倉庫PE事件

目次

「準備的又は補助的な性格」にとどまらない

概要

非居住者が販売事業の用に供していたアパート及び倉庫が日米租税条約に規定する恒久的施設に該当するとされた事案。

相関図

概要

■概要
■非居住者が販売事業の用に供していたアパート及び倉庫が日米租税条約に規定する恒久的施設に該当するとされた事例。

■米国在住の非居住者である納税者(控訴人)は、米国から本邦に輸入した自動車用品を日本国内にあるアパート及び倉庫に保管し、インターネットを通して専ら日本国内の顧客に対して販売をしていた。

■本件アパート等では、商品を保管し、従業員が梱包した上で発送し、返品された商品の受け取りを行っており、また、本件事業のホームページには、アパートの住所が表示しており、販売活動で利用していた楽天市場は日本国内に事業所があることを出品の条件としていた。

■裁判所は、本件アパートが顧客にとって販売事業の事業主体の所在地として認識できる唯一の場所であり、本件アパート等を販売拠点として事業活動を行っていたと認定。これにより日米租税条約5条の適用除外には該当せず、本件アパートは恒久的施設に該当し、本件アパート等を通じて行った事業は国内源泉所得とされ、課税対象とする課税庁の主張を認めた。
■裁判所
東京地方裁判所 平成27年5月28日判決(増田稔裁判長)(棄却)(控訴)
東京高等裁判所 平成28年1月28日判決(富田善範裁判長)(棄却)(上告受理申立て)    
最高裁判所 平成29年4月14日決定(菅野博之裁判長)(不受理)(確定)

争点

本件アパート等は、日米租税条約5条の規定する恒久的施設に該当するか否か(本件アパート等は、同条4項(a)号により恒久的施設から除外すべきものに該当するか否か)。

判決

東京地方裁判所
→納税者敗訴

東京高等裁判所
→納税者敗訴

最高裁判所
→上告不受理

日米租税条約とPE該当性

日米租税条約
アメリカと我が国との租税条約。
原条約 署名日:2003年11月6日 発効日:2004年3月30日
改正議定書 署名日:2013年1月24日 発効日:2019年8月30日

第5条(恒久的施設)
「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っている場所をいうと規定されている。さらに、「恒久的施設」には、特に、次のものを含むと規定されている。
事業の管理の場所、支店、事務所、工場、作業場、鉱山、石油又は天然ガスの坑井、採石場その他天然資源を採取する場所。
さらに「建築工事現場、建設若しくは据付けの工事又は天然資源の探査のために使用される設備、掘削機器若しくは掘削船については、これらの工事現場、工事又は探査が十二箇月を超える期間存続する場合には、恒
久的施設を構成するものとする」とされている。

さらに同条4項において、以下のものはPEから除外することが明示的に規定されている。
「恒久的施設」には、次のことは、含まないものとする。
(a)企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること。
(b)企業に属する物品又は商品の在庫を保管、展示又は引渡しのためにのみ保有すること。
(c)企業に属する物品又は商品の在庫を他の企業による加工のためにのみ保有すること。
(d)企業のために物品若しくは商品を購入し又は情報を収集することのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。
(e)企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。


PE該当性
日米租税条約を含めて、一般に租税条約上のPE(物理的PEに帰属)に該当するには、事業を行う一定の場所であって、その場所を通じて企業がその事業の全部又は一部を行っている必要がある(5条①)。具体的には、次の通りとなる。

<物理的PEに該当するための要件>
①事業を行う「場所」であること
②その場所が地理的に「一定」していること
③その場所が時間的に「一定」していること
④自己の場所であること
⑤その場所を「通じて」
⑥自己の事業は行われること

キーワード

■キーワード
OECD、OECDモデル租税条約、PE、アパート、倉庫、インターネット、帰属主義、国内源泉所得、国連モデル租税条約、梱包、準備的又は補助的な性格の活動、条約優先主義、倉庫業、通信販売業、日米租税条約、非居住者、保管、輸入販売業

■重要概念
帰属所得

東京地裁/両者の主張

納税者の主張

被告は、ある施設が日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に該当するためには、当該施設における活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要する旨主張している。

しかしながら、以下述べるとおり、同項各号が適用されるためには、ある施設における活動が同項各号に規定された活動であれば足り、それに加えて、当該活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要しない。

被告の主張は、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に記載されていない要件を解釈で読み込むものであり、文理解釈に反する。また、ある施設が「準備的又は補助的な性格の活動」に該当するならば、当該施設は同項(e)号によって恒久的施設から除外されるのであるから、被告の主張によれば、同項(a)号ないし(d)号には全く存在意義がないこととなってしまい、極めて不合理である。

 国際的に広く使用されている租税条約のモデルには、OECDモデル租税条約のほか、国連モデル租税条約が存在しているところ、国連モデル租税条約が物品又は商品の「引渡し」を行う施設(倉庫)を恒久的施設から除外していないのに対し、OECDモデル租税条約は、上記施設(倉庫)を恒久的施設から除外している。

日米租税条約5条4項は、OECDモデル租税条約5条4項と同文であるが、日米租税条約5条4項(a)号及び(b)号に物品又は商品の「引渡し」が含まれているのは、「引渡し」が準備的又は補助的な性格の活動であるという理論的な根拠によるものではなく、「引渡し」を行う施設(倉庫)があることだけを理由としては、源泉地国に課税権を帰属させないという政策的判断をしたことによるものと解すべきである。

また、被告の主張によれば、国連モデル租税条約5条4項(a)号とOECDモデル租税条約5条4項(a)号は、全く同じ結論を導くこととなってしまい、国連モデル租税条約が発展途上国の課税権を広く認めるものとされ、租税条約の締約国が国連モデル租税条約とOECDモデル租税条約とを使い分けている事実を説明することができない。

被告は、OECDコメンタリーの記載内容等を根拠として、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示である旨主張している。

しかしながら、OECDコメンタリーは、準備的又は補助的な性格を有する活動のみを行う場所は恒久的施設に当たらないということを述べているにすぎず、恒久的施設から除外される場所が、準備的又は補助的な性格を有する活動のみを行う場所に限られるとは述べていないのであって、上記主張は、OECDコメンタリーを誤読するものである。

OECDの検討チームは、OECDモデル租税条約5条について、条文やコメンタリーの改訂作業を進め、OECDの見解を記載した報告書の原案を公表するなどしており、2012年報告書が現時点で最新のものである。

2012年報告書は、同条4項各号に規定されている活動は準備的又は補助的な性格の活動でなければならないのか否かという問題点を掲げた上で、同項(a)号ないし(d)号の適用に関し、当該場所で行われている活動が「準備的又は補助的な性格の活動」に限られる必要はないという統一見解を明らかにしており、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の解釈においても、上記見解を採用するべきである。

なお、2012年報告書は、最終版ではないが、その趣旨は、現在国際的に通用している理解をコメンタリーに明示するものであって、原告の主張を裏付けるものである。

原告は、原告が本邦を出国してから本件倉庫を賃借するまでの間、本件アパートを商品の倉庫として使用し、本件倉庫を賃借した後は、本件倉庫を商品の倉庫として使用していた。したがって、本件アパート等における活動は、日米租税条約5条4項(a)号の定める「企業に属する物品又は商品の保管、展示又は引渡しのためにのみ施設を使用すること」に当たり、本件アパート等は「恒久的施設」に該当しない。

本件アパートは、本件倉庫を賃借した平成18年12月以降の期間において、基本的に無人であり、原告が時折帰国した際に宿泊するために使用していたにすぎず、後述するとおり、本件アパートに本件受注ソフトの入ったデスクトップパソコンが置かれていたという事実もない。

したがって、本件アパートは、上記期間において、本件販売事業を行う「一定の場所」(日米租税条約5条1項)として使用されておらず、「恒久的施設」に該当しない。この点、被告は、本件アパート等が一体として一連の事業活動を行う場所であったなどと主張している。

しかしながら、ある場所が恒久的施設に該当するか否かは、当該場所において行われる活動に照らして判断するべきであり、当該場所で行われたのではない活動を理由として、当該場所が恒久的施設に該当すると判断することはできないのであって、上記主張は、日米租税条約5条4項の趣旨を没却するものである。なお、被告は、原告ホームページ等に本件アパートの住所等が記載されていることを指摘しているが、単に原告ホームページ等に住所等が記載されたこと自体は、本件アパート等における活動ではなく、日米租税条約5条4項(a)号の適用に際して考慮すべき要素には当たらない。

被告は、本件訪問調査記録に基づき、本件販売事業における本件アパート等の使用態様等について主張している。

しかしながら、本件訪問調査記録は、本件調査担当職員と原告との間の会話内容を記録したものではなく、本件訪問調査の際に見聞した内容と想像に基づき杜撰に作成された虚偽の証拠であり、その内容が不正確であることは、本件原告てん末書の内容と食い違っていることからも明らかである。

例えば、本件訪問調査記録には、原告が米国から本件従業員に対してメールで発送指示を行い、本件従業員がメールデータを発送に関する伝票に出力させる、本件従業員が原告からのメールを確認し、本件倉庫のパソコンを操作して原告から送信されたデータを本件受注ソフトに取り込み、納品書等を出力するなどと記載されているが、原告が本件従業員にメールで発送指示をしたり、本件従業員が本件アパート等のパソコンに入力したりすることはなく、これらの記載内容は事実と異なる。

被告は、本件丁てん末書を根拠として、原告が米国に移住した後も、本件受注ソフトが入っているデスクトップパソコンが、本件アパートにおいて、ホストコンピュータとしての役割・機能を担っていた旨主張している。

しかしながら、本件受注ソフトを入れたデスクトップパソコンは、本件出国の際にアメリカに移送され、米国にある原告の事務所において、本件販売事業に使用されていたのであり、被告の上記主張は事実に反する。本件丁てん末書は、丁に対して書類の作成目的を知らせず(丁は自身に対する税務調査と思い込んでいた。)、読み聞かせなどもせずに杜撰に作成されたものであって信用できない。

なお、丁は、本件丁調査の際、本件丁てん末書の写しを交付されず、内容を精査して訂正することもできなかったが、陳述書において、本件丁てん末書における主な誤りを指摘して説明している。

