パシフィック・フルーツ事件
目次
基本三法時代の寄与度利益分割法課税
概要
エクアドル産バナナの輸入価格の独立企業間価格の算定について、再販売価格基準法が適用できないことを認定し、課税庁が行った寄与度利益分割法の適用を認めた事例。
相関図
概要
- ■概要
- ■納税者(原告)が、国外関連者からエクアドル産バナナを輸入した取引について、納税者が同社に支払った対価の額が同条にいう独立企業間価格を超えているとして、課税庁が行った更正処分等に対して、納税者がその取消しを求めた事案。
■本件独立企業間価格を算定するに当たり、課税庁が寄与度利益分割法を用いた。当時の措置法では、基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法及び原価基準法)が適用できない場合に限り、寄与度利益分割法による算定が認められていた。
■地裁は、エクアドル政府による最低価格規制が「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり調整の必要があるところ、上記規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整できないため、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されないとした上で、本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法であると判断。東京高裁も原審を支持し、上告不受理で確定。 - ■裁判所
- 東京地方裁判所 平成24年4月27日判決(定塚誠裁判長)(棄却)(控訴)
東京高等裁判所 平成25年3月28日判決(小池裕裁判長)(棄却)(上告・上告受理申立て)
最高裁判所 平成27年1月16日決定(千葉勝美裁判長)(棄却・不受理)(確定)
争点
判決
東京地方裁判所
→納税者敗訴
東京高等裁判所
→納税者敗訴
最高裁判所
→不受理(納税者敗訴)
移転価格税制と寄与度利益分割法
■企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。
■ 移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度。
■ わが国の独立企業間価格の算定方法は、OECD移転価格ガイドライン(注)において国際的に認められた方法に沿った次のようなものとなっている。
①基本3法
独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method:CUP法)
再販売価格基準法(Resale Price Method:RP法)
原価基準法(Cost Plus Method:CP法)
②その他の方法
利益分割法(Profit Split Method:PS法)
比較利益分割法
寄与度利益分割法
残余利益分割法
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)
取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNMM法)
(注)OECD移転価格ガイドラインは、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的として作成されたものである。具体的には、移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図している。
■寄与度利益分割法
利益分割法(PS法:Profit Split Method)の1つである。
利益分割法は、当該取引について、内国法人と国外関連者との利益(粗利や純利益等場合による)を一旦合算したあと、合算後の利益を分割する方法である。利益分割法は、①比較利益分割法、②寄与度利益分割法、③残余利益分割法に分けられる。
①比較利益分割法
同種の取引を行う比較対象企業の利益配分状況を参照して合算後の利益を各関連者に分割する方法。
②寄与度利益分割法
各関連者の利益発生に対する寄与度に応じて利益を分割する方法。
③残余利益分割法
合算後の利益から各関連者の通常の利益(重要な無形資産等を有しない比較対象企業が得ている利益)を控除した残余利益を各当事者の貢献度に応じて分割する方法。
このうち、寄与度利益分割法と残余利益分割法は、比較対象取引が見つからないために、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法や、取引営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)、比較利益分割法が使えない場合に用いられる方法である。「もしも独立した企業であればどのような取引を行ったか」という仮定(仮想)の上に成り立つ手法であり、利益分割が恣意的になりやすいとの批判がある。
キーワード
■キーワード
粗利益、移転価格ガイドライン、移転価格税制、エクアドル産バナナ、基本三法、寄与度利益分割法、原価基準法、国外関連者、国外関連取引、独立価格比準法、独立企業間価格、取引単位営業利益法、バミューダ諸島、分割対象利益、平均費用
■重要概念
TPG
東京地裁/両者の主張
納税者の主張
再販売価格基準法を適用するに当たり、国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引と比較対象取引との間に、その売手の果たす機能その他において差異がある場合でも、両者の間に存在する全ての差異を調整しなければならないものではなく、「通常の利益率」(措置法66条の4第2項1号ロ、措置法施行令39条の12第6項)に客観的に明らかな重大な影響を与える差異についてのみ調整すれば足りる。
措置法施行令39条の12第6項が、調整すべき差異として「売手の果たす機能」を明示していることからすれば、比較対象取引との比較においては、「売手の果たす機能」が最も重視されるところ、原告とA社の果たす機能は類似しており、A社の売上総利益率は原告にも当てはまるべきものであるから、A社の売上及び原価並びにA社と原告の機能の類似性の判断について、エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない。
バナナ輸入業者による加工業者等に対する再販売は、需要と供給によって定まる市場価格である浜値で取引されており、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない。
したがって、再販売価格基準法を適用するに当たり必要な要素であるA社の売上及び原価、A社と原告の機能の類似性の判断、原告の再販売価格のいずれについても、エクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない。
最低輸出価格は、平均すると、本件独立企業間価格を基に算定したバナナ1カートン当たりの独立企業間価格の2分の1未満であるところ、この両者の金額の差異が日本にエクアドル産バナナを輸出する際の輸送費及び保険費用並びにBと同様の機能を果たす独立企業の通常の利益率をカバーするのに十二分なものであれば、エクアドル政府規制は日本への輸出価格、すなわち、日本の輸入業者による輸入価格に影響を及ぼすものではないことになる。
卸売業は、他の業種に比べて売上総利益率が安定することを前提とすれば、エクアドル産バナナの日本での浜値の値動きと独立の類似業者の売上原価の動きは、大きく乖離することはないと推測されるところ、浜値の値動きと最低輸出価格の値動きとの間には全く関連性が認められないと推測され、その結果、独立の類似業者の売上原価の動きと最低輸出価格の値動きとの間にも関連性が認められず、最低輸出価格と「通常の利益率」との間にも関連性は認められないと推測される。
よって、エクアドル政府規制が「通常の利益率」に重大な影響を及ぼしていると解することはできない。
以上によれば、エクアドル政府規制の有無は、バナナ輸入業者の「通常の利益率」の算定に客観的に明らかな重大な影響を与える差異であるとは認められないから、再販売価格基準法の適用に当たり、調整を行うべき差異であるとはいえないところ、被告は、他に再販売価格基準法を用いることができない理由を主張立証していない。
よって、基本三法を用いることができないことにつき立証がないことになるから、寄与度利益分割法を用いたことは違法である。
国税庁の主張
エクアドル政府規制は、バナナ生産者からの買取価格の最低価格である最低買取価格及びバナナの輸出価格の最低価格である最低輸出価格を設定するものであり、これらの価格は、エクアドル政府による厳格な規制、監視下にあるため、エクアドルのバナナ生産者から直接バナナを買い取る業者が最低買取価格を下回る価格でバナナを仕入れること及び日本にエクアドル産バナナを輸入仕入れする者が最低輸出価格を下回る価格で仕入れることは、いずれも事実上不可能である。
日本にエクアドル産バナナを輸入する際の仕入原価は、バナナ自体の価格に運送費、保険料等のその他の原価及び売手の利益等の積上げからなるものであるところ、最低輸出価格の設定によるバナナの価格の上昇分は、その他の原価等と共に積み上げられ、日本の輸入価格に加算され、エクアドル政府規制が存在しない場合に比べて日本の輸入価格を引き上げる要素となるものであるから、エクアドル政府規制は、本件国外関連取引に係る取引価格に大きな影響を及ぼし、取引当事者による自由な価格の設定を阻害する要因となっていたことが認められる。
したがって、エクアドル以外の国からバナナを輸入する取引を本件国外関連取引の比較対象取引とする場合、当該国にエクアドル政府規制と同様の政府規制が存在しないことは、比較対象取引に係る売上原価に影響を及ぼす要因であるといえ、売上原価は、「通常の利益率」の重要な算定要素であるから、エクアドル政府規制が「通常の利益率」に影響を及ぼす規制であることは明らかである。
