上村工業事件

目次

一連の取引を全体として検討 残余利益分割法が適当

概要

原告である内国法人が、国外関連者である台湾法人及びマレーシア法人との間で、めっき製品の製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び技術指導等の役務提供をするライセンス契約を締結していたところ、当該契約において原告が受け取るライセンス料は独立企業間価格に満たないとして、残余利益分割法を用いた移転価格課税処分が行われた事例。

相関図

概要

■概要
■原告(上村工業(株))は、めっき薬品の製造・販売を業とする内国法人である。原告は、国外関連者である台湾法人及びマレーシア法人との間で、めっき薬品の製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び技術指導等の役務提供をするライセンス契約を締結し、当該台湾法人及びマレーシア法人にめっき薬品を製造させ、直接に、あるいは、国外関連者であるシンガポール法人を通じて、第三者に販売させていた。

■課税当局は、原告が受け取るライセンス料が、独立企業間価格に満たないとして、原告、台湾法人、マレーシア法人の各事業年度の研究開発費の額を分割要素とする残余利益分割法により、原告の2000年3月期から2004年3月期を対象として、移転価格課税処分を行った。

■原告は、原告と非関連の他社との取引が比較対象取引となり得るとして、独立価格比準法を用いるべきであると主張したが、第一審の東京地裁は原告の請求を棄却し、控訴審の東京高裁も原告の控訴を棄却した。
■裁判所
東京地方裁判所 平成29年11月24日判決(古田孝夫裁判長)(棄却)(控訴)
東京高等裁判所 令和元年7月9日判決(萩原秀紀裁判長)(棄却)(上告・上告受理申立て)
最高裁判所 令和2年3月5日決定(木澤克之裁判長)(棄却・不受理)(確定)

争点

独立企業間価格算定方法として残余利益分割法を用いることの適否。

判決

東京地方裁判所
→納税者敗訴

東京高等裁判所
→納税者敗訴

最高裁判所
→不受理(納税者敗訴)

移転価格税制と残余利益分割法

■企業が海外の関連企業との取引価格(移転価格)を通常の価格と異なる金額に設定すれば、一方の利益を他方に移転することが可能となる。

■ 移転価格税制は、このような海外の関連企業との間の取引を通じた所得の海外移転を防止するため、海外の関連企業との取引が、通常の取引価格(独立企業間価格)で行われたものとみなして所得を計算し、課税する制度。

■ わが国の独立企業間価格の算定方法は、OECD移転価格ガイドライン(注)において国際的に認められた方法に沿った次のようなものとなっている。

①基本3法
独立価格比準法(Comparable Uncontrolled Price Method:CUP法)
再販売価格基準法(Resale Price Method:RP法)
原価基準法(Cost Plus Method:CP法)

②その他の方法
利益分割法(Profit Split Method:PS法)
比較利益分割法
寄与度利益分割法
残余利益分割法
ディスカウント・キャッシュ・フロー法(DCF法)
取引単位営業利益法(Transactional Net Margin Method:TNMM法)

(注)OECD移転価格ガイドラインは、適切に各国の課税権を配分し、二重課税を回避することを目的として作成されたものである。具体的には、移転価格の算定方法及び移転価格課税問題の解決方法を示し、税務当局間又は税務当局と多国籍企業との間の紛争を最小化し、企業活動の円滑化に資することを意図している。


■利益分割法(PS法:Profit Split Method)
利益分割法は、当該取引について、内国法人と国外関連者との利益(粗利や純利益等場合による)を一旦合算したあと、合算後の利益を分割する方法である。利益分割法は、①比較利益分割法、②寄与度利益分割法、③残余利益分割法に分けられる。

①比較利益分割法
同種の取引を行う比較対象企業の利益配分状況を参照して合算後の利益を各関連者に分割する方法。

②寄与度利益分割法
各関連者の利益発生に対する寄与度に応じて利益を分割する方法。

③残余利益分割法
合算後の利益から各関連者の通常の利益(重要な無形資産等を有しない比較対象企業が得ている利益)を控除した残余利益を各当事者の貢献度に応じて分割する方法。

このうち、寄与度利益分割法と残余利益分割法は、比較対象取引が見つからないために、独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法や、取引営業利益法(TNMM:Transactional Net Margin Method)、比較利益分割法が使えない場合に用いられる方法である。「もしも独立した企業であればどのような取引を行ったか」という仮定(仮想)の上に成り立つ手法であり、利益分割が恣意的になりやすいとの批判がある。

キーワード

■キーワード
移転価格税制、外部比較対象取引、技術指導、研究開発費、国外関連者、残余利益分割法、重要な無形資産、独立企業間価格、分割対象利益、ライセンス契約

■重要概念
評価困難無形資産(HTVI : Hard To Value Intangibles)

東京地裁/両者の主張

納税者の主張

基本三法の一つである独立価格比準法の適用のための比較対象取引の存否は、価格に影響を与えることが客観的に明らかな差異が存在するか否かという観点から判断されるべきである。

そして、後記のとおり、本件国外関連取引については、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引を比較対象取引として、独立価格比準法と同等の方法を適用し、独立企業間価格を算定することができる。

したがって、基本三法と同等の方法を適用できないとして、残余利益分割法と同等の方法を適用することは違法である。

そして、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引を比較対象取引として、独立価格比準法と同等の方法を適用すれば、本件国外関連取引の対価の額は独立企業間価格を下回るものではないから、本件各更正処分等(請求の趣旨において取消しを求める部分)は違法である。

独立企業間価格の算定は、原則として個別の取引ごとに行うべきところ〔措置法通達66の4(3)-1〕、本件国外関連取引については許諾製品ごとに個別取引があるから、その独立企業間価格は、許諾製品ごとに別個に算定されるべきである。

そして、許諾製品ごとにそれぞれ比較対象取引が存在するから、独立価格比準法と同等の方法の適用をすべきである。

被告は、本件国外関連取引はそれぞれパッケージとしての取引である旨主張する。

しかし、複数の製品を顧客に供給する場合にも、供給する製品それぞれの使用上のノウハウが必要なだけであって、単独で用いる場合と異なる特殊な使用上のノウハウが発生するものではなく、複数の薬品についてのノウハウが顧客への提案時に同時に開示されなければならないものではない。

本件国外関連取引も、個々の製品ごとの取引の集積であり、製品を一括したパッケージ取引ではない。

本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引は、いずれもノウハウ等及び役務の提供が約されている点において、本件Bライセンス取引と変わりがない。

独立価格比準法と同等の方法の要件である「同種」は、同一よりも広い概念であり、取引対象の特徴が価格に重大な影響を及ぼすことがない程度に類似していれば足りる。

そして、製造ノウハウの使用許諾取引においては、「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって、そのノウハウから生み出された製品ではないところ、製品種類が同じ(同一の製品群)であれば、使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし、製品種類が異なっても、ロイヤルティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえる。

これを本件Bライセンス取引について見ると、①平成12年3月期及び平成13年3月期においては、B旧契約書の対象は5品目であって、これに基づいてB社が実際に取引の対象とした製品は3品目(H、I及びJ)のみであり、これらは全て本件Eライセンス取引の対象製品と同一であるから、「同種」の無形資産の取引といえることは明らかであるし(なお、当該契約前から、他の製品について製造ノウハウの開示及び原料の販売を一体の取引として行っていたが、これはB旧契約書による契約の対象ではない。)、②平成14年3月期ないし平成16年3月期においても、本件Bライセンス取引の対象とされているノウハウは、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引の対象とされているノウハウと同様に、めっき薬品の製造に係るノウハウであって、種類を同じくする製品を対象とするものであり、その対価に影響を与えるような差異もないから、「同種」の無形資産の取引といえる。

また、役務提供の内容についても、価格に重大な影響を及ぼすような差異は存在しない。

なお、原告の技術者の台湾への出張は、原告の利益のためにしたものであって、本件Bライセンス契約上の義務の履行としてされたものではない。

そして、本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引との間には、製造・販売地域、契約形態・条件、役務提供の頻度及び程度、市場の状況とも、対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異はないから、「同様の状況」の下での取引といえる。

本件Cライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とは、いずれも同一の製品群である無電解ニッケルめっき液を許諾対象製品とするものであるから、「同種」の製造ノウハウの取引といえるし、その取引の状況において対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異もないから「同様の状況」の下での取引といえる。

また、本件Cライセンス取引においては、前処理剤も許諾対象製品とされているところ、これと本件Eライセンス取引における前処理剤であるKに関する製造ノウハウの許諾取引は、同一の製品群を対象とするものであるから、「同種」の製造ノウハウの取引といえるし、その取引の状況において対価の額に影響を与えることが客観的に明らかといえる差異もないから「同様の状況」の下での取引といえる。

基本三法と同等の方法を適用することができない場合、適用される方法は、その他の方法のうち、独立企業間価格を算定する最も適切な方法であることが必要である。

そして、仮に本件国外関連取引につき本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができないとしても、両取引を比較対象取引として、独立価格比準法の考え方から乖離しない合理的な方法であって「同種」や「同様の状況」を多少緩めた「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用すべきである。

これに対し、残余利益分割法と同等の方法は、本件では合理的な方法とはいえない。

例えば、B社が台湾におけるPWB用途のめっき薬品の市場で高いシェアを獲得した原因は、台湾の立地上の特殊性、台湾企業の独特のニーズ、B社の社員の専門能力の高さなどを生かした、B社が独自に考案し実践したユーザーに対する技術サポート体制にあるのであって、被告が後記で主張するように試験研究費の額を指標として残余利益を分割したのでは、独立企業間価格を合理的に算定することはできない。

したがって、本件国外関連取引につき、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定することはできない。

国税庁の主張

国外関連者との取引に係る課税の特例について定める措置法66条の4は、実際の取引価額のいかんにかかわらず、資産の低価販売等の場合には独立企業間価格に相当する金額が益金に算入される旨規定するところ、棚卸資産の販売又は購入に係る独立企業間価格とは、①独立価格比準法、②再販売価格基準法、③原価基準法(以下、①~③を総称して「基本三法」という。)及び④その他の方法により算定した金額をいい、④その他の方法は、基本三法を用いることができない場合に限り用いることができるものとされている(同条2項1号)。

そして、棚卸資産の販売又は購入以外の取引についての独立企業間価格とは、基本三法と同等の方法及び④その他の方法と同等の方法をいい、④その他の方法と同等の方法は、基本三法と同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができるものとされている(同項2号)。

本件国外関連取引は、棚卸資産の販売又は購入以外の取引であるところ、原告からのライセンスについて再実施権は認められていないから、②再販売価格基準法と同等の方法は適用できないし、めっき薬品等に係る無形資産が取引の対象とされているため、取得原価の算定は困難であるから、③原価基準法と同等の方法を適用することもできない。

そして、以下のとおり、本件国外関連取引について、原告が内部比較対象取引(原告又は国外関連者が一方当事者となり、それと非関連者との間で行われる比較対象取引をいう。以下同じ。)であると主張する本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引はいずれも比較対象取引とはいえず、他に内部比較対象取引も外部比較対象取引(非関連者と他の非関連者との間で行われる比較対象取引をいう。以下同じ。)も存在せず、①独立価格比準法と同等の方法を適用することはできないから、④その他の方法と同等の方法を用いることができる。

本件では、製品ごとの取引を単位とする独立企業間価格の算定は不適切であり、製品のみで無形資産の「同種」性を判断することはできない。

すなわち、めっき薬品に関する無形資産は特殊であり、用途によってその管理や使用に係る技術やノウハウも異なってくるのであり、製品(めっき薬品)を単位として無形資産を把握すること自体が困難であること、原告とその国外関連者との間では、単に指定されためっき薬品を販売するのみではなく、複数のめっき薬品に関する製法、使用、管理等のノウハウが包括的に開示されるとともに、顧客先への技術支援に必要となる技術指導や技術者の派遣等の無形資産の使用を伴った役務提供が不可分一体のものとして行われ、パッケージとしての取引がされていたことからすれば、製品ごとの個別取引に分解して無形資産の「同種」性を論ずるべきではない。

独立価格比準法において、比較対象取引は「同種」の棚卸資産の取引であることが求められるところ、「同種」と認められるためには、性状、構造、機能等の面で相当程度の類似性が必要であり、その一部に差異がある場合には、その差異が取引の対価の額に影響を与えないと認められる必要がある。

独立価格比準法と同等の方法を適用する場合の無形資産についても同様であり、無形資産が「同種」であるか否かは、取引の形態、無形資産の種類、保護の期間と程度、その無形資産によって期待される利益の程度を考慮して判断すべきである。

まず、無形資産の使用許諾の対象製品の種類別で比較すると、①本件Cライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とでは、そもそも使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるから、使用を許諾した無形資産が同種といえないことは明らかである。

また、②本件Bライセンス取引と本件Fライセンス取引とでは、使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるし、③本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引とでは、例えばB社に対するライセンスの対象となっていた無電解金めっき薬品たる「G」(B旧契約書に記載はないが、平成11年までには契約対象とされていた。)がE社にはライセンスされていないなど、両者には品目差が見られるし、同一種類の中でも細目的な品名や品数は大きく異なっているから、いずれも使用を許諾した無形資産が同種であるとはいえない。

