オリエンタルランド接待交際費事件
目次
清掃業務委託費に仮装隠蔽 / 無料入場券は「支出」なしでも接待交際費
概要
■清掃業務委託料事件
東京ディズニーリゾートの運営会社「オリエンタルランド」が、右翼団体幹部が関係する不動産会社に清掃業務委託費という名目で法外な金額を支払っていたところ、国税庁がこれを接待交際費に該当するとして更正処分を行った事案。
■無料優待券事件
オリエンタルランドがマスコミ関係者等に交付した無料入場券に係る費用は、接待交際費に該当するとして国税庁が更正処分を行った事案。
相関図
ディズニーランドを経営するオリエンタルランドが約4,000万円の更正処分を受けた事案である。 ここでは、2つの事件を紹介する。
接待交際費は、一般に、経費科目といった名目ではなく、実態で判断される。「清掃業務委託料事件」は、オリエンタルランドが、「清掃業務委託費」という損金算入ができる経費を隠れみのに、接待交際費を仮装隠蔽したとして、重加算税も課された事案である。抜け道は許さないという課税庁の徴税信念を感じる実態重視の課税処分である。
もう一方は、「無料優待券事件」である。接待交際費とは「支出する費用」であると、措置法61条の4に規定があるため、文理解釈上、「支出」が伴うことが必須である。一方、当該事案では、オリエンタルランド側が「支出」した費用は、印刷費用程度であった。にもかかわらず、東京地裁、東京高裁共に、売上原価のうち、無料優待券相当分を交際費等として按分することとの判決が下された。萬有製薬事件で新たに示された、接待交際費3要件が改めて説示された、比較的新しい事案。
■裁判所情報
東京地方裁判所 平成22年11月5日判決(第260-192) (杉原則彦裁判長)(納税者敗訴)
東京高等裁判所 平成23年8月24日判決(第261-142) (鈴木健太裁判長)(納税者敗訴)
最高裁判所 平成24年6月7日判決(第262-116) (山浦善樹裁判長)(上告棄却・不受理)
争点
■争点1
本件業務委託料差額は租税特別措置法61条の4の交際費等に当たるか。
■争点2
本件業務委託料差額について国税通則法68条1項所定の隠蔽又は仮装の事実が認められるか。
■争点3
本件優待入場券の使用に係る費用が交際費等に当たるか。また、その金額はいくらか。
判決
■東京地方裁判所
→納税者敗訴
支出の相手方、支出の目的及び支出に係る行為の形態に照らし、交際費等に当たると認めるのが相当である。
■東京高等裁判所
→納税者敗訴
その支出の目的が接待等のためであるか否かは、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断すべきである。
(萬有製薬事件の引用)
■最高裁判所
→上告棄却・不受理
交際費課税3要件
交際等に該当するためは以下のすべてを満たす必要がある。
(萬有製薬事件東京高裁で示された3要件説)
(要件1)
「支出の相手方」 が事業に関係ある者等であり、
(要件2)
「支出の目的」が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることであるとともに、
(要件3)
「行為の形態」が接待、供応、慰安、贈答 その他これらに類する行為であること
(萬有製薬事件 東京高裁 平成15年9月9日 納税者逆転勝訴)
キーワード
■キーワード
接待交際費3要件、委託契約、隠蔽、右翼関係者、仮装、家族、関係会社、歓心、事業に関係のある者、親睦の度、総会屋、贈答、マスコミ関係者、丸投げ、優待入場券
■重要概念
租税法律主義、課税要件明確主義、不確定概念、法的安定性、予測可能性、外観と実体、形式と実質、具体的事情を総合的に判断、立法趣旨、推認、債務確定主義
東京地裁 / 争点(1)(本件業務委託料差額の交際費等該当性)
納税者の主張
課税庁は、B社が得ていた利益率が不自然に高額であること、また、再委託先であるK社の利益率はK社の同業他社とほぼ同等であることから、B社の収受していた料金は極めて高額で不自然不合理であり、そのように高額となるのは、交際費該当の3要件の②目的が存在するからに他ならないと指摘する。しかし、料金自体は、もともと委託していたH社から引継いだ金額であり、さらに物価上昇で増額された結果であるから、金額に不自然性はなく、経済的にも合理的である。
“原告がBに支払った業務委託料は、Hに支払っていた業務委託料をほぼそのまま引き継ぎ、その後は清掃対象の拡大と物価上昇に応じて増額された後に、減額交渉を経て減額されてきた結果の金額であるから、本件清掃業務の対価として経済的に合理的であって、本件業務委託料差額が交際費等とされる余地はない。”
課税庁は、委託先が右翼関係者であるということだけをもってして課税を試みている。
“その上、原告が乙の社会的な影響力をその事業の遂行、管理等に利用したという具体的な根拠はない。被告は、本件清掃業務の業務委託料の支払先が右翼関係者の関連会社であることのみに基づき、本件業務委託料差額に係る交際費課税の適法性を主張している。”
国税庁の主張
措置法61条の4と、萬有事件の判示内容(3要件と、特に②の支出目的には、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断して行うべきであるという解釈)を引用。
“措置法61条の4第3項が、「交際費等」について、交際費、接待費、機密費その他の費用で、法人がその得意先、仕入先その他事業に関係のある者等に対する接待等のために支出するものをいう旨規定していることや、「交際費等」は、一般的に、支出の相手方及び目的に照らして、取引関係の相手方との親睦を密にして取引関係の円滑な進行を図るために支出するものと理解されていることからすれば、当該支出が「交際費等」に該当するためには、①支出の相手方が事業に関係のある者等であること、②支出の目的が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るためであること、③支出の原因となる行為の形態が接待等であることの3要件を満たす必要がある。支出の目的が接待等のためであるか否かについては、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断して行うべきであると解される。”
原告は、本来は損金算入できない接待交際費に該当する費用を、業務委託料という費用をかくれみのにすることで、損金に算入したのである。
まず、3要件のうちの要件①「支出の相手先が事業に関係ある者等であること」を満たしている点は明らかである。
措置法関連通達61の4(1)-22(交際費等の支出の相手方の範囲)において、「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接当該法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく間接に当該法人の利害に関係ある者及び当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意する。」とある。
その上、措置法関連通達61の4(1)-15 にて「次のような費用は、原則として交際費等の金額に含まれるものとする。・・・(6) いわゆる総会対策等のために支出する費用で総会屋等に対して会費、賛助金、寄附金、広告料、購読料等の名目で支出する金品に係るもの」とある。
“形式的にはBとの間で本件清掃業務に係る契約を締結しているものの、その実態は、本件清掃業務についてはKに委託し、本件業務委託料差額については、Bに支払うように装って、その実質的経営者である乙に支払っていた。そして、乙は、いわゆる総会屋や右翼団体の幹部とされている人物であり、原告の地元対策等に多大な影響力を与えている者である。したがって、①本件業務委託料差額の支出の相手方は、原告の事業に関係のある者等であるといえる。”