原告は、比較対象取引との比較においては「売手の果たす機能」が最も重視されるところ、原告とA社の果たす機能は類似しているからA社の売上総利益率は原告にも当てはまるべきものであると主張する。
しかし、措置法施行令39条の12第6項は、比較対象取引との間で差異を調整することが必要な場合について、「売手の果たす機能その他において差異がある場合」と規定しており、「売手の果たす機能」は、調整が必要な差異の例示にすぎず、棚卸資産の種類や役務の内容等、取引段階、取引数量、契約条件、取引時期、売手又は買手の果たす機能、売手又は買手の負担するリスク、売手又は買手の使用する無形資産、売手又は買手の事業戦略、売手又は買手の市場参入時期、政府の規制及び市場の状況等に着目して、広く差異調整の要否を判断すべきものとしていることは明白である。
原告は、最低輸出価格と本件独立企業間価格を基に算定したバナナ1カートン当たりの独立企業間価格との差額が日本にエクアドル産バナナを輸出する際の輸送費及び保険費用並びにBと同様の機能を果たす独立企業の通常の利益率をカバーするのに十二分なものであれば、エクアドル政府規制は日本の輸入業者による輸入価格に影響を及ばさないことになる旨主張する。
しかし、原告は、本件国外関連取引の当事者であり、その実態について十分な情報を有しているはずであるにもかかわらず、最低輸出価格と上記のバナナ1カートン当たりの独立企業間価格との差額が輸送費及び保険費用等をカバーするのに十二分なものであるか否かについて、その根拠も示していないのであるから、そもそも主張自体失当である。
また、国外関連取引と比較対象取引に係る差異の調整の要否は、独立企業間価格を算定するに当たり、基本三法を適用できるか否かを判断する過程で検討すべき問題であるから、処分行政庁が基本三法を適用できないと判断した上で、寄与度利益分割法を適用して算出した独立企業間価格から概算した価格を根拠に、エクアドル政府規制に係る差異の調整の要否を論ずることは、そもそも前提を誤っている。
また、原告は、卸売業の利益率が他の業種に比べて安定することを前提とすれば、エクアドル産バナナの浜値の値動きと独立の類似業者の売上原価の動きは大きく乖離することはないと推測されるところ、エクアドル産バナナの浜値の値動きと最低輸出価格の値動きとの間に全く関連性が認められないから、エクアドル政府規制が「通常の利益率」に重大な影響を及ぼしているとは解することはできない旨主張する。
しかし、卸売業の利益率が他業種に比べて安定するとの一般論から、各時期における商品の卸売価格の指標である浜値と輸入価格の推移が連動するとの結論が直ちに導かれるものではなく、原告の主張はその前提に論理の飛躍がある。
以上によれば、エクアドル政府規制は、「通常の利益率」に影響を及ぼす規制であることは明らかであるところ、エクアドル政府規制により本件国外関連取引に係る対価の額や利益率にどのような影響があるかを数値化して特定し、その差異を適正に調整することは不可能であったため、再販売価格基準法を用いることはできなかった。
そして、基本三法のうち他の方法を用いることもできなかったから、寄与度利益分割法を用いたことは適法である。
東京高裁/両者の主張
納税者の主張
寄与度利益分割法の適用のためには、分割要因と分割対象損益との間に関連性が存在しなければならない。OECD移転価格ガイドラインは、利益分割法上の分割要因に該当するためには、分割対象損益と分割要因との間に強い相関関係が存在しなければならないと述べている。
ところが、控訴人及びBの販管費と本件分割対象損益との間に関連性は認められない。
平成12年12月期及び平成13年12月期の控訴人の営業利益が大幅に減少し、多額の分割対象損失が生じた理由は、控訴人の輸入したエクアドル産バナナの需要急減に伴う浜値の大幅な急落等にあり、販管費との関連性は全く存在しない。
「販管費は、一般的に、企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」という販管費と営業利益についての一般論から、販管費に基づき営業損失を分割することが合理的であるという結論を導き出すことはできない。OECD報告書も、利益分割と損失分割とでは異なった配慮が必要であるとしている。
独立企業間価格を正確に算定するためには、個別事案ごとに事業の実態を正確に把握した上で、寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し、寄与を最も的確に反映することのできる手法を厳密かつ厳格に適用しなければならないところ、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(本件各処分)に際しては、これが行われていない。
以上によれば、「販管費は、一般的に、企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」との一般論から、本件の控訴人について、販管費を「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であると認定し、これを前提にして、寄与度利益分割法の適用を認め、本件各処分を適法とした原判決の判断には誤りがある。
販管費が、控訴人の「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であることは、課税根拠事実として、被控訴人に主張立証責任があるところ、被控訴人は、この点について何ら具体的な主張立証をしていない。
それにもかかわらず、原判決は、上記一般論から、販管費が「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であるとの認定をしているのであって、課税処分取消訴訟における主張立証責任に関する解釈を誤ったものというべきである。
利益分割法の適用が適法とされるために、基本三法を適用することができないことの主張立証がされなければならない。控訴人は、本件国外関連取引において「日本の市況変動リスク」を負担していたから、これを考慮に入れるのでなければ、適切な独立企業間価格を算定することは困難である。
寄与度利益分割法の枠内で、上記「日本の市況変動リスク」を考慮するのは困難であるのに対し、再販売価格基準法であればこれが可能となるから、本件では、再販売価格基準法が適用されるべきであった。
処分行政庁は、再販売価格基準法を適用することができない理由について、本件国外関連取引については、エクアドル政府規制が「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たって調整の必要があるところ、上記規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないからであるとする。
しかし、比較対象取引との差異は、通常の利益率に影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合、又は重大な影響を及ぼすことが客観的に明白な場合に初めて、差異調整が求められるのであり、そうでない限り、差異があるというだけで、比較可能性が否定されるわけではない。
本件では、上記規制の有無による差異が、輸入業者の通常の利益率の算定に客観的に明らかな又は重大な影響を与えたとは認められないから、差異を理由に、再販売価格基準法の適用を否定することはできない。
したがって、本件では、再販売価格基準法を適用することができないことの主張立証が尽くされていないから本件各処分の適法性の証明はなく、本件各処分は違法なものとして取り消されるべきである。
国税庁の主張
追加主張無し
両者の主張まとめ
- 国税庁
- ■エクアドル政府規制は、「通常の利益率」に影響を及ぼす規制であることは明らかであるところ、エクアドル政府規制により本件国外関連取引に係る対価の額や利益率にどのような影響があるかを数値化して特定し、その差異を適正に調整することは不可能であったため、再販売価格基準法を用いることはできなかった。基本三法のうち他の方法を用いることもできなかったから、寄与度利益分割法を用いたことは適法である。
- 納税者
- ■バナナ輸入業者による加工業者等に対する再販売は、需要と供給によって定まる市場価格である浜値で取引されており、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はない。エクアドル政府規制の有無は、バナナ輸入業者の「通常の利益率」の算定に客観的に明らかな重大な影響を与える差異であるとは認められないから、再販売価格基準法の適用に当たり、調整を行うべき差異であるとはいえないところ、被告は、他に再販売価格基準法を用いることができない理由を主張立証していない。よって、基本三法を用いることができないことにつき立証がないことになるから、寄与度利益分割法を用いたことは違法である。
関連する条文
租税特別措置法
第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)
※ただし、平成11年12月期ないし平成13年12月期については平成13年法律第7号による改正前のもの、平成14年12月期については平成14年法律第79号による改正前のもの、平成15年12月期及び平成16年12月期については平成16年法律第14号による改正前のものをいう。
租税特別措置法施行令
第39条の12(国外関連者との取引に係る課税の特例)