次に、用途別に見ると、例えば、B社の平成15年の用途別の生産実績では、PWB(プリント配線板)関連が圧倒的に多く、汎用がわずかであるのに対し、年度は異なるものの、E社の平成16年の用途別の生産実績では、汎用がPWB関連を大幅に上回っている。

同種のめっき薬品であっても、用途が異なれば、それに伴う製造プロセスや品質管理、必要な技術フォロー体制の場面でも差異が生じ、各契約における価格決定等にも当然違いをもたらすから、この観点からも使用を許諾した無形資産が同種であるとはいえない。

このように、原告がB社及びC社に対し使用を許諾した無形資産と、E社及びF社に対し使用を許諾した無形資産は、対象製品の種類や用途等において差異があり、それに応じて特徴等が異なるし、その無形資産の使用によって期待される利益の程度も異なるから、「同種」とはいえない。

また、役務提供の内容について見ても、本件Bライセンス取引においては、無電解金めっき液を使用しためっき工程についての技術助言、ユーザー対応等のために、緊急の要請に応えた臨時の出張も行うなど頻繁に出張がされているのに対して、E社及びF社に対する役務提供はそのような内容ではなく、「同種」であるとはいえない。

また、独立価格比準法又はこれと同等の方法における比較対象取引は「同様の状況」の下でされた取引であることを要し、「同様の状況」の下でされた取引といえるかは、取引段階、取引数量、取引時期、引渡条件、取引市場等が考慮されるべき重要な要素となり、「同種」か否かと同様、状況の差異が取引の対価に差異を生じさせる条件か否かを検討すべきところ、以下の点に照らすと、本件国外関連取引と、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とは、「同様の状況」の下で行われた取引であるとはいえない。

本件国外関連取引は、台湾及びマレーシアの国外関連者に対する無形資産の使用許諾であるから、市場の類似性等を担保するためには比較対象取引の市場は台湾及びマレーシアであることが不可欠であるところ、E社及びF社の製造・販売地域は、韓国及びタイであり、その差異を調整することはできない。

本件国外関連取引においては、対象地域における独占的な権利が付与されているが、本件Eライセンス取引においては、非独占的契約となっており、その差異を調整することはできない。

本件国外関連取引と、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とでは、無形資産の使用許諾に伴う役務提供の頻度や程度において差異が大きく、その差異を調整することはできない。

本件Bライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造される製品(Bライセンス製品)は、台湾のPWB用途のめっき薬品の市場で約●●%のシェアを占めているが、韓国において、本件Eライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造されるPWB関連向けのめっき薬品のシェアは約14.6%にすぎず、その違いは価格競争力等に影響する。

また、生産実績から見ても、B社とE社とでは大きな差がある。

さらに、本件Cライセンス取引により使用許諾された無形資産を使用して製造される製品(Cライセンス製品)の販売先は、日系企業2社がほとんどという特殊性があり、現地企業に販売している他の国とは状況が異なる。

そのほか、好不況の程度も異なるなど、国ごとの市場の状況の差は大きく、その差異を調整することはできない。

本件国外関連取引に基づいて製造販売された原告ライセンス製品は、B社の所在する台湾や、B社及びC社の製品を販売しているD社の所在するシンガポールを含むASEAN諸国において、原告の製造技術・ノウハウが提供されることにより、他社よりも優位な競争上の地位を築いたものである。

これは原告が、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、①めっき薬品等の製造及び販売に関する技術情報やノウハウを提供し、②国外関連者やその顧客に対し技術支援を行うことによって原告ライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させたことによるものであり、この①及び②は原告の無形資産である。

また、B社及びD社については、原告の支援を受けながら、③顧客に対する営業・技術サポートを行うことで原告ライセンス製品のイメージを浸透及び普及させて付加価値を創出し、原告ライセンス製品を台湾等において製造及び販売してきたのであり、この③はB社とD社の無形資産である。

これらの無形資産を総合的に活用することによって、本件国外関連取引は事業成果を上げているといえるのであるから、上記①ないし③の無形資産は、超過利益の源泉である重要な無形資産である。

したがって、本件国外関連取引の独立企業間価格については、前記のその他の方法である利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)と同等の方法の中でも、原告、B社及びD社の有する重要な無形資産が利益獲得に寄与する点に着目し、通常得られる利益をそれぞれに配分した残余の利益をその重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分して独立企業間価格を算定する残余利益分割法〔措置法通達66の4(4)-5〕と同等の方法を適用して算定するのが相当である。

東京高裁/両者の主張

納税者の主張

独立企業間価格算定の単位である取引は、価格設定の単位により判断されるべきものであって、複数の取引が行われている場合も、個別の取引ごとに独立企業間価格を算定するのが原則であり、例外的に複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定することが認められるのは、一方の取引の価格が他方の取引を考慮して決定されている場合だけである。 

また、独立企業間価格の算定の単位の問題(措置法66条の4第1項の「当該取引」の解釈)と比較可能性の判断の単位の問題(同条2項の「当該国外関連取引」の解釈)を混同すべきではなく、前者は、個々の取引が密接に結びついている場合や継続的な取引がされている場合など、国外への所得移転の有無及び所得移転額を取引全体についてまとめて算定すべき場合があるが、後者の比較可能性の判断は、個々の取引ごとに行うべきであり、文言の自然な意味と異なる解釈を行うべき特段の理由はない。 

さらに、移転価格税制は、法人とその国外関連者が実際に行った取引を前提に、所得計算上だけ、その対価が独立企業間価格で行われたとみなして所得計算を行う制度であり、国外関連者との間で行われた実際の取引を別の取引に置き換えることを認める制度ではない。

控訴人は、本件各事業年度において、B社及びC社との間で、多数のめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引をしていた(控訴人は、めっき薬品の管理及び使用等のノウハウや販売ノウハウの使用許諾取引は行っていない。)。

各取引は相互に独立であって、めっき薬品ごとに異なる時期にB社又はC社からの製造ノウハウの使用許諾取引開始の申込みを受けた控訴人が、その可否を検討したうえで承諾したことにより成立した複数の個別取引の集合体である。 

個別のめっき薬品の価格は、他のめっき薬品の対価の額を考慮することなく、業界水準を考慮して個別に設定されていた。

各めっき薬品の価格は、当該めっき薬品の正味製造価格又は純販売価格のみによって定まり、B新契約書の締結後に新たに製造ノウハウ等の使用許諾取引が開始されるめっき薬品があっても、そのことによってロイヤルティ料率の見直しは行われなかった。

C社と各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引についても同様である。 

そして、個別のめっき薬品のノウハウ使用許諾取引の対価の額は、各めっき薬品の売上高の●●%として、各めっき薬品の売上高に基づいて個別に算出されている。

各めっき薬品の売上高及びロイヤルティの額を個別に算出して合計しなければ、ロイヤルティの総額を計算することはできないのであって、対価の額は個別のめっき薬品ごとに設定されていることが明らかである。 

このように、控訴人とB社及びC社とのめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引の価格は、個別のめっき薬品ごとに設定されているのであって、他の取引を考慮して価格設定がされているとはいえないから、本件においては、独立企業間価格の算定も比較対象取引の有無の判断も、各めっき薬品についての製造ノウハウの使用許諾取引ごとに行わなければならない。

以上に対し、原判決は、めっき薬品の特徴や控訴人グループの事業内容等を理由に、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引をそれぞれ一体の取引として独立企業間価格を算定すべきとするが、各種めっき薬品は、一般にユーザーに対してパッケージで販売されるのが定型的な販売方法であるという関係にはなく、その製造ノウハウの使用許諾取引にも関連性があるわけではない。 

また、複数のめっき薬品をユーザーに販売する場合があるとしても、そのことは各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾の対価であるロイヤルティの額が、他のめっき薬品の取引を考慮して設定されていることを示すものではないから、一体の取引として独立企業間価格を設定しなければならない理由とはならない。

品揃えが豊富であることによって製品が多く売れるという関係があったとしても、そのことによって、各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引の対価の額が、他の各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引を考慮して決定されていることを示すものとはいえない。 

被控訴人は、様々な機能を有する表面処理加工を実現できる多様なめっき薬品を揃え、これをプロセスごとに提供できることは、単に個々のめっき薬品を製造販売することそのものの価値を足し合わせたもの以上の付加価値を有する旨主張するが、複数のめっき薬品を用いた場合に単体のめっき薬品を用いた以上の価値を生み出すということはない。

また、顧客の需要を満たすために新たな製品を販売することは、新たな収益を生み出すものであって、どのようなビジネスでも重要であることは当然のことであるが、そのことによって既存の製品を高く販売できるようになるということはないから、品揃えを理由に、すべての製品のノウハウ使用許諾取引をまとめて独立企業間価格を設定すべきであるとする被控訴人の主張は理由がない。

さらに、B社及びC社においては、控訴人から技術者の派遣を受けることなく、製造販売の事業が完結している取引がほとんどであり、控訴人に対する技術者の派遣の要請は、特定のめっき薬品及び特定の顧客対応についてしか生じず、極めて例外的な場合だけである。 

控訴人のLの技術者の出張による役務の提供は、B社及びC社へのめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引並びにB社による顧客へのめっき薬品販売活動の不可欠な要素ではないし、めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引の対価は正味製造価格又はその純販売価格の●●%などに設定され、他方、役務提供取引の価格は、台湾への出張に要する交通費・宿泊費等の費用相当額と設定されているのであって、両取引の価格は、他の取引の価格を考慮して設定されているのではない。 

複数のめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引及び役務提供取引をパッケージとしてされた一体取引とみなし、比較可能性の有無を判断することは認められない。

本件においては、控訴人によるB社及びC社に対する個々のめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引について、控訴人とE社の間の個々のめっき薬品の使用許諾取引及び控訴人とF社との間の個々のめっき薬品の使用許諾取引は、独立価格比準法と同等の方法を適用するための要件である「同種」の要件及び「同様の状況」の要件をいずれも満たしているから、これらの取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができる。 

したがって、基本三法(特に独立価格比準法)と同等の方法を適用することができる以上、残余利益分割法を用いて独立企業間価格を算定してされた本件各更正処分は違法である。

製造ノウハウの使用許諾取引においては、棚卸資産取引と異なり、通常、(販売価格などの絶対額ではなく)販売金額などに対する一定の料率を対価として取引が行われるのであり、異なる製品の製造ノウハウであっても、そのノウハウを構成する内容に類似性があり、その製造に必要な設備等が類似しており、大きな追加投資やリスク負担をすることなくある製品の製造を行うか別の製品の製造を行うかの選択を行うことができるような場合には、「同種」の要件は満たしていると判断し得るものと解される。 

そして、めっき薬品については、その製造ノウハウは複数の原料を一定の比率で投入し攪拌することにあり、また、同一の設備で製造が可能であり、別のめっき薬品の製造に際して大きな追加投資やリスク負担は生じない。

したがって、本件Bライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引及び本件Cライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引と、本件Eライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウのライセンス取引及び本件Fライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引は、それぞれ「同種」の要件を満たす。 

以上に対し、原判決は、ライセンスの対象となる製品の品揃えが異なることや用途の違いをもって比較可能性がないと述べる。

しかしながら、個々の製品ごとに「同種」の要件は判断すべきであるから、品揃えの違いは比較可能性を否定する理由となり得ないし、控訴人は用途を限定してめっき薬品のライセンス取引を行っているのではなく、また、用途の差異が対価の額(ロイヤルティ料率)に影響を及ぼすことが明らかであることを示す客観的証拠も存在しないので、用途が異なることも「同種」の要件を満たさないことの理由とはならない。

差異の存在を理由として比較可能性の要件が否定されるのは、その差異が価格に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合だけである。 

本件において、本件Bライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引及び本件Cライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引と、本件Eライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引及び本件Fライセンス取引を構成する各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引の間には、それぞれ①無形資産の使用許諾の対象たる製品の市場となる国・地域、②ライセンス取引により付与される権利の独占性の有無、③対象製品の市場におけるシェアについて違いがあるが、いずれも価格に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかであるといえる証拠は何も存在しない。

したがって、「同一の状況の下での取引」ではないと判断することはできず、「同一の状況」の要件も満たす。 

むしろ、①については、ライセンス対象者が所在する国が異なっても同一のロイヤルティ料率で取引がされている客観的事実が存在し、また、製造ノウハウの対象となっている製品の販売価格が異なっていても技術が同種である限り、同一のロイヤルティ料率で使用許諾取引がされることがあることは公知の事実であるから、製品の販売価格の差異と対価の額の差異との間に相関関係はない。

②についても、製造ノウハウの使用許諾取引は、複数の製造者の競争による製品価格の下落や漏えいの危険を考慮して、通常一地域において一事業者としか実施されない。

E社が有するのは非独占的権利であるが、控訴人が韓国で製造ノウハウの使用許諾をしているのはE社1社のみである。

他方、関連者間の契約については独占的権利として契約が締結されていても、控訴人に必要が生じればいつでも契約条件を非独占に変更し、他の者と製造ノウハウのライセンス契約を締結することが可能である。

実質的には、独占的権利を付与されているB社と非独占的権利を付与されているE社の置かれている状況は同一であって、両取引の取引条件に実質上差異はない。

さらに、③についても、PWB用途のめっき薬品の市場において、台湾のBライセンス製品のシェアは●●%、韓国のE社ライセンス製品のシェアは●●%余りであるなどシェアの違いはあるものの、このようなシェアの違いは、B社が控訴人とのライセンス契約の締結後に、B社のユニークなビジネスモデルによって圧倒的なシェアを獲得するに至ったものであって、ライセンス契約締結時に予測されていたものではなく、また製品自体の価格競争力や収益力に由来するものではないから、シェアの違いはロイヤルティ料率に影響を与え得る差異ではない。