B社が得ていた利益率が不自然に高額であること、また、再委託先であるK社の利益率はK社の同業他社とほぼ同等であることから、B社の収受していた料金の高さは不合理であり、そのように高額となるのは、交際費該当性要件②「支出の目的が事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることである」からに他ならない。
“原告は、J及びBとの間の本件清掃業務に係る契約については、総務部、開発部及び技術本部に担当させており、原告において清掃業務を担当する本来の部署と異なること、本件清掃業務については、Kにおいて約8%の利益率を確保した上で、Bが約40%もの利益率を得ていること、BとKとの間に乙の関係会社を介していたことからすれば、本件清掃業務の業務委託料は極めて高額であり、本件清掃業務の対価として不自然不合理であるところ、前記のとおり、支出の相手方は、いわゆる総会屋や右翼団体の幹部とされている乙のいわゆるフロント企業であり、乙が原告の地元対策等に多大な影響力を持っている者であることなどを考え併せれば、②本件業務委託料差額を支出した目的は、乙に対して利益を供与することによって、原告の営業活動の円滑な進行や運営を図るなどのためであるといえる。”
萬有製薬事件の控訴審では、要件③支出の形態要件の判断に際し、「接待を受ける側の認識」「接待等の相手側の利益享受」も重視していたことを引用。委託先であるB社にもメリットとなる取引であったため、第3要件「形態要件」も満たす。
“原告は、総会屋等とされ原告の地元対策等に多大な影響力を持つ乙に対して、役務の提供と何ら関係することなく、清掃業務委託料の名目で本件業務委託料差額を支払ったものであり、また、本件業務委託料差額の趣旨は、今後とも地元対策その他種々の便宜を受けることができるようにするための謝礼、贈答等の行為として、上記のような立場にある乙に対する利益供与であるから、③本件業務委託料差額は、支出の原因となる行為の形態が接待等に当たる。したがって、本件業務委託料差額は、措置法61条の4第3項が規定する交際費等に当たる。”
■国税庁は、萬有製薬事件東京高裁で示された、接待交際費の3要件に基づいて立証を展開。特に、「支出の目的」は、清掃業務委託先であるB社の利益率が不自然に高額であることは、「事業関係者等との間の親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ること」であったからに他ならないと主張。また、措置法関連通達61の4(1)-15を引用し、「いわゆる総会対策等のために支出する費用で総会屋等に対して会費、賛助金、寄附金、広告料、購読料等の名目で支出する金品に係る」費用は、接待交際費に該当することも指摘。なお、清掃業務委託先のB社側もメリットを認識していた点を指摘しているが、これは、萬有製薬事件東京高裁で「接待を受けた側も、接待等の利益を認識・享受していたか?」という観点が、重視されたことを踏まえての立証であろう。当該取引は、3要件を全て満たしているため、接待交際費に該当すると主張した。
■納税者は、不自然に高額な委託費は、物価の上昇のためであり、また、課税庁は、委託先が右翼関係者であるというだけで課税を試みていると反論した。
東京地裁 / 争点(2)(本件業務委託料差額についての隠蔽又は仮装の有無)
納税者の主張
原告は、清掃業の委託料金をB社に支払っていただけである。交際費に該当する費用を、業務委託料として装う事で、損金算入していたという課税庁の主張であるが、そもそも、装うどころか、清掃料として支払っていただけである。隠す対象の事実も知らなかった為、仮装することは不可能である。
“Bの隠蔽工作により、Bが本件清掃業務に係る委託契約における下請けの禁止条項に反して、本件清掃業務を無断でKに再委託(丸投げ)していた事実を全く認識していなかったので、Kの存在及びBからKに対して支払われた金額を知らないことはもとより、本件業務委託費差額自体を認識できるはずがない。”
国税庁の主張
原告は、本来は損金算入できない接待交際費に該当する費用を、業務委託料という費用をかくれみのにすることで、損金に算入したのである。
“実態は、乙に対する謝礼、贈答等の趣旨で支出された同人に対する利益供与であって、措置法61条の4所定の交際費等であるにもかかわらず、原告は、これを本件清掃業務に係る業務委託料に仮装して支出していたのであるから、このことが通則法68条1項所定の隠ぺい又は仮装の行為に該当するのは明らかである。”
■仮装隠蔽の意図の有無についての争点である。
国税通則法第68条において、税務調査を受けた際に、意図的に申告内容を仮装したり、事実を隠蔽したと客観的に判断され脱税の事実があった場合には、重加算税というペナルティが課されると規定されている。重加算税の対象となった場合、不足分の税金(追加本税)に加え、ペナルティ(重加算税)として延滞税も支払わなくてはならない。
国税庁は、高額な委託費は、委託先のB社の経営者であった乙氏(右翼関係者)に対する謝礼、贈答等の趣旨で支出された利益供与であって、その本質は措置法61条の4所定の交際費等であるにもかかわらず、原告は、これを損金算入が可能な本件清掃業務に係る業務委託料に意図的に仮装して支出していたと指摘、重加算税の対象であると主張した。
■納税者は、清掃業務委託費として支払っていただけであり、そもそも委託先のB社が清掃業者K社に再委託していたことも知らなかったと反論した。
東京地裁 / 争点(3)(本件優待入場券に係る費用の交際費等該当性及びその額)
納税者の主張
接待交際費とは「支出する費用」であると措置法61条の4に規定があるため、文理解釈上、「支出」が伴うことが必須である。しかし、当該優待券に関して、原告が「支出」した費用は、印刷費用程度である。「実際の支出」が伴わない限り、交際費に該当するはずがない。
“措置法61条の4第3項の文理上、「接待等のために支出する費用」でなければ、交際費等の定義に該当しないことは明白である。
原告は、本件優待入場者の存否にかかわらず、本件遊園施設の運営という事業を遂行する限りは、上記「原価計上額」の全額を支出しなければならないのであって、本件優待入場券制度を仮に廃止しても、1枚当たり2.1円から2.3円の僅少な印刷費を除いて、上記「原価計上額」の一部の支出を減少させることはできない。本件遊園施設の運営は原告の事業そのものであり、原告はこれらを接待用の施設として運営しているわけではない。また、原告は、本件有償入場者を排除することなく、あくまで余裕枠の範囲において、本件優待入場者に本件遊園施設を使用させているにすぎない。このことは、平成13年3月期から平成17年3月期にかけての本件優待入場者の割合が、総入場者の0.2%程度にすぎず、1日当たりの平均値でみても100人程度で、本件遊園施設の1日当たりの平均入場者数(Dが約4万人、Eが約3万人)の0.25%から0.3%程度にすぎないという数字からも明らかである。”
“被告が本件優待入場券に係る交際費等として主張する金額の法的性質は、あくまで事業遂行上必須の費用の一部であり、事業の遂行それ自体のために支出された費用であるから、「本件優待入場者に対する接待等のために支出する費用」ではない。接待等のために支出された費用であるという被告の主張は全くの詭弁であり、破綻しているというほかない。”
“仮に、「入場券売上げに対応する原価」が有償入場者と本件優待入場者とで按分された後に、本件優待入場者に対応する額だけは「事業遂行のために必須のものとして支出された費用」以外の費用になるとしても、それは広告宣伝又は販売促進のために支出された費用であり、「接待等のために支出する費用」とされるべきでない。”
国税庁の主張