※ただし、平成11年12月期ないし平成13年12月期については平成13年政令第141号による改正前のもの、平成14年12月期については平成14年政令第271号による改正前のもの、平成15年12月期及び平成16年12月期については平成16年政令第105号による改正前のものをいう。
東京地裁/平成24年4月27日判決(定塚誠裁判長)/(棄却)(控訴)
本件各処分は、寄与度利益分割法(措置法66条の4第2項1号ニ、措置法施行令39条の12第8項)を用いて算定した本件独立企業間価格に基づいてされたものであるところ、寄与度利益分割法は、基本三法、すなわち、独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ)、再販売価格基準法(同号ロ)及び原価基準法(同号ハ)を用いることができない場合に限り用いることができる方法である(措置法66条の4第2項1号柱書)。
したがって、本件国外関連取引について、基本三法を用いることができないと認められなければ、本件各処分は違法となる。
この点につき、原告は、基本三法のうち再販売価格基準法について、本件国外関連取引と被告が比較対象として選定したA社のフィリピン産バナナの輸入取引との間には、エクアドル政府規制の有無という差異があるが、これは「通常の利益率」(措置法66条の4第2項1号ロ、措置法施行令39条の12第6項)に客観的に明らかな重大な影響を与える差異ではなく、当該差異により生じる通常の利益率の差を調整することを要するものではないから、再販売価格基準法を用いることができないとは認められないと主張する。
これに対し、被告は、エクアドル政府規制の有無という差異が「通常の利益率」に影響を及ぼすことは明らかであり、当該差異により生じる通常の利益率の差を調整することを要するものであるが、その影響を具体的、客観的に算定することができず、その差を調整することはできないため、再販売価格基準法を用いることはできなかったと主張する。そこで、まず再販売価格基準法の適用の可否について検討する。
再販売価格基準法とは、国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない非関連者に対して当該棚卸資産を販売した対価の額である再販売価格から通常の利潤の額(当該再販売価格に通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項第1号ロ)。
そして、上記にいう「通常の利益率」とは、国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を、非関連者から購入した再販売者が非関連者に対して販売した比較対象取引に係る当該再販売者の売上総利益の額(当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該比較対象取引に係る棚卸資産の原価の額の合計額を控除した金額をいう。)の当該収入金額の合計額に対する割合をいう(措置法施行令39条の12第6項本文)。
ただし、比較対象取引と当該国外関連取引に係る棚卸資産の買手が当該棚卸資産を非関連者に対して販売した取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には、その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加えた後の割合をいう(同項ただし書)。
通常の利益率を算出するに当たり、いかなる「差異」がある場合に調整を加えることを要するか検討するに、措置法施行令39条の12第6項ただし書が「売手の果たす機能その他において差異がある場合には、その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加え」ると規定していることからすれば、調整を加えることを要する差異は、売手の果たす機能に限られるものではなく、棚卸資産の種類や役務の内容、取引の段階、取引数量、契約条件、取引時期、売手又は買手の果たす機能、売手又は買手の負担するリスク、売手又は買手の使用する無形資産、売手又は買手の事業戦略、売手又は買手の市場参入時期の規制及び市場の状況等の「通常の利益率」に影響を及ぼし得る種々の要素について、調整を要するというべきである。
もっとも、同項ただし書が「その差異により生じる」差について調整を加えると規定していることからすれば、およそ全ての差異について調整を行う必要はなく、当該差異が通常の利益率に影響を及ぼすものではない場合には、当該差異について調整を行う必要はない一方、通常の利益率に影響を及ぼす差異が存在する場合には、当該差異により生じる通常の利益率の差について調整を行わなければならず、その調整ができないのであれば、当該比較対象取引に基づいて独立企業間価格を算定することは許されないと解するのが相当である。
エクアドル政府規制の有無が、通常の利益率を算出するに当たり調整を加えることを要する差異に当たるか否か、すなわち、通常の利益率に影響を及ぼすものか否かについて検討するに、証拠(乙7、32)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a バナナ管理法1条は、農畜産省、外務省及び観光商工業開発省の各大臣が署名した内局合意を受けて、当該行政機関は、バナナの輸出業者がバナナの生産者に対して支払うべき最低価格(最低買取価格)及びバナナの輸出業者が請求する輸出価格の下限(最低輸出価格)を定期的に設定する旨規定している。
また、同条は、バナナの輸出業者は、バナナの生産者に支払う最低買取価格の保証として、担保を設定するものとし、当該担保は財務部の当局が管理する旨規定している。
b バナナ管理法3条は、輸出用のバナナに対する支払を清算する際、生産者に対して未承認の控除を行うことを禁止し、バナナの輸出業者がこれに違反した場合には、罰金が科される旨規定している。
c バナナ管理法4条は、バナナの輸出業者は、出荷の48時間以上前に当局に対して出荷仮案を提出するとともに、出荷後72時間以内に当局に対して出荷最終案を提出するものとし、輸出業者が書類を提出しなかったり、改ざんした書類を提出した場合には罰金が科される旨規定している。
d バナナ管理法5条は、最低買取価格を不正に支払わなかった場合、又はかかる支払の不履行を首謀、共謀、幇助又は教唆した場合には、1年ないし3年の懲役及び罰金が科される旨規定している。
e 平成10年から平成15年におけるエクアドル政府の告示に係るバナナのタイプごとの最低輸出価格及びE社からBに対する輸出価格(FOB単価)の推移は、別表9のとおりであり、いずれも最低輸出価格と同額か、それを上回っている。
エクアドル産バナナについては、バナナ管理法に基づき、エクアドル政府が輸出業者によるバナナ生産者からの買取価格及びバナナの輸出価格にそれぞれ最低買取価格及び最低輸出価格を定期的に設定し、バナナ輸出業者には、最低買取価格の支払のために担保を設定することや輸出に係る出荷案をエクアドル政府に提出することなどが義務付けられるとともに、生産者に対する支払の際に未承認の控除をすることが禁止され、最低買取価格を不正に支払わなかった者には懲役刑も含めた刑罰が科されるなど、最低買取価格及び最低輸出価格を遵守すべきことが法的に義務付けられていることが認められ、バナナ輸出業者が生産者から最低買取価格を下回る価格でバナナを買い取ること及びバナナ輸出業者が最低輸出価格を下回る価格でバナナを輸出することは事実上不可能であると認められ、現に、E社からBに対する輸出価格の推移を見ても、最低輸出価格を下回ることはない状況であった。
そうすると、エクアドル政府規制、すなわち、エクアドル政府による最低買取価格及び最低輸出価格の設定は、バナナ輸出業者によるバナナ生産者からの買取価格及び輸出価格の下限を定めるものであって、当該規制が存在しない場合に比べ、バナナ生産者からの買取価格及び輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らかというべきである。
そして、一般的に、日本の輸入業者がバナナを日本に輸入する際の仕入原価は、バナナ自体の価格に、輸送費や保険料、売手の利益等の積上げからなるところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告がエクアドル産バナナを日本に輸入する際の仕入原価も、バナナ自体の価格及び梱包、出荷、保険等の費用に基づいて計算されていることが認められる。
そうすると、最低輸出価格が設定されていることによるバナナの輸出価格の上昇分は、上記のような各種費用や売手の利益等と共に、日本の輸入業者がエクアドル産バナナを日本に輸入する際の仕入原価として積み上げられ、ひいてはその輸入価格に反映されることになるのであるから、エクアドル政府規制は、当該規制が存在しない場合に比べ、エクアドル産バナナの日本への輸入価格を上昇させる方向に作用する要因であることも、また明らかというべきである。
「通常の利益率」とは、比較対象取引に係る再販売者の売上総利益の額、すなわち、当該比較対象取引に係る棚卸資産の販売による収入金額の合計額から当該棚卸資産の原価の合計額を控除した金額の当該収入金額の合計額に対する割合をいうところ、エクアドル産バナナの日本への輸入価格は、ここでいう当該棚卸資産の原価に当たるから、エクアドル産バナナの輸入価格が上昇すれば、その分だけ原価の合計額が上昇し、売上総利益の額が減少することになるのであって、その割合である「通常の利益率」にも影響が及ぶことは明らかというべきである。
以上によれば、エクアドル政府規制は、「通常の利益率」に影響を及ぼすものというべきであるから、当該規制の有無という差異は、通常の利益率を算出するに当たり、それにより生じる通常の利益率の差について調整することを要する差異というべきである。
