馬券事件(東京事件)
目次
馬券払戻金には対価性無し
概要
馬主が競馬の当たり馬券の払戻金を事業所得として申告。
大阪事件、札幌事件を受けた、新たな争点の提起である。数億円にも及ぶ馬券購入の規模から、果たして競馬は事業として認められるのか?を問題提起した。
金額
札幌事件に続く馬券重要判例第3弾。馬主が競馬の当たり馬券の払戻金を事業所得として申告したが、年単位での収支はいずれも赤字であることや、納税者は、多額の給与所得を得ており、生活資金の大部分はその収入で賄っていたことにも照らし、社会通念上、原告の馬券購入行為を「対価を得て継続的に行う事業」であるということはできず、本件払戻金は事業所得に該当するということはできないと判断された。
■裁判所情報
東京地方裁判所 平成28年3月4日判決(舘内比佐志裁判長)(納税者敗訴)(原告控訴)
東京高等裁判所 平成28年9月29日判決(中西茂裁判長)(納税者敗訴)(被控訴人上告)
最高裁判所 平成29年12月20日判決(菅野博之裁判長)(納税者敗訴)(棄却・不受理)(確定)
争点
本件における馬券の払戻金に係る所得は一時所得か事業所得か。
判決
東京地方裁判所
→納税者敗訴
原告がJRAに対して労務の提供をした対価として交付されたものでないことは明らかである。(ゆえに事業所得に当たらない)(なぜなら、所得税法施行令63条より、事業所得は、「対価を得て継続的に行う事業」と規定してる為)
また、原告の馬券購入の方法は、一般の競馬愛好家による選定方法による馬券購入の範疇に入ると考えられるため、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するということはできない。(ゆえに、一時所得に該当する)
東京高等裁判所
→納税者敗訴
一連の馬券の購入は一体の経済活動の実態を有するものとは認められない。一般的な競馬愛好家による馬券購入の範ちゅうに入る通常の馬券購入が大量かつ継続的に行われたにすぎないとみるべきである。(ゆえに一時所得に該当する)
最高裁判所
→上告不受理(確定)
一時所得と事業所得
■所得区分のあらまし
所得税法では、その性格によって所得を次の10種類に区分している。
利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得、一時所得及び雑所得である。
■当事案との関係
当事案は、納税者が馬券の払戻金によって得た所得が、上記10種類のうちいずれかに該当するかが争われたが、納税者は、最判昭和56年4月24日を引用し、事業所得であると主張した。事業所得は、所得税法施行令63条十二号で規定されている「対価を得て継続的に行なう事業」であるという「対価性」が要件である。一方、一時所得には、一時所得3要件と呼ばれるものがあり、除外要件、非継続性要件、非対価性要件である。(下記参照)
■上記を前提として、所得税法と所得税法において、一時所得と事業所得を以下のように定義している。
■所得税法27条1項(事業所得)
事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得(山林所得又は譲渡所得に該当するものを除く。)をいう。
■所得税法34条1項(一時所得)
一時所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得及び譲渡所得以外の所得のうち、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないものをいう。
(除外要件、非継続性要件、非対価性要件の一時所得3要件)
■所得税法施行令63条(事業所得)
法第二十七条第一項(事業所得)に規定する政令で定める事業は、次に掲げる事業(不動産の貸付業又は船舶若しくは航空機の貸付業に該当するものを除く。)とする。
一 農業
二 林業及び狩猟業
三 漁業及び水産養殖業
四 鉱業(土石採取業を含む。)
五 建設業
六 製造業
七 卸売業及び小売業(飲食店業及び料理店業を含む。)
八 金融業及び保険業
九 不動産業
十 運輸通信業(倉庫業を含む。)
十一 医療保健業、著述業その他のサービス業
十二 前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業
キーワード
■キーワード
一時所得、自己の計算と危険、必要経費、営利目的、役務の対価、客観的証拠、経済活動、継続的行為、費用収益対応
■重要概念
自己の計算と危険
東京地裁/両者の主張
納税者の主張
“一時所得とは一時的、偶発的に生じた所得であるが、その具体的な要件としては、①利子所得ないし譲渡所得のいずれにも該当しないこと(除外要件)、②営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得であること(非継続要件)、③労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと(非対価性要件)の全てを充足することが必要である(所得税法34条1項)。これを本件についてみると、本件払戻金は、上記①ないし③の要件をいずれも充足しないから、一時所得には該当しない。”
“原告の馬券購入回数は、平成21年及び平成22年においては、1年当たり1500回から2000回、これによる払戻金の獲得回数は1年当たり100回から200回であった。なお、原告は、馬券の購入のうちの大部分は、PAT方式を利用していたが、馬券売場で馬券を購入することもあった。”
“原告は、各年における競馬開催日ごとに馬券購入金額、払戻金額及びその収支を記録するとともに、当該競馬開催日までの各数値の累計を記録していた。そして、原告は、各開催日ごとに数十万円から数百万円に及ぶ馬券を購入し、ほぼ全ての開催日において払戻金を獲得していた。”
“各年の収支は、次のとおりである。
原告は、平成17年から馬主業を始め、競走馬を保有維持するための資金が必要になるとともに、馬主として一般的な馬券購入者よりも豊富な情報を得ることができる立場にもなった。そこで原告は、その豊富な情報を利活用することにより、馬券購入行為を通じて利益を上げようと考え、次のような方法で馬券の購入を行っていた。”
“競走成績分析及び血統分析による各馬の実力と適性(天候、コース等)を把握し、馬主であることをいかした豊富な情報等を駆使し
選定した馬を中心に、馬番号連勝複式(馬連・三連複)及び馬番号三連勝単式(三連単)にて相当点数の馬券を購入する。具体的には、次のような選定過程を経て馬券を購入していた。
馬主として得られる情報などに基づいて、オッズに妙味がある馬Aを選定する。Aを選定できないレースでは、馬券を購入しない。
この選定方法から分かるように、例えば競走の結果がA、B、Cという着順になったとして、(A、B)及び(A、B、C)という
本件について見ると、①原告の馬券購入行為は原告個人の計算と危険において独立して営まれ、②原告が払戻金によって利益を獲得するために馬券を購入していたことからすれば、営利性、有償性が認められ、③原告の馬券購入の態様が毎週数十万から数百万円分に及ぶ大量かつ継続的なものであり、毎週必ず払戻金を得ていたことに加えて、原告が馬主でもあり競馬を通じて継続的に利益を得ることを目的とする社会的地位も認められることからすれば、これを反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる。したがって、本件払戻金は、事業所得に当たる。
“事業所得(所得税法27条1項、所得税法施行令63条12号)とは、①自己の計算と危険において独立して営まれ、②営利性、有償性を有し、かつ③反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいう〔最高裁昭和52年(行ツ)第12号同56年4月24日第二小法廷判決・民集35巻3号672頁〕。
本件について見ると、①原告の馬券購入行為は原告個人の計算と危険において独立して営まれ、②原告が払戻金によって利益を獲得するために馬券を購入していたことからすれば、営利性、有償性が認められ、③原告の馬券購入の態様が毎週数十万から数百万円分に及ぶ大量かつ継続的なものであり、毎週必ず払戻金を得ていたことに加えて、原告が馬主でもあり競馬を通じて継続的に利益を得ることを目的とする社会的地位も認められることからすれば、これを反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる。したがって、本件払戻金は、事業所得に当たる。”
“本件払戻金は、仮に事業所得に当たらないとしても、次のとおり、一時所得ではなく、雑所得に該当するものである。
また、本件払戻金は、全てJRAから原告に対し、原告が利益を得るために選定して購入した馬券が的中したことを原因として支払われているものであって、その所得発生に係る当事者及び原因は全て同一である。
本件払戻金の発生は極めて強度の継続性を有しており、かつ、これらの所得の発生は全て原告が利益を得る目的で大量かつ継続的に行っていた馬券購入行為に起因しているものであるから、これが所得の基礎に源泉性を認めるに十二分なものであって、「営利を目的とする継続的行為」に当たることは客観的に明らかである。”
競馬の偶然性を殊更に誇張する被告の主張が失当である。競馬の競走の結果は合理的根拠に基づき予想を立てることが可能なものであって、その予想における勝率には予想精度に応じた個人差が存在する。そして、その予想精度を高めることによって長期にわたって安定的に収入を得ることも可能であることは、既に客観的に実証されている事柄である。したがって、被告の競馬の競走の結果の偶然性を殊更に誇張する主張及びその主張を前提とするその余の主張は、いずれも失当である。
“競馬の競走の結果が出走馬の能力に大きく依存し、そこに結果を左右する他の要素が加わるとしても、競走結果に影響を与える可能性がある様々な考慮要素のうち、どれを取り入れてどれを除外するか、また、それらを如何なる方法論を用いて分析し、その分析結果をどのように馬券購入に反映させるかは、まさしく馬券購入者の個性及び能力が反映されるところである。”
“実際に、様々な方法論を採用した競馬の予想ソフトや支援ソフトが多数存在し、それらの中にはユーザーが独自の設定を施すことが可能なものも多数存在する。ましてや、そうしたソフトを使用していない場合であれば、その予想方法は馬券購入者の数だけ存在するといえよう。”
“したがって、馬券購入者ごとに多様な個性が存在すること、換言すれば、競走結果の予想における勝率は馬券購入者ごとに異なるものとなる。そして、試行回数が少ない場合には、予想が正確な者が負け、予想が不正確な者が勝つこともあるが、その試行回数が多くなるにしたがって、大数の法則(経験的確率は、その試行回数が増すにしたがって理論的確率へと収束していくという法則)により、馬券購入者の勝率は、それぞれの予想の正確性に見合った確率へと収束していくこととなる。”
“競馬を通じて安定的に収入を得ることも可能であることは、たった100万円のみを元手とし、それ以上の資金を一切追加することなしに、平成19年には1億0036万6670円、平成20年には2637万2200円、平成21年には1334万6010円もの雑所得(いずれも必要経費控除後の金額)を得た事例があることからも明らかである〔最高裁平成26年(あ)第948号同27年3月10日第三小法廷判決・刑集69巻2号434頁参照。以下、同判決を「別件最高裁判決」という。〕。このように、競馬の競走の結果は合理的根拠に基づき予想を立てることが可能なものであって、その予想における勝率には予想精度に応じた個人差が存在する。そして、その予想精度を高めることによって長期にわたって安定的に収入を得ることも可能であることは、既に客観的に実証されている事柄である。”
原告の極めて大量かつ継続的な馬券購入及び払戻金獲得の態様からも、原告が営利の目的を有して馬券を購入していたことは客観的に明らかである。また、本件においては、原告は、金額・回数ともに極めて多量の馬券購入行為を繰り返していたのであって、その程度は余暇に楽しむ娯楽などという域を遥かに超えている。利益を得ることを目的とした活動によって結果的に赤字が続いてしまったとしても、それによって目的の営利性が否定されることになるわけではないのは当然のことである。
“馬券購入者は、払戻金を獲得することを目的として馬券を購入するのであるから、そこに営利の目的があることを否定することはできない。ましてや、本件における原告の馬券購入行為は、その購入額が毎週数十万円から数百万円に及び、原告がそれによって毎週必ず払戻金を獲得していたことは証拠上明らかであり、かつ、そのことについて争いもない。
したがって、その極めて大量かつ継続的な馬券購入及び払戻金獲得の態様からも、原告が営利の目的を有して馬券を購入していたことは客観的に明らかである。また、本件においては、原告は、金額・回数ともに極めて多量の馬券購入行為を繰り返していたのであって、その程度は余暇に楽しむ娯楽などという域を遥かに超えている。
さらに、競馬によって安定的に収益を上げることは可能である。加えて、利益を得ることを目的とした活動によって結果的に赤字が
“先物取引やFX取引による所得と競馬による所得の間で取扱いを異にする合理的理由は存在しない。先物取引やFX取引により、取引対象に対する実需要を有しない投資家が差金決済による取引を行った場合に得られた所得は、雑所得(又は事業所得)に当たるとされている。そして、そのような差金決済による取引においては、損得の差額の受渡しが行われるのみであって、資産の譲渡の実体が存在しないことから、それによる所得は「資産の譲渡による所得」(所得税法33条1項)と解することはできず、譲渡所得には当たらないとされている。
そうであるから、先物取引等による損益が「資産の譲渡の対価としての性質を有するもの」に該当すると解することを理由に雑所得に該当するということはできない。また、先物取引のうち、指数先物取引においては、その対象は日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)などの指数であり、「資産の譲渡」としての実体のみならず、もはやその形式すらも存在しない将来の指数の変動を予測する賭博である。それにもかかわらず、課税の面においてはこうした指数先物取引を区別することなく、雑所得(又は事業所得)とされているのである。
すなわち、こうした指数先物取引による所得は、それを一時所得ではなく雑所得とすることを「資産の譲渡の対価」としての性質を有することから説明することは不可能であるにもかかわらず、現実の課税実態としては雑所得とされている。したがって、先物取引等による所得が一時所得ではなく雑所得とされる理由を「資産の譲渡の対価」に当たることから説明し、それによってこれらの取引による所得と競馬による所得の取扱いの差異を正当化することはできない。”
以上より、本件払戻金が営利を目的とする継続的行為から生じた所得であることは明らかである。原告は、購入馬券の選定方法についても、個々の馬券の的中率に着目するのではなく、全体としての回収率に着目し、その方法によって馬券を購入した場合には論理的に当然に外れ馬券が生じることを理解しながら、トータルでの収支がプラスになるように購入馬券を選定していたのであるから、本件払戻金が一時的、偶発的な所得であるとは到底いうことができない。
“別件最高裁判決は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、文理に照らし、行為の期間、回数、頻度その他の
ある所得が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当するか否かは、その文言上、行為の①営利目的及び②行為の継続
また、①営利目的の存否は②行為の継続性からの推認のみによって認定されるものではなく、行為者が所得を生じさせる行為を行うに際して詳細な収支記録を作成していたことなど、その一連の行為を通じて全体として利益を上げることを意図していたことが明らかとなる資料が存在する場合には、そのこと単体によっても①営利目的の存在が明らかとなる。
すなわち、②行為の継続性の有無を判断する際の考慮要素としては、「行為の期間、回数、頻度その他の態様」が検討されなければ
国税庁の主張
原告は、本件払戻金は、事業所得に当たる旨主張すが、原告の馬券購入行為は、払戻金を得る期待値が0.75でしかなく、客観的に利益を得る可能性があるとはいえず、営利性を認めることはできない。また、競馬は、一般的に趣味娯楽の類とされており、社会的地位が客観的に認められる業務であるとはいえないし、原告は、馬主としての事業所得のほか、平成20年分において5482万0705円、平成21年分において4957万1935円、平成22年において4302円6000円の各給与所得を得ており、生活資金の大部分を当該所得により得ていたと認められることから、原告の馬券購入行為は、単なる所得の処分行為にすぎない。
さらに、馬券購入行為から安定した収益を得られていなかったことからすると、社会通念上、原告の馬券購入行為を「事業」と評価することはできず、本件払戻金は、事業所得に該当しないというべきである。
“原告は、本件払戻金は、事業所得に当たる旨主張する。
しかしながら、原告の馬券購入行為は、払戻金を得る期待値が0.75でしかなく、客観的に利益を得る可能性があるとはいえず、営利性を認めることはできない。
また、競馬は、一般的に趣味娯楽の類とされており、社会的地位が客観的に認められる業務であるとはいえないし、原告は、馬主としての事業所得のほか、平成20年分において5482万0705円、平成21年分において4957万1935円、平成22年において4302円6000円の各給与所得を得ており、生活資金の大部分を当該所得により得ていたと認められることから、原告の馬券購入行為は、単なる所得の処分行為にすぎないというべきであるし、社会的地位が客観的に認められる業務であるともいえない。さらに、馬券購入行為から相当程度の期間継続して安定した収益を得られる可能性があったとも認められないことからすると、社会通念上、原告の馬券購入行為を「事業」と評価することはできず、本件払戻金は、事業所得に該当しないというべきである。”
本件払戻金は一時所得に該当する。
一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、その基礎となる収入を発生させる個々の行為が、その性質上、客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得る行為であることが必要である。そして、このような解釈は、一時所得に対する課税の沿革からも裏付けられる。
“一時所得は、臨時的、偶発的、恩恵的な所得であるところに特徴があり、そのため担税力が低いとされ、所得金額の2分の1に相当
そうすると、一時所得から除外される「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、臨時的、偶発的、恩恵的な所得とはい
なぜなら、営利の目的が納税者の主観的認識のみに係るものであって、客観的に利益を生じる可能性がないのであれば、当該行為から生じる所得が臨時的、偶発的、恩恵的な所得でないとはいい難いからである。したがって、所得税法34条1項の一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、客観的に利益を得る可能性がある行為から生じた所得をいうと解すべきである。”
“所得税法は、「収入」を所得として課税対象としており、各所得区分に係る所得の金額の計算の出発点は「収入」とされ、個別の「
“そのため、一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」が、客観的にみて利益を発生させる可能性がある
“収入を発生させる個々の行為がそれ自体では収入を発生させ得ず、当該行為以外に行為者には左右し得ない他の事象又は事実
そのため、収入を発生させる個々の行為が客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得るといえるか否かは、収入を発生させる個々の行為のみをみて判断すべきであり、それ以外の外部的事情を考慮すべきではない。”
“以上のように、一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、その基礎となる収入を発生させる個々
“本件払戻金は、原告が交付を受けた払戻金の集積であるから、本件払戻金の基礎を成す収入とは、レースの結果により発生する個々
したがって、本件払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」に当たるか否かは、個々の馬券購入行
“そこで、馬券購入行為の性質を検討するに、競馬は公営賭博であるところ、そもそも賭博とは、当事者間において財物を賭け、偶然の事象によって勝敗を決することにより、その財物を得喪する行為であり、その行為から収入が発生することが不確実、不安定であることをその本質とするものであって、継続的、安定的に収入を発生させることが予定されていない性質の行為である。
競馬においても本来的に払戻金の発生は不確実であり、馬券購入行為だけでは払戻金が発生することはなく、各レースの結果により偶然に決定され、継続的、安定的に発生するものではない。しかも、各レースの結果は相互に影響しないから、それぞれの払戻金は完全に別個独立に発生し、一つの払戻金という収入を発生させた行為は、当該的中馬券を購入した行為のみであり、レースの結果払戻金が発生すればそこで完結するのであるから、多数回の馬券購入行為を総体的に観察したからといって、その性質が変わるものではない。
さらに、競馬においては、全馬券の販売金額のうち約75%の金額のみが払戻金として的中馬券の購入者に分配されることとされており、その制度自体からして、馬券購入者の全員が払戻金を獲得し得ないように設計されている。以上のことからすると、馬券購入行為は、その行為の性質上、客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得る行為とはいえないものである。また、馬券購入行為は、馬券を1回購入すれば完了する一回的行為であり、本質的に一定期間継続して行われるものではない上、レースの結果払戻金が発生すればそこで完結するという性質を持つものであるから、客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得る行為とはいえない。
したがって、馬券購入行為自体の性質からすれば、本件払戻金は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とはいえず、非
原告は、競馬と先物取引等との比較をした上で、先物取引等の金決済に係る所得と競馬による所得の間で取扱いを異にする合理的理由は存在しない旨主張するが、先物取引等は、差金決済による取引であることからすると、いずれの損益も「資産の譲渡の対価としての性質を有するもの」に該当すると解することが可能であるから、非対価性要件を満たさず、雑所得(又は事業所得)に当たると考えられる。
“原告は、競馬と先物取引等との比較をした上で、先物取引等の金決済に係る所得と競馬による所得の間で取扱いを異にする合理的理由は存在しない旨主張するが、先物取引等は、差金決済による取引であることからすると、いずれの損益も「資産の譲渡の対価としての性質を有するもの」に該当すると解することが可能であるから、非対価性要件を満たさず、雑所得(又は事業所得)に当たると考えられる。また、先物取引等の差金決済により生ずる損益は、租税特別措置法41条の14の規定により、いずれも雑所得(又は事業所得)と規定されており、また、いずれの取引も非対価性要件を満たさないため、一時所得に該当せず、雑所得(又は事業所得)に当たるとしている。”
“先物取引等の本質は、それ自体によって収入を発生させ得る性質を有する売買行為であるのに対し、金を賭ける行為(馬券購入行為
“「役務の対価」というためには、当該所得が役務の提供先から得られるものであることが必要であるが、原告は、本件払戻金を構成する収入である払戻金の交付者であるJRAに対して何ら役務を提供していない。また、競馬の払戻金は、購入した馬券が的中することによって生ずるものであるから、本件払戻金が役務提供の対価としての性質を有するとは到底いえない。”
“したがって、本件払戻金は、「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」に該当し、非対価性要件を満たすものである。オ 以上のとおり、本件払戻金は、除外要件を満たし、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得」(非継続要件)であり、かつ「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」(非対価性要件)であるから、一時所得に該当する。”
東京高裁/両者の主張
納税者の主張
追加主張無し
国税庁の主張
追加主張無し
最高裁/両者の主張
納税者の主張
追加主張無し
国税庁の主張
追加主張無し
■国税庁
事業所得該当性を否定。
馬券購入行為は、払戻金を得る期待値が0.75でしかなく、客観的に利益を得る可能性があるとはいえず、営利性を認めることはできない上、競馬は、一般的に趣味娯楽の類とされており、社会的地位が客観的に認められる業務であるとはいえないし、原告は、馬主としての事業所得のほか、平成20年分において5,482万0705円、平成21年分において4,957万1,935円、平成22年において4,302円6,000円の各給与所得を得ており、生活資金の大部分を当該所得により得ていたと認められることから、原告の馬券購入行為は、単なる所得の処分行為にすぎず、本件腹戻し金は事業所得とは言えないとした。
そして、本件払戻金は一時所得に該当すると主張。
一時所得から除かれる「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とは、その基礎となる収入を発生させる個々の行為が、その性質上、客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得る行為であることが必要であることは、一時所得に対する課税の沿革からも裏付けられ、馬券購入行為は、馬券を1回購入すれば完了する一回的行為であり、本質的に一定期間継続して行われるものではない上、レースの結果払戻金が発生すればそこで完結するという性質を持つものであるから、客観的にみて継続的、安定的に収入を発生させ得る行為ではなく、したがって、馬券購入行為自体の性質からすれば、本件払戻金は、「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」とはいえないとした。
また、納税者は、JRAに対し、何ら役務の提供も行っていないため、非対価性要件を満たし、一時所得該当3要件を全て満たすことから、本件払戻金は、異ch時所得に該当するとした。
なお、先物取引等は、差金決済による取引であることからすると、いずれの損益も「資産の譲渡の対価としての性質を有するもの」に該当すると解することができるから、非対価性要件を満たさず、雑所得(又は事業所得)に当たることは妥当であると主張した。
■納税者
納税者は、本件払戻金いは対価性を有するとし、事業所得該当を主張した。
具体的には、一時所得3要件の内、利子所得ないし譲渡所得のいずれにも該当しないこと(除外要件)、労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないこと(非対価性要件)を充足しないと主張した。
事業所得(所得税法27条1項、所得税法施行令63条12号)について、最判昭和56年4月24日を引用し、①自己の計算と危険において独立して営まれ、②営利性、有償性を有し、かつ③反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと主張。①原告の馬券購入行為は原告個人の計算と危険において独立して営まれ、②原告が払戻金によって利益を獲得するために馬券を購入していたことからすれば、営利性、有償性が認められ、③原告の馬券購入の態様が毎週数十万から数百万円分に及ぶ大量かつ継続的なものであり、毎週必ず払戻金を得ていたことに加えて、原告が馬主でもあり競馬を通じて継続的に利益を得ることを目的とする社会的地位も認められることからすれば、これを反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められるから、本件払戻金は、事業所得に当たると主張した。
仮に事業所得に当たらないとしても、次のとおり、一時所得ではなく、雑所得に該当するろ主張した。
原告は、個々のレースの結果を楽しむ程度を遥かに凌駕して、毎週数十万から数百万円分に及ぶ馬券購入行為を繰り返し、毎週にわたり払戻金を得ており、大量かつ継続的な馬券購入行為によって継続的、恒常的に払戻金を得ていたから、本件払戻金の発生は極めて強度の継続性を有しており、かつ、これらの所得の発生は全て原告が利益を得る目的で大量かつ継続的に行っていた馬券購入行為に起因しているものであるから、「営利を目的とする継続的行為」に当たると主張した。
大阪事件最高裁判決を引用しつつ、原告は、購入馬券の選定方法についても、個々の馬券の的中率に着目するのではなく、全体としての回収率に着目し、その方法によって馬券を購入した場合には論理的に当然に外れ馬券が生じることを理解しながら、トータルでの収支がプラスになるように購入馬券を選定していたのであるから、本件払戻金が一時的、偶発的な所得であるとは言えないと主張した。
また、先物取引やFX取引により、取引対象に対する実需要を有しない投資家が差金決済による取引を行った場合に得られた所得は、雑所得(又は事業所得)に当たるとされているから、先物取引やFX取引による所得と競馬による所得の間で取扱いを異にする合理的ではないと主張した。
関連する条文
所得税法
27条(事業所得)
1項
2項
34条(一時所得)
1項
2項
35条(雑所得)
1項
2項
37条(必要経費)
1項
2項
所得税法施行令
63条(事業所得)
所得税基本通達
34-1(一時所得の例示)
東京地裁/平成28年3月4日判決(舘内比佐志裁判長)/(納税者敗訴)(原告控訴)
ある所得が事業所得に当たるか否かは、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験及び社会的地位等を総合的に考慮し、所得税法等の趣旨及び目的に照らし、社会通念によって判断すべきである。
このような規定からすれば、事業所得とは、自己の計算と危険において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反覆継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいうと解するのが相当であり(前掲最高裁昭和56年4月24日判決参照)、このことからすれば、ある所得が事業所得に当たるか否かは、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験及び社会的地位等を総合的に考慮し、所得税法等の趣旨及び目的に照らし、社会通念によって判断すべきである。”
“本件払戻金を構成する収入は、公営賭博である競馬における的中馬券の払戻金であるところ、一般に、払戻金の発生及びその額の多寡は、偶然の要素に多分に左右され、本来的に偶発的なものであって、馬券購入行為によって継続的、かつ確実に利益を上げることは困難であるというべきであるし、本件払戻金が、原告がJRAに対して労務の提供をした対価として交付されたものでないことも明らかである。
ところで、競馬における競争の結果は、出走馬の能力のほか不確定かつ不確実な要素に基づくものであり、その払戻金の額は、馬券の販売金額の約75%を的中した馬券にあん分したものとされるのであるから、馬券が的中するか否か、及びその的中した場合に得られる払戻金の額の多寡については、偶然の要素が強く働き、馬券購入行為から生ずる所得は、本来的に偶発的、単発的であるということができ、また、継続的、かつ確実に利益を上げることが困難なものといえる。そして、このことは馬券の購入を大量かつ連続して行ったとしても異なることはないから、馬券購入行為を大量かつ連続して行っていたとしても、それだけで、的中馬券に対する払戻金が「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」に該当することはないと解される。”
“もっとも、上記のとおり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断すべきものであることからすれば、自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる場合などには、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たることになるものと解される。”
“その収支は、年単位でいずれも多額の損失が生じているのであって、また、その主張のとおり、少なくとも3年間のほぼ全ての土日において馬券を購入し、払戻しを受け、購入金額や払戻金額はいずれも合計で1億円を超える年もあるなど多額であり、年単位で購入回数が1500回から2000回、払戻金獲得回数が100回から200回であったとして、それを考慮に入れたとしても、一般的な馬券購入行為が連続して多数回行われたというものにすぎないのであって、原告の馬券購入行為が一般的な馬券購入行為と質的に異なるものであるということはできない。”
“そうすると、原告の馬券購入行為については、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮しても、上記のような一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するものということはできず、したがって、本件払戻金は、営利を目的とする継続的行為から生じた所得に該当するということはできない。”
“原告は、先物取引やFX取引における差金決済による取引を行った場合には、その所得が雑所得(又は事業所得)に当たるとされているところ、競馬の払戻金による所得の取扱いとの差異を正当化することはできないなどとして、本件払戻金が一時所得に該当しない旨主張する。
しかしながら、先物取引等は、現在の価格を基準にした将来の価格の騰落差額について予想し合うもので、その予想の当て合い自体が売買の形態をとって行われるものであり、その本質は、それ自体によって収入を発生させ得る性質を有する売買行為ということができるのであって、公営賭博である競馬とは、その本質を異にする。
したがって、先物取引等による所得が雑所得(又は事業所得)として扱われていることを理由に本件払戻金をも同様に扱われなければならないとする原告の主張は、採用することができない。”
“一時所得の要件として、「労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないもの」である必要があるとされているのは、対価性を有する所得は、たとえ一時的なものであっても偶発的に発生した所得ではなく、類型的にその担税力が対価性のない偶発的な所得の担税力よりも大きいと考えられるからである。
東京高裁/平成28年9月29日判決(中西茂裁判長)/(納税者敗訴)(被控訴人上告)
“いずれの所得区分に該当するかを判断するに当たっては、所得の種類に応じた課税を定めている所得税法の趣旨、目的に照らし、所得及びそれを生じた行為の具体的な態様を考察すべきであり、営利を目的とする継続的行為から生じた所得であるか否かは、行為の期間、回数、頻度その他の態様、利益発生の規模、期間その他の状況等の事情を総合考慮して判断するのが相当であるから、行為の期間、回数、頻度とその他の事情との間に考慮要素としての優劣はないというべきであるし、馬券購入行為が長期間、継続的かつ多数回にわたるものであったとしても、経済活動としての実態がない馬券購入行為が連続して多数回行われたにすぎない場合も考えられるから、馬券購入行為の期間、回数、頻度に加え、購入馬券の選定方法等の事情も考慮しなければ、一連の馬券購入行為が営利を目的とする継続的行為であるか否かを適切に判断することはできないというべきである。”
“そして、控訴人による一連の馬券購入行為が一体の経済活動の実態を有するものといえないことは、原判決説示のとおりである。
この点、控訴人は、大量に購入した馬券について個々の馬券の選定方法やその種類・数量を全て記録することは現実的ではなく、そのような立証を納税者に求めることは不可能を強いるものであるとも指摘するが、馬券購入行為が経済活動の実態を有するか否かを適切に判断するためには、一連の馬券購入行為の回数や頻度、収支の状況のみならず、どのような選定方法に基づき、どの種類の馬券をどの程度の数量で購入したかなどの馬券選定の具体的な態様を考慮する必要があり、それが明らかとならない以上、控訴人による一連の馬券購入行為を一体の経済活動の実態を有するものとみることはできないし、また、一連の馬券購入の方法が一体の経済活動といえるようなものであれば、確実に入手できる信頼性のある資料に基づいて、曖昧さのない合理的な仕組みによって購入する馬券とその数量が決定され、これが反復継続されているはずであるから、この方法を明らかにするように求めることが不可能を強いるものとはいえない。以上によれば、本件払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得とはいえず、控訴人の上記主張は理由がない。”
“先物取引等における差金決済は、売買の形態を用いて資産の売却金額相当額から取得価額相当額を差し引くというものであるから、それにより生じる損益をもって、資産の譲渡の対価としての性質を有すると解することも可能というべきであるが、競馬は、およそ売買行為を想定することができず、資産の譲渡の対価としての性質を有するものではないから、両者の所得区分を異なるものとしても不合理とはいえない。したがって、本件払戻金を先物取引等による所得と同列に扱い、雑所得に当たるとする控訴人の上記主張は理由がない。”
最高裁判所 平成29年12月20日判決(菅野博之裁判長)(納税者敗訴)(棄却・不受理)(確定)
■地裁、高裁ともに、納税者の主張を退け、事業所得該当性を否定した。最高裁は上告を受理しなかった。
■地裁は、ある所得が事業所得に当たるか否かは、営利性及び有償性の有無、反復継続性の有無、自己の危険と計算においてする企画遂行性の有無、その者が費やした精神的及び肉体的労力の有無及び程度、人的及び物的設備の有無、その者の職業、経験及び社会的地位等を総合的に考慮し、所得税法等の趣旨及び目的に照らし、社会通念によって判断すべきとしつつ、事業所得の要件である「対価性」を、本件払戻金は有さない、すなわち、納税者はなんらの役務もJRAに対し行っていないこと、平成20年分において5,482万0705円、平成21年分において4,957万1,935円、平成22年分において4,302万6,000円の給与所得を得ており、生活資金の大部分はその収入で賄っていたと考えられることから、本件馬券の購入行為は、対価を得て継続的に行う事業であるとは言えないとし、事業所得該当性を否定した。
■大阪事件で例外的に雑所得に認定された「自動的に購入するソフトを使用して独自の条件設定と計算式に基づいてインターネットを介して長期間にわたり多数回かつ頻繁に個々の馬券の的中に着目しない網羅的な購入をして当たり馬券の払戻金を得ることにより多額の利益を恒常的に上げ、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有するといえる場合などには、払戻金は営利を目的とする継続的行為から生じた所得として所得税法上の一時所得ではなく雑所得に当たる場合もある」と判示しつつ、納税者が毎期多額の損失を生じさせていることから、一般的な馬券購入行為がただ連続して多数回行われたというものにすぎないとし、営利を目的とする継続的行為から生じた所得と言えないとした。
■原告は、先物取引やFX取引と競馬の払戻金による所得の取扱いとの差異を正当化することはできないなどとして、本件払戻金が一時所得に該当しないとの主張に対しては、先物取引等における差金決済は、売買の形態を用いて資産の売却金額相当額から取得価額相当額を差し引くというものであるから、それにより生じる損益をもって、資産の譲渡の対価としての性質を有するとし、競馬とは本質的に異なると判示した。
■高裁も原審を全面的に支持した。
認定事実
■JRAは、競馬を行う団体として、日本中央競馬会法に基づき設立された法人である(同法1条、2条)。
■JRAが行う競馬を中央競馬といい(競馬法1条の2第5項)、現在、全国10箇所(札幌、函館、福島、新潟、中山、東京、中京、京都、阪神及び小倉)の競馬場において競馬が開催されている(同法2条、競馬法施行規則1条)。
■中央競馬は、その年間開催回数、1回の開催日数、1日の競走回数等が限定されており、年間開催回数は36回以内、1回の開催日数は12日以内、1日の競走回数は12回以内とされているほか、年間の開催日数は288日以内とされている(競馬法3条、競馬法施行規則2条1項。なお、同じ日に複数の競馬場で競馬が開催されている場合でも、別々の開催日として計算される。)。また、中央競馬については、開催の日取りについても制限されており、原則として、日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律に規定する休日、1月5日から同月7日まで又は12月28日のいずれかの日からなる日取りと規定されている(競馬法3条、競馬法施行規則2条2項)。JRAは、競馬を開催しようとするときは、開催競馬場、開催の日時、各開催日における各競走の番号、種類及び距離並びに開催執務委員の氏名を事前に農林水産大臣に届け出なければならない(日本中央競馬会法施行規則13条1項)。
■馬券の発売は、その競走に出走すべき馬が確定した後に開始し、競走の発走の時までに締め切らなければならず(競馬法施行令8条)、勝馬投票法の種類ごとの勝馬は、その競走の開催執務委員の着順の宣言により確定し(競馬法施行規則7条8項)、勝馬投票の的中者に対し払戻金が交付される仕組みになっている(競馬法8条)。
a 単勝式勝馬投票法
b 複勝式勝馬投票法
c 馬番号二連勝単式勝馬投票法
d 馬番号三連勝単式勝馬投票法
e 枠番号二連勝複式勝馬投票法
f 普通馬番号二連勝複式勝馬投票法
g 拡大馬番号二連勝複式勝馬投票法
h 馬番号三連勝複式勝馬投票法
i 五重勝単勝式勝馬投票法
a 場内発売
b 場外発売
c 電話・インターネットによる発売
(b) A-PATの加入者は、加入時にJRAが指定する銀行にPAT専用口座を開設しなければならない(A-PAT約定1条1項)。
(c) PAT専用口座では、競馬開催日及びその前後で各銀行が別に指定する時間は、原則として入出金を行うことができないため(A-PAT約定2条2項)、A-PATの加入者は、事前に馬券の購入資金をPAT専用口座に入金しておくこ
(d) PAT方式により購入した馬券の購入金額の支払と、的中馬券(勝馬の的中投票券)に係る払戻金等の振込みは、各節ごとにその節の直後の銀行営業日に、PAT専用口座において行われ(A-PAT約定14条1項及び2項)、同口座へ
■払戻金の計算方法
b 当該払戻金の額が馬券の券面金額に満たない場合は、その券面金額が払戻金の額とされるため(競馬法8条2項)、JRAが主催する中央競馬において、的中馬券の払戻金が購入金額(倍率1.0倍)を下回ることはない。
c 勝馬投票の的中者がない場合、原則として、その競走についての払戻対象総額を、当該競走における勝馬以外の出走した馬に投票した者に対し、各勝馬投票券にあん分して払戻金として交付するが(競馬法8条3項)、重勝式勝馬投票法(WIN5)について、的中者がない場合は、一定の金額がいわゆるキャリーオーバーされ、払戻金の計算に加算される(同法9条)。このように計算された払戻金の総額は、馬券の発売金額の約75%になる。
■原告による馬券の購入及び払戻しの状況
■原告の本件各係争年分における所得税の申告状況
■本件各処分の経緯
■本件訴えの提起
編集者コメント
馬券払戻金は対価性無し
■東京事件は、納税者が、馬主としての経験に基づく独自の予想ノウハウに基づき、競馬所得を得ており、これにより、損失が発生したした場合、従来の議論では、それが雑所得と認められても他の所得がある場合には損益通算が認められないところから、これを事業所得と主張した事件である。新たな争点の提起であった。一審から上告審まですべて納税者敗訴に終わり(上告は不受理)、所得区分も一時所得であると結論付けられた。
■事業所得は、所得税法施行令63条十二号で規定されている「対価を得て継続的に行なう事業」であるという「対価性」が要件である。
■当事案は、納税者が、原告の馬券購入行為は原告個人の計算と危険において独立して営まれ、原告が払戻金によって利益を獲得するために馬券を購入していたことからすれば、営利性、有償性が認められ、原告の馬券購入の態様が毎週数十万から数百万円分に及ぶ大量かつ継続的なものであり、毎週必ず払戻金を得ていたとから、事業所得に当たると主張したが、「対価性」について言及しておらず、苦しい主張であった。
■対価性を有しないことに加え、納税者はすべての年度で多額の損失を発生させているため、大阪事件、札幌事件で判示された「偶然性の減殺」すなわち、恒常的・継続的に利益を上げることによって証明される担税力を立証できない所得であったため、一時所得認定は、妥当であったと考える。
重要概念/自己の計算と危険
事業とは、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動
■事業所得とは、各種の事業から生ずる所得のことであり(所得税法27条)、事業とは、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動のことであった(最判昭和56年4月24日)、農業・漁業・製造業・卸売業・小売業・サービス業・著述業等、種々の事業がある。
■ある経済活動が、事業に該当するかどうかは、活動の規模と様態、相手方の範囲等、種々のファクターを参考にして判断すべきであり、最終的には、社会通念によって決定するほかはないとされている(金子宏『租税法』)。
■弁護士の顧問料収入は、給与所得ではなく、事業所得に当たる場合が多い(上掲最判昭和56年4月24日)。
■弁護士が、破産管財人として受ける報酬も、業務に関する報酬として、事業所得に当たると解すべきとされている(最判平成23年1月14日、大阪高判平成20年4月25日、大阪地判平成18年10月25日)。
弁護士会の行う無料法律業務に従事した対価として、弁護士会から支給される担当弁護士の日当も、事業所得に含まれる(大阪高判平成21年4月22日)。
執行官がその職務上得る所得は、給与所得ではなく、事業所得である(札幌地判昭和50年6月24日)。電気会社との委託検診契約に基づき、受領した委託手数料も、事業所得に含まれる(福岡地判昭和62年7月21日)。
事業の廃止に伴い、あるいは事業を廃止したのち、その清算過程において原材料の処分によって得た所得は、譲渡所得ではなく、事業所得に含まれるべきと判示されている(最判昭和32年10月22日、東京高判昭和33年2月28日)。
山林の伐採または譲渡が事業として行われる場合であっても、その山林の所有期間が5年を超える時は事業所得ではなく山林所得となる(所得税法32条)。
■このようにみていくと、事業に該当するか否かについては、自己の計算と危険において営利を目的とし対価を得て継続的に行う経済活動とは定義されてはいるものの、ケースによって判断が難しい場合もある。今後もさまざまな判例を紹介していくのでぜひチェック見ていただけると幸いである。
事業所得の税制優遇措置
■事業所得については、租税特別措置法10条から28条の4に多数の特別措置が設けられている。平成25年度以降の税制改正では、いわゆるアベノミクスの一環として、①試験研究費の所得控除又は税額控除の範囲の拡大と控除率の引き上げ(技術革新措置。租税得特別措置法10条)、➁高度省エネルギー増進設備等を取得した場合の特別控除の改正(同10条の2)、③地方活力向上地域において雇用者数が増加した場合の所得税額の特別控除(同10条の5)、④特定中小事業者が経営改善設備や特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却ないし特別税額控除(同10条の5の2、5の3)をはじめ、多数の特別償却ないし特別税額控除の改正ないし創設が行われた。
■不公平税制として、長らく批判の対象とされてきた医師優遇税制(同26条)は昭和63年の改正で、社会保険診療報酬が5,000万円を超える場合には適用されないこととされ、概算経費率も現行の4段階とされたが、さらに平成25年度改正で医業等の総収入金額が7,000万円を超える場合には適用されないことと改正された。平成30年度の改正で特に注目されたのは、給与等の引き上げ及び設備投資等を行った場合等の税額の特別控除であった(同10条の5の4)。
■その他の裁判例
先物取引が事業にあたるとされた例(名古屋高判昭和43年2月28日)、株式取引が事業に当たらないとされた例(最判昭和53年10月31日、名古屋地判昭和60年4月26日)、コンサルタント契約に基づき受領した報酬が事業所得に当たるとされた例(東京高判平成5年10月27日・上告審最判平成7年6月29日)等がある。
併せて読みたい/馬券事件(横浜事件)
原告(納税者)が得た競馬所得の所得区分が争われ、「対価を得て」継続的に行う事業に当たるとはいえないこと等から事業所得に該当せず、一時所得に該当するとされた事例(東京高裁 平成29年9月28日判決)(上告不受理)
原告は自ら競馬予想プログラムの開発を行い、馬券の的中によって得た払戻金による所得を専業として生計を立てており、その規模は数年間にわたり年間数千万円から数億円という大規模なものであった。
裁判所は、原告は自ら開発した競馬予想プログラムを用いているとはいえ、買い目の的中率を予想した上で、期待値が高い馬券を選び、要所では自らの判断も入れて馬券を購入しており、その馬券の購入方法は一般の競馬愛好家と質的に異ならないとした。
そして、競馬所得に係る収入は、JRA(日本中央競馬会)から原告に交付された競馬の払戻金であり、自作の競馬予想プログラムを用いてレースを分析、予測したとしても、その役務はJRAに提供されたものではないから、役務の対価として原告が払戻金を得るわけではなく、またレースの結果という偶然の事情により発生するものであり、「対価を得て」継続的に行う事業に当たるとはいい難いとした。
“控訴人による馬券の購入は、予想的中率及び期待値算出のために多くの演算処理を行うこと、馬券の購入が長期間にわたり多数回かつ頻繁であることを除けば、買い目の的中に着目した一般の競馬愛好家による馬券の購入と異なるところはなく、一連の馬券の購入が一体の経済活動の実態を有することが客観的に明らかであるとはいえないから、これによる競馬所得は、一時的・偶発的所得としての性質を失わず、一時所得の非継続性要件及び非対価性要件をいずれも満たすというべきである。”