原告は、本件出国をした後、米国において、①商品及び商品仕入れ先の開拓、②原告ホームページ等の作成、③日本語取説書の作成、④商品の仕入れ(発注)及び決済、⑤顧客からの注文メールの受信及び同メールに対する返信による契約締結、⑥上記メールの加工による商品発送資料の作成、⑦顧客への出荷完了メールの発信及び佐川急便への発送データの送信、⑧顧客からの返品申入れに対する対応、⑨顧客からの質問メール(その多くが自動車や自動車部品の専門的知識を要するものである。)に対する対応、⑩顧客業者からの見積依頼に対する回答、⑪市場調査、⑫上記⑪に基づく販売価格の設定といった業務を行っており、これらの業務は、いずれも本件販売事業の運営上極めて重要であり、代替性のないものであった。

本件アパート等で働いていたのは、特段の研修や訓練を受けていないパートタイマー(本件従業員)である。本件従業員が本件アパート等で行っていた活動は、①仕入れ商品の受入れ(米国から国際宅急便等で配送された商品を開梱して原告が作成した商品リストと照合し、棚に並べるなどの作業)、②商品の発送(原告が用意した商品発送資料に従い、棚から商品をとって梱包し、佐川急便が荷物を受け取りに来た際に引き渡す作業)、③返品された商品を受け入れ、米国へ発送するといった作業であり、その内容は、専門知識や経験を要しない単純なものに限定されていた。

以上のとおり、本件販売事業における中核的な業務は、原告が米国で行っており、本件アパート等において本件従業員が行っていたのは、商品の受取り(返品を含む。)、保管及び発送という機械的な単純作業だけである。したがって、仮に、日米租税条約5条4項(a)号を適用するためには、本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要するとの解釈(被告の主張)を採用したとしても、本件アパート等における活動は重要性に欠けるのであって、日米租税条約5条の規定する恒久的施設には該当しない。

被告は、本件従業員が商品に日本語取説書を同梱する活動が準備的又は補助的な性格を超えるものである旨主張している。しかしながら、日本語取説書は、原告が米国で作成し、日本の印刷業者に外注して本件アパート等に納入させたものであり、日本語取説書も別個独立の商品である。本件従業員は、商品(自動車用品)を発送用の段ボールに梱包する際、原告の発送指示書に従い、日本語取説書も当該段ボールに入れているのであって、日本語取説書を同梱して発送すること自体が日米租税条約5条4項(a)号に該当する。

そして、複数の商品(自動車用品及び日本語取説書)を同梱して同時に発送することは、同号に該当する行為を組み合わせたものにすぎず、同号の適用によって恒久的施設から除外され、同項(f)号は問題にならないと解すべきである、

被告は、顧客から返品を受け入れ、代替品を発送することが、準備的又は補助的な性格を超えるものである旨主張している。

しかしながら、顧客から返品される商品は、既に顧客の所有権を離れ、原告の所有する「企業に属する物品」となっており、本件従業員が当該商品を受け取って保管し、米国に運送するため原告の手配する宅配業者に引き渡すことは、いずれも日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引渡し」に該当するのであり、同号の範囲を超える活動には当たらない。

なお、原告は、本件アパート等において、OECDコメンタリーが「アフターセール」と呼ぶような活動(保守や修理作業と補修部品の提供を合わせて行うこと)は全く行っていない。

被告は、原告が原告ホームページ等において本件アパートの住所等を記載したことにより、本件アパート等をアフターサービス(顧客からの返品の受取り及び代替商品の発送)を行う場所として利用し、本件アパート等が一体として本邦内の事業所としての役割・機能を果たしていたなどと主張する。

しかしながら、前述のとおり、本件従業員が本件アパート等で行っていた返品の受取りや代替品の発送は、アフターサービスではなく、単なる「保管」及び「引渡し」にすぎず、本件アパート等をアフターサービスを行う場所として利用していたという事実はない。

また、原告は、原告ホームページやメールにおいて、本件販売事業に関する連絡先として本件アパートの住所等を記載していたが、これらの記載は、米国にある原告の事務所において行われたものであり、本件アパート等における活動には当たらない。

OECDモデル租税条約5条4項は、ある場所で事業活動が行われていることを前提とし、事業活動が行われていない場所が何らかの抽象的な「機能」のゆえに恒久的施設になるわけではない(なお、OECDコメンタリーには、ウェブサイト自体が恒久的施設に該当しない旨の結論が明記されている。)。

さらに、本件アパートは、前述のとおり、本件倉庫を賃借して以降、無人であり、本件アパート宛ての郵便物は原告が帰国するまで放置され(ただし、本件アパート宛てに配送される荷物は、原告が宅配業者に対し転送の手配を行った結果、本件倉庫に転送されていた。)、本件販売事業に関する顧客からの連絡は、全て電子メール及びファックスによって行われ、いずれも原告が米国の事務所において処理していたのであるから、本件アパートの住所等が原告ホームページ等に記載されていたことは、顧客が実際に原告に連絡する方法とは全く関係がない。

なお、本件アパートの住所等が原告ホームページ等に記載されていることに何らかの宣伝広告的な機能があったとしても、それは本件アパートの機能ではなく、原告ホームページ等の記載の機能である。

国税庁の主張

日米租税条約5条1項の規定する恒久的施設が存在するというためには、①「事業を行う場所」があること、②事業を行う場所が「一定」であること、③事業が一定の場所を「通じて」なされることの要件を充足する必要がある。

原告は、本件出国後も、本件販売事業における商品の保管や発送を行う拠点として、本件アパート等を利用していたから、本件アパート等は、いずれも上記①ないし③を満たし、同項に規定する恒久的施設に該当する。なお、本件出国から本件倉庫が賃借されるまでの間は、本件アパートが恒久的施設に該当し、その後は、本件アパート等が一体として恒久的施設に該当する。

日米租税条約5条4項各号は、同条1項に規定する恒久的施設の一般的定義に対する例外として、その活動の機能の側面から恒久的施設とされない場合を規定しているところ、同項(a)号ないし(d)号は、それぞれ「準備的又は補助的な性格の活動」を例示したものであり、事業を行う一定の場所における活動が上記「準備的又は補助的な性格の活動」であるか否かを判断するに当たっては、事業を行う一定の場所での活動が、本来、企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否かということを規準にすべきである。

また、同項(a)号ないし(d)号は、それぞれに規定された活動のみを行っている場合を指し、これ以外の活動については、同項(e)号により、また、同項(a)号ないし(e)号に掲げる活動を組み合わせた活動については、同項(f)号により、いずれも準備的又は補助的な性格を維持しているか否かによって、恒久的施設に該当するか否かを判断することとなる。

この点、原告は、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に該当するためには、当該活動が準備的又は補助的な性格の活動であることを要しない旨主張している。

しかしながら、日米租税条約5条1項、2項及び4項は、OECDモデル租税条約5条1項、2項及び4項と同様の規定振りとなっており、OECD理事会勧告により、加盟国は、二国間条約の規定の解釈適用において、OECDモデル租税条約のコメンタリー〔以下「OECDコメンタリー」といい、その年度を特定する場合には「OECDコメンタリー(2003年)」などと表記する。〕に従うべきものとされているところ、OECDコメンタリーは、同項全体が準備的又は補助的な性格の活動について規定したものであることを明確に示しており、日米租税条約の逐条解説にも同様の規定がある。さらに、日米租税条約5条4項各号の規定振りなどに照らせば、同項(a)号ないし(d)号は、準備的又は補助的な性格の活動を例示したものであると解すべきである。

原告は、国連モデル租税条約とOECDモデル租税条約を比較して、OECDモデル租税条約に準拠した日米租税条約5条4項(a)号が、「引渡し」のための施設を恒久的施設にしないとの政策的判断をしたなどと主張しているが、前述のとおり(上記a)、OECDモデル租税条約5条4項(a)号は、OECDコメンタリーに従って解釈されるのであり、国連モデル租税条約の規定内容と比較することは無意味である。

原告は、OECDの検討チームが、2012年(平成24年)10月19日に公表した報告書(甲24。以下「2012年報告書」という。)において、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の適用に関し、当該場所で行われている活動が準備的又は補助的な性格の活動に限られる必要はないとの見解を明らかにしており、日米租税条約5条4項(a)号についても、同様に解釈すべきである旨主張している。

しかしながら、OECDは、現時点の条文解釈について検討を行っているにすぎず、その一時点における検討状況のみを取り出して、本件各係争年における適用条文の解釈指針とすることはできず、条文改正や新たな見解によって、OECDモデル租税条約及び日米租税条約の従前の解釈やそれが通用していた当時の適用関係が変更されることにはならない。

本件アパート等における活動は、以下述べるとおり、商品を保管・管理するほか、商品に日本語取説書を同梱して、佐川急便を介して顧客に商品を引き渡し、顧客から不良品の返品を受けて顧客に代替品を引き渡すことなどであり、日米租税条約5条4項(a)号の活動のみに限定されるものではない上、これらの一連の活動は、本件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成する一連の事業活動であり、同項(e)号及び(f)号の準備的又は補助的な性格の活動を超えたものである。

したがって、本件アパート等は、同項各号のいずれにも該当せず、同条の規定する恒久的施設に該当する。

本件販売事業は、インターネット等を使った方法により売買契約の申込みを受けて行う商品の販売、すなわち通信販売である(特定商取引法2条2項参照)ところ、商品の引渡しのための発送等の活動は、通信販売の本質的かつ重要な部分を形成している。また、通信販売においては、対面取引と比べて商品の返品の可能性が高く、返品に関する手続等も重要な部分を形成している。

原告は、インターネット又はファックスを通して顧客から注文を受けると、在庫確認の上、本件アパート等に設置されたパソコンに注文内容のデータを送付し、本件従業員に、本件アパート等において、同データを商品管理システム(マクロ機能を読み込んだエクセルファイル。以下「本件受注ソフト」という。)に取り込ませて自動的に納品書を作成させ、商品を日本語取説書と共に梱包させ、佐川急便を介して宅配の方法で顧客に引き渡していたのであり、本件アパート等においては、通信販売の本質的かつ重要な部分を形成する発送等の活動が行われていた。

さらに、原告は、顧客から返品を受ける際には、原告ホームページ等に記載された本件アパートの住所に宛てて商品を送らせ、転送届により本件アパートから転送された商品を本件倉庫において受け取っていたのであり、本件アパート等は、通信販売の重要な部分を形成する返品等に関する手続において、顧客に返品先として認識される場所(本件アパート)及び顧客からの返品を受ける場所(本件倉庫)として、それぞれ利用されていた。c この点、原告は、本件倉庫を賃借した平成18年12月以降、本件アパートが無人であり、本件アパートと本件倉庫における一連の活動を一体とみることはできない旨主張している。

しかしながら、本件アパートは、同月以降も、原告ホームページ等において、本件企業の住所として表示されるなどしていたのであり、本件アパート宛てに返品された商品が本件倉庫に転送されていた。また、楽天市場は、本邦に事業所がなければ出店することができず、後述する事情を併せ考えれば、本件アパート等は、原告ホームページ等上で本邦内の事業所として周知され、現実に本邦内の事業所としての機能・役割を果たし、有機的に一体的に機能していたものというべきである。

原告は、原告ホームページにおいて、商品を国内最安値の低価格で販売することを本件販売事業の特徴として宣伝しているところ、このように販売価格を抑えることができるのは、原告があらかじめある程度の数量の商品をまとめて本邦に輸入することで運送料等を節減しているためである。

また、原告は、原告ホームページ等において、商品の注文から引渡しまでが短期間であることを商品販売の条件として表示しているところ、このように短期間で商品の引渡しができるのは、原告があらかじめ輸入した在庫商品を本件アパート等に確保しているためである。

以上によれば、本件アパート等に商品を確保しておき、本件アパート等から商品を発送するという活動は、低価格の代金設定や短期間の引渡条件の実現にとって不可欠であって、本件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成しているということができる。

本件従業員は、本件アパート等において、商品の出入りを確認し、在庫数等の情報を本件受注ソフトに入力して、米国にいる原告に同情報を提供していたと認められる。

原告は、上記情報により、顧客から注文を受けた商品を即座に発送できるか(売買契約を成立させるか)を判断する指標を得ていたのであり、このような在庫管理は、単に在庫をその場に保管することとは一線を画し、準備的又は補助的な性格を超えるものである。

原告は、売上げの増加を図るために日本語取説書を無料で添付することとし、その旨を原告ホームページ等で広く宣伝するなどしているところ、本件従業員が本件アパート等において日本語取説書を商品と組み合わせて引き渡すという行為は商品価値を高める重要な事業活動であって、上記活動は、準備的又は補助的な性格を超えるものである。

本件従業員は、本件アパート等において、顧客からの返品を受け取り、代替商品を発送していたところ、これらは、本件販売事業における事後的な補完措置(アフター・サービス)としての機能を有する活動であって、準備的又は補助的な性格を超えるものである。

原告は、原告ホームページ等に掲載する商品等の写真を、米国の自宅のみならず、本件倉庫においても本件従業員に撮影させていたところ、顧客に提供する商品情報として商品等の写真を撮影するという活動は、準備的又は補助的な性格を超えるものである。

本件受注ソフトを作成した丁(以下「丁」という。)に対する調査(以下「本件丁調査」といい、本件丁調査に係る質問てん末書を「本件丁てん末書」という。)によれば、本件受注ソフトは、原告が本件倉庫を賃借する前はもとより、本件倉庫を賃借した平成18年12月以降も、本件アパートのデスクトップパソコンに入れられていたことが認められ、本件受注ソフトが本件販売事業における情報を集中して処理していることに鑑みれば、上記パソコンはホストコンピュータであったということができる。

さらに、本件販売事業においては、顧客に対して確認メールを送信した時点で契約が成立するところ、上記確認メールの送信に先立ち在庫確認をするためには上記システムが必要不可欠であって、本件アパートに設置された上記パソコン(ホストコンピュータ)は、販売契約の締結において、不可欠かつ中心となる役割・機能を担っていたものと認められる。

東京高裁/両者の主張

納税者の主張

原審は、日米租税条約5条4項(a)号に該当するためには、当該施設で行われる具体的活動が準備的又は補助的な性格の活動であることを要すると解しているが、上記解釈は、以下のとおり、日米租税条約5条4項及びOECDモデル租税条約5条4項についての国際的に一般的な解釈に反する誤ったものである。

2012年報告書は、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号につき「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることを要しないと解すべきことを明らかにしているところ、2012年報告書は、OECDコメンタリーと同様に、OECD租税委員会がOECDモデル租税条約の立法当局による条文の理解、解釈を示すために執筆したものであるから、OECDモデル租税条約及びこれに準拠する日米租税条約の解釈に際し、条約の準備作業等に匹敵する参照価値を有し、条約法に関するウィーン条約32条の「解釈の補足的な手段」に当たるものとして、参照されるべきである。

原審は、2012年報告書につき、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号についての「準備的又は補助的な性格を有する活動」であるとの従来の解釈を、OECDコメンタリーの改訂により変更することを提案したものであって、本件各係争年における日米租税条約5条4項の解釈に当たり上記提案に従わなければならないものではないとするが、このような2012年報告書の法的位置付けは、誤ったものである。

また、2012年報告書は、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号について現在、国際的に通用している解釈を変更すべきであると述べているのではなく、現在、国際的に通用している解釈を、誤解のないようにOECDコメンタリーに明示すべきであると述べているのであって、原審の上記解釈は、2012年報告書を誤読したものである。

OECDが、本件各係争年以前の2004年当時から、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号につき「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることを要しないと理解していたことは、2012年報告書がパラグラフ71で引用する「事業所得に関するテクニカル・アドバイザリー・グループ(以下「TAG」という。)による2004年レポート『現在の租税条約における事業所得課税ルールは電子商取引に適用することが適切な内容となっているか?』」(以下「2004年報告書」という。)にも示されている。

2004年報告書は、1999年にOECD租税委員会が設立したTAGが、電子商取引についての現行の租税条約に基づく課税ルールが適切かどうかを検討し、課税ルールの変更案を評価検討した報告書であり、現行ルールの評価の際、現行のルールと、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の各号に「当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であること」との要件を追加するという代替案とを比較して、代替案への変更(条約自体の変更)がどのような効果をもたらすかを分析しており、これは、OECDが、2004年当時から、OECDモデル租税条約の現行条文に基づけば、5条4項(a)号ないし(d)号の適用に当たり、準備的又は補助的な性格の活動であることとの要件は適用されないと解していたことを示している。

OECDモデル租税条約5条4項の前身である1963年のOECDモデル租税条約草案5条3項は、(e)号において「企業のためもっぱら広告、情報の提供、科学的調査又はこれらに類する準備的若しくは補助的性質の活動を行うため事業を行う一定の場所を保有すること」と規定し、準備的若しくは補助的性質の活動として、広告、情報の提供及び科学的調査又はこれに類するものを想定しており、これと、同項(a)号ないし(d)号に該当する活動の内容とが並列の関係とされていた。

OECDモデル租税条約草案5条3項の規定から、同項(a)号ないし(d)号に掲げる個別事由が、同項(e)号の「これらに類する準備的若しくは補助的性質の活動」の例示であると読み取ることは不可能である。

OECDモデル租税条約5条4項では、OECDモデル租税条約草案5条3項(a)号ないし(c)号の文言がそのまま維持される一方、同項(e)号の文言から広告、情報の提供及び科学的調査の3つの例が除かれたが、これは、立案者が、これらの具体的列挙がなくても、準備的若しくは補助的性質の活動の該当性を判断できると考えたからにすぎず、OECDモデル租税条約草案5条3項(e)号の適用範囲が変更されたからではない。

後のOECDコメンタリーにおいても、OECDモデル租税条約5条4項(e)号の規定によって、同項(a)号ないし(d)号の適用の要件が追加されるように、上記草案の文言を修正したといった類の記述は見当たらない。

そうだとすれば、OECDモデル租税条約5条4項においても、上記草案当時のルール、すなわち、上記草案5条3項(a)号ないし(e)号に掲げる個別事由は、(e)号の例示ではなく、それ自体として解釈すべきものであり、(e)号によって、(a)号ないし(d)号の適用に要件が追加されることはないというルールが維持されていると考えるべきである。

原審の解釈は、以上のOECDモデル租税条約草案の内容及びその後のOECDモデル租税条約が定められた経緯に照らしても、誤りである。

原審の解釈によれば、OECDモデル租税条約5条4項(a)号の適用範囲と国連モデル租税条約5条4項(a)号の適用範囲は、後者が物品又は商品の「引渡し」を行う施設(倉庫)を恒久的施設から除外していないにもかかわらず、(e)号が同文である限り、全く同じになり、発展途上国の課税権限を広く認めるという国連モデル租税条約5条4項(a)号による効果が存在しないことになる。

我が国及び米国は、日米租税条約締結時に、上記のOECDモデル租税条約と国連モデル租税条約との違いを考慮した上で、あえてOECDモデル租税条約型の条文を選択したのであり、「引渡し」に該当する活動のみを行う施設を、恒久的施設に該当させないとの課税権の範囲に関する政策的合意があったことが読み取れる。

原審の解釈は、上記の政策的合意に反して、「引渡し」のみを行う施設であっても、その活動が「準備的又は補助的な性格の活動」の範囲を超えていれば、恒久的施設に該当すると扱うものであり、誤ったものである。

控訴人が主張するOECDモデル租税条約5条4項の解釈は、国際租税法及び租税条約に関する複数の重要かつ基本的な文献においても支持されている。租税条約及び国際税法の国際的権威であるフィリップ・べーカー英国王室顧問弁護士(以下「ベーカー弁護士」という。)の「二重課税に関する条約」(2012年2月。以下「新ベーカー文献」という。)は、国際的に広く行われている標準的見解を述べる趣旨のものであるところ、新ベーカー文献には、OECDモデル租税条約5条4項の解釈につき、「モデル条約自体の条文によれば、対象の活動が準備的又は補助的な性質であるか否かが問題となるのは、個別のリストに含まれない活動〔(e)号〕及び活動の組み合わせ〔(f)号〕の場合だけである。」等の原審の解釈に正面から反する記載がある。また、クラウス・フォーゲルの「二重課税に関する条約」(以下「フォーゲル文献」という。)は、1991年にドイツ語版が発行されて以来、改訂が重ねられ、更に英訳版が発行され、租税条約に関する最も権威のある教科書の一つと考えられているところ、フォーゲル文献の英訳版第3版には、商品の引渡しを行う施設が、巨大で、企業の収入の大部分がそれなしでは成り立たないようなものであったとしても、すなわち、経済的にみればとても準備的・補助的活動とはいえない場合であっても、そのような施設にも5条4項は適用され、恒久的施設から除外されるということが明言されている。

上記記述は、原審の解釈がOECDモデル租税条約5条4項についての基本的な国際的理解に反する誤ったものであることを示している。

原審は、日米租税条約5条4項(e)号の「その他の」との文言が例示の関係を示す場合に用いられる用語であること及びOECDコメンタリーの内容を根拠として、上記(ア)の解釈を導いている。

しかしながら、同項(e)号の「any other/その他の」との文言から、上記(ア)の解釈を導くことはできない。

日本の法令や契約書においては、「その他」と「その他の」という用語は使い分けられ、「その他の」は例示の関係を示す場合に、「その他」は並列関係を示す場合に、それぞれ用いられるとされているが、上記の使い分けは、国内立法においてすら必ずしも徹底されているものではないから、「その他の」との文言を解釈の主要な根拠とすることは、国内法の解釈の場合ですら誤りである。

条約は、用語の通常の意味に従い、誠実に解釈しなければならず(条約法に関するウィーン条約31条1項)、法令の文章や用語を通常の意味に理解し又は字義通りに解釈するという文理解釈の手法によって解釈されるべきところ、日米租税条約5条4項(e)号の「その他の」との文言は、通常の意味に理解し又は字義通りに解釈すると、「そこに挙げてあるもののほかの」という意味であり、条項の構造に併せて読んだとしても、「(a)号ないし(d)号に掲げる活動のほかの」との意味でしかなく、それを超えて「準備的又は補助的な性格である同項(a)号ないし(d)号に掲げる活動以外の」という意味を読み込むことはできない。

以上からすれば、原審の解釈は、文理解釈の限界を超えるものであって、用語の通常の意味に従った誠実な解釈とはいえないから、条約法に関するウィーン条約31条1項に反する。

さらに、日米租税条約は、日本語及び英語を正文とする条約である上、日米租税条約5条4項はOECDモデル租税条約5条4項に準拠して定められているところ、同項と同一の文言となっているのは、日米租税条約5条4項の英語の正文であるから、同項に関する文理解釈は、英語の正文から導けるものでなければならない。

日米租税条約の条項には、「その他の」という用語が、例示ではなく並列の意味で用いられている部分があるから、同項(e)号に「any other」(「その他」又は「その他の」)との文言が使用されているというだけでは、例示を意味するのか並列関係(「その他の」との文言の前に掲げた事項を除き、それ以外のという意味)を意味するのか判断できない。

したがって、「その他の」との文言を理由として、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号が同項(e)号の「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解釈することは誤りである。

加えて、原審が引用するOECDコメンタリーのパラグラフ21は、OECDモデル租税条約5条4項に挙げられている活動の共通の特徴が、一般的に、準備的又は補助的な活動と考えられている活動であること及び同項の制定趣旨が、一定の場所に関して、同条1項の「恒久的施設」の一般的定義に対する例外を規定しようとするものであるということを述べるものであって、原審のように、(a)号に個別に規定された活動が準備的又は補助的な性格でないとの理由をもって、(a)号の適用を否定することまで意味しているわけではない。

OECDコメンタリーには、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に「当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であること」との追加的要件を課すべきであるとの記載もない。したがって、OECDコメンタリーの記載内容は、原審の解釈を支持するものではない

本件アパート等が日米租税条約5条4項(a)号に該当しないとした原審のの(ママ)判断は、以下のとおり、事実の評価及び同号の適用を誤るものである。

原審認定事実によれば、本件倉庫において一日2時間働くパートタイマー数人(本件従業員)が本件アパート等において行っている業務は、①商品の受取り・保管業務、②商品の梱包・発送業務、③返品された商品の受取り・代替品の発送業務等、④商品写真の撮影(平成20年4月頃以降のみ)であるところ、これらは全て日米租税条約5条4項(a)号の「商品の保管」又は「引渡し」に該当する。

原審は、本件従業員が、日本語版取扱説明書(日本語取説書)のある商品について日本語取説書を同梱する作業をしていることを捉えて、商品の経済的価値を高める活動であり、単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えると説示する。

しかしながら、OECDモデル租税条約5条4項(a)号の「保管、展示又は引渡し」は、これらと当然に結びつく全ての活動、例えば、梱包や発送を含むと解されている。

そして、複数の商品を同梱することによって商品の引渡しを受ける消費者にとっての価値や利便性が上がる場合であっても、それら複数の商品の組み立てを行ったり、改変を加えたなどの事情がない限り、同梱の作業が「引渡し」の範囲を超える活動であるとはいえないから、原審の上記判断は、事実の評価及び日米租税条約5条4項(a)号の適用を誤るものである。

また、原審は、上記③の業務につき、「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるとし、控訴人が顧客に対し初期不良品の返品を受け取る旨を申し入れ、本件アパートを返品先として、本件企業の負担において返品を受け取るという一連の活動全体が、商品を購入した顧客に対する事後的なサービスを形成しており、その一部分を切り取って「保管」又は「引渡し」として単純化すべきではないと判示する。

しかしながら、控訴人は、保証期間内の無償修理を含め、商品の修理は一切引き受けておらず、いわゆるアフターサービスは行っていないから、顧客が所有する商品を本件アパート等で受け取るということはない。

控訴人は、商品に初期不良が見つかった場合には、売買契約の取消しという形で返品を受けており、売買契約が取り消されて顧客から返品された商品は、既に顧客の所有権を離れ、「企業に属する物品」となっているのであるから、本件従業員がそれを受け取って本件アパート等で保管し又は控訴人の指示に従って米国に返送するために控訴人の手配する宅配業者に引き渡すことは、商品の納入を受けてそれを宅配業者に引き渡すのと同じく、日米租税条約5条4項(a)号に規定された「企業に属する物品」の「保管」又は「引渡し」である。

また、控訴人の指示に従って代替品を発送することは、当初の商品の発送と同じく、同号にいう商品の「保管」又は「引渡し」である。

原審の上記判断については、返品された商品の受取行為が、個別にみたときには「保管」又は「引渡し」に該当するのに、全体としてみるとサービスの性質が変わってしまうとする理由が不明であるし、全体としてみたからといって、これを事後的サービスと評価するのも妥当でない。

また、仮に、商品に初期不良が見つかった場合の返品の受付が経済的に事後的なサービスの機能を有すると評価できるとしても、それらの活動が全て「保管」又は「引渡し」に当たることに変わりはない。

OECDモデル租税条約5条4項(a)号に関するOECDコメンタリーも、企業が保守作業や修理作業を行わず、物品又は商品の引渡しを行うだけの場所は、それが補修部品の引渡しを行う場所である場合であっても、恒久的施設から除外されるという立場を堅持しており、このような理解からしても、本件アパート等が「恒久的施設」に該当すると評価する余地はない。

原審は、上記④の業務につき、単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるとするが、上記④の業務が行われるようになったのは、平成20年4月頃以降のことであるから、それ以前については、上記④の業務を本件アパート等における活動として考慮する余地はない。

また、同月以降においても、上記④の業務は、「保管」に該当する活動というべきである。

すなわち、控訴人は、原則として、メーカーから商品の写真を入手し、写真のないものについては独自に写真撮影をして控訴人のホームページ等に使用しており、本件従業員が商品の写真を撮影するのは、控訴人がメーカーから商品の写真を入手することができず、かつ、控訴人が米国で当該商品の写真を撮影し忘れたという例外的な場合だけである。

このような場合に控訴人が当該商品の写真を自ら撮影することができないのは、当該商品が本件倉庫に保管されているからであり、本件従業員が当該商品の写真を撮影して控訴人に送ることは、保管業務に付随する活動であるから、「保管」に該当するというべきである。

また、本件従業員が当該商品の写真を撮影する行為は、控訴人のホームページに写真を掲載して当該商品を展示するための前提行為であるから、上記写真撮影行為は「展示」に該当するということも可能である。

上記のような例外的な場合の写真撮影の事実のみをもって、写真撮影を全く行っていなかった時期も含めて本件倉庫を恒久的施設と認定することは、条理に反する。

原審は、本件アパート等を本件企業の本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)と認定し、商品の保管又は引渡しのためのみに使用する場所とはいえず、日米租税条約5条4項(a)号に該当するとはいえないとする。

しかしながら、原審の上記認定は誤りであり、本件アパート等が販売拠点であることは、日米租税条約5条4項(a)号該当性を否定する根拠とならない。

その理由は、次のとおりである。「販売拠点」すなわち販売活動を行う場所(事業所)であるというためには、現実に販売活動が行われる場所でなければならない。

インターネットを通じた販売活動であっても、人間又は人間がプログラミングした機械が、インターネットという通信手段を通じて顧客からの注文を受け取り、受注の可否を判断し、受注した旨を顧客に連絡し、代金の支払を確認した上で、商品の発送を指示する活動を行っているのであるから、そのような現実の販売活動を行っている場所を販売拠点というべきところ、控訴人は、米国の事務所において自らこれらの活動を行っていたのであるから、上記事務所こそが本件販売事業の販売拠点である。

一方、本件アパートでは、これらの販売活動は一切行われていないから、本件アパートを販売拠点と認定する余地はない。

原審が本件アパートを販売拠点と認定する根拠として挙げるもののうち、控訴人が本件販売事業のウェブサイトに本件アパートの所在地を表示していたことは、本件アパートにおいて販売活動が行われたと認める根拠とはなり得ない。

また、本件販売事業の販売活動が全てインターネットを通じて行われたとの事実も、通信販売事業の通信手段としてインターネットという技術を利用したというだけのことであって、電話や郵便を利用していた旧来の通信販売事業者について電話に応対する等の人間が居た場所が販売拠点(事業所)とされるのと同様に、本件販売事業についても控訴人が居た米国の事務所が販売拠点となるのであって、これらの活動が行われていない無人の本件アパートが販売拠点となることはない。

さらに、本件販売事業の事業形態が本件アパート等に保管された在庫商品を販売するものであるということについても、平成18年12月以降は在庫商品は本件倉庫に保管されており、本件倉庫に保管されている在庫商品を販売することは、本件アパートとは何ら関連しない事実であるし、在庫商品が本件アパートに保管されていた平成17年1月から平成18年11月までの期間について考えても、本件アパートで販売活動が行われたとの事実や本件アパートが販売拠点であることの根拠には、およそなり得ない。

原審は、本件倉庫を本件アパートと一体としてみて本件販売事業の販売拠点と認定しているが、その認定も誤ったものである。

本件倉庫においては販売活動は一切行われていなかったから、本件倉庫を販売拠点と認定する余地はない。

また、本件アパートと本件倉庫は、徒歩で行き来ができないほど離れており、本件アパートは平成18年11月以降、無人の空室で、控訴人が年に1、2回日本に帰った際に宿泊する以外は、施錠されて立入りができない状態にあり、本件アパートと本件倉庫は、物理的にも運用上も、一体として機能している事実はなかった。

原審が本件倉庫について本件アパートと一体として販売拠点としての役割・機能を担っていたことの根拠として挙げるもののうち、控訴人が本件倉庫賃借後も本件販売事業のウェブサイトに本件アパートの所在地を表示していたことは、本件アパートと本件倉庫との関連性を示す事実ではなく、本件倉庫が販売拠点としての機能を有していたと判断する根拠ともならない。

また、本件企業が本件倉庫で商品の保管、梱包、発送等の業務を行っていたにもかかわらず、本件アパートを発送元として商品の発送を行っていたことも、単に控訴人が宅配便の伝票に記載される商品の発送元の表示として本件アパートの住所を使っていたことの結果にすぎず、本件倉庫と本件アパートを一体としてみる根拠にはならない。

さらに、本件企業において、顧客が返品を希望した場合には本件アパート宛てに商品を返送させ、転送届により本件アパートから本件倉庫に転送された商品を受け取っていたことについても、控訴人が送り先として本件アパートの住所が表示された宅配便についての配達先を本件倉庫に指定していた結果にすぎない。

配達先を本件倉庫に指定したことは、本件アパートの機能ではないから、本件倉庫と本件アパートとを一体としてみる根拠にはならない。

日米租税条約5条1項の定義によれば、恒久的施設とは、事業を行う一定の場所であって、企業が事業の全部又は一部を行っている場所であるから、ある場所が恒久的施設に該当するか否かは、企業としての活動(事業)の有無及び内容によって判断すべきである。原審が本件アパート等で行われたのではない活動の有無・内容によって本件アパート等を恒久的施設に該当すると判断したことは、同項の恒久的施設の定義に反する。

原審は、本件アパート等における活動が日米租税条約5条4項(a)号に該当しないことの根拠として、インターネット通信販売の利用者が取引の相手となる企業を選ぶに当たっては、当該企業が日本国内の企業であるかどうかが重要な判断要素の一つとなることを挙げる。

しかしながら、上記判断は、根拠のない独断である。日本最大規模のインターネット通信販売事業者の一つであるアマゾン・ジャパンを経営しているのは、日本法人ではなく、米国法人であることや、控訴人のウェブサイトに表示された住所が、東京や大阪等の都市部ではなく、兵庫県内の小さな町の住所であって、上記住所の表示が控訴人の事業に対する信用を生むような情報でないことからしても、上記判断は正しいものとは言い難い。

仮に、本件販売事業の事業主体が日本の企業かどうかが顧客の行動に影響を与えるとしても、そのことは、本件アパート等で現実に行われる活動の性質を左右するものではない。

本件アパート等が恒久的施設かどうかは、当該場所で現実に行われる活動が何であるかによって判断されるべきものであって、顧客の選好度合いによって左右されるべきものではない。

原審は、通信販売においては、その性質上、対面取引に比べて配送後の契約解除・返品の可能性が高く、顧客からの返品に対応することも重要な業務であると判示するが、本件販売事業においては、商品に初期不良が見つかった場合以外は返品を受け付けておらず、返品の発生は極めて稀である。

また、本件販売事業において商品に初期不良が見つかった場合における顧客からの返品への対応が重要な業務であることは、本件アパート等における活動が日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引渡し」に該当しない理由とはなり得ない。

なお、返品を求める顧客への対応は、本件従業員ではなく、控訴人が自ら米国の事務所において行っていた。

さらに、原審は、通信販売という事業形態においては、対面取引に比べ、商品の購入者に対する商品の配送(発送)業務が事業の重要部分を占めているなどと判示するが、上記判断も、根拠のない偏見である。

およそ販売事業においては、通信販売か対面販売かを問わず、最も重要なのは、商品に対する顧客の関心を引き、注文をさせ、契約を締結させる過程であり、本件販売事業においては、米国の事務所で控訴人が行っていた作業が最も重要な業務である。

対面販売において代金受領後に店頭で商品を梱包して顧客に手渡したり、売り場とは別の場所にある倉庫から顧客の指定する送り先に商品を配送する業務等に比べて、通信販売における商品の発送業務が特に重要性が高いということはない。

日米租税条約5条4項(a)号は、そのような「商品の引渡し」を行う場所は、恒久的施設に該当しないと規定しているものである。

国税庁の主張

日米租税条約5条4項(a)号につき「準備的又は補助的な性格の活動」に当たる活動を例示したものであるとした原審の解釈は、正当であって、上記解釈がOECDモデル租税条約5条4項の規定及びこれに倣った日米租税条約5条4項の規定についての国際的に一般的な解釈に反するとの控訴人の主張は、以下のとおり、失当である。a 控訴人は、2012年報告書につき、OECDコメンタリーと同等に、日米租税条約の解釈に当たり「解釈の補足的な手段」として参照されるべきであると主張する。

しかしながら、2012年報告書は、OECDコメンタリーとは異なり、OECDの租税委員会が執筆したものではなく、OECDの租税委員会の下に設置された作業部会が改訂提案として作成したものにすぎない上、これが検討された結果、改定された2014年のOECDモデル租税条約及びOECDコメンタリー(2014年)のいずれにおいても、5条4項の改訂又は同項の解釈の変更はされなかったのであって、その作成者及び内容面のいずれに照らしても、租税委員会が作成したOECDコメンタリーと同等のものとはいえず、「解釈の補足的な手段」として参照価値があるとは認められない。

現時点でOECDが公表している最新のコメンタリーであるOECDコメンタリー(2014年)の逐条解説においても、2014年に改正が行われたとはされておらず、上記逐条解説のOECDモデル租税条約5条4項に関する記載内容は、OECDコメンタリー(2003年)の逐条解説の記載内容と同趣旨であり、同項が定める活動に共通する特徴は「準備的又は補助的な性格の活動」であるということである旨を述べている。

また、OECDモデル租税条約5条4項に関するOECDコメンタリー(2014年)第21パラグラフの原文は、同項に関するOECDコメンタリー(2003年)第21パラグラフの原文と同文であり、いずれも、同項の活動の共通の特徴は、一般に、準備的又は補助的な性格の活動であることであると述べている。

以上のとおり、2012年報告書で公表されたOECDモデル租税条約5条4項に係る改訂提案は、OECDコメンタリーの改訂に盛り込まれなかったのであり、また、OECDにおいては、2003年当時から一貫して、同項に挙げられた活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であるとの解釈が採られており、現在もその解釈に変更はないから、2012年報告書の内容を、OECDコメンタリーと同様のものと位置付けることは到底できず、日米租税条約5条4項の「解釈の補足的な手段」とはならないというべきである。

控訴人は、2012年報告書が引用する2004年報告書を根拠として、OECDが2004年当時からOECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の適用に当たり準備的又は補助的な性格の活動であることを要しないと解していたとも主張する。しかしながら、2004年報告書は、OECDの租税委員会の下に設置された作業部会を更に補助するために設置されたTAGが、租税委員会に提出した検討段階の最終報告書であって、租税委員会が作成するOECDコメンタリーと同等のものではないから、同報告書をもってOECDの解釈であるとする控訴人の主張は、失当である。

また、2004年報告書の記載内容からは、TAGがOECDモデル租税条約5条4項に関して代替案を検討していたことが認められるにとどまり、この当時、OECDが、同項(a)号ないし(d)号の活動につき準備的又は補助的な性格の活動である必要はないと解していたとまで直ちに認められるものではない。

むしろ、2004年報告書の記載内容からは、TAGが、OECDコメンタリーに基づくOECDモデル租税条約5条4項の解釈について、「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要するものと解していたことがうかがわれる。したがって、2004年にTAGが代替案の検討を行ったことに依拠して、同年当時、OECDがOECDモデル租税条約5条4項各号の活動につき「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要しないと解していたとする控訴人の上記主張は、失当である。

控訴人は、日米租税条約5条4項(a)号に関する原審の解釈につき、1963年のOECDモデル租税条約草案5条3項(e)号の規定及びその後のOECDモデル租税条約が定められた経緯に照らし、誤りであるとも主張する。

しかしながら、1963年のOECDモデル租税条約草案5条に関するコメンタリーは、同条3項(e)号の「これらに類する準備的若しくは補助的性質の活動」との文言について、「3項の例外に挙げられていないが、それら掲記された項目の精神に合致するさらなる例を対象とする」趣旨であるとしている。上記コメンタリーの解説〔平尾照夫「租税条約の解説-OECD租税条約草案(租研シリーズ№1)」〕も、「又はこれらに類する準備的若しくは補助的性質の活動を行う」との規定の趣旨につき、第一に、恒久的施設からの除外を網羅的に列挙することを避け、しかもなお考えられる事例を救済しようとするものであり、第二に、第3項(e)号をして、恒久的施設の一般規定である第1項に対する一般化された除外規定たらしめるものであると解して、同項(e)号が同項(a)号ないし(d)号の一般条項であり、同項(a)号ないし(d)号は、準備的又は補助的性質の活動の具体例を示したものであると解している。

以上のとおり、OECDモデル租税条約草案5条3項の解釈からしても、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は、準備的又は補助的な性格の活動の具体例を示したものということができ、同項(a)号に関する原審の解釈は、上記草案5条の解釈に照らしても正当なものといえる。

控訴人は、国連モデル租税条約が「引渡し」を除外していることとの比較により、OECDモデル租税条約5条4項(a)号の活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要しないと主張する。

しかしながら、OECDモデル租税条約と国連モデル租税条約との比較によって明らかになるのは、国連モデル租税条約が、OECDモデル租税条約と異なり、「引渡し」を除外項目とせず、恒久的施設に含めるという考え方を採用したことのみであって、国連モデル租税条約の規定との違いは、OECDモデル租税条約及びこれに準拠した日税(ママ)租税条約5条4項(a)号の「引渡し」の解釈に影響を与えるものではなく、控訴人の上記主張は、失当である。

控訴人は、新ベーカー文献には原審の解釈に正面から反する記載があり、フォーゲル文献の記述は、原審の解釈がOECDモデル租税条約5条4項についての基本的な国際的理解に反する誤ったものであることを示していると主張する。

しかしながら、ベーカー弁護士が著した1994年刊行の「Double Taxation Conventions andInternational Tax Law」第2版(以下「ベーカー文献」という。)においては、OECDモデル租税条約5条4項の活動が全て準備的補助的な性格のものであることが明言され、そのうち(a)号ないし(d)号は具体的な活動を、(e)号はその他の準備的補助的な性質の活動を一切含むものとされているのであって、正に、5条4項は(a)号ないし(d)号を含めた全体が準備的補助的な性格の活動を指すと理解されている。

また、控訴人が引用する新ベーカー文献の記載は、控訴人主張の解釈を支持するものではない。控訴人が「モデル条約自体の条文によれば」と訳している「On the wording of the Model Article itself」は、より正確に反訳すれば、「モデル条約自体の条文の言葉遣いによれば」となり、控訴人引用部分は「モデル条約自体の条文の言葉遣いによれば、対象の活動が準備的又は補助的な性質であるか否かが問題となるのは、個別のリストに含まれない活動〔(e)号〕及び活動の組み合わせ〔(f)号〕の場合だけである。」等というものであり、素直に読めば、OECDモデル租税条約5条4項において、用語として「準備的又は補助的な性格の活動」という言葉を使っているのは(e)号と(f)号だけであることを述べているものと考えられる。

そして、控訴人引用部分の前後の記載内容等に照らすと、控訴人引用部分は、むしろ、5項4項全体が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを前提として記載されているものとみるのが相当である。

したがって、新ベーカー文献の上記引用部分に依拠した控訴人の主張は、引用部分の解釈を誤るものであり、失当である。フォーゲル文献も、補助的な施設が、規模が大きく、企業の収入の大きな部分を運営するような場合であっても、OECDモデル租税条約5条4項の除外リスト(同項各号)に該当する旨を述べるものであり、同項(a)号ないし(d)号が準備的又は補助的な性格の活動であることを前提として、同項各号該当性が、企業の規模や収入にかかわらず、その性格によって決せられることを明らかにしたものである。

同項(a)号ないし(d)号が準備的又は補助的な性格の活動を例示したものであるとの原審の解釈は、フォーゲル文献に何ら反するものではなく、原審の解釈がフォーゲル文献に示された同項の理解に反するとの控訴人の主張は、失当である。(イ) 控訴人は、日米租税条約5条4項(a)号についての原審の解釈が、文理解釈の限界を超えており、条約法に関するウィーン条約31条1項に反するなどと主張する。しかしながら、控訴人の上記主張は、原審の解釈を曲解するものである。

原審は、日米租税条約5条4項(e)号の「その他の」準備的又は補助的な性格の活動という規定振りのみを根拠として、同項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であるとの解釈を導いているのはなく、これに加えて、同項(f)号が、同項(a)号ないし(e)号所掲の活動を組み合わせた活動について、同項(a)ないし(e)号所掲の活動が「準備的又は補助的な性格」の活動であることを前提とした上で、各号を組み合わせることによって、その活動の全体が「準備的又は補助的な性格」を超える場合には、恒久的施設の対象から除外しない旨を規定したものと解するのが合理的であるとして、同項(f)号の内容をも根拠として、同項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解しているものである。

また、日米租税条約5条4項は、OECDモデル租税条約5条4項と同文であり、OECDモデル租税条約に準拠して定められたものであって、OECDコメンタリーに従うべきとされており、OECDコメンタリーは、条約法に関するウィーン条約32条の「解釈の補足的な手段」として、同条約31条の規定の適用により得られた意味を確認するなどのために依拠することができるものである。

原審は、OECDモデル租税条約5条4項各号に関するOECDコメンタリーの記述を挙げて、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号についての原審の解釈が、OECDモデルコメンタリーの上記記述と符合することを確認している。その判断手法は、条約法に関するウィーン条約32条に沿った合理的なものであり、原審の上記解釈がOECDコメンタリーに符合していることは、上記解釈を正当化する十分な根拠となるものである。以上のとおり、原審は、日米租税条約5条4項各号の文理に照らし、同項(a)号ないし(d)号を「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解釈したものであって、その文理解釈は、条約法に関するウィーン条約31条1項に何ら反するものではない。

本件アパート等における活動の認定及び評価についてa 控訴人は、日本語取説書の同梱作業につき「引渡し」の範囲を超える活動とはいえないと主張する。

しかしながら、本件販売事業において、主たる顧客である日本国内居住者に米国から輸入した商品を販売するに当たり、日本語取説書を同梱する行為は、それ自体が商品価値を高める活動といえるのであって、本件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成する活動を構成するから、準備的又は補助的な性格を超える活動といえるのであり、単に複数の商品を同梱し発送するなどの利便性を増すだけで商品価値を高めることのない行為とは、本質的に異なる。控訴人の上記主張は、本件販売事業における日本語取説書同梱作業の性質を見誤り、原審の判示を正解しないものであり、失当である

控訴人は、不良品の返品受取り及び代替品の発送についても、「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものではないと主張する。しかしながら、顧客から代替品の送付を要求されたのを受けて、代替品を提供するという一連の活動が、販売済みの商品に係る事後的な補完措置(アフター・サービス)であることは明らかであり、アフター・サービスとは商品の修理のみを指すかのような控訴人の主張は、失当である。また、不良品が返品される過程において、その所有権がどの時点で売主に移転するかは、不良品の返品や代替品の提供という行為が販売済みの商品に係る事後的な補完機能を担っていることに何ら影響を与える事情ではなく、返品商品の所有権の移転に関する控訴人の主張も失当である。

仮に、控訴人主張のとおり、本件販売事業においては返品の発生が少ないとしても、本件アパート等が、不良品の返品受取り及び代替品の発送という商品販売後のアフター・サービスを行う機能を有していたとの事実は否定されず、返品の多寡に依拠する控訴人の主張も、失当である。

控訴人は、原審が、本件アパート等において平成20年4月以降商品の写真撮影が行われていたことのみを根拠として、本件アパート等の恒久的施設該当性を肯定したかのように主張する。

しかしながら、原審は、本件アパート等における商品の写真撮影業務のみならず、不良品の返品受取り及び代替品の発送業務についても検討を加え、本件アパート等における一連の活動及びその活動が本件販売事業において有する機能ないし重要性等を考慮した上で、本件アパート等が日米租税条約5条4項各号に該当しない旨を判示しているから、控訴人の上記主張は、原審の判示を正解しないものであり、前提において失当である。

「準備的又は補助的な性格の活動」か否かの判断は、「事業を行う一定の場所での活動が、本来、企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否か」を基準として行うべきであり、その活動の機能の側面から、当該活動が当該事業活動全体においていかなる機能を有するかとの観点で検討されるべきである。

本件販売事業の事業形態は、日本国内の顧客に対し、原告ホームページ等のインターネットを通じて、本件アパート等にある在庫商品を販売するものであり、インターネットによる通信販売においては、企業のホームページに掲載された情報は、顧客が企業の信頼性を判断する手段として極めて重要な情報であるし、控訴人が利用していた楽天市場やGが、日本国内に事業所があることを出品の条件とするなどしていたことからすれば、本件アパート等が原告ホームページ上で本件販売事業の所在地とされていたことは、顧客との関係においても、本件販売事業が行われているインターネット市場との関係においても、本件販売事業における極めて重要な要素であったといえる。

本件アパート等においては、上記販売形態を前提として、同所に保管されていた在庫商品を管理し、発送準備をし、商品及び日本語取説書の梱包作業や運送会社への引渡しをするほか、顧客からの返品に対応する業務といった一連の事業活動が行われていたのであるから、本件アパートと本件倉庫は、このような一連の事業活動を行う場所として、一体となって、本件販売事業における重要な役割・機能を担っていたものといえる。

本件アパートは、本件倉庫が賃借され、控訴人及び本件従業員による具体的な作業の場所が本件倉庫に移転した後も、本件倉庫と一体となって本件企業の活動を行う場所としての機能・役割を担っていたのであるから、本件アパートを販売拠点としたことや本件アパートと本件倉庫とを一体としてみることは、正当であり、原審の認定判断に誤りはない。原審の判示に誤りがあるとの控訴人の主張は、本件販売事業において本件アパートの担っていた機能・役割及び本件倉庫を含めた事業の在り方に係る評価を誤るものであり、失当である。

なお、アマゾンジャパン株式会社は、東京都目黒区を所在地とする日本法人であり、同社のホームページにおける特定商品取引法に基づく表示において、販売業者としては米国法人が表示されているが、日本での問い合わせ先として日本法人であるアマゾンジャパンの上記所在地及び日本国内の電話番号が記載されているのであるから、同社を経営しているのが米国法人であるからといって、米国法人が米国に存在する小売業者として日本国内の顧客と取引を行ったような場合と同視することはできないし、顧客からみれば、同社が日本国内に所在地及び連絡先を有していると認識し得るのであって、これを重要な判断要素として取引しているものと推認することができ、その点において、本件販売事業の場合と変わりがないといえる。

また、顧客にとって重要な要素であるのは、取引相手である企業がホームページ上に日本国内の所在地及び連絡先を掲載している日本国内の企業かどうかという点であり、その住所が都市部にあるか小さな町にあるかによって、上記の点に関する顧客の判断が変わるものとは解されない。

したがって、これらの点に関する控訴人の主張も、失当である。c 控訴人は、通信販売か対面販売かにかかわらず、販売事業において最も重要なのは、商品に関する顧客の関心を引き、顧客に注文をさせ、契約を締結させる過程であるところ、これらの業務は、控訴人の米国の事務所で行われていたから、本件アパート等における活動の重要性は高くない旨を主張する。

しかしながら、当該施設が当該事業全体に照らし本質的かつ重要な役割・機能を果たしていると判断される以上、別の場所における他の活動も重要な役割を果たすものであるからといって、それによって、当該施設における活動の意味合いが減殺されることにはならない。本件販売事業の本質は、本件アパート等に保管された在庫商品を、インターネットを通じて国内の顧客に販売することであるところ、本件アパート等は、その販売拠点として、本質的かつ重要な役割・機能を果たしていたといえるから、控訴人が主張するように他の活動と比較して、その役割・機能が本質的でないとか重要でないなどといい得るものではない。したがって、控訴人の上記主張は、失当である。

両者の主張まとめ

国税庁
■日米租税条約によれば、恒久的施設の存在には「事業を行う場所」が一定であり、その場所を通じて事業が行われることが必要である。原告は出国後も、商品の保管や発送の拠点としてアパート等を利用していたため、これらは恒久的施設に該当する。また、日米租税条約5条4項は、恒久的施設の例外を規定しており、その活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であるか否かを判断する基準は、その活動が企業全体の活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否かである。

■原告のアパート等での活動は、商品の保管・管理、商品の引き渡し、不良品の返品の受け取り等、本件販売事業の本質的かつ重要な部分を形成する活動であり、これらは準備的又は補助的な性格を超えるものである。したがって、本件アパート等は恒久的施設に該当する。
納税者
■被告の主張は、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に記載されていない要件を解釈で読み込むものであり、文理解釈に反する。OECDモデル租税条約と国連モデル租税条約の比較から、「引渡し」を行う施設(倉庫)が恒久的施設から除外されているのは、「引渡し」が準備的又は補助的な性格の活動であるという理論的な根拠ではなく、政策的判断によるものである。

■OECDコメンタリーは、準備的又は補助的な性格を有する活動のみを行う場所は恒久的施設に当たらないと述べているだけで、被告の主張はOECDコメンタリーを誤読するものである。OECDの検討チームは、OECDモデル租税条約5条について、条文やコメンタリーの改訂作業を進め、2012年報告書が現時点で最新のものである。2012年報告書は、同条4項各号に規定されている活動は準備的又は補助的な性格の活動でなければならないのか否かという問題点を掲げた上で、同項(a)号ないし(d)号の適用に関し、当該場所で行われている活動が「準備的又は補助的な性格の活動」に限られる必要はないという統一見解を明らかにしており、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の解釈においても、上記見解を採用するべきである。

関連する条文

日米租税条約

5条(恒久的施設)
7条(事業所得)

所得税法

2条(非居住者の定義)
5条(納税義務者)
164条(非居住者に対する課税の方法)
165条(総合課税に係る所得税の課税標準、税額等の計算)

所得税法施行令

279条(恒久的施設に係る内部取引の相手方である事業場等の範囲)
289条(国内に源泉がある所得)

東京地裁/平成27年5月28日判決(増田稔裁判長)/(棄却)(控訴)

日米租税条約は、ある場所が日米租税条約5条1項の規定する恒久的施設に該当する場合であっても、同条4項各号のいずれかに該当する場合には、恒久的施設から除外する旨を規定しているところ、原告は、本件アパート等が同項(a)号の定める「企業に属する物品又は商品の保管、[中略]引渡しのためにのみ施設を使用すること」に該当する旨主張していることから、まず、同項各号の意義について検討する。

日米租税条約5条4項各号の文言についてみるに、同項(e)号は、「企業のためにその他の準備的又は補助的な性格の活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること」と規定しており、上記「その他の」準備的又は補助的な性格の活動という規定振りに鑑みれば、同号に先立つ同項(a)号ないし(d)号は、文理上、「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解することができる。また、同項(f)号は、「(a)から(e)までに掲げる活動を組み合わせた活動を行うことのみを目的として、事業を行う一定の場所を保有すること。

ただし、当該一定の場所におけるこのような組合せによる活動の全体が準備的又は補助的な性格のものである場合に限る。」と規定しているところ、同号が同項(a)号ないし(e)号所掲の活動を組み合わせた活動について、あえて「準備的又は補助的な性格」であるとの限定を付しているのは、同項(a)号ないし(e)号所掲の活動が「準備的又は補助的な性格」の活動であることを前提とした上で、各号を組み合わせることによって、その活動の全体が「準備的又は補助的な性格」を超える場合には、恒久的施設の対象から除外しない旨を規定したものと解するのが合理的である。

以上によれば、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は、「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であり、ある場所が同項各号に該当するとして恒久的施設から除外されるためには、当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であることを要するものと解すべきである。

日米租税条約5条4項は、OECDモデル租税条約5条4項と同文であり、OECDモデル租税条約に準拠して定められたものであるところ、OECD理事会は、OECDの加盟国(日本及び米国を含む。)が二国間条約の締結又は改訂に際して、OECDコメンタリーによって解釈されるものとしてのOECDモデル租税条約に従い、その課税当局は、OECDモデル租税条約に基づく二国間条約の規定の解釈適用においてOECDコメンタリーに従うべきとの勧告を行っていることが認められる(乙9)。

そこで、OECDコメンタリーの内容をみるに、OECDコメンタリーにおいては、OECDモデル租税条約5条4項各号につき、「これらの活動の共通の特徴は、一般に、準備的又は補助的な活動であることである。これは(e)で定められる例外として明文によって定められている。

(e)は、実際には、第1項が規定している定義の適用範囲に対する一般的な制限である。

[中略]

したがって、第4項の規定は、一方の国の企業が、純粋に準備的又は補助的な性格の活動を他方の国で行う場合には、当該他方の国で租税を課されることがないように企図されているのである」、「第4項は準備的又は補助的な性格を有する活動を遂行する事業を行う一定の場所に関して、第1項の一般的定義に対する例外を規定しようとするものである。」と記述されている。

これらの記述に鑑みれば、OECDコメンタリーは、OECDモデル租税条約5条4項各号の活動の共通の特徴が準備的又は補助的な性格であって、同項全体が準備的又は補助的な性格の活動を恒久的施設から除外するための規定であるとの解釈を示しており、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に係る当裁判所の解釈(上記a)に符合したものであるということができる。

なお、原告は、OECDコメンタリーについて、OECDモデル租税条約5条4項各号に該当する活動が準備的又は補助的な性格の活動でなければ、同項(a)号ないし(d)号が適用されないと述べているわけではない旨主張するが、前記指摘したOECDコメンタリーの記述内容に照らし、上記主張を採用することはできない。

この点、原告は、日米租税条約(OECDモデル租税条約)5条4項各号が「準備的又は補助的な性格の活動」であると解釈した場合、同項(e)号とは別に、同項(a)号ないし(d)号を定めることは無意味であって、不合理であるなどと主張している。

しかしながら、「準備的又は補助的な性格の活動」との文言自体から、その内容が一義的に明らかになるわけではなく、「準備的又は補助的な性格の活動」の具体例〔同項(a)号ないし(d)号〕を挙げた上で、具体的例示の方法によって網羅しきれない場合に備えて包括的な定め〔同項(e)号〕を置くという規定の仕方が特段不自然、不合理であるということはできない。

原告は、国連モデル租税条約との比較によれば、OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号が「引渡し」のための施設(倉庫)を恒久的施設から除外したものと解すべきである旨主張しているところ、国連モデル租税条約5条4項(a)号は、発展途上国の課税権限を広く認めるという観点から、同号に「引渡し」を含めなかったものと解される。

しかしながら、同号が「引渡し」を含めなかったからといって、OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号が「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であることを否定すべきであるということはできず、原告の上記主張を採用することはできない。

原告は、OECDモデル租税条約(日米租税条約)5条4項(a)号ないし(d)号について、2012年報告書の見解に沿った解釈をすべきである旨主張しているところ、証拠(甲24)によれば、OECDの検討チームは、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号について、「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることを要しないとの解釈を示していることが認められる。

しかしながら、2012年報告書は、その記載内容に照らせば、同項(a)号ないし(d)号について、従来、「準備的又は補助的な性格を要する活動」であるとの解釈がされていたことを前提とした上で、OECDコメンタリーの改訂により、上記解釈を変更することを提案したものと解されるのであり、2012年報告書が従来の解釈の変更を提案したからといって、本件各係争年における日米租税条約5条4項の解釈につき、2012年報告書に従わなければならないということはできない。

なお、原告は、OECDモデル租税条約5条4項について、自己の主張に沿った見解等が記載されている文献を複数指摘しているものの、日米租税条約5条4項の文理解釈として、同項(a)号ないし(d)号が「準備的又は補助的な性格を有する活動」の例示であると解すべきことは、前記検討のとおりであって、これと異なる解釈をすべき理由を認めることはできない。

以上のとおり、日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は、「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であると解すべきである。

したがって、本件アパート等が恒久的施設に該当するためには、同条1項の規定する「恒久的施設」に当たり、かつ、同条4項各号の規定する「準備的又は補助的な性格の活動」を行う施設には当たらないことを要するというべきである。

前記を踏まえて検討するに、前記認定のとおり、本件アパート等は、原告が米国に居住している間も、①本件販売事業の商品を保管しておき、②顧客の注文を受けて、個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し、また、③顧客からの返品があった場合には、返品された商品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行う場所であったのであるから、本件アパート等が本件販売事業の全部又は一部を行う一定の場所であったことは明らかであり、本件アパート等は、日米租税条約5条1項の規定する「恒久的施設」に該当する。

この点、原告は、本件アパートが、本件倉庫を賃借した後は無人であり、事業を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)に該当しない旨の主張をしているところ、原告及び本件従業員が、本件倉庫が賃借された後、本件アパートにおいて、本件販売事業に係る具体的な作業を行っていたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。

しかしながら、①本件アパートは、本件倉庫が賃借された後も、原告ホームページ等において、本件企業が所在する場所として掲載され、②本件企業は、本件倉庫において商品の保管、梱包、発送等の業務をしていたにもかかわらず、本件アパートを発送元として、商品を発送していのである。

さらに、③本件企業は、顧客が返品を希望した場合には、あえて本件アパート宛てに商品を発送させ、本件倉庫において、転送届により本件アパートから転送された商品を受け取っていたのである。

これらの事実関係によれば、本件アパートは、本件倉庫が賃借され、原告及び本件従業員による具体的な作業の場所が本件倉庫に移転した後においても、本件倉庫と一体となって、本件企業としての活動を行う場所としての機能・役割を担っていたということができる。

なお、ある場所が日米租税条約5条1項の定める恒久的施設に該当するか否かは、企業としての活動(事業)の有無及び内容によって判断すべきものであるから、原告及び本件従業員が本件アパートにおいて具体的な作業を行っていなかったことは、上記認定・判断を覆す事情には当たらない。

次に、本件アパート等が日米租税条約5条4項各号のいずれかに該当するか否かを検討するに、以下述べるとおり、本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格」のものであるということはできず、本件アパート等は、上記各号のいずれにも該当しないというべきである。

本件販売事業の事業形態は、日本国内の顧客に対し、インターネット(原告ホームページ、楽天市場ウェブページ、ヤフーオークション等)を通じて、本件アパート等にある在庫商品を販売するというものであるところ、本件企業は、原告が米国に居住している間も、原告ホームページ等において、本件企業の所在地及び連絡先として、本件アパートの住所及び本件電話番号等を掲載し、販売活動を行っていた。

インターネットによる通信販売を利用する者は、通常、インターネット上の情報等を通じ、当該企業が取引の相手として信頼できる者であるかどうかなどを判断しており、企業のホームページに掲載された情報は、当該者にとって極めて重要な情報であると考えられる。

また、通信販売を利用する者が取引の相手となる企業を選ぶに当たっては、当該企業が日本国内の企業であるかどうかを重要な判断要素の一つとしているものと考えられる(なお、特定商取引法11条1項5号及び特定商取引法施行規則8条1項1号は、通信販売を行う販売業者が広告を行う際に住所及び電話番号を表示することを義務付けている。)。

インターネットによる通信販売の上記特質に鑑みれば、本件企業の顧客は、本件企業の所在地及び連絡先が日本国内(本件アパート)にあることを取引する際の重要な判断要素の一つとし、かつ、これを前提として、本件企業と取引を行っていたものと推認することができる。

また、本件企業が、顧客に対し、原告が米国に居住しているとの情報を公表していたことをうかがわせる事実ないし証拠はなく、原告が、前述のとおり、本件倉庫を賃借した後も、原告ホームページ等において、本件企業の所在地等として、本件アパートの住所等を掲載し続けた上、あえて本件アパートを商品の発送元とし、商品の返品先も本件アパートに指定していたことを併せ考えれば、原告は、顧客に対し、本件企業が日本国内(本件アパート)にある企業であると認識させた上で、本件販売事業における販売活動を行っていたものと推認することができ、同認定を覆すに足りる事実ないし証拠はない。

さらに、本件企業は、楽天市場及びヤフーオークションを通じて販売活動を行っているところ、前記認定のとおり、①楽天市場が、日本国内に事業所があることを出品の条件とし、②ヤフーオークションが、日本国内の事業者が出品していることを、ヤフー補償制度を利用するための条件としていたことに鑑みれば、本件企業の所在地が日本国内(本件アパート)であることは、本件販売事業が行われているインターネット市場との関係においても、取引の前提条件となる重要な要素であったということができる。

本件企業は、前述のとおり、本件アパートを所在地として販売活動を行っていたところ、本件販売事業における販売活動が全てインターネットを通じて行われており、本件販売事業が本件アパート等に保管された在庫商品を販売するという事業形態であることを併せ考えれば、本件アパートは、本件販売事業における唯一の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。

また、原告が本件倉庫を賃借した後においては、前記で検討した事情に鑑みれば、本件倉庫も、本件アパートと一体となって、本件企業の販売拠点(事業所)としての役割・機能を担っていたということができる。

本件販売事業は、インターネットを通じた通信販売であるところ、通信販売という事業形態に鑑みれば、対面取引に比して、商品の購入者に対する商品の配送(発送)業務が事業の重要な部分を占めていることは明らかである。

また、通信販売を利用して商品を購入した者は、商品の配送を受けた時点で初めて、実際の商品を確認することができるのであって、通信販売においては、その性質上、配送後における契約解除(返品)の可能性が、対面取引に比して高く、顧客からの返品に対応することも重要な業務であるということができる。

本件従業員は、前記認定のとおり、本件アパート等において、商品を保管しておき、顧客の注文を受けて、個別に商品を梱包した上で顧客に向けて発送し、また、顧客からの返品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行っており、これらの業務は、通信販売である本件販売事業にとって、重要な業務であったというべきである。

さらに、本件企業は、原告ホームページ等において、米国から仕入れた自動車用品を低価格で販売し、注文された商品を速やかに顧客に配送する旨を掲載しているところ、これらは、原告が米国で仕入れた商品を本件アパート等に在庫商品として保管し、本件アパート等から顧客に対して配送するからこそ実現できるのであって、本件販売事業における契約条件の実現という観点からも、本件アパート等における保管及び発送業務は重要なものであったということができる。

前記検討のとおり、本件企業は、本件アパート等を販売拠点(事業所)として、本件販売事業における販売活動を行い、かつ、本件従業員が、本件企業の事業所である本件アパート等において、通信販売である本件販売事業にとって重要な業務(商品の保管、梱包、配送、返品の受取り等)を実際に行っていたことに鑑みれば、本件アパート等が本件販売事業にとって「準備的又は補助的な性格の活動」を行っていた場所であるということはできない。

そうである以上、本件アパート等は、日米租税条約5条4項各号のいずれにも該当しないというべきである。

原告は、本件アパート等は、「企業に属する物品又は商品の保管、[中略]引渡しのためにのみ」使用する場所であって、日米租税条約5条4項(a)号に該当する旨主張しているところ、本件従業員が本件アパート等において行っていた業務の内容は、前記認定のとおりであって、その主な活動が商品の「保管」及び「引渡し」としての性格を有するものであったことは否定できない。

しかしながら、前記検討のとおり、通信販売という事業形態の特質に鑑みれば、本件従業員が本件アパート等で行っていた業務は、本件販売事業にとって重要なものであったというべきである。

また、本件従業員は、商品を個別に梱包する際、日本語取説書のある商品については、日本語取説書を同梱する作業をしていたところ、本件企業が日本語取説書を無料で添付する旨を宣伝していたことに照らしても、上記作業は、本件企業が販売している商品(自動車用品)の経済的価値を高める活動であり、単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものというべきである。

この点、原告は、日本語取説書も独立の商品であり、上記作業も日米租税条約5条4項(a)号に該当する旨主張している。

しかしながら、原告が米国から輸入して本件アパート等に保管していた商品は、その段階では、飽くまで米国内で流通していたままの商品であり、その後、本件従業員が個別に日本語取説書と組み合わせることによって、日本国内の顧客向けの商品としての価値が付加されるものと解されるから、原告の上記主張を採用することはできない。

さらに、本件従業員は、本件アパート等において、①原告ホームページ等に掲載するための商品の写真を撮影する業務を行い、②顧客が商品を返品した場合には、本件アパート等において、返品された商品を受け取り、その代替商品を顧客に対して発送し、返品された商品を米国にいる原告に対して発送するといった業務を行っていたところ、これらの業務についても、単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものと解すべきである。

この点、原告は、上記②について、顧客から返品される商品が「企業に属する物品」であり、これを受け取り、代替商品を発送するなどの業務は、いずれも日米租税条約5条4項(a)号の「保管」又は「引渡し」に該当する旨主張している。

しかしながら、前述のとおり、顧客からの返品に対応する業務は、通信販売において重要な業務であると解されるところ、原告が、顧客に対し、初期不良品の返品を受け取る旨を申し入れ、本件企業の事業所である本件アパートを返品先として、本件企業の負担において返品を受け取るという一連の活動全体が、商品を購入した顧客に対する事後的なサービスを形成していると解されるのであって、このようなサービスの一部分を切り取って、同号の規定する「保管」又は「引渡し」として単純化すべきものではない。原告の上記主張は採用することができない。

以上に加えて、前記検討のとおり、本件企業が、本件アパート等を販売拠点(事業所)として販売活動を行っていたことを併せ考えても、本件アパート等が商品の保管又は引渡しのみのために使用する場所であるということはできず、日米租税条約5条4項(a)号に該当するということはできない(なお、既に検討したところによれば、本件アパート等が日米租税条約5条4項(e)号の規定する「準備的又は補助的な性格の活動」を行う場所に該当しないことも明らかである。)。

原告は、本件販売事業における中核的な業務は、全て原告が米国で行っており、本件従業員が本件アパート等で行っていた作業は、機械的な単純作業のみであるから、本件アパート等における活動は「準備的又は補助的な性格の活動」に該当する旨主張している。

そこで検討するに、前記認定によれば、本件従業員が本件アパート等において行っていた主な業務は、機械的な単純作業であったということができる。

また、本件従業員が、本件アパート等において、本件販売事業(本件企業)の管理又は経営に関与していたことを認めるに足りる事実ないし証拠はない。

なお、被告は、本件訪問調査記録を根拠として、本件従業員が本件受注ソフトの運用(在庫管理)に関与していたという趣旨の主張をしているