塩野義製薬事件
目次
共有持分とLPの契約上地位は不可分に結合
概要
外国完全子会社に対しLPS持分を移転して行われた現物出資が、その持分は「国内にある事業所に属する資産」でないとして適格現物出資と判断された事案。
相関図
塩野義製薬株式会社は、大阪府大阪市中央区道修町三丁目に本社を置く、日本国内の大手製薬企業であり、処方箋医薬品と一般用医薬品を主とする製薬企業である。
概要
- ■概要
- ■外国完全子会社に対しLPS持分を移転して行われた現物出資が、その持分は「国内にある事業所に属する資産」でないとして適格現物出資と判断された事例。
■内国法人である納税者(被控訴人)が、米国法人との間でジョイントベンチャーを形成する契約を締結し、英国領ケイマン諸島において特例有限責任パートナーシップであるCILPを設立した後、そのCILPのパートナーシップ持分全部を英国完全子会社に対し現物出資により移転した事案。
■地裁では、本件現物出資の対象資産であるCILP持分(CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産)の管理が行われていた事業所は、米国その他の我が国以外の地域に所在しており、本件持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとして、課税庁の処分を取り消した。
■高裁は、本件現物出資の対象資産であるCILP持分は、パートナーが契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであり、CILP持分の管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所とした。その上で、CILPの事業用財産が現金、知的財産のライセンス及び治験データ等で構成されていたことから、これらが我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていた点を考慮し、本件持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当しないとした。その結果、本件は適格現物出資の要件を満たすとして、国の控訴を棄却し。国が上告等を行わなかったため高裁で確定。納税者勝訴。 - ■裁判所
- 東京地方裁判所 令和2年3月11日判決(古田孝夫裁判長)(一部認容・棄却)(納税者勝訴)(被告国控訴)
東京高等裁判所 令和3年4月14日判決(白井幸夫裁判長)(控訴人国)(棄却)(確定)(納税者勝訴)
争点
本件現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否か。
判決
東京地方裁判所
→納税者勝訴
東京高等裁判所
→納税者勝訴(確定)
完全支配関係がある場合の適格現物出資の要件
完全支配関係がある場合の適格現物出資の要件
① 金銭等不交付要件
「金銭等不交付要件」とは、現物出資法人に被現物出資法人株式以外の資産が交付されないことをいう(法法2十二の十四)。
合併や分割と違って、1株未満の端数相当の金銭交付や反対株主の買取請求に基づく金銭の交付はない。
② 完全支配関係継続要件
「完全支配関係継続要件」とは、完全支配関係がある法人同士の現物出資の場合に、再編後においても完全支配関係が継続する見込みがあることをいう(法法2十二の十四イ、法令4の3⑬)。
キーワード
■キーワード
LPS、移転資産、外国法人、課税の繰延べ、共同事業、繰越欠損金、契約上の地位、現物出資、国内資産、事業用資産、出資持分、ジョイントベンチャー、譲渡益、組織再編税制、適格現物出資、特例有限責任パートナシップ、パススルー課税
■重要概念
現物出資
東京地裁/両者の主張
納税者の主張
租税法における「資産」は、租税法上の固有概念であるから、本件現物出資の対象となった「資産」が何であるかは、租税法独自の見地から検討されるべきである。
CILPは、ELPS法に基づき組成された特例有限責任パートナーシップであり、民法上の組合に類似した事業体として、日本の租税実務上、パススルー課税が適用される。株式会社と組合では、法人格が認められるか否かで根本的な相違があり、法人は、法人格によって組織体自体の権利義務主体性が認められ、構成員と組織体の財産との間の関係が切断されているのに対し、組合においては、組織体自体は権利義務の帰属主体ではなく、構成員が持分割合に応じて個々の組合財産を共有しているとされるものであって、組合に対する抽象的な持分は、租税法上、独立の財産権として観念し得ない。
よって、租税法上、組合の出資持分が譲渡される場合、法人格を有する組織体における抽象的な出資持分(株式等)とは異なり、個々の組合財産に対する持分権が移転したものとして取り扱われる。
仮に、租税法における「資産」が借用概念であるとしても、組合に対する出資持分は組合員たる地位と切り離して譲渡できず、組合員たる地位は譲渡できないから、かかる抽象的な持分には譲渡性がない。
また、私法上の性質としても、抽象的な所有権や組合の組合員が組合財産に対して有する共有持分権は、その目的物と切り離して管理(使用・収益)の対象とすることはできず、その抽象的持分そのものを譲渡ないし現物出資等の取引の客体となる財産権として観念する意味はない。
以上のとおり、CILPは日本の租税法上、組合と同様に取り扱われるから、本件現物出資の対象資産は、本件JVが行う事業を構成し、有機的一体として機能するCILPの事業用財産(に対する原告の有する持分割合相当の持分権)であり、出資持分それ自体ではない。
「国内にある事業所に属する資産」の外国法人への現物出資を適格現物出資に該当しないこととしたのは、国内で創出ないし価値の増大した資産(含み益のある国内資産)を外国法人に対する現物出資の方法によって国外へと移転することを通じた不当な課税繰延べや租税回避を防ぐ点にあり、海外支店の海外現地法人化については、課税の繰延べが意図されている。
このことは、「国内にある事業所に属する資産」から生じる所得は、当該事業所が所在する日本にその源泉があり、日本が無制限の第一次課税権を有するのに対し、海外支店を海外現地法人化する場合には、第一次課税権を有する場合ではないから、日本の課税権を及ぼすのは不適切であるとする国際的な課税権の配分ルールにも合致するものであり、合理的である。
上記趣旨に照らせば、施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」の「属する」とは、我が国が国際的な源泉地管轄に基づく第一次課税権を有することを意味する。
そして、資産を経常的に管理している事業所(法人税基本通達1-4-12参照)は、その経常的な管理を通じて、その資産の価値を創造又は増大させていると考えられるから、本件でも、資産が「属する」事業所は、CILPの事業用財産の経常的な管理を通じて、その資産の価値を創造又は増大させている事業所と解すべきであり、それが国内にある事業所か否かで適格現物出資該当性を判断すべきである。
そして、事業用財産を一括して現物出資する場合、個々の事業用財産が有機的一体となって機能することにより、いわゆる「のれん」が発生するのであるから、「のれん」を含む事業全体の含み益が創出された事業所を特定するに当たっては、個々の財産について個別に判断するのではなく、一つの事業を構成する事業用財産が全体として属する事業所を判断する必要がある。
CILPの新薬開発事業は、新薬の開発、製造・販売のために組織化され、有機的一体として機能する財産であり、その事業全体を一つの財産と捉えて一括して本件現物出資に供したものであるから、これらの事業用財産の属する事業所を検討するに当たっては、1個の財産として把握された事業用財産の帰属する事業所が検討されなければならない。
組合において業務執行者が選任されている場合には、その事業用財産は、当該業務執行者により、組合の対内的な業務執行の一環として管理され、使用収益される。そして、業務執行者が、その業務執行全般を非組合員である第三者に委任した場合、委任を受けた第三者は、自己の計算ではなく、組合の計算により当該業務執行を行うものと解されるから、当該第三者の事業所は当該組合の事業所となる。
本件では、CILPから新薬開発に関する業務執行全般の委任を受けたUSOpCoにおける本件JVの意思決定機関であるJSC(Joint Steering Committee)及びGSK/ViiV側が、GSK/ViiV側が有する米国フィラデルフィアの事業所及びノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークの事業所において、新薬開発事業における重要な意思決定と経営管理、新薬開発の核心である治験(臨床試験)の実施管理、特に治験(臨床試験)の継続・中止に直結する安全性モニタリングと問題事象への対応判断等の新薬開発の成否に直結する業務を行っていた。
また、CILPの事業用財産は、上記米国事業所において作成・保管されていたCILPとUSOpCoの帳簿に記帳され、原告の本社の帳簿には、本件JVに対する出資持分の記帳がされていたものの、CILPの事業用財産に関する記帳はされていなかった。
CILPの事業用財産を構成する資金を保管していた本件JV名義の口座も米国に存在しており、日本国内における口座は存在しておらず、これらの預金口座への出入金の管理は、GSK/ViiV側が行っていた。
以上によれば、CILPの事業所である上記米国事業所においてCILPの事業執行が行われ、CILPの事業用財産の経常的な管理が行われていたと解すべきである。
CILPの事業用財産の含み益の額は、本件JVが開発した新薬をJVテリトリーで販売することにより将来得ることができる収益の割引現在価格相当額である。
本件JVの事業である治験(臨床試験)は全て日本国外で実施され、その成果物である治験データベースもGSK/ViiV側の事業所により管理され、原告側は、当該治験データにアクセスすることすら許されていなかったのであり、CILPの事業用財産の含み益は日本国外で実施した治験を通じて、創出ないし増大されたものである。
一方、製薬会社においては、非臨床試験・臨床試験の実施や治験原薬の製造等を外部の医薬品開発受託機関(CRO)や医薬品製造受託機関(CMO)に委託することはごく一般に行われているところ、原告がCILPから委託を受けて国内において行っていた開発及び製造も、これらのCROやCMOに相当する業務を行っていたものと同様であり、業務委託においては、その業務を委託するという意思決定が価値を増大させているのであって、単に原告がCILPの手足として具体的な開発・製造行為を行った場所が、無形資産の価値が創出ないし増大された場所となるものではない。
課税実務上、組合の事業活動が行われている事業所は、他の組合員にとっても、恒久的施設として取り扱われるものとされる(平成26年度税制改正前の所得税基本通達164-7参照)。そして、法人税法上、「恒久的施設」とは「事業所」を含む概念であり、組合がある事業所をその事業活動の用に供している場合、その事業所は、当該組合の組合員全員にとっての事業所となる。
CILPは、原告とGSK/ViiVとの間の共同事業を行う主体であるから、本件JVの事業活動を行っていた前記米国事業所は、原告の国外にある事業所を構成する。
以上によれば、CILPの事業用財産全体により構成される新薬開発事業は原告の国外にある事業所に属し、国外にある事業所で経常的な管理が行われていたことが明らかであるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当せず、本件現物出資は適格現物出資に該当する。
国税庁の主張
法人税法及び施行令における「現物出資」の対象となる資産は、会社法における「現物出資」の対象となる資産と同様に、金銭以外の財産で、財産的価値があり、譲渡可能なものを広く含むと解される(借用概念論における統一説)。
そして、実際に行われた現物出資の対象資産が何であるかについては、契約当事者が合意し、実行した私法上の法律行為及びそれによって生じた法律関係によって判断されるべきである。(イ)ELPS法上、LPのパートナーシップ持分が譲渡された場合、その譲受人は、当該持分に関して譲渡人の権利義務を承継したLPになるとされているほか、同持分が譲渡抵当の対象となることが予定されているから、当該持分自体を財産的価値がある譲渡可能な資産として捉えることが可能である。
そして、本件現物出資契約の内容からすれば、当事者が現物出資の対象資産としたのは、原告が保有していたLPのパートナーシップ持分である本件CILP持分自体であることは明らかである。
以上のとおり、本件現物出資の対象資産は、本件CILP持分そのものであり、その内実は、CILPのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体(個々の事業用財産の共有持分を含む。)である。
原告は、本件現物出資の対象資産をCILPの事業用財産である旨主張するが、ELPS法の定めや本件パートナーシップ契約上、LPである原告はCILPの持分を離れて、CILPの事業用財産のみを現物出資することはできないから、原告の主張は失当である。
また、原告は、組合に関するパススルー課税を根拠として、組合に対する出資持分を現物出資の対象資産と捉える考え方を否定するが、パススルー課税の考え方は、組合に生じた損益に係る課税について、その組織体の事業主体性が無視されて、各組合員が納税義務の主体となるというものであり、租税法令上、およそ組合の団体性に基づく私法上の出資持分の存在が無視されるということを意味するものではなく、本件は、パススルー課税の考え方が当てはまる場面ではない。
法人税法2条12号の14の規定のうち適格現物出資の範囲から「外国法人に国内にある資産として政令で定める資産の移転を行うもの」を除外する旨を定めた部分及びこれを受けた施行令4条の3第9項の規定は、現物出資法人の事業所が国内外に複数存在する場合において、国内にある資産を現物出資した際の含み益に対する課税が行われなくなることを規制し、我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものである。
内国法人が国内にある事業所において経常的に管理している特定の資産は国内にある資産であるといえ、当該資産の譲渡益には我が国の課税権を確保する必要性が高いから、施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」とは、国内にある事業所において経常的な管理が行われている資産と解するのが相当である。そして、通常、資産は、当該資産を経常的に管理している事業所において帳簿に記帳されていると考えられるから、特にこれと異なる事情がない限り、当該資産が記帳されている事業所と当該資産の属する事業所とは一致すると解される。
よって、現物出資の対象資産が「国内にある事業所に属する資産」であるか否かは、当該資産が記帳されている事業所が国内にあるか否かを検討し、次いで、当該資産の記帳された事業所とは別の事業所で実質的に経常的な管理が行われていたと認定できるほどの事実が認められるか否かで判断するのが相当である(法人税基本通達1-4-12参照)。
本件において、原告は、本件CILP持分の持分割合に基づき、CILPに出資する義務やその収益及び費用等の配賦を受ける地位を有していたところ、本件CILP持分は、国内にある原告の本社経理財務部が管理する有価証券台帳に投資有価証券として記帳されており、かつ、同台帳には原告が各出資を行ったことやCILPに係る費用等の配賦の結果等が適宜記帳されていたことからすれば、本件CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」に該当すると推認される。
そして、現に本件現物出資は原告本社の取締役会で意思決定が行われ、その他の本件CILP持分に係る追加出資の意思決定等が原告本社において継続的に行われていたのであるから、本件CILP持分は、本件現物出資に至るまで、原告本社において経常的に管理されていたといえる。
他方、CILP及びUSOpCoは独自の事業所を有しておらず、原告もケイマン及び米国に事業所を有していなかったことからすれば、CILP設立当初においては原告の保有するCILPのパートナーシップ持分は原告の国内にある事業所において管理されていたと解さざるを得ず、その後も本件現物出資に至るまで、本件CILP持分がその管理の場所を移転したと認められる特段の事情はない。
よって、本件CILP持分は、国内にある事業所において記帳され、経常的に管理されていたものであり、原告の国内にある事業所に属する資産に該当する。
仮に、本件現物出資の対象資産がCILPの事業用財産であるとしても、適格現物出資に該当するか否かは、現物出資行為(契約)ごとに判断されると解され、現物出資行為(契約)の対象資産が複数ある場合、その中に一つでも国内にある事業所に属する資産が含まれている場合には、外国法人に国内にある事業所に属する資産の移転を行うものとして、その現物出資全体が適格現物出資に当たらないと解するのが相当である。
本件JVにおける新薬の開発活動においては、治験原薬の開発が原告の責任において行われ、非臨床試験の一部についても原告又はその委託により日本国内で行われていたから、国内にある事業所もその治験プロセスに密接に関与していたということができる上、CILPの事業用財産の少なくとも一部は国内でその価値が創出ないし増大されたというべきである。このように、治験原薬、非臨床試験データ等は原告の国内にある事業所において経常的な管理がされているものであって、これらは国内にある事業所に属する資産に該当するから、本件現物出資は適格現物出資に該当しない。
なお、施行令4条の3第9項は、外国法人の発行済株式等の総数の100分の25以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式については「国内にある事業所に属する資産」から除く旨の例外規定を定めているところ、同例外規定は、内国法人が保有する海外子会社の株式を現物出資して海外に統括子会社を設立するような場合に、国外における子会社の再編成を妨げることのないように政策的に定められたものである。
ケイマンの特例有限責任パートナーシップは「外国法人」には該当しないから、その持分である本件CILP持分は上記例外規定にいう「外国法人の株式」に該当しない。また、租税特別措置法は、「外国法人」と「組合事業」及び「外国法人の株式」と「組合事業に係る出資」とを区別しており、法人税法においても同様と解すべきところ、本件CILP持分は租税特別措置法67条の12第1項にいう「組合事業に係る出資」に該当するから、この点からも「外国法人の株式」に該当しないことが明らかである。
したがって、上記例外規定は、本件CILP持分に適用されない。エ以上のとおり、本件現物出資の対象資産は本件CILP持分であり、その対象資産は「国内にある事業所に属する資産」に該当するから、本件現物出資は適格現物出資には該当しない。
東京高裁/両者の主張
納税者の主張
本件現物出資の対象資産ア本件現物出資の対象財産は、Fの事業用資産(に対する被控訴人の有する持分割合相当の持分権)であり、適格現物出資該当性の有無を判断するに当たっては、Fの事業用財産を経常的に管理する事業所を検討しなければならない。
この点について、原判決は、本件現物出資の対象資産を本件F持分であると判示しているところ、これについては、当該持分自体をもって抽象的に捉えるのではなく、その内実である事業用財産の共有持分及び契約上の地位を不可分一体とした上で、本件F持分の経常的な管理が行われていた事業所の判断に当たっては、Fの事業用財産という個別の財産を経常的に管理していた事業所に着目すべきことを正当に認識したものであり、極めて妥当である。
この点について、控訴人は、本件においてF持分を1個の法的地位として捉えた上で、その1個の法的地位が譲渡可能な1つの資産であり、当該1個の法的地位を管理していた事業所を判断すべきであると主張する。これは、LPとしての法的地位を、株式会社における株式や法人に対する出資持分と同様の資産と取り扱うべきとするものである。
しかしながら、このような控訴人の主張は、我が国の租税法令の基本的な考え方に反するものである。すなわち、「任意組合等」は、「法人」とは異なり、出資者から独立した権利義務の帰属主体とはならず、「法人」である事業体への出資と「任意組合等」である事業体への出資とでは、その私法上の法的性質は全く異なっており、租税法令上も異なった取扱いを受けているのであり、控訴人の主張は、この基本的な立場を、無視するものである。
また、控訴人は、ELPS法の規定や本件パートナーシップ契約の規定を指摘して「他のパートナーの同意があれば、LPのパートナーシップ持分につき、売却、質入れ、担保権の設定その他の移転が可能であるとされていた」として、本件F持分自体が財産的価値を有し、譲渡可能な資産であったと主張する。
しかし、ELPS法の条文は、持分を証券取引所に上場するなど持分が譲渡性を有するパートナーシップもあり得るとの前提に立ってその取扱いについて規定したものであって、本件におけるFのようなパートナーシップには関係がない。実際、本件パートナーシップ契約においては、Fについては、LP持分の譲渡につき全てのパートナーの同意が必要と規定されているが、これは、民法上の任意組合においても組合契約で別段の定めがある場合に限り譲渡が可能であることと同様である。したがって、これらの規定は、本件F持分を株式同様の資産として取り扱うべき理由とはならない。
さらに、控訴人は、個々の事業用資産の客観的価値を上回る無形資産があることから、F持分を株式同様の1個の資産と取り扱うべきであるかのように主張する。 しかし、個々の事業用資産の客観的価値を上回る無形資産が生じる現象は、事業の移転の場合、すなわち、一定の事業目的のため組織化され有機的一体として機能する財産を移転する場合には、常に生じ得る現象であり、任意組合等の出資持分を株式同様の資産と取り扱う根拠となるものではない。
原判決は、本件F持分の「経常的な管理が行われていた事業所」を「Fの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所」の場所によって判断するとしているところ、これは、移転されたFの事業用資産を経常的に管理することにより、その価値を創造・増大させた事業所に着目し、当該事業所が本件F持分の属する事業所となるというものであって、国内資産の含み益に対する我が国の課税権の適切な行使を図った施行令4条の3第9項の立法趣旨に沿うものであり、また、国際租税法における一般的な課税権の分配ルールである源泉地管轄の理念にも合致するものである。
原判決は、本件F持分の経常的な管理をしていた事業所の認定について、Fの事業用財産の総体を一つの財産とした上で同財産の「経常的な管理」の有無を判定することとしているところ、これは、組合形態で営む事業体の特性を正しく認識し、そのような事業体の実態を踏まえた適切な課税準則を示すものとして、正当である。
そして、Fは、本件JVにおいて治験(臨床試験)を実施することが相当であるとJSC(Joint Steering Committee)が判断する新薬候補の化合物について、被控訴人又はI/JからJVテリトリー(米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)において開発・製造・販売する独占的権利のライセンスを受け、新薬を開発する事業を営んでいたものであり、新薬開発の「経常的な管理」をしていた事業所こそが、Fの事業用財産の価値を創出・増大させ、ひいては本件F持分の含み益も生じたものであるところ、本件では、このような「経常的な管理」は、日本国外の事業所で行われていたものである。
この点について、控訴人は、本件F持分は、その取得から本件現物出資に至るまでの間、被控訴人本社の経理財産部が管理する有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたなどと主張する。
しかし、そもそも、本件F持分を株式会社における株式と同様の資産と取り扱うことが誤りであることは、前記のとおりであり、また、任意組合等の出資持分の記帳は単なる「過去の投資の記録(歴史的原価)」であるから、任意組合等の出資持分を現物出資した場面において出資持分自体の記帳や経常的な管理を検討することは、施行令4条の3第9項の趣旨に反するものである。
資産又は負債が「属する」事業所とは、当該資産又は負債の法的な帰属主体ではなく、当該資産又は負債の経常的な管理をしていた事業所を意味するのであり、共有持分権ないし「F持分権」といった抽象的な権利に対する「管理」は観念できない。Fの個々の事業用財産の共有持分権、あるいは控訴人の主張するところの本件F持分について、それらを「管理」していた事業所を検討すべきとする控訴人の主張は、誤りである。
また、F持分の記帳の場所等によって「属する事業所」を判断しようとする控訴人の主張は、海外支店の現地法人化の場面と国外の組合事業の現物出資の場面とで合理的理由なく判断基準を変えるものであり、不合理である。
さらに、控訴人は、本件F持分の財産的価値の源泉は、その構成要素である個別の権利等の総体としての資産であり、利益の分配及び資本勘定からの払戻しを受けられるLPとしての契約上の地位そのものにあるなどと主張し、本件F持分自体の記帳や経常的な管理をしていた事業所をもって本件F持分が属していた事業所を判定すべきとするが、本件においては、新薬の開発こそが目的であり、Fのパートナーたる地位は、その目的を実現するための手段に過ぎないのであり、本件の事実関係に鑑みれば、本件F持分の価値が増大し、その含み益が創出された場所は、本件F持分自体の記帳や経常的な管理をしていた事業所ではあり得ないことが明らかである。
国税庁の主張
ELPS法、Fや各パートナーの権利義務等に関する有限責任パートナーシップ契約(本件パートナーシップ契約)及び本件現物出資に係る契約(本件現物出資契約)の各定めによれば、本件現物出資の対象資産が、被控訴人の保有するFのパートナーシップ持分(本件F持分)自体であることは明らかであり、この点については、原判決も同旨の判示をしている。
すなわち、現物出資は出資対象である資産の譲渡であり、法人税法22条2項及び3項は、実現した所得に担税力を見出して課税するという課税原則に即して、譲渡時における資産の価値の増加益(キャピタル・ゲイン)に課税することを定めたものである。
ここで、資産とは、譲渡性のある財産権を全て含み、動産・不動産はもとより、借地権、無体財産権等の各種権利や法的地位などを広く含むものであると解されており、資産には、複数の権利義務を有する一定の法的地位のように、複数の要素から構成され、相互に分離独立することがなく不可分なものとなっているものもあるところ、1個の不可分な資産の価値は、当該資産の全要素が一体となって形成されるものである。
したがって、資産の譲渡による収益は、当該資産の全要素から形成される価値全体が具現化したものであって、当該資産のうちの特定の要素・部分から生じていると見ることはできず、例えば、いわゆる営業権やノウハウなどと呼ばれる無形資産の譲渡による収益は、当該無形資産の基となる様々な要素のうち特定の要素の価値(の増加)から生じるものではない。
このように、1個の不可分な資産の譲渡から生じる収益は、当該資産の全要素から形成される全体的な価値から生じるものであって、資産の譲渡益課税においては、このような資産の全体的価値(の増加益)が担税力の根拠となっている。
そして、ELPS法上、「パートナーシップ持分」とは、特例有限責任パートナーシップのパートナーが、パートナーシップ契約又はELPS法に基づき保有し又は服する、利益、資本及び議決権その他権利、恩恵又は義務に関する持分をいうとされ、LP(有限責任パートナー)のパートナーシップ持分の全部又は一部が譲渡されたときは、その譲受人は、当該持分に関して譲渡人の権利義務を承継したLPになるとされているほか、LPは、自己のパートナーシップ持分の全部又は一部を譲渡抵当に入れることができるとされている。また、本件パートナーシップ契約においても、他のパートナーの同意があれば、LPのパートナーシップ持分につき売却、質入れ、担保権の設定その他の移転が可能であるとされていた。したがって、本件F持分は、それ自体が財産的価値を有し、かつ、譲渡可能な資産であることが明らかである。
本件F持分が被控訴人の「国内にある事業所に属する資産」に該当することアELPS法上、「パートナーシップ持分」とは、特例有限責任パートナーシップのパートナーが、パートナーシップ契約又はELPS法に基づき保有し又は服する、利益、資本及び議決権その他権利、恩恵又は義務に関する持分をいうとされ、LPのパートナーシップ持分の全部又は一部が譲渡されたときは、その譲受人は、当該持分に関して譲渡人の権利義務を承継したLPになるとされている。また、本件パートナーシップ契約によれば、LPである被控訴人は、本件F持分を保有することで、LPたる地位に基づき、Fに係る各種の権利義務を有していたといえる。
したがって、本件F持分は、FのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であり、それらは不可分一体のものであるから、このような本件F持分の資産としての本質(性質)に鑑みれば、その管理が行われていた事業所は、そこに包含される個別の権利(利益の分配を受ける権利等)や事業用財産(の共有持分権)ではなく、各種権利義務の総体たるLPとしての法的地位を管理していた事業所がどこかという視点で判断されなければならない。
また、施行令4条の3第9項が定められた趣旨は、国内にある資産の含み益に対する課税を確保することにあるから、本件F持分の「属する」事業所は、本件F持分という1個の不可欠な資産の担税力の根拠となる全体的価値が「属する」事業所でなければならない。そして、本件F持分の財産的価値の所在(担税力の所在)は、同持分を保有することにより利益の分配及び資本勘定からの払戻しを受けられる地位そのものにあったというべきであるから、本件F持分がいずれの事業所に「属する」かについては、被控訴人が保有する本件F持分という1個の法的地位について経常的な管理を行っている事業所がどこかという視点で判断すべきである。
ある資産が国内にある事業所において経常的に管理されている場合、当該事業所に備え付けられた帳簿に記載されているのが通常であるところ、本件F持分のような各種権利義務の総体である法的地位は、何かに記録されなければ管理を行うことはできないから、当該事業所の帳簿に記載することが正に当該法的地位を管理することになるのであって、本件F持分については、その取得から本件現物出資に基づく喪失に至るまでの間、被控訴人本社の有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたことは明らかである。
このことは、①本件F持分の取得及び処分に係る法律行為について、国内にある被控訴人本社において意思決定が行われていたこと、②Fの事業に生じた利益を受けるのは被控訴人であり、かつ、その配賦が行われた利益を記帳等によって管理するのは被控訴人本社であること、③被控訴人が行った各出資についても、被控訴人本社で意思決定が行われていた上、その拠出金は、被控訴人本社経理財務事業部により、国内にある銀行の被控訴人名義の当座預金口座からF名義の預金口座に送金されるなどし、その内容は、随時、被控訴人本社の経理財務部が管理する上記有価証券台帳に記載されていたこと、④本件F持分の保有等に伴うリスクを負担・処理する権限を有していたのは、国内にある被控訴人本社であることなどの本件F持分に係る事実関係からも明らかである。
以上によれば、本件現物出資の対象資産である本件F持分は、被控訴人の「国内にある事業所に属する資産」に該当するから、本件現物出資は適格現物出資に当たらない。
原判決は施行令4条の3第9項の適用を誤ったものであることア原判決は、本件F持分を一つの不可分な資産と捉えながら、本件F持分の価値に包含される事業用財産を管理する個々の事業所をもって同持分を管理する事業所であると判断しているが、各種権利義務の総体である法的地位が全体として不可分な財産的価値を有しているという本件F持分の資産としての本質に鑑みれば、これを管理する事業所は、本件F持分の価値に包含される個別の権利や事業用資産を管理する個々の事業所ではなく、同持分の法的地位そのもの(全体)を管理する事業所であるというべきである。
仮に、原判決のように、本件F持分の「価値の源泉」に着目するとしても、その財産的価値の源泉は、その構成要素である個別の権利義務の総体としての資産であり、利益の分配及び資本勘定からの払戻しを受けられるLPの契約上の地位そのものにあるというべきであって、本件F持分を構成する個別の権利や事業用財産の共有持分権にあるわけではない。
原判決は、Fの事業用財産のうち、現金、知的財産のライセンス及び治験データが「主要なもの」であるとしているようであるが、なぜこれらが「主要なもの」といえるのかの理由は不明である。
また、「主要な」事業用財産が我が国を含む複数国にある事業所でそれぞれ経常的に管理されている場合には、経常的な管理をする事務所を特定することはできないから、「主要な」事業用財産を管理する個々の事業所をもって本件F持分を管理する事業所と判断するのは誤りである。
更に言えば、「主要な」財産とまではいえなくとも、我が国の課税権確保の観点から無視できない程度の価値を有する財産が我が国にある事業所において経常的に管理されていた場合にも、本件F持分の含み益に対し我が国において課税できない結果を招く上記原判決の解釈は、我が国の課税権確保を目的とする施行令4条の3第9項の趣旨からも到底採り得ない。
また、Fの事業用財産には、現金、知的財産のライセンス及び治験データのように個別に特定される資産のほか、例えば、営業権やノウハウなどの個別に特定し得ない超過収益力となる無形資産もあるところ、その経常的な管理は、その価値を包含する本件F持分そのものを経常的に管理する事業所において管理されていたものと判断するべきであるところ、これは、被控訴人本社において経常的に管理されていたといえるから、Fの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理がI/J側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において行われていたとする原判決は誤りである。
さらに、LPは、Fの事業活動に関して極めて限られた権限を有するに過ぎず、LPである被控訴人が、I/J側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において実際にFの事業活動を行うことはあり得ないから、同事業所が同事業活動を行う被控訴人の事業所であったということはできない。
両者の主張まとめ
- 国税庁
- ■CILPは特例有限責任パートナーシップであり、日本の租税実務上、パススルー課税が適用される。組合と法人は法人格の有無で異なり、組合の出資持分は個々の組合財産に対する持分権として取り扱われる。
■本件現物出資の対象資産は、CILPの事業用財産(に対する原告の有する持分割合相当の持分権)であり、出資持分それ自体ではない。CILPの事業用財産は「国内にある事業所に属する資産」に該当せず、本件現物出資は適格現物出資に該当する。これは、国内で創出ないし価値の増大した資産を外国法人に対する現物出資の方法によって国外へと移転することを通じた不当な課税繰延べや租税回避を防ぐためである。
■CILPの事業用財産全体により構成される新薬開発事業は原告の国外にある事業所に属し、国外にある事業所で経常的な管理が行われていたことが明らかであるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当せず、本件現物出資は適格現物出資に該当する。 - 納税者
- ■租税法上の「資産」は特有の概念であり、現物出資の対象となる「資産」は租税法の観点から考察されるべきである。CILPは特例有限責任パートナーシップであり、日本の租税実務上、組合と同様にパススルー課税が適用される。組合の出資持分が譲渡される場合、法人とは異なり、個々の組合財産に対する持分権が移転したとみなされる。したがって、CILPは日本の租税法上、組合と同様に扱われ、現物出資の対象資産は、CILPの事業用財産(原告が持つ持分割合相当の持分権)であり、出資持分そのものではない。
■「国内にある事業所に属する資産」の外国法人への現物出資を適格現物出資に該当しないとしたのは、国内で価値が増大した資産を現物出資によって国外に移転することによる不当な課税繰延べや租税回避を防ぐためである。海外支店の海外現地法人化については、課税の繰延べが意図されている。これは、「国内にある事業所に属する資産」から生じる所得の源泉が日本にあり、日本が無制限の第一次課税権を有するのに対し、海外支店を海外現地法人化する場合には、第一次課税権を有する場合ではないため、日本の課税権を及ぼすのは不適切であるとする国際的な課税権の配分ルールにも合致するものであり、合理的である。
■CILPの事業用財産全体により構成される新薬開発事業は原告の国外にある事業所に属し、国外にある事業所で経常的な管理が行われていたことが明らかであるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当せず、本件現物出資は適格現物出資に該当する。
関連する条文
法人税法(平成28年法律第15号による改正前のもの)
2条12号の14(適格現物出資)
法人税法施行令(平成28年政令第146号による改正前のもの)
4条の3第9項(適格組織再編成における株式の保有関係等)
東京地裁/令和2年3月11日判決(古田孝夫裁判長)/(一部認容・棄却)(納税者勝訴)(被告国控訴)
適格現物出資制度は、平成13年度税制改正で導入された組織再編税制の一部であり、内国法人が法人に対して行う資産(資産と併せて負債を出資する場合の負債を含む。)の現物出資は、法人税法上は資産の譲渡として扱われ、現物出資の時点で当該資産の時価による譲渡があったものとして法人税の課税対象となるのが原則であるが(法人税法22条2項)、その現物出資が適格現物出資に該当する場合には、それによる譲渡損益の繰延べが認められている(法人税法62条の4第1項)。
これは、法人税の負担が現物出資による企業再編の阻害要因となることを防止し、企業再編を容易にするために定められたものであると解される。
ただし、法人税法2条12号の14の括弧書きにおいて「外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの」が適格現物出資から除かれており、この規定を受けた施行令4条の3第9項は、国内にある資産又は負債として「国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産又は負債」を定めている。
これらの定めは、国内にある含み益のある資産を外国法人に移転することでその含み益に対する課税が行われなくなることを規制し、我が国の課税権を確保しようとする趣旨で規定されたものであると解される。
本件では、本件現物出資の対象資産が施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かが争点であるところ、この点の判断基準に関し、法人税基本通達1-4-12は、「国内にある事業所に属する資産」に該当するか否かは、原則として、当該資産が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するが、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産については、国内にある事業所に属する資産に該当することになる旨を定めている。
この法人税基本通達が示す判断基準は、まず、その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し、その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし、次いで、その判定の結果当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し、それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。このように理解される判断基準は、前記法令の趣旨に鑑みて、合理性を有するものということができ、本件においても、基本的にこの基準に沿って検討するのが相当である。
その検討の前提問題として、本件現物出資の対象資産の捉え方について争いがあるので、まず、この点を検討する。アELPS法上、パートナーシップ持分とは、特例有限責任パートナーシップのパートナーが、パートナーシップ契約又は同法に基づき保有し又は服する、利益、資本及び議決その他の権利、恩恵又は義務に関する持分をいうとされ(2項)、同法上、LPのパートナーシップ持分を譲渡した場合の権利義務の承継に関する規定〔7項(7)(a)〕や、LPのパートナーシップ持分を譲渡抵当に入れることができる旨の規定〔7項(7)(b)〕があり、本件パートナーシップ契約においても、他のパートナーの同意があれば、GP及びLPのパートナーシップ持分につき売却、質入れ、担保権の設定その他の移転が可能であるとされ〔条項7.2(a)〕、これらの定めを通じて、CILPのパートナーシップ持分は譲渡可能な資産として位置付けられている。
そして、本件現物出資契約においては、本件CILP持分が「本件リミテッドパートナーシップ持分」と定義され(条項1.1)、当該「本件リミテッドパートナーシップ持分」が現物出資の対象資産とされていた(条項2.1)のであるから、本件現物出資の対象資産は本件CILP持分であったと解するのが相当である。
もっとも、CILPは、我が国の組合に類似した事業体であり、ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても、CILPの事業用財産の共有持分(準共有持分を含む。)と切り離されたパートナーとしての契約上の地位のみが他に移転することは想定されていないものと解される。この点が、法人における株式の移転とは根本的に異なる点である。
そうすると、本件現物出資の対象資産となった本件CILP持分についても、その内実は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものと捉えられなければならない。
そこで次に、このような本件CILP持分の経常的な管理がどの事業所において行われていたかについて、検討する。ア本件CILP持分は、上記のとおり、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるから、これを経常的な管理の対象として捉える場合においても、これを個々の事業用財産の持分やパートナーシップ契約上の個々の権利等に分解してそれぞれを管理する事業所を個別に検討するのは相当ではなく、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当である。
そして、パートナーがCILPの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ることであり、パートナーとしての契約上の地位は、その運用のための手段と位置付けられるものであるから、CILPのパートナーシップ持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができ、また、CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能である。したがって、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である。
前記認定のとおり、CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のライセンス、③治験データ等の無形資産、④USOpCoへの出資等で構成されている。
そして、このうち、現金は、米国で開設されたCILP又はUSOpCo名義の預金口座に入金され、また、CILPの事業に係る記帳、会計処理、税務申告等の経理業務は、GSK/ViiV側が有する米国フィラデルフィアの事業所において行われ、知的財産のライセンスも、CILP及びUSOpCoの連結財務諸表に記録されていたというのである。
さらに、治験データは、GSK/ViiV側のデータベースに保管され、原告には同データベースへのアクセス権が付与されていなかったというのであり、GSK/ViiV側が同データベースを管理する事業所を我が国内に有していたとは認められない。 そうすると、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理は、いずれにしてもGSK/ViiV側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において行われていたということができる。
CILPの事業用財産の経常的な管理は、CILPの事業活動の一部であり、それを行う事業所がCILPの事業所に当たることは明らかであるから、CILPのパートナーであった原告にとっても、当該事業所はCILPの事業活動を行う原告の事業所であったということができる。 しかし、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所は、前記のとおり、米国その他の我が国以外の地域に所在していたから、当該事業所が原告の国内にある事業所に当たるとはいえない。
以上のとおり、本件現物出資の対象財産であった本件CILP持分は、その主たる構成要素であるCILPの事業用財産(の共有持分)のうち主要なものの経常的な管理が国内にある事業所ではない事業所において行われていたということができるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当しないというべきである。
したがって、本件現物出資は、適格現物出資に該当するものと認められる。3本件各処分の適法性について 本件現物出資が適格現物出資に該当することを前提に、原告の平成25年3月期の所得金額、翌期へ繰り越す欠損金額、納付すべき税額、更正処分に基づく過少申告加算税の額等を計算すると、別紙5-1~5-4記載のとおりとなることが認められる(弁論の全趣旨)。これによれば、本件各更正処分等の取消しを求める原告の請求は、法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち過少申告加算税の額が19万1000円を超えない部分(適格現物出資該当性とは無関係な本税増額部分に対応する部分)の取消しを求める部分を除いて、いずれも理由がある。
また、そうである以上、原告がした平成26年3月期の法人税等の更正の請求に対する本件各通知処分も違法であるから、これらの取消しを求める原告の請求もいずれも理由がある。よって、原告の請求は主文第1項から第4項までの限度で理由があるからその限度で認容し、その余は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京高裁/令和3年4月14日判決(白井幸夫裁判長)/(控訴人国)(棄却)(確定)(納税者勝訴)
本件現物出資の対象資産が本件F持分であることは、前記引用に係る原判決に判示のとおりである。
控訴人も、本件現物出資の対象資産は、本件F持分自体であると主張するが、控訴人が、本件F持分は、それ自体が財産的価値を有し、かつ、譲渡可能な資産であることが明らかである、FのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であるなどと主張していることからすると、控訴人のいう「本件F持分自体」とは、被控訴人のFのLPとして有する本件パートナーシップ契約上の法的地位ないしそれに基づく各種権利義務の総体を指し、これをFの事業用資産とは別個の1個の独立した資産であると捉えるものと解される。
しかしながら、前記引用に係る原判決判示のとおり、Fは我が国の民法上の組合に類似した法人格のない事業体であり、我が国の租税法あるいは私法において、そのような事業体の構成員としての地位、すなわち、本件パートナーシップ契約に基づいて生ずる法的地位について、あたかも株式会社において会社の事業用財産とは別個の財産として観念される株式のように、これを事業体の事業用財産とは別個の財産と捉え、事業用財産とは独立に譲渡することのできる財産として扱うことを明確に規定した法的根拠は見当たらない。
また、ELPS法には、パートナーシップ持分が譲渡可能なことを前提とする規定がある〔7項(7)(a)〕が、これも「パートナーシップ契約の条件に従い」譲渡された場合についての規定であり、個々のパートナーシップ契約の定めによらずとも、一般的にパートナーシップ持分の譲渡をすることができることを規定しているとは解されず、パートナーシップ契約に基づくパートナーとしての契約上の地位のみが事業用財産とは独立に譲渡の対象となるとする趣旨と解することもできない。
もっとも、ELPS法は、個々のパートナーシップ契約の定めによって当該パートナーシップ契約に基づく契約上の地位を独立に譲渡することができるとすることまでを否定するものではないと解される。そこで、本件パートナーシップ契約をみると、これは、被控訴人、I、G等が当事者となって締結されたものであるが、LPのパートナーシップ持分を関連者に移転等する場合には、GP(無限責任パートナー)の同意及び他のパートナーの同意が必要とされている〔条項7.2(a)(b)ⅲ〕。
そして、Fが、医薬品用化合物の共同開発等を行う本件JV契約に基づいて設立されたものであり、本件JVの目的である医薬品用化合物の共同開発を実行するために設立されたものであることからすると、本件パートナーシップ契約において、Fの事業の用に供する事業用財産とは独立にパートナーとしての契約上の地位ないしそれに基づく権利義務の総体を観念し、それに独立の財産的価値を見出すことを想定していたものとみることはできず、上記のようにパートナーシップ持分の移転にGP等の同意が必要とされている基底には、このような考え方があるとみることができる。
このような点に鑑みると、本件パートナーシップ契約は、これに基づくパートナーとしての契約上の地位を、Fにおいて営む事業の用に供する事業用財産とは独立に譲渡することができる財産であるとする趣旨のものとは解されない。