本件優待券の使用に係る支出は、交際費該当のための3要件を満たす。その該当する金額は、入場券売上に対応する原価を、総入場者数で除して、無料優待券の枚数分を按分した金額である。(原価計算の按分すべきである)
“本件役員扱い入場券は、原告の役員又は部長の判断で特に重要な得意先に交付していること、役員が私的に使用している事実は認められないこと、また、本件プレス関係入場券は、原告が特に選定したマスコミ関係者とその家族に対して発送した招待状を持参した者に対して交付していることから、①本件優待入場券の使用に係る費用の支出の相手方は、事業に関係のある者等であるといえる。さらに、②本件優待入場券の使用に係る費用の支出の目的は、これらの者との親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図るためである。これを受けた特定の得意先又はマスコミ関係者とその家族の歓心を買うとともに、これらの者に対するその利用による慰安のために行った接待又は贈答であるから、③本件優待入場券の使用に係る費用は、その支出の原因となる行為の形態が接待等であることに当たる。”
“交際費等とは、接待等のために支出するものであるから、本件優待入場券の交付に伴う交際費等の支出の時期(接待等の行為があった時)は、本件優待入場券を現に使用した時、すなわち、特定の事業関係者が本件遊園施設を利用した時となる。そうすると、本件優待入場券の使用に伴い原告が支出する交際費等の額は、本件優待入場券が使用されたことに伴い原告が支出したと認められる費用の額(原価)というべきであり、本件優待入場券の使用により支出したと認められる1人当たりの費用の額に使用された本件優待入場券の枚数を乗じた金額となる。”
■争点(3)は、無料優待券に関する論点である。
国税庁は、交際費の3要件を満たすことを指摘の上、これを前提として、交際費等とは、接待等のために支出するものであるから、本件無料優待券の交付に伴う交際費等の支出の時期(接待等の行為があった時)とは、入場券を現に使用した時、すなわち、特定の事業関係者が遊園施設を利用した時であると指摘。その金額は、オリエンタルランドの損益計算書の売上原価に基づき、入場券売上げに対応する原価(費用)の額を算定した上で、これを総入園者数で除して入場券1枚当たりの費用の額を算定し、本件優待入場券の利用枚数を乗じた金額であると主張。なお、接待交際費該当要件は上述の萬有製薬事件東京高裁の3要件をあてはめている。
■納税者は、措置法61条の4の接待交際費の規定を引用。同規定は、文理解釈上、接待交際費に該当するためには、「支出」が伴うことが必須であるため、当該優待券に関して、オリエンタルランドが「支出」した費用は、印刷費用程度であることから「実際の支出」が伴わない当該無料優待券が、交際費に該当するはずがないと反論。万一該当するとしても、広告宣伝費であると主張。
東京高裁 / 争点(3)(本件優待入場券に係る費用の交際費等該当性及びその額)
納税者の主張
そもそも、交際費の損金不算入の制度趣旨は、法人の冗費・乱費を抑制し、自己資本の充実を図ることである。にもかかわらず、優待券の有無に関わらず発生する費用を、損金不算入とすることは、本来の制度趣旨に逆行している。
“本件優待入場券の使用に係る費用は、人件費、営業資材費、エンターテイメント・ショー制作費、業務委託費、販促活動費及びロイヤルティー等(以下「事業運営費用」という。)であって、これらの費用は、優待入場券の利用の有無にかかわらず施設を運営するために不可欠な費用として支出されたものである。”
“このような特定の事業関係者の接待等を目的として支出されたものではない費用について、「接待等のために支出する費用」に当たるとすることは、措置法61条の4第3項の文理解釈からして無理である。さらに措置法で交際費等の損金不算入を定めた制度趣旨は、法人の冗費・乱費を抑制し、自己資本の充実を図る等の政策上の目的達成にあるところ、本件優待入場券の有無にかかわらず事業遂行上支出しなければならない事業運営費用を損金不算入とすることは、この制度趣旨に全くそぐわない解釈である。”
無料優待券を発行するための「実際の支出」がないため、無料優待券を発行してもしなくとも、事業運営費用に変わりは無い。
“措置法61条の4第3項は、交際費等の定義について、接待等のために支出するものをいう旨定めている。要するに、交際費等に該当するためには、「支出するもの」という要件に当てはまることが必須である。しかしながら、仮に、本件優待入場券制度を廃止したとしても、事業運営費用を減額することができないのであって、優待入場者がいることによる控訴人の「支出」は何もない。”
課税庁の主張する金額計算方法では、人件費がそこに含まれている。給与等が交際費等に含まれないという措置法通達に反している。
“交際費等の算出をするに当たり処分行政庁が行っている、入場券売上げに対応する費用の額を計算した上で、これを総入場者数で除して入場券1枚当たりの費用を算定し、これに本件優待入場券の利用枚数を乗じて本件優待入場券の交付に伴い控訴人が支出した交際費の額を算出する方法は、入場券売り上げに対応する費用の額を計算するに際し人件費を加えており、給与等は交際費等に含まれないとした措置法通達61の4(1)-1に違反する。”
仮に、当該優待件使用料として按分された原価が、「業務遂行に必須の原価」以外の費用になるとしても、広告宣伝費または販売促進費に該当する。
“本件優待入場券の交付にかかる費用は、広告宣伝費又は販売促進費に該当する。本件プレス関係入場券は、マスコミ関係者にしか交付されていない。控訴人の上記交付の意図は、交付対象者であるマスコミ関係者を通じて不特定多数の者である新聞、テレビ、雑誌等の読者、視聴者等に対して広告宣伝をしたいからである。本件遊園施設に人気や定評があったとしても、更なる売上増加を図ったり、人気や定評を更に向上させるための販売促進を行ったりすることは営業上当然の行為である。”
これまで通りに申告しているにも関わらず、ここに来て突如否認されては、予測可能性が損なわれてしまう。
“控訴人は昭和58年のD開園以来、無料優待券の交付を行っていたが、長年にわたり一貫して行われた課税実務を信じて交際費課税の申告を行っておらず、処分行政庁も、平成18年3月の更正処分に至るまでは、数回の調査を行い優待入場券について十分に認識していたはずであるにもかかわらず、交際費課税の更正処分を行わないばかりか、指導さえも行ってこなかった。納税者である控訴人は、従前の取扱いを信頼して行動したものである。”
“そうすると、本件各年度の確定申告において、控訴人が本件優待入場券の使用につき交際費等に計上せず、税額の基礎とされていなかったことについて、真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らして過少申告加算税を賦課することは不当又は酷であり、控訴人には通則法65条4項所定の「正当な理由」があるから、本件各過少申告加算税賦課決定処分は違法である。”
国税庁の主張
追加主張無し
■争点(1)(2)に関しては、東京地裁判決を納税者側が認めたため、東京高裁では争点(3)無料優待券に関してのみが争われた。
国税庁の追加主張なし。
■納税者は、強い主張を展開。
そもそも接待交際費の立法趣旨は、法人の冗費・乱費を抑制し、自己資本の充実を図るためであったところ、優待券の有無に関わらず発生する費用を、損金不算入とすることは、本来の制度趣旨に逆行した課税処分であると主張。また、仮に、(優待券発行枚数分を)売上原価以外の項目にするとしても、(損金算入される)広告宣伝費か販売促進費に該当すると主張。さらに、オリエンタルランドはこれまで長年にわたり無料優待券の交付を行ってきており、国税庁も調査において当該優待入場券について十分に認識していたはずであるにもかかわらず、更正処分を行わないばかりか、指導さえも行わなかった。ここにきて突如として否認されては、法の安全性や納税者の予測可能性が損なわれると主張した。
争点となった条文
租税特別措置法
第61条の4(交際費等の損金不算入)
租税特別措置法施行令
国税通則法
第65条 過少申告加算税
第68条 重加算税
租税特別措置法関係通達(法人税編)
(交際費等の意義)61の4(1)-1
(交際費等に含まれる費用の例示)61の4(1)-15
(交際費等の支出の相手方の範囲)61の4(1)-22
(交際費等の支出の意義)61の4(1)-24
東京地裁 / 平成22年11月5日判決(杉原則彦裁判長)/ 納税者敗訴
争点(1)(本件業務委託料差額の交際費等該当性)について
納税者が、業務委託費を支払っていた相手先である乙氏は、事業に関係ある者等に該当する。
=接待交際費該当要件①支出の相手方要件の充足。
“措置法通達61の4(1)-22は、措置法61条の4第3項に規定する「得意先、仕入先その他事業に関係のある者等」には、直接当該法人の営む事業に取引関係のある者だけでなく間接に当該法人の利害に関係ある者及び当該法人の役員、従業員、株主等も含むことに留意するものとしている。上記のような同条3項の文言等に照らすと、特定の費用が同項の交際費等に当たるか否かを判断するに当たっては、個別の事案の事実関係に即し、その支出の相手方、支出の目的及び支出に係る法人の行為の形態を考慮することが必要とされるものと解される。”
K社が得ていた利益率は業界の平均であるが、元受けであるB社の利益率40%は不自然に高額である。そのように高額な報酬を渡す理由があったと推認される。その理由とは、B社を介して、乙氏の社会的影響力を期待した事であろうと考えられる。
=接待交際費要件②の支出の目的要件の充足。
“Bが実際に本件清掃業務を実施することはなかったにもかかわらず、Bの収益に相当する本件業務委託料差額は、原告がBに対して支払う金額のうちの約40%に上り、一方、本件清掃業務の実施によるKの利益率は、約8%程度であった。このKの利益率は、Kが他の法人から清掃業務を受託した場合におけるものとほぼ同程度か1%程度高いものであった。”
“Kの本件清掃業務の実施による利益率は約8%程度であったところ、これは、Kが他の法人から清掃業務を受託した場合におけるものとほぼ同程度か1%程度高いものであったと認められることからすれば、本件清掃業務の内容に応じ業務委託料として相当とされる金額については、実際に本件清掃業務を実施していたKが支払を受けていた金額がこれに当たると推認することができる。”
そして、受け手である乙氏にとっても、経済的利益が恩恵として認識されていたと推認されるため、その差額は謝礼、贈答に該当すると認められる。
=接待交際費要件③の行為の形態要件の充足。
“原告がBとの間で本件清掃業務に係る業務委託契約の更新を繰り返して金銭の支払を行ってきたことについては、形式的には、Bとの間の本件清掃業務に係る業務委託契約に基づくものではあるが、実質的には、上記のような乙の社会的な立場を前提に、その影響力を原告の事業の遂行、管理等に利用すべく、Bを介し乙に経済的利益を提供して乙との関係を良好に保つものとしてされたもので、本件清掃業務の内容に応じ業務委託料として相当とされる金額を超える金銭の支払については、乙に対する謝礼又は贈答の趣旨でされたものと認めるのが相当である。”
“そして、上記のような乙の立場に照らせば、乙が措置法61条の4第3項の「その他事業に関係のある者等」に当たることは明らかというべきである。”
“原告がBに対して支払っていた金額が、本件清掃業務の対価として不合理な金額であったことは明らかというべきである。”
原告が提出した清掃請負業者3社の見積書と従業員の陳述書は、B社に対する清掃業務委託料が経済的に合理的であることを示す根拠とされている。しかし、これらの見積書は原告とB社の契約終了後に後任の業者P社が依頼したもので、P社はB社からの情報を得られず、原告の従業員に依頼して作成された曖昧な仕様に基づいている。このため、見積りが実際に行われた清掃業務を正確に反映しているとは認めにくい。
“原告は、Bに対する業務委託料が経済的に合理的である根拠として、3社の清掃請負業者の作成に係る見積書及びその従業員の陳述書を提出している。”
“しかしながら、原告とBとの間の本件清掃業務に係る業務委託契約が平成17年6月に終了した後にその業務を受託したPが、本件訴訟に関連して上記3社に対して見積りを依頼したものであること、Pは、上記のとおりBに代わり本件清掃業務を受託した際に、Bから本件清掃業務の仕様に関する情報を入手することができず、原告の本件清掃業務の所管部署の従業員に依頼して清掃仕様書等を参照したが、それらの資料は、具体的な清掃の時間帯や清掃場所等(床材、用途、面積等)の指定があいまいなもので、これらのみでは本件清掃業務の内容を確定することができず、価格を算出することもできなかったこと、そこで、Pにおいては、上記の原告の従業員がBから本件清掃業務に係る業務委託契約が終了する前に本件清掃業務の概要につき聴取していたところに基づいて、Bとの間の業務委託契約に係る清掃仕様を再現し、これを前提として、上記の見積りを依頼したことが認められ、上記の見積りが前提としている清掃仕様が、実際にKが実施していた本件清掃業務のそれを正確に再現したものであるとは直ちに認め難い。”
原告が、実績ある業者から実績のない業者への業務委託を切り替えた理由は、その経営者である乙氏の社会的影響力を利用する意図があったと推認される。
“乙の社会的な影響力を原告の事業の遂行、管理等に利用しようという意図なくして、原告が実績のあるHから全く実績も能力もないJやBに業務委託先を切り替えることは常識的に考えられず、本件業務委託料差額は、原告が乙の社会的な影響力を期待して、Bを介し乙に経済的利益を提供して乙との関係を良好に保つために支出されたものと認められるから、交際費等に該当するといえる。”
“的屋グループの排除のために、原告が警備会社に警備を委託していたからといって、原告が乙の社会的な影響力を頼む関係にはなかったということにはならない。”
争点(2)(本件業務委託料差額の隠蔽又は仮装の有無)について
原告は、J社及びB社が、乙氏の関連会社であることを承知で、清掃業務の委託先を切り替えたと推認される。実績のある業者から、設立間もない、または休眠状態の会社への変更は、当該会社の実質的な清掃能力の欠如を認識した上でのことであったと思われる。B社がK社の存在を殊更隠していたということもできない。
“原告が本件清掃業務について、Jと契約した昭和58年当時及びBと契約を締結した同59年当時の役員は、代表取締役である丁元社長を含め、いずれもJ及びBが乙の関係会社であることを承知しており、そのうち平成17年当時の役員であるS会長とT常務もBが乙の関係会社であることを知っていたことが認められる。”
“また、原告は、昭和58年9月1日、本件清掃業務の委託先を実績のあるHから、その前日に設立されたばかりのJに切り替え、さらに、同59年9月1日、休眠会社で清掃業務の営業実績もなく、原告との契約締結直前に東京都千代田区から浦安市に本店所在地を移転させたBに切り替えたこと、Jへの切り替えについての稟議書(甲16の3)及びBへの切り替えについての稟議書(甲16の5)のいずれにも、両社の業務実績等に関する資料が添付されていないことに照らすと、原告は、両社自体は本件清掃業務を行うことができず、実際に清掃業務を行う能力を持つ会社に丸投げしない限り、本件清掃業務を履行することができないことを認識していたものと認められる。”
“また、原告は、Kへの再委託を認識していなかった理由として、Kの従業員がBの社員を名乗っていたことや、本件清掃業務に関する原告に対する見積書や示談書がB名義であったことなどを挙げ、BがKへの本件清掃業務の委託を隠ぺいしていた旨主張している。しかしながら、下請会社の従業員が元請会社の従業員であると名乗って仕事をすることは通常見られる取引慣行であるし、見積書等がB名義であるのは、本件清掃業務の委託先がBであることから当然のことであって、これらのことから、BがKの存在を殊更隠ぺいしていたということはできない。”
争点(3)(本件優待入場券に係る費用の交際費等該当性及びその額)について
本件優待入場券は、措置法61条の4第3項の交際費に該当する。
“原告が本件優待入場券を発行してこれを使用させていたことについては、原告の遂行する事業に関係のある企業及びマスコミ関係者等の特定の者に対し、その歓心を買って関係を良好なものとし原告の事業を円滑に遂行すべく、接待又は供応の趣旨でされたと認めるのが相当であり、これを使用して入場等をした者に対して役務を提供するに当たり原告が支出した上記の費用については、上記のような支出の相手方、支出の目的及び支出に係る行為の形態に照らし、措置法61条の4第3項の交際費等に当たると認めるのが相当である。”
交際費に該当する金額について。原告は、当該費用は、印刷費程度であると主張する。しかし、通常通りチケットを買って有料で入場する一般の入場者も含めた入場者全員に対する役務の提供のために支出された金額(を按分した金額)が、当該費用であるとみるべきである。
“原告は、本件優待入場券の発行等に伴って生ずる費用はその製作、印刷費用のみである等と主張する。しかしながら、既に述べた事実関係の下におけるように、例えば1日といった単位となる期間においてその対象となる者が相当の多数にわたりあらかじめその数を確定することが困難であることを踏まえ、一定の見込みに立って、それらの者に対して包括して特定の役務を提供することを事業とする法人が、当該役務を現に提供し、かつ、当該役務の提供を無償で受ける者がこれを有償で受ける者と別異の取扱いをされていない場合、当該役務の提供に要した費用は、当該役務の提供を受けた者との関係においては、これを無償で受けた者を含め、対象となった者全員に対する当該役務の提供のために支出されたとみるのが相当である。”
納税者は、接待交際費に該当するには、「支出」が必須であり、「支出」がない限り、交際費に該当するはずがなく、法の予測可能性が著しく害されると主張する。しかしながら、措置法61条の4第3項の「接待等のために支出する費用」という文言から上記のような解釈することは何ら不自然ではなく、予測可能性を害するものではない。
“原告は、本件優待入場券に係る交際費課税は、措置法61条の4第3項の「接待等のために支出する費用」という文言の通常の用法に照らして不可能な解釈であり、予測可能性の保障を著しく害する旨主張している。しかしながら、交際費等に関する課税の趣旨や裁判例に照らし、措置法61条の4第3項の「接待等のために支出する費用」という文言の解釈として前記のとおりの解釈をすることは、その文言の通常の用法から何ら乖離したものではなく、本件優待入場券に係る交際費課税をすることは十分に予測可能であって、これが予測可能性の保障を著しく害するということはできない。”
これまで幾度の税務調査でも全く指摘されたことがない優待券について突如として否認されたため、過少申告加算税を免れるべきだと原告は主張するが、これまで一度も問題視しなかったからと言って、そのことが、課税当局が「接待交際費に該当しない」と公認したことにはならない。
“原告は、昭和58年4月のD開園以来導入されてきた本件優待入場券がその後幾度の税務調査にもかかわらず問題視されてこなかったことを根拠に、予測可能性を欠くから、過少申告加算税を免れるべき正当な理由がある旨主張する。しかしながら、処分行政庁が過去の税務調査において本件優待入場券の使用に係る費用相当額について問題視して指摘しなかったとしても、そのことから直ちに処分行政庁が本件優待入場券の使用に係る費用相当額が交際費等に該当しないとして是認してきたとはいえず、また、その旨の公的見解を表示したということもできないから、そのことを理由として予測可能性を欠き、過少申告加算税を免れるべき正当な理由があるということはできない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。”
原告は、当該費用が売上原価以外の費用になるとしても、広告宣伝費または販売促進費に該当すると主張するが、広告宣伝費は「不特定多数」に対するものである。本件優待券が、マスコミ関係者に限定して交付されていることを考慮すると、広告宣伝費に該当するとはいえない。
“原告は、本件プレス関係入場券は広告効果の高い新聞、テレビ、雑誌等に所属するマスコミ関係者に対して、本件遊園施設のアトラクションやイベントを実際に体験させて、将来の取材や報道を促すという広告宣伝目的で交付されたものであり、本件プレス関係入場券の交付及び使用に係る費用は広告宣伝費に該当する旨主張している。しかしながら、広告宣伝費とは不特定多数に対する宣伝的効果を意図する費用をいうところ、本件プレス関係入場券は、相当網羅的であるとはいえ、新聞、テレビ、雑誌等に所属するマスコミ関係者に限定して交付されたものであるから、その支給対象が不特定多数であるということはできない。”
東京高裁 / 平成23年8月24日判決(鈴木健太裁判長) / 納税者敗訴
争点(3)(本件優待入場券に係る費用の交際費等該当性及びその額)について
優待券を使用すると、控訴人の収入が(本来の正規料金で入場した場合と比較すると)減ぜられることになる。それゆえ、当該更正処分は、立法趣旨である冗費・乱費を抑制し自己資本を強化させるという目的になんら反したものではない。また、該当する費用も、原価のうち無料優待券相当分を按分するという前判示の通りである。
“控訴人は、本件優待入場券を廃止しても事業運営費用はほとんど変わらないのであるから、措置法で交際費の損金不算入を定めた趣旨、すなわち法人の冗費・乱費を抑制し、自己資本の充実を図る等の政策上の目的を達することにはならないと主張する。”
“しかしながら、交際費の損金不算入を定めた制度趣旨は、法人が事業に関係のある者等に対する接待等のために支出する費用は、そのいたずらな支出が公正な取引を害し、公正な価格形成をゆがめ、国民一般に不公平感を与えることになることから、その支出を減縮し、法人の内部留保を高め、法人の健全化を図り、ひいては法人の社会的責任を全うさせようとすることにあるものと解される。”
“仮に、正規の料金を支払っても本件遊園施設を利用したいと考えていた者が本件優待入場券の交付を受けた場合、正規の料金を支払わずに本件遊園施設を利用することになるが、これは、正規料金に係る収入を得る機会を失わせ、控訴人の利益が失われたことになることが明らかであって、そうだとすると、本件優待入場券の交付が法人の内部留保、自己資本の充実を間接的に妨げていることは明らかである。”
“したがって、本件優待入場券の利用に係る費用を交際費等と認定したことが措置法で交際費等の損金不算入を定めた制度趣旨に反することはない。また、本件優待入場券の利用があった場合、その割合の多寡にかかわらず、控訴人が本件遊園施設の入場者に提供する役務に係る原価のうち、本件優待入場者に対応する分の費用の支出があったと認めるのが相当であることは、前説示のとおりである。”
接待交際費は給与を含まないという措置法通達61の4(1)ー1は、その支出が交際費に該当するかどうかの判定に用いるのであり、該当すると判断されたあとに適用される条文ではない。
“控訴人は、入場券売上げに対応する費用の額を計算した上で、これを総入場者数で除して入場券1枚当たりの費用を算定し、これに本件優待入場券の利用枚数を乗じて本件優待入場券の交付に伴い控訴人が支出した交際費の額を算出する方法は、入場券売上げに対応する費用の額を計算するに際し人件費を加えており、これは、給与等が交際費等に含まれないとした措置法通達61の4(1)-1に違反する旨主張する。”