これに対し、原告は、措置法施行令39条の12第6項が「売手の果たす機能」を明示していることからすれば、比較対象取引との比較においては、「売手の果たす機能」が最も重視されるとした上で、原告とA社の果たす機能は類似しており、A社の売上総利益率は原告にも当てはまるべきものであるから、A社の売上及び原価についてエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はないと主張する。
しかし、措置法施行令39条の12第6項ただし書は「売手の果たす機能その他において差異がある場合」と規定しているのであって、売手の果たす機能に限らず、政府の規制その他の種々の要素について、「通常の利益率」に影響を及ぼす差異があるか否かを検討すべき旨を規定していると解すべきから、原告とA社の果たす機能が類似していたとしても、そのことから直ちにA社の売上総利益率が原告にも当てはまるべきなどとは到底いえない。
また、原告は、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナは競争関係にあるから、バナナの輸入業者による再販売価格は、市場価格である浜値にならざるを得なくなるのであって、原告のエクアドル産バナナの再販売価格にエクアドル政府規制の影響が及ぶ余地はないと主張する。
しかし、エクアドル政府規制は、輸出業者によるエクアドル産バナナの輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であって、その上昇分は日本の輸入業者の仕入原価として積み上げられ、ひいては、日本の輸入価格も上昇させる方向に作用する要因であると認められる。
そして、原告が主張するように、フィリピン産バナナとエクアドル産バナナが競争関係にあるためにバナナ輸入業者による再販売価格が市場価格である浜値にならざるを得なくなるとするならば、原告としては、エクアドル政府規制による仕入原価の上昇分を再販売価格に転嫁することができず、原告の売上総利益の額は、エクアドル政府規制による仕入原価の上昇分だけ減少することになり、フィリピン産バナナの輸入業者の売上総利益の額は相対的に増加することになる。
そうすると、まさにエクアドル政府規制の有無は、比較対象取引であるA社のフィリピン産バナナの輸入取引に係る原価の額や売上総利益の額に直接的な影響を生じさせることになるのであって、原告が主張するようにエクアドル政府規制が、原告の再販売価格に影響を及ぼさないとしても、「通常の利益率」そのものに影響を及ぼすことになる。
a 次に、原告は、最低輸出価格と本件独立企業間価格を基に算定したバナナ1カートン当たりの独立企業間価格の差額が、日本にエクアドル産バナナを輸出する輸送費及び保険費用並びにBと同様の機能を果たす独立の類似事業者の通常の利益率をカバーするのに十二分なものであれば、エクアドル政府規制は日本の輸入業者による輸入価格に影響を及ぼすものではないことになると主張する。
しかし、そもそも上記の差額が輸送費及び保険費用並びにBと同様の機能を果たす独立の類似事業者の通常の利益率をカバーするのに十二分なものであるとの前提を認めるに足りる証拠がないことはもとより、エクアドル政府規制が通常の利益率に影響を与えるか否かは、独立企業間価格の算定に当たり、基本三法を用いることができるか否かを判断する際に検討すべき事項であるから、基本三法を用いることができないことを前提として寄与度利益分割法を用いて算定した本件独立企業間価格を根拠として、エクアドル政府規制が通常の利益率に重大な影響を与えるものであるか否かを判断することは、そもそも不合理であるといわざるを得ない。
b また、原告は、卸売業が他の業種に比べて売上総利益率が安定することを前提とすれば、エクアドル産バナナの日本での浜値の値動きと独立の類似業者の売上原価の動きは、大きく乖離することはなく、エクアドル政府が決める最低輸出価格の値動きと浜値の値動きとの間には全く関連性が認められないから、独立の類似業者の売上原価の動きと最低輸出価格の値動きとの間にも関連性が認められず、その結果、最低輸出価格と「通常の利益率」との間にも関連性は認められず、エクアドル政府規制が「通常の利益率」に重大な影響を及ぼしていると解することは困難であると主張する。
しかし、そもそもバナナの浜値は、いわゆる市場価格であり、主として需要と供給のバランスにより定まるものであって、その値動きが必ずしも供給者であるバナナの輸入業者の仕入原価の値動きに連動するものであるとはいえないから、仮に、一般的に、卸売業が他の業種に比べて売上総利益率が安定する傾向にあるとしても、そのことから直ちにバナナの浜値の値動きと独立の類似業者の売上原価ないし最低輸出価格の値動きとが関連性を有するべきものであるとはいえないのであって、この点についての原告の主張に与することはできない。
以上によれば、原告が、エクアドル政府規制は「通常の利益率」に影響を及ぼすものではないとして主張する点は、いずれも採用することができない。
そこで、次に、エクアドル政府規制の有無により「通常の利益率」に生じる差について、調整することが可能か否かについて検討するに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
a バナナ管理法1条は、最低買取価格及び最低輸出価格は、農畜産省が3か月ごとに開く交渉会議において、生産者と輸出者の各代表者が大臣らと協力して決定するが、合意に達しなかった場合、それから7日以内に2人の大臣が国内生産の平均費用を基に上記各価格を設定する旨規定している。
b バナナ管理法1条は、最低買取価格は、国内生産の平均費用に妥当な収益を足した額とする旨規定している。
c 農畜産省が発行した最低買取価格及び最低輸出価格に係る通知には、バナナの種類ごとに合意された上記各価格が記載されているものの、その算定方法や根拠となった数値等は一切記載されていない。
最低買取価格及び最低輸出価格は、バナナ管理法に基づき、農畜産省が3か月ごとに開く交渉会議において、生産者と輸出者の各代表者が大臣らと協力して決定され、合意に達しなかった場合には、2人の大臣が国内生産の平均費用を基に設定すること、最低買取価格は、国内生産の平均費用に妥当な収益を足した額とするとされていることが認められるものの、同法の規定をみても、最低買取価格及び最低輸出価格を算出する具体的な方法や計算式等は明らかではなく、上記にいう「国内生産の平均費用」や「妥当な収益」というのも、いかなる資料に基づく、いかなる数値であるかは不明である。
また、農畜産省による最低買取価格及び最低輸出価格に係る通知(乙8別紙A)を見ても、具体的な算出方法や根拠となった数値等は一切記載されておらず、その記載から具体的な算出方法や計算式等をうかがい知ることはできず、平成10年から平成15年におけるエクアドル政府の告示に係るバナナのタイプごとの最低輸出価格の推移を見ても、その算出方法等をうかがわせるような何らかの規則性等を認めることはできない。
そして、他に、最低買取価格及び最低輸出価格の具体的な算出方法や根拠となる数値等を把握する手掛かりとなる資料はない。
そうすると、最低買取価格及び最低輸出価格は、その具体的な算出方法や根拠となる数値等が不明であるから、それらがエクアドル産バナナの取引価格に与える具体的な影響を数値化して特定することは不可能であるといわざるを得ない。
したがって、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる「通常の利益率」の差について、これを調整することは不可能であるというべきである。
以上によれば、エクアドル政府規制は「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり、当該規制の有無により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ、その具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないから、本件国外関連取引について、A社のフィリピン産バナナの輸入取引を比較対象取引として、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されない。
本件国外関連取引について、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されないが、上記(1)のとおり、寄与度利益分割法は基本三法を用いることができない場合に限り用いることができる方法であるから、次に、独立価格比準法及び原価基準法の適用の可否について検討する。
独立価格比準法とは、特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行った後の対価の額を含む。)に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項1号イ)。
このように、独立価格比準法における比較対象取引は、国外関連取引と「同種の資産」を「取引段階、取引数量その他が同様の状況の下」でなされたものである必要があるから、本件国外関連取引の比較対象取引としては、エクアドル産バナナを原告と同程度の規模で、自己の計算で行う仕入販売取引を選定しなければならないことになる。
そこで、検討するに、証拠(乙13、43、44)及び弁論の全趣旨によれば、原告以外にエクアドル産バナナを日本に輸入している業者は1社しか存在しないところ、当該業者は、平成16年4月以降に新たにエクアドル産バナナの輸入事業に参入したものであって、その取引規模は、原告が1週間当たり約20万カートンであるのに対し、当該業者は1週間当たり数千カートンであり、取引形態も、原告が仕入販売であるのに対し、当該業者は輸入金額に応じて手数料を収受する輸入代行であることが認められる。