さらに、以下のとおり、少なくとも、①本件Bライセンス取引のうち、控訴人とB社との間のJの製造ノウハウの使用許諾取引(以下「本件B・J使用許諾取引」という。)については、控訴人とE社との間のJの製造ノウハウの使用許諾取引(以下「本件E・J使用許諾取引」という。)を、②本件Cライセンス取引のうち、控訴人とC社との間のMの製造ノウハウの使用許諾取引(以下「本件C・M使用許諾取引」という。)については、控訴人とE社との間のNの製造ノウハウの使用許諾取引(以下「本件E・N使用許諾取引」という。)をそれぞれ比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができることは明らかである。 

れにもかかわらず、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引について、それぞれJ、Mを含めた全てのめっき薬品に残余利益分割法と同等の方法を適用し、本件B・J使用許諾取引及び本件C・M使用許諾取引に、独立価格比準法と同等の方法を適用せずに独立企業間価格を算定してされた本件各更正処分は違法である。

本件B・J使用許諾取引と本件E・J使用許諾取引は、いずれも同じJを対象とするものであり、「同種」の要件を満たす。 

また、本件C・M使用許諾取引の対象であるMと本件E・N使用許諾取引の対象であるNは、ほぼ同時期に開発製品化されたいずれも高リンタイプの無電解ニッケルめっき液であり、同様の生産設備を用いて生産することができ、原料の構成も錯化剤濃度に多少の差異があるだけであって、期待される利益に著しい差異はないので、「同種」の要件を満たす。

本件B・J使用許諾取引と本件E・J使用許諾取引は、①いずれもJをプリント配線板メーカーに販売することを目的として、②ほぼ同時期に開示を受け、③それぞれの地域で同シリーズの各製品のノウハウ使用許諾取引を受けているのは1社のみであり(台湾はB社、韓国はE社)、④ノウハウの開示移転の方法として、いずれもノウハウを記載した書面の交付による方法だけではなく、控訴人技術者の派遣によるノウハウの開示移転が合意され(費用はライセンシー負担)、⑤本件各事業年度における契約期間は同じ5年であり、⑥顧客層も共通しており、また、それぞれの顧客はさらなる共通の顧客層から交渉圧力を受けており、さらに、⑦無電解ニッケルめっき液の販売に関し同一の競合他社と販売を競い合っているなど「同様の状況」にあった。 

本件C・M使用許諾取引と本件E・N使用許諾取引も、差異はあるものの前記のとおりいずれもそれぞれ価格に重大な影響を与えることが明白な差異があるとは認められないから、「同様の状況」を満たしていた。

仮にB社及びC社に対するめっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引の一部又は全部について、E社及びC社とのライセンス取引との間の差異を理由に「同種」又は「同様の状況」の要件が満たされていないと判断される場合であっても、E社及びF社との取引を比較対象とする方法は、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法に該当する。 

「独立価格比準法と同等の方法」と「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」は、その効果に違いがある。

前者に該当すれば、基本三法優先の結果、残余利益分割法等その他の方法との信頼性を比較することなく、同方法を適用して算出された価格が独立企業間価格として用いられることになる一方、後者に該当する場合は、残余利益分割法等その他の方法との比較の結果、独立企業間で成立するであろう価格(「理想的な価格」)に最も近似する価格を算出する方法であると判断されれば適用されるが、その他の方法の算出結果の方が独立企業間で成立するであろう価格の近似値を算出すると判断されれば適用されることはない。 

価格に影響を与える差異が存在し、独立価格比準法と同等の方法といえるまでに正確な独立企業間価格を算定し得ない方法であったとしても、残余利益分割法よりも独立企業間価格に近似する価格を算定し得る場合には、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法となると解して、他の方法との比較においていずれが独立企業間価格に最も近似する価格を算定するかによって、実際に適用される独立企業間価格の算定方法が決まると解すべきである。 

本件においては、業界の一般的なロイヤルティの水準を基準に各めっき薬品のロイヤルティ料率を決定するという一般的な慣行に合致した方法で価格設定がされているから、独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を適用して算定する独立企業間価格は「理想的な価格」からの乖離が大きくないものと推定されるのに対し、残余利益分割法と同等の方法は、後記のとおり信頼性に疑問を生じさせる多くの問題があるから、これにより算定する独立企業間価格は、理想的な価格・所得配分から著しく乖離したものになると考えられる。 

被控訴人は、残余利益分割法と同等の方法が独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法よりも適切な方法であることを立証していないので、残余利益分割法と同等の方法を適用して行った本件各更正処分等は違法である。

処分の適法性についての立証責任は被控訴人にあるから、東税務署長が残余利益分割法を適用して行った本件各更正処分が適法であるためには、被控訴人は控訴人の研究開発活動が超過利益の源泉であることを立証しなければならないが、被控訴人は何の立証も行っていない。

B社は競合他社にはない極めてユニークな「アフターサービス」をユーザーに提供しており、その結果、競合他社に対して競争上の優位を形成しており、台湾において極めて高いマーケットシェアを実現するとともに、高い価格でのめっき薬品の販売が可能となっている。

このマーケティングの無形資産は、台湾における超過利益(レント)の発生に大きく貢献していることは明白である。

他方、控訴人のめっき薬品に関する研究開発活動は、めっき薬品の製造販売事業を継続するうえで極めて重要な活動であることは間違いないが、競合他社も同様の研究開発活動を行っており、競合他社に対して競争上の優位を形成するユニークなノン・ルーティン活動といえるのかは疑問があり、台湾における超過利益の発生に果たして貢献をしているのか明白ではない。 

被控訴人は、めっき薬品の微妙な原料の配合比がノウハウであるから、顧客のニーズに沿っためっき薬品を生み出す場合には、それ自体価値の高い、独自性のある無形資産といえるのであって、超過利益の源泉となる重要な無形資産であると主張するが、論理の飛躍がある。

「超過利益」が発生するためには、高く売れなければならず、ノウハウが含まれた商品であって顧客のニーズに合致した商品であるというだけでは、そのノウハウの価値が高いとはいえない。

また、ノウハウの含まれた商品の販売価格が高くても、商品の販売とともに役務の提供がされている場合には、ノウハウの価値が高いから販売価格が高いのか、提供された役務の価値が高いから販売価格が高いのかは事案により異なるから、いずれによって高い販売価格が実現したのかにつき証拠を提出しなければ、高い販売価格の結果実現した超過利益の源泉が何であるのかは不明である。

国税庁の主張

独立企業間価格の算定は、個別の取引ごとに行うのが原則であるが、個々の取引が密接に結び付いていたり、一定期間継続していたり、これらを個別に見たのではその価格を適正に評価できないような場合には、まとめて一の取引として独立企業間価格を算定すべきであり、比較可能性の判断も、そのように一の取引として評価された取引ごとに行われるべきである。 

なお、措置法66条の4第1項における「取引」又は「当該取引」の意義は同項内で定義づけられた上、これを同条内においては「国外関連取引」と略称することとされているから、同条第1項の「取引」又は「当該取引」の意義は、同条第2項の「国外関連取引」の意義と同一であることが文理上明らかである。 

原判決は、国外関連者との間で行われた実際の取引を別の取引に置き換えるものではなく、実際に行われた取引に着目して判示しているものであるから、控訴人の批判は当たらない。

そして、本件国外関連取引の対価の額は、①B旧契約書及びB新契約書が、いずれも製品ごとの技術の先進性や開発コストの多寡などを捨象して一律のロイヤルティ料率を定めていること、②控訴人自身、B新契約書の締結後に使用許諾される製造ノウハウ等であっても、その対価の額が当然かつ一律にB新契約書の定めに従い決定されるものであったことを自認していること、③本件Bライセンス取引のロイヤルティ料率が定められた経緯〔個別のめっき薬品ごとにその製法等の無形資産の価値を計測して定められたものではなく、当該めっき薬品の製法等の開発コスト(控訴人の研究開発費)の受益者負担という観点から、B社の財務状況や、台湾当局による規制等を踏まえて定められた。その際、業界水準のロイヤルティ料率は●●%という判断の下、すべての許諾製品、製造販売許諾地域について、一律に正味販売金額の●●%を許諾料率としてノウハウ・ライセンス契約を締結することを基本方針とした。〕からも明らかなとおり、個別のめっき薬品の使用許諾取引ごとに設定されたものではない。

そして、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引においては、控訴人からB社及びC社に対して、控訴人の有するめっき薬品の製造等に係る技術情報等のノウハウが提供されるとともに、控訴人から両社に対する技術訓練や支援等も行われることとされており、これら両取引は、いわば役務提供付きのライセンス取引といえるものである。

控訴人の有するめっき薬品等の製造等に係る技術情報は、単にめっき薬品等のノウハウの開示を受けることによってのみならず、技術訓練や支援等の役務提供によっても控訴人の国外関連者に対して提供されるものといえるから、ロイヤルティは、技術情報等のノウハウの提供の対価であるとともに、技術訓練や支援等の役務提供の対価であるといえる。 

この点からも、ライセンス取引と役務提供取引とを区別して、別々にその対価を計算することは合理的ではなく、これらを一体としてその対価を検討するべきである。 

原判決が適切に判示するとおり、本件国外関連取引の実態等に照らせば、本件国外関連取引は、B社及びC社それぞれに対する複数のめっき薬品に係る製造ノウハウ等の使用許諾取引及び技術訓練等の役務提供取引を一の取引として、その独立企業間価格を算定するのが相当である。

独立価格比準法は、国外関連取引に係る価格と比較対象取引に係る価格とを直接比較することにより、独立企業間価格を算定する方法であるため、その適用においては、何よりも取引の対象となる資産の内容について厳格な同種性が要求されるほか、取引状況についても価格に影響するような差異がないことが必要となるという点に特徴があり、基本三法の中でも要求される比較可能性の程度が特に高いとされる。

独立価格比準法と同等の方法も、同じく価格を直接比較する方法であるから、取引の対象となる資産の内容について厳格な同種性が要求される。 

これに対し、控訴人の主張は、実質的には、独立価格比準法と同等の方法において求められる「同種」性を根拠もなく緩和しようとするものであるから理由がない上、無形資産の内容同士を比較せず、無形資産を「構成する」内容同士を比較すれば足りるかのようにいう点や、対価の額に影響を及ぼす無形資産そのものの差異とは直接関係のない設備の類似性や当事者の引き受けるリスク負担によって無形資産の同種性を判断しようとする点において、独立価格比準法と同等の方法において求められる「同種」性の解釈を誤った独自の見解といわざるを得ず、理由がない

一体としての取引である本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引とを比較した場合、原判決が適切に判示したとおり、両取引の対象となっている無形資産等には、対価の額に影響を及ぼす差異が存在する。 

控訴人は、用途を限定してめっき薬品のライセンスを行っているのではない上、用途の差異がロイヤルティ料率に影響を及ぼすことが明らかであることを示す客観的証拠は何もないなどと主張するが、独立価格比準法と同等の方法において比較対象取引となるのは、「対価の額」に影響を及ぼす差異がない取引であって、「ロイヤルティ料率」に影響を及ぼす差異があるか否かではない。

本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引とを比較した場合、両取引の行われた状況には、原判決が適切に判示するとおり、対価の額に影響を及ぼす差異が存在し、その影響を具体的に把握することは極めて困難であって、生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから、両取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。 

なお、控訴人は、差異の存在を理由として比較可能性の要件が否定されるのは、その差異が価格に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかな場合だけである旨主張するが、独立価格比準法と同等の方法についての措置法66条の4第2項2号イ、同項1号イの規定上は、価格に「重大な」影響を与える差異の有無を問題とすべきとする解釈上の明確な根拠があるとはいえない。 

さらに、仮に「同様の状況」の判断において、取引価格への重大な影響の有無を問題にすべきであると解したとしても、本件における取引状況の違いは重大なものであって、そのような重大な差異から生じる価格への影響もまた重大なものというべきである。

控訴人の主張は、控訴人が主張する「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」(本件Eライセンス取引を比較対象取引とするもの。以下「本件独立価格比率法に準ずる方法と同等の方法」という。)と他の方法(東税務署長が適用した残余利益分割法と同等の方法)のいずれが独立企業間価格(控訴人のいう「理想的な価格」)の近似値を算定し得るかを比較し、より近似する値を算定し得る前者を適用すべきであるというものであると解される。 

しかしながら、控訴人の主張によれば、そもそも独立企業間価格(「理想的な価格」)がいくらであるかが客観的に明らかでなければ、本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法と他の方法とのどちらが独立企業間価格の近似値を算定し得るのかは判断できないはずである。

また、取引の対象及び状況に相当程度の差異が存在するにもかかわらず、なぜ本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法の方が、残余利益分割法による算定方法よりも独立企業間価格(「理想的な価格」)に近似する価格を算定し得るのかについても、控訴人は何ら合理的な説明をしていない。 

控訴人の主張は、措置法等に規定された移転価格税制における独立企業間価格の算定方法を正解しないものである上、そのような複数の算定結果から「理想的な価格」の「近似値」を選択するための方法についての説明もないものであって、結局のところ、本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法が「理想的な価格」の「近似値」を算定できるはずだという結論ありきの失当なものである。 

さらに、控訴人の主張によっても、本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法が、独立価格比準法と同等の方法においては比較可能性がないと判断される取引(本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引)について、何の差異調整も行わないままに、独立価格比準法と同等の方法を適用しようとするものであることは明らかであって、「そのような方法により独立企業間価格を算定することが『独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法』として許容されるのか、疑問があるといわざるを得ない。」との原判決の評価は、極めて的確である。

原判決が認定説示するとおり、本件国外関連取引については、控訴人及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。

原料の配合比というノウハウは、それが顧客のニーズに沿っためっき薬品を生み出す場合には、それ自体が極めて価値の高い、独自性のある無形資産といえる。

また、控訴人の有する無形資産は、個々のめっき薬品をプロセスとして用いる場合における技術情報やノウハウ、顧客のめっきライン立ち上げ及び不具合発生時の技術サポートをも包含するものである。

このような控訴人の重要な無形資産は、控訴人による研究開発活動により形成・維持・強化されてきたものであるから、控訴人の研究開発活動が台湾における超過利益の発生に貢献していることは明らかである。

競合他社も同様の研究開発活動を行っていることは、そのような他の競合他社も、そのような活動を行っていない法人に比して、超過利益を生む重要な無形資産を有しているということを示しているだけであって、何ら控訴人が超過利益の源泉となる重要な無形資産を有していることを否定する根拠とはならない。 

控訴人は、超過利益が発生するためには、高く売れなければならないと主張するが、「超過利益」とは「基本的利益」と対になる概念であって、重要な無形資産を有しない場合に得られる利益(基本的利益)を超える部分の利益は全て「超過利益」とされるのであり、控訴人は超過利益の理解を誤っている。 

さらに、控訴人は、B社の有する重要な無形資産のどちらか片方のみが超過利益の源泉であることを前提に、その「いずれにより」超過利益が生じているのか不明である旨を主張するが、被控訴人は、控訴人の有するめっき薬品の製造等のノウハウとB社の行う技術サポート等が共に重要な無形資産であり、その両方から超過利益が生み出されていることを前提として、残余利益分割法と同等の方法による独立企業間価格の算定を行っているのであるから、控訴人の主張は前提を誤っている。

両者の主張まとめ

国税庁
■本件国外関連取引について、原告が内部比較対象取引であると主張する本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引はいずれも比較対象取引とはいえず、他に内部比較対象取引も外部比較対象取引(非関連者と他の非関連者との間で行われる比較対象取引をいう。以下同じ。)も存在せず、独立価格比準法と同等の方法を適用することはできないから、その他の方法と同等の方法を用いることができる。

■本件では、製品ごとの取引を単位とする独立企業間価格の算定は不適切である。すなわち、めっき薬品に関する無形資産は特殊であり、用途によってその管理や使用に係る技術やノウハウも異なってくるから、製品ごとの個別取引に分解して無形資産の「同種」性を論ずるべきではない。原告がB社及びC社に対し使用を許諾した無形資産と、E社及びF社に対し使用を許諾した無形資産は、対象製品の種類や用途等において差異があり、それに応じて特徴等が異なるし、その無形資産の使用によって期待される利益の程度も異なるから、「同種」とはいえない。

■これらの無形資産は、超過利益の源泉である重要な無形資産であり、総合的に活用することによって、本件国外関連取引は事業成果を上げている。したがって、本件国外関連取引の独立企業間価格については、前記のその他の方法である利益分割法と同等の方法の中でも、原告、B社及びD社の有する重要な無形資産が利益獲得に寄与する点に着目し、通常得られる利益をそれぞれに配分した残余の利益をその重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分して独立企業間価格を算定する残余利益分割法と同等の方法を適用して算定するのが相当である。
納税者
■本件国外関連取引については、基本三法と同等の方法を適用できないとして、残余利益分割法と同等の方法を適用することは違法である。独立企業間価格の算定は、原則として個別の取引ごとに行うべきであり、本件国外関連取引については許諾製品ごとに個別取引があるから、その独立企業間価格は、許諾製品ごとに別個に算定されるべきである。

■本件国外関連取引は、個々の製品ごとの取引の集積であり、製品を一括したパッケージ取引ではない。製造ノウハウの使用許諾取引においては、「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって、製品種類が同じであれば、使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし、製品種類が異なっても、ロイヤルティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえる。

■残余利益分割法と同等の方法は、本件では合理的な方法とはいえない。例えば、B社が台湾におけるPWB用途のめっき薬品の市場で高いシェアを獲得した原因は、台湾の立地上の特殊性、台湾企業の独特のニーズ、B社の社員の専門能力の高さなどを生かした、B社が独自に考案し実践したユーザーに対する技術サポート体制にあるのであって、被告が主張するように試験研究費の額を指標として残余利益を分割したのでは、独立企業間価格を合理的に算定することはできない。

関連する条文

租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの)

第66条の4(国外関連者との取引に係る課税の特例)

租税特別措置法施行令(平成16年政令 第105号による改正前のもの)

第39条の12(国外関連者との取引に係る課税の特例)

東京地裁/平成29年11月24日判決(古田孝夫裁判長)/(棄却)(控訴)

本件各更正処分の適法性に関する被告の主張は、原告がその国外関連者であるB社及びC社との間でした棚卸資産の販売又は購入以外の取引である本件国外関連取引につき、措置法66条の4第2項1号ニに掲げる政令で定める方法である利益分割法(措置法施行令39条の12第8項)のうちの残余利益分割法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定し、措置法66条の4第1項に基づき当該取引がその価格で行われたものとみなすものである。

棚卸資産の販売又は購入以外の取引に係る独立企業間価格の算定に当たり、政令で定める方法と同等の方法は、基本三法(独立価格比準法、再販売価格基準法、原価基準法)と同等の方法を用いることができない場合に限り用いることができるものであるから(措置法66条の4第2項2号柱書の括弧書)、まず、本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定につき、基本三法と同等の方法を用いることができないと認められるか否かについて検討する。

ただし、平成15年3月期及び平成16年3月期の本件Cライセンス取引については、本件相互協議の合意が成立しており、これにより合意された調整金額を国外移転所得額と扱うことについて当事者間にも争いがないから、上記取引については、以下の独立企業間価格の算定に係る検討の対象外である。

基本三法のうち独立価格比準法とは、特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行った後の対価の額を含む。)に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう(措置法66条の4第2項1号イ)。

このように、独立価格比準法は「同種」の棚卸資産について「同様の状況」(取引段階等の差異により生じる対価の額の差を調整できる状況を含むものとする。以下同じ。)の下で行われた売買を比較対象取引とするものであるところ、本件国外関連取引は無形資産及び役務(以下「無形資産等」という。)を取引の対象とするものであるから、これについて独立価格比準法と同等の方法を適用するには、本件国外関連取引の対象と「同種」の無形資産等について、本件国外関連取引と「同様の状況」の下で行われた取引を比較対象取引とする必要があるというべきである。

そして、独立価格比準法及びこれと同等の方法は、比較対象取引の対価の額をもって国外関連取引の対価の額とみなすものであるから、比較対象取引が「同種」かつ「同様の状況」の下での取引といえるか否かは、対価の額に影響を及ぼす差異があるか否か(「同様の状況」については、更にその差異により生じる対価の額の差を調整できるか否か)という観点から検討するのが相当である。

本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定及び比較対象取引の特定の単位につき、原告は、本件国外関連取引については許諾製品ごとに個別取引があるから、その独立企業間価格は許諾製品ごとに別個に算定されるべきであるとして、許諾製品ごとにそれぞれ比較対象取引の存否を検討すべきである旨主張するのに対し、被告は、製品ごとの取引を単位とする独立企業間価格の算定は不適切である旨主張する。

そこで検討すると、原告グループが開発供給するめっきプロセスにおいては、一般に、前処理剤等を含む複数のめっき薬品がプロセスとして使用されることにより表面処理加工が完成することが多く、単一のめっき薬品のみで表面処理加工の目的を達するとは限らない。

また、めっき薬品は製品ごとに特徴があり、需要用途に応じて各特徴により製品の優位性を示すことができるケースが多いため、原告グループの営業戦略上、品揃えは重要な意味を有している。

さらに、原告グループは、先端的めっき技術をトータルに提供する開発提案型企業を標榜し、めっき薬品の関発・販売のみならず、顧客に対して装置、制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっており、顧客が考える表面処理に合うように相談に応じることを含め、めっきの出来上がりまでを顧客への提供の対象としている。

その中で、原告は、表面処理技術の研究と開発を行うLを有し、めっき薬品の開発だけでなく、めっき・表面処理技術の研究やシステム開発等を行っており、例えば、B社の顧客においてめっき加工の工程に問題が生じた際には、Lの技術者をB社及びその顧客先に派遣し、技術サポートをするなどして、原告グループがめっき加工の工程管理を含む顧客のニーズに対応するに当たって必要な技術やノウハウを提供している。

このようなめっき薬品の特徴や原告グループの事業内容等を前提とすれば、原告とその国外関連者との間の取引においては、原告から個別のめっき薬品についての製造ノウハウ等が示されるだけでは不十分であり、一定の品揃えを伴った複数のめっき薬品に関する製法、使用、管理等のノウハウが包括的に開示されるとともに、顧客先への対応に必要となる技術訓練や技術者の派遣等の役務提供が不可分一体のものとして行われる必要があるものと解される。

本件国外関連取引についても、このようなパッケージとしての取引と見て初めて、その価値を適切に把握できるものというべきであり、これを許諾製品(めっき薬品)ごとに個別に分解して検討するのでは、その取引の価値を十分に把握することができないというべきである。

そうすると、本件国外関連取引について、許諾製品(めっき薬品)ごとに独立企業間価格を別個に算定するのは不適切であり、原告とB社及びC社との間では、複数のめっき製品に係る製造ノウハウ等の無形資産及び役務が一体として取引の対象となっているものと解して(すなわち、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引をそれぞれ一体の取引と解して)、その独立企業間価格を算定するのが相当であり、比較対象取引の存否もこれを前提に検討すべきである。

原告がその主張の根拠とする措置法通達66の4(3)-1も、独立企業間価格の算定は個別の取引ごとに行うのを原則としつつ、例えば、生産用部品の販売取引と当該生産用部品に関する製造ノウハウの使用許諾取引等が一体として行われる取引のようにその独立企業間価格を一体として算定することが合理的であると認められる場合には、複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定することができるものとしており、上記解釈の考え方と軌を一にするものと解される。

原告は、韓国に本店を有する非関連者であるE社との間で行った本件Eライセンス取引及びタイに本店を有する非関連者であるF社との間で行った本件Fライセンス取引が比較対象取引になる旨主張するので、その当否を検討する。

本件Bライセンス取引につき、本件各事業年度において原告からB社に対する無形資産の使用許諾及び役務提供の対象とされていた製品は、B新契約書の下では本件製品一覧表の「B社」「新契約書」欄に記載のめっき薬品であるが、前記の各契約書の作成の経緯に照らせば、B旧契約書の下で取引されていた時期においても、これに明記されていた製品に限られるものではなく、B新契約書の作成時までには、本件製品一覧表の「B社」「新契約書」欄に記載のめっき薬品の全部又は大部分が無形資産の使用許諾及び役務提供の対象となっていたものと認められる。

例えば、前記のとおり、原告の無電解金めっき薬品であるG製品は、B旧契約書には記載されていないものの、平成12年3月期中から、B社に対してその製造、使用等に関する無形資産の使用が許諾され、これに関する役務の提供がされていたものと認められる。

〔この点に関し、原告は、B旧契約書の対象は同契約書に特定明記された5品目のみであり、これに関する取引のみが更正処分の対象となる旨主張する。しかし、B旧契約書に明記されていない製品(既存製品)についても、原告とB社との間で実際に当該製品に係る無形資産の使用許諾及び役務提供が行われていた以上、これに伴う所得移転が生じ得るから、既存製品に係る取引を含めて独立企業間価格を算定し、その所得移転額について課税をするのが相当であり、このことは、B社が既存製品について原告に対してロイヤルティを支払っていたかどうかにかかわらない。すなわち、本件において独立企業間価格の算定の対象となる本件Bライセンス取引には、B旧契約書に明記されていない製品(既存製品)に係る取引も含まれるのであって、原告の上記主張には理由がない。〕

これに対し、本件Eライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は、本件製品一覧表の「E社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄及び別紙2-2E開示リストに記載のとおりである(同リストは、E新契約書の下で、原告からE社に対してロイヤルティの支払義務なしに製造ノウハウ等が開示されていた製品を列挙したものと解されるから、同リスト記載の製品も本件Eライセンス取引の対象に含まれるものということができる。)。

そこで、両取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類について比較すると、その一部について重なりはあるものの、本件Bライセンス取引の対象であるG製品が本件Eライセンス取引の対象とはされていないほか、B新契約書に記載されている製品シリーズでありながら本件Eライセンス取引の対象とされていないものも複数あるなど、明確な差異が存在する。

前記のとおり、原告グループの営業戦略上、品揃えが重要な意味を有していることも考慮すれば、製品の種類に係るこのような差異は、これらを対象とする無形資産等の対価の額にも影響を及ぼすものというべきである。