“しかしながら、措置法通達61の4(1)-1は、得意先等に対する支出が交際費等の性質に該当するか否かに関する規定であり、当該支出が交際費等に該当すると判断された上で、交際費等の額の算定に適用されるものではない。”
“自社製品を関連業者に贈答した場合に、その原価が交際費等に該当することは明らかであり、自社製品の製造原価に人件費が含まれるのと同様、本件遊園施設における特定役務の提供の原価に人件費が含まれるのは当然であって、これらは、措置法通達61の4(1)-1に何ら違反するものでもない。”
控訴人は、本件優待券に案分される費用は広告宣伝費であると主張するが、その交付対象者や、当該遊園地がすでに人気・定評である事実を考慮すると、それらへの広告宣伝効果は限定的であると思われる。又、そのような宣伝効果というよりは、交付対象者やその家族の歓心を買う事が目的であろうと認められる。
“控訴人は、本件優待入場券の交付に係る費用は、広告宣伝費又は販売促進費に該当する旨主張する。本件プレス関係入場券は、マスコミ関係者にしか交付されていないが、その交付先には、政治部、証券部、総務部、経営企画室、社史刊行委員会事務局等、顧問、相談役、論説委員、秘書室次長、人事・総務本部長、法務室長、コンプライアンス統括室専任室長、技術局技術業務部電波担当部長等が相当数含まれているのであるから、控訴人が主張する広報宣伝の効果は限定的であって、その交付は、このような効果を目的とするというよりも、マスコミ関係者やその家族の歓心を買うことを目的としたものと認めるのが相当である。”
“控訴人は、控訴人の本件優待入場券は、販売促進・広報活動の一環であり、広告宣伝費に該当する旨主張する。しかしながら、本件役員扱い入場券は、控訴人の重要な取引先に対し交付されており、それにより取引先等やその家族の歓心を買うことを目的としたものと認められる。”
“そして、これによる広告宣伝効果は極めて限定的であると考えられるし、既に人気や定評がある本件遊園施設の更なる売上増加、人気・定評の更なる向上効果も限定的であって、これらに大きく寄与するものとまでは認められないから、同入場券交付が販売促進の目的でされたものとはいえない。”
これまで幾度の税務調査でも全く指摘されたことがないため、過少申告加算税を免れるべきだと原告は主張するが、接待交際費に該当するかどうかについて、3要件で判断されることは、(萬有製薬事件で)判決が出されているため、既知の事実であったはずだし、国税庁が交際費該当性について見解を改めたことがあるわけでもない。
“控訴人は、前記第2の6(6)のとおり、本件各年度の確定申告において、控訴人が本件優待入場券の使用につき交際費等に計上せず、税額の基礎とされていなかったことについては、真に控訴人の責めに帰することができない客観的な事情があり、過少申告加算税の趣旨に照らして、これを賦課することは不当又は酷であり、控訴人には「正当な理由」がある旨主張する。”
“法人の支出が交際費等に該当するか否かは、① 支出の相手方が事業に関係のある者といえるか、② 支出の目的が事業関係者等との親睦の度を密にして取引関係の円滑な進行を図ることにあるか、③ 行為の形態が接待、慰安、贈答その他これらに類する行為といえるかで判断され、その支出の目的が接待等のためであるか否かは、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断されるところ、処分行政庁は、本件優待入場券費用相当額が交際費等に該当するか否かについても上記基準に照らして判断しており、処分行政庁又は被控訴人が交際費等該当性に係る基本的見解を改めたことはない。”
これまで一度も問題視しなかったからと言って、そのことが、課税当局が「接待交際費に該当しない」と公式見解を示したことにはならないのである。
“確かに、本件優待入場券費用相当額について、昭和58年4月のD開園以来、処分行政庁が控訴人に対し指摘又は指導した形跡はない。しかしながら、処分行政庁又は被控訴人が、控訴人に対し、本件優待入場券費用相当額が交際費等に該当しない旨の公的見解を表示したことを認めるに足りる証拠もない。”
最高裁 / 平成24年6月7日決定(山浦善樹裁判長) / 上告棄却・不受理
争点(3)(本件優待入場券に係る費用の交際費等該当性及びその額)について
■全面的に納税者敗訴。
■東京地方裁判所では、本件清掃業務委託料差額の交際費等該当性、業務委託料差額の隠蔽・仮装の有無、及び優待入場券使用に関する費用の交際費等該当性とその金額について審理された。萬有製薬事件東京高裁が示した3要件及び措置法通達に基づき、交際費に当たるか否かは、支出の相手方、目的、及び行為の形態を考慮して判断された。
■清掃業務委託料差額に関しては、実際に清掃業務を行っていなかったB社への破格の委託料は、その経営者乙氏の社会的な影響力を利用し、乙氏との関係を良好に保つためであったと、経済的利益提供が認められ、接待交際費に該当、さらに、重加算税の徴税も認められた。
■優待入場券の使用に関しては、原告が接待交際費に該当する費用は製作・印刷費用のみであると主張したが、交際費等の支出の時期とは、国税庁の主張する「接待等の行為ががあった時」すなわち、本件特定事業関係者が、遊園施設を使用した時であるとの主張を採用。納税者の損益計算書の売上原価に基づき、入場券売上げに対応する原価(費用)の金額を算定した上で、これを総入園者数で除して入場券1枚当たりの費用の額を算定し、本件優待入場券の利用枚数を乗じた金額と認定された。原告が過去の税務調査で問題視されていなかったことを理由に、予測可能性の欠如を主張したが、これは採用されなかった。広告宣伝費に該当するとの原告の主張も、その交付対象が限定的であるとみなされ、否定された。
■東京高等裁判所では、本件優待入場券のみについて審理された。
納税者は、優待入場券発行の有無は、納税者側の事業経費に影響しないため、具体的な「支出」を伴わない金額を損金不算入とすることは、交際費の立法趣旨、すなわち法人の冗費・乱費を抑制し、自己資本の充実を図る等の政策上の目的に逆行すると主張した。しかし裁判所は、正規料金を支払わない利用が、納税者の利益を減らし、内部留保・自己資本の充実を妨げる事に繋がるため、立法趣旨には反しないと判示。
■交際費等の額は、東京地裁の判決を引き継ぎ、納税者の損益計算書の売上原価に基づき、入場券売上げに対応する原価(費用)の額を算定した上で、これを総入園者数で除して入場券1枚当たりの費用の額を算定し、本件優待入場券の利用枚数を乗じた金額であると認定した。
■納税者は、本件優待入場券の交付が広告宣伝費や販売促進費に該当すると主張したが、その効果は限定的であり、かつ、相手先が「不特定多数」ではなく、主にマスコミ関係者や家族等「事業に関係ある者等」であり、その歓心を買うことが目的であったと判断され、退けられた。
■過去の税務調査で問題視されなかったことから、過少申告加算税を免れるべきだとの納税者の主張も、過去の処分行政庁の対応が交際費等に該当しないことを意味する証拠にはならないとして、退けられた。
証拠(事実)
当事者
■原告は、昭和35年7月11日、千葉県b沖の海面を埋め立て、商業地及び住宅地の開発や大規模レジャー施設の建設をすること等を目的として設立された法人である。
■乙氏は、B株式会社、F株式会社等の会長であったほか、右翼団体であるG会議の名誉議長などを務めており、いわゆる右翼関係者として知られている。
■B株式会社は、昭和54年8月3日、本店所在地を東京都千代田区とし、不動産の所有、売買等を目的として設立された法人であり、同59年5月1日、本店所在地を千葉県浦安市に移転し、その後、平成17年7月31日に解散した。B株式会社は、その役員に乙氏及び乙氏の親族らが就任しており、その実質的経営者は乙氏である。
■H株式会社は、建物の清掃及び設備の保守管理の請負等を目的とする法人であり、原告の株主であるI株式会社の100%出資子会社である。
■J株式会社は、ビルの管理、清掃業務等を目的として、昭和58年8月31日に設立された法人である。
■株式会社Kは、各種清掃業務請負やビルメンテナンス等を業とする法人であり、L証券取引所上場企業である。
本件清掃業務に係る契約等
■原告は、H株式会社との間で、原告本社ビル等についての清掃業務について、昭和58年1月4日から同59年3月31日までの間、H株式会社に委託する旨の契約を締結し、H株式会社はこれを履行していた。
■原告は、昭和58年8月31日をもって、H株式会社との間の契約のうち本件清掃業務に係る部分を終了させた。
■原告は、J株式会社との間で、昭和58年9月1日付けで、同日から同59年8月31日までの間、本件清掃業務をJ株式会社に委託する旨の契約を締結し、J株式会社はこれを履行した。
■原告は、B株式会社との間で、昭和59年9月1日付けで、契約期間を同日から同60年8月31日までとして、本件清掃業務をB株式会社に委託する旨の契約を締結した。同契約は、平成17年6月に解約されるまで、毎年更新され、J株式会社及びB株式会社への本件清掃業務の委託が昭和58年9月1日から平成17年6月2日まで約22年間もの長期間にわたっていた。
■J株式会社及びB株式会社は、原告から本件清掃業務を受託したものの、自ら本件清掃業務を実施することはなく、株式会社Kが、J株式会社又はB株式会社若しくはB株式会社から委託を受けたとする他の法人との間の再委託契約に基づき、乙氏の自宅の清掃業務と併せて、本件清掃業務を実施していた。
■原告が平成18年3月期の間にB株式会社に対して本件清掃業務の業務委託料として支払った金額(税込み)は、別表2の「原告支出金額(税込み)①」欄記載のとおりであり、上記の間にB株式会社が株式会社Kに対して再委託契約の業務委託料として支払った金額は、同表の「B株式会社の外注金額(税込み)②」欄記載のとおりであり、上記各金額の差額(以下「本件業務委託料差額」という。)は、同表の「差額(税込み)(①-②)」欄記載のとおり。
■原告は、J株式会社及びB株式会社との間の本件清掃業務に係る契約については、総務部、開発部及び技術本部に担当させており、原告において清掃業務を担当する本来の部署と異なっていた。
■原告内部における本件清掃業務に係る業務委託契約の担当部署は、J株式会社との間で契約を締結した時点からB株式会社との間の契約が終了した時点までの間、他の清掃業務についてはd部(のちにe部)であるにもかかわらず、主として原告の総務部であった。平成17年6月3日に本件清掃業務の委託先が原告の100%出資子会社である株式会社Pに変わると、本件清掃業務の担当部署は本件清掃業務以外の清掃業務の担当部署と同じe部になった。
■B株式会社が実際に本件清掃業務を実施することはなかったにもかかわらず、B株式会社の収益に相当する本件業務委託料差額は、原告がB株式会社に対して支払う金額のうちの約40%に上り、一方、本件清掃業務の実施による株式会社Kの利益率は、約8%程度であった。この株式会社Kの利益率は、株式会社Kが他の法人から清掃業務を受託した場合におけるものとほぼ同程度か1%程度高いものであった。
本件優待入場券の種類
本件優待入場券には、原告の役員等が各種企業等に対して交付する入場券(本件役員扱い入場券)と、原告がいわゆるマスコミ関係者及びその家族に対して交付する入場券(本件プレス関係入場券)の2種類がある。
編集者コメント
「支出」のない経費は接待交際費なのか?疑問判決。
■接待交際費は、太平洋戦争からの経済的混乱もおさまり、神武景気が訪れた昭和29年(1954年)の創設時から、1~3年ごとの度重なる改正を経て現在の規定に至っている。当時は時限立法として導入されたが、現在、実質的に恒久化している。
■接待交際費は、給与、寄付金と並ぶ法人税法3大経費と言われており、税法の花形でもある。租税特別措置法61条の4において「その他の…」「これらに類する…」と、例示の寄せ集めのような、不確定概念を多用した規定ぶりから、売上割戻し、広告宣伝費、福利厚生費等隣接費用との見極めが非常に難しく、税務訴訟にたびたび登場する。しかしながら、編集者が知る限り、納税者が勝訴したのは、興安丸事件(昭和44年11月27日東京地裁)と萬有製薬事件(平成15年9月9日東京高裁)の2件のみである。
■今回、「接待」の行為があった時はいつの時点だろうか?
租税特別措置法関係通達61条の4(1)-24では、「交際費等は接待等の行為のあった時点で認識する」と債務確定主義が規定されている。では、「接待等」のあった時点とは、いつだったか。国税庁は、東京地裁において「事業関係者が無料優待券を使用して遊園施設に入場した時」であると主張したが、接待等とは、法人等がその行為主体であるわけだから、「無料優待券を印刷したとき」若しくは「それを事業関係者に渡した時」ではないだろうか。そう考えると、納税者の主張する、接待交際費に該当する金額とは「印刷代」のみであるという結論になると考える。
■接待交際費該当性の判断は、当該支出の動機、金額、態様、効果等の具体的事情を総合的に判断されるとされ、これは、昭和50年6月24日ドライブイン事件で東京地裁(杉山克彦裁判長)から、現在まで接待交際費課税事案でさまざまな判例で引用されている解釈である。一般に、萬有製薬事件で新たな3要件が説示されたことで、拡大解釈に一定の歯止めがかけられたと評価されているが、当事案は、課税要件の明確化の難しさを改めて感じさせる判例であった。
■又、これまでの税務調査で一度も指摘されてこなかったからと言って、「本件優待入場券費用相当額が交際費等に該当しない旨の公的見解を表示したことを認めるに足りる証拠もない」とは何と衝撃的な判示であろうか。税務調査で指導されたこともない税務処理を、数年後に遡って更正処分をされても、信義則や約束的禁反言に反しないということである。
■そもそも接待交際費は、もはや時代に合っていない課税制度であるのかも知れない。その創設当初の1950年代の日本では、過度の交際費等の支出を抑制することが社会状況として必要であったのであろうが、現代の日本では、反対に経済の活性化を阻害しているのではないだろうか。
■清掃業委託事件は、妥当な判決であろう。
■なお、国税庁公表の令和3年度会社標本調査によると、法人税額約13兆円である一方、交際費支出額は約3兆円と、かつて平成4年(1992年)に記録した約6兆円の最高額と比べ、幾度の課税強化を経て約半額にまで減少している。
今後、当サイトで数々の判例を紹介していくので、接待交際費の理解にぜひ参考にして頂きたい。
重要概念との関係で
ここで、特に重要と思われる租税法概念について述べる。
■重要概念
外観と実態(形式と実質)/ 推認 / 債務確定主義
以下、当事案とこれらとの関係について述べる。
■「外観と実態」又は「形式と実質」という表現は、税務訴訟でしばしば用いられる。税務当局や裁判所が、取引の表面上の形式ではなく、その実質的な内容や目的を重視して課税すべきであるという原則を指す。
■税法訴訟においては、特に税逃れや節税策を用いる場合にこの原則が適用される。例えば、ある取引が、租税回避を目的としており、実際の経済的な実体を伴わない場合、税務当局はその取引を実態経済に「引き直し」、課税を行うことができる。これは「実態経済活動の原則」とも呼ばれ、税法が形式よりも実質を重視することを示している。
■今回の「清掃業務委託料事件」において、外観上は「清掃委託費」であったが、実態は「接待交際費」であり、経費項目を隠れみのにした仮装隠蔽であると更正処分を受けたわけである。