そうすると、上記業者によるエクアドル産バナナの輸入取引は、およそ本件国外関連取引と「取引段階、取引数量その他が同様の状況の下」でなされたものとはいえず、その差異により生じる対価の額の差を調整することは困難であると認められるから、当該業者によるエクアドル産バナナの輸入取引を比較対象取引とすることはできない。
したがって、本件国外関連取引について、独立価格比準法における適切な比較対象取引は存在しないから、独立価格比準法を用いて、その独立企業間価格を算定することはできないと認められる。
原価基準法とは、国外関連取引に係る棚卸資産の売手の取得原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項1号ハ)。
そして、上記にいう「通常の利益率」とは、国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を、非関連者から購入した販売者が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した比較対象取引に係る当該販売者の売上総利益の額の当該原価の額の合計額に対する割合をいうが、比較対象取引と当該国外関連取引とが売手の果たす機能その他において差異がある場合には、その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加えた後の割合をいう(措置法施行令39条の12第7項)。
このように、原価基準法における比較対象取引は、国外関連取引と「同種又は類似の棚卸資産」を、非関連者から購入した販売者が当該資産を非関連者に対して販売したものである必要があるから、本件では、非関連者から購入したエクアドル産バナナ又は類似の棚卸資産を、非関連者に輸出する取引を比較対象取引として選定しなければならないところ、証拠及び弁論の全趣旨によれば、処分行政庁が行った原告及び他のバナナの輸入業者に対する調査等によっても、上記のような取引の存在を把握することができなかったことが認められ、他に、上記のような取引が存在することをうかがわせる事情もない。
したがって、本件国外関連取引について、原価基準法における適切な比較対象取引が存在しないというべきであるから、原価基準法を用いてその独立企業間価格を算定することはできないと認められる。
以上によれば、本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法である。
東京高裁/平成25年3月28日判決(小池裕裁判長)/(棄却)(上告・上告受理申立て)
控訴人は、寄与度利益分割法の適用のためには、分割要因と分割対象損益との間に関連性が存在しなければならないと主張する。
しかし、措置法施行令39条の12第8項は、分割要因について、法人又は国外関連者が「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」と規定しており、「当該所得の発生に寄与した要因」とは規定していないことからすれば、同条項の解釈としては、分割要因と分割対象損益との間に、他方の増減がもう一方の増減に影響するといった関連性の存在は要求されていないものというべきである。
控訴人は、OECD移転価格ガイドラインを根拠に、上記関連性の必要性を主張するが、同ガイドラインが直ちに、我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない。
他に、上記控訴人の主張の裏付けとなる法令上の根拠は存在しないから、これを採用することはできない。
控訴人は、「平成12年12月期及び平成13年12月期の控訴人の営業利益が大幅に減少し、多額の本件分割対象損失が生じた理由は、控訴人の輸入したエクアドル産バナナの需要急減に伴う浜値の大幅な急落等にあり、販管費との関連性は全く存在しない。」、「「販管費は、一般的に、企業の営業利益の獲得に寄与する性質を有するものとして認められている」という販管費と営業利益についての一般論から、販管費に基づき営業損失を分割することが合理的であるという結論を導き出すことはできない。」などと主張し、その根拠を種々述べている。
しかし、これらの主張は、いずれも分割要因(販管費)と分割対象損益(営業利益)との間に関連性を要するとの前記控訴人の主張を前提とするものであるから、いずれにしろ、その前提を欠くものであり、失当である。
控訴人は、OECD報告書を根拠に、利益分割と損失分割では異なった配慮が必要であると主張するが、同報告書が直ちに、我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない。
控訴人は、「独立企業間価格を正確に算定するためには、個別事案ごとに事業の実態を正確に把握した上で、寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し、寄与を最も的確に反映することのできる手法を厳密かつ厳格に適用しなければならないのに、本件各処分はこれをしていない。」と主張する。
しかし、本件各処分は、本件国外関連取引における控訴人及びB両社の業務内容、費用支出の実態等を把握した上で、両社の果たした役割、機能等を検討し、措置法施行令39条の12第8項にいう「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」及び措置法通達66の4(4)-2にいう「分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいもの」が、控訴人及びBが支出した販管費であるとしたものである。
以上によれば、本件各処分は、本件国外関連取引という個別事案の実態を正確に把握し、寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し、これに基づいて処分を行ったものと認められ、何ら違法な点はないということができる。
控訴人は、「販管費が控訴人の「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であることは、課税根拠事実として被控訴人に主張立証責任があるのに、被控訴人は、この点の主張立証をしていない。それにもかかわらず、原判決は、一般論から、販管費が「所得の発生に対する寄与を推測するに足りる要因」であるとの認定をしている。」などと主張する。
しかし、被控訴人は「販管費が本件国外関連取引の分割要因であること」を主張立証しており、原判決は、上記被控訴人の主張立証に基づき「販管費が本件国外関連取引の分割要因であること」を認定していることは、原判決及び当審において既に説示したとおりである。
控訴人は、本件については、基本三法の1つである再販売価格基準法を適用することができないことの主張立証がないから、寄与度利益分割法を適用した本件各処分の適法性は証明されていない旨を主張する(なお、控訴人は、当初控訴理由書において「争点3に関する主張のみを行う。」としていたものであり、争点1に関する上記主張は、当審の最終段階で出てきたものである。)。
しかし、本件について、基本三法を適用することができない事情があり、寄与度利益分割法を適用したことが相当であって、この点に関して何ら違法はないことは、原判決「事実及び理由」中の第3の1(争点1についての判断)において適切に説示するとおりである。
よって、控訴人の本訴請求をいずれも棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
東京地裁 判示要旨
- 1.
- ■エクアドル政府規制は「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を用いるに当たり、当該規制の有無により通常の利益率に生じる差について調整する必要があるところ、その具体的な影響を数値化して特定することは不可能であり、エクアドル政府規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整することができないから、本件国外関連取引について、A社のフィリピン産バナナの輸入取引を比較対象取引として、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されない。
■寄与度利益分割法を用いて、独立企業間価格を算定するに当たり、原告が計上した営業損失は、日本市場の特殊要因により生じたものであって、国外関連取引に係る対価の設定とは無関係であるから、これを分割対象利益から除外すべきであるとの原告の主張は、法令上の根拠を欠くものであって、その理由として述べるところも、いずれも採用できず、他に原告の主張するように解すべき理由も見出すこともできない。
■原告及びB社の支出した販管費は「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」に当たるというべきであって、この点の原告の主張、すなわち、およそバナナの輸入販売業においては、販管費の支出が増加すれば営業利益が増加するという関係がなく、本件分割対象利益は、その全てがエクアドル産バナナの浜値の大幅な下落等の日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失から構成され、原告及びB社の販管費との間に関連性はないから、販管費は、「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」に当たらないという主張は採用することができない。よって、本件各処分が、販管費を分割要因として寄与度利益分割法を用いて算定された独立企業間価格に基づいてされた点に何ら違法な点はない。
東京高裁 判示要旨
- 1.
- ■措置法施行令39条の12第8項は、分割要因について、法人又は国外関連者が「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」と規定しており、「当該所得の発生に寄与した要因」とは規定していないことからすれば、同条項の解釈としては、分割要因と分割対象損益との間に、他方の増減がもう一方の増減に影響するといった関連性の存在は要求されていないものというべきである。控訴人は、OECD移転価格ガイドラインを根拠に、上記関連性の必要性を主張するが、同ガイドラインが直ちに、我が国における課税処分である本件各処分の違法性の根拠となり得るものではない。
■本件各処分は、国外関連取引における控訴人及びB両社の業務内容、費用支出の実態等を把握した上で、両社の果たした役割、機能等を検討し、措置法施行令39条の12第8項にいう「当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」及び措置法通達66の4(4)-2にいう「分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいもの」が、控訴人及びB社が支出した販管費であるとしたものである。本件各処分は、国外関連取引という個別事案の実態を正確に把握し、寄与を最も的確に反映することのできる分割要因を選定し、これに基づいて処分を行ったものと認められ、何ら違法な点はないということができる。
認定事実
■本件は、原告が、原告に対してバナナを販売しているバハマ法人で租税特別措置法66条の4にいう国外関連者に該当するB(以下「B」という。)からエクアドル共和国(以下「エクアドル」という。)産バナナを輸入した取引(以下「本件国外関連取引」という。)について、原告がBに支払った対価の額が同条にいう独立企業間価格を超えているとして、芝税務署長が、平成11年12月期ないし平成13年12月期について、上記独立企業間価格と本件国外関連取引の対価の額との差額を原告からBに対する所得移転額であると認定し、平成11年12月期ないし平成16年12月期の法人税について本件各更正処分を行うとともに、平成11年12月期、平成15年12月期及び平成16年12月期の過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分をしたことに対し、本件各処分は、寄与度利益分割法を用いて独立企業間価格を算定したこと、寄与度利益分割法を用いるに当たり日本市場の特殊要因により生じた原告の営業損失を分割対象利益から控除しなかったこと、原告とBが支出した販売費及び一般管理費(以下「販管費」という。)の額の割合により分割対象利益を分割したこと、理由付記に不備があることを理由に違法であると主張して、本件各更正処分のうち確定申告に係る所得金額、納付すべき法人税額を超える部分及び翌期へ繰り越す欠損金額を下回る部分並びに当該部分に係る過少申告加算税に係る本件各賦課決定処分の取消しを求めた事案である。
■原告は、農産物の輸入及び卸売販売を目的とし、日本に本店を有する株式会社であり、英国領バミューダ諸島に本店を置く法人であるC(以下「C」という。)が原告の発行済株式の全部を保有している。
■Bは、バハマに本店を置く法人であり、原告と同様、Cがその発行済株式の全部を保有している。
■すなわち、原告とBは、いずれもCによって発行済株式の全部を保有されている兄弟会社の関係にあり、Bは、本件各事業年度において、措置法66条の4第1項、措置法施行令39条の12第1項2号に規定する原告の国外関連者に該当する。
■D(以下「D」という。)は、Cの発行済株式の全部を保有するとともに、エクアドルに本店を置く法人であるE(以下「E社」という。)の発行済株式の過半数を保有している。
■原告、B、C、D及びE社らは、「E・グループ」を形成し、エクアドルを拠点としてエクアドル産バナナの輸出業務に携わっており、エクアドルの農園で生産されたバナナをE社が購入し、Bに輸出販売した上、Bが原告に販売し、原告が日本国内で卸販売している。
■エクアドルでは、バナナの生産及びマーケティングの促進並びに規制のための法律の改正法(以下「バナナ管理法」という。)により、バナナ生産者からの買取価格及び同国からのバナナの輸出価格にそれぞれ下限が設定されている(以下、これらの価格をそれぞれ「最低買取価格」及び「最低輸出価格」といい、エクアドル政府によるバナナ管理法に基づくこれらの価格規制を「エクアドル政府規制」という。)。
■同業者に対する調査等の実施処分行政庁は、本件国外関連取引に係る独立企業間価格(以下「本件独立企業間価格」という。)の算定に当たり、措置法66条の4第2項1号イが定めている「独立価格比準法」、同号ロが定めている「再販売価格基準法」又は同号ハが定めている「原価基準法」の3種類の方法(以下、これらの方法を総称して「基本三法」という。)を用いることができるか検討するために、本件国外関連取引と比較可能な取引を選定するため同業者に対する調査を行うこととし、まず、バナナの輸入に関する同業者団体に臨場し、各団体の加入各社の状況から調査対象とすべきバナナの輸入業者と考えられる法人が25社あることを把握した。
■処分行政庁は、上記25社に対し、①果実の輸入販売に係る取引商品の種類及び年間取扱高、②取引上位3商品に係る商品別の仕入先、住所、国外関連者該当の有無及び仕入価格算定方法、③取引上位3商品に係る商品別の売上先、住所及び売上価格算定方法、④直近の6事業年度に係る全社損益、輸入バナナの取引損益、その他取扱輸入青果の損益について、回答を求めたところ、当該25社全社から回答を得たが、そのうち7社は、実際にはバナナの輸入仕入れを行っていないことが判明したことから、これを除外することとした。
■残る18社のうち4社は、台湾産バナナを取り扱う業者であることが判明したところ、台湾産バナナの輸入取引は、エクアドル産バナナの輸入取引と異なり、季節商品として取引期間が限定されているため継続的な契約と異なり取引価格が固定されにくく、取引数量も大きく異なる上、台湾産バナナは、固有のブランド力ともいうべき付加価値があると評価されており、その取引価格はエクアドル産バナナに比べて高値であったことから、このような取引時期や取引数量、商品の持つ固有のブランド力の違いは、台湾産バナナとエクアドル産バナナの各輸入取引における取引価格や利益率に大きな影響を与えているが、その差異を数値化して調整することは困難であるとして、これら4社を検討の対象から除外することとした。
■残る14社のうち4社は、国外関連者との間でバナナの輸入取引を行う業者であることが判明したところ、そもそも独立企業間価格は、支配従属関係にない独立した企業間において取引条件その他の事情が同一又は類似の状況の下で行われたとした場合に成立するであろう対価の額を算定しようとするものであるから、国外関連者との取引を比較対象取引とすることは意味がないとして、これら4社を検討の対象から除外することとした。
■また、上記14社のうち別の3社は、原告と比較してバナナの販売規模が約40分の1から約400分の1と極端に小規模であることが判明したところ、かかる取引規模の差異が取引価格や利益率に与える影響について、その差異を調整するには困難が生じる可能性が高いとして、これら3社を検討の対象から除外することとした。
■さらに、上記14社のうち別の3社は、バナナの仕入販売ではなく、その輸入金額に応じて手数料を収受するという輸入代行取引を行う業者であり、輸入販売業者である原告とは事業形態や取引上果たす機能が異なることが判明したため、検討の対象から除外することとした。
■残る4社のうち1社は、平成16年4月頃からエクアドル産バナナの輸入取引を開始した新規参入業者であったところ、同社によるエクアドル産バナナの取引は、仕入販売ではなく、輸入代行取引であり、原告とは事業形態や取引上果たす機能が異なる上、一般に事業の立上げ時期は事業が効率化しておらず、取引数量も少ない等の事情により、継続的に活動している法人と比べて取引価格や利益率に看過できない差異が生じ、取引規模にも大きな差異があるとして、検討の対象から除外することとした。
■残る3社のうち2社は、自社の責任における輸入販売取引を事業内容としているものの、仕入価格が販売価格から一定の手数料、関税その他経費を控除して決定され、日本の市況変動リスクを負担せず、実質的に販売数量の一定率が利益となるような形で設定されており、原告とは利益構造について差異があり、商品の売残り値引き等による損失発生リスクについて差異を数値化して調整することは困難であるとして、検討の対象から除外することとした。
■以上の結果、処分行政庁は、残ったフィリピン産バナナの輸入取引を行う1社(以下「A社」という。)に絞り、同社の取引を比較対象とすることとした。
■基本三法を用いた比較対象取引の選定の検討処分行政庁は、独立価格比準法(措置法66条の4第2項1号イ)における比較対象取引は、国外関連取引と「同種の棚卸資産」について「同様の状況」でなされたものである必要があるところ、A社が取り扱う商品はフィリピン産バナナであり、エクアドル産バナナの輸入取引である本件国外関連取引とは、棚卸資産の種類、生産地、輸出国等の点で差異が認められるとして、独立価格比準法を用いて本件独立企業間価格を算定することはできないと判断した。
■また、原価基準法(措置法66条の4第2項1号ハ)は、内国法人の再販売機能に着目し、棚卸資産の取得原価に通常の利潤を加算することで独立企業間価格を算定する方法であり、内国法人が棚卸資産を非関連者から仕入れて関連者に再販売した場合を想定した算定方法であるが、原告は棚卸資産であるエクアドル産バナナを国外関連者から仕入れ、非関連者に再販売しているため、原価基準法を採用することもできないと判断した。
■再販売価格基準法(措置法66条の4第2項1号ロ)は、国外関連取引に係る棚卸資産の買手が非関連者に対して当該棚卸資産を再販売した対価の額から通常の利潤の額を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法であり、この通常の利潤の額は、非関連者から購入した国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を非関連者に販売した取引に基づいて算定する(措置法施行令39条の12第6項)ところ、エクアドル産バナナには、バナナ管理法に基づき、バナナ生産者からの買取価格及びバナナの輸出価格にそれぞれ最低買取価格及び最低輸出価格が設定されており、かかるエクアドル政府規制は、通常の利潤の額の算定等に影響を及ぼすことが客観的に明らかであり、その差異の調整が必要である(措置法施行令39条の12第6項ただし書)が、最低買取価格及び最低輸出価格の算出方法や計算式等は明らかでなく、実際にエクアドル政府により定められた最低輸出価格の推移からも、その算定根拠を推認させるような何らかの規則性を認めることはできず、結局、エクアドル政府規制が本件国外関連取引の対価や利益率に及ぼす影響額を具体的、客観的に算定して数値化することができず、その差異を調整できないとして、再販売価格基準法を用いて本件独立企業間価格を算定することはできないと判断した。
■寄与度利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)の適用処分行政庁は、原告及びBは、エクアドル産バナナの取引価格について交渉することもなく、日本の市況動向や原告及びBの財務状況を掌握しているE社がこれを一方的に決定し、原告及びBは、エクアドルで生産されたバナナが日本で販売されるまでの事務作業を分担し、そのために要する費用をそれぞれ負担していると認められ、いわばE社を含むE・グループが日本にエクアドル産バナナを販売するための手足として流通段階における各々の業務を担っているに過ぎないとして、原告及びBとの間の本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定に当たっては、双方の営業利益の合計を、その利益を生むために要した費用に応じて分割するという寄与度利益分割法により算定することが最も適していると判断した
■分割要因の選択処分行政庁は、措置法施行令39条の12第8項は、寄与度利益分割法に用いる分割要因について、「支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因」と規定しており、具体的な分割要因としてどのようなものを用いるべきかは、取引両当事者の果たす機能を正確に分析し、様々な行為に妥当なウェイト付けを行い得る基準である必要があるところ、本件国外関連取引は、エクアドル産バナナという1種類のみを仕入れたままの状態で売買するという単純な取引であり、本件国外関連取引に関し、原告及びBが行う業務は、いずれもエクアドル産バナナの仕入販売業務及びこれを支える一般管理業務のみであり、研究開発や製造など他の業務を伴うものではなく、これらの業務は、製造設備等の固定資産、重要な無形資産等を使用するものではなく、専ら両社の役員、従業員による仕入販売活動及びこれを支える管理業務に支出された費用により実現されたものであるから、原告とBがそれぞれ行った上記業務の利益獲得に対する相対的寄与度は、両社の仕入販売活動及びこれを支える管理業務に関して発生した全ての費用の額、すなわち両社の販管費の額が指標となるものといえるとして、寄与度利益分割法により、原告及びBとの間の独立企業間価格を算定するに当たっては、その分割要因を両社が支出した販管費とするのが最適であると判断した。。
■原告は、平成18年1月26日、本件各処分を不服として、東京国税局長に対し、異議申立てをしたが、平成19年6月22日付けでこれを棄却する旨の決定を受けたため、同年7月23日、国税不服審判所長に対し、審査請求をしたが、平成21年5月28日付けでこれを棄却する旨の裁決を受けたことから、同年11月27日、本件各処分の取消しを求めて本件訴訟を提起した。
(補足)パシフィック・フルーツ事件
概要
■内国法人である原告は、バハマ法人である国外関連者B社からエクアドル産バナナを輸入した取引につき、課税庁が、原告がB社に支払うバナナの購入代金が独立企業間価格を超えているとして、原告とB社のそれぞれの販売費・一般管理費を分割要素とする寄与度利益分割法を用いて課税処分を行った。原告は、原告の営業損失を分割対象に含めることの不当性や、販売費・一般管理費を分割要素とすることの不当性も主張shたが、第一審の東京地裁は原告の請求を棄却し、控訴審の東京高裁も控訴を棄却した。
■バミューダ法人であるC社は、原告とB社の全株式を保有しており、また、D社は、C社の発行済株式の全部を保有するとともに、エクアドルに本店を置く法人であるE社の発行済株式の過半数を保有している。原告、B、C、D及びE社らは、「E・グループ」を形成し、エクアドルを拠点としてエクアドル産バナナの輸出業務に携わっており、エクアドルの農園で生産されたバナナをE社が購入し、Bに輸出販売した上、Bが原告に販売し、原告が日本国内で卸販売している。
■エクアドルでは、バナナの生産及びマーケティングの促進並びに規制のため、「バナナ管理法」により、バナナ生産者からの買取価格及び同国からのバナナの輸出価格にそれぞれ加減が設定されていた。また、原告は、2000(平成12)年12月期及び2001(平成13)年12月期には営業損失を計上していた。
■課税庁は、原告の1999年12月期から2002年12月期までの4事業年度につき、原告とB社のそれぞれの販売費・一般管理費を分割要素として、寄与度利益分割法を用いて、移転価格課税を行った。課税庁が、基本三法の1つである再販売価格基準法を用いず、寄与度利益分割法を用いtのは、B社のエクアドル産バナナの仕入価格はエクアドル政府の規制を受けており、この規制の影響は原告の売上総利益に比較対象取引の売上総利益率と調整できない重大な差異を与えていると判断したからである。なお、我が国とバハマとの間に租税条約が締結されていないため、原告は移転価格課税処分につき相互協議を申立てる選択肢はなく、国内での訴訟手続により処分を争うこととなった。
裁判所の判断
■原告は、エクアドル政府の規制は、比較対象企業として選定されたフィリピン産バナナの輸入取引を行う企業の売上と原価並びにB社と原告の機能の類似性の判断につき、影響を及ぼすものではないから、再販売価格基準法を用いることが適当であると主張した。東京地裁はこれに対し、「エクアドル政府による最低買取価格及び最低輸出価格の設定は、バナナ輸出業者によるバナナ生産者からの買取価格及び輸出価格の下限を定めるものであって、当該規制が存在しない場合に比べ、バナナ生産者からの買取価格及び輸出価格を上昇させる方向に作用する要因であることは明らか」「エクアドル政府による最低価格規制が「通常の利益率」に影響を及ぼすものであるから、再販売価格基準法を適用するに当たり調整の必要があるところ、上記規制の有無という差異により生じる通常の利益率の差を調整できないため、再販売価格基準法を用いて独立企業間価格を算定することは許されないとした上で、本件国外関連取引について、基本三法のいずれも用いることができないと認められるから、本件独立企業間価格を算定するに当たり、寄与度利益分割法を用いたことは適法である」と判示した。
編集者コメント
寄与度利益分割法の適用の難しさ
■本事案は、課税庁が寄与度利益分割法を用いて勝訴した珍しい事案である。国側の勝因には、納税者の多額の営業損失があると言われているが、一方で、同様に納税者に営業損失が生じていたワールド・ファミリー事件では国側が敗訴している。
■寄与度利益分割法の適用の難しさは、どのような要素が、利益の獲得に寄与したのかを判断することの困難さにあるだろう。本事案において、課税庁は、原告とB社のそれぞれの販売費・一般管理費で両者の利益を按分した。会社の活動を数値で表すのが販売費・一般管理費の額であるという思考が背景にあると思われ、また、それなりに客観的な指標を提供するが、そこに十分な根拠があるのかは疑問が残る。
■原告は、原告に一時的に営業損失が生じたのは、我が国での状況の変化によるものであるから、営業損失について、分割の対象とするのは適当ではないと主張したが、裁判所はこの主張を受け入れなかった。企業ごとに個別の事情をどの程度まで考慮するかは利益分割法に共通する問題ではあるが、個別の事情を考慮せず、販売費・一般管理費を分割要素とする寄与度利益分割法は、形式的である。
■米国の各州法人税法で用いられている定式配分方式や、EUのCCCTB提案による定式配分方式では、売上、人件費、資産などが分割要素として用いられており、販売費・一般管理費の額による定式配分は用いられておらず、販売費・一般管理費を分割要素とする寄与度利益分割法は我が国特有の方式であると言われている。日本は、個別の事情よりも、それらを十把一絡げにした形式的で客観的なわかりやすい指標を好む傾向があるように感じられる。
重要概念/TPG
事業再編
■前回に引き続き、TPGの発展の歴史を紹介する。TPGとは、OECD移転価格ガイドラインのことであり、OECD(経済協力開発機構)の租税委員会が策定する、納税者と税務当局との双方に向けられた移転価格税制に関する国際的な指針であり、正式名称は「Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations(「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」)」である。
■前回紹介した通り(圧着端子事件参照)、2010年TPGで事業再編について新たに第9章が加えられたが、これは仮定的ALPの考えを導入し、さらにリスク分析を重視するもので、現在の2022年TPGにおいても重視されている。
■2022年TPGは事業再編を「関連企業間における商業上又は財務上の関係を国境をまたいで再編すること」と定義し、具体的には、本格的な販売会社(full-fledged distributor)からリスク限定的な販売会社又はコミッショネアに転換したり、委託製造業者(contract manufacturer)に転換することが挙げられている。ここで「本格的な販売会社」というのは、相対的な高レベルの機能・リスクを有する企業のことである。
■このような場合に、2022年TPGでは、①事業再編自体の移転価格の問題、②事業再編後の移転価格の2つの問題が論じられていて、①の場合には、事業再編に伴い無形資産の移転等がなされるが、その際の補償金の支払がALPに沿ったものであるかを問題とし、②の場合は、再編前のバイセルの価格がコミッションに下がることからこれがALPに沿うものであるかを問題としている。アドビ事件は正に②の門債であった。
金融取引
■2015年BEPS最終報告において、「金融取引において独立企業間であれば存在したであろう条件の決定に係る経済的に有意な特性について更なるガイダンスの提供に向けて作業を実施する」との指示をうけて、OECD内での策定作業が開始され、2020年に金融取引ガイダンスが公表され、2022年TPGに組み込まれた。
■この金融取引ガイダンスでは、①グループ内貸付、②キャッシュ・プーリング、③ヘッジ、④金融保証、⑤キャプティブ保険といった金融取引について広範な取引類型が検討された。
■このうち、グループ内貸付については、TPGは、まず取引の正確な描写をして融資と称する取引が融資として扱われるべきかを検討すべきとしている。法形式が融資であっても、実際の性格が資本の拠出ではないかとの検討も必要としているわけである。なお、この点につき、有名な判例として、英国のBleckRock事件上級審判所判決がある。これは、コベナンツ付融資と仮定すべきか否かが争われた事案で、実際にはそのようなコベナンツは付されていなかったため、独立当事者間の貸付ではないとしたもので、貸付とみるか資本の拠出とみるかの問題で参考となる事件である。
ALPの重視
■その上で、2022年TPGでは、金融取引についてALPを重視する立場を採っており、具体的には、「貸手の信用力を基にした金利の設定」(すなわち親会社の借入金利)ではなく、借手の信用格付けを考慮すべきとされた。具体的には、信用力の低い海外子会社が現地の金融機関から借入れをする場合、信用格付けの高い親会社が現地の金融機関から低い金利で借り入れ、親会社が現地の子会社に一定の利息を上乗せして貸し付けた場合、この利息の金利が低利なのではないかという問題が浮上する。
■2022年TPGは、親会社が子会社に貸し付けた場合に低金利ではないかと捉え、独立企業間金利がもと高いとうことで課税する場合を検討している。いわゆる「低金利事案」であり、タイバーツ事件が有名である。
■一方、グループ会社が同じグループの別会社から借入れた場合に、金利が高すぎるのではないかと捉え、独立企業間金利がもっと低いということで課税する場合がある。これがいわゆる「高金利事案」であり、ドイツの連邦財政裁判所2021年5月18年判決、2020年フランスのChevron事件連邦裁判所判決が有名である。
■なお、2022年TPGは、非関連の銀行からの融資条件についての意見書(bankability opinion)は、実際の取引に基づくものではないので参考にすべきではないとしている点は注目したい。
■TPGの進化については、数回に分けて紹介していくため、今後もチェックしてみていただけると幸いである。
併せて読みたい/ホンダ事件
残余利益分割法による移転価格課税処分(東京高平27年5月13日)
■ブラジル連邦共和国における間接子会社である外国法人との国外関連取引は、独立企業間価格の算定に誤りがあるため移転価格税制の課税を行うことはできないとされた事例。
■内向法人である原告が、国外関連者(ブラジル法人)等との間で、自動二輪車の部品等の販売及び技術支援の役務提供を行っていたところ、課税庁が、原告が当該ブラジル法人から支払を受けた対価の額が独立企業間価格に満たないとして、残余利益分割法による移転価格課税処分を行った。
■第一審の東京地裁は、残余利益分割法の適用にあたり、ブラジル法人の通常利益の算定に用いられた比較対象取引に比較可能性が無いとして、課税処分を取り消した。控訴審の東京高裁も、国側の請求を棄却し、納税者勝訴で確定。