また、製品の用途について比較すると、例えば、無電解ニッケルめっき薬品について、B社の生産製品はPWB(プリント配線板)関連用途のものが圧倒的に多く、汎用用途のものはわずかであるのに対し、E社の生産製品は汎用用途のものがPWB関連用途のものを上回っているなどの差異が存在する。

前記のとおり、原告グループがめっき薬品の開発・販売のみならず、顧客に対して装置、制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっていることからすれば、同一の製品であっても、用途が異なれば、技術サポート等に必要な体制も異なってくるから、これを対象とする無形資産等の対価の額にも影響が及ぶものというべきである。

さらに、原告による役務提供について見ると、本件各事業年度における原告の従業員による技術支援等のための海外出張は、台湾を出張先とするものの回数が韓国を出張先とするものの回数を大きく上回る上、その台湾においてユーザー対応を含むB社への営業支援・技術支援が繰り返し行われており、本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引とでは、原告に求められる役務提供の頻度及び程度等に相当程度の差異があるものと認められる。

そうすると、本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引とでは、その取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。

本件Bライセンス取引と本件Eライセンス取引に係る状況を比較すると、次のとおり、その取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在する。

そして、その影響を具体的に把握することは極めて困難であって、生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから、両取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。

①そもそも、本件Bライセンス取引は、台湾の法人を相手方とする無形資産等の取引であるのに対し、本件Eライセンス取引は韓国の法人を相手方とするものである。

無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の市場となる国・地域が異なれば、景気の状況は当然異なるし、同一製品でも販売価格に差異が生じ得るから〔例えば、原告ライセンス製品であるめっき薬品の2004年度(平成16年度)における台湾市場での販売価格は、製品により韓国市場での販売価格の0.4倍ないし3.6倍(円換算)であり、大きな差異がある、上記のような製造・販売地域の違いは、当該製品に係る無形資産等の対価の額に影響を及ぼす事情といえる。

②本件Bライセンス取引においては、B社に対して対象地域における独占的権利が付与されているが〔なお、B旧契約書には、非独占的権利である旨の記載があるが、B新契約書においては独占的権利であると改められていること、B社は台湾における原告の唯一の国外関連者であることからすれば、B旧契約書の下でもB社に独占的権利が付与されていたものと解され、この点は原告も特に争うものではない。〕、本件Eライセンス取引においてE社に付与されているのは非独占的権利である。

このように無形資産の使用許諾が独占的なものであるか否かの違いは、その対価の額に影響を及ぼす事情というべきである。

③台湾のPWB(プリント配線板)用途のめっき薬品の市場において、Bライセンス製品は約●●%のシェア〔2003年(平成15年)〕を占めているのに対し、韓国の同市場においては、本件Eライセンス取引に基づくE社の製品は約14.6%のシェア〔2004年(平成16年)〕を有するにすぎない。

このような市場におけるシェアの違いは、当該製品の価格競争力や収益力に影響を及ぼし、ひいては当該製品に係る無形資産等の対価の額にも影響を及ぼす事情といえる。

以上によれば、本件Eライセンス取引が本件Bライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。

「同種」といえるか否か本件Fライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は、本件製品一覧表の「F社」欄に記載のとおりであり、これを本件Bライセンス取引と比較すると、その一部について重なりはあるものの、本件Fライセンス取引では無電解金めっき薬品が対象とされていないなど、本件Eライセンス取引よりも更に明確な差異が存在する。

また、原告のB社に対する役務提供の状況は前記のとおりであるが、本件各事業年度において原告の従業員によるタイへの出張は1件のみしか認められない。

そうすると、本件Bライセンス取引と本件Fライセンス取引とでは、その取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。

本件Fライセンス取引は、タイの法人を相手方とする無形資産等の取引であること、同取引に基づくF社の製品がタイのめっき薬品の市場において高いシェアを有するものとはうかがわれないことなど、本件Bライセンス取引と比較して、その取引の状況につき、取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し、これにより生じる対価の額の差を調整できるとはいえない。

したがって、両取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。

以上によれば、本件Fライセンス取引が本件Bライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。

原告はそのほかの内部比較対象取引の存在を主張するものではなく、また、本件Bライセンス取引は原告グループ特有の製品開発・供給体制〔前記(1)ア〕を前提とするものであり、外部比較対象取引が存在するとは考えられないから、結局、本件Bライセンス取引の比較対象取引は存在しないものというべきである。

本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引について(a)「同種」といえるか否か本件Cライセンス取引につき、本件各事業年度において原告からC社に対する無形資産の使用許諾及び役務提供の対象とされていた製品は、本件製品一覧表の「C社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄に記載のめっき薬品である。

なお、C旧契約書は2000年(平成12年)12月1日付けで作成されたものであるが、前記の事情に照らせば、同契約書作成前の平成12年3月期及び平成13年3月期においても、同契約書に記載のものと同様の取引が行われていたものと認められる。

これに対し、本件Eライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は、本件製品一覧表の「E社」の「旧契約書」又は「新契約書」欄及び別紙2-2E開示リストに、本件Fライセンス取引に係る無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品は、本件製品一覧表の「F社」欄に、それぞれ記載のとおりである。

そこで、本件Cライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とで、その無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類について比較すると、その一部について重なりはあるものの、本件Cライセンス取引の対象であるMが他の取引の対象とされていないなど、明確な差異が存在する。

このMは、Nを基本としつつ、非磁性特性をより安定させたものであって、アルミハードディスクの下地無電解ニッケルめっきの用途のみで使用される製品であり、同用途の顧客は海外ではマレーシアの日系企業(日本法人の現地子会社)2社のみである。

このように、本件Cライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とでは、その無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の種類及び用途に差異が存在し、その差異は、無形資産等の対価の額にも影響を及ぼすものというべきであるから、各取引の対象たる無形資産等が「同種」のものということはできない。

本件Cライセンス取引は、マレーシアの法人を相手方とする無形資産等の取引であり、独占的権利が付与されているのに対し、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引は、韓国又はタイの法人を相手方とするものであって、無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の製造・販売地域が異なるし、E社に付与されているのは非独占的権利にとどまる。

このように、本件Cライセンス取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引とでは、その取引の状況につき、取引の対象たる無形資産等の対価の額に影響を及ぼす差異が存在し、これにより生じる対価の額の差を調整できるとはいえないから、各取引が「同様の状況」の下でされたものということはできない。

以上によれば、本件Eライセンス取引又は本件Fライセンス取引が本件Cライセンス取引の比較対象取引になるということはできない。

その他の取引について原告はそのほかの内部比較対象取引の存在を主張するものではなく、また、本件Cライセンス取引は原告グループ特有の製品開発・供給体制を前提とするものであり、外部比較対象取引が存在するとは考えられないから、結局、本件Cライセンス取引の比較対象取引は存在しないものというべきである。

以上のとおり、本件国外関連取引について、独立価格比準法と同等の方法を適用し得る比較対象取引は存在しないから、本件国外関連取引の独立企業間価格を独立価格比準法と同等の方法を用いて算定することはできないというべきである。

本件国外関連取引につき、取引の対象である無形資産等をB社又はC社が更に第三者に使用許諾又は堤供して対価を得ていたとは認められないから、再販売価格基準法と同等の方法を用いることはできない。

本件国外関連取引は、その対象がめっき薬品の製造ノウハウ等の無形資産及び役務であるという性質上、その取得原価を算定することは困難であるから(なお、当該無形資産等は、原告が対価を支払って第三者から使用許諾又は提供を受けたものではない。)、本件国外関連取引について原価基準法と同等の方法を用いることはできない。

以上によれば、本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定につき、基本三法と同等の方法を用いることはできないと認められるから、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法(措置法66条の4第2項2号ロ)を用いることができるものというべきである。

措置法66条の4第2項1号ニに規定する「政令で定める方法」とは、措置法施行令39条の12第8項に定める利益分割法を指し、具体的には、国外関連取引に係る棚卸資産の当該法人又は国外関連者による購入、製造、販売その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。

この方法は、原則として、国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により当該法人及び国外関連者に生じた営業利益の合計額(分割対象利益)を同項に規定する要因により分割する方法であり〔措置法通達66の4(4)-1参照〕、その分割要因としては、人件費等の費用の額や投下資本の額等、これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものが用いられるべきものと解される〔措置法通達66の4(4)-2参照〕。

この利益分割法は、他の方法による独立企業間価格の算定が困難な場合においても、国外関連取引により生じた営業利益をその発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び国外関連者に分割することにより、独立企業間価格を算定し、関連者間の取引を通じた所得の国外移転に対して適正な課税を実現しようとするものであるところ、当該法人又は国外関連者が重要な無形資産を有しており、それによって生み出された利益がある場合には、その貢献による利益を適切に評価する必要があり、これを区分しないまま、典型的な分割要因である人件費等の費用の額や投下資本の額等を分割要因として分割対象利益を分割するのでは、重要な無形資産の貢献による利益が存在するにもかかわらず、その貢献度が分割対象利益の配分に適切に反映されないことになり、合理性を欠く。

そこで、措置法通達66の4(4)-5は、利益分割法の適用に当たり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には、分割対象利益のうち重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額を当該法人及び国外関連者それぞれに配分し、当該配分した金額の残額を当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて、合理的に配分する方法、すなわち残余利益分割法により、独立企業間価格を算定することができる旨を定めている。

この残余利益分割法は、第1段階として、非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額(基本的利益)を配分し、第2段階として、当該配分した金額の残額(残余利益)を重要な無形資産の価値に応じて配分することにより、重要な無形資産の貢献度を分割対象利益の配分に反映させるものであり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合における利益分割法の適用方法として、合理性を有するものということができる。

なお、平成23年政令第199号による改正により、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号ハにおいて、利益分割法の下位分類として残余利益分割法が規定されたが、同改正は、利益分割法の適用方法の一つとして残余利益分割法があることを確認的に定める趣旨のものと解される。

また、措置法通達66の4(2)-3の(8)は、上記の無形資産の意義につき、著作権、法人税基本通達20-1-21に定める工業所有権等のほか、顧客リスト、販売網等の重要な価値のあるものをいう旨を定めており、これを受けて、平成13年6月1日付査調7-1ほか3課共同「移転価格事務運営要領の制定について(事務運営指針)」2-11は、無形資産が法人又は国外関連者の所得にどの程度寄与しているかを検討するに当たっては、特許権、営業秘密等の技術革新に関する無形資産のみならず、例えば、企業の経営、営業、生産、研究開発、販売促進等の活動によって形成された、従業員等の能力、知識等の人的資源に関する無形資産並びにプロセス、ネットワーク等の組織に関する無形資産についてもその検討範囲に含め、これら所得の源泉となるものを総合的に勘案する旨を定めているところ、これらの定めの内容は、残余利益分割法を適用する際に考慮すべき無形資産の範囲に係る取扱いとして、合理性を有するものということができる。

以上を前提に、本件国外関連取引に対する残余利益分割法と同等の方法の適用の可否について検討する。

前記のとおり、原告グループは、めっき薬品の開発・販売のみならず、顧客に対して装置、制御システムに至るまでを一貫して提案・供給する体制をとっており、めっき薬品自体の品質・性能とこのような供給体制とが相まって、台湾においてBライセンス製品が圧倒的なシェアを占めているように、その製品の市場価値が高められているものと解される。

これを本件国外関連取引について見ると、原告及びその国外関連者において原告ライセンス製品の製造、販売等により所得(利益)を得ているのは、①原告が、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、顧客のニーズに沿っためっき薬品を開発した上、国外関連者に対して当該めっき薬品の製造、販売等に関する技術情報やノウハウを提供するほか、国外関連者やその顧客に対する技術支援も行うことによって、原告ライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させていること、並びに、②B社及びD社においても、原告からノウハウの提供や技術支援を受けながら、顧客に対する営業及び技術サポートを行うことで、台湾やASEAN諸国において原告ライセンス製品を市場に浸透させて付加価値を創出し、その販売先となる顧客を開拓、維持していること{例えば、B社は、ユーザーに対する徹底的な技術サポートによって商品に付加価値をつけ、D社も、日系企業に対する営業・技術サポートを行うことにより、当該日系企業をCライセンス製品(M等)の販売先として確保するなどしている。}によるものということができる。

このうち①は原告の、②はB社及びD社のそれぞれ重要な無形資産であって、これらの無形資産が総合的に活用されることにより、本件国外関連取引は事業成果を上げ、所得(利益)を生み出しているものといえる。

このように、本件国外関連取引については、原告及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。

これに対し、原告は、本件国外関連取引について本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引を比較対象取引とする独立価格比準法と同等の方法を適用することができないとしても、両取引を比較対象取引として、「同種」や「同様の状況」の要件を多少緩めた「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用すべきである旨主張する。

しかし、原告の上記主張は、結局、独立価格比準法と同等の方法を適用する上で比較対象取引に求められる「同種」や「同様の状況」の要件を緩和し、本来は比較対象取引とならない取引を比較対象として独立価格比準法と同等の方法を適用しようとするものであって、そのような方法により独立企業間価格を算定することが「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」として許容されるのか、疑問があるといわざるを得ない。

また、この点をさて措くとしても、前記のとおり、本件国外関連取引と本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引との間には、取引の対象及び状況に相当程度の差異が存在することからすれば、本件Eライセンス取引又は本件Fライセンス取引を比較対象として本件国外関連取引の独立企業間価格を的確に算定する具体的な方法を見いだすことはできないから、本件国外関連取引について「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することが合理的ということはできない。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

そのほかにも、本件国外関連取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法以外に合理的な方法があるとはいえないから、本件国外関連取引については、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが相当である。

東京高裁/令和元年7月9日判決(萩原秀紀裁判長)/(棄却)(上告・上告受理申立て)

措置法66条の4第1項を適用した更正処分が適法であるためには、処分の対象である国外関連取引が特定され、その特定された国外関連取引について支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないことが必要であるところ、課税処分の取消訴訟においては、被控訴人(国)が所得の存在について主張立証責任を負うのであるから、処分に係る国外関連取引の存在、当該国外関連取引につき控訴人(納税者)が国外関連者から支払を受ける対価の額及びこれが独立企業間価格に満たないことについては、いずれも被控訴人が主張立証責任を負う。 

控訴人は、本件国外関連取引のうちの役務提供取引について、国外関連取引が特定されておらず、これに係る支払を受ける対価の額の主張立証がされていないから、本件各更正処分のうち役務提供取引を対象とした処分は違法であると主張する。 

そこで検討するに、本件各更正処分に係る国外関連取引(本件国外関連取引)は、本件各事業年度におけるめっき薬品の製造ノウハウ等に関する技術情報の使用許諾取引並びに技術訓練及び支援等の役務提供取引とされており、控訴人ライセンス製品の製造販売等に関して控訴人から国外関連者(B社及びC社)に対して提供された技術支援、技術指導等の役務提供全てがこれに該当するのであって、その特定に欠けるところはない。

そして、本件国外関連取引は、めっき薬品の製造ノウハウ等に関する技術情報の使用許諾取引と技術訓練及び支援等の役務提供取引が一体となったものであり〔、使用許諾と役務提供の対価として、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引のロイヤルティが支払われている。

両社から支払われたロイヤルティについては主張立証がされているところであるから、本件国外関連取引のうち役務提供取引について支払を受ける対価の額の主張立証がないとはいえず、控訴人の主張を採用することはできない。

本件各更正処分は、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法(措置法66条の4第2項1号ニ、同項2号ロ)と同等の方法である残余利益分割法を適用して行われているところ、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法は、基本三法と同等の方法を用いることができない場合に限り、用いることができる(基本三法優先の原則。同項1号括弧書き及び2号括弧書き)

課税処分の取消訴訟においては、被控訴人(国)が所得の存在について主張立証責任を負うから、基本三法を用いることができないこと及び残余利益分割法を用いることができることについても、被控訴人(国)が主張立証責任を負う。

独立企業間価格は、対象となる国外関連取引が、非関連者間で、同様の状況の下で行われた場合に成立するであろう合意に係る価格をいうのであるから、その算定は、納税者による取引の方法を尊重し、原則として、個別の取引ごとに行われるべきである。

もっとも、個々の取引が密接に結びついている又は継続的に行われているため、これらを個別に見たのでは、その価格を適正に評価することができないような場合には、これら取引を一の取引として独立企業間価格を算定し、比較可能性の判断もそのように一の取引として評価された取引ごとに行うことが合理的である〔措置法通達66の4(3)-1参照〕。 

そして、そのように複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定し、比較可能性の判断を行うことが合理的な場合に当たるか否かの判断は、単に、事実として個々の取引が密接に結びついているか否か、継続的に行われているか否かという点から行うのではなく、そのような事実が当該国外関連取引における価格設定に影響を与えるものであるか否かをも重要な要素として判断するのが相当である。 

以上に関し、控訴人は、独立企業間価格の算定の単位となる措置法66条の4第1項の「取引」の解釈と、比較可能性の判断の単位となる同条第2項の「当該国外関連取引」の解釈が異なる旨を主張するが、同条は、第1項において「当該取引」を「‥‥以下この条において『国外関連取引』という。」として定義しているから、文理上も同条第2項の「国外関連取引」と同条第1項の「当該取引」は同一の意味内容を有すると解すべきであり、実質的にみても、比較可能性の検討は、独立企業間価格を算定するために行うのであるから、両者の単位となる「取引」は同一であると解するべきである。

したがって、控訴人の主張を採用することはできない。 

また、控訴人は、複数の取引を一の取引として独立企業間価格を算定し、比較可能性の判断を行うことができるのは、一方の取引の価格が他方の取引を考慮して決定されている場合に限られる旨を主張するが、上記のとおり、価格設定に影響を与えるものであれば足り、必ずしも一方の取引の価格が他方の取引を考慮して決定されている必要はないと解される。

以上を踏まえて検討すると、本件においては、B社及びC社それぞれに対する複数のめっき薬品に係る製造ノウハウ等の使用許諾取引及び技術訓練等の役務提供取引を一の取引として、その独立企業間価格を算定することが合理的であることは、引用に係る原判決のとおりである。

控訴人とB社は、B旧契約書及びB新契約書等によって、製品ごとの技術の先進性や開発コストの多寡などは捨象し、一律に対象となるめっき薬品の正味製造価格又は純販売価格の●●%を対価とすることを合意しており、控訴人は、本件各事業年度において、かかる合意に基づき個別の製品のノウハウ等の開示、使用許諾をした。

しかも、上記対価は、個別のめっき薬品ごとに対象となる製造ノウハウ等の無形資産の価値を算定して定められたものではなく、控訴人の研究開発費をB社が受益者として応分に負担するという観点から、B社の財務状況や、台湾当局による規制等を踏まえて定められたものであった。

その上、控訴人によれば、B新契約書の締結後に新たに製造ノウハウ等の使用許諾取引が開始されるめっき薬品があっても、ロイヤルティ料率の見直しは行われなかったというのである{以上の事情は、C社と各めっき薬品の製造ノウハウの使用許諾取引についても同様であり、控訴人とC社は、C旧契約書及びC新契約書等によって、製品ごとの技術の先進性や開発コストの多寡などは捨象して、一律に対象となるめっき薬品の純売上高の●●%を対価とすることを合意している。このように合意された対価は、本件Cライセンス取引に基づき、所定のめっき薬品の製造ノウハウ等の提供を受け、技術支援等の役務提供を受けることの全体についての対価であって、個別のめっき薬品の使用許諾ごとの対価を定めたものではないというべきである。}。 

また、本件国外関連取引においては、控訴人から国外関連者に対して、控訴人の有するめっき薬品の製造等に係る技術情報等のノウハウが提供されるとともに、控訴人から両社に対する技術訓練や支援等も行われることとされており、控訴人の有するめっき薬品等の製造等に係る技術情報は、薬品等のノウハウの開示を受けることによってのみならず、技術訓練や支援等の役務提供を通じて控訴人の国外関連者に対して提供され、それらの対価としてロイヤルティが支払われている。 

そうすると、本件においては、そもそも控訴人の選択した取引の方法は、基本契約〔現在及び将来に控訴人と国外関連者(B社及びC社)との間で合意される製造ノウハウ等の使用許諾取引について、対価を含む共通の取引条件を定めたもの〕というべき各契約書等による合意に基づいて、個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引及び役務提供取引を実施する取引であったと認めるのが相当であり、その価格も個別のめっき薬品ごとに設定されていたとはいい難い。

試験研究費の原資を得るという動機からB社との価格交渉を開始したが、その動機とは離れてロイヤルティ料率は各めっき薬品ごとに相当なものが設定され、結果的にすべてのめっき薬品の相当なロイヤルティ料率が●●%であったにすぎないとの控訴人の主張は、これを裏付ける的確な証拠もなく、前記認定説示したところに照らしても、これを採用することはできない。 

また、国外関連者からの申請を受けて控訴人内部において開示するか否かを決定する手順が採られ、その結果、製造ノウハウ等の開示・使用許諾の開始時期が異なっていたこと及び控訴人が開示を拒絶した例が少なくとも1件存在することが認められ、ロイヤルティの計算が個別のめっき薬品ごとにされているとしても、それによって、本件において、個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引が独立のものであって、個別のめっき薬品が価格設定の単位であったと認めることはできない。

そして、前記引用に係る原判決が認定説示するとおり、めっき薬品の製造販売事業においては、様々な機能を有する表面処理加工を実現できる多様なめっき薬品を揃え、これをめっきプロセスごとに提供できること及び複数のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾を得て顧客の多様な要望に応えられる様々な表面処理加工を実現できることにより、付加価値が生まれるといえる。

また、製造ノウハウ等の開示・使用許諾に付随して技術支援等を受ける役務取引と上記複数のめっき薬品の製造ノウハウ等についての使用許諾取引が結びつくことによって、当該取引には更なる付加価値が生まれる。

このような付加価値は当然に取引の価格に反映されるから、上記のような事実は、価格設定(ロイヤルティ料率)に影響を与えるものであるといえる。

〔なお、控訴人は、複数のめっき薬品を用いた場合、単体のめっき薬品を用いた以上の価値を生み出すということはなく、また、品揃えによって既存の製品を高く販売できるようになるということはないから、これらを理由に、すべての製品のノウハウ使用許諾取引をまとめて独立企業間価格を設定すべきであるとする被控訴人の主張には理由がないなどとも主張するが、ここでの議論は、パッケージで提案又は販売されるめっき薬品(棚卸資産)自体の価値・価格の議論ではなく、顧客に対し、めっき薬品・プロセスをパッケージで提案・提供できるような(現実にパッケージで成約できたかどうかではない。)製造ノウハウ等の開示・使用許諾を受けられる権利の価値(価格)の議論であり、控訴人は、ライセンスの価格の議論とライセンスを受けて製造販売する棚卸資産の価格の議論を混同していることがうかがわれる。〕

本件国外関連取引は以上のような性質を有するものであり、このような取引の対価を適正に算定するためには、個々のめっき薬品に係る製造ノウハウ等の使用許諾取引ごとに取引を分解するのではなく、複数のめっき薬品に関する製法、使用、管理等に関するノウハウが包括的に開示されるとともに、顧客先への技術支援に必要となる技術指導や技術者の派遣等の無形資産の使用を伴った役務提供が不可分一体のものとして行われた取引として評価するのが相当である。 

したがって、控訴人の当審における主張を考慮しても、個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引が独立のものであって、個別のめっき薬品が価格設定の単位であったということはできない。

本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引のいずれについても比較対象取引がなく、控訴人が主張する本件Eライセンス取引及び本件F取引のいずれも、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引と「同種」、「同様の状況」の要件を満たさず、比較対象取引とはならないことは、引用に係る原判決のとおりである。

本件において独立企業間価格の算定及び比較可能性の判断の単位となる取引は、一の取引としての本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引であるから、これらの各取引に含まれる個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引との比較可能性を問題にする控訴人の主張は、前提を欠き、採用することができない。 

また、差異の存在を理由として比較可能性の要件が否定されるのは、その差異が対価の額に重大な影響を及ぼす場合であって、その調整をすることができないときであると解するのが相当であるが、控訴人が「同種」及び「同様の状況」の要件について主張するところは、実質的に原審における主張を繰り返すものにすぎず、いずれも引用に係る原判決の認定判断を左右しない。 

したがって、本件において独立価格比準法と同等の方法を適用し得る比較対象取引は存在しないから、独立価格比準法と同等の方法を用いて算定することはできず、また、再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法を適用することができないことは、引用に係る原判決のとおりであるから、本件において基本三法と同等の方法を用いることはできない。

控訴人は、基本三法と同等の方法を用いることができない場合であっても、本件Eライセンス取引又は本件Fライセンス取引を比較対象取引とする本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法を適用することができ、同方法により算定される独立企業間価格の方が、残余利益分割法よりも独立企業間で成立するであろう価格(「理想的な価格」)に近似する価格を算定し得ると考えられるところ、被控訴人は、残余利益分割法と同等の方法が独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法よりも適切な方法であることを立証していないので、残余利益分割法と同等の方法を適用して行った本件各更正処分等は違法である旨主張する。 

しかしながら、控訴人の上記主張は、差異が存在し又は差異が存在しその調整をすることができないとして「同種」及び「同様の状況」の要件を満たさず、本件国外関連取引との比較可能性が認められないと判断された本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引について、何の差異調整も行わないままに、独立価格比準法と同等の方法を適用するのと同様の結果を生じさせるものであり、これを採用することができないことは、引用に係る原判決のとおりである。 

被控訴人は、基本三法を用いることができないことについては主張立証責任を負うが、残余利益分割法と同等の方法が本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法よりも適切な方法であることまで立証すべき義務を負うとする法令上の根拠は認められない。

控訴人の主張は、本件国外関連取引における「理想的な価格」が客観的に明らかであって、本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法と残余利益分割法のいずれが当該「理想的な価格」と近似する価格を算出する方法であるのか特定できることが前提となるが、およそ現実的とはいえない。 

したがって、控訴人の主張は独自の見解であるといわざるを得ず、これを採用することはできない。

本件国外関連取引については、控訴人及びその国外関連者が有する重要な無形資産が利益獲得に寄与していることからすれば、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的であるということができる。

これに対し、控訴人は、被控訴人は、控訴人の研究開発活動が本件の超過利益の源泉であることを立証しなければならないが、何の立証も行っていない、台湾における超過利益がB社のマーケティングの無形資産であることは明白であるが、控訴人が超過利益の源泉となる重要な無形資産を有していることは立証されていないと主張する。 

しかしながら、「超過利益」とは「基本的利益」と対になる概念であって、重要な無形資産を有しない場合に得られる利益(基本的利益)を超える部分の利益は全て「超過利益」となるのであり、控訴人がその研究開発活動により形成・維持・強化してきた、一定の品揃えを伴った複数のめっき薬品に関する製法、使用、管理等のノウハウ等の重要な無形資産を有していること、本件国外関連取引においてB社がその開示・使用許諾を受けて控訴人ライセンス製品を製造・販売したことにより超過利益が生じたのであるから、控訴人が超過利益の源泉となる重要な無形資産を有していることは明らかである。

また、控訴人とB社のいずれの無形資産の貢献がより大きいかは、残余利益分割法の適用の可否に影響しない。

したがって、控訴人の上記主張を採用することはできない。

本件において、基本三法と同等の方法、本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法によって独立企業間価格を算定できないことは前記のとおりであって、そのほかに、本件国外関連取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法以外に合理的な方法があるとはいえないから、本件国外関連取引については、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが相当である。 

なお、控訴人は、B社の超過利益の源泉につき、B社の研究開発部や営業部による顧客サービスが著しく貢献していること、控訴人の研究開発活動が利益に貢献しているとは認められないことの統計的立証として、Y准教授の「台湾Aの利益源泉に関する意見書」及び「回答書に対する再意見書」(以下「Y意見書」と総称する。)を提出する。

しかしながら、Y意見書が用いる分析モデルは、1つのモデルにすぎず、また、様々な仮定が置かれていて必ずしも実情を反映しているとは限らない上、被控訴人の提出するZ教授及びa准教授の「回答書」によれば、B社における超過利益の源泉が研究開発費であるか否かを分析する方法として適当とはいえないし、当該分析モデルの適用においても、統計分析上の欠陥が多々あるため誤った分析であると批判されていることに照らすと、これに基づいてB社の超過利益に対する控訴人とB社の貢献を判断するのは相当でないというべきである。

東京地裁 判示要旨

1.
■本件国外関連取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法以外に合理的な方法があるとはいえないから、本件国外関連取引については、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが相当である。

■本件において、原告と国外関連者との間での所得移転の有無・程度は、当該一連の取引全体を対象として検討するのが相当である。したがって、本件国外関連取引に係る独立企業間価格を残余利益分割法と同等の方法により算定するに当たっては、B社及びD社の非関連者に対する販売行為を含む本件B取引及び本件C取引のそれぞれ全体を対象にして分割対象利益を算定し、これを3社間で分割することとするのが相当である。
2.
■利益分割法における分割対象利益は営業利益を対象とするものであり、営業利益は収入から費用を控除して算出されるものであるから、本件B取引及びC取引に係る原告の分割対象利益については、その収入であるB社及びC社からのロイヤルティ収入をそのまま計上するのではなく、当該収入から当該収入を得るために要した費用を控除して算定すべきである。

東京高裁 判示要旨

1.
■本件国外関連取引は、めっき薬品の製造ノウハウ等に関する技術情報の使用許諾取引と技術訓練及び支援等の役務提供取引が一体となったものであり、使用許諾と役務提供の対価として、本件Bライセンス取引及び本件Cライセンス取引のロイヤルティが支払われている。

■本件において独立価格比準法と同等の方法を適用し得る比較対象取引は存在しないから、独立価格比準法と同等の方法を用いて算定することはできず、また、再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法を適用することができないことは、原判決のとおりであり、その独立企業間価格の算定には、基本的利益を配分した上で残余利益を重要な無形資産の価値に応じて配分する残余利益分割法と同等の方法を用いるのが合理的である。
2.
■残余利益の配分は、控訴人側においても国外関連者側においても、めっき薬品に係る製造ノウハウ等を形成・維持・強化しているものと認められる研究開発費を分割要因として用いているのであって、残余利益の分割要因として合理的なものといえる。

認定事実

■本件は、東税務署長が、めっき薬品(めっき用化学品)の製造販売等を業とする原告に対し、原告が租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のもの)66条の4第1項に規定する国外関連者との間でしためっき薬品の製造・販売に係る技術やノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引について、原告が当該国外関連者から支払を受けた対価の額が、同条2項2号ロ、租税特別措置法施行令(平成16年政令第105号による改正前のもの)39条の12第8項所定の方法(利益分割法)のうちの残余利益分割法と同等の方法によって算定した独立企業間価格に満たないとして、その独立企業間価格によって当該取引が行われたものとみなして所得金額を計算し、平成12年3月期ないし平成16年3月期の法人税に係る本件各更正処分及び本件各賦課決定処分(本件各更正処分等)をしたところ、原告が、上記取引の独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法と同等の方法を採用するのは不相当であり、その算定過程にも誤りがあるなどとして、本件各更正処分等(ただし、法人税の減額更正処分、過少申告加算税の変更決定処分及び国税不服審判所長の裁決による一部取消し後のもの)のうち申告額等を超える部分の取消しを求める事案である。

■原告は、昭和8年に設立された、めっき薬品及び表面処理用機械の製造販売、工業用薬品及び非鉄金属の仕入販売等の事業を行う内国法人である。

■B有限公司(B以下「B社」という。)は、台湾に本店を有し、めっき薬品の製造販売、表面処理用機械の仕入販売等の事業を行っており、原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の50%以上〔その割合は、平成12年3月期において76%、平成13年3月期において76.11%、平成14年3月期ないし平成16年3月期において87.78%であった。〕を保有する外国法人で、原告の国外関連者である。

■C(以下「C社」という。)は、マレーシアに本店を有し、めっき薬品の製造販売の事業を行っており、原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の100%を保有する外国法人で、原告の国外関連者である。

■D(以下「D社」という。)は、シンガポール共和国(以下「シンガポ一ル」という。)に本店を有し、めっき薬品及び表面処理用機械の仕入販売等の事業を行っており、原告が本件各事業年度においてその発行済株式総数の100%を保有する外国法人で、原告の国外関連者である。

■原告とB社は、1997年(平成9年)6月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「B旧契約書」という。)により、契約を締結した。

■B旧契約書には、①原告が、B社に対し、製品に関連する技術情報(製造、販売及び商業的な発明や改良に関する原告の経験、知識、技術データ、営業上の機密、製法その他の情報)を使用し、台湾で当該製品を製造、流通、販売する非独占的権利を付与し、当該製品に関する製法等のノウハウを開示するとともに、B社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の化学専門家をB社に派遣して技術支援を行うことを内容とする役務を提供すること、②B社が、原告に対し、契約期間中に技術情報を使用しその恩恵に浴することに対するロイヤルティとして、正味製造価格の●●%を支払うこと、③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。

■その後、原告とB社は、2001年(平成13年)4月1日付け「技術提携及びライセンス契約書」(以下「B新契約書」という。)により、新たな契約を締結した。

■B新契約書には、①原告が、B社に対し、本件製品一覧表の「B社」「新契約書」欄記載の製品につき、ライセンス対象特許及び技術情報(当該製品の製造及び使用に関して原告が使用する全ての情報及び知識)を用いて、台湾で当該製品を製造、販売、使用することができる独占的ライセンスを付与するとともに、B社の研修生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告のエンジニアをB社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること、②B社が、原告に対し、ロイヤルティとして、B社が当該契約の下で販売した製品の純販売価格の●●%を支払うこと、③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。

■原告とB社は、上記各契約書等による合意に基づき、めっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引をした(以下「本件Bライセンス取引」という。

■ただし、本件Bライセンス取引の対象製品は、必ずしも上記各契約書に明記されたものに限らず、両社間で実際に製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引の対象とされていた製品を含むものとし、後記の本件Cライセンス取引、本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引についても同様とする。)。

■本件Bライセンス取引によって使用許諾された製造ノウハウ等の無形資産を使用してB社で製造されためっき薬品の製品(以下「Bライセンス製品」という。)は、B社から台湾等の非関連者(国外関連者ではない者をいう。以下同じ。)に直接販売されるほか、一部についてはD社ほか数社の原告の国外関連者に販売された上で当該国外関連者から非関連者に販売されている〔以下、原告とB社との国外関連取引(本件Bライセンス取引)を含め、これに連なるB社と非関連者との取引、B社とD社との取引及びD社と非関連者との取引全体を「本件B取引」という。〕。

■原告とC社は、2000年(平成12年)12月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「C旧契約書」という。)により、契約を締結した。

■C旧契約書には、①原告が、C社に対し、本件製品一覧表の「C社」「旧契約書」欄記載の製品につき、原告から開示されるノウハウ(製品製造のための化学薬品構成、製造手順、原材料の仕様、製品の品質管理手順、設備の仕様から成る、当該製品を製造するために有用な技術情報及びデータ)及びその他の技術情報を使用し、マレーシアにおいて当該製品を製造、使用、販売する独占的なライセンスを付与するとともに、C社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をC社に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること、②C社が、原告に対し、ロイヤルティとして、契約期間中にC社が製造した当該製品の純売上高の●●%を支払うこと、③契約期間を1998年(平成10年)1月1日から2002年(平成14年)12月31日までとすることなどが記載されている

■原告とC社は、2003年(平成15年)1月7日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「C新契約書」という。)により、新たな契約を締結した。

■C新契約書には、①対象製品を本件製品一覧表の「C社」「新契約書」欄記載の製品とするほかは前記ア①と同様の内容、②C社が、原告に対し、ロイヤルティとして、契約期間中にC社によって販売された当該製品の純売上高の●●%を支払うこと、③契約期間を同月1日から2007年(平成19年)12月31日までとすることなどが記載されている。

■原告とC社は、上記各契約書等による合意に基づき、めっき薬品に係る製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び役務提供の取引をした(以下「本件Cライセンス取引」といい、本件Bライセンス取引と併せて「本件国外関連取引」という。)。

■本件Cライセンス取引によって使用許諾された製造ノウハウ等の無形資産を使用してC社で製造されためっき薬品の製品(以下「Cライセンス製品」といい、Bライセンス製品と併せて「原告ライセンス製品」という。)は、全て一旦国外関連者であるD社に販売された上で同社から非関連者に販売されている〔以下、原告とC社との国外関連取引(本件Cライセンス取引)を含め、これに連なるC社とD社との取引及びD社と非関連者との取引全体を「本件C取引」という。〕。

■原告と、原告の国外関連者ではない大韓民国(以下「韓国」という。)に本店を有するE社は、1997年(平成9年)12月1日付け「ノウハウライセンス契約書」(以下「E旧契約書」という。)により、契約を締結した。

■旧契約書には、①原告が、E社に対し、本件製品一覧表の「E社」「旧契約書」欄記載の契約品につき、これらの技術情報(契約品の製造及び組立てのために使用されるノウハウ及びその他の技術に関する全ての情報、データ又は書類)を提供し、韓国において契約品を製造及び販売する非独占的実施権を付与するとともに、E社の訓練生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術者をE社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること、②E社が原告に対し、ロイヤルティとして、当該契約に基づいてE社により製造される契約品の正味販売高の●●~●●%(契約品ごとに定められた割合であり、契約品の一部についてはロイヤルティの支払義務が免除されている。)を支払うこと、③契約期間を5年とすることなどが記載されている。

■原告とE社は、2002年(平成14年)12月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」(以下「E新契約書」という。)により、新たな契約を締結した。

■E新契約書には、①原告が、E社に対し、本件製品一覧表の「E社」「新契約書」欄記載の契約品につき、ノウハウ(契約品製造のため有用な技術情報及び技術データ)及びその他の技術情報を提供し、韓国において契約品を製造、使用及び販売する非独占的実施権を付与するとともに、E社の訓練生を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をE社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること、②E社が、原告に対し、ロイヤルティとして、契約期間中にE社により製造、販売された契約品について●●%を支払うこと、③契約期間を2007年(平成19年)12月31日までとすることなどが記載されている。

■また、同契約書には、上記契約品以外の製品名が列挙された別紙2-2E開示リストが添付されており、同リストに記載された製品と上記契約品とを併せた製品の範囲は、本件製品一覧表の「E社」「旧契約書」欄記載の製品の範囲とおおむね一致している。

■原告と、原告の国外関連者ではないタイ王国(以下「タイ」という。)に本店を有するF社は、1999年(平成11年)5月1日付け「ノウハウ・ライセンス契約書」により、契約を締結し、その後、2000年(平成12年)11月10日付け、2001年(平成13年)1月15日付け、同年8月10日付け及び2002年(平成14年)2月4日付け各付属書により、契約の対象製品を追加した(以下、上記契約書を各付属書も含めて「F契約書」という。)。

■F契約書には、①原告が、F社に対し、本件製品一覧表の「F社」欄記載の製品につき、ノウハウ(製品製造のための化学薬品構成、製造手順、原材料の仕様、製品の品質管理手順及び設備の仕様から成る、当該製品を製造するために有用な技術情報及びデータ)及びその他の技術情報を提供し、タイにおいて当該製品を製造、使用、販売する独占的なライセンスを付与するとともに、F社の従業員を原告の工場に受け入れて技術訓練を行うこと及び原告の技術専門家をF社の工場に派遣して技術指導を行うことを内容とする役務を提供すること、②F社が原告に対し、●●円に加え、ロイヤルティとして、契約期間中にF社が製造した製品の製造純原価の●●%を支払うこと、③契約期間を5年間とすることなどが記載されている。

■原告は、本件各事業年度の法人税について、東税務署長に対し、各確定申告書を提出し、東税務署長は、このうち平成12年3月期の法人税について、平成13年5月30日付けで、所得金額及び納付すべき税額を減額する更正処分をした。

■また、原告は、平成13年3月期及び平成14年3月期の法人税について、平成15年6月2日、東税務署長に対し、各修正申告書を提出したところ、東税務署長は、平成15年6月26日付けで過少申告加算税の賦課決定処分をした。

■さらに、原告は、平成15年3月期の法人税について、平成16年3月5日、東税務署長に対し、修正申告書を提出した。

■東税務署長は、平成18年3月30日付けで、本件各事業年度の原告の法人税につき、本件各更正処分等をした。

■原告は、平成18年5月26日、本件各更正処分等について異議申立てをした。

■原告は、本件各更正処分の対象となった国外関連者との取引のうち、C社との取引について、平成18年8月2日、所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とマレーシア政府との間の協定の規定に基づき、日本国の権限ある当局とマレーシアの権限ある当局との相互協議の申立てをしたところ、平成22年1月6日、両国の権限ある当局間で、平成15年3月期及び平成16年3月期の法人税についてのみ、相互協議の合意(以下「本件相互協議の合意」という。)が成立した。

■同合意においては、原告とC社との取引につき、平成15年3月期の原告の所得に対する調整金額を4200万円、平成16年3月期の原告の所得に対する調整金額を5000万円として、日本国国税庁が課税を行い、マレーシア国税庁が対応的調整を行うこととされた。

■上記合意を受けて、東税務署長は、平成22年1月28日付けで、平成15年3月期及び平成16年3月期の法人税について、所得金額及び納付すべき税額を減額する更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件減額更正処分等」という。)をした。

■異議審理庁は、前記の異議申立てについて、平成22年12月17日付けで棄却する旨の決定をした。

■原告は、平成23年1月14日、国税不服審判所長に対し、本件各更正処分等について審査請求をしたところ、同所長は、平成24年11月8日付けで、本件各更正処分等の一部を取り消す旨の裁決(以下「本件裁決」という。)をし、同月15日付けで、原告に対し、その裁決書謄本を送付した。

■原告は、平成25年5月14日、本件訴えを提起した。

(補足)上村工業事件とは

取引が「同種」であるかの問題

■上村工業事件とは、めっき薬品の製造・販売を業とする内国法人である原告(上村工業(株))が、国外関連者である台湾法人及びマレーシア法人との間で、めっき薬品の製造ノウハウ等の無形資産の使用許諾及び技術指導等の役務提供をするライセンス契約を締結しており、このライセンス料が、独立企業間価格に満たないとして、研究開発費の額を分割要素とする残余利益分割法により移転価格課税処分が行われた事件である。

■課税庁は、本件国外関連取引について、原告が内部比較対象取引であると主張する本件Eライセンス取引及び本件Fライセンス取引はいずれも比較対象取引とはいえず、他に内部比較対象取引も外部比較対象取引も存在せず、独立価格比準法と同等の方法を適用することはできないから、その他の方法と同等の方法を用いることができると主張した。

■E社取引及びF社取引が比較対象となるかの条件として、B社取引及びC社取引と、E社取引及びF社取引が「同種」及び「同様の状況」にあるかが問題となり、争われた。

■納税者は、「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって、B社及びC社へ提供されたノウハウもE社及びF社へ提供されたノウハウも製品種類が同じであれば、使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし、製品種類が異なっても、ロイヤリティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえるのであって、B社ライセンス取引の対象とされているノウハウは、E社及びF社ライセンス取引の対象とされているノウハウと同様に、めっき薬品の製造に係るノウハウであり、種類を同じくする製品を対象とするものであり、その対価に影響を与えるような差異もないから、「同種」の無形資産の取引といえると一審で主張した。

■また、納税者は二審において、めっき薬品については、その製造ノウハウは複数の原料を一定の比率で投入し攪拌することにあり、また、同一の設備で製造が可能であり、別のめっき薬品の製造に際して大きな追加投資やリスク負担は生じない。したがって、それぞれの取引は「同種」の要件を満たす、と主張した。

■これに対して、課税庁は、棚卸資産について「同種」と認められるためには、性状、構造、機能等の面で相当程度の類似性が必要であり、無形資産についても同様であり、取引の形態、無形資産の種類、保護の期間と程度、その無形資産によって期待される利益の程度を考慮して判断すべきであると主張した。まず、無形資産の使用許諾の対象製品の種類別で比較すると、B社取引、C社取引とE社取引、F社取引とでは、そもそも使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるから、使用を許諾した無形資産が「同種」といえないことは明らかであり、使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえないと主張した。次に、用途別に見ると、B社では、PWB(プリント配線板)関連が圧倒的に多く、汎用がわずかであるのに対し、E社では、汎用がPWB関連を大幅に上回っている。同種のめっき薬品であっても、用途が異なれば、それに伴う製造プロセスや品質管理、必要な技術フォロー体制の場面でも差異が生じ、各契約における価格決定等にも当然違いをもたらすから、この観点からも使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえないと主張した。また、役務提供の内容について見ても、B社取引においては、無電解金めっき液を使用しためっき工程についての技術助言、ユーザー対応等のために、緊急の要請に応えた臨時の出張も行うなど頻繁に出張がされているのに対して、E社及びF社に対する役務提供はそのような内容ではなく、「同種」であるとはいえないと主張した。

裁判所の判断

■一審判決では、地裁は課税庁の主張をほぼ認め、使用許諾の対象製品の種類に明確な差異が存在すること、用途についても差異が存在していること、役務提供についても頻度及び程度に相当程度の差異が認められるところから「同種」とはいえないとした。次のように判示している。

「一定の品揃えを伴った複数のめっき薬品に関する製法、使用、管理等のノウハウが包括的に開示されるとともに、顧客先への対応に必要となる技術訓練や技術者の派遣等の役務提供が不可分一体のものとして行われる必要があるものと解される。本件国外関連取引についても、このようなパッケージとしての取引と見て初めて、その価値を適切に把握できるものというべきであり、これを許諾製品(めっき薬品)ごとに個別に分解して検討するのでは、その取引の価値を十分に把握することができないというべきである。」

■二審の高裁では、本件において独立企業間価格の算定及び比較可能性の判断の単位となる取引は、一の単位としてのB社取引及びC社取引であるから、これらの各取引に含まれる個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引との比較可能性を問題にする納税者の主張は、前提を欠き、採用することができないと斥けた。

■なお、納税者とその国外関連者との取引を比較対象とする、いわゆる「内部コンパラ」の使用が一般論として否定されるべきものではないが(例えば、今治造船事件地裁判決では、内部コンパラを比較対象取引とするCUP法の使用が認められている。)、本件では、納税者とB社との間には包括的な「パッケージ的取引」が行われており、このため、納税者の内部コンパラでは適切な比較対象取引が得られないとされたものである。また、優れた製造技術を持つ納税者グループにおいて、納税者とB社が。比較的安定した経営環境において、研究開発費を継続的に支出していたことも、研究開発費を分割要素とした残余利益分割法の使用が適当とされた理由の1つと思われる。

編集者コメント

相互協議の合意後の取消訴訟の提起

■この事件は、調査開始から最終決着まで22年、また更正処分からでも16年という長い年月を経ている。また、二国間の相互協議、異議申立て、不服審判所、地裁、高裁、最高裁(不受理)の全てを経過しており、移転価格を学ぶ上で、特に残余利益分割法を研究する上で大変参考になる事件である。

■納税者は、C社に係る移転価格課税処分については、我が国とマレーシアとの租税条約に基づき、相互協議も申立てを行い、国税庁とマレーシアの権限ある当局とで合意が行われている。その上で、相互協議後の取消訴訟を行ったものである。国税庁は、「国際的二重課税に係る相互協議の合意は申立者の同意が前提となっていることからすれば、相互協議により合意された調整金額を超えない部分の取消しを求める訴えは、申立者(納税者)の自認する範囲を超えて取消しを求めることになるし、これが認められれば相互協議による問題解決の実効性を失わせることになるから、当該訴えは訴えの利益を欠く」として、訴えの適法性自体を争ったが、納税者は、本事件の相互協議の合意の内容を争ったのではなく、相互協議の対象外であった取引ついてなさえた課税処分を争ったものである。よって訴えの利益を欠くとも、不起訴の同意や信義則違反を問うことは出来ないと思われる。

■この点、裁判所も、「権限ある当局間での相互協議の合意又はその合意内容についての納税者の同意は、それ自体として納税者が納付すべき税額を法的に確定する効果を有するものではないし、その合意や同意の効力等を争うための特別の手続が設けられているものでもないから、申告額を超えない部分の取消しを求める訴えが更正の請求の排他性により許されないこととは事情を異にし、納税者の同意を前提として相互協議の合意が成立したことの一事をもって、更正処分のうち所得金額が申告額と相互協議により合意された調整金額との合計額を超えない部分の取消しを求める訴えが不適法になるものということはできない。」と、課税庁の主張を斥けている。

重要概念/評価困難無形資産(HTVI : Hard To Value Intangibles)

所得相応性基準・DCF法の導入

■令和元年度税制改正において、BEPSプロジェクトの最終報告書(行動8-10)「移転価格税制と価値創造の一致(Aligning Transfer Pricing Out comes with Value Creation)」において勧告された「評価困難な無形資産(Hard-to-ValueIntangibles:HTVI)アプローチ」(HTVIアプローチ)の内容に沿って、移転価格税制における税務当局の処分権限として、特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置が導入された(措法66の4⑧)。

■この特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置は、法人が行った特定無形資産国外関連取引について、当該特定無形資産国外関連取引の対価の額を算定するための前提となった事項についてその内容と相違する事実が判明した場合には、税務署長はその相違する事実及びその相違することとなった事由の発生の可能性を勘案して算定した金額を独立企業間価格とみなして、法人の所得の金額又は欠損金額につき更正又は決定をすることができることとされている。

■評価困難無形資産について、2017年TPGにおいて、米国型の所得相応性基準の導入について消極的であった1995年TPGや2010年TPGからの大きな転換がなされたことに端を発する。
(※TPGとは、OECD移転価格ガイドラインのことであり、OECD(経済協力開発機構)の租税委員会が策定する、納税者と税務当局との双方に向けられた移転価格税制に関する国際的な指針であり、正式名称は「Transfer Pricing Guidelines for Multinational Enterprises and Tax Administrations(「多国籍企業と税務当局のための移転価格算定に関する指針」)」である。TPGの歴史については過去の判例紹介の「重要概念」で紹介しているので是非参照頂きたい。)

BEPS最終報告書とOECDのTPG改定を受けた令和元年度税制改正

■2017年TPGは、将来の期待収益の予測の重要性を指摘した上で、評価困難無形資産(HTVI : Hard To Value Intangibles)については、複数年度の分析を推奨するとともに、5年間で20%を超えて期待収益が変動する場合には、移転価格調整を行うことを許容することとされている。この点が、米国型の所得相応性基準の導入について消極的であった1995年TPGや2010年TPGからの大きな転換であった。

■無形資産の譲渡対価について、独立企業間価格を算定する場合には、比較対象取引を探すことが困難であることなどから、譲渡対価の独立企業間価格の算定も困難であると従来から指摘されていた。1996年TPGの第6章では、予想収益により価格を算定する方法や、結果が予想と大幅に異なった場合の税務当局による調整の可能性等が、控えめに示唆されていた。これは、米国が、1986年に創設した「所得相応性(commensurate with income)基準」(IRC482条)が1つの可能性として認識されながらも、OECD加盟国の多数の支持を得られなかったことを示している。

■しかし、この後、2008年にドイツが所得相応性基準を導入したこともあり、2015年のBEPS最終報告書においては、所得相応性基準が推奨され、2017年TPGでは、前述の通り、評価困難無形資産について、最初の収入があった年から5年以内に当初見積りと実際収入額との間に20%超えの誤差が生じた場合には、移転価格課税を行うことが許容されたわけである。

■2015年のBEPS最終報告書とこのOECDのTPGの改定を受けて、我が国においても先述の通り、令和元年度税制改正で、OECD移転価格ガイドラインの「HTVI アプローチ」に相当する制度として、特定無形資産国外関連取引に係る価格調整措置が導入されるに至った。この改正内容については別途紹介する。

併せて読みたい/ホンダ事件

残余利益分割法による移転価格課税処分(東京高平27年5月13日)

■ブラジル連邦共和国における間接子会社である外国法人との国外関連取引は、独立企業間価格の算定に誤りがあるため移転価格税制の課税を行うことはできないとされた事例。

■内向法人である原告が、国外関連者(ブラジル法人)等との間で、自動二輪車の部品等の販売及び技術支援の役務提供を行っていたところ、課税庁が、原告が当該ブラジル法人から支払を受けた対価の額が独立企業間価格に満たないとして、残余利益分割法による移転価格課税処分を行った。

■第一審の東京地裁は、残余利益分割法の適用にあたり、ブラジル法人の通常利益の算定に用いられた比較対象取引に比較可能性が無いとして、課税処分を取り消した。控訴審の東京高裁も、国側の請求を棄却し、納税者勝訴で確定。