■「推認」とは、明確な証拠や直接的な証言が不足している場合に、既知の事実や証拠から合理的な結論を導き出すプロセスである。
税法訴訟において、特に、納税者の租税回避や仮装隠蔽の意図の有無、取引の実質を解釈し、それに基づき認定事実を確定する際に、推認が用いられることがある。これは、形式上の取引よりもその背後にある実質を重視する税法の原則に則ったものである。
■税法における「推認」のプロセスと「認定事実」の確定は、完全で直接的な証拠が不足している状況において、合理的で公正な税務評価を行う上で重要な役割を担っている。推認は、多くの証拠を集めそこから過去に遡り、経験則を利用して事実認定を行う作業である。 ゆえに論理的な「あてはめ」と比べると、蓋然性・可能性の要素が強く、論理必然ではない。 今回、実績ある業者から、実績のない、設立間もない休眠状態の会社へ業務委託を切り替えたことから、仮装隠蔽があったと「推認」されたわけである。
■債務確定主義は、税法において、収益や費用は、債務や負債が確定したときに認識するとする原則である。例えば、寄付金は寄付が行われた瞬間に認識され、現金主義に従うのに対し、一方で、接待交際費は債務確定主義に従い、現金の動きではなく、行動に着目し、接待が実施された瞬間に認識すると、租税特別措置法関係通達61条の4(1)-24で、規定されている。
■当事案について見ると、「接待等」のあった時点に関する見解が、分かれている。国税庁は、「事業関係者が無料優待券を使用して遊園施設に入場した時」であると主張したが、オリエンタルランドは、「無料優待券を印刷した時、若しくは、相手に渡した時」であると主張した。無料優待券事件では、この債務確定主義が鍵を握るのではないだろうか。
併せて読みたい
萬有製薬事件(東京高裁 平成15年9月9日判決 確定)
英文添削料と英文添削収入の差は交際費に該当しないとして納税者逆転勝訴となった事案。
“この接待等に該当する行為とは、一般的に見て、相手方の快楽追求欲、金銭や物品の所有欲などを満足させる行為であるのに対し、控訴人会社が行った英文添削の差額負担によるサービスは、学問上の成果、貢献に対する寄与であり、通常の接待等とは異なり、それ自体が直接相手方の歓心を買えるような性質の行為ではなく、上記のような欲望の充足と明らかに異質の面を持つことが否定できない”
“本件英文添削の差額負担は、通常の接待、供応、慰安、贈答などとは異なり、それ自体が直接相手方の歓心を買えるというような性質の行為ではなく、むしろ学術奨励という意味合いが強いこと、その具体的態様等からしても、金銭の贈答と同視できるような性質のものではなく、また、研究者らの名誉欲等の充足に結びつく面も希薄なものであることなどからすれば、交際費等に該当する要件である「接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為」をある程度幅を広げて解釈したとしても、本件英文添削の差額負担がそれに当たるとすることは困難である。”
興安丸事件 (東京地裁 昭和44年11月27日判決 確定)
交際費等と広告宣伝費との区別の有名判例。事業関係者には不特定多数の者を含まないされ、納税者が勝訴した事案。
戦後引揚船であった興安丸を遊覧船としてお披露目するあたり、当初案内をだした事業関係者以外に総勢5万人もの観客が集まったことで、特定の事業関係者への招待ではなく、一般に対する広告宣伝効果が主たる目的として、レセプション関係費約500万円が広告宣伝費として認定された。
“本件レセプション関係費は、興安丸を遊覧船として就航せしめるに当たり、それを公衆の観覧に供することによって広い観客層を獲得せんことを目的とし、且つ、その対象者も、事業に関係のある者のみに限定されることなく、一般大衆にも及んだというのであり、しかも、これに要した前記費用も、披露の開催に必要なもの又は広告宣伝を効果的ならしめるもの、ないしは、その単価の点からみて社会通念上参観者に対する儀礼の範囲を出ないきょう応費であるというを妨げないものであるから、本件レセプション関係費は、被告主張のごとく昭和29年5月19日付国税庁長官通達にいう進水式の招待費とは趣きを異にし、興安丸の広告宣伝費であって、法63条2項にいう「交際費等」には該当しないものと認めるのが相当である。”
ドライブイン事件(東京地裁 昭和52年11月30日判決 確定)
ドライブインが駐車する観光バスの運転手、ガイド、添乗員に交付する金銭(チップ)は交際費に該当するとされた事案。
ドライブインが駐車する観光バスの運転手、ガイド、添乗員に1人当たり100円ないし300円程度の現金を渡していた支出は、観光バスのドライブインに対する駐車を期待し、運転手等の歓心を買うためのチップであるから、交際費等に該当するとされた事案。
“本件手数料は、支出の相手方が控訴会社のドライブインに駐車した運転手等に限られ、右の支出により運転手等の歓心を買い今後も控訴会社のドライブインに駐車してくれることを期待するもので、客誘致のためにする運転手等に対する接待の目的に出たものと認めるのが相当であるから、交際費等に該当するというべきである。”
“運転手等は、観光客の便宜と安全性の確認等の目的のため、その業務の遂行として観光バスをドライブインに駐車させるのであつて、運転手にどのドライブインに駐車するかの裁量権はあるにしても、運転手がそのドライブインからチツプを支給されることの対価として其処に駐車し乗客を誘導するものとは直ちに認めがたいところであるから、その間に対価関係ありとして本件手数料ないし仲立的媒介手数料に該当するものとする控訴人の主張はにわかに採用しがたい。”
接待交際費課税事案
交際費は隣接費用との区分の問題があるが、数々の判例を経て通達が整備されてきた。上記以外で実務に有益と思われる例をいくつか挙げる。
#招待旅行事件(昭和39年11月25日東京高裁)
卸売業者が小売業者に対して招待旅行費用を負担した行為が、交際費に該当するとされた事例。広告宣伝費と接待交際費との区分判定。
#興安丸事件(昭和44年11月27日東京地裁)
遊覧船の就航を宣伝する目的でなされたレセプション関係費は、広告宣伝費であって、交際費等にあたらないとされた事例。
#結婚費用事件(昭和52年3月18日大阪高裁)
同族会社の代表取締役の結婚費用等は交際費ではなく役員賞与であるとされた事例。
#ドライブイン事件(昭和52年11月30日東京高裁)
交際費等は、当該支出が事業遂行に不可欠であるかどうか、定期的な支出であるかどうかを問わないとした事例。
#ハナシン事件(婦人団体旅行事件)(昭和53年1月26日東京地裁)
婦人団体等の役員を温泉地一泊旅行に招待した費用は交際費等であるとした事例。実態のある会議費と交際費の区分が問われた。
#忘年会事件(昭和55年4月21日東京地裁)
従業員の慰安の為の忘年会と交際費等との区別。福利厚生費としての通常性が問われた。
#ホステス募集費事件(昭和57年11月30日最高裁)
ホステス募集の為の費用を役員慰安の交際費とした事案。最高裁まで争われた。
#オートオークション事件(平成10年1月22日最高裁)
中古自動車の競り売り開催業者が抽選会の景品に支出した費用は交際費であるとした事案。
#萬有製薬事件(平成15年9月9日東京高裁)
英文添削料と英文添削収入の差は交際費に該当しないとして逆転納税者勝訴となった事案。
#配偶者が経営する法人に対する交際費事件(平成22年8月26日東京高裁)
原告の配偶者が経営する法人に支出した交際費は役員賞与に該当するとして損金算入を否認し、過少申告加算税を課した事案。法人税法132条同族会社の行為計算否認が適用された事案。
#令和3年度国税庁会社標本調査
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/kaishahyohon2021/kaisya.htm