むしろ、Fのパートナーは、本件パートナーシップ契約の内容をなす種々の合意によって、法人格のない事業体であるFの事業用財産全体、すなわち、その事業に供される有形・無形の財産全体について、出資割合に応じた共有持分(準共有持分を含む。)類似の持分(以下、これを単に「共有持分」という。)を保有することとなっており、本件パートナーシップ契約における契約上の地位とは、パートナーがしたそのような合意の総体を示す概念であって、本件パートナーシップ契約においては、これをFの事業用財産と別個の財産として観念することはできないというべきである。
この意味において、本件パートナーシップ契約における契約上の地位は事業用財産と不可分に結合されたものというべきである。
そうすると、Fのパートナーとしての地位ないしそれに基づく各種権利義務の総体を事業用財産とは別個の独立した資産と捉えることは相当でない。そして、本件F持分とは、パートナーがこのような意味における契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであって、本件F持分が移転する場合には、本件パートナーシップ契約上のパートナーとしての契約上の地位とともに、これにより保有されるFの事業用財産全体についての共有持分が移転するということができるから、法人税の課税の場面において捉えられる本件現物出資の対象資産も、Fの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものというべきである。原判決において本件現物出資の対象資産を「本件F持分」であると判示しているのも、これと同旨をいうものであると解される。
控訴人は、本件F持分は、FのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であり、それらは不可分一体のものであるから、その管理が行われていた事業所は、そこに包含される個別の権利や事業資産ではなく、各種権利義務の総体たるLPとしての法的地位を管理していた事業所がどこかという視点で判断されなければならず、本件F持分がいずれの事業所に「属する」かについては、被控訴人が保有する本件F持分という1個の法的地位について経常的な管理を行っている事業所がどこかという視点で判断すべきであり、具体的には、本件F持分については、その取得から本件現物出資に基づく喪失に至るまでの間、被控訴人本社の有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたことは明らかであると主張する。
控訴人の主張のうち、本件F持分が、FのLPたる地位に基づく各種権利義務の総体であり、それらは不可分一体のものであるとする部分は、前記のとおり、採用できないものであるが、その余の主張に鑑み、本件F持分の経常的な管理が行われていた事業所が国内の事業所であるかについて検討する。
本件F持分は、前記のとおり、Fの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるところ、これを1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当であることは、前記引用に係る原判決の判示するとおりである。
そして、前記のとおり、本件F持分は、本件パートナーシップ契約における契約上の地位に基づいて保有される事業用財産の共有持分を実質とするものであるというべきであるから、その管理が行われていた事業所とは、Fの事業用財産の管理が行われていた事業所であると解するのが相当であり、この事業所が本件F持分の属する事業所であることとなる。
そこで、Fの事業についてみると、前記引用に係る原判決判示のとおり、Fは、医薬品用化合物の共同開発等を行う本件JV契約に基づき設立されたもので、各パートナーからの出資金をH(H)に提供し、Hが、本件運営契約に従い、Fの委託を受けてJVテリトリー内で特定化合物を開発するものとされていたのであるから、Fの事業は、医薬品用化合物の開発及びそれに関連するものを主な内容とするものであったということができる。
そして、前記引用に係る原判決判示のとおり、Hは、最高執行機関の統治機関である執行委員会の事前同意を得て、開発業務受託機関との間で特定化合物に係る実際の開発活動に関する契約を締結することができるとされていたのであり、Fは、その事業を、Hやその受託機関を活用して特定化合物の開発をさせるという方法によって遂行していたものであり、FないしH自体が独自の事業所を有していたとは認められない。
他方で、前記引用に係る原判決判示のとおり、Fの事業用財産は、①各パートナーからの出資に由来する現金、②被控訴人及びI/Jから提供された知的財産のライセンス、③新薬向けの化合物についての開発活動によって得られた治験データ等の無形資産、④Hへの出資等で構成されており、これらがFの事業に供されていたところ、これらの事業用財産は、いずれもI/J側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていたと認められる。
そうすると、これらの事業用財産の経常的な管理をしていた事業所は、米国その他の我が国以外の地域に所在していたということができ、Fの事業用財産の経常的な管理が我が国に所在する事業所において行われていたとは認められない。
したがって、本件F持分の経常的な管理が行われていた事業所が国内の事業所であるということはできない。
なお、原判決は、Fのパートナーシップ持分の価値の源泉はFの事業用財産の共有持分にあるということができ、また、Fの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能であるから、本件F持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、Fの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当であるとするところ、その判示するところは、前記に判示したところと実質的に異ならないものと解される。
これに対し、控訴人は、本件F持分については、その取得から本件現物出資に基づく喪失に至るまでの間、被控訴人本社の有価証券台帳に投資有価証券として記載されていたから、被控訴人本社が経常的に管理していたことは明らかであると主張する。そして、被控訴人本社の有価証券台帳(乙13)には、投資有価証券の勘定科目で、「F(F)」との「銘柄名」の下に、被控訴人のFへの出資、追加出資やLに対する現物出資の記帳がある。
しかし、前記判示のとおり、本件F持分をFの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された1個の資産と捉えれば、上記の記帳は、被控訴人によるFへの出資があったことや本件F持分を現物出資した結果を経理的に記録したに過ぎないものであって、事業用財産の経常的な管理を行っていたということはできず、本件F持分の管理を行っていたものということはできない。
また、控訴人は、原判決が本件F持分を一つの不可分な資産と捉えながら、本件F持分の価値に包含される事業用財産を管理する個々の事業所をもって同持分を管理する事業所であると判断しているのは不当である旨主張する。
しかし、原判決も、当審における前記の判断においても、Fの事業用財産全体に対する共有持分をもって本件Fの実質であるとするものであって、この事業用財産は、個々の財産の集合体である。
そして、事業用財産の管理を行っていた事業所を認定するに当たっては、これを構成する個々の財産の管理に着目することは当然であって、その管理の状況から総体としての事業用財産の管理を行っていた事業所を認定することは、本件F持分を一つの資産と捉えることと何ら矛盾するものではないから、上記主張は正鵠を射ないものである。
原判決は、Fの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所をもって本件F持分の経常的な管理が行われていた事務所とみるのが相当である旨判示するところ、控訴人は、Fの事業用財産のうち、なぜ、現金、知的財産のライセンス及び治験データが「主要なもの」であるといえるのかの理由は不明である。
「主要な」財産とまではいえなくとも、我が国の課税権確保の観点から無視できない程度の価値を有する財産が我が国にある事業所において経常的に管理されていた場合にも、本件F持分の含み益に対し我が国において課税できない結果を招く原判決の解釈は、我が国の課税権確保を目的とする施行令4条の3第9項の趣旨からも到底採り得ないなどとも主張する。
Fの事業用財産を構成する個々の財産について、財産によって異なる複数の事業所において管理が行われているような場合には、事業用財産が全体としてFの事業に供されるものであることを考慮すれば、その事業に最も主要な寄与をしている財産の経常的な管理が行われている事業所をもって、事業用財産全体の管理を行っている事業所であると解することが合理的であり、上記の原判決の判示もこれと同旨と解される。
そして、Fの事業が新薬である特定化合物の開発であることに照らせば、原判決が主要な財産として上記財産を挙げたことも首肯できるところである。
もっとも、本件においては、Fの事業用財産の管理を行っていた事業所が国内にあうと認められるか否かが争点であって、必ずしもいずれの事業所においてその管理を行っていたかを認定することまでを要するものではない。そして、仮に原判決が挙示する事業用財産がFの事業に最も主要な寄与をしている財産であるかが不明であったとしても、Fの事業用財産を構成する財産の一部が国内にある事業所において経常的に管理されていたこと、さらにその財産がFの事業に最も主要な寄与をしているものであることについてこれを認めるに足りる証拠はないのであって、控訴人の上記主張は前記イの判断を左右するものではない。また、我が国の課税権の確保の主張については、租税法規の解釈の域を超えるものであって、相当でない。
カ控訴人は、営業権やノウハウなどの個別に特定し得ない超過収益力となる無形資産についても、Fの「主要な」事業用資産として挙げられるが、これらは、その価値を包含する本件F持分そのものを経常的に管理する事業所において管理されていたものと判断せざるを得ず、それは被控訴人本社において経常的に管理されていたといえるから、Fの事業用財産のうち主要なものは、被控訴人の国内にある事業所にも属すると主張する。
しかしながら、Fの事業用財産として営業権やノウハウが存在することは否定し得ないとしても、それらの性質に照らせば、それらの経常的な管理は、Fの他の事業用財産を用いて事業を行う事業所においてされていたというのが相当であって、そのような営業権やノウハウなどの無形財産が、Fの事業を離れて、出資元である控訴人の事業所において経常的に管理されていたと解することは困難である。
なお、控訴人は、原判決が、Fの事業用財産の経常的な管理は、Fの事業活動の一部であり、それを行う事業所がFの事業所に当たることは明らかであるから、Fのパートナーであった被控訴人にとっても、当該事業所はFの事業活動を行う被控訴人の事業所であったということができると判示したことについて、被控訴人は、自己の名義による国外における支店・営業所等を有していないのであり、また、本件パートナーシップ契約においては、LPは、Fの事業活動に関して極めて限られた権限を有するに過ぎないから、被控訴人が行う「Fの事業活動」を観念することは誤りであるなどと主張する。
しかし、原判決の上記判示は、Fの事業用財産の経常的な管理をFの事業活動の一部と捉えた上で、Fのパートナーとして事業用財産の共有持分を有する被控訴人についても、Fの事業活動としてその経常的な管理を行うものとし、Fの事業所が被控訴人にとっても事業所であったということができるとしたものであって、I/J側が米国その他の我が国以外の地域に有する事業所において、被控訴人自らが実際にFの事業である特定化合物の開発の活動を行うことを意味するものではないと解されるから、控訴人の上記主張は当たらない。
以上によれば、その余について判断するまでもなく、本件各更正処分等の取消しを求める被控訴人の請求は、法人税に係る過少申告加算税の賦課決定処分のうち過少申告加算税の額が19万1000円を超えない部分(適格現物出資該当性とは無関係な本税増額部分に対応する部分)の取消しを求める部分を除いて、いずれも理由があり、また、本件各通知処分の取消しを求める被控訴人の請求も理由があるから、被控訴人の請求を上記の限度で認容すべきところ、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所 判示要旨
- 1.
- ■本件現物出資契約においては、「本件リミテッドパートナーシップ持分」が現物出資の対象資産とされていたのであるから、本件現物出資の対象資産は本件CILP持分であったと解するのが相当である。
■本件CILP持分は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるから、これを経常的な管理の対象として捉える場合においても、これを個々の事業用財産の持分やパートナーシップ契約上の個々の権利等に分解してそれぞれを管理する事業所を個別に検討するのは相当ではなく、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当である。そして、パートナーがCILPの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ることであり、パートナーとしての契約上の地位は、その運用のための手段と位置付けられるものであるから、CILPのパートナーシップ持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができ、また、CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能である。したがって、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である。
■CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のライセンス、③治験データ等の無形資産、④USOpCoへの出資等で構成されている。そして、このうち、現金は、米国で開設されたCILP等の名義の預金口座に入金され、(中略)さらに、治験データは、米国所在のGSK/ViiV側のデータベースに保管され、原告には同データベースへのアクセス権が付与されていなかったというのであり、GSK/ViiV側が同データベースを管理する事業所を我が国内に有していたとは認められない。
■以上のとおり、本件現物出資の対象財産であった本件CILP持分は、その主たる構成要素であるCILPの事業用財産(の共有持分)のうち主要なものの経常的な管理が国内にある事業所ではない事業所において行われていたということができるから、「国内にある事業所に属する資産」には該当しないというべきである。したがって、本件現物出資は、適格現物出資に該当するものと認められる。
東京高等裁判所 判示要旨
- 1.
- ■パートナーは、本件パートナーシップ契約の内容をなす種々の合意によって、法人格のない事業体であるCILPの事業用財産全体、すなわち、その事業に供される有形・無形の財産全体について、出資割合に応じた共有持分(準共有持分を含む。)類似の持分を保有することとなっており、本件パートナーシップ契約における契約上の地位とは、パートナーがしたそのような合意の総体を示す概念であって、本件パートナーシップ契約においては、これをCILPの事業用財産と別個の財産として観念することはできないというべきである。この意味において、本件パートナーシップ契約における契約上の地位は事業用財産と不可分に結合されたものというべきである。
■本件CILP持分とは、パートナーがこのような意味における契約上の地位に基づいて保有する事業用財産の共有持分をその実質とするものであって、本件CILP持分が移転する場合には、本件パートナーシップ契約上のパートナーとしての契約上の地位とともに、これにより保有されるCILPの事業用財産全体についての共有持分が移転するということができるから、法人税の課税の場面において捉えられる本件現物出資の対象資産も、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものというべきである。
■本件CILP持分は、本件パートナーシップ契約における契約上の地位に基づいて保有される事業用財産の共有持分を実質とするものであるというべきであるから、その管理が行われていた事業所とは、CILPの事業用財産の管理が行われていた事業所であると解するのが相当であり、この事業所が本件CILP持分の属する事業所であることとなる。
■CILPの事業用財産は、①各パートナーからの出資に由来する現金、②知的財産のライセンス、③治験データ等の無形資産、④USOpCoへの出資等で構成されており、これらがCILPの事業に供されていたところ、これらの事業用財産は、いずれも我が国以外の地域に有する事業所において経常的に管理されていたと認められる。そうすると、これらの事業用財産の経常的な管理をしていた事業所は、我が国以外の地域に所在していたということができ、CILPの事業用財産の経常的な管理が我が国に所在する事業所において行われていたとは認められない。したがって、本件CILP持分の経常的な管理が行われていた事業所が国内の事業所であるということはできない。
■原判決は、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所をもって本件CILP持分の経常的な管理が行われていた事務所とみるのが相当である旨判示するところ、控訴人は、CILPの事業用財産のうち、なぜ、現金、知的財産のライセンス及び治験データが「主要なもの」であるといえるのかの理由は不明であるなどとも主張する。CILPの事業用財産を構成する個々の財産について、財産によって異なる複数の事業所において管理が行われているような場合には、事業用財産が全体としてCILPの事業に供されるものであることを考慮すれば、その事業に最も主要な寄与をしている財産の経常的な管理が行われている事業所をもって、事業用財産全体の管理を行っている事業所であると解することが合理的であり、原判決の判示もこれと同旨と解される。そして、CILPの事業が新薬である特定化合物の開発であることに照らせば、原判決が主要な財産として上記財産を挙げたことも首肯できるところである。
認定事実
■内国法人である原告は、米国法人との間で、医薬品用化合物の共同開発等を行うジョイントベンチャー(以下「本件JV」という。)を形成する契約を締結し、同契約に基づき、英国領ケイマン諸島(以下「ケイマン」という。)において、特例有限責任パートナーシップであるCILPを設立し、そのパートナーシップ持分を保有していたが、その後の本件JVの枠組みの変更に際し、平成24年10月31日、上記CILPのパートナーシップ持分全部を原告の英国完全子会社に対し、現物出資(以下「本件現物出資」という。)により移転した。
■原告は、本件現物出資が法人税法(平成28年法律第15号による改正前のもの。以下同じ。)2条12号の14に規定する適格現物出資に該当し、同法62条の4第1項の規定によりその譲渡益の計上が繰り延べられるとして、平成24年4月1日から平成25年3月31日までの事業年度及び課税事業年度(以下「平成25年3月期」という。)の法人税及び復興特別法人税(以下「法人税等」という。)につき確定申告をし、同確定申告に係る繰越欠損金の額を前提として、平成25年4月1日から平成26年3月31日までの事業年度及び課税事業年度(以下「平成26年3月期」という。)の法人税等につき確定申告をしたところ、東税務署長から本件現物出資が適格現物出資に該当しないことなどを理由に平成25年3月期の法人税等につき各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を受けたため、平成26年3月期の法人税等について、上記各更正処分による繰越欠損金の額の減少等を前提に修正申告をした上で更正の請求をしたが、東税務署長から更正をすべき理由がない旨の各通知処分を受けた。
■本件は、原告が、本件現物出資は、法人税法施行令(平成28年政令第146号による改正前のもの。以下「施行令」という。)4条の3第9項に規定する「国内にある事業所に属する資産」を外国法人に移転するものではなく、適格現物出資に該当すると主張して、上記各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(ただし、その後の更正処分及び変更決定処分による減額後のもの。以下「本件各更正処分等」という。)並びに上記各通知処分(以下「本件各通知処分」といい、本件各更正処分等と併せて「本件各処分」という。)の各取消し(各更正処分については、本件現物出資が適格現物出資に該当するとの原告の主張に反する部分の取消し)を求める事案である。
■関係法令等の定め
法人税法の定めア法人税法2条12号の14は、適格現物出資とは、同号イ~ハのいずれかに該当する現物出資(外国法人に国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの及び外国法人が内国法人に国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債の移転を行うもの等を除き、現物出資法人に被現物出資法人の株式のみが交付されるものに限る。)をいう旨を定め、同号イにおいて、その現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係その他の政令で定める関係がある場合の当該現物出資を掲げる。
■法人税法62条の4第1項は、内国法人が適格現物出資により被現物出資法人にその有する資産の移転をし、又はこれと併せてその有する負債の移転をしたときは、当該被現物出資法人に当該移転をした資産及び負債の当該適格現物出資の直前の帳簿価額による譲渡をしたものとして、当該内国法人の各事業年度の所得の金額を計算する旨を定める。
■施行令の定め
施行令4条の3第9項は、法人税法2条12号の14に規定する国内にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権その他国内にある事業所に属する資産(外国法人の発行済株式等の総数の100分の25以上の数の株式を有する場合におけるその外国法人の株式を除く。
■なお、この「株式」には「出資」が含まれる〔施行令4条の3第4項5号〕。)又は負債とし、法人税法2条12号の14に規定する国外にある資産又は負債として政令で定める資産又は負債は、国外にある事業所に属する資産(国内にある不動産、国内にある不動産の上に存する権利、鉱業法の規定による鉱業権及び採石法の規定による採石権を除く。)又は負債とする旨を定める。
■施行令4条の3第10項1号は、法人税法2条12号の14イに規定する政令で定める関係として、現物出資前に当該現物出資に係る現物出資法人と被現物出資法人との間にいずれか一方の法人による完全支配関係があり、かつ、当該現物出資後に当該現物出資法人と被現物出資法人との間に当該完全支配関係が継続することが見込まれている場合における当該現物出資法人と被現物出資法人との間の関係を掲げる。
■法人税基本通達(平成29年課法2-17による改正前のもの。以下同じ。)の定め 法人税基本通達1-4-12は、施行令4条の3第9項に規定する「国内にある事業所に属する資産又は負債」に該当するかどうかは、原則として、当該資産又は負債が国内にある事業所又は国外にある事業所のいずれの事業所の帳簿に記帳されているかにより判定するものとし、ただし、国外にある事業所の帳簿に記帳されている資産又は負債であっても、実質的に国内にある事業所において経常的な管理が行われていたと認められる資産又は負債については、国内にある事業所に属する資産又は負債に該当することになるのであるから留意する旨を定める。
■CILPについてアケイマンにおける特例有限責任パートナーシップ法(Exempted Limited Partnership Law。以下「ELPS法」という。)は、次のように定めている(2012年改正後のもの。)。
■特例有限責任パートナーシップは、1人以上の無限責任パートナー(general partner。以下「GP」という。)と1人以上の有限責任パートナー(limited partner。以下「LP」という。)で構成され、GPは、特例有限責任パートナーシップの資産が不十分である場合には、その特例有限責任パートナーシップの全ての負債又は債務について責任を負い、LPは、パートナーシップ契約又は本法で定めるほかは、特例有限責任パートナーシップの負債又は債務について責任を負わない〔4項(2)〕。
■特例有限責任パートナーシップの財産は、GPが1人の場合はそのGPが、複数である場合はその複数のGPらが共同で、パートナーシップ契約の条件に従い、特例有限責任パートナーシップの資産として委託により保有し、又は保有しているとみなされる〔7項(8)〕。
■LPは、特例有限責任パートナーシップの事業運営に参加してはならず、全ての書簡、契約書等の文書は、特例有限責任パートナーシップを代表してGP又はGPの代理人が作成する〔7項(1)〕。
■LPが特例有限責任パートナーシップの事業に関してGPと協議し、特例有限責任パートナーシップの会計や業務について調査し又は報告を受け、特例有限責任パートナーシップの解散や資産の取得等に関して議決権を行使することなどは、特例有限責任パートナーシップの事業運営への参加に当たらない〔7項(3)〕。
■本法において「パートナーシップ持分」とは、特例有限責任パートナーシップのパートナーが、パートナーシップ契約又は本法に基づき保有し又は服する、利益、資本及び議決その他の権利、恩恵又は義務に関する持分をいう(2項)。
■パートナーシップ契約の条件に従い、LPのパートナーシップ持分の全部又は一部が譲渡されたときは、譲受人は、その譲渡の範囲内で、当該譲渡に係るパートナーシップ持分又はその一部に関し、パートナーシップ契約及び本法に従い、譲渡人の権利を有し及び譲渡人の義務に服するLPとなる〔7項(7)(a)〕。
■上記を前提として、LPは、自己のパートナーシップ持分の全部又は一部を譲渡抵当に入れることができる〔7項(7)(b)〕。イCILPは、ELPS法上の特例有限責任パートナーシップとして設立されたものであり、CILPの設立及び各パートナーの権利義務等に関する有限責任パートナーシップ契約(以下「本件パートナーシップ契約」という。)では、次のように定められていた。
■CILPは、法人格を持った主体ではなく、CILPの財産は、GPが、本契約の条件に従い、CILPの資産として委託により保有し、又は保有しているとみなされる〔条項2.5(a)(b)〕。
■GPは、CILPのいかなる負債及び義務に対しても連帯責任を負い、LPは、本契約及びELPS法に規定されている場合を除き、CILPのいかなる負債及び義務に対しても責任を負わない〔条項2.5(c)(d)〕。
■CILPの運営及び管理の権限は、GPに独占的に与えられ、LPは、CILPの運営及び管理に介入してはならず、また、いかなる事項に関連してもCILPのために活動する権利又は権限を有しないが、各LPは、CILPの帳簿及び記録を検査及び調査する権利並びに各GPに対してCILPの活動について質問する権利を有する〔条項4.1(a)、4.4〕。
■各パートナーは、契約日に、パートナーシップ持分の割合に比例した所定の金額の現金出資をしなければならず、また、各特定化合物に対応するマイルストーン事象の正常な発生において、特定化合物に関して、CILPへの更なる資本拠出を行わなければならない〔条項5.1(a)(b)〕。
■CILPの収益、利益、損失及び控除の全ての科目は、各自のパートナーシップ持分の割合に比例して各パートナーに配賦されるが、本契約の定め又はその他のGPの決定によるのでない限り、各パートナーは、CILPからの分配を受けること、CILPの資本勘定から金額の払戻しを受けることはできない〔条項6.1(a)、6.2〕。
■パートナーは、次のいずれかの同意がなければ、パートナーシップ持分を、直接間接を問わず、売却、質入れ、担保権の設定その他の移転に供してはならず、これに従わない移転等は、無効である〔条項7.2(a)(b)〕。
①GPのパートナーシップ持分、LPのパートナーシップ持分又はその他の保有持分の全部又は一部を第三者に移転等する場合 他のパートナーの書面による事前同意(この同意は当該他のパートナーの単独かつ絶対的な自由裁量により留保することができる。)
②GPのパートナーシップ持分を関連者に移転等する場合 他のパートナーの書面による事前同意(この同意は合理的な理由なく留保することができない。
③LPのパートナーシップ持分を関連者に移転等する場合 その持分の移転等を行うLPの関連者であるGPの同意(この同意は当該GPの単独かつ絶対的な自由裁量により留保することができる。)及び他のパートナーの同意(この同意は合理的な理由なく留保することができない。)ウこれらの定めによれば、CILPは、その債務に対して無限責任を負う1人以上の無限責任パートナー(GP)とその債務に対して原則として出資を限度とする有限責任しか負わない1人以上の有限責任パートナー(LP)とで構成される、我が国の組合に類似した法人格のない事業体であり、法人税法上の法人には該当しないものである。
■本件JVの概要
医薬品の製造、販売等を業とする株式会社である原告は、平成13年、原告の米国所在の完全子会社であるSGHと共に、ケイマンにおいて、CILPを設立し、そのパートナーシップ持分の割合をLPである原告が99.98%、GPであるSGHが0.02%と定めた。 CILPは、同年、米国において、その全額を出資して、米国デラウェア州法上のLLC(有限責任会社)であるUSOpCoを設立した。
■原告は、平成13年9月27日、英国所在の製薬会社であるGSK親会社の完全子会社である米国所在のGSKとの間で、CILPを基盤に医薬品用化合物の共同開発等を行うジョイントベンチャー契約(以下「本件JV契約」という。)を締結して、本件JVを組成し、同年10月19日、SGH、GSK及びGSKの米国所在の完全子会社であるGSK子会社との間で、本件パートナーシップ契約を締結した。
■本件JV契約及び本件パートナーシップ契約に基づき、CILPのパートナーシップ持分は、LPである原告とGSKが49.99%ずつを、GPであるSGHとGSK子会社が0.01%ずつを、それぞれ保有することとなった。平成13年10月19日時点における出資関係等の概要は、別紙2-1のとおりである。 本件JV契約では、USOpCoが、JVテリトリー(米国、英国、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン)内における特定の化合物の開発、当該化合物の商業化活動及び製造・供給活動等を行うものとされ、平成13年10月19日にCILP、USOpCo、原告、SGH、GSK及びGSK子会社の間で締結された開発・製造・販売・分配契約(乙9の1~3。以下「本件運営契約」という。)において、USOpCoの管理、運営等の詳細が定められた。
■原告は、平成13年10月19日、本件JV契約に基づき、CILPとの間で、CILPに対し、原告又はその関係会社が保有する知的財産(本件JV契約が定めるところの特許、ノウハウ〔一切の薬理学的、技術的又は科学的な情報、データ、ソフトウェア、工程、方法、手法、アルゴリズム、化学式、システム、デザイン、発見、発明その他類似の財産的情報又は秘密情報〕、商標、著作権、秘密情報の使用開示制限権等)の使用及び実施を許諾する旨の契約を締結し、GSKも、同日、CILPとの間で同様の契約を締結した。
■原告及びGSKは、平成14年8月22日、インテグレース阻害剤(抗HIV薬)に係る化合物の開発に関する共同研究を行う旨の契約を締結して、当該共同研究を開始し、その結果、平成18年頃、インテグレース阻害剤向けの医薬品化合物として有望な3種類の化合物について、動物実験等により、その有効性を確認した。
■原告及びGSKは、平成19年7月、上記化合物について、本件JVの枠組みの中でその後の臨床試験等の開発活動を進めていくことを決定した。イViiV親会社設立後 GSK親会社は、米国所在のファイザー社(Pfizer Inc.)と共に英国に製薬会社であるViiV親会社を設立し、GSK及びGSK子会社は、平成21年11月3日、それぞれが保有するCILPの全てのパートナーシップ持分(GSK49.99%、GSK子会社0.01%)及び本件JVにおける化合物の開発活動に関連する全ての契約(本件JV契約、本件運営契約等)における契約上の地位を、ViiV親会社の米国所在の完全子会社であるViiV及びその米国所在の完全子会社であるViiV子会社に、それぞれ譲渡した。
■その結果、LPであるViiVが49.99%、GPであるViiV子会社が0.01%のCILPのパートナーシップ持分を、それぞれ保有することとなった。平成21年11月3日時点における出資関係等の概要は、別紙2-2のとおりである。
■本件現物出資の実行等
原告側は、平成24年10月31日、本件JVの枠組みを変更するために、次のとおり、契約を締結し、取引を実行した.
■まず、原告が、平成24年2月に設立していた原告の英国所在の完全子会社であるSLとの間で、本件現物出資に係る契約(以下「本件現物出資契約」という。)を締結し、同契約に基づいて、原告の保有するCILPのパートナーシップ持分(49.99%。以下「本件CILP持分」という。)をSLに給付し、その対価としてSLの新株の割当及び発行を受け(本件現物出資)、SGHも、その保有するCILPのパートナーシップ持分(0.01%)をSLに有償譲渡した。この時点における出資関係等の概要は、別紙2-3のとおりである。
■次いで、SLが、上記のとおり取得したCILPのパートナーシップ持分の全てを、ViiV親会社に対して現物出資し、ViiV親会社の発行済株式の10%を取得するとともに、ViiV親会社の取締役1名の指名権を得た。
■本件現物出資契約では、本件CILP持分を「本件リミテッドパートナーシップ持分」と定義した上で(条項1.1)、原告は一切の負担を伴わない「本件リミテッドパートナーシップ持分」をこれに付随する全ての権利と共に出資し又は出資させ、SLはこの出資を受け入れるものとし(条項2.1)、その出資の対価は、SLから原告への普通新株の割当及び発行とする(条項3.1)旨が定められていた。
■本件現物出資に係る原告の照会 原告は、平成24年10月15日、大阪国税局調査第一部調査総括課長宛ての同日付け「ケイマンパートナーシップ再編に関する税務上の取扱いについて」と題する書面(以下「本件照会文書」という。)を提出し、本件現物出資が適格現物出資に該当するか否かについての照会(以下「本件照会」という。)をした。
■大阪国税局調査第一部調査総括課長及び同課課長補佐(以下「本件照会担当者ら」という。)は、同年11月19日、原告に対し、本件照会に対する回答として、本件現物出資は適格現物出資に該当する旨を口頭で伝えた(以下、この回答を「本件回答」という。)。
■本件各処分等の経緯ア原告は、平成25年6月28日、平成25年3月期の法人税等につき、本件現物出資が適格現物出資に該当し、その譲渡益の計上が繰り延べられるとして、確定申告をした。
■原告は、平成26年6月30日、平成26年3月期の法人税等につき、上記の確定申告に係る繰越欠損金の額を前提として、確定申告をした。
■東税務署長は、平成26年9月11日付けで、原告に対し、平成25年3月期の法人税等につき、本件現物出資が外国法人に「国内にある事業所に属する資産」の移転を行うものであり適格現物出資に該当しないなどとして、別紙3-1及び4-1の各「更正処分等」欄記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分等をした。
■原告は、上記ウの各更正処分を受けて、平成26年3月期の法人税等につき、平成26年10月10日、繰越欠損金の額の減少等を前提に、「修正申告」欄記載のとおり、修正申告をした上で、同月31日、本件現物出資が適格現物出資に該当するとして、同各別紙の各「更正の請求」欄記載のとおり、更正の請求をしたが、東税務署長は、平成27年1月27日付けで、原告に対し、更正をすべき理由がない旨の各通知処分をした。
■東税務署長は、原告の更正の請求に基づいて、平成27年1月27日付けで、原告に対し、平成25年3月期の法人税等につき、別紙3-1及び4-1の各「更正処分等(更正の請求に基づくもの)」欄記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分等をした。
■本件訴訟に至る経緯
原告は、平成26年11月10日、大阪国税局長に対し、前記の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分につき、異議申立てをしたが、大阪国税局長は、平成27年2月9日付けで、同異議申立てを棄却する旨の決定をした。
■原告は、平成27年3月9日、国税不服審判所長に対し、前記の各処分による減額後の各更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(本件各更正処分等)及び同エの各通知処分(本件各通知処分)につき、審査請求をしたが、国税不服審判所長は、平成28年2月23日付けで、同審査請求を棄却する旨の裁決をした。
■原告は、平成28年9月2日、本件訴えを提起した。
(補足)塩野義製薬事件とは
■本件は、日本の製薬会社である納税者が海外の製薬会社と共同で新薬事業を展開するため、ジョイントベンチャー(JV)として海外において法人格のない事業体であるパートナーシップ(LP)を組成したあと、新薬開発が進展した段階で本件LPの持分を英国子会社(外国法人)に現物出資した(本件現物出資)ものである。
■本件現物出資によって移転された持分には多額の含み益があったが、その移転は共同事業を行うためのものであり、適格現物出資と認められるための基本的な要件を満たしていた。ところが、適格現物出資の対象資産からは、「国内にある事業所に属ずる資産」が明示的に除かれているため、これに該当するか否かが問題となったのである。
■具体的には、①そもそも本件現物出資の対象資産は何であるか、②当該資産は国内事業所に属するか否かが主たる争点となった。
■この点、課税庁は、対象資産は本件LPの持分そのものであり、当該持分は納税者の本社で記帳され、管理がなされていたことから国内事業所に属するとの主張を行った。これに対して、納税者は、対象資産は持分そのものではなく、本件LPに属する事業用資産(の共有持分)であることを前提に、本件LPの業務執行全般は本件LPが全株式を保有する事業会社(米国法人)に委任されており、その事業用資産が実際に管理されていたのは米国に所在するJVパートナー側の事業所であることから、国内事業所に属ずるものではないとの主張をした。
編集者コメント
対象資産が属する事業所は、その経常的な管理が行われる場所によって判定
■東京高裁は、基本的に、納税者の主張を認め、原審を維持した。まず、①そもそも本件現物出資の対象資産は何であるかについて、対象資産は本件LPの持分であると解した上で、その内実は事業用資産の共有部分とパートナーとしての契約上の地位が不可分に結合されたものであるとの判断を下した。そして、②当該資産は国内事業所に属するか否かについては、対象資産が属する事業所は、その経常的な管理が行われる場所によって判定すべきとの基準を示した上で、本件LPの持分に係る価値の源泉は、事業用資産も共有持分であることから、その主要なものの経常的な管理が行われる事業所に属すると見るのが相当であるとの判示をした。
■東京高裁は、無形固定資産等で更正される本件LPの主要財産については、米国その他海外に所在するJVパートナー側の事業所で経常的に管理されていると認定し、当該事業所は本件LPのパートナーである納税者の事業所であると言えることから、結論として、対象資産は国内の事業所に属するものではないとした。
事業所の財産帰属
■対象資産については、課税庁の指摘するように本件LPの持分であるとしても、日本法で言う組合に類似した法人格のない事業体である本件LPの法的性質に照らすと、東京地裁が指摘したように、持分の実質である事業用資産(の共有部分)こそが本件現物出資の対象資産になるのであろう。
■それでは、本件LPの事業用資産はどの事業所に属すると言えるか。この点、帰属については実質的な観点から判定すべきと解釈されるから、東京高裁が指摘するように、主要財産の経常的な管理の場所によって判定すること自体は正当であると考える。しかし、「管理」と言っても、担当者として西条的な管理業務を実施するに過ぎない者もいれば、責任者としてその意思決定をする者もいる。また、内部で自己のために財産を管理する場合もあれば、外部で他人のために財産を管理する場合もある。そこでより具体的な基準として、内部において自己のために財産を管理する責任者が所属する事業所に当該財産が属するものと判定することが相当であろう。
■そうすると、本件LPの主要財産が海外に諸税するJVパートナー側の事業所で経常的に管理されていたことをもって、直ちに本件LPの事業用財産が海外事業所に属すると認定することには疑問が残る。これらの海外事業所は本件LPの事務所ではなく、その外部で本件LPの為に財産の管理がなされている事務所であるからと言って、必ずしもその事業所が本件LPの事務所になるものではないからである。
組合財産の帰属基準
■本事案は、裁判所が、ケイマンのLPが日本の民法上の組合に類似することを前提に、組合はあくまでも契約関係であるに過ぎないという民法上の性質を重視した判断を示したものである。組合財産の帰属事業所に関する事実認定として、LPの主要な資産が海外の事業所で管理されていることから、組合財産は海外事業所に帰属すると判断された。
■その管理者というのがLPの組合員から組合財産について管理業務の委託を受けていたものであるとすると、実際の管理がなされている場所と組材財産の帰属事業所が乖離することもありうる。例えば、日本の製造業者が海外の倉庫業者に製品の保管をする場合、その倉庫は製造業者の事業所であるとは言えないので、当該製品の帰属する事業所は帳簿上で在庫管理している日本の事業所と評価することになると思われる。これは組合の場合も同様で、実際の管理がなされている場所が海外で会っても、組合財産の帰属事業所は日本の事業所であると認められることもあるのではないだろうか。
■いずれにせよ、本事案は、組合財産の帰属事業所については財産の管理がなされている場所で判定するといった基準を示したことに意義がある。
重要概念/現物出資
現物出資と現物分配
■現物出資は法人が保有する現金以外の資産を出資によって補化の法人に移転し、その対価として派の法人が発行する株式を取得するものであり。企業グループがグループ内で資本構成や事業構成を変更する場合、他の企業グループと資本結合する場合などに用いられる。
■ちなみに、現物分配は、法人が保有する現金以外の資産を配当などによって株主に移転するものであり、企業グループ内で資本構成や事業構成を変更する場合などに用いられる。
■これらはいずれも資産の移転を伴うものであるが、日本としては、将来、さらに資産が外部に移転する際に、移転先の法人に対して課税権を行使することができる。そこで、これらが内国法人間でなされる場合には、基本的な適用要件を満たすことで課税の繰延が認められる(現物分配については、完全支配継続型のみ認められる)。これに対して、外国法人が関係する場合には、別途考慮が必要となる。
外国法人に対する現物出資
■現物分配によって内国法人から外国法人に資産が移転する場合、当該資産の含み益に対しては、日本はもはや居住地管轄に基づく課税権を行使することが出来ず、源泉地管轄に基づく限定的な課税権を有するのみとなる。これが国外資産であればもともと優先的な課税権は源泉地にあったとも解されるが、国内資産については、本来としては日本が完全な課税権を行使することができるはずのものであった。
■このようなことから、内国法人から外国法人に対する国内資産の現物出資については、日本の課税権が制限される可能性があるものとして、適格現物出資の対象から除外されている。ただし、当該資産が外国法人の有する日本国内の恒久的施設(PE)に帰属する場合には、日本としてはPE課税を行うことができるため、適格要件を満たすものとされている。
■ここでいう国内資産には、国内不動産、国内の事業所に属する資産(国内の事業所で経常的な管理がなされている資産)、これに準じる資産が含まれる。もっとも、保有比率25%以上の外国法人株式については、仮に含み益があったとしても配当によって含み益を実現した場合には外国子会社配当益金不算入が適用されるため、もともと日本における課税が予定されていないとも言えるから、国内資産からは除外されている。
併せて読みたい/TPR事件
【特定資本関係5年超要件を満たす合併における法法132条の2の適用】(東京高裁令和元年12月11日判決)(上告不受理)
特定資本関係5年超要件を満たす適格合併について法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)が適用された事例(TPR事件) 。
法人A(原告)は、特定資本関係が5年を超える完全子会社旧B社を被合併法人とする適格合併を行い、旧B社の未処理欠損金額を法人Aの欠損金額とみなし、法人税の申告をしたところ、課税庁が、法人税法132条の2の適用により更正処分等を行ったため、法人Aは、処分の取消しを求めて訴えた事案。
裁判所は、法人税法57条3項(当時)の規定から外れる特定資本関係5年超の適格合併についても、法人税法132条の2の規定が適用されることを予定しているものと解されるとした上で、本件は、合併と同時に新子会社を設立し、その法人に旧B社の従業員を転籍させ、旧B社から承継した棚卸資産の譲渡等を行っていることから、実態として旧B社の事業は新子会社に引き継がれ、法人Aは未処理欠損金額のみを引き継いだに等しく、形式的には適格合併の要件を満たしているが、支配の継続、事業の移転及び継続という実質を備えているとはいえないとして、法人Aの訴えを退けた。
控訴しましたが高裁でも棄却され、上告及び上告受理申立てをしましたが、最高裁は上告棄却及び上告不受理とした。