エスコ事件
目次
シークレット・コンパラブルの使用について裁判所が正面から判断した初めての事案
概要
内国法人である原告が、香港の国外関連者からパチスロメーカー向けコインホッパー用小型モーターを購入していたところ、課税庁が、原告の購入価格は独立企業間価格を超えているとして、シークレット・コンパラブルを用いて推定課税により課税した事案。
相関図
概要
- ■概要
- ■原告((株)エスコ)は、原告の国外関連者であるB社(香港法人であるユニメタリシス社)からパチスロメーカー向けコインホッパー用小型モーターを購入し、これを原告の関連会社(内国法人)である株式会社M社等に転売し、M社等でギアを取り付けるなどの加工を行った上で原告が買い戻し、国内のパチンコ台メーカーに販売していた。
■本件モーターは従前は原告が中国の非関連者から直接仕入れていたが、1999年12月からB社が介在することとなり、その後仕入れ価格は2倍強に高騰した。課税庁は、必要に応じて臨場調査を行い、事業内容と売上規模を勘案して、最終的に香港関連法人のうちから3法人をユニメタリシス社の比較対象法人として選定した。この移転価格課税処分について原告が不服申立てを経て出訴した事案である。
■なお、当時は我が国と香港との間に租税条約が締結されていなかったため、原告としては、移転価格課税処分につき相互協議を申立てる選択肢はなく、国内での訴訟手続により争うこととなった。
■原告は、シークレット・コンパラブルを用いることの違法性及び推定課税において比較対象取引として関連者間取引を用いることの違法性を主張したが、東京地裁は「租特法は、税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人を用いて推定課税をすることを予定しているというべきである」として納税者の主張を斥けた。東京高裁も原審を支持し、上告は棄却され、納税者敗訴で確定。 - ■裁判所
- 東京地方裁判所 平成23年12月1日判決(川神裕裁判長)(棄却)(控訴)
東京高等裁判所 平成25年3月14日判決(奥田隆文裁判長)(棄却)(上告・上告受理申立て)
最高裁判所 平成26年8月26日決定(山崎敏充裁判長)(棄却・不受理)(確定)
争点
税務署長が推定した独立企業間価格は適法なものかどうか。
判決
東京地方裁判所
→納税者敗訴
東京高等裁判所
→納税者敗訴
最高裁判所
→不受理(納税者敗訴)
移転価格税制とシークレット・コンパラブル
■企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。
■ 移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度。
■ わが国の独立企業間価格の算定方法は、OECD移転価格ガイドライン(注)において国際的に認められた方法に沿った次のようなものとなっている。
①基本3法
独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method:CUP法)
再販売価格基準法(Resale Price Method:RP法)
原価基準法(Cost Plus Method:CP法)
②その他の方法
利益分割法(Profit Split Method:PS法)
比較利益分割法
寄与度利益分割法
残余利益分割法
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)
取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNMM法)
(注)OECD移転価格ガイドラインは、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的として作成されたものである。具体的には、移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図している。
■シークレット・コンパラブル(同業他社の財務関係情報)
移転価格調査の対象となっている法人(調査法人)が、措置法66条の3に規定する文書を所定の期限までに提出又は提出しない場合には、課税当局は、調査対象法人が行っている国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む者(同業他社)に質問検査権を行使して、当該同業他社の財務関係情報(事業内容、特定の製品・商品に係る売上総利益、販売費・一般管理費等)を入手することが出来る。
同業他社に対する質問検査権の行使により課税当局が得た財務関係情報は、調査対象法人に対する課税処分の根拠に用いられることとなるが、他方、これらの情報を調査対象法人に明らかにすることは、国税に関する調査等に従事していた者が調査等で知り得た秘密を漏らすことに該当し、2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられることとなる(国税通則法127)。
この為、課税当局としては、同業他社に質問検査権を行使して得られた財務関係情報等を、課税処分に当たって調査対象法人に開示出来ない。そうすると、調査対象法人としては、どのような情報に基づき課税処分が行われたか詳細を知る事が出来ず、課税当局に対する反論が出来ないこととなり、さらに、調査対象法人から課税処分取消訴訟を提起された裁判所としては調査対象法人が当該財務関係情報の詳細の開示を求めても、課税当局から情報が提供されず、当事者間での弁論が尽くされない可能性がある懸念があり、さらに、課税当局としても、課税の根拠にいて主張が不十分でないなどとして、訴訟で敗訴するリスクがある。
これが、いわゆる「シークレット・コンパラブル問題」である。
キーワード
■キーワード
移転価格税制、国外関連者、国外関連取引、事業類似法人、推定課税、転売、独立企業間価格、比較対象取引、非関連者取引、ベストメソッドルール、類似法人
■重要概念
シークレット・コンパラブル
東京地裁/両者の主張
納税者の主張
我が国の移転価格税制は、国外関連取引と同様な取引が比較可能な状況下において独立企業間で行われたとした場合に成立する取引価格を意味する独立企業間価格を根幹とする。
そして、この独立企業間価格を算定するための基本原則が独立企業原則(独立当事者間基準)であるから、独立企業間価格の算定は独立企業原則と密接不可分の関係に立つ。
したがって、独立企業間価格を合理的に推定するための方法である推定課税が適法か違法かを判断する際においても、我が国移転価格税制の根幹を成す独立企業原則及び同原則を適用する上での核心である比較可能性分析に基づいてこれを行う必要がある。
OECDガイドラインによれば、独立企業原則を適用し、関連者間の取引条件を独立企業間の取引条件に引き直す上での最も重要なステップは、比較可能性のある独立企業間の取引を選定することである。
そして、この比較可能性とは、独立企業間(非関連者間)取引との比較可能性なのであるから、比較可能性が緩和されている場合であっても、比較の対象が独立企業間(非関連者間)取引であるという大前提を崩すことはできない。
租特法66条の4は、1項及び2項と7項とで全く同じ「独立企業間価格」という文言を用いており、7項の「独立企業間価格」は、1項及び2項の「独立企業間価格」、すなわち、独立企業原則に基づいて算定される特定の独立企業間価格を意味することは明らかである。
独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法といった各方法に基づく独立企業間価格の算定も、推計的な課税であるという性格を内包しているので、いずれも推計的課税であるという点で租特法66条の4第7項により独立企業間価格を推定する場合と本質的な差異はなく、程度の差があるにすぎない。
被告は、同項に規定する推定課税は、納税者側の資料提供についての協力を担保し、移転価格税制の適正・公平な執行をするために設けられたものであるから、当該規定を解釈するに当たり、独立企業原則の趣旨を考慮すべき必要性はない旨主張する。
しかし、独立企業間価格の算定に必要な資料を提出しない場合には推定課税を行うことができるという制度は、納税者側の資料提供についての協力を担保する機能をも有するとしても、一旦推定課税を行うに至った際は、推定課税規定も独立企業間価格を算定(合理的に推定)するものと位置付けられ、独立企業原則の趣旨が適用される。
したがって、被告の上記主張は、移転価格税制の根幹を見誤り、推定課税制度を誤解するものである。
本件推定課税に係る規定は、原価基準法の計算方法を準用しているが、準用によって原価基準法の本質が変更されているわけではなく、移転価格税制の根幹を成す独立企業原則及び独立企業間価格の考え方は、これらの条項に取り入れられている。
すなわち、租特法66条の4第7項の規定は、推定課税の方法を「売上総利益率又はこれに準ずる割合として政令で定める割合を基礎とした第2項第1号ロ又はハに掲げる方法」と定め、再販売価格基準法又は原価基準法を用いることを定めている。
そして、これらの方法においては、通常の利潤の額(租特法66条の4第2項1号ロ及びハ)並びに通常の利益率(租特令39条の12第6項及び7項)という文言を用いることによって、独立企業原則に基づいて比較可能な非関連者間の独立企業間価格を算定するものであることが明確に規定されている。
そして、租特法66条の4第7項1号及び租特令39条の12第11項は、このような独立企業間の通常の利益率について、取引単位ではなく、事業単位に基づき算定するとの変更を加えた売上総利益率又はこれに準ずる割合を基礎とした再販売価格基準法又は原価基準法が推定課税において用いられることを示すことにその趣旨があるというべきである。
また、本件租特法通達(2)-3は、租特法66条の4第7項について特に適用を除外していないので、同項の推定課税についても国外関連取引を行っている対象企業と非関連者間取引を行っている比準対象の間の類似性の検討が要請されていると解するのが合理的である。
さらに、法令上、比較可能性又は類似性について全く言及していない利益分割法(租特法66条の4第2項1号ニ、租特令39条の12第8項)に属する残余利益分割法の基本的利益算定においてさえ、独立企業原則に基づく独立企業間価格を算定するという目的上、非関連者間取引において通常得られる利益を算定するに足りる比較対象取引を選定すべきであるとしているのである〔本件租特法通達(4)-5〕から、法令上、非関連者間の通常の利益率に基礎を置く再販売価格基準法又は原価基準法であると明らかに規定された推定課税においては、なおさら非関連者間取引において通常得られる利益を合理的に推定するに足りる同種事業類似法人が選定されなければならない。
取引単位営業利益法を定める平成16年政令第105号による改正後の租税特別措置法施行令39条の12第8項2号及び3号には非関連者取引に限る旨の文言はないが、同号による比較対象取引は非関連者取引によるものであることは当然の前提とされている〔本件租特法通達(2)-1(4)及び(5)、OECDガイドライン〕。
利益分割法を定める租税特別措置法66条の4第2項1号ニ及び同改正後の租税特別措置法施行令39条の12第8項1号と本件租特法通達(4)-4及び66の4(4)-5も同様である。
法律上の推定規定は経験則を法規化したものであるから、租特法66条の4第7項についても、同種事業類似法人の選定が同条の規定に従って適正に行われ、その同種事業類似法人の粗利益率を基礎として算定すれば、検証対象となる国外関連取引の独立企業間価格を合理的に推定することができるという判断が成り立つことが推定規定が適用される前提であり、同種性及び類似性の解釈においても、経験則が本来想定しているような、独立企業間価格を合理的に推定することを可能とするような法人、すなわち、粗利益率レベルで近似する見込みのある法人を選択すべきである。
そして、推定の合理性は、推定課税規定の中に包摂されているというべきである。
推定課税と法人税法131条、所得税法156条等に基づく推計課税は同一の構造を有するから、後者における解釈が前者においても参考となるところ、推計課税が適法であるためには、推計課税の必要性の要件を満たし、かつ、その内容が合理的なものでなければならないとされており、推定課税においても、真実の独立企業間価格と合致する蓋然性又は一応最良のもので真実の独立企業間価格に近似する蓋然性が存在しなければならない。
推定課税は、取引単位ではなく事業単位での比較可能性に基づき算定するので、原則的な原価基準法に比べて比較可能性の精度が低くなり、独立企業間価格を常に算定できるものではない。
そして、検証対象法人と同種事業類似法人との間で粗利益率レベルでかなりの差が生ずると見込まれる場合には、もはや推定事実である独立企業間価格に合理的に近似できるという前提が成り立たなくなるため、推定規定の射程外となる。
したがって、推定規定の適用においては、粗利益率レベルでの近似性の見込みのある同種事業類似法人を選定しなければならない。
このように、本来、推定課税規定においても独立企業原則が当てはまることからすれば、推定課税においても非関連者間取引を行う法人を同種事業類似法人としなければならない。
売上又は仕入れの主たる部分が親会社との取引である法人を同種事業類似法人として選定することは、むしろ関連者間取引を選定したと評価されるので、独立企業原則の本質に反する。
したがって、本件類似3法人は、推定課税における同種事業類似法人としての適格性を欠くものとして、除外されなければならないのであり、本件推定課税はこれらを除外していないことからすれば、違法である。
仮に、被告が主張する執行の担保の観点からこのような法人を直ちに除外しないとしても、同種事業類似法人において関連者間取引を行っている場合、特に、関連者間取引を主として行っている場合は、当該関連者間取引の存在が、同種事業類似法人の事業における粗利益率をゆがめていないことを検証した上で、比較可能性のある非関連者間取引を行う事業の場合と比べて粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるものではないという事実を被告において立証しなければならない。
粗利益率レベルでかなりの差を生じさせるような事実は全て租特法66条の4第7項の事業の内容に含まれ、これらが類似していなければ同項による推定をすることはできない。
なお、被告は、電気機械器具を取り扱う卸売業者のうち、販売管理費比率2.50%から5.50%の範囲に属する38法人を抽出してその粗利益率レベルを確認したことを根拠に、本件類似3法人と各親会社との間の取引価格がゆがめられていないことが推測される旨主張する。
しかし、この調査対象には関連者間取引を行う法人が含まれており、そのような法人において関連者間取引が売上高のどの程度の割合を占めるのか、また、そもそも関連者間取引を行う法人が調査対象の法人のうちどの程度の割合を占めるのかが明らかではなく、さらに、本来の独立企業間価格の算定に求められるような検証を行っているのではないから、これをもって、独立企業間価格であることの確認や証明がされたとはいえない。
そもそも、被告の主張は、日本の法人に関するデータに基づく分析によるものであり、香港法人には当てはまらないから、これをもってBに当てはめるのは不適切である。
いわゆるシークレットコンパラブルを利用して推定を行ったことについて被告は、同種事業類似法人(シークレットコンパラブル)についての主張事実を支持する客観的証拠を裁判において一切提出せず、かつ、原告にも全く開示していない。
このため、原告は、独立企業間価格の基礎となる財務上の数値並びに事業の同種性及び事業規模その他の事業内容の類似性について、十分な検討と反論を行うための情報がほとんど与えられておらず、適正な手続保障を与えられていない。
本件では、特に、粗利益率レベルでかなりの差が生ずると見込まれるかどうかが問題となっており、それを支える具体的な事実及びその認定を妨げる具体的な事実の認定は非常に重要であるから、それが立証されたといえるためには、それを争う原告に対して具体的な事実が提示され、原告に十分な反論の機会が与えられなければならない。
本件類似3法人は、いずれもその具体的な事業内容や財務状況が開示されていないシークレットコンパラブルであり、原告において、それらの法人がBと事業内容において類似しているかどうかについて、検証を行うことができない。これは、納税者である原告から防御する機会を奪うもので著しく不公平である。
そもそも、本件類似3法人が実在して、被告主張のような事業を行っているのかどうかも不明であり、本件類似3法人の財務諸表が客観的に信頼できるものなのかどうかについても検証する手段が原告には全く与えられていないから、納税者は、自己の立場を擁護するための機会や、課税の相当性について公平な司法判断を受ける機会が与えられておらず、予見可能性を欠く状態に置かれている。
調査担当者の陳述書も、実質的には被告の主張の延長にすぎないのであり、これにより客観的証拠に基づき具体的事実が提示されたとは到底いえない。
また、これらの3社の原価、売上及び売上総利益等が現地の一般に公正妥当と認められる会計基準に従って適切に記録されているかどうかを確認することができず、差異調整の必要性が不明である。
さらに、このことからすれば、本件各更正処分等の通知書は、更正の理由の付記を欠いているというべきである。
本件類似3法人の選定過程について本件類似3法人の選定過程につき、選定基準の合理性の有無のみならず、現に比較対象とされた法人についての実体的な比較可能性の検討こそが不可欠である。
仮に、選定過程を示すことにより類似性の立証が可能であるとする被告の立場に立つとしても、山形税務署長は、本件租特法通達(2)-3記載の要素、特に、パチスロ業界特有の風営法による規制やそれに伴うリスク等について認識しながらも、選定過程においては、その点をほとんど無視して本件類似3法人の選定に至った。
このほか、パチスロ部品市場の閉鎖性及び競争状況、地理的市場、Bと本件類似3法人の機能、リスクの差異などの点について十分な検証を行わず、その要素を考慮していない。
また、被告は、最初の段階から関連者取引を行う会社のみを対象として選定したという独立企業原則に反する誤りを犯し、非関連者間取引を行う同種事業類似法人を選定するために適切な努力は行われていないというべきである。また、山形税務署長が利用した小型モータ需給動向報告書は信頼性を欠く。
さらに、同種事業類似法人の選定過程についての被告の説明においては、粗利益率にかなりの差が生ずる事業内容の相違、公開財務データの使用、日本標準産業分類の参照、香港法人と日本法人の取引が関連者取引であるかどうかといった点について変遷を重ねており、かつ、これらの点に関する客観的な証拠は提出されていないことからすると、山形税務署長が被告の説明どおりの選定を行ったかどうかは疑わしい。
Bの比較対象企業を抽出するのであれば、香港企業のデータベースを出発点とすべきであったにもかかわらず、日本のモーターメーカーを中心とする情報を掲載する報告書や我が国の企業財務データベースを利用したのは相当ではない。また、抽出方法を変えれば、日本向けの非関連者取引を行っている企業を発見できた可能性がある。
また、事業の同種性及び事業内容の類似性は原告の事業ではなく、Bの事業に焦点を当てて検討されなければならないにもかかわらず、山形税務署長はそのような観点を欠いており、本件類似3法人の選定に当たっては、本来選定されるべきであった法人(特に非関連者取引を行う法人)が調査対象から抜け落ちてしまった可能性を否定できない。
さらに、山形税務署長は、原告の比較対象企業を選定して再販売価格基準法に準拠して推定課税をすることも、Bの比較対象企業を選定して原価基準法に準拠して推定課税をすることも可能であったにもかかわらず、それらを怠り、関連者取引を行っている比較対象企業を選定して推定課税をしたものである。山形税務署長は、M社も税務調査の対象としており、M社等の原価及び利潤の額を把握できたはずである。
同種事業類似法人の同種性類似性の判断基準について(ア) 租特法66条の4第7項の文言上、事業の同種性に加えて、事業内容の類似性が別個独立の要件として要求されていることは明らかである。
事業の同種性と同様、事業内容の類似性も、推定課税における課税要件であり、被告がそれを根拠付ける評価根拠事実について主張立証責任を負う。本件について、粗利益率レベルでの近似性を支持する具体的事実については被告が主張立証責任を負う。
同種性及び類似性は、いわゆる評価的、規範的構成要件要素であるところ、被告は類似という評価をもたらすような具体的事実を評価根拠事実として主張しなければならず、そのような事実が主張されなければ、仮に被告が主張する事実が立証されたとしても類似との評価が認められないのであるから、主張自体失当となる。
上記のとおり、推定課税規定の適用においても、独立企業原則が当てはまると解すべきであるから、独立企業間価格の原則的な算定方法の一つである原価基準法の適用において類似性を判断する重要な要素を列挙した本件租特法通達(2)-3は、当然に、原価基準法を準用している推定課税規定においても適用されると解すべきである。
同通達は、個別取引の類似性に影響を及ぼす事項を列挙したものではあるが、推定規定の対象となる事業は個別の取引の集積したものにすぎない以上、これらの事項は、事業にも同様に影響を及ぼす可能性があると解するのが合理的である。
さらに、租特法66条の4第7項1号とほぼ同様の文言を定めて事業内容の類似性を検証する残余利益分割法の基本的利益の算定においても同号及び上記通達に掲げられた事項と似た事項が類似性の判断において重要と解されている。
本件において、本件租特法通達(2)-3の各要素についての主張立証の状況をみると、被告の主張する評価根拠事実は、① 卸売業を営む法人であること、② 主力とする取扱製品が小型モーター(ステッピングモーター又はDCモーター)であること及び③ 事業規模の三つにとどまり、これらの事実が立証されたとしても、被告は、本件租特法通達(2)-3の各要素の検討をほとんど行っておらず、これらの各要素が粗利益率に重大な影響を及ぼす可能性が否定されていないことからすれば、これらの事実が認められたとしても、その事実に経験則を適用して、類似との判断には至らないと解すべきである。
特に、同種事業類似法人についてシークレットコンパラブルしか提示されず、しかも、上記通達の各要素に関する重要な事実が開示されていない以上、被告が主張立証責任を負う積極的に働く事実のみをもってしても類似するとの判断に到達するには不十分である。
それに加えて、原告が主張する消極的に働く事実は、類似性という判断を強く否定するものである。これらの立証の状況等によれば、Bと本件類似3法人が類似するとの判断には到底至らない。
被告は、事業の同種性及び事業内容の類似性の評価の基礎となる事実は、処分当時に税務署長が把握していた、あるいは容易に把握し得た具体的事情に限られると主張するが、そのように解釈すべき法令の文言上の根拠を欠くばかりでなく、行政庁のき束行為に関する裁判所による判断代置的司法審査及び自由心証主義を損なうものであり、許されない。
なお、被告の主張を前提としても、山形税務署長は、本件各更正処分等当時、パチスロ業界の特殊性等を把握しており、この点は、同種性類似性の判断の基礎となる。また、独立企業間価格の反証が許されているから推定課税の要件該当性について緩やかに解してもよいとする法律上の根拠はない。
同種事業類似法人の同種性類似性の判断要素について(ア) 同種性類似性を認めるにつき、積極的に働く要素についての被告の主張に対する反論a Bと本件類似3法人の業種についてBは、被告主張のとおりの事業をしているが、Bは、後記記載の各機能を有し、リスクを負担している。
本件類似3法人の事業については、何ら客観的証拠が提出されておらず、具体的な事業の内容が不明であるので、同種であることの判断を行うことはできない。
また、被告が主張する「棚卸資産である小型モーター等を仕入れ、加工することなく再販売する卸売業」というだけでは、事業の範囲が広すぎ、Bと本件類似3法人の事業がいずれもこれに当たるからといって同種であるとはいえない。
Bと本件類似3法人の取扱製品について被告は、Bが取り扱う本件モーターと本件類似3法人が取り扱う製品が粗利益率レベルでかなりの差が生ずるとは見込まれないと主張するが、モーターは、用途、メーカー系統(韓国系、台湾系など)により異なっており、DCモーターとステッピングモーターにつき価格に大きな差がないという被告の主張は全く証拠に基づかないものである。
さらに、Bの扱うパチスロ用のDCモーターとb社の扱うカメラ用モーターは、DCモーターであるとしても、物理的、化学的な面(形状、機構、寸法等)において大きく異なるので、粗利益率レベルでかなりの差が生ずると見込まれる。
a社の扱うOA機器用及び車載用モーターやc社の扱うOA機器用モーターについても、ステッピングモーターであること以外には、具体的にどのようなモーターであるか特定されていないが、Bが取り扱うDCモーターとは、価格に大きな差が認められることに加えて、a社及びc社が取り扱うモーターは、Bが取り扱うDCモーターと比較して、物理的、化学的な面が異なる。
このように、品目(DCモーターかステッピングモーターか)及び用途(パチスロ機用かカメラ又はその他の用途か)によって、価格は大きな違いをもたらす。本件類似3法人は、いずれも他の製品の再販売も行っている。
被告は、a社、b社及びc社がいずれも小型モーターを主力としている旨主張しているが、何ら具体的な数値を示していない。さらに、本件類似3法人の取扱製品について、被告の説明は変遷を重ねており、原告には、本件類似3法人の取扱製品、主力製品が何であるか確かめる方法がない。
本件類似3法人についても、モーター以外の製品の売上、粗利益率の影響を受けているとすれば、モーターの完成品の販売を行うBとの間で、粗利益率レベルでの近似性は認められない。Bの取扱製品は、uの型式試験に適合するためのカスタムメイドされた製品であり、単なるモーターとは異なる。
これらの点によれば、粗利益率レベルで近似性を認めるには足りないというべきである。
Bと本件類似3法人の事業規模について租特法66条の4第7項が、事業内容の類似性に関し、特に事業規模を明記してその類似性を要求していることからすれば、類似性の判断において、事業規模が特に重視されるべきであり、事業規模が類似しない場合には類似性が否定される趣旨であると解すべきである。
また、租税法律主義(課税要件明確主義)の観点からは、「事業規模」が条文上特に明記されている以上、他の事業内容の要素とは異なり、売上規模の倍率等で客観的かつ容易に判断されるべきものと解すべきである。
乙第121号証によれば、事業規模は粗利益率に対して重大な影響を与えるものであり、類似性の判断において極めて重要である。
特に、電気機械器具卸売業における売上規模と粗利益率との間には密接な関係があるから、事業規模については、基本的には売上規模をもって判断するのが合理的である。
Bの売上は、本件各事業年度において、2000万円から2億円程度であった。
Bの売上高については、被告は、原告の仕入高(Bの売上高)についての移転価格調整を主張している以上、それによるBの売上高の減少を反映した売上高を基準として判断すべきである。
そして、被告は、本件類似3法人の売上高及び従業員数を裏付ける客観的証拠を一切提出していないが、被告の主張によっても、a社及びc社の売上高とBの売上高との間には10倍をはるかに超える差異があるのであり(事業規模は、各事業年度ごとに評価しなければならず、被告が売上高に対応する事業年度を明らかにしていない以上、被告が主張する最も売上高が多い事業年度における売上高とBの売上高を比較すべきである。)、a社及びc社とBとの間で事業規模その他の事業の内容が類似するとは認められない。このことは、被告が類似性の判断基準とすべきと主張する社会通念に従ったとしても同様である。
なお、被告は、販売管理費比率が低ければ、事業規模が大きく異なる法人の売上総利益率を使用することも許される旨の主張をするものと解されるが、このような解釈は、事業規模の類似性という要件について、法律の文言に表示されていない例外要件を解釈により恣意的に付加するもので、租税法律主義に反する。
また、被告は、本件類似3法人と同じ程度に販売管理費比率が低い法人であれば、売上規模が粗利益率に与える影響が限定的なので、a社程度の売上規模であれば、Bとの比較において粗利益率レベルでかなりの差を生ずる相違に当たらない旨主張する。
しかし、Bの販売管理費比率は約26%であり、被告が主張する本件類似3法人の販売管理費比率である2.50%ないし5.50%(被告は、本件類似3法人の販売管理費比率を裏付ける客観的証拠を一切提出していない。)に比べて明らかに大きく、Bは本件類似3法人と同じ程度に販売管理費比率が低い法人とはいえない。
したがって、仮に、売上規模が異なっても粗利益率レベルの近似性が失われないとの被告の立場を採用したとしても、Bには該当しない。
同種性類似性を認めるにつき、消極的に働く要素a Bと本件類似3法人が行う機能及び負うリスクについて(a) 本件租特法通達(2)-3は、売手又は買手の果たす機能と売手又は買手の負担するリスクを類似性の判断要素として挙げている。
機能及びリスクが販売管理費に現れる傾向があることは一般的に認められている。
乙第121号証によっても、電気機械器具卸売業においては、販売管理費比率が粗利益率に重大な影響を与えることは明白である。
本件類似3法人は、販売管理費比率が2.50%から5.50%までの法人グループ(平均粗利益率5.37%)に含まれるのに対し、Bの販売管理費比率は、2001年(平成13年)ないし2003年(平成15年)の平均で約26%であるから、Bは、同号証の全1172社のグループ(平均粗利益率19.03%)に含まれ、粗利益率レベルで重大な差があることは明白である。さらに、事業規模も併せて考慮に入れれば、この点は更に顕著である。
なお、Uの報酬を、香港における標準的な報酬と置き換えたとしても、上記の分析に変化はない。
また、為替差損の取扱いを論難する被告の主張は的はずれであるが、仮に上記の標準報酬額に置き換えた後の販売管理費から更に為替差損を控除して販売管理費比率を計算しても、上記の分析に変化はない。
また、被告は、Bの上記機能及びリスクを税務調査段階において十分に認識し又は認識することができたので、同種性類似性を認めるにつき消極的な事情となる。
Bは、納期管理、品質管理、新製品開発、仕入先の開拓、販売先の開拓、在庫管理などの機能を果たしていた。
Bは、D社中国工場の現地担当者との密接な連絡を通じ、納期厳守を要求するとともに、同社の具体的な取組を求め、他方で、不良品については、その原因について同社における製造工程にまでさかのぼって原因究明を行い、検査表の見直しを提案するなど積極的に品質管理を図っていた。
N社の急な発注を受けた原告からの発注に対応するために、倉庫を保有しないながらも、D社中国工場に在庫を管理させることなどによって、実質的な在庫管理機能を果たしていた。
Bは、自らも仕様書の作成に取り組み、他のメーカーと共同しての新製品の開発にも取り組んでいた。また、Bは、様々なメーカーの調査、工場監査を行っていた。
なかでも、中国広東省のモーターメーカーであるg(以下「g社」という。)に対して資本参加することを具体的に検討し、その実現の目前にまで至ったこともあった。
Bは、仕入先のみならず、原告以外の販売先の開拓も行っていた。さらには、不良品をめぐるトラブルに関し、技術的な問題点の解明を図るほか、仕入先のモーターメーカーと顧客である原告の間に立って、独立した立場から解決のための提案を行うなど、品質管理を行うとともに、取引を仲介する機能を果たしていた。
このような機能は、Bが製造現場の近くで指示を出して納期履行や品質維持、向上を牽制していることにより、初めて可能になるものであった。
これらに対し、本件類似3法人は、手続業務や手配業務が中心の限定的な業務を行うのみであったというのであり、Bと本件類似3法人との間には機能において大きな差異があり、粗利益率レベルでかなりの差を生ずる。
Bは、N社の指定した短納期に違反した場合やuによる部品均一性の厳格な要請に従った規格、品質に違反した場合に負うかもしれない巨額の賠償責任のリスク並びにパチスロ筐体に対する人気、不人気及びその大きな変化に伴う発注量の大幅な変動、特に発注量の大幅な減少に伴う売上及び利益の大幅な減少といったリスクを負担していた。これに対し、本件類似3法人は、上記のようなリスクを負っていなかったと合理的に推測されるから、Bとは負担するリスクの面で大きな差異がある。
Bと本件類似3法人の取引段階について本件租特法通達(2)-3は、取引段階を類似性の判断要素として挙げている。
a社及びc社はメーカーから数えて二次卸に相当するが、BはメーカーであるD社中国工場からの一次卸であり、相違がある。
b社についても、同社の事業内容はモーター部品販売とされており、完成品モーターを取引対象とするBとは取引段階が異なる。
取引段階が異なれば、粗利益率が異なるから、この相違から、粗利益率レベルでかなりの差を生ずることが見込まれる。なお、被告は、従来、「必然的に」粗利益率レベルにかなりの差が生ずるものではないことを同種性類似性の判断の基準とはしていなかった。
Bと本件類似3法人が扱う製品の用途について本件租特法通達(2)-3は、棚卸資産の種類を類似性の判断要素としている。これには、棚卸資産の用途も含まれると合理的に推測される。
Bが扱うモーターはパチスロ用である。本件類似3法人が扱うモーターは、被告の主張によれば、OA機器用・車載用(a社)、カメラ用(b社)又はOA機器用(c社)である。本件類似3法人の扱うモーターの用途とBの扱うモーターは用途(最終製品市場)が異なる。
例えば、OA機器やカメラといった用途の違いでも、モーターの価格は大きく異なっており、そうであるとすれば、それらとは業態が全く異なるパチスロ業界のパチスロ筐体向け用途のモーターの価格が、更に大きく異なっていることは合理的に推測される。そして、価格の大きな違いは、粗利益率の差をもたらす。
Bと本件類似3法人が扱う製品の市場の地理的条件について本件租特法通達(2)-3は、市場の状況を類似性の判断要素として挙げる。
本件国外関連取引において、Bが原告に本件モーターを販売した先は日本であるところ、本件類似3法人のうち、a社の営む事業は香港を販売先市場とし、c社の営む事業は東南アジア各国を販売先市場としているから、地理的市場は全く異なる。
被告は、事業活動を行う国又は地域のみを重視すべきであると主張するが、市場という場合には販売先市場を問題とすべきであり、このことはOECDガイドラインの記載等からも明らかである。
また、残余利益分割法の基本的利益の算定においても、類似性の判断において、海外売上比率が重視されている。
一般的に、販売先市場によって企業の利益率は異なる。
また、製品価格は、当該製品の需給によって定まるところ、本件国外関連取引の対象製品であるDCモーターの需給は地域によって異なり、香港を含めたアジアと日本とでは大きく異なっている。
現に、地域によって、モーターの価格は異なっている。
Bと本件類似3法人は、いずれも中国における製造業者からモーターを購入しており、これらの法人が仕入れるモーターの原価は同等の水準であると推察されるから、販売先市場の相違による製品価格の相違は、粗利益率の相違に直結する。
したがって、上記のような地理的市場の差異が粗利益率レベルでかなりの差を生じさせると見込まれる。なお、被告は、従来、「必然的に」粗利益率レベルにかなりの差が生ずるものではないことを同種性類似性の判断の基準とはしていなかった。
Bと本件類似3法人が扱う製品の風営法による規制の影響について本件租特法通達(2)-3は、政府の規制を類似性の判断要素として挙げる。
この点につき、パチスロ業界においては、風営法により、パチスロ用モーター取引は、国家公安委員会からの指定を受けたuの規制対象となっており、このような規制が参入規制として機能し、パテントプールのように閉鎖的な市場慣行によって寡占性が維持されていることと併せて、パチスロ業界においては高い利益率が確保されているという状況にあり、そのような市場の状況に置かれているとはいえない本件類似3法人とは類似性を欠く。
被告は、uの型式試験が価格や数量を一定の水準又は範囲内に収まるよう規制するものではないし、経済政策に関連する規制でもないなどとして、粗利益率に影響を及ぼさない等と主張するが、価格に影響を及ぼす限り、いかなる政府規制であっても比較可能性の要素となるのである。そして、このような政府規制の影響は、部品業者にまで及んでいる。
最終製品であるパチスロ筐体と、パチスロ筐体を構成する各部品との結びつきが極めて強いため、たとえ機能、品質が酷似していたとしても、他のメーカーの類似製品や同一メーカーの類似部品によって代替することは事実上不可能であり、各部品メーカーは筐体メーカーに密着した製造、販売活動を行うことになる。
したがって、同一機種に関する限り、新規参入は事実上不可能となっている反面、ある機種について部品を供給している場合、その機種が製造される限り、他社との競争は存在しないことになり、事実上独占的な供給が保障されることになる。
このように、uの型式試験制度のため、特定のパチスロ機に使用される部品は、カスタムメードされた部品となるのであり、パチスロ部品の標準性、汎用性を指摘する被告の主張は実態を無視する誤ったものである。
また、パチスロ機は、上記uの型式試験の結果によって販売スケジュールが左右されるため、筐体メーカーは、即時的な対応が可能であり、厳格な納期及び品質の管理を行うことができ、uの規制を含めた業界事情を熟知し、臨機応変な対応ができる部品メーカーでなければ通常は取引を行わない。
さらに、本件対象事業年度の当時、筐体メーカーにとっては、部品の確保が最優先事項であり、価格に対する圧力は相対的に高くなかった。
このことは、特に、最大のパチスロ機メーカーであったN社についてはよく当てはまり、同社と取引を行う部品メーカーも、N社からの納期、品質を厳守すべき旨の要求を果たすため、自己の取引先である供給業者に対しても購入価格を引き下げるよう要求する圧力は相対的に低く、供給業者もより多くの利益を上げられる状態にあったと合理的に推測される。
パチスロ筐体メーカーは、uの規制の結果、型式試験に合格したパチスロ機に組み込まれた部品と同一の部品を納品することを同一の部品業者に対しても求め、その結果として、部品業者も、その制度を通過した企業のみが営業活動を行うことができることになって、この規制の効果を受けるのであるから、この規制は、部品業者にとっても参入規制となり、価格に影響を及ぼす。さらに、規制への対応の困難さも参入障壁を事実上強化するものとして機能していた。
Bと本件類似3法人が扱う製品の市場の寡占性等の影響について本件租特法通達(2)-3は、市場の状況を類似性の判断要素として挙げる。
パチスロ業界は、パテントプールにみられるように閉鎖的な体質を有しており、それが参入障壁となって、高い利益率を維持する背景となっていた。
また、パチンコ、パチスロ用部品については、他の用途向けに比べてパチンコ、パチスロ用途向けの粗利益率等の利益率が非常に高い。
これは、パチンコ、パチスロ業界のみに当てはまるuの規制の存在及び運用が参入障壁となり、筐体メーカーに寡占体質をもたらして筐体の販売価格が維持され、その結果、他の業界では考えられないような非常に高い利益率が確保されていたことによる。
これに加えて、筐体メーカーは、uの規制を熟知した部品メーカーとの取引を望むことから、両社の関係が密となり、さらに、uの試験完了時期を予測することは困難であるところ、一旦合格すると人気機種であれば短い納期での大量発注に応じ、部品のほんのわずかの差も認められないという厳格な規格、品質基準に応じることができれば、大きな利益を上げることができるものの、これらの厳しい要求に応じることができなかったり、該当機種の人気が急になくなれば発注が突然急減するという、ハイリスク、ハイリターンの業界体質をもたらしていた。
そして、パチスロ筐体業者ではなく、他の部品業者に販売する部品メーカーについても、規制を受け、寡占的、閉鎖的であってハイリスク、ハイリターンであるというパチスロ機市場の特質による影響を受けていた。
これに対して、本件類似3法人が属するOA機器用・車載用モーター市場(a社)、カメラ用モーター市場(b社)、OA機器用モーター市場(c社)は、競争的である。
なお、被告は、従来、「必然的に」粗利益率レベルにかなりの差が生ずるものではないことを同種性類似性の判断の基準とはしていなかった。
Bと本件類似3法人が行う取引の会計処理及び契約条件について本件租特法通達(2)-3は、類似性判断の重要な要素として、契約条件を明記している。
被告は、本件類似3法人の契約条件を開示していないので、被告が、契約条件に実質的に差異がないこと、仮に差異があったとしても粗利益率レベルで近似性の見込みがあることについて立証しなければならない。
また、被告は、本件類似3法人の財務諸表を開示していないので、被告が主張する本件類似3法人の粗利益率の算定が正確なものであるかどうか検証できないし、これらの財務諸表の元になっている数値が信頼できるものであるかどうかも不明である。
また、Bと本件類似3法人との間で整合性のある会計処理が行われているかどうかも明らかではない。
本件類似3法人が行っている取引が主として関連者取引であることについて本件類似3法人は、主として親会社との間で取引を行っている。
そのため、その取引価格については粗利益率にかなりのゆがみが生じている可能性は否定できず、また、被告は、取引価格にゆがみが生じていないことの検証を行ったともいえないから、Bの本来の独立企業間価格との間の粗利益率レベルの近似性が認められず、類似性は認められないというべきである。
国税庁の主張
租特法66条の4第7項の推定課税の制度は、(ア)移転価格税制が、海外に所在する関連企業との取引について、多様な要因により決定される取引価格の妥当性を問題とする制度であり、問題となる取引価格の決定過程や他の通常の取引価格に関する情報について、納税者側から資料提供という形で協力が行われることが極めて重要であること、(イ)仮に、納税者からこのような協力が行われない場合に課税当局が何らの手だてもなくこれを放置せざるを得ないことになれば、移転価格税制の適正公平な執行を担保し難いことといった理由から設けられたものであり、推定課税の規定は、納税者側からの資料提供という協力を担保するために設けられたものであって、我が国の申告調整型の移転価格税制の適正公平な執行を担保する上で重要な意味を有するものであるといえる。
そうすると、推定課税が適法といえるためには、① 推定に係る独立企業間価格が再販売価格基準法若しくは原価基準法又はこれらと同等の方法により算定されていること、② 当該算定が、他の法人(以下「同種事業類似法人」という。)の、当該国外関連取引が行われた日を含む事業年度又はこれに準ずる期間内の当該同種事業類似法人の事業に係る売上総利益の額(当該事業年度等の当該事業に係る収入金額の合計額から総原価の額を控除した金額)の総収入金額又は総原価の額に対する割合を基礎としていること、③ 上記②の同種事業類似法人が、当該国外関連取引に係る事業と同種の事業を営み、事業規模その他の事業の内容が類似する法人であることの要件が必要である。
山形税務署長は、租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項により、Bの同種事業類似法人の「本件取引が行われた日を含む事業年度又はこれに準ずる期間内の当該事業に係る売上総利益の額の総原価の額に対する割合」(以下「本件対原価利益率」という。)を基礎として、原価基準法により算定した金額を独立企業間価格と推定した。その経緯は、以下のとおりである。
仙台国税局職員は、「2003年版小型モータ需給動向-調査報告書」(以下「小型モータ需給動向報告書」という。)に基づき、次のいずれかに該当する者を抽出する作業を行い、その中から既に本件取引の比較対象となる取引を行う法人に当たらないことが判明していた2法人を除外し、その結果36法人を抽出した。
なお、小型モータ需給動向報告書は信頼性のあるものである。
(a) パチスロ機のメダル払出用ホッパーに一般的に使用されているパワーモーターを取り扱う者で、かつ、海外生産のある者
(b) パチンコやパチスロの駆動部に使用されるステッピングモーターを取り扱う者で、かつ、海外生産のある者
(c) パチンコ・パチスロ機用ステッピングモーターの製造メーカーとして把握されている者
(d) 上記(a)ないし(c)のほかに海外でパワーモーター又はステッピングモーターを生産していると見込まれる者c 仙台国税局職員は、本件モーターが中国で製造されていることから、上記aで抽出された36法人のうち、中国で製造されたモーターを輪入し、又は、アミューズ用モーターの取扱いのある17法人を抽出した。
仙台国税局職員は、上記cで抽出した17法人につき、書面により照会をし、また、必要に応じて臨場による調査を実施した。
仙台国税局職員は、以下のとおり、上記dの調査を基に独立企業間価格の算定を試みたが、独立企業間価格を算定することはできなかった。
租特法66条の4第2項1号イに規定する独立価格比準法の適用について、非関連者取引としては取引段階の異なる取引しか把握できず、Bと当該製造業者の機能の差異による調整に必要な資料も提出されなかったため、独立企業間価格を算定できなかった。
同号ロによる再販売価格基準法については、原告は、本件モーターをそのまま販売する取引と本件モーターに減速機を取り付けて販売する取引をしているところ、後者の取引について非関連者から仕入れを行っている取引が把握されなかったため、これを用いることはできなかった。
同号ハによる原価基準法については、本件取引に類似する可能性のある非関連者取引は把握できなかったため、これを用いることはできなかった。
同号ニの政令で定める方法である利益分割法については、本件取引に係る所得を原告及びBのそれぞれ支出した費用額、使用した固定資産の価額その他当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて分割して本件取引に係る独立企業間価格を算定することになるところ、原告からBの財務情報が提示又は提出されなかったため、これを用いることができなかった。
仙台国税局職員は、租特法66条の4第7項に定める方法により独立企業間価格の推定を試みることにした。
推定課税において独立企業間価格と推定される金額を算定する方法については、租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項に規定する原価基準法及び再販売価格基準法のいずれに準拠する方法も可能であるところ、仙台国税局職員は、〈B〉及び〈C〉といった公開データにおける企業情報を基に、同種事業類似法人の抽出を試みたが、取扱製品や事業規模等の事業内容が大きく異なる法人しか把握できなかった。
そこで、調査の過程において、① Bにおける本件取引に係る本件モーターのD社からの取得価額を把握していたこと、② 上記dの調査において、日本法人と香港法人との間の小型モーターの売買取引を把握していたこと、③ 本件取引に係る事業について、香港に所在する法人で同種の事業を営み、事業内容が類似する法人の情報を把握することが可能であると予想されたことから、Bの本件モーターの取得価額に関連者間取引から算定される通常の利潤の額を加算することにより本件取引に係る独立企業間価格を推定することの適否を検討することとした。
仙台国税局職員は上記cの17法人から、香港に所在する法人と取引を行う国内の製造メーカー11法人を抽出し、書面照会及び必要に応じて臨場による調査を行った。
これら11法人の香港の取引先法人はいずれも当該国内の製造メーカーの子会社であったが、これは、結果的にそのような法人が抽出されたのであり、山形税務署長において意図的に子会社を選定しようとしたものではない。むしろ、国内法人の子会社でない法人の場合、必要な情報を入手する方法は容易には想定し難く、そのような法人を選定することは困難であった。
また、山形税務署長は、Bの設立経緯は、原告が、仕入先であるD社の工場の中国移転に伴い、香港に関連法人を設立して、それまで原告が行っていた購買業務を移転したのと同じ状況であると判断し、そのような状況からすれば、把握された香港の子会社の中にこそ、本件取引に係る事業と事業の同種性及び事業内容の類似性の要件を満たす法人が存在する蓋然性が高いと見込まれる事情も存在した。
仙台国税局職員は、上記gの11法人から、① 中国にモーターの委託製造工場を持ち、香港の子会社の財務諸表に中国の委託製造工場の製造原価が含まれており、香港での卸売事業に係る損益のみを抽出することができなかった子会社、② 小型モーター以外の付加価値の高い電子機器用部品等の卸売を営んでいる子会社、③ 小型モーターその他の製造事業を行う子会社については、粗利益率レベルでかなりの差を生じさせる相違があると認められたことから、これらを除外することとし、残る5法人を抽出した。
仙台国税局職員は、上記hの5法人のうち売上高が100億円を超える年度がある2法人については、粗利益率に一定の影響を与える可能性を否定しきれないと判断して除外することとし、最終的に3法人(以下「本件類似3法人」といい、本件類似3法人に属する3社をそれぞれ「a社」、「b社」、「c社」という。)を抽出した。
そして、本件類似3法人とBとを比較したところ、① 従業員数が大きく異ならないこと、重要な無形資産を保有していないこと、② 一般の卸売業と異なり限定的な業務のみ行っていること(Bについては、事業を開始する時点で、仕入先をD社、販売先を原告とする取引の枠組みが決まっており、原告とD社との間に立って輸出手続及び香港の乙仲業者の手配等のごく単純で限定的な業務を行うのみであること。)において類似していた。Bが原告主張のような機能を有していたとはいえない。
そして、各事業年度におけるこれらの同種事業類以法人の売上総利益率の平均値である平均売上総利益率から本件対原価利益率を算出し、Bの本件モーターの取得原価の額に本件対原価利益率を乗じて算出した金額を当該取得原価の額に加えて独立企業間価格を推定し、それを基に国外関連者への所得移転額を算出した。
原告が被告の主張に変遷があると主張する点のうち、選定過程の説明については、訴訟の進行に応じて選定過程等をより詳細に主張していく必要性が高まったことからより詳細に説明したにすぎないか、明らかな誤記を訂正したものにすぎない。
また、同種事業類似法人の事業内容及び取扱製品については、守秘義務の関係から、その都度主張立証の必要性に応じて次第に詳細に主張していったにすぎない。
原告は、卸売業については商品の販売先が重要であるから、上海や台湾から日本向けにモータ一等の卸売業を行っている非関連者間取引企業を選定する方が類似性の点で優れていると主張するが、市場の状況については、事業活動を行う国又は地域の比較が重要であるから、非関連者取引を行う法人を選定できないからといって、他の国又は地域に選定の範囲を広げて同種事業類似法人を抽出する必要はない。原告は、原告の同種事業類似法人の選定作業を行うべきであった旨主張する。
山形税務署長は、原告の同種事業類似法人を選定することも検討したが、本件取引の一部について、原告の再販売先が関連者であるため再販売価格基準法を準用して独立企業間価格を算定することができず、断念したものであり、原告の主張は失当である。
租特法66条の4第7項は、同条1項によって取引金額とみなされる独立企業間価格を直接算定する方法を定めた規定ではなく、納税者側の資料提供についての協力を担保し、移転価格税制の適正・公平な執行をするために設けられた規定であり、所定の要件の下で、所定の算定方法によって、独立企業間価格を推定して課税することを認めた規定であるから、独立企業間価格の算定方法について考慮される独立企業原則と直接の関係はない。
また上記の趣旨からすれば、比較可能性のある資料として関連者間取引の資料しか得られない場合に推定課税の方法を採り得なくなるのは相当ではないし、そもそも、関連者間取引を用いて独立企業間価格を推定することは調査対象法人にとって特に不利になるとは考えられない
租特法66条の4第2項1号ハ及び租特令39条の12第7項の規定の文言と租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項の文言を比較すれば、租特法66条の4第7項の文言上、推定課税の際の比較対象取引は非関連者取引に限定されていないというべきである。
また、同項は同条2項1号ハの「通常の利益率」を準用しているわけではない。
なお、平成16年政令第105号による改正後の租税特別措置法施行令39条の12第6項及び7項の規定によれば、同条8項2号及び3号の規定が比較対象取引を非関連者取引に限定していることは明らかであるから、同項2号及び3号の規定が比較対象取引を非関連者取引に限定していることを明記していないとした上で、それにもかかわらず非関連者取引であることが前提となっている旨の原告の主張は失当である。
租税特別措置法(法人税関係)通達66の4(以下「本件租特法通達」という。)(2)-3にいう「比較対象取引」とは、本件租特法通達(2)-1において定義されているように、租特法66条の4第2項及び平成16年政令第105号による改正後の租税特別措置法施行令39条の12第8項に規定する独立企業間価格の各算定方法に応じた各比較対象取引のみを意味するのであり、推定課税における比較対象取引がこれに含まれないことは明らかである。
また本件租特法通達(4)-4及び(4)-5に定められている利益分割法は、基本三法及び基本三法に準ずる方法の使用が困難な場合に適用されるもので、その方法からしても、独立企業原則とは若干離れた方法であるが、上記通達の趣旨は国外関連取引を通じて関連者内に生じた合算利益について①比較利益分割法及び②残余利益分割法が我が国の移転価格税制上認められるかどうかについて必ずしも明確でなかったことから、一定の要件の下でこれらの算定方法を利用できることを明らかにしたものであり、利益分割法一般において、非関連者間取引以外の取引を用いてはならないということを意味するものではない。
租税条約上定められている独立企業原則は、独立企業間価格の算定方式以外の国内法には直接の関係がなく、推定課税を定めた租特法66条の4第7項の規定を解釈する際に独立企業原則を考慮する必要はない。
OECDの移転価格ガイドライン(以下「OECDガイドライン」という。)も、申告調整型の移転価格税制の適正公平な執行を担保するために設けられた我が国の租特法66条の4第7項のような執行上の担保措置の規定について独立企業原則が考慮されるべきである旨の規定を設けているわけではない。推定課税は法人税法131条及び所得税法156条等の推計課税と本質的に異なり、推計課税の議論を推定課税の適法性の判断に用いることはできない。
推定課税においては、推計課税の合理性のような要件を観念する余地はなく、またその必要もない。
いわゆるシークレットコンパラブルを利用して推定を行ったことについて租特法66条の4第9項は、移転価格税制の執行に不可欠な比較対象企業からの情報収集に法的根拠を与えるために定められた規定であるが、同項の規定に基づく質問・検査権限の行使により得られた資料情報には、法人税の調査対象法人とは関係のない第三者の営業上の秘密に関する事項が当然に含まれているため、税務職員は当該事項について守秘義務を負い、これが解除されるなどしない限り、当該事項を開示することはできない。
法は、同項に規定する質問・検査権限を行使して入手した、守秘義務を負う資料情報を用いて、同条7項の推定課税により更正をすることを当然に予定しているから、課税庁が、同条9項所定の要件を満たす場合に、同項に規定する質問・検査権限を行使して収集した非公開情報を用いて更正を行うことは適法である。
これを非難する原告の主張は立法政策の当否を述べるものにすぎない。
このようにして収集された資料情報によって得られる独立企業間価格は国外関連者が合理的な経済人として行動すれば到達するであろう結果と一致するはずであり、租特法66条の4第7項が定める要件の下で、調査担当者が同業の事業を営む第三者に対する調査権を行使して得られた資料情報に基づいて移転価格課税を行うことは合理性を有する。
さらに、租特法66条の4第7項によって算定された価格が同項の要件を満たす適法なものであることは課税庁に主張立証責任があり、同項によって算定された価格は推定にすぎず納税者の反証を許すことからすれば、納税者の反論が事実上不可能になるとか、適正手続を害するとかいうことはできない。
なお、課税庁では、非公開情報を知ることができない納税者に対して可能な限りの配慮を行っている。
また、本件各更正処分等の通知書に記載された理由は、法人税法130条2項により求められる理由の付記の程度として十分であるから、納税者が更正に係る通知書に記載された事実を確認することができないからといって、本件各更正処分等が理由付記を欠くものであるとはいえない。
租特法66条の4第7項は、推定規定の発動要件を充足した場合に、税務署長に対し、その入手した資料その他の個別具体的な事情に即して、社会通念上「同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業の内容が類似する」と認められるものを選定し、推定課税を行う権限を付与したものと解される。
そうすると、推定課税においては、租特法66条の4第2項各号において比較対象取引を選定する場合のような厳密な同種性や類似性が求められているものではない。
仮にこのような厳密な同種性や類似性が必要であると解すると、納税者から十分な協力を得られない上、特に国外関連者に関しては十分な資料を入手することができるとは限らない立場にある税務署長において、同種事業類似法人に該当する法人を発見、選定することが不可能又は著しく困難となることもあり得る。
そのような事態は、法が税務署長に推定課税を行う権限を与えた趣旨を没却するものであり、ひいては、多国籍企業グループを構成する特殊関係企業間の取引を通じた所得の海外移転を防止し、適正な国際課税を実現しようとする移転価格税制の趣旨をも没却することになりかねない。
他方で、推定課税に上記のような厳密な同種性や類似性は求められないと解したとしても、納税者は、租特法66条の4第2項各号に定める方法によって算定した独立企業間価格を再抗弁として主張立証して、推定課税の効果を覆すことができる。
そもそも国外関連取引を行う法人は、その国外関連取引の対価が独立企業間価格と異なる場合には、独立企業間価格で申告する義務を負っていることからして、納税者に上記の主張立証を要求しても困難を強いるものではなく、納税者にとって酷なものとはいえない。
したがって、事業の同種性及び事業内容の類似性の要件該当性は、処分当時において税務署長が把握していた、あるいは容易に把握し得た具体的事情を基礎として、選定過程の相当性も踏まえて、社会通念に従って判断すべきものであり、その際に、社会通念上有意とはいえない差異をとらえて事業の同種性ないし事業内容の類似性を否定することは、上記の推定課税の趣旨目的に反するというべきである。
そして、被告は、事業の同種性及び事業内容の類似性について、処分当時に税務署長が把握し又は容易に把握し得た具体的事情のうち、事業の同種性及び事業内容の類似性を基礎付ける事実を主張立証することを要し、原告は、粗利益率レベルでかなりの差を生じさせる事情があれば、事業が同種であること、事業内容が類似していることの評価を妨げる事情として主張立証すべきである。
なお、原告は、粗利益率レベルでかなりの差が生じないことを基礎付ける事実を被告が主張立証すべきであると主張するが、差が生じないことを立証を求めるのは被告に不可能を強いるものであるから、上記主張は失当である。
Bと本件類似3法人の業種についてBは、本件モーターを仕入れて、加工しないままこれを原告に再販売する卸売業を営み、本件類似3法人は、いずれも小型モータ一等を仕入れて、加工しないままこれを電子機器等製造会社等(a社、c社の場合)又は日本の親会社(b社の場合)に再販売する卸売業を営んでいる。
Bと本件類似3法人は、いずれも棚卸資産である小型モーター等を仕入れ、加工することなく再販売する卸売業を営んでいることから、業種が同一である。
Bと本件類似3法人の取扱製品についてBの取扱製品は小型モーター(DCモーター)であり、a社及びc社が主力とする取扱製品は小型モーター(ステッピングモーター)、b社が主力とする取扱製品は小型モーター(DCモーター)である。
卸売業における事業の同種性をみるに当たっては、対象資産と同種の資産の卸売業者といえるかどうかが重要であるところ、Bが取り扱う本件モーターと本件類似3法人が取扱製品の主力としている小型モーターは、いずれも電子機器等の部品に用いられる汎用性のある中間製品であり、特殊な加工が施されたものでもなく、性状、構造、機能等の物理的・化学的な面において、一定程度の類似性を有する資産であるから、本件類似3法人はBと同様の資産を取り扱うものである。
ステッピングモーターはDCモーターと同様に安価で汎用性のある小型モーターである。なお、本件類似3法人は、いずれも汎用性のある小型モーターを取扱製品の主力としており、他に電子部品等の取扱いがあっても、粗利益率レベルでかなりの差を生ずることが見込まれるとはいえない。
Bと本件類似3法人の事業規模についてBは、売上高1億円ないし5億円程度(年換算額)と推定され、従業員数名程度の規模の法人である。a社は、売上高については、多い事業年度で50億円を超え60億円以下、少ない事業年度で30億円を超え40億円以下、従業員10人を超え20人以下の規模の法人である。
b社は、いずれの事業年度においても売上高10億円以下、従業員10人以下の規模の法人である。
c社は、売上高については、多い事業年度で10億円を超え20億円以下、少ない事業年度で10億円以下、従業員10人以下の規模の法人である。
電気機械器具卸売業で本件類似3法人と同じ程度に販売管理費比率が低い法人の売上規模別平均粗利益率によれば、限定的な業務しか行わないBについて、a社程度までの規模の差であれば、粗利益率レベルでかなりの差を生ずることが見込まれるとはいえない。
Bと本件類似3法人が行う機能及び負うリスクについてBは、典型的な卸売業を営む法人と異なり、限定的な業務を行う法人である。
本件類以3法人は、典型的な卸売業を営む法人と異なり、中核的な業務をごくわずかしか行わない(a社)又は全く行わず(b社、c社)、限定的な業務のみを行う法人である。
B及び本件類似3法人は、いずれも事業活動において果たす機能や負担するリスクに大きな相違はないから、粗利益率レベルでかなりの差が見込まれるような相違はない。
仮に、Bが原告の主張する機能を果たし、リスクを負担しているとしても、山形税務署長は、原告の非協力により、その裏付けとなる事実を確認することができなかったのであるから、原告の主張する事実を同種性類似性を認めるに当たり消極的に働く事情として考慮すべきではない。
Bと本件類似3法人の取引段階についてBは、D社の中国における委託加工先から製品を引き取り、原告に納品している。本件類似3法人は、いずれも小型モーター製造会社から製品を引き取り、電子機器等製造会社等に納品している。Bと本件類似3法人は、いずれも引き取った製品を顧客に納品するという取引段階の業務を行っており、粗利益率にかなりの差を生ずるような相違はない。小型モーターの卸売業において、取引段階の相違により、必然的に粗利益率レベルにかなりの差を生ずることが見込まれるとは解されない。
Bと本件類似3法人が扱う製品の用途について汎用性のある中間製品である小型モーターの卸売業において、用途の相違により、粗利益率レベルにかなりの差を生ずることが見込まれるとはいえない。
Bと本件類似3法人が扱う製品の市場の地理的条件についてB及び本件類似3法人のように、専ら通関及び配送等に係る手配業務等を行っている法人においては、そのような業務を行う場所が事業活動を行う場所であり、B及び本件類似3法人が事業活動(販売活動)を行っている国又は地域は、いずれも香港である。したがって、粗利益率レベルでかなりの差を生ずることが見込まれるような相違はない。
また、汎用性のある中間製品である小型モーターの卸売業において、製品の販売先の地理的条件の相違により、必然的に粗利益率レベルでかなりの差を生ずることが見込まれるとはいえない。
Bと本件類似3法人が扱う製品の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(以下「風営法」という。)による規制の影響について財団法人u(以下「u」という。)の型式試験は、遊技機の認定及び型式の検定等に関する規則の規格に適合するかどうかを判断するものである。
uの型式試験は、部品(小型モーター)の価格や数量を一定の水準又は範囲に収まるように規制するものではなく、政府が部品業者に対して及ぼす経済政策に関連する規制ではないから、粗利益率レベルに影響を及ぼすことが裏付けられているものではない。
Bのように、単にパチスロ機に組み込まれる部品を調達するだけの業務内容では、uの型式試験の存在がその粗利益率レベルに大きな影響を与えることはない。
Bと本件類似3法人が扱う製品の市場の寡占性等の影響についてパチスロ機の部品供給業者においては、新規参入の余地はあり、市場の閉鎖性や寡占性は認められない。
また、原告やD社が取引価格を値下げしていることからして、パチスロ機の部品供給業者が常に高い利益率の獲得が保障された取引を行っているとも推認できないから、原告の主張する事情が粗利益率レベルに大きな影響を与えているとは解されない。
汎用性のある中間製品である小型モーターの卸売業において、最終製品の市場の閉鎖性、市場の寡占性及び市場の競争性の相違により、必然的に粗利益率レベルにかなりの差を生ずることが見込まれるとは解されない。
Bと本件類似3法人が行う取引の会計処理及び契約条件について原告の後記の主張は何ら具体的な相違の指摘がなく、いかなる点で粗利益率にかなりの差が生ずる可能性があるのか明らかではない。
本件類似3法人が行っている取引が主として関連者取引であることについて上記ウのとおり、非関連者と取引を行う法人であることが同種事業類似法人の要件ではない。
また、本件類似3法人が行う関連者取引においては、本件類似3法人の業務内容に相当する利益が得られるような価格設定になっており、取引価格がゆがめられていたとはいえない。
電気機械器具を取り扱う卸売業者で本件類似3法人と同じ程度に販売管理費比率が低い法人(非関連者取引のみを行う法人を含む。)の粗利益率レベルは、本件類似3法人の粗利益率レベルと近似していたから、本件類似3法人の売上総利益率を基礎として独立企業間価格を推定しても、不合理であるとはいえない。
原告は、関連者取引であるかどうかが粗利益率レベルでかなりの差を生じさせるような相違であるかどうかについて具体的な主張立証をしているとはいえない。
なお、租特法66条の4第7項の事業規模その他の事業の内容とは、事業の規模や具体的な業態に関する事情を意味するのであり、国外関連者との取引の有無やその割合は事業の内容とは無関係である。
さらに、山形税務署長は、一般に移転価格税制を適用する場合に要求される手順に従って本件類似3法人を選定しており、その過程に照らしても、恣意的に関連者取引を選んだなど適法性を疑わせる点はない。
東京高裁/両者の主張
納税者の主張
推定課税は、移転価格税制の適正公平な執行のための制度であるから、その実施に当たっては、移転価格税制の中核となる独立企業原則、つまり、国外関連取引と同様な取引が比較可能な状況下において独立企業間で行われたとした場合に成立した取引価格によって独立企業間価格を算定するという原則に抵触しない解釈ないし運用が求められるところ、関連者間取引を行う法人を比較対照して独立企業間価格を算定するのは、この独立企業原則の本質に反することになり、推定課税制度の趣旨にも反するものである。
本件において、B社と同種事業類似法人(原判決83頁25行目参照)に当たるとして山形税務署長が選定した本件類似3法人(原判決87頁13行目参照)であるa社、b社及びc社(原判決87頁14行目参照)は、いずれも主として関連者間取引を行っている法人であり、本件各更正処分等の推定課税は、比較対象としての適格性を有しない法人を用いた独立企業原則に反するものであるから、本件各更正処分等も違法である(原判決97頁17行目以下参照)。
被控訴人は、比較対象する本件類似3法人(いわゆるシークレットコンパラブル)についての主張事実に関する客観的な証拠を一切提出しておらず、また、控訴人にも全く開示していない(原判決102頁9行目以下参照)。
そして、本件類似3法人についてのモーター以外の事業の具体的な内容(事業内容、売上高の構成比、粗利益率等)が明らかにされておらず、被控訴人は、ごく概括的な情報を記載した調査報告書を提出しただけであり、また、風営法(原判決95頁24行目参照)の規制による影響についても、調査担当者の陳述書を提出しているだけである。
そもそも被控訴人は、調査担当者の陳述書ないし調査報告書を開示したに過ぎないのであり、控訴人には防禦の機会が十分に与えられてはいない。
すなわち、控訴人は、比較対象とされた本件類似3法人の事業内容や財務状況について客観的な証拠に基づく情報を入手できないため、事業の同種性及び事業内容の類似性に関する十分な検討や反論を行うことができないのである。
これは、適正手続(憲法31条)の観点からも極めて重大な問題があるというべきであり、納税者が自己の立場を擁護し、司法による的確なコントロールのための十分な機会も与えられていないから、本件の推定課税は違法であり、また、少なくとも事業の同種性及び事業内容の類似性は立証されていないというべきである。
租特法66条の4第7項の推定課税において選定する同種事業類似法人に関する同項所定の要件は、「事業の同種性」及び「事業内容の類似性」だけである。
しかしながら、推定課税の制度は、移転価格税制の下に位置付けられており、推定課税規定が準用している再販売価格基準法及び原価基準法も、売上高総利益率(粗利益率)を比較するのであるから、「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」ないし「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」もその要件になると解するのが相当である。
この観点からは、B社と本件類似3法人との事業規模が著しく相違していることを重視する必要がある。
B社の移転価格調整後の各事業年度の売上高は2000万円から2億円程度(更正前の金額を基準としても3000万円から5億円)であるのに対して、a社の売上高は50億円を超えて60億円以下であったから、そこには200倍ないし300倍の相違がある。
また、c社の売上高は10億円を超えて20億円以下であるから、B社の売上高〔7000万円(平成14年度)、1億2000万円(平成15年度)〕とも大きな相違がある。
このように、B社と本件類似3法人との事業規模には極めて大きな差異があり、租特法66条の4第7項1号所定の「事業規模その他の事業の内容が類似するもの」との要件を充足しないというべきである
被控訴人が提出した調査報告書(以下「本件調査報告書」という。)では、「電気機械器具卸売業の全1172法人」、「販売管理費比率が17.55%以下の法人」、「販売管理費比率が14.15%以下の法人」及び「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に分類して、売上規模と粗利益率の関係を分析しているところ、販売管理費比率が粗利益率に重大な影響を及ぼすことが明らかになっており、売上規模が同一であっても、販売管理比率の高いものほど粗利益率も大きくなっている。
本件類似3法人の販売管理費比率の平均は、上記の「販売管理費比率が2.50ないし5.50%の法人」に属している(平均粗利益率5.37%)ところ、B社の平成13年から平成15年までの販売管理費比率は平均26%であるから、本件調査報告書に基づく両者の粗利益率には大きな差異がある。
仮に、B社の取締役であるU(原判決9頁22行目参照)に対する報酬部分を控除したとしても、同社は、平成13年10月期及び平成15年10月期には「販売管理費比率が14.15%以下の法人」に、平成14年10月期には「電気機械器具卸売業の全1172社の法人」に属することになるから、いずれにしても粗利益率が大きく異なっていることは明らかである。
また、B社は、本件類似3法人と異なり、納期管理、品質管理、発注、実質的な在庫管理に加えて、仕入先選定、得意先開拓、条件交渉、営業活動、製品選定などの事業活動も主体的に行っていたところ、このような機能面における相違は販売管理費比率に反映しているのであるから、この意味でも、B社と本件類似3法人との事業内容における類似性を認めることはできない。
B社と本件類似3法人との事業内容には、次のような粗利益率の相違を生じさせる具体的な事情が存する。
製品のモーターは、OA機器やカメラの用途、販売先によって価格が大きく異なるものであるところ、それらとも全く業態が異なるパチスロ向けに製造されているB社の製品価格はさらに大きく異なるのであり、このような価格の相違は粗利益率にも大きく反映する。
モーターの販売価格は、市場の地理的な相違によって大きく異なる。
B社と本件類似3法人とは、いずれも中国の製造業者からモーターを購入しているものの、販売市場は、B社が日本国内であるのに対して、a社は香港等、c社は東南アジア等であるから、粗利益率でもかなりの相違が生ずるものと見込まれる。
本件モーターはパチスロ筐体用であり、風営法に基づく規制があり、u(原判決95頁26行目参照)の規格に適合することを要するという特殊性を重視する必要がある。
パチンコやパチスロ用の部品は、粗利益率等の利益率が非常に高く、業界も寡占的なものである一方、一旦企画や品質基準に対応できず、当該部品を使用する機種の人気が低下すれば、発注も急減するというハイリスク・ハイリターンの構造があり、このような特殊性は粗利益率にも大きな影響を及ぼすものである。
国税庁の主張
追加主張無し
両者の主張まとめ
- 国税庁
- ■山形税務署長は、原告の同種事業類似法人を選定することも検討したが、本件取引の一部について、原告の再販売先が関連者であるため再販売価格基準法を準用して独立企業間価格を算定することができず、断念したものであり、原告の主張は失当である。
■このようにして収集された資料情報によって得られる独立企業間価格は国外関連者が合理的な経済人として行動すれば到達するであろう結果と一致するはずであり、租特法66条の4第7項が定める要件の下で、調査担当者が同業の事業を営む第三者に対する調査権を行使して得られた資料情報に基づいて移転価格課税を行うことは合理性を有する。
■山形税務署長は、一般に移転価格税制を適用する場合に要求される手順に従って本件類似3法人を選定しており、その過程に照らしても、恣意的に関連者取引を選んだなど適法性を疑わせる点はない。 - 納税者
- ■独立企業間価格の算定に必要な資料を提出しない場合には推定課税を行うことができるという制度は、納税者側の資料提供についての協力を担保する機能をも有するとしても、一旦推定課税を行うに至った際は、推定課税規定も独立企業間価格を算定(合理的に推定)するものと位置付けられ、独立企業原則の趣旨が適用される。したがって、被告の主張は、移転価格税制の根幹を見誤り、推定課税制度を誤解するものである。
■推定課税は、取引単位ではなく事業単位での比較可能性に基づき算定するので、原則的な原価基準法に比べて比較可能性の精度が低くなり、独立企業間価格を常に算定できるものではない。本件類似3法人は、推定課税における同種事業類似法人としての適格性を欠くものとして、除外されなければならないのであり、本件推定課税はこれらを除外していないことからすれば、違法である。
■いわゆるシークレットコンパラブルを利用して推定を行ったことについて被告は、同種事業類似法人(シークレットコンパラブル)についての主張事実を支持する客観的証拠を裁判において一切提出せず、かつ、原告にも全く開示していない。このため、原告において、それらの法人が事業内容において類似しているかどうかについて、検証を行うことができない。これは、納税者である原告から防御する機会を奪うもので著しく不公平である。
関連する条文
租税特別措置法(平成16年法律第14号による改正前のもの。)
第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)
租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの。)
第39条の12(国外関連者との取引に係る課税の特例)
東京地裁/平成23年12月1日判決(川神裕裁判長)/(棄却)(控訴)
租特法66条の4第7項は、同項に基づく推定課税の方法として、当該法人の当該国外関連取引に係る事業と同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業の内容が類似するものの売上総利益率等を基礎として算定した金額を当該独立企業間価格と推定して更正処分等をすることができる旨規定する。
したがって、本件各更正処分等が適法であるためには、本件類似3法人が、本件取引に係る事業と同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業の内容が類似するものであることが必要である。
そして、同項に基づく推定課税の制度の趣旨が、同項の構造は、独立企業間価格の算定に必要な帳簿書類等が提示又は提出されなかった場合に、課税庁において「推定」した一応独立企業間価格と認められる金額を基に更正処分等をできるものとしつつ、納税者側が適正な独立企業間価格の立証をすることにより、その推定を破ることを認めるというものであることからすれば、この規定は、納税者側の書類の不提示、不提出という事情が存する場合に、独立企業間価格の立証責任を課税庁側ではなく納税者側に負わせることとする一種の立証責任の転換を定めた規定であると考えられ、同項に基づいて推定される金額は、同項所定の算定方法に従って算定された一応独立企業間価格と認められる金額であれば同項の趣旨に反するものではないと考えられること、同項の趣旨からは、同項による推定課税が不可能又は著しく困難となる場合が多くなることは移転価格税制の制度の意義を没却することにつながりかねないことからすると、当該国外関連取引に関する事業と推定課税の基礎となる法人の営む事業との間で事業が同種であること(事業の同種性)及び事業規模その他の事業の内容が類似するものであること(事業内容の類似性)については、それほど高度で厳格なものは要求されていないと解するのが相当である。
同項が「同種の事業」とか「事業の内容が類似するもの」という比較的幅があることを前提とした文言を用いているのもその趣旨と解される。
納税者側は、独立企業間価格の算定のために必要な書類を提出すれば推定課税の適用を免れることができるし、仮に、何らかの事情で遅滞なくこれらの書類を提出できなかった場合でも、自ら適正な独立企業間価格を主張立証することにより、推定を破ることができることからすると、このように解することが、納税者側にとって過酷なものであって不当であるということはできない。
この点に関し、原告は、推定課税の適法性を判断する場合にも独立企業原則が適用されると主張し、関連者間取引を主として行っている企業を同種事業類似法人とすることは許されないとする。
しかし、租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項には、その文言上、同種事業類似法人を選定する場合に関連者取引を行っている法人を除外すべきことは規定されていない。
そして、租特法66条の4第7項の推定課税の制度の趣旨が前記2で説示したものであることからすれば、上記アで説示したとおり、推定課税の適用が認められる場合における独立企業間価格と推定される金額の算定については、同項所定の算定方法に反しない限り、その要件を厳格に解する必要は必ずしもないというべきであり、同項の金額の算定に当たり、関連者取引を含んだ金額を基礎とすることが直ちに許されないものではないと解すべきである。
さらに、原告は、推定課税において、関連者取引を主として行っている企業を同種事業類似法人とすることは許されないとして、下記のとおり、種々主張するので、これについて検討する。
原告は、OECDガイドラインが、独立企業間価格の算定に当たっては、非関連者取引を比較対象とするものとしており、推定課税においても非関連者取引を行う法人を同種事業類似法人としなければならないことを前提としている旨主張するが、上記のとおり、独立企業間価格それ自体の算定とは異なる推定課税の適用に当たっては、独立企業原則を厳密に適用する必要は必ずしもないと解すべきであるから、原告の上記主張は前提を欠き、失当である。
原告は、租特法66条の4第7項と同条2項が、「独立企業間価格」という同一の文言を用いていることから、同条7項の独立企業間価格を算定する際に非関連者取引に基づくことが必要であると主張する。
しかし、同項に規定する方法によって算定される金額は、独立企業間価格と推定されるべき金額にすぎないのであり、推定の前提となる事実である同種事業類似法人の売上総利益率等を用いて算定した金額は独立企業間価格そのものではないのであるから、独立企業間価格という文言が用いられているからといって、同項における同種事業類似法人の行う取引が非関連者取引でなければならないことが当然に導かれるものではない。
原告は、租特法66条の4第2項1号に規定された独立企業間価格の算定方法も推計的な方法である点で同条7項に規定された算定方法と本質的に差はないと主張するが、同項は、所定の方法により算定した金額を独立企業間価格と推定するものと定めており、同条2項とは明らかに規定の仕方が違うのであり、原告の上記主張は失当である。
原告は、租特法66条の4第7項は、同条2項1号ロ又はハに掲げる方法を用いることを定めているところ、同号ロ及びハは通常の利潤の額という文言を用い、この通常の利潤の額の算定方法を定める租特令39条の12第6項及び7項は、通常の利益率という文言を用い、非関連者間の独立企業間価格を算定することを明らかにしていると主張するが、租特法66条の4第7項は、同条2項1号ロ又はハに規定された通常の利潤の額に代えて同種事業類似法人の売上総利益率等を用いた上でこれらの規定に掲げられた方法を用いて推定の基礎となる金額を算定する旨を定める規定であると解すべきであり、通常の利潤の額を用いて推定の基礎となる金額を算定すべきものとしているのではないから、そのことを前提として、同項が非関連者間の独立企業間価格を算定することを予定しているとする原告の上記主張は、その前提を欠き、失当である。
原告は、本件租特法通達(2)-3が租特法66条の4第7項においても適用されることを前提として、上記通達に従って、非関連者取引との類似性の検討が必要とされている旨主張するが、乙第69号証によれば、上記通達は、比較対象取引に該当するかどうかの判断基準を定めたものであるところ、乙第105号証によれば、本件租特法通達(2)-1は、比較対象取引とは同条1項の独立企業間価格の算定の基礎となる比準取引をいうと定めており、同条7項の推定に用いられる同種事業類似法人の選定の際には、本件租特法通達(2)-3の規定は関係のないものであることが明らかであるから、原告の上記主張は、その前提を欠き、失当である。
原告は、法令上比較可能性又は類似性について言及されていない利益分割法(租特法66条の4第2項1号ニ、租特令39条の12第8項)に属する残余利益分割法について本件租特法通達(4)-5が非関連者取引を比較対象取引として選定すべきである旨定めていることからすれば、法令上非関連者間の通常の利益率に基礎を置くものと規定された推定課税においては、なおさら非関連者取引を行う同種事業類似法人が選定されなければならない旨主張するが、推定課税においては、通常の利益率を基礎として推定の基礎となる金額を算定するものではないから、原告の上記主張は、その前提を欠き、失当である。
原告は、取引単位営業利益法を定める平成16年政令第105号による改正後の租税特別措置法施行令39条の12第8項2号及び3号には非関連者取引に限る旨の文言はないが、通達等によれば、同号に係る比較対象取引が非関連者取引によるものであることは当然の前提とされていることからすれば、法令において非関連者取引を基礎として独立当事者間価格を算定又は推定すべき旨が規定されていないとしても、移転価格税制において非関連者取引を用いるべきことは当然の前提とされている旨主張するが、上記改正後の同項2号の「再販売者」及び同項3号の「販売者」の定義には、いずれも非関連者との取引であることが含まれている(同条6項、7項)のであって、このような限定が明記されていない推定課税の規定の解釈において非関連者取引を用いるべきことが当然の前提とされているということはできないというべきであり、原告の上記主張は、その前提を欠き、失当である。
原告は、法律上の推定規定が経験則を法規化したものであるから同種企業類似法人の粗利益率から国外関連取引の独立当事者間価格を合理的に推定できるという判断が成り立つことが前提である旨主張するが、ある事実から他の事実を推定できる旨の法律の規定には、立証責任の転換を定めたものなどもあり、全ての場合が経験則を法規化した場合であるとは限らず、租特法66条の4第7項に基づく推定課税も、上記アのとおり、立証責任の転換の規定と解することができ、国外関連取引に関する事業と推定課税の基礎となる法人の営む事業との間の事業の同種性及び事業内容の類似性について、高度なものは要求されていないと解するのが相当であることからすれば、同項が「推定」という文言を用いていることから直ちに推定課税の基礎となる法人が非関連者取引を行っている法人でなければならないことが導かれるとはいえない。
原告は、租特法66条の4第7項の推定課税と法人税法131条、所得税法156条等に基づく推計課税が同一の構造を有することから、真実の独立当事者間価格と合致又は近似する蓋然性が必要であると主張するが、租特法66条の4第7項に基づく推定課税は移転価格税制の制度であり、原告主張の推計課税が用いられる場面と異なることからすれば、推計課税における原則が直ちに推定課税に当てはまるとはいえず、原告の主張は失当である。
いわゆるシークレットコンパラブルを用いたことについて本件類似3法人について、被告は、その事業内容や財務状況等を開示していない。
原告は、このように事業内容や財務状況等の同種性、類似性について検証することができない法人を用いて推定課税を行うことは、納税者側の防御の機会を奪うものであり、相当ではない旨主張する。
しかし、租特法66条の4第9項は、推定課税を行う際に、税務当局の職員が同種事業類似法人に対する質問検査権を行使することを認めているところ、このことは、この質問検査権で得られた情報を推定課税において用いることが前提とされていると解するのが相当である。
他方、これらの企業は、納税者とは関係のない第三者であることからすれば、その事業内容や財務状況等の詳細について、税務当局の職員が守秘義務を負っていることは当然である。
これらによれば、租特法は、税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人を用いて推定課税をすることを予定しているというべきである。
原告は、そのような制度は納税者の防御の機会を奪うもので相当ではない旨主張するが、それは、立法政策の当否を問うものにすぎないし、また、税務当局の職員が負っている守秘義務に反しない限度で、同種性、類似性についての立証をし、これに対して納税者がその信用性を争うなどすることは可能であるから、そのような制度を採ったからといって納税者の防御の機会が奪われるものではない。
推定課税の制度が、主として、国外関連取引における独立企業間価格の算定の根拠となる帳簿書類等の提示等についての納税者の協力を担保する趣旨で設けられたものであること、推定課税による更正処分等を受けた納税者は、自ら独立企業間価格を立証して推定を破る方法を採ることができることからすれば、このような制度になっていることが納税者にとって過酷であるとはいえない。
そして、本件において、被告は、守秘義務に反しない限りで本件類似3法人に関する情報を開示しているのであり、以上によれば、本件類似3法人の事業内容や財務状況等の詳細が開示されていないことをもって、本件各更正処分等が違法となるものではない。
また、事業内容や財務状況等の詳細が開示されていない同種事業類似法人を用いて推定課税を行うことは法が予定していることであることからすれば、これらの情報が明らかにされていなかったとしても、本件各更正処分等の理由付記に不備があるということはできない。
推定課税が適法であるためには、事業の同種性及び事業内容の類似性が必要であり、これらについては、推定課税の適法性を主張する被告に立証責任があるというべきであるところ、その立証に当たっては、行政処分の適法性の判断の一般原則に従い、処分時に存した全ての事情を基礎にして当該処分時を基準として判断すべきである(この点、被告は、処分時に税務署長が把握していた、あるいは容易に把握し得た具体的事情を基礎として判断すべきである旨主張するが、行政処分の適法性に関する一般的な判断基準と異なり、その範囲を限定して事業の同種性及び事業内容の類似性を判断すべきとする根拠は見当たらない。)。
推定課税の趣旨からすれば、事業の同種性及び事業内容の類似性について高度なものを要求するのは相当ではなく、推定課税が同種事業類似法人の利益率を用いていることからすれば、事業及び事業内容の差異が粗利益率レベルでかなりの差をもたらすものでないことが事業の同種性及び事業内容の類似性を認めるための一応の判断基準になるというべきである(租特法66条の4第7項の文言によれば、立証の対象としての事実は事業の同種性及び事業内容の類似性であり、粗利益率レベルでかなりの差をもたらすものでないことを事実として立証する必要があるとは解されない。)。
そして、同種事業類似法人の選定の作業は、独立当事者間価格を求めるに当たっての比較対象取引の選定の作業と判断の手法が類似することからすれば、事業の同種性及び事業内容の類似性の判断に当たっては、比較対象取引の判断基準である本件租特法通達(2)-3に掲げられた要素が参考になるというべきである(ただし、前記のとおり、租特法66条の4第7項による推定課税の趣旨が同条2項の独立企業間価格を求める趣旨とは異なることからすれば、ある要素が同項の比較対象取引の判断基準として重視されているからといって同条7項の同種事業類似法人の判断基準として重視されるとはいえないし、また、その判断基準も相当緩和されたものになるというべきである。)から、以下、同通達に掲げられた要素を含め事業の同種性及び事業内容の類似性を判断するための要素について検討することとする。
租特法66条の4第7項に定められた事業の同種性とは、同項の趣旨が前述のようなものであることからすれば、一般的には、例えば、問題となっている取引の対象資産と似かよった資産の卸売業者であるとか製造業者であるとかいったレベルで共通していることをいうと解すべきであるところ、本件類似3法人は、いずれも小型モーター等を仕入れて加工しないまま再販売する卸売業を営んでおり、甲第192号証によれば、Bは、小型モーター等を仕入れて再販売する卸売業を営んでいることが認められるから、本件類似3法人とBは、小型モーターを中心とする商品を仕入れて加工しないまま再販売する卸売業を営んでいるという点で共通点を有し、事業の同種性が一応認められるといえる。
本件類似3法人のうちa社とc社は主としてステッピングモーターを取り扱っており、b社とBは、主としてDCモーターを取り扱っていたことが認められる。
原告は、小型モーターの中でもDCモーターとステッピングモーターでは製品が異なると主張するが、これらのモーターは「小型モーター」という種類に含まれ、乙第32号証のようにDCモーターやステッピングモーターのメーカーをまとめて掲載している資料も存在すること、乙第32号証によれば、DCモーターとステッピングモーターの双方を生産しているメーカーも少なからず存在することが認められること、DCモーターの卸売事業とステッピングモーターの卸売事業において粗利益率でかなりの差が生ずることを的確に認めるに足りる証拠がないことからすれば、B及びb社が主として小型モーターのうちDCモーターを取り扱い、a社及びc社が主として小型モーターのうちステッピングモーターを取り扱っていることは、事業の同種性の判断基準が上記のようなものであることに鑑み、事業の同種性を否定する要素となるとは言い難い。
なお、原告は、本件類似3法人の取扱製品についての被告の説明が変遷を重ねており、信用性に乏しい旨主張するが、被告の説明は、その表現に異同はあるものの、本件類似3法人の取扱製品の中心が小型モーターであることと矛盾するものではないという点において一貫しており、原告の主張は、些末な点を殊更に取り上げて変遷であるというものか、より詳細な説明をした点を変遷であるというものにすぎず、原告主張に係る記載があることをもって、本件類似3法人の取扱製品に関する乙第126号証ないし乙第129号証の記載が信用性に乏しいということはできない。
Bの従業員数は数名から多くても7、8名であったことが認められ、本件類似3法人の従業員数(a社は10名を超え20名以下、b社及びc社は10名以下)と大きく異ならない。
また、本件類似3法人の売上高は、最も規模の大きいa社の最も売上高の多い年度において50億円を超え60億円以下であることが認められ、Bの年間売上高は、本件各事業年度に相当する決算期において、いずれも1億円ないし5億円程度であると認められ又は推認されるところ、乙第32号証によれば小型モーターのメーカーには、売上高数億円規模の企業から売上高1000億円を超える企業まであることに鑑みれば、本件類似3法人とBの売上高の規模が大きく異なるとまではいい難い。
なお、原告は、Bの売上規模を算定するに当たっては、移転価格調整によって調整された後の取引価格を基準とすべきである旨主張するが、租税特別措置法66条の4の制度は、独立企業間価格で取引が行われたものとみなして課税を行う制度であり、移転価格調整によって直ちに国外関連取引の相手方の売上高が減少するものではないことからすれば、失当である。
本件類似3法人は、主として親会社の指示に基づいて中国に所在する製造会社が製造した小型モーター等を指定された得意先に引き渡すという限定された業務を行っているのであり、この業務の内容からして特段のリスクも負っていないものと推認される。
他方、Bは、本件各事業年度における本件取引に関して、自ら主体的な役割を担っていたとはいえず、リスクも負っていたとはいい難い。
また、本件各事業年度においてBの取引のほとんどは、原告が相手方となったものであると認められるところ、本件取引における原告とBとの関係に照らし、本件取引以外の取引においてもBが主体的な役割を果たしていなかったことが推認される(例えば、甲第196号証によれば、hとの取引を開始するに当たっても、その仕様については原告に確認することとされており、Bがどれだけ主体的な役割を担っていたかどうかは不明である。)ことからすれば、Bは、その事業全体について、上記のような限定的な業務しか行っていなかったというべきである。
したがって、この点に関して、本件類似3法人とBの間に大きな違いはなかったものというべきである。
なお、原告は、Bの販売管理費が2001年10月期から2003年10月期までの3年間の平均で約26%であり、本件類似3法人の販売管理費と比べてかなり高かったことは、Bと本件類似3法人が機能及びリスクの面で異なっていることを表している旨主張するが、この販売管理費は、Uに対する報酬を含んでおり(甲第192号証によれば、Bから取締役報酬を受け取っていたのはUのみであると認められる。)、この報酬額を控除した額の売上高に対する割合(同表のE)は、約8%ないし約18%であるところ、Uは、原告並びに原告の関連会社であるM社及びrから平成13年3月31日頃まで取締役の報酬を受け取っていた反面、Bからは報酬を受け取っていなかったことが認められ、Bが活動を開始した直後には取締役報酬を受け取っていなかったものの、平成13年4月頃になって突如としてBから報酬を受け取るようになったものであることからして、BからUに対する報酬が支払われるようになったのは、Bの利益を減らすための工作であることが強く疑われるから、上記のとおり、財務諸表に記載された販売管理費が高かったとしても、そのことから、Bの機能及びリスクが本件類似3法人と大きく異なるといえるわけではない。
卸売業を営む法人がメーカーから小売までのどの段階にあるかによって粗利益率にどれだけの差が生ずるのかを的確に認めるに足りる証拠はない。
租特法66条の4第2項により独立企業間価格を求める際には、国外関連取引と比較すべき取引を選定しなければならないことから取引段階の差異が問題となり、比較対象取引の選定に当たって取引段階の差異を適切に調整することが必要となるが、同条7項による推定課税を行う際には、国外関連取引に係る事業と同種の事業を選定するのであり、事業という文言が各種の取引を包括したものであることは明らかであり、ある事業に属する取引は各種の取引段階にあるものが含まれているのが通常であると考えられること、同項にいう事業の同種性及び事業内容の類似性として高度なものが要求されているとはいい難いことからすれば、取引段階が異なることによって粗利益率に多少の差が生ずることがあっても、同種事業類似法人として選定することの大きな障害になるとはいえないというべきである。
型モーターの卸売業において、取り扱うモーターの用途によって粗利益率レベルでかなりの差が生ずることを認めるに足りる証拠はない。
原告は、用途によって価格が異なるから、粗利益率が異なると主張するが、租特法66条の4第7項においては、同種の事業を営む法人で事業の内容が類似するものを選定することが必要とされているのであり、小型モーターの卸売業を営む者は、複数の用途のモーターを取り扱うのが通常であると考えられること(甲第192号証によれば、Bもコインホッパー以外の用途のモーターをも取り扱っていたことが認められる。)からすれば、用途が異なるモーターを取り扱うことによる差異があっても同項の同種事業類似法人と認めることの大きな障害にはならないと考えられることに加え、小型モーターは、それが組み込まれる製品の仕様によって細かな差異はあるものの、一般的には汎用性のある製品であることが認められ、かつ、Bが取り扱うモーターは汎用的な製品と異なる特殊なものではないことが認められることからすれば、原告の上記主張によっても、同種性類似性が直ちに認められなくなるものではない。
本件類似3法人の事業における小型モーターの販売先は、a社については香港等に所在する法人、b社については日本国内の法人、c社についてはアジア各国の法人であることが認められ、また、Bの本件取引における小型モーターの販売先は日本国内の法人である原告であることが認められるから、a社及びc社とBとの間で、販売先の市場は異なっている。
この点につき、原告は、販売先の市場によって一般的に利益率は異なり、また、販売先の市場によって小型モーターの製品の価格が異なるから利益率は異なるはずであると主張するが、同種の小型モーターについて販売先の市場の違いによって粗利益率にかなりの差が生ずることを的確に認めるに足りる証拠はなく、かえって、小型モーターの卸売業の粗利益は、販売先の市場のみならず、小型モーターが組み込まれた最終的な商品の市場がどこであるかにも影響されると解するのが相当であること、小型モーターの卸売業は通常複数の市場に存在する買主に対し小型モーターを売却しているものと解されるところ、租特法66条の4第7項は同種の事業を営む法人で事業内容が類似するものを選定することを求めていることからすれば、販売先の市場が地理的に異なることは同項の同種事業類似法人を選定することの障害とならないとするのが同項の趣旨であると解されるのであって、原告の主張する上記の点によっても、直ちに同種性類似性が認められなくなるものとはいえない。
原告は、本件取引の対象製品であるパチスロ台用の小型モーターが、風営法により国家公安委員会からの指定を受けたuの規制対象になっており、これが参入規制として機能しているから、そのような規制がない製品を対象とする本件類似3法人の事業とは粗利益率が大きく異なると主張する。
しかし、風営法によるパチスロ台の規制は、同法20条等によれば、著しく客の射幸心をそそるおそれがあるものを排除するために設けられているものであることが認められ、その観点からは、コインの排出確率やその枚数を決定するコンピューター等の部分については厳しい検査がされるものと解されるが、本件取引の対象となる小型モーターが組み込まれるコインホッパーに関しては、コンピューター部分の指令に基づき正確な枚数のコインが排出される機能さえ備わっていればその規制の趣旨は十分果たされることに加え、甲第211号証、乙第124号証によれば、本件モーターのような部品については、uの検査があることにより、一旦あるパチスロ台用として製造した部品を当該パチスロ台については変更することができないという以上の規制はなく、そのことは部品の製造業者や供給業者にとってはかえってやりやすい面でもあることが認められる〔乙第82号証によれば、平成11年から平成15年までの各年においては、毎年約200種類から300種類のパチスロ機(回胴式遊技機)が新たにuから認定を受けていたのであり、毎年相当数のパチスロ機が新たに発売されていたと認められることからすれば、ある機種のパチスロ機が生産される期間は比較的短いものと考えられ、ある機種用に同じ部品を生産し続けなければならないことによる負担は小さいものと思われる。
現に、平成12年頃、D社の生産するモーターは、GからIに、また、EからKにそれぞれ変更され当該変更後も新機種と旧機種の両方が供給されていたものの、そのことに関連して特に問題が生じていたとか、特に高いコストを要したとかいう事情は、乙第44号証その他本件全証拠によっても認められない。〕。
そうすると、uによる規制があることは、本件取引に係る事業と一般的な小型モーターを対象とする卸売取引との間で粗利益率にかなりの差を生じさせる点であるとはいい難い。
パチスロ台の部品市場が寡占的な市場であったかどうかについて原告は、パチスロ台の部品市場が寡占的な市場であったと主張し、甲第148号証には、その趣旨の内容があるが、これと反対の趣旨の証拠(乙第82号証によれば、パチスロ台メーカーとして参入する業者も少なくないことが認められ、前述のとおりパチスロ台用の小型モーターが一般的な製品であることからすれば、少なくともパチスロ台の小型モーターの市場への参入は容易であったと推認される。)が存在することに照らし、他の用途の小型モーターの市場と比べてパチスロ台用の小型モーター市場が特に寡占的な市場であったことを的確に認める証拠はないというべきである。
原告は、パチンコ台業界においては、パテントプールといった慣行により、寡占性が維持されていたと主張するが、これは、パチンコ台メーカーの寡占性であり、上記のとおり、本件モーターが一般的なモーターであることに鑑みれば、このことから直ちにパチスロ台に組み込まれるコインホッパー用モーターの市場が寡占的であったとまでいうことはできない。
少なくとも、本件取引が、従前D社と原告との間で直接行われていた本件モーターの取引と特に変わらない条件(条件が変更された部分については、原告の乙専務も交渉に当たっている。)において、Bを介して取引をするようになったものであり、また、Bが本件取引において限定的な機能しか果たしていないにもかかわらず、Bが介在したことによって、原告の本件モーターの仕入れ値が高騰したという事情の下では、本件モーターの市場が寡占的であることによって、本件類似3法人との間の事業の同種性及び事業内容の類似性が否定されることになるとはいえない。
また、原告は、寡占的な市場であることの理由として、短い納期に対応できる業者でなければならないことを理由として挙げるところ、原告が、短い納期の例として提出する甲第245号証の1及び2は、翌日又は翌々日までにD社製のモーターに原告側で加工を施したものを納入することを求めるものであるところ、翌日又は翌々日という納期に照らし、このような発注は、発注後にD社からモーターが出荷されることを前提とするものではなく、原告が在庫として保有する加工後の製品の出荷を求めるものか、せいぜい原告に既に納入されていた本件モーターに加工を施して出荷することを求めるものと解するのが相当であり、B及びD社が短い納期に対応する必要があったとは認め難いことによれば、少なくとも本件モーターのようなパチスロ台に直接組み込まれる部品を構成する部品については、短い納期に対応できる業者でなければこれを取り扱うことができない旨の原告の主張は採用できない。
原告は、契約条件が異なることが本件類似3法人の事業と本件取引に係る事業との間の事業の同種性及び事業内容の類似性に影響を与える旨主張するが、租特法66条の4第7項においては、国外関連取引に係る事業と同種類似の事業における利益率等を算定すればよいのであり、個々の契約条件の異同は、特段の事情のない限り事業の同種性及び事業内容の類似性に影響を与えないと解すべきであり、本件においてそのような特段の事情が存することを認めるに足りる事情はうかがわれない。
また、原告は、本件類似3法人の財務諸表が開示されていないため、本件類似3法人の粗利益率の算定が正確であるかどうかや本件類似3法人とBとの間で会計処理に整合性があるかどうかが明らかではないと主張するが、租特法は、税務当局が守秘義務の関係でその財務状況について開示することができない同種事業類似法人を用いて推定課税をすることを予定していることからすれば、本件類似3法人の粗利益率が正確であるかどうかや本件類似3法人とBとの間の会計処理の整合性について、被告側担当者の主張、陳述書、証言等によってしか検証できないからといって、事業の同種性及び事業内容の類似性が認められないということはできない。
さらに、原告は、本件類似3法人が主として行っている取引が関連者取引であることから、事業の同種性及び事業内容の類似性が認められないと主張するが、関連者取引であることそれ自体が、租特法66条の4第7項の趣旨に照らし、粗利益率にかなりの差をもたらすものであることについて的確に認めるに足りる証拠はない。
特に、本件取引が従前D社と原告との間で直接行われていた本件モーターの取引と特に変わらない条件(条件が変更された部分については、原告の乙専務も交渉に当たっている。)においてBを介して取引をするようになったものであり、また、Bが本件取引において限定的な機能しか果たしていないという事情を考慮すれば、本件類似3法人は、Bとの間で、租特法66条の4第7項にいう同種の事業を営む法人で事業規模その他の事業内容が類似するものであるということができる。
そして、本件類似3法人の選定方法に不当な点は見当たらない〔原告は、小型モータ需給動向報告書の記載に信用性がない旨主張するが、仙台国税局の職員は、小型モーターの国内メーカーの抽出のためのリストとして小型モーター需給動向報告書を使用しているところ、原告が小型モータ需給動向報告書の信用性がないことの根拠として主張する点は、他の報告書の記載と生産台数が異なるという点にとどまり、本来抽出されるべきメーカーが記載されていなかったことや本来抽出されるべきでないメーカーが記載されていたことをうかがわせるものではないから、原告の上記主張は失当である。〕。
そうすると、平成11年12月期ないし平成13年12月期について、これに相当する決算期のa社の利益率を用い、また、平成14年12月期及び平成15年12月期においてa社、b社、c社の利益率の平均値を用いてBの本件取引に係る製品の取得金額から独立企業間価格を推定したことは、適法であり、甲第1号証の1ないし5によれば、本件各事業年度について算定された本件取引に係る独立企業間価格も、租特法66条の4第7項、同条2項1号ハによっていずれも適法なものである。
東京高裁/平成25年3月14日判決(奥田隆文裁判長)/(棄却)(上告・上告受理申立て)
近時における国際的な経済活動の活発化や企業の多国籍化に伴い、わが国の企業が国外の関連企業(親会社・子会社等)との間で行う取引について、相互に独立した当事者間の取引で通常設定される対価(独立企業間価格)とは異なる対価による取引が行われると、これによる所得がわが国から国外に移転し、その結果、適正な租税収入の確保が困難になるといういわゆる移転価格の問題が生ずることになる。
移転価格税制(租特法66条の4)は、この問題に対処するために、同条1項において、法人が国外関連者との間で独立企業間価格とは異なる対価による取引(国外関連取引)をした場合には、その取引を独立企業間価格で行われたものとみなして法人税関係法令を適用すると規定し、また、同条2項に定める方法によってこの独立企業間価格を算定すると規定している。
また、上記の移転価格税制の下においては、国外関連取引の対価が独立企業間価格と異なる場合には、納税者である法人は独立企業間価格による申告を要することとされており、いわゆる申告調整型の制度ということになる。
そして、租特法66条の4第7項が推定課税の制度を採用している趣旨は、国外関連取引に係る独立企業間価格を算定する根拠となる帳簿書類等の提示又は提出について、納税者である法人の協力を確保することにある。
すなわち、移転価格税制は、海外にある国外関連者との取引について、多様な要因により決定される取引価格の妥当性を問題とする制度であるから、対象となる取引価格の決定根拠や他の通常の取引価格に関する情報について、納税者から帳簿書類等の資料の提供という協力を受けることが必要であり、他方、納税者からのこのような協力が得られない場合に、税務当局が何の手立てもなくこれを放置せざるを得ないということになれば、課税の適正公平な執行が損なわれる結果となることから、その実効性を担保する目的で推定による課税の制度が設けられ、課税庁は、租特法66条の4第7項所定の要件がある場合には推定された独立企業間価格を基にして課税処分を行うことができることとされているのである。
課税庁による租特法66条の4第7項に基づく処分の適法性が争われた場合には、課税庁側は、まず、同項所定の推定課税をするための要件の存在と、推定課税の方法の適法性について主張立証する必要があることは明らかである。
そして、納税者は、上記の課税庁側の主張立証について、反証によりこれを争うことができることはもちろんであるが、自らの有する資料によって、国外関連取引に係る適正な独立企業間価格を主張立証して、推定された独立企業間価格に基づく処分を争うこともできることになる。
このように、租特法66条の4第7項所定の推定課税の制度は、前述の推定課税の制度趣旨、すなわち、国際的な経済活動の活発化等に伴い発生する移転価格の問題に対処する方策として、国外関連取引の対価が独立企業間価格とは異なる場合には、納税者において独立企業間価格による申告をするという申告調整型の仕組みを採用して、移転価格税制の適正公平な執行の実現を図るとともに、独立企業間価格を算定する上で必要となる帳簿書類等の提出を確保するために、租特法66条の4第7項所定の要件を満たしている場合には、納税者の側にも独立企業間価格についての主張立証を求めているものと解される。
そして、納税者は独立企業間価格を算定するために必要な資料を保有しているのが通常であるから、必要な書類を提出すれば推定課税の適用を免れることができるのであり、また、課税庁が推定による課税処分をした場合にも、当該資料に基づき独立企業間価格を主張立証することによっても課税処分を争うことができるのであるから、納税者にとって過酷で不合理な制度とは解することができない。
控訴人は、推定課税による場合には、移転価格税制の中核である独立企業原則に抵触しない解釈ないし運用が必要であり、関連者間取引をする法人を比較対象とすることは許されないところ、同種事業類似法人として山形税務署長が選定した主として関連者間取引を行っている本件類似3法人は、比較対象としての適格性がないと主張する。
しかしながら、原判決も適切に説示するとおり、租特法66条の4第7項及び同項所定の独立企業間価格の推定方法に関する租特令39条の12第11項には、同種事業類似法人を選定する場合に関連者間取引を行っている法人をその対象から除外するとは規定されていない。
そして、前述のとおりの租特法66条の4第7項の推定課税の制度趣旨に照らすと、推定課税の適用が認められる場合において、独立企業間価格と推定される金額の算定に当たって関連者間取引をも基礎とすることが直ちに否定されるものではないと解するのが相当である。
そして、原判決も適切に説示しているとおり、租特法66条の4第7項は、独立企業間価格の推定には、同条2項1号ロ又はハに掲げる方法によることを定めているところ、同号ロ及びハが独立企業間価格を算定する場合には、「通常の利潤の額」との文言を用い、また、この通常の利潤の額の算定方法を定める租特令39条の12第6項及び7項は、「通常の利益率」という文言を用いるとともに、非関連者間の取引価格による旨を規定しているのに対し、租特法66条の4第7項は、同条2項1号ロ又はハに規定された「通常の利潤の額」に代えて「同種事業類似法人の売上総利益率等」に基づき推定の基礎となる金額を算定することを定めているのであり、通常の利潤の額に基づき推定の基礎となる金額を算定するとしているわけではないから、このような観点からしても、租特法66条の4第7項が非関連者間の独立企業間価格を算定することを予定しているとの控訴人の主張は、採用することができない。
以上に検討したところによれば、租特法66条の4第7項の推定課税において、独立企業間価格と推定される金額の算定に当たり、同項所定の方法に反しない限り、関連者間の取引を含む金額を基礎とすることも許されると解するべきであり、この点に関する控訴人の主張を採用することはできない。
また、控訴人は、いわゆるシークレットコンパラブルを用いたこと、すなわち、被控訴人が同種事業類似法人として選定する本件類似3法人に関する客観的な証拠、特に、その事業内容や財務状況等に関する客観的な証拠を開示していないところ、このような事業内容や財務状況等の同種性、類似性について検証することができない法人を用いて推定課税を行うことは許されないと主張する。
しかし、この点については、原判決も適切に説示しているとおり、租特法66条の4第9項は、推定課税において用いることを前提として、税務当局の職員による同種事業類似法人に対する質問検査権の行使を認めているところ、当該職員は、これらの企業の事業内容や財務状況等の詳細について、当然に守秘義務を負っているのであるから、同法は、税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人に関する資料を用いて推定による課税がされることを予定しているものと解するべきである上、税務当局が、同種事業類似法人の同種性、類似性を主張立証する際に、職員が負う守秘義務に反しない限度でこれを立証し、それに対して納税者がその信用性を争うことも可能というべきであるから、前述した推定課税の制度趣旨と、推定課税を争う方法が確保されていることに照らすと、このような制度が、納税者にとって特に過酷で不合理なものであるとまでは解することができない。
そして、本件においても、原審における審理の過程では、被控訴人も守秘義務に反しない限りで本件類似3法人に関する情報を開示しているのであり、本件各更正処分等が控訴人の上記主張のような理由により違法となるものではないというべきである。
なお、控訴人は、本件類似3法人のモーター以外の事業の内容が明らかになっていないこと及び風営法の規制による影響についての情報が開示されていないことから、控訴人には十分な防禦方法が確保されていないと主張する。
しかし、前者については、推定課税制度の上記のような制度趣旨及び後述の事業の同種性と事業内容の類似性に関する考え方を前提とすれば、原判決も適切に説示しているとおり、租特法66条の4第7項所定の事業の同種性とは、例えば、問題となっている取引の対象品と類似した製品の卸売業ないし製造業という面で共通性があることをいうものと解されるのであり、本件類似3法人の主たる取扱製品が小型モーターであり、この点に関して被控訴人提出の証拠が信用性に欠けるものとはいえないから、事業の同種性は肯定されると判断するのが相当である。
また、後者の点についても、後述するとおり、B社が取り扱っている本件モーターは風営法の規制を受けるからといって、同社と本件類似3法人との事業内容の類似性に関する判断に影響を及ぼすものではないと解されるのであり、控訴人の防禦に実質的な不利益が生ずるものとも解することはできない。したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
租特法66条の4第7項1号が、同種事業類似法人の選定という観点から規定している要件は、「同種の事業を営む」及び「事業規模その他の事業の内容が類似する」というものである。
もとより、原判決も適切に説示しているとおり、推定課税が同種事業類似法人の利益率を用いて推定することからすれば、上記の事業の同種性及び事業内容の類似性が粗利益率の面でもかなりの差をもたらすものでないことは事業の同種性及び事業内容の類似性を肯定するための一応の判断基準になるというべきである。
しかしながら、控訴人が主張する「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」や、「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」までもその要件になると解すべき根拠を見出すことは困難であり、前述した推定課税の制度趣旨を前提として考えれば、そのような要件を課す必要も認められないというべきである。
控訴人は、本件類似3法人が取引している香港に所在する関連法人との間では、売上高という観点からの事業規模が著しく相違しているから、事業内容の類似性を欠いていると主張する。
上記引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第3の1の認定事実によれば、本件類似3法人の従業員数は、a社が10名を超えて20名以下、b社及びc社が10名以下であり、本件類似3法人の売上高は、最も規模の大きいa社の最も売上高の多い年度において50億円を超えて60億円以下であること、b社の売上高は、平成14年から平成15年にかけての2事業年度においていずれも10億円以下であり、c社の売上高は、平成14年から平成15年にかけての2事業年度において、多い年度で10億円を超えて20億円以下、少ない年度で10億円以下であったこと、B社の本件各事業年度の売上高は、いずれも1億円ないし5億円程度であること、仙台国税局の丙調査官ら(原判決7頁19行目、14頁19行目参照)及びm調査官(原判決11頁24行目参照)が、本件モーターと同種又は類似の小型モーターを中国で生産する法人のうち香港に所在する法人と取引を行う国内メーカー11社(なお、いずれも取引を行った香港所在の法人は関連法人であった。)を抽出し、その中から香港関連法人が小型モーターの卸売業を行う5法人のうち、売上規模が100億円を超える事業年度がある2法人を除外して、本件類似3法人を抽出したことが認められる。
そして、B社の従業員数は数名から多くても7、8名であったこと、小型モーターのメーカーには売上高が数億円規模の企業から1000億円を超える企業まであることが認められるのである。
租特法66条の4第7項1号の事業内容の類似性を判断する要素としてまず事業規模が挙げられるところ、本件における事業内容の類似性を検討すると、原判決も適切に説示しているとおり、従業員数については、本件類似3法人とB社との間に大きな相違はなく、本件類似3法人を抽出する過程では、本件モーターと同種の小型モーターを取り扱うという控訴人と同種の事業活動を行う法人の中から、事業内容や香港所在の関連法人との取引を行っている法人を抽出した上で、年間の売上規模が100億円を超える香港関連法人との取引を行っている法人を除外していること、小型モーターのメーカーには、売上高が数億円の規模から1000億円を超える企業まであることからすると、上述した程度の本件類似3法人とB社との売上高が大きく異なるとはいうことができず、事業規模の観点からは、本件類似3法人とB社とが事業内容の類似性を欠いていると評価することは困難である。
次に、控訴人は、本件調査報告書によれば、粗利益率が平均販売管理費比率に応じて大幅に異なるのであり、本件類似3法人と控訴人とでは販売管理費比率が大きく異なるから、本件類似3法人とは事業内容の類似性に欠けると主張する。
引用に係る原判決の「事実及び理由」中の第2の3の前提事実及び第3の1の認定事実によれば、山形税務署及び仙台国税局の職員は、控訴人に対して、平成14年6月から平成15年6月までの間、少なくとも6回にわたり文書又は口頭でB社の財務書類の提示を求めたものの、控訴人はこれを提示しなかったこと、控訴人が本件において証拠として提出したB社の2001年から2003年までの各10月期の財務諸表によれば、売上高は、それぞれ2775万9401香港ドル、882万7418香港ドル、1551万1125香港ドルと推移する中で、販売費と一般管理費の合計額は、それぞれ445万2534香港ドル、447万1602香港ドル、428万3475香港ドルであり、それに含まれる取締役の報酬の額が売上高の増減に対応することなく、139万0100香港ドル、284万0300香港ドル、294万4000香港ドルと推移して、販売費と一般管理費の31.2%、63.5%、68.7%を占めていること、販売費と一般管理費の合計額から取締役の報酬の額を控除した額の売上高に占める割合は、11.03%、18.48%、8.64%になっていることが認められる。
上記の事実関係によれば、B社の販売費と一般管理費は、原判決も適切に説示しているとおり、その多くを占める取締役の報酬が、専ら同社の取締役であるUに対するものであり、しかも、控訴人及びその関連会社からの平成13年3月31日までの取締役報酬の支給状況と、B社が活動を開始した直後には同人も取締役報酬を受け取っていなかったにもかかわらず、同年4月ころから報酬の支給を受けるようになった経緯に照らすと、Uに対する報酬の支給は、同社の利益削減のための工作である可能性も強く疑われるところである。
そして、これに加えて、上記の財務諸表が控訴人によって提出された経緯や、財務諸表上、販売費と一般管理費の具体的な内容が明らかではないこと、売上高と、取締役報酬を控除した販売費と一般管理費の推移には関連性をうかがうことができないことに照らすと、控訴人の提出に係る財務諸表が、B社の販売費と一般管理費に関する財務状況を適切に反映しているものと考えるには疑問の余地があるといわざるを得ない。
さらに、原判決も適切に説示しているとおり、本件取引に関しては、従前はD社と控訴人との間で本件モーターを直接売買する取引が行われていたところ、控訴人の申入れによりD社と控訴人との間にB社が加わるようになったのであり、当初の段階の売買価格等に関する交渉も控訴人の乙専務(原判決7頁9行目参照)及びUと、D社の担当者との間で行われ、本件モーターの機種が更新された際の価格交渉も実質的にはD社の担当者と乙専務との間で行われたこと等、B社が独自の立場で本件取引に関与していたとは認め難い事情がある上、本件各事業年度においても、納期管理は控訴人が最終的に行っていると考えられるし、B社が納期遅延や不良品発生についてのリスクを負っていたと解すべき根拠も見当たらないことからすると、本件取引に関しても、同社が主体的な役割を担っていたとはいえず、また、リスクを負担していたとも解することはできないというべきである。
そして、原判決も適切に説示しているとおり、本件類似3法人は、主として親会社の指示に基づいて中国に所在する製造会社が製造した小型モーター等を指定された得意先に納入するという限定された業務を行い、特段のリスクも負っていないものと推認され、一方、B社の上記の限定された役割や機能に照らすと、本件類似3法人とB社との間に大きな相違は認められないというべきである。
また、一般的には、法人の事業活動の内容が販売管理費比率にも反映すると解されるから、B社と本件類似3法人との間で、販売管理費比率という観点からも事業内容の類似性を否定するだけの理由はないものというべきである。
控訴人は、取扱製品の用途、販売先、市場の地理的条件等を考慮すると、B社と本件類似3法人とでは粗利益率の面で重要な相違があるから、事業の同種性及び事業内容の類似性を欠いているとか、B社が取り扱う本件モーターが風営法による規制の影響を受けており、また、寡占的な体質の業界であることから、本件類似3法人の事業と比較すると、事業の同種性及び事業内容の類似性を欠いていると主張する。
まず、小型モーターについて、その用途、販売先、市場の地理的条件の相違による事業の同種性及び事業内容の類似性への影響の有無については、原判決も適切に説示しているとおり、控訴人が主張する小型モーターの用途、販売先、市場の地理的条件の相違によって粗利益率に大きな差を生ずることについての的確な証拠があるわけではない上、事業の同種性及び事業内容の類似性について、租特法66条の4第7項では、同種の事業を営む法人であり、事業の内容が類似するものを選定することが求められているところ、基本的に汎用性のある小型モーターの卸売業を営む者は、通常、複数の用途の製品を取り扱い、かつ、複数の市場に存在する買主に対して製品を販売しているものと解されるから、小型モーターの卸売業を営む者が取り扱う製品の用途、販売先、市場の地理的条件が異なることによって直ちに事業の同種性及び事業内容の類似性が否定されることになるとは解することができない。
なお、電機・精密機器業界においては、販売先によって利益率が大きく異なることを立証するとして控訴人が当審において提出した証拠)は、卸売業を営む者の利益率に関する的確な書証とはいうことができず、上記認定判断を左右するに足りるものではない。
また、B社が取り扱う本件モーターには風営法による規制の影響があり、また、寡占的な業界体質もあって、本件類似3法人とは粗利益率に大きな相違があるとする点についても、原判決が適切に説示しているとおり、風営法の小型モーターに対する規制は、その機能に着目したものであるから、一旦その機能を備えた製品を開発すれば、逆に製造は容易になる面もあり、特に負担が増加したり、高いコストを要することになるという事情は認められないのであり、風営法による規制の存在が粗利益率に大きな相違を生じさせる事情が存するとはいい難いし、また、控訴人主張の寡占的な市場が形成されていたことに関する的確な立証はなく、B社の本件取引における機能を考慮すると、上記の事情が推定課税において求められる事業の同種性及び事業内容の類似性の認定判断を左右するに足りるものとは解することができない。
以上のとおり、本件各事業年度の控訴人の所得に関して、本件取引の独立企業間価格として山形税務署長が推定した金額に基づいて行った本件各更正処分はいずれも適法というべきであり、また、これを前提とする本件各賦課決定処分もいずれも適法なものであって、本件各更正処分等には違法と評価すべき事由を認めることはできないから、控訴人の本訴請求にはいずれも理由がなく、これをすべて棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の本件控訴には理由がないから、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地裁 判示要旨
- 1.
- ■いわゆるシークレットコンパラブルを用いたことについて、措置法66条の4第9項は、推定課税を行う際に、税務当局の職員が同種事業法人に対する質問検査権を行使することを認めているところ、このことは、質問検査権で得られた情報を推定課税において行うことを前提とされていると解するのが相当である。原告は、本件取引の適正な独立企業間価格算定のために必要な書類を提出したとはいえず、推定課税をする要件は満たされているというべきである。
■平成11年12月期ないし平成13年12月期について、これに相当する決算期のa社の利益率を用い、また、平成14年12月期及び平成15年12月期においてa社、b社及びc社の利益率の平均値を用いてB社の本件取引に係る製品の取得金額から独立企業間価格を推定したことは適法であり、本件各事業年度について算定された本件取引に係る独立企業間価格も適法なものである。
東京高裁 判示要旨
- 1.
- ■当裁判所も、①控訴人は独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を遅滞なく提示又は提出していないから、租税特別措置法66条の4第7項所定の推定課税の要件を満たしている、②控訴人が提示するOとP社との取引価格に基づき適正な独立企業間価格を算定することはできず、また、この提示が、独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等を控訴人が遅滞なく提示又は提出したことになるものとは解することができない、③a社の利益率及び類似3法人の利益率の平均値をそれぞれ用いて、山形税務署長が独立企業間価格を推定したことは、租税特別措置法66条の4第7項所定の算定方法の要件を満たしている、④本件各更正処分等の前提として行われた仙台国税局職員による税務調査の手続について、取消事由となるような手続上の違法は認められないと判断する。
■納税者は独立企業間価格を算定するために必要な資料を保有しているのが通常であるから、必要な書類を提出すれば推定課税の適用を免れることができるのであり、また、課税庁が推定による課税処分をした場合にも、当該資料に基づき独立企業間価格を主張立証することによっても課税処分を争うことができるのであるから、納税者にとって過酷で不合理な制度とは解することができない。
■租税特別措置法66条の4第7項1号が、同種事業類似法人の選定という観点から規定している要件は、「同種の事業を営む」及び「事業規模その他の事業の内容が類似する」というものである。控訴人が主張する「粗利益率レベルでかなりの差を生ずると見込まれるような相違がないこと」や、「粗利益率レベルで近似する見込みがあること」までもその要件になると解すべき根拠を見出すことは困難であり、前述した推定課税の制度趣旨を前提として考えれば、そのような要件を課す必要も認められない。
認定事実
■本件は、原告がその国外関連者であるB(香港法人。平成15年3月にCから商号変更。以下「B」という。)との間でしたパチスロメーカー向けコインホッパー用モーター(以下「本件モーター」という。)の仕入取引(以下「本件取引」という。)に関し、山形税務署長が、平成16年法律第14号による改正前の租税特別措置法(以下「租特法」という。)66条の4(同条は、平成11年1月1日以降上記改正までに、数次にわたる改正を経ているが、これらの改正は、いずれも本件に影響しないため、これらの改正前の同条が適用されるべき場合も区別せず「租特法66条の4」という。)第1項に規定する独立企業間価格を算定するために必要と認められる帳簿書類等が遅滞なく提示又は提出されなかったとして同条7項により算定した価格を本件取引の独立企業間価格と推定して平成11年1月1日から同年12月31日までの事業年度(以下「平成11年12月期」といい、平成12年12月期、平成13年12月期、平成14年12月期及び平成15年12月期についても同様にいう。)ないし平成15年12月期の各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税についての更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をしたのに対し、原告が、同項による推定の要件を欠き、推定された独立企業間価格は相当なものではなく、税務調査手続に重大な違法があったなどとして、本件各更正処分等の取消しを求める事案である。
■原告は、精密小型モーター・送風機・制御基板等の販売、海外委託生産品の販売並びに高性能モーター及び各種制御基板の設計・開発等を行っている株式会社であり、平成6年7月からパチスロ台用モーターの製造及び販売を行っている。
■Bは、平成10年6月5日に設立された香港所在の外国法人である。
■Bと原告は、いずれも原告代表者及びその親族によって全株式を保有されており、Bは、租特令39条の12第1項2号(租特法66条の4第1項に規定する原告の国外関連者に該当する。)
■原告は、平成11年12月28日以降、Bから本件モーターを購入して、これをコインホッパーメーカー等に販売している。
■本件モーターは、原告における型番がE〔製造業者であるD株式会社(以下「D社」という。)での型番はF〕、G(D社の型番はH)、I(J)、K(D社の型番はL)という4種類のモーター(以下、いずれも原告における型番で称する。)から成る。
■Iは、Gをマイナーチェンジしたものであり、原告は、Bから、Gを、単価890円で、平成11年に2万7962個、平成12年に24万5425個、平成13年に4万2000個購入し、Iを、単価870円で、平成12年に23万1800個、平成13年に21万9176個、平成15年に13万0200個購入した。また、G及びIをBから購入した原告は、これを原告の関連会社である株式会社M(以下「M社」という。)に転売し、M社等でギアを取り付けるなどの加工を行った上で原告が買い戻し、パチンコ台メーカーであるN株式会社(以下「N社」という。)に販売していた。
■Kは、Eの改良型である。原告は、Bから、Eを、単価970円で購入していた。
■また、原告は、Bから、Kを、単価500円で購入し、株式会社O(以下「O」という。)に、平成13年5月頃までは単価555円、同年6月頃から平成14年8月頃まで単価525円、同年9月頃以降は単価500円で販売した。
■Oは、KをコインホッパーのメーカーであるP株式会社(以下「P社」という。)に単価910円(原告がOに対し単価555円で販売したもの)、単価880円(原告がOに対し単価525円で販売したもの)又は単価855円(原告がOに対し単価500円で販売したもの)で転売していた。原告は、Oに対し、Kを、平成12年に9万3590個、平成13年に単価910円で7万4900個、単価880円で8万7200個、平成14年に単価880円で14万9800個、単価855円で5万個、平成15年に33万4000個それぞれ販売した。
■原告が、Bから本件モーターを購入する取引(本件取引)は、租特法66条の4第1項に規定する国外関連取引に該当する。
■原告は、平成11年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成11年12月期確定申告書」という。)を法定の期限までに山形税務署長に提出して、平成11年12月期の法人税の確定申告を行った。
■原告は、平成12年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成12年12月期確定申告書」という。)を法定の期限までに山形税務署長に提出した。
■原告は、平成13年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成13年12月期確定申告書」という。)を法定の期限までに山形税務署長に提出して、平成13年12月期の法人税の確定申告を行った。
■原告は、平成14年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成14年12月期確定申告書」という。)を法定の期限までに山形税務署長に提出して、平成14年12月期の法人税の確定申告(以下「平成14年12月期確定申告」という。)を行った。
■原告は、平成15年12月期の法人税の確定申告書(以下「平成15年12月期確定申告書」という。)を法定の期限までに山形税務署長に提出して、平成15年12月期の法人税の確定申告(以下「平成15年12月期確定申告」という。)を行った。
■山形税務署職員は、平成14年4月頃から、原告に対する調査を行い、その結果、原告は、同年8月26日、平成12年12月期及び平成13年12月期の法人税につき、修正申告書(以下、順に「平成12年12月期修正申告書」及び「平成13年12月期修正申告書」という。)を提出して、修正申告(以下、順に「平成12年12月期修正申告」及び「平成13年12月期修正申告」という。)を行った。
■また、山形税務署長は、平成14年8月30日付けで、原告の平成11年12月期の法人税につき、別紙3の更正処分欄のとおり、減額更正処分(以下「平成11年12月期前回更正処分」という。)を行った。
■上記調査を通じて、山形税務署職員及び同職員を指導する立場にあった仙台国税局職員は、原告がパチスロメーカー等に販売するための小型モーターをD〔なお、実際にモーターを生産しているのは、中華人民共和国広東省所在のY(以下「D社中国工場」という。)である。〕から直接仕入れていたが、平成11年12月に原告とD社との取引にBを介在させて原告がBから本件モーターを仕入れるようになり、その後は、その仕入価格は2倍強に高騰したとの事実を把握した。
■山形税務署職員は、平成14年6月10日、原告代表者及び原告の専務取締役である乙(以下「乙専務」といい、原告代表者と併せて「原告代表者ら」という。)に対し、口頭で、本件モーターの仕入価格が上記アのように高騰した理由の説明を求めるとともに、Bの財務諸表及び本件取引の価格算定資料の提示を求めた。
■原告代表者は、仕入価格が高騰した理由については、D社の納期遅延、品質管理を原因とするユーザーからのクレーム及び損害賠償に対応するためのものであると説明するとともに、平成14年7月1日、「香港取引の経緯について」と題する書面を提出した。
■仙台国税局の丙国際税務専門官(当時。以下「丙調査官」という。)は、平成15年1月31日、原告に対し、① Bの決算書写し及び納税申告書写し、② 本件取引に係る契約書写し、③ 本件取引の取引価格の設定理由を記載した資料、④ 本件取引の取引価格の決定に関する社内検討資料等の提示を求める「資料提示の依頼について」と題する文書をファクシミリで送信した。
■丙調査官及び仙台国税局の丁国際税務専門官(当時。以下「丁調査官」という。)は、平成15年2月17日及び同月18日に、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接した。その際、原告代表者らは、本件取引の価格設定はBの担当者との間での口頭での価格交渉の結果合意したもので、検討資料は作成せず、BからのQuotation(見積書)があるだけである旨回答し、当該見積書(乙19ないし23)や原告とBとの間で取り交わされた1998年(平成10年)6月付けの取引条件を記載した書面等を提出したが、①、③、④の書類は提示されなかった。
■このため、丙調査官及び丁調査官は、口頭で、上記書類の提示を求めた。
■丙調査官及び丁調査官は、平成15年3月17日、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接した。
■この時も、原告からは、Bの決算書等の提示がなかったことから、丙調査官は、口頭で、Bの決算書類の提示を求めた。
■丙調査官と丁調査官は、平成15年3月25日D社の事務所に臨場し、戊総務部長(以下「戊部長」という。)及びQ営業管理課長(以下「Q課長」という。)と面接した。
■丙調査官と丁調査官は、平成15年4月10日、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接をした。原告からは、Bの決算書等の提示はなく、丙調査官と丁調査官は、同月25日を期限としてBの決算書等の提示を求めるとともに、提示がない場合には、推定課税による方法で課税される可能性があることを説明した。
■丙調査官と丁調査官は、平成15年4月18日、D社の事務所に臨場し、戊部長、Q課長及びR営業部営業課長(以下「R課長」といい、戊部長、Q課長と併せて「D社の担当者ら」という。)と面接した。
■丙調査官は、平成15年6月9日、原告に対し、Bの決算書写し及び納税申告書写し等の準備を求める旨記載した「資料の準備依頼について」と題する文書をファクシミリで送信した。
■丙調査官と丁調査官は、平成15年6月16日、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接した。この際も、原告から、Bの決算書等の提示はなかった。また、この際、原告の乙専務から、N社への反面調査はしばらく待ってほしい旨の申入れがあった。
■仙台国税局のS国際税務専門官(当時。以下「S調査官」という。)と丙調査官は、平成16年3月9日及び10日、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接した。この際も、原告から、Bの決算書等の提示はなかった。また、同日の面接の際、原告代表者は、途中で退席した。
■S調査官と丙調査官は、平成16年3月31日、D社の事務所に臨場し、D社の担当者らと面接した。
■S調査官及び丙調査官とD社の担当者らは、平成16年4月2日付けで、これまでの聴取事項を書面にまとめた確認書を作成した。
■原告の委任を受けた税理士法人Tの担当者は、平成16年4月7日、Bの株主であり取締役であるU(以下「U」という。)に対して、Bの2002年10月期〔2001年(平成13年)11月1日から2002年(平成14年)10月31日までの会計年度のことをいう。以下、2001年10月期及び2003年(平成15年)10月期を含め同様にいう。〕及び2003年10月期の損益計算書等を提供するよう依頼する書面を送付したが、Uは、その依頼に応じなかった〔なお、Bの財務書類に関しては、平成17年3月23日に原告から丙調査官及びS調査官に対して提出された文書に添付された同月21日付けのU作成の書面において、Bの2001年10月期、2002年10月期及び2003年10月期の対売上高販管費率のみが明らかにされ、その後、本件の弁論準備手続が終結した平成23年4月20日の第12回弁論準備手続期日において、Bの2002年10月期及び2003年10月期の財務諸表(それぞれ前年度分の数値も記載されている。)が提出されるに至った〕。
■S調査官と丙調査官は、平成16年4月9日付けで、国税当局と原告との間の見解の相違を明らかにするための意見書(以下「第1意見書」という。)を作成し、原告に送付したところ、原告は、第1意見書に対する回答書(以下「第1回答書」という。)を作成し、S調査官及び丙調査官は、同年5月24日、第1回答書を受領した。
■第1意見書には、担当者の意見として、本件取引の取引価格をどのように算定したかについて具体的資料により説明を求める旨の記載がある。これに対し、第1回答書には、取引価格の算定資料は存在しない旨の記載がある
■S調査官と丙調査官は、平成16年6月2日付けで、第1回答書に対する意見書(以下「第2意見書」という。)を作成し、原告に送付したところ、原告は、第2意見書に対する回答書(乙28。以下「第2回答書」という。)を作成し、S調査官及び丙調査官は、同月21日、第2回答書を受領した。
■第2意見書には、調査担当者再質問等の欄に、独立企業間価格の算定手法は、本件取引に対して最も合理的方法を適用するというベストメソッドルールによるべきであり、これを求めるために取引価格の算定資料が必要であると考えている旨の記載があり、これに対し、第2回答書には、ベストメソッドルールは、入手可能なデータの中でどの方法が合理的な結果をもたらすのかを求める方法であるので、算定資料がない現状では、どのような方法を採るべきか検討する必要がある旨の記載がある。
■S調査官と丙調査官は、平成16年6月3日、D社に対し、臨場時における質問事項をあらかじめ知らせる文書(甲28。以下「本件質問書」という。)をファクシミリにより送信した。この文書には原告が仕入れるD社製のモーターがN社向け及びP社向けのものであることが記載されていた。
■S調査官と丙調査官は、平成16年6月4日、D社の事務所に臨場し、D社の担当者らと面接した。
■S調査官と丙調査官は、平成16年6月24日、原告の事務所に臨場し、原告代表者らと面接した。この際も、原告からは、Bの決算書等の提示はなかった。
■また、原告代表者らから、仙台国税局の職員が、D社に対して、原告の取引先がP社であることを漏らしたのではないか、もしそうであれば、守秘義務に反する旨の指摘があった。
■S調査官は、平成16年8月23日、戊部長に電話連絡し、本件質問書を回収しようとしたが、戊部長が本件質問書を既に廃棄した旨返答したため、回収できなかった。
■S調査官と仙台国税局のm国際税務専門官(当時。以下「m調査官」という。)は、平成16年9月2日付けで意見書(以下「第3意見書」という。)を作成し、原告に送付したところ、原告は、第3意見書に対する回答書(乙30。以下「第3回答書」という。)を作成し、S調査官及びm調査官は、同月21日、第3回答書を受領した。
■第3意見書には、元々原告が直接D社と取引をしていたところにBが加わることによって、原告が負担していたリスクがBに移転したと原告が説明しているところ、そのリスクをどのように算定し、仕入価格にどう加味させたのかについて説明を求める旨の内容があり、これに対し、第3回答書には、平成16年3月9日に説明済みである旨の回答が記載されている。
■山形税務署長は、平成17年3月25日付けで、本件取引に租特法66条の4第7項を適用して本件各更正処分等をした。
■原告は、平成17年5月18日付けで、国税通則法75条2項1号により、仙台国税局長に対し、本件各更正処分等に対する異議申立てをしたが、仙台国税局長は、同年8月9日付けで、異議申立てをいずれも棄却する旨の決定をした。
■平成11年12月期
所得金額
3883万4333円
納付すべき税額
1266万2900円
■平成12年12月期
所得金額
3億4479万0561円
納付すべき税額
1億0267万7700円
■平成13年12月期
所得金額
1億8920万5038円
納付すべき税額
5606万2900円
■平成14年12月期
所得金額
3157万2770円
納付すべき税額
876万6200円
■平成15年12月期
所得金額
1億1897万7952円
納付すべき税額
3501万6900円
(補足)エスコ事件
課税処分
■課税庁(処分行政庁=山形税務署長)は、原告の1999年12月期から2003年12月期に係る移転価格庁亜について、①B社(香港法人であるユニメタリシス社)の決算書、納税申告書、②本件モーターの仕入取引に係る契約書、③本件取引の取引価格の設定理由を記載した資料、④本件取引の取引価格の決定に関する社内検討資料等の掲示を求めたが、これらの資料は提出されなかった。
■このため、課税庁は、原告に対して、移転価格課税を行うための比較対象取引の選定作業を開始した。課税庁は、本件モーターと同種又は類似の小型モーターを海外で生産する国内メーカー等17法人を抽出し、さらに、この17法人から香港に所在する法人と取引を行う11法人を抽出したが、これらの11法人の取引先である香港法人は、いずれも当該11法人の関連法人(香港関連法人)であった。
■課税庁は、必要に応じて臨場調査を行い、事業内容と売上規模を勘案して、最終的に香港関連法人のうち3法人をB社(ユニメタリシス社)の比較対象法人として選定した。これら3法人は、いずれも、重要な無形資産を保有したり、無形資産の使用許諾を有したりしている事実ななかった。課税庁は、これら3法人を比較対象取引として、これら3法人の売上総利益率を基礎として移転価格課税処分を行った。
裁判所の判断
■推定課税を行う要件として、原告が、独立企業間価格を算定するために必要な書類を遅滞なく提出又は提出しなかったといえるかについて、原告は、「原告が有する書類は全て提出しているから、措置法66条も4第7項の推定課税の要件は満たさない」と主張した。
■これについて、東京地裁は「独立企業間価格の算定に必要な書類が、納税者が現に所持していないものであったとしても、当該納税者において新たに作成し又は入手した上で提出することも不可能ではなく、その書類が独立企業間価格の算定に必要と認められる以上は、特段の事情がない限り、その書類が提出されない場合には、移転価格税制の推定課税の要件は満たされるというべきである」と判示して、原告の上記の主張を斥けた。
■さらに、課税庁が推定した独立企業間価格は適法なものであるか否かについて、原告は、「推定課税を行う場合であっても、比較対象取引に関連者間取引を行っている企業を比較対象企業とすることは許されない」「OECDガイドラインが、独立企業間価格の算定に当たっては、非関連者取引を比較対象とするものとしており、推定課税においても非関連者取引を行う法人を同種事業類似法人としなければならないことを前提としている」と主張した。これに対し、東京地裁は、「租特法66条の4第7項及び租特令39条の12第11項には、その文言上、同種事業類似法人を選定する場合に関連者取引を行っている法人を除外すべきことは規定されていない。そして、推定課税の適用が認められる場合における独立企業間価格と推定される金額の算定については、同項所定の算定方法に反しない限り、その要件を厳格に解する必要は必ずしもない」と判示し、原告の主張を認めなかった。
■さらに、シークレット・コンパラブルを用いる事が出来るか否かについて、次のように判示し、原告の主張を斥けた。
「租特法66条の4第9項は、推定課税を行う際に、税務当局の職員が同種事業類似法人に対する質問検査権を行使することを認めているところ、このことは、この質問検査権で得られた情報を推定課税において用いることが前提とされていると解するのが相当である。他方、これらの企業は、納税者とは関係のない第三者であることからすれば、その事業内容や財務状況等の詳細について、税務当局の職員が守秘義務を負っていることは当然」「租特法は、税務当局がその事業内容や財務状況等について開示することができない同種事業類似法人を用いて推定課税をすることを予定しているというべきである」
■このように述べて。東京地裁は、原告の請求を棄却した。原告は控訴したが、控訴審は第一審の大部分を引用して、控訴を棄却した。納税者は最高裁に上告したが、上告は棄却・不受理となり、納税者の敗訴が確定した。
編集者コメント
シークレット・コンパラブル
■本件は、推定課税の適法性が争われた初めての事案で有り、また、シークレット・コンパラブルの使用について、裁判所が正面から判断を下した初めての事案でもある。推定課税の適法性の問題は、①比較対象取引として関連者間取引を用いることが出来るのか、②差異の調整は必要か、③措置法66条の4の通常の独立企業間価格の算定方法を用いての課税が出来ない時のみ使用が可能であるのか、それとも推定課税を行うか独立企業間価格の算定方法を行うかは課税庁の任意なのか、等の問題点が浮上する。
■本件については、上記の①のみが取り上げられている。確かに、当時の(及び現行の)条文からは、比較対象取引として非関連者間取引を用いるべきことは規定されていないので、裁判所としては、比較対象取引として関連者間取引を用いることを否定することは出来ないのかもしれない。しかし、比較対象取引として非関連者間取引を用いることは移転価格課税の基本であるはずであり、非関連者間で行われる取引条件に沿っていない関連者間取引を、非関連者間で行われている取引条件に沿って引き直すことが、移転価格課税の原則である。
■そこには、関連者間取引には、関連者間であるがゆえに、恣意的な価格操作や利益操作があることが前提とされている。移転価格課税を、関連者間取引を比較対象取引として用いて行った場合には、そこにどのような正当性が見いだせるのだろうか、疑問ではある。
■シークレット・コンパラブルの問題については、アドビ事件高裁判決でも問題提起されたが、第一審では「質問検査権に係る手続要件自体が課税処分の要件となるものではない」として納税者の主張を斥け、他方、控訴審では、課税庁が用いた比較対象取引には比較可能性がないとして課税処分を取り消したため、シークレット・コンパラブルの問題には触れなかった。
■本判決は、措置法66条の4が、同業類似法人に質問検査権の行使を認めていること、質問検査権の行使によって得られた情報の開示については課税庁に守秘義務があることから、比較対象取引としてシークレット・コンパラブルの使用が認められる、というロジックを明確にしたことは重要と考える。
重要概念/シークレット・コンパラブル
TPGの立場
■1995年PGにおいては、シークレット・コンパラブルについての記述はなかった。その後、OECDのWP6において、シークレット・コンパラブルを用いて移転価格課税を行うことの是否が議論され、2010年TPGの第3章の「納税者に対する非開示情報(Information undisclosed to taxpayers」では、「そのような(納税者に開示されない)情報に基づいて移転価格算定方法を適用することは公平ではない」とした上で、「税務当局が国内の守秘義務の範囲内でそのようなデータを納税者に開示することができ、それによって納税者が自己の立場を擁護するための及び裁判所による効果的な司法的コントロールを守るための十分な機会が納税者に与えられる場合、この限りではない」とされた。この記述は、2017年TPG、2022年TPGでも同じである。
■この記述は、シークレット・コンパラブルの使用が、「公平ではない」とされた点において意義を有するとともに、その使用が「国内の守秘義務の範囲内で」開示されれば問題は無いとされた点で批判はある。
■OECD加盟国の中には、シークレット・コンパラブルを用いる国(日本、カナダ等)と、用いない国(米国、英国、オーストラリア、フランス、ドイツ等)があるため、全加盟国の一致が必要とされるTPGでは上記のような記述になったものと推測される。なお、シークレット・コンパラブルを用いるカナダにおいても、シークレット・コンパラブルは原則としてスクリーニングと二次的サポート(sanity checks)の為に用いられ、課税当局がシークレット・コンパラブルを課税の根拠として用いる場合には、カナダ歳入庁(CRA)の国際業務課(ITOD:International Tax Operations Divisions)の承認を得なければならないとされている。
エスコ事件で残された問題
■シークレット・コンパラブルの問題は、我が国の課税庁にも認識されている。2001(平成13)年に発遺された事務運営要綱には「措置法第66条の4の規定を適用して把握した非関連者間取引(...)を比較対象取引として選定した場合には、当該選定の為に用いた条件、当該比較対象取引の内容。差異の調整方法等を法人に十分に説明するものであるが、この場合には、法人税法163条(当時)(現在の国税通則法126条)(職員の守秘義務規定)の規定に留意する」と記述されている。
■エスコ事件において、課税庁によって質問検査権の行使によって得た同業他社の財務関係情報を納税者に開示しないことに問題はない旨の判示が下されたことにより、我が国の課税庁は広範囲にシークレット・コンパラブルを用いて課税を行うことが認められた。なお、以下の問題が残るとされている。
■「書類の提示又は提出をしなかった時」に該当するかどうかの判断基準
「書類の提示又は提出をしなかった時」に該当するか否かについては、主観的判断でよいのか、それとも客観的に判断可能であるのか、その判断基準に諸説ある。納税者と課税庁との認識が異なる可能性がある。
■納税者の防御の機会が奪われ得る
比較対象取引の妥当性に反論するためには、比較対象とされたのがどのような同業他社であるのかを納税者は知りたいところであろう。にも関わらず、課税庁が「守秘義務」を盾にしてこの情報を伏せることは、裁判において当事者間での弁論が尽くされない可能性がある懸念があり、さらに、課税当局としても、課税の根拠にいて主張が不十分でないなどとして、訴訟で敗訴するリスクもある。「課税庁だけが知っている」という情報の非対称性が発生するのである。
併せて読みたい/パシフィック・フルーツ事件
エクアドル産バナナの輸入に移転価格課税処分(東京高平25年3月28日)
■エクアドル産バナナの輸入価格の独立企業間価格の算定について、再販売価格基準法が適用できないことを認定し、課税庁が行った寄与度利益分割法の適用を認めた事例。
■納税者(原告)が、国外関連者からエクアドル産バナナを輸入した取引について、納税者が同社に支払った対価の額が同条にいう独立企業間価格を超えているとして、課税庁が行った更正処分等に対して、納税者がその取消しを求めた事案。
■本件独立企業間価格を算定するに当たり、課税庁が寄与度利益分割法を用いた。当時の措置法では、基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法及び原価基準法)が適用できない場合に限り、寄与度利益分割法による算定が認められていた。
■地裁は、エクアドル政府による最低価格規制が「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり調整の必要があるところ、上記規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整できないため、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されないとした上で、本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法であると判断。東京高裁も原審を支持し、上告不受理で確定。