差し入れた本件保証書1(乙13)及び同年7月3日に差し入れた変更保証書(甲36)には、Uに対する通知について、その写しを契約当事者でないEの傘下の関係会社宛てに送付することを要求する規定はないから(各保証書の各19条)、少なくともWは、Kグループの影響下にあることを前提として保証書及び変更保証書を差し入れ、Kグループの影響下で保証債務を負っていたことがうかがわれる。

加えて、Kグループに属する乙が、投資のクロージング以降、主に原告らのためのローンに関するV社との間の交渉と調整に関連する業務に従事しており、Kグループ側が、匿名組合員として出資したというに止まらず、本件各投資事業の実行に主体的かつ積極的に関与していたことをうかがわせる。

両者の主張まとめ

国税庁
■本件は、Sが本件各匿名組合契約の出資持分の取得費用の99%を負担し、本件各分配金の支払を受けるために行われたものである。一連の取引における当事者の真の意図・目的は、Sに本件各分配金を帰属させることにあったと認められる。しかし、その達成のために、Kが一連の取引に介在して、契約関係や資金の流れを複雑にしてまで本件各匿名組合契約に基づく出資持分の全部を取得することに合理的な理由は見当たらない。

■また、本件の投資スキームは、Kグループが、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%(本件各分配金)を取得しながらも、本件各分配金について日愛租税条約23条の適用を受けることにより我が国における課税を免れつつ、アイルランド及びバミューダの税制に基づき、それらの国々における課税を極小化することを企図してスワップ契約という法形式を採用して構築したものである。

■以上のとおり、本件の一連の契約及び取引は、丁を中心とするKグループによって法的・経済的目的を達成する上で、社会通念上著しく複雑、う遠な法形式を採用して実行されたものであり、その真の目的は、租税回避を図ることにあるから、到底合理性があるとは認められない。
納税者
■原告らは、本件各処分対象期間中、本件各匿名組合契約をKとの間で適法有効に締結していた。Kはアイルランド法人であり、日愛租税条約23条に定められている特典を享受する資格がある者として租税条約の実施に伴う所得税法、法人税法及び地方税法の特例等に関する法律の施行に関する省令2条1項上に定める手続を適法に遵守していた。原告らが利益分配金の支払について源泉徴収義務を負わないことは明らかである。

関連する条文

日愛租税条約

23条(その他の所得条項)

所得税法

161条(国内源泉所得)
212条(源泉徴収義務)
213条(徴収税額)

租税特別措置法

93条(利子税の割合の特例)
95条(還付加算金の割合の特例)

東京地裁/平成25年11月1日判決(八木一洋裁判長)/(認容)(控訴)(納税者勝訴)

所得税法212条1項は、外国法人に対し国内において同法161条12号等に掲げる国内源泉所得の支払をする者は、その支払の際、これらの国内源泉所得について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨を規定し、同条12号は、「国内において事業を行う者に対する出資につき、匿名組合契約(これに準ずる契約として政令で定めるものを含む。)に基づいて受ける利益の分配」を掲げているところ、その文理に照らし、同号の「利益の分配」については、同号の匿名組合契約に定められた債務の履行として支払がされるものをいうものと解するのが相当である。

ところで、本件各スワップ契約に基づくSとKとの間の本件各スワップ取引の内容として本件各取引確認書の定めるところは、上記の両者の間において本件各匿名組合契約及び本件各借入契約Ⅰに基づく各取引の内容、結果等を基礎に一定の方法で計算した金額の支払をする旨のものとされているが、KがSに対して本件各匿名組合契約における匿名組合員としての地位又はそれを根拠として生ずる債権の全部又は一部を譲渡するものとする定めは見当たらない。

その上で、仮に、本件各取引確認書の定めるところについて、被告の主張するように、Kグループ内においては実際には上記(2)に述べた地位又は債権の一部の譲渡に相当する利益をSに得させる意図・目的によるものであり、また、本件各匿名組合契約9・1項の定めの内容について、Kグループに属する事業体として匿名組合員であるKの関係者(affiliate)に当たり得るSへのそのような譲渡に関しては原告らの事前の同意(承諾。consent)は要しないとするものであったとの前提に立つにしても(ただし、後者の点については、Kグループにおいて本件各投資事業に深く関わった戊及び平成13年1月1日から平成16年6月1日までの間はKのオペレーション・ファイナンス・マネージャーを務めその後はその取締役に就任しているeは、その陳述書において、原告らの主張するところに沿って、上記の条項はそのような譲渡を許す内容のものではない旨の記載をしている。)、同じくKグループに属するGからKに対する本件各出資持分譲渡契約に基づく匿名組合員の地位の譲渡の際に本件各譲渡通知書兼承諾書等を用いて現に執られたように、本件各匿名組合契約9.1項の英文第2文に基づき営業者である原告らによる確認書(acknowledgment)の交付等の手続を経るべきことについては、そのような手続が本件各匿名組合契約の準拠するものと定められている我が国の民法の規定の下における契約上の地位の譲渡の有効要件又は債権の譲渡の対抗要件に関する一般的な理解を踏まえるものと解され、かつ、営業者である原告らにおいては、本件各匿名組合契約に基づく利益の分配に係る債務の不履行やそれの支払に係る源泉所得税の徴収の義務の懈怠等に伴う不利益を回避することに強い関心を当然に有していたであろうと推認されることに照らすと、当該契約における上記の手続上の義務が免除されるものとは通常は考え難いにもかかわらず、本件においては、全証拠によっても、当該義務に沿う手続が執られたこと又は上記の譲渡等についての原告らに対する通知その他の準備等がされたといった事実は、全くうかがわれない。

もっとも、上記に述べたところについては、原告らにおいてKとSとの間の被告の主張するような事実の存在を少なくとも認識していたと認められる場合には、別異に解する余地がないわけではないと考えられるが、本件における被告の主張を参照しても、原告らにおいてそのような事実の存在を認識していたことを直接に裏付ける証拠ないし事情があることは指摘されておらず〔かえって、原告らの当時の日本における代表者であった丙、Fの東京支店のマネージング・ディレクター兼社長であったf及びFの担当者であったgは、その陳述書において、いずれもSやXの存在すら知らなかった旨の記載をしており、Lの代表取締役及びNの日本における代表者であったhや他の従業員らも、その陳述書において、本件各借入契約Ⅰ及び本件各スワップ取引のされた当時、X、P及びSの存在を知らなかった旨の記載をしているほか、既に述べたKのeも、その陳述書において、Kは本件各出資持分譲渡契約によりGから取得した本件各匿名組合契約上の権利をその後に譲渡したことはない旨の記載をしているところである。〕、本件各匿名組合契約に係る本件各投資事業を行うことに関して共同して出資を受ける関係を持ったものの基本的にはいわゆる資本系列を異にする原告ら又はE関係会社とKグループとの間に、各資本系列内における事業上の秘密に当たると見られる被告の主張するような資金の流れに関する情報が共有されていた等の事情の存在を、的確に裏付けるものというに足りる証拠ないし事情は見当たらない上、原告らにおいてあえて上記に述べたような源泉所得税の徴収の義務の懈怠等に伴う不利益を甘受してまでKグループの利益の確保に協力すべきことを相当とするような特段の事情が存在したことについても、被告の主張するところを踏まえて本件全証拠を検討しても、それをうかがわせるものは直ちには見いだし難いものというほかはない。

以上に述べたところによれば、原告らが、Kから日愛租税条約23条の規定の適用があることを前提として本件各租税条約届出書の作成及び提出がされていたことを踏まえ、Kに対して本件各匿名組合契約に定められた債務の履行として本件各分配金を含む利益の分配に係る支払をしたことについて、そのような客観的な事実を離れて、実際にはKからSに対する契約上の地位又は債権の一部の譲渡があったことを前提としてSに対して本件各分配金の支払をしたものであると認めることは、困難であるというべきものと考えられ、本件各分配金に関して原告らが源泉所得税の徴収の義務を負っていたものとは認め難いというべきである。

以上の次第であって、原告らの請求はいずれも理由があるから、これらを認容することとし、主文のとおり判決する。

東京高裁/平成26年10月29日判決(瀧澤泉裁判長)/(棄却)(納税者勝訴)(上告受理申立て)

スワップ取引とは、それぞれ別々に特定されて計算される、一定期間における二種類のキャッシュフローの交換をいうと解され、交換の対象となるキャッシュフローが契約書において規定されている内容によって正確に計算可能であり、スワップ取引の条件が曖昧さを残さない程度に規定されている場合には、スワップ取引として有効と解される。

特定の想定元本に対して金融市場で成立している変動金利を利用して計算される変動キャッシュフローと、同じ想定元本に対して金融市場で成立している固定金利を利用して計算される固定キャッシュフローを交換するという金利スワップでなければスワップ契約として成立し得ない、又は交換されるキャッシュフローが等価でなければスワップ契約として成立し得ないとする根拠は見出せない。

本件各取引確認書(よれば、本件各スワップ契約は、変動キャッシュフローである「本件各匿名組合契約の出資持分から生じた利益総額の99%から事業費を差し引いた金額」(本件各取引確認書にいう「純受取額」)と固定キャッシュフローである「本件各借入契約Ⅰ上の利息(金利は固定で年3.5%)及び費用相当額」(本件各取引確認書にいう「債務返済額」)をスワップ(交換)する変動・固定のスワップ契約であるといえる。

本件各スワップ契約における支払は、変動キャッシュフロー(純受取額)が固定キャッシュフロー(債務返済額)を超えている場合には、KはSに対してその超過差額を支払い、固定キャッシュフロー(債務返済額)が変動キャッシュフロー(純受取額)を超えている場合には、SがKに対してその超過差額を支払うという方法により行われる(本件各取引確認書2条)。

そして、変動キャッシュフロー(純受取額)の最低額はゼロとされ、マイナスにはならないとされているから、本件各匿名組合契約によりKが損失の配分を受けた場合には、Kが受け取る変動キャッシュフロー(純受取額)はゼロなので、変動キャッシュフロー(純受取額)が固定キャッシュフロー(債務返済額)を上回ることはなく、KはSに対して何らの支払義務も負わないが、固定キャッシュフロー(債務返済額)が存在するので、固定キャッシュフロー(債務返済額)が変動キャッシュフロー(純受取額)を上回ることになり、SがKに対してその超過額を支払う義務を負うことになる。

他方、本件各匿名組合契約は、匿名組合員である当事者が、匿名組合事業から生じる利益のみならず損失も負担することが合意されており、実際上も、本件匿名組合契約D1の平成16年度、本件匿名組合契約D2の平成13年度、平成15年度及び平成16年度、本件匿名組合契約C2の平成13年度ないし平成16年度には損失が生じ、これらについて、Kは被控訴人らから損失の分配を受けた。

本件各スワップ契約の支払(本件各取引確認書2条)により、Kは、本件各匿名組合契約の投資損益が予測困難でありかつ変動する中で、投資損失(匿名組合損失)が出た場合にはKがその損失を引き受けるというリスクを受ける一方で、本件各借入契約Ⅰの固定金利の支払原資だけは本件各取引確認書によって確保することができる。

そして、本件各取引確認書、本件各借入契約Ⅰ、本件各借入契約Ⅱ(には、①Kが本件各匿名組合契約に基づいて配分を受けた匿名組合損失相当額をSがKに対して支払う旨の規定、②KがSに対して本件各匿名組合契約上の匿名組合員としての地位を一部譲渡し、又は同契約上の権利を譲渡し若しくは義務を引き受けさせる旨の規定、③KがSに対して、本件各匿名組合契約上の匿名組合員の権利を直接被控訴人らに対して行使させることを許容するような規定、④SがKに対して、本件各匿名組合契約に基づいてKが被控訴人らに対して有する全部又は一部の権利の行使を制約するような規定はない。

したがって、控訴人の「Sは、本件各匿名組合契約の出資持分の取得費用99%を負担し、必要な費用を負担した上で、本件各匿名組合契約に基づく利益分配金の99%を取得するとともに、当該出資に係る投資のリスクも負っている」という主張は、本件各取引確認書及び本件各借入契約Ⅰ、本件各借入契約Ⅱの内容に合致するとは認められず、控訴人の「Kは、本件各匿名組合契約の利益が出た場合の利益分配金を取得せず、損失が出た場合のリスクを負うこともない」という主張は、本件各匿名組合契約等の内容に合致せず、したがって、控訴人の主張は、採用することができない。

本件においてKはアイルランド居住者として、アイルランド租税法上、本件匿名組合契約に基づく利益分配金を含む全世界所得に課税されることとされているところ、日愛租税条約23条は、一方の締結国(本件の場合は日本)において生ずる他方の締結国(本件ではアイルランド)の居住者の所得で同条約22条までの諸条に明文の規定がないものに対し、当該他方の締結国(本件ではアイルランド)においてのみ租税を課すことができる旨を定め、二重課税の回避を実現しようとする規定である。

日愛租税条約には、租税条約の濫用を理由として租税条約の適用を否定する規定は定められていないから、Kには日愛租税条約23条が適用される。

本件各投資メモには、投資概要、市場状況、資産の詳細、資金調達、ヘッジ、評価、法律及び税金の構造等についての記載はあるが、本件各借入契約Ⅰ、Ⅱや本件各取引確認書に関する記載は存在しないから、この本件各投資メモに基づき、本件各借入契約Ⅰ、Ⅱや本件各取引確認書について丁の承認があったことが裏付けられるとはいえない。

控訴人は、「Kが本件各匿名組合契約の全出資持分を取得した上で本件各スワップ取引を行ったのは、ひとえにKが日愛租税条約の適用を受ける体裁を整えることにより、我が国の課税を免れることを目的としたものであり、結局のところ、本件各匿名組合契約上Kが保有するとされる匿名組合契約の出資持分の99%には実質的な実体がないものといわざるを得ない。」と主張するが、結果としてKが得た利益に対して我が国の課税をすることができなかったとしても、本件における契約関係がひとえに我が国の課税を免れることを目的として仮装されたものであり、本件各匿名組合契約上Kが保有するとされる匿名組合契約の出資持分の99%に実体がないと断定するに足りる証拠はない。

控訴人の「被控訴人らの認識として、本件各匿名組合契約の組合員の権利を有する者がKグループに属する者である限りは誰であれその者を相手方として取引を行うことを予定して契約を締結した」との主張に係る事実を認めるに足りる証拠はない。

また、被控訴人らと、Kグループに属するKとの間に本件各匿名組合契約が存在していたことは事実であるが、被控訴人らの当時の日本における代表者であった丙、Fの〈H〉支店のマネージング・ディレクター兼社長であったf及びFの担当者であったgは、その陳述書において、いずれもSやXの存在すら知らなかった旨の記載をしており、Lの代表取締役及びNの日本における代表者であったhやLの従業員らも、その陳述書(甲28~32)において、本件各借入契約Ⅰ及び本件各スワップ取引のされた当時、X、P及びSの存在を知らなかった旨の記載をしているほか、Kのeも、その陳述書において、Kは本件各出資持分譲渡契約によりGから取得した本件各匿名組合契約上の権利をその後に譲渡したことはない旨の記載をしており、被控訴人らが、SとKとの間に本件各スワップ取引や本件各取引確認書が存在したことを知っていたことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人らとKが一体となって本件の投資の仕組を構築したと認めることはできない。以上によれば、控訴人の主位的主張は、採用することができない。

憲法84条は租税法律主義を定めており、納税義務が成立するための要件と租税の賦課・徴収の手続は法律又はその委任に基づいて定められなければならないと解される。そして、条約が国民又は居住者の納税義務について種々の定めをしている場合には、条約の締結に当たって国会の承認を経ていることから、租税法律主義に反しないものと解される。

そうすると、条約により課税が行われる場合にも、条約又はその委任に基づいて、納税義務が成立するための要件等が定められていなければならないものと解される。

ところで、我が国及びアイルランドが加盟しているOECDの財政委員会は、二重課税及びその他の税務上の問題に対処するため、1963年(昭和38年)、先進国間の租税条約のひな形としてモデル租税条約草案を公表し、1977年(昭和52年)、国際的二重課税の排除、国際的脱税・租税回避の防止を通じて、国際的な課税の領域において生ずる諸問題について統一的な基準に基づく解決手段を提示するために、モデル租税条約を公表するとともに、その規定に関するコメンタリーを公表し、その後、モデル租税条約及びコメンタリーは何度も改正された。

モデル租税条約2010年版には、コメンタリーについて別紙1のとおり記載されている。これによれば、法的に拘束力を有するのは、OECD加盟国が締結した租税条約であり、モデル条約はそれ自体に法的な拘束力はなく、コメンタリーは、法的に拘束力を有する租税条約の具体的な条文の解釈に当たって参照する余地があるとしても、租税条約の具体的な条文を離れて、それのみで、条約と同等の効力を有する独立の法源となると解することはできない。

そのため、「租税回避を目的とするような取引については、源泉課税を制限する租税条約の適用を否定する」旨定めた租税条約の規定がないにもかかわらず、コメンタリーのパラグラフの記載がそのような一般的法理を定めているとの主張を前提として、コメンタリーのみに基づいて源泉課税を制限する租税条約の適用を否定し、課税することはできないというべきである。

モデル租税条約の第1条(人的範囲)に関するコメンタリーの「条約の不当な利用」、「特定の種類の所得の源泉課税を扱う濫用防止準則」の項には、別紙2のとおりの記載がある。控訴人は、モデル租税条約の第1条(人的範囲)に関するコメンタリーの内容から、形式的には租税条約が適用され得る取引であっても、租税条約の特典を利用した租税回避をその目的とするようなものについては、租税条約の趣旨・目的に反する態様で条約を濫用して税負担を不当に免れるものとしてその適用が否定されると主張する。

しかし、次のとおり、モデル租税条約の第1条(人的範囲)に関するコメンタリーの内容を参照しても、租税条約に租税回避行為であることを理由に同条約の適用を否定する旨の具体的規定がないにもかかわらずコメンタリーの記載を根拠として租税条約の適用を否定できるとは認められない。

すなわち、7.パラグラフの第2文には、「さらに租税回避及び逋脱を防止することもまた、租税条約の目的である。」と記載されているが、これは、その直前の「二重課税条約の主要な目的は、国際的二重課税を排除することによって、財や役務の交換並びに資本及び人の交流を促進することにある。」という記述と並んで、租税条約の一般的・抽象的な目的を示すものであって、租税条約が、その旨の具体的な規定がないにもかかわらず、租税回避及び逋脱を防止するとの具体的な効力を有することを示すものとはいえない。

8.パラグラフには、「二重課税条約の拡充によって、(中略)人為的な法律関係の利用を助長することによる濫用の危険が高まる」と記載されているところ、これは、租税条約を利用した濫用の可能性に関する一般的な注意喚起又は問題意識を述べるものと解され、9.パラグラフにおいて、濫用の形態として想定される事例を挙げ、そのような状況で提起される二つの問題を9.1パラグラフで挙げ、その一つとして、「租税条約の規定の濫用を構成する取引が行われた場合にも、租税条約の特典は認められなければならないか否か」という問題が提起され、それについては9.2パラグラフ以下で扱うこととされている。

9.2パラグラフでは、租税条約の規定の濫用を構成する取引に対し、国内法の濫用防止規定を適用することにより対処する国があることが記載され、9.3パラグラフでは、租税条約の規定の濫用を構成する取引に対し、租税条約の解釈により対処する国があることが記載され、9.4パラグラフでは、国内法の濫用防止規定を適用する方法と租税条約の解釈により濫用を防止する方法のいずれの方法においても、租税条約の規定の濫用を構成する取引が行われた場合には二重課税条約の特典を与える必要がないということが合意されていることが示されている。

そうすると、上記のパラグラフには、租税条約の規定の濫用を構成する取引が行われた場合に租税条約の特典を与えないようにするための方法等について一般的な説明が行われているものと認められるが、具体的な租税条約の規定が設けられていない場合にコメンタリーの記載を根拠として租税条約の適用を排除することができる旨が定めているものとは認められない。

21.4パラグラフは、同パラグラフ第2段落のような規定が設けられている場合には、取引が租税条約の特典を得ることを主たる目的として行われたときに、源泉課税を制限する租税条約の特典を否定する効果を有することを定めており、規定が対象とする種類の所得に応じて規定に若干の修正が加えられるべきことを定めている。

そして、第2段落では、源泉課税を制限する租税条約の特典を否定する効果を有する規定の例が示されている。

このように、21.4パラグラフは、同パラグラフ第2段落のような規定が設けられている場合に源泉課税を制限する租税条約の特典を否定する効果を有することを定めてはいるが、そのような具体的な規定が租税条約に定められていない場合に同様の効果を生ずることは示していない。

以上のとおり、モデル租税条約の第1条(人的範囲)に関するコメンタリーの内容を参照しても、租税条約に租税回避行為であることを理由に同条約の適用を否定する旨の具体的規定がないにもかかわらずコメンタリーの記載を根拠として租税条約の適用を否定できるとは認められない。

控訴人は、Kが本件各匿名組合契約に基づいて支払を受けた利益分配金の99%には、日本、アイルランド及びバミューダのいずれの国においても課税されず、Kはそのことを認識していたと主張して、Kが行った取引は、コメンタリーの21.4パラグラフに示された「特定の種類の所得の源泉課税を扱う濫用防止準則」に抵触する取引であり、Kが被控訴人らから支払を受けた本件各分配金について日愛租税条約23条の適用を受けることは、同条約の趣旨・目的に反する態様で条約を濫用して税負担を不当に免れるものであるから、許されないと主張する。

しかし、日愛租税条約には、21.4パラグラフの第2段落に挙げられたような規定又はその他の規定によって、源泉課税を制限する日愛租税条約23条の適用を否定する具体的な条項は定められていないから、同条の適用を否定することはできない。

Kが本件各匿名組合契約に基づいて支払を受けた利益分配金の99%に課税されないとの結果が生じており、それが、税負担の公正性等の観点から問題視される余地があるとしても、そのことは、明文の条約等の規定なく、現に有効な条約である日愛租税条約23条の適用を排除する根拠となり得るものとはいえず、その他、同条の適用を排除する根拠があるとは認められない。

したがって、控訴人の予備的主張は、採用することができない。よって、被控訴人らの請求を認容した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

最高裁/平成28年6月10日決定(山本庸幸裁判長)/(上告不受理)(確定)

裁判官全員一致の意見で、次のとおり決定。
第1 主文
1 本件を上告審として受理しない。
2 申立費用は申立人の負担とする。
第2 理由
本件申立ての理由によれば、本件は、民訴法318条1項により受理すべきものとは認められない。

東京地裁 判示要旨

1.
■原告らにおいてあえて源泉所得税の徴収の義務の懈怠等に伴う不利益を甘受してまでK社の属する企業グループの利益の確保に協力すべきことを相当とするような特段の事情が存在したことについても、被告の主張するところを踏まえて全証拠を検討しても、それをうかがわせるものは直ちには見いだし難いものというほかはない。

■原告らが、K社に対して本件各匿名組合契約に定められた債務の履行として本件各分配金を含む利益の分配に係る支払をしたことについて、そのような客観的な事実を離れて、実際にはK社からS事業体に対する契約上の地位又は債権の一部の譲渡があったことを前提としてS事業体に対して分配金の支払をしたものであると認めることは、困難であるというべきものと考えられ、本件各分配金に関して原告らが源泉所得税の徴収の義務を負っていたものとは認め難いというべきである。

東京高裁 判示要旨

1.
■控訴人は、「Kが各匿名組合契約の全出資持分を取得した上で各スワップ取引を行ったのは、ひとえにKが日愛租税条約の適用を受ける体裁を整えることにより、我が国の課税を免れることを目的としたものであり、各匿名組合契約上Kが保有するとされる匿名組合契約の出資持分の99%には実質的な実体がないものといわざるを得ない。」と主張するが、結果としてKが得た利益に対して我が国の課税をすることができなかったとしても、本件における契約関係が我が国の課税を免れることを目的として仮装されたものであり、各匿名組合契約上Kが保有するとされる匿名組合契約の出資持分の99%に実体がないと断定するに足りる証拠はない。

■日愛租税条約には、21.4パラグラフの第2段落に挙げられたような規定又はその他の規定によって、源泉課税を制限する日愛租税条約23条の適用を否定する具体的な条項は定められていないから、同条の適用を否定することはできない。Kが各匿名組合契約に基づいて支払を受けた利益分配金の99%に課税されないとの結果が生じており、それが、税負担の公正性等の観点から問題視される余地があるとしても、そのことは、明文の条約等の規定なく、現に有効な条約である日愛租税条約23条の適用を排除する根拠となり得るものとはいえず、その他、同条の適用を排除する根拠があるとは認められない。

認定事実

■匿名組合契約の営業者であった第1事件原告(以下「原告C」という。)及び第2事件原告(以下「原告D」といい、原告Cと併せて「原告ら」という。)は、当該各契約の当初の匿名組合員からその地位を譲り受けたアイルランドの法令に基づき設立された法人に対して当該各契約に基づき利益の分配として支払をしたが、その際、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とアイルランドとの間の条約(以下「日愛租税条約」という。)の規定が適用されて原告らは所得税法212条1項に基づく源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)を徴収して国に納付すべき義務を負わないと判断して、源泉所得税の徴収及び国への納付をしなかった。

■本件は、事務の承継前の処分行政庁であった麻布税務署長が、原告らに対し、原告らが上記のように利益の分配として支払をした金額のうち99%に相当する部分については日愛租税条約の規定の適用がなく、所得税法212条1項に基づき源泉所得税を徴収して国に納付すべき義務を負うものであるとして、原告Cに対しては別表1-2に記載のとおりの内容の源泉所得税の各納税の告知の処分(以下「本件各納税告知処分1」という。)及び不納付加算税の各賦課決定(以下「本件各不納付加算税賦課決定処分1」という。)を、原告Dに対しては別表2-2に記載のとおりの内容の源泉所得税の各納税の告知の処分(以下「本件各納税告知処分2」という。)及び不納付加算税の各賦課決定(以下「本件各不納付加算税賦課決定処分2」という。

■また、本件各納税告知処分1、本件各不納付加算税賦課決定処分1、本件各納税告知処分2及び本件各不納付加算税賦課決定処分2を併せて「本件各処分」という。)をしたため、原告らが本件各処分の取消しを求めるとともに、国税通則法(以下「通則法」という。)56条1項に基づく過納金の還付及び同法58条1項に基づく還付加算金の支払を求める事案である。

■前提となる事実
原告らは、いずれも、2000年(平成12年。なお、本判決においては、便宜上、年については全て元号をもって示すものとする。)2月に金銭債権買取業務並びに不動産の売買、賃貸及び管理等を目的とし、英国領ケイマン諸島(以下「ケイマン」という。)の法令に基づき設立された法人であり、日本国内に支店がある。原告らについては、いずれも、アメリカ合衆国(以下「米国」という。)の法人でありその株式をニューヨーク証券取引所に上場しているE(以下「E」という。)の子会社として日本において不動産貸付債権等投資事業を行っていたケイマンの法令に基づき設立された法人であるF(以下「F」という。)が、株式の保有を通じて支配していた。

■契約関係の概要
匿名組合契約関係について
原告Cは、平成13年3月7日、Gとの間で、原告Cを営業者、Gを匿名組合員とし、H生命保険相互会社(以下「H生命」という。)が保有する債権の取得及び回収等を事業の目的とする匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約C1」という。)を締結した。

■なお、同契約は、同年5月28日、同年6月1日、同年7月23日及び平成17年6月30日付けで、それぞれ内容の一部が変更された。

■原告Dは、平成13年3月7日、Gとの間で、原告Dを営業者、Gを匿名組合員とし、H生命が保有する不動産の取得及び売却等を事業の目的とする匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約D1」という。)を締結した。

■なお、同契約は、同年5月28日、同年6月1日及び同月22日付けで、それぞれ内容の一部が変更された。

■原告Dは、平成13年6月22日、Gとの間で、原告Dを営業者、Gを匿名組合員とし、I生命保険相互会社(以下「I生命」という。)が保有する不動産の取得及び売却等を事業の目的とする匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約D2」という。)を締結した。

■原告Cは、平成13年7月23日、Gとの間で、原告Cを営業者、Gを匿名組合員とし、J生命保険相互会社(以下「J生命」という。)が保有する債権の取得及び回収等を事業の目的とする匿名組合契約(以下「本件匿名組合契約C2」という。

■また、本件匿名組合契約C1、同C2、同D1及び同D2を併せて「本件各匿名組合契約」という。)を締結した。

■本件各匿名組合契約における9.1項(ただし、本件匿名組合契約C1及びD1については、いずれもGとの間で平成13年5月28日付けで変更された後のもの。以下eに掲げる各条項について同じ。)は、全て同文であり、当該契約上の権利義務の譲渡等について次のように定めている(なお、同条項の解釈に争いがあるため、当該契約における言語とされその解釈はそれによるものとされている英文を記載する。)。

「Section9.1 AssignabilityTK Investor may not sell orassign,in whole or in part,or grant a participation interest(collectively,a“Transfer”) in its rights and obligations under this Agreement to any other Person without(i)the prior written consent of TK Proprietor and(ii)an opinion of counsel reasonably satisfactory to TKProprietor that such Transfer shall result in no adverse tax consequences to TKProprietor,provided,however,that these provisions shall not apply if the Transferis required by law,including by order of a competentgovernment authority, and these provisions shall not apply if the Transfer is toan affiliate of TK Investoror to a Qualified Holder.Furthermore,in the event ofsuch Transfer,TK Proprietor shall promptly execute and deliver an acknowledgmentin favor of the Transfereeacknowledging such Transfer and that the Transferee has succeeded to all rightsof TK Investor hereunder. Upon such Transfer,TK Proprietor and TK Investor also agree to promptly amend Exhibit B of this Agreement toreflect such Transfer. TK Proprietor may not assign its rights or obligations hereunder without the prior written consent of TK Investor.」

■本件各匿名組合契約における1.1項は、全て同文であり、同契約における用語の定義を定めるものであって、「TK出資者持分」(TK Investor’s share)とは,随時、匿名組合員の出資者持分として添付B(Exhibit B)に定めるパーセンテージをいう旨を定めている。なお、添付Bには、TK出資者持分として、本件匿名組合契約C1及びC2につき75%との、同D1及びD2につき94%との記載がある。

■本件各匿名組合契約における5.1項及び5.4項は、いずれも全て同文であり、匿名組合員に対する配当及び源泉徴収されるべき税の処理について以下のとおり定めている。

■[5.1項]現金の分配 各事業年度末における最終調整に服することを条件として、匿名組合契約における営業者は、毎月15日又はそれより前に(15日が営業日でない場合は、その翌営業日又はそれより前に)、直前の計算期間に係る純収入のうちのTK出資者持分の現金の分配を行うものとする。(以下省略)

■[5.4項]源泉徴収税 本契約の相反する規定にかかわらず、匿名組合契約の営業者は、適用ある税法その他の法律に基づいて、匿名組合員のために、支払われるべき又は源泉徴収されるべき金額を、当該税負担がなければ本契約に基づき匿名組合員に分配される資金から支払うこと、又は当該税負担がなければ本契約に基づき匿名組合員に支払われる分配から源泉徴収すること、及び、源泉徴収された又は支払われるべき金額を適当な政府当局に支払うことを許可されるものとする。

■匿名組合契約の営業者は、上記に従って源泉徴収される税金の金額につき、匿名組合員に通知するものとする。本契約の全ての目的上、支払われた金額又は源泉徴収の後納付された金額は、支払又は源泉徴収が行われる匿名組合員に関しては(又はその匿名組合員のTK出資者持分に関しては)当該匿名組合員に対するかかる金額の分配として扱われるものとする。

■本件各匿名組合契約における9.5項(a)は、全て同文であり、本件各匿名組合契約はいずれも日本法に準拠し、同法に従って解釈されるものとする旨を定めている。

■本件各匿名組合契約の「TK持分」の譲渡について
Gは、Kに対し、以下のとおり、本件各匿名組合契約の「TK持分」(後記e参照)の全部を総額236億3836万9068円で順次譲渡した。

■Gは、平成13年6月1日、Kとの間で、Gが本件匿名組合契約C1(同年5月28日にその一部が変更されたもの)の「TK持分」をKに対し173億6250万円で譲渡することを内容とする契約(以下「本件出資持分譲渡契約C1」という。)を締結した。

■Gは、平成13年6月1日、K及び原告Dとの間で、Gが本件匿名組合契約D1(同年5月28日にその一部が変更されたもの)の「TK持分」をKに対し24億6280万円で譲渡することを内容とする契約(以下「本件出資持分譲渡契約D1」という。)を締結した。

■Gは、平成13年8月29日、Kとの間で、Gが本件匿名組合契約D2の「TK持分」をKに対し30億2556万9068円で譲渡することを内容とする契約(以下「本件出資持分譲渡契約D2」という。)を締結した。

■Gは、平成13年8月30日、Kとの間で、Gが本件匿名組合契約C2の「TK持分」をKに対し7億8750万円で譲渡することを内容とする契約(以下「本件出資持分譲渡契約C2」という。また、本件出資持分譲渡契約C1、同C2、同D1及び同D2を併せて「本件各出資持分譲渡契約」という。)を締結した。

■本件各出資持分譲渡契約の契約書には、以下の各条項が存在する。なお、以下の条項において、「TK持分」(TK Interests)とは、本件各匿名組合契約に基づくパーティシペーション(participation)を含む譲渡人の権利、申立て及び持分並びに責務及び義務の全てを意味する(前文2文)。また、本件出資持分譲渡契約D1においては、本件匿名組合契約D1の9.1項に関連する条項があり、原告Dが本件出資持分譲渡契約D1の条項に同意し、同契約に定められた譲受者の権利を認識する旨が記載された上、原告Dの代表者が署名している。

■[4.匿名組合契約の営業者に対する確認](本件出資持分譲渡契約C1、同C2及び同D2)
譲渡者は、ここに、譲渡契約が締結され次第、譲受者は匿名組合契約に基づく譲渡者の権利全てを承継したという営業者の確認書を速やかに入手するものとする。

■[4.匿名組合契約の営業者に対する確認;匿名組合契約の修正条項](本件出資持分譲渡契約D1)(a) 匿名組合契約の営業者は、ここに、本譲渡書において匿名組合契約に基づいて、譲渡者による譲受者への以下のTK持分及び義務の引受けである前記の譲渡を確認する。匿名組合契約の営業者は、さらに、譲受者が匿名組合契約における譲渡者の全ての権利を承継することを確認する。当事者は、ここに、本譲渡書に対する匿名組合契約の営業者の署名が匿名組合契約の9.1項で言及されている匿名組合契約の営業者の確認書を構成することに同意する。
(b) 匿名組合契約の営業者は、ここに、匿名組合契約に基づく全ての負債、義務及び責任について譲渡者から免除し、このような負債、義務及び責任を譲受者に履行させ果たさせるようにすることに同意する。
(c) 当事者は、ここに、本譲渡書の履行について、この譲渡書において前述した譲渡者による譲受者へのTK持分に係る前述の譲渡を反映するために、速やかにTK契約の別添Bを修正する。

■[6.譲受者の表明保証](いずれも同文)
譲受者は、ここに、譲渡者に対し以下を表明し保証する。
(中略)(h) 譲受者は、自己の投資勘定のためにTK持分を購入しようとしており、TK持分の転売又は分配を目的としていない。

■Gは、本件出資持分譲渡契約C1及び同D1につきいずれも平成13年6月1日付けで、同D2につき同年8月29日付けで、同C2につき同月30日付けで、同C1及び同C2について原告Cに対して、同D1及び同D2について原告Dに対して、それぞれ本件各匿名組合契約に基づくGの全ての権利、請求権及び権益並びに義務及び債務(「本TK権益」と呼ばれている。)を譲渡した旨を通知するとともに、本件各匿名組合契約9.1項に従い原告らの承認を構成するものとして送付した通知書への原告らの署名及びその副本の返送を求める旨の書面を送付した。上記各書面には、いずれも、GのVice Presidentであった乙(以下「乙」という。)の署名があり、また、承認し合意する旨の不動文字の下に、当時の原告らの日本における代表者であった丙(以下「丙」という。)の原告Cの日本における代表者の名義による記名押印がある(以下、これらを総称して「本件各譲渡通知書兼承諾書」という。)。なお、本件各譲渡通知書兼承諾書中のGからの通知の部分には、いずれも同文で以下の内容の記載がある。
「当社はまた、本匿名組合契約の9.1項は、本TK権益(TKInterests)のいずれかの譲渡に関連して本匿名組合契約の添付Bの修正がなされることを企図するものと認識しています。今回の場合、本件譲渡は本TK権益の包括譲渡です。したがいまして、添付Bの修正は不要です。貴社の本レターへの署名及び本レターの返送はまた、本件譲渡に関連して添付Bに係る変更は不要であることについて貴社の承認を構成するものとします。」

■なお、原告らとGは、平成13年6月1日付けで本件匿名組合契約C1及び同D1についての第1次修正契約書を作成し、上記の各匿名組合契約9.1項に基づき、原告ら及びGにおいてGからKへの前記a及びbの譲渡の内容を反映するため添付Bを修正する必要があるとし、上記の添付Bは同修正契約書に添付された添付Bをもって修正され、置き換えられる旨の合意(以下「本件C1等第1次修正契約」という。)をした。

■なお、修正後の添付Bには、TK出資者持分として、従前と同一の割合の記載があるとともに、「2001年6月1日付けの匿名組合の譲渡及び引受契約に従い、Kに移転されたとおり。」との記載がある。

■本件各匿名組合契約に係る業務委託契約について(別紙2-3・③)
a 原告Cは、平成13年3月7日、Lとの間で、原告Cを委託者(オーナー)、Lを受託者(マネージャー)として、本件匿名組合契約C1に係る事業の管理運営業務を委託する内容のアセット・アドバイザリー契約を締結した。

■なお、同契約は、その後に締結された本件匿名組合契約C2についても適用されることとされた(弁論の全趣旨。以下、同契約及びこれを修正した修正契約を総称して「本件業務委託契約1」という。)。

■本件業務委託契約1においては、Lがその契約書の添付書類1に示された対象資産に関連するサービスを履行するものとされており〔2(b)項〕、同添付書類には、対象資産関連の帳簿及び記録の維持〔A(k)〕、原告Cを代理して行う現金分配(C4)、原告Cに対して要求される監査に関する政府当局との調整(D1)、日本又は外国の法律、規則等により要求される政府当局へのあらゆる関連提出書類の作成(D2)等が記載されている。また、原告Cは、Lが丁の死亡又は無能力の結果によるものを除き、丁による「支配」を受けることを終了した場合は、いつでも本件業務委託契約1を終了する権利を有するとされている〔7(c)項(v)〕。

■なお、「支配する」とは、個人又は事業体において最低50%の議決権及び持分を直接又は間接的に保有していることをいうとされている(1項)。また、L宛ての全ての通知等について、その写しを「M」の戊(以下「戊」という。)宛てに送付するものとされている。

■原告Dは、平成13年3月7日、Nとの間で、原告Dを委託者(オーナー)、Nを受託者(マネージャー)として、本件匿名組合契約D1に係る事業の管理運営業務を委託する内容のアセット・アドバイザリー契約を締結した。

■なお、同契約は、その後に締結された本件匿名組合契約D2についても適用されることとされた(弁論の全趣旨。以下、同契約及びこれを修正した修正契約を総称して「本件業務委託契約2」という。また、本件業務委託契約1と併せて「本件各業務委託契約」という。)。

■本件業務委託契約2においては、その契約書の添付書類1に本件業務委託契約1の契約書の添付書類1と同じ内容が記載されているほか、原告Dは、Nが丁の死亡又は無能力の結果によるものを除き、丁による「支配」を受けることを終了した場合は、いつでも本件業務委託契約2を終了する権利を有するとされている〔7(c)項(v)〕。なお、「支配する」の定義も本件業務委託契約1と同じである。

■また、N宛ての全ての通知等について、その写しを「M」の戊宛てに送付するものとされている(23項)。c L及びNを含め別紙2-1の3(3)及び(4)に述べた関係にあるOとYとの間で、平成11年2月1日付けで、YがOに対して包括的な業務支援をすることを目的とするサービス・アグリーメント(業務支援契約)が締結されており、上記契約の契約書には、OのVice Presidentとして戊の署名があり、同契約に基づくO宛ての文書等の送付先として戊が指定されている。また、LとNとの間で、同年8月1日付けで、LがNに対して包括的な業務支援をすることを目的とするサービス・アグリーメント(業務支援契約)が締結されている。

■借入契約関係について
Kが締結した借入契約について(別紙2-3・④)Kは、本件各出資持分譲渡契約の譲渡価額の総額である236億3836万9068円の99%に相当する234億0198万5377円をPから順次借り入れる旨の契約を締結した。その契約の経緯及び内容の要旨は、以下のとおりである。なお、以下のaないしcの各借入契約の契約書の末尾には、「ローン契約のスケジュール」と題する別紙が添付されており、「借り主の財産目録」として、KがGから譲渡を受けた本件各匿名組合契約に基づく権利、債権及び利息である旨の記載がある。

■Kは、平成13年6月1日付けで、本件出資持分譲渡契約C1及び同D1の譲渡価額の合計額198億2530万円の99%に相当する196億2704万7000円を、Pから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅰ―1」という。)を締結した。本件借入契約Ⅰ-1の契約書の署名欄には、貸主及び借主の双方につき乙の署名があり、同契約で通知が義務付けられている又は認められている書類(以下、後述の本件各借入契約Ⅰ及び本件各借入契約Ⅱにおけるこれらの書類を「契約関連文書」という。)の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■Kは、平成13年8月29日付けで、本件出資持分譲渡契約D2の譲渡価額30億2556万9068円の99%に相当する29億9531万3377円を、Pから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅰ-2」という。)を締結した。

■なお、本件借入契約Ⅰ-2の契約書の署名欄には、貸主及び借主の双方につき乙の署名があり、契約関連文書の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■Kは、平成13年8月30日付けで、本件出資持分譲渡契約C2の譲渡価額7億8750万円の99%に相当する7億7962万5000円を、Pから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅰ-3」という。また、本件借入契約Ⅰ-1、同Ⅰ-2及び同Ⅰ-3を併せて「本件各借入契約Ⅰ」という。)を締結した。なお、本件借入契約Ⅰ-3の契約書の署名欄には、貸主及び借主の双方につき乙の署名があり、契約関連文書の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■Pが締結した借入契約について(別紙2-3・⑤)Pは、本件各借入契約Ⅰといずれも同日付けで、本件各借入契約Ⅰの貸付総額である234億0198万5377円と同額を、Q及びR並びにSから順次借り入れる旨の契約を締結した。その契約の経緯及び内容の要旨は、以下のとおりである。

■Pは、平成13年6月1日付けで、本件借入契約Ⅰ-1の貸付金額と同額の196億2704万7000円を、Q及びRから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅱ-1」という。)を締結した。

■本件借入契約Ⅱ-1の契約書の署名欄には、丁(Rについて)及び乙(Q及びPについて)の署名があり、契約関連文書の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■Sは、発効日を平成13年8月2日として、Q及びRから、本件借入契約Ⅱ-1に係る貸主の権利及び義務の全てを、同日の借入金元本残高である142億3559万9231円で譲り受ける旨の契約(以下「本件貸付債権譲渡契約」という。)を締結したところ、その契約書の署名欄には、乙(譲渡者について)及びT(以下「T」いう。)(譲受者について)の署名がある。

■これに伴い、本件惜入契約Ⅱ-1によるPに対する貸付金の債権者はSとなった。c Pは、平成13年8月29日付けで、本件借入契約Ⅰ-2の貸付金額と同額の29億9531万3377円を、Sから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅱ-2」という。)を締結した。

■なお、本件借入契約Ⅱ-2の契約書の署名欄には、丁(貸主について)及び乙(借主について)の署名があり、契約関連文書の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■Pは、平成13年8月30日付けで、本件借入契約Ⅰ-3の貸付金額と同額の7億7962万5000円を、Sから借り入れる契約(以下「本件借入契約Ⅱ-3」といい、本件借入契約Ⅱ-1、同Ⅱ-2及び同Ⅱ-3を併せて「本件各借入契約Ⅱ」という。

■また、本件各借入契約Ⅰ、本件貸付債権譲渡契約及び本件各借入契約Ⅱを併せて「本件各借入契約等」という。)を締結した。

■なお、本件借入契約Ⅱ-3の契約書の署名欄には、丁(貸主について)及び乙(借主について)の署名があり、契約関連文書の写しの送付先として戊を指定する旨の記載がある。

■原告らの借入れに対する保証について(別紙2-3・⑨)a Uは、平成13年5月31日、V株式会社(以下「V社」という。)に対し、原告らが同日付けでV社との間で締結したV社から374億6959万5730円の融資を受ける契約(以下「本件借入契約Ⅲ」という。)について、保証書(GUARANTEE)(以下「本件保証書1」という。)を差し入れた。

■当時Fの親会社であり原告らの優先株主でもあったW(以下「W」という。)も、同日、V社に対し、本件保証書1と同趣旨の保証書(以下「本件保証書2」という。また、本件保証書1と本件保証書2を併せて「本件各保証書」という。)を差し入れた。

■本件保証書1はリコース債務部分の上限が80%とされており、本件保証書2はリコース債務部分の上限が20%とされている。また、本件各保証書においては、いずれも保証に基づき必要な、又は送付が認められた書面(本件保証書1関係)又はその写し(本件保証書2関係)の送付先として戊が指定されている。

■U及びWは、それぞれ、V社に対し、平成13年7月3日付けで本件各保証書についての第一次修正保証書を差し入れた。

■上記各第一次修正保証書は、原告Dが特定の追加資産及び特定の信託に係る追加受益権の取得に関連して原告らがV社から81億3302万7767円の追加の融資を受けることに起因するものであり(第一次修正保証書・前文C及びD)、リコース債務部分の上限に関する割合が、Uが81%、Wが19%にそれぞれ変更されている(2.債務保証第2段落)。

■スワップ契約関係について
Kは、平成13年6月1日、Xとの間で、同年1月19日付けのISDAマスター契約(以下「本件スワップ契約1」という。)に基づき、本件匿名組合契約C1及び同D1に関する取引の具体的条件を確認する内容の取引確認書(Confirmation。以下「本件旧取引確認書」という。)を取り交わしたところ、本件旧取引確認書には、丁(Xについて)及び乙(Kについて)の署名がある。

■Kは、Xとの間で、平成13年8月1日付けで本件旧取引確認書によるスワップ契約を解約する旨の合意書を取り交わしたところ、同合意書には、T(Xについて)及び戊(Kについて)の署名がある。

■SとKとの間の契約について(別紙2-3・⑦)a Sは、平成13年8月2日、Kとの間で、同月1日付けのISDAマスター契約(以下「本件スワップ契約2」という。)に基づき、本件匿名組合契約P1及び同D1に関する取引の具体的条件を確認する内容の取引確認書(Confirmation。以下「本件取引確認書1」という。)を取り交わした。

■なお、本件取引確認書1の内容は、XがSに代わっているほかは、本件旧取引確認書の内容と同じである。b Sは、平成13年8月29日、Kとの間で、同日付けのISDAマスター契約(以下「本件スワップ契約3」という。

■また、本件スワップ契約1、本件スワップ契約2及び本件スワップ契約3を併せて「本件各スワップ契約」という。)に基づき、本件匿名組合契約D2に関する取引の具体的条件を確認する内容の取引確認書(Confirmation。以下「本件取引確認書2」という。)を取り交わしたところ、本件取引確認書2には、丁(Sについて)及び乙(Kについて)の署名がある。

■Sは、平成13年8月30日、Kとの間で、本件スワップ契約3に基づき、本件匿名組合契約C2に関する取引の具体的条件を確認する内容の取引確認書(Confirmation。以下「本件取引確認書3」という。

■また、本件取引確認書1、本件取引確認書2及び本件取引確認書3を併せて「本件各取引確認書」といい、本件各取引確認書による各スワップ取引を総称して「本件各スワップ取引」という。)を取り交わしたところ、本件取引確認書3には、丁(Sについて)及び乙(Kについて)の署名がある(乙21)。(ウ) 本件各取引確認書の記載内容本件各取引確認書の取引条件における、「支払い」及び「定義」の内容は、おおむね以下のとおりである。

■「支払い」各支払期日において、その前の支払期間について、①「純受取額」が「債務返済額」を超えている場合は、Kが、Sに対し、「利用可能な現金」の範囲内でその超える金額を米国ドルで支払い、②「債務返済額」が「純受取額」を超えている場合には、Sが、Kに対し、その超える金額を米国ドルで支払う。KがSに対して支払をするための「利用可能な現金」の額が不足する場合、当該不足額は、利息なしに未払で繰り越され、その支払期限は、「利用可能な現金」が当該支払をするに足りるようになった後の最初の支払期間に到来する。

■定義本件各取引確認書における「利用可能な現金」、「営業日」、「計算代理人」、「債務返済額」、「遅延損害金利率」、[純受取額」、「支払金額」、「支払期日」及び「支払期間」の意義の要旨は、以下のとおりである。

■「利用可能な現金」とは、各支払期間について、Kが取得し、本件資産(本件取引確認書1においては本件匿名組合契約C1及び同D1、本件取引確認書2においては本件匿名組合契約D2、本件取引確認書3においては本件匿名組合契約C2に係る、KがGから譲り受けた権利、債務及び持分を指す。)に関してKが受け取った総受取額の合計が、本件資産の取得等に割り当てられる部分に関係するKの全ての支払の総額を超過する額をいう。

■ 「純受取額」とは、各支払期間について、①本件資産からKに生じた収入及び利益の総額の99%から、Kに発生した資産に対して合理的に割り当てられる事業費の総計を控除した金額又は②0のいずれか高い方をいう。

■ 「債務返済額」とは、各支払期間について、KがPと締結した本件各借入契約Ⅰ(本件取引確認書1においては本件借入契約Ⅰ-1、本件取引確認書2においては本件借入契約Ⅰ-2、本件取引確認書3においては本件借入契約Ⅰ-3を指す。)の各条項に基づく利息、経費及び費用の合計額をいう。

■ 「計算代理人」とは、Yのことをいい、計算代理人の全ての決定及び計算は、明らかな間違いがない限りSを拘束する。

■投資の意思決定に関する書面について
Kグループにおいては、投資の意思決定に関する以下の各書面が作成されており、いずれの書面にも「Approved(承認)」欄に丁の署名がある。

■本件匿名組合契約C1関係平成13年3月1日付けの「Z」と題する書面(以下「本件投資メモC1」という。)が作成されている。

■本件投資メモC1には、①資産の種類は匿名組合の出資者の持分であり、パートナーはFである旨、②債権回収代行会社はLであり、自身の業務遂行のアシスタントとする旨、③期待収益について、レバレッジをかけない場合の内部投資収益率は18.6%と予測され、レバレッジをかけ、かつ、為替ヘッジを行った場合の自己資本割引率は25%超と予測される旨、④本ファンド〔j。以下(ア)において同じ。〕が所有し管理下にあるGが匿名組合財産の75%を取得し、取得後すぐこれを本ファンドが所有し管理下にあるKに取得原価と同額で譲渡する旨、⑤投資戦略の変更や、大幅な予想変更により何らかの調整が必要になった場合、その承認は投資委員会が行う旨、⑥Kが匿名組合財産から得る所得や利益は、日愛租税条約に基づき、日本における課税が免除される旨の記載がある。

■本件匿名組合契約D1関係平成13年3月1日付けの「a」と題する書面(以下「本件投資メモD1」という。)が作成されている。

■本件投資メモD1には、①資産の種類は匿名組合の出資者の持分である旨、②資産管理者はNである旨、③期待される収益は25%超である旨、④Gは匿名組合事業の94%を出資する旨が記載されているほか、前記とほぼ同様の記載がある。

■本件匿名組合契約D2関係平成13年6月13日付けの「b」と題する書面(以下「本件投資メモD2」という。)が作成されている。

■本件投資メモD2には、①資産の種類は不動産及び信託受益権である旨、②資産管理者はNである旨、③期待される収益は25%超である旨、④Gは匿名組合事業の94%を出資する旨が記載されているほか、前記とほぼ同様の記載がある。

■本件匿名組合契約C2関係平成13年7月13日付けの「d」と題する書面(以下「本件投資メモC2」といい、本件投資メモC1、D1及びD2と併せて「本件各投資メモ」という。)が作成されている。本件投資メモC2には、①資産の種類は匿名組合の出資者の持分である旨、②債権回収代行業者はLであり、自身の業務遂行のアシスタントとする旨、③期待収益については、レバレッジをかけない場合の内部投資収益率は19.9%と予測され、レバレッジをかけ、かつ、為替ヘッジを行った場合の自己資本内部投資収益率は25%超と予測される旨、④Gは匿名組合事業の75%を出資する旨が記載されているほか、前記(ア)とほぼ同様の記載がある。

■KによるGからの本件各匿名組合契約の「TK持分」の取得に関する資金の流れの整理等
本件匿名組合契約C1及び同D1については、いずれも平成13年6月1日付けで、①Q及びRが、Pに対し、本件出資持分譲渡契約C1及び同D1の譲渡価額合計198億2530万円の99%相当額である196億2704万7000円を貸し付け(本件借入契約Ⅱ-1)、②Pが、Kに対し、上記同額を貸し付け(本件借入契約Ⅰ-1)、③Kは、上記借入金に1億9825万3000円(上記譲渡価額合計の1%相当額)を加えて、Gから本件匿名組合契約C1及び同D1の「TK持分」を取得した(本件出資持分譲渡契約C1及びD1)。

■なお、Sが、発効日を同年8月2日として、Q及びRから本件貸付債権譲渡契約により本件借入契約Ⅱ-1に係る権利及び義務の全てを譲り受けたため、上記①のPに対する債権者は、Sとなった。

■Kは、Pに対し、平成13年7月3日から平成16年2月24日までの間に、本件借入契約Ⅰ-1の借入元本(196億2704万7000円)のほぼ全額(196億2704万6999円)を返済した。

■本件借入契約Ⅰ-1の返済履歴である「Loan Schedule-1」においては、本件借入契約Ⅰ-1は利率が3.5%とされており、平成15年10月3日までは、PがKから受領した金員のうち、利息の支払として未払利息に充当した後の残額を、本件借入契約Ⅰ-2及びⅠ-3に優先して元本に充当していた(なお、同日に充当計算が誤っていたことが判明したため、2億6420万9826円について貸付金の元本を復活させる仕訳がされている。)。

■本件匿名組合契約D2に係る資金の流れ
本件匿名組合契約D2については、いずれも平成13年8月29日付けで、①Sが、Pに対し、本件出資持分譲渡契約D2の譲渡価額30億2556万9068円の99%相当額である29億9531万3377円を貸し付け(本件借入契約Ⅱ-2)、②Pが、Kに対し、上記同額を貸し付け(本件借入契約Ⅰ-2)、③Kは、上記借入金に3025万5691円(上記譲渡価額の1%相当額)を加えて、Gから本件匿名組合契約D2の「TK持分」を取得した(本件出資持分譲渡契約D2)。

■Kは、Pに対し、本件借入契約Ⅰ-2の借入元本について、平成16年3月15日に17億4813万3380円、同年4月19日に12億4717万9997円を返済し、全額(29億9531万3377円)を返済した(乙22の2)。なお、本件借入契約Ⅰ-2の返済履歴である「Loan Schedule-3」(乙22の2)においては、本件借入契約Ⅰ-2は利率が3.5%とされており、平成15年10月3日までは、全く利息の支払及び元本の返済がされていない。そして、同日に充当計算が誤っていたことが判明したため、2億0297万4082円について利息の支払に充当する旨の仕訳がされている。

■本件匿名組合契約C2に係る資金の流れ
本件匿名組合契約C2については、いずれも平成13年8月30日付けで、①Sが、Pに対し、本件出資持分譲渡契約C2の譲渡価額7億8750万円の99%相当額である7億7962万5000円を貸し付け(本件借入契約Ⅱ-3)、②Pが、Kに対し、上記同額を貸し付け(本件借入契約Ⅰ-3)、③Kは、上記借入金に787万5000円(上記譲渡価額の1%相当額)を加えて、Gから本件匿名組合契約C2の「TK持分」を取得した(本件出資持分譲渡契約C2)。

■Kは、Pに対し、本件借入契約Ⅰ-3の借入元本について、平成16年2月24日に2億1043万9351円、同年3月15日に5億6918万5649円を返済し、全額(7億7962万5000円)を返済した。

■なお、本件借入契約Ⅰ-3の返済履歴である「Loan Schedule-2」(乙22の3)においては、本件借入契約Ⅰ-3は利率が3.5%とされており、平成15年10月3日まで、全く利息の支払及び元本の返済がされていない。そして、同日に充当計算が誤っていたことが判明したため、5283万0421円について利息の支払に充当する旨の仕訳がされている。

■Kは、アイルランドの法令に基づき設立された法人であり、アイルランドの居住者であるところ、原告らは、Kから本件各匿名組合契約に基づく利益の分配に係る支払につき日愛租税条約に基づき源泉所得税を免除されるための要件である租税条約届出書(以下「本件各租税条約届出書」という。)の提出を本件各処分の対象とされた支払に先立って受け、これを所轄税務所長である麻布税務署長に提出した。

■本件各匿名組合契約の各年度の損益の額及び利益の分配に係る支払の金額本件各匿名組合契約における各年度の損益の額及び原告らが本件各匿名組合契約に基づき利益の分配として支払をした金額は、別紙3「本件各匿名組合契約の各年度の損益の額及び利益の分配としての支払額」に記載のとおりである(なお、以下においては、本件各匿名組合契約に基づく各利益の分配に係る支払について、そのうちの99%相当額を総称して「本件各分配金」という。)。

■課税処分の経緯等
本件各処分、本件各処分についての原告らの異議申立て及びこれらに対する麻布税務署長の決定、これらの決定を経た後の本件各処分についての原告らの審査請求及びこれらに対する国税不服審判所長の裁決の経緯は、別表1-1及び別表2-1の各「納税告知及び賦課決定」欄、「異議申立て」欄、「異議決定」欄、「審査請求」欄及び「審査裁決」欄にそれぞれ記載されているとおりである。また、原告らによる本件各処分に係る納付の金額は、別表3及び別表4にそれぞれ記載のとおりである。

■原告らは、平成23年2月28日、本件各訴えを提起した。

(補足)日愛租税条約事件とは

■匿名組合契約の営業者であった原告ら(日本に支店を有するケイマン法人)は、匿名組合員(アイルランド法人)に対して、同契約に基づく利益の分配をした。この分配金の支払につき、国内法上は源泉徴収が必要になる(所得税法212条)が、アイルランド法人が日愛租税条約23条(その他所得条項)に基づき源泉所得税の免除を受けるための届け出を提出していなかったことから、原告らは源泉徴収をしなかった。これに対して、課税調は、同条約の適用はないものとして、原告らに源泉所得税の納税告知処分を行った。

■ここでの問題は、原告らは、匿名組合員として分配金を受領する権利を有していたものの、いわゆるタックスヘイブンであるバミューダにおいて組成された有限責任組合との間でスワップ契約を締結しており、原告らが受領する分配金の99%をバミューダの有限責任組合に支払うことが義務づけられていたことである。バミューダの有限責任組合が分配金の受領者であれば、当然日愛租税条約の適用はない。また、分配金を原資として、原告らから有限責任組合に支払われた金員(つまり分配金の99%)はアイルランドやバミューダでは課税されず、残りの1%がアイルランドで課税されるに過ぎない。

■このことから、課税調は、①分配金の99%はバミューダの有限責任組合に帰属するものであり、したがって租税条約の適用がないこと(所得の帰属についての事実認定による否認)、②本件は租税回避を目的とした租税条約の濫用であり、したがって租税条約の適用がないこと(租税条約の適用についての解釈による否認)を主張した。

■東京高裁は、課税庁によるいずれの主張も認めなかった。①事実認定による否認については、所得の人的な帰属関係を判断するに当たって、スワップ契約によっても原告らが匿名組合契約上の匿名組合員として分配金を請求する権利を有するという法律関係を変更するものではないことを理由に、課税庁の主張を斥けた。また、②解釈による否認については、租税法律主義に基づき、租税条約の適用を否認するためには明文の規定を要することを理由に課税庁の主張を斥けた。

編集者コメント

スワップ契約をどう見るか 可分な契約の集合との考えは法律的帰属説の枠組みを超えるとも

■裁判所は、所得の人的帰属につき、経済的な実質関係ではなく法律関係に基づいた判断をしており、そのことは実質帰属者課税(実質所得者課税)の原則に関する通説的な見解である法律的帰属節と整合的であり、正当と思われる。ただし、本件の特殊性として、スワップ契約をどう見るかは問題であろう。

■例えば、問屋契約(商法551条)を例にすれば、受託者である問屋が委託者のために第三者に商品を販売する場合、当該第三者との間の対外的な法律関係では問屋が商品販売の代金を収受する権利を有する(商法552条)が、問屋と委託者との間の内部的な法律関係では代理の規定が適用され(商法552条)、問屋が収受すべき代金に係る権利関係は特別の権利移転行為なくして委託者に移転し、委託者は問屋に対して代金の引き渡しを請求できる。このような法的実質に照らせば、商品販売から生ずる所得につき、問屋は単なる名義人であって法的な帰属は委託者にあるといいうる。

■これと同様にバミューダの有限責任組合が、原告らとの間のスワップ契約に基づいて分配金の引き渡しを請求する権利を有するのであれば、当該分配金に係る所得については、原告らは単なる名義人であって法的な帰属はバミューダの有限責任組合にあるとも考えられる。

■それでも、問屋契約ではその性質上、外部的な法律関係と内部的な法律関係が不可分的に生ずるのに対して、本件は、匿名組合契約とスワップ契約という異なる性質の契約を組み合わせたに過ぎず、これを問屋契約と同様に扱うことは難しいのではないだろうか。性質上可分である複数の契約を結合して所得の法的な帰属関係を考えることは、もはや法律的帰属説の枠組みを超えると思われる。

重要概念/適用条項

「その他所得条項」の適用

■本件では、日愛租税条約23条(その他所得条項)の適用の有無が争われたが、その点は疑問も残る。

■同条項は、居住地国(アイルランド)に排他的な課税権を認めるものであり、同条項が適用されれば、分配金について日本での課税は免除されるという結論になる。ところが、その他所得条項は、その名称が示すとおり、租税条約が定める他の所得条項がいずれも適用されない所得を最後に包摂する規定である。分配金に適用される所得条項が他に存在する場合、その他所得条項の適用はない。匿名組合契約に基づく分配金については、個別の租税条約に特別の定めがない限り、利子所得条項が適用されると考えられる。本件でも、日愛租税条約12条(利子所得条項)が適用されると考えた場合、日本は分配金について10%の限度で課税することが認められることになる。

受益者要件

■一般の租税条約では、配当、利子、使用料の各所得につき、源泉地国で課税の減免という恩恵を享受するためには、当該所得の受領者のみならず、「受益者」が相手国の居住者である必要がある。これを受益者要件と呼び、中間者を介在させることで租税条約の恩恵を享受する導管取引に対して租税条約の適用を否認するものとして機能する。ただし、日愛租税条約においては、この受益者要件についての明文の規定を欠く。

■ここでの受益者とは、所得の法的な帰属主体である受領者とは区別される。当該所得を自由に処分する機能を有する者が、受益者である。そこで本件のようなケースで、原告らは法的な観点からは所得の受領者であるといえるものの、その99%をそのままバミューダの有限責任組合に支払うわけであるから、これを自由に処分する機能を原告らは有していないこととなり、受益者には該当しない。そうすると、受益者要件が適用sあれる場合、利子所得条項の恩恵を享受することも出来ず、国内法に基づく課税がなされることとなる。

併せて読みたい/シルバー精工事件

【特許紛争和解金の国内源泉所得該当性】(最判平成16年6月24日)

米国法人に支払った特許侵害の和解金の主たる部分は米国での販売許諾の対価であり、国内での製造許諾の対価ではないから国内源泉所得に該当しないとされた事案。

納税者である法人(被上告人)は米国にプリンター等を、米国販売子会社を通じて輸出していましたが、米国法人から特許侵害で訴えられ和解金を支払ったところ、課税庁が国内源泉所得の使用料であるとして所得税納税の告知等をしたことから、その処分に不服な納税者が訴えた。

地裁では課税庁が敗訴し、課税庁が控訴しましたが敗訴し、上告しました。当時の日米租税条約は使用料については国内法同様に使用地主義をとっており10%の制限税率(現行条約では0%)での課税権が使用地国に認められた。

主要な争点として、和解金が国内源泉所得かというものがありました。課税庁は、納税者が直接米国で販売していないから米国での販売許諾の対価ではなく、日本での製造や輸出を阻害されないために支払ったものだから製造許諾の対価であると主張。

しかし、最高裁は課税庁の上告を棄却。納税者は子会社が米国で販売できなければ経済的打撃を受ける関係にあり、子会社のために契約を締結することは特に意図すべきものではなく、契約の内容を読む限り米国の販売許諾の対価と考えられたため。納税者勝訴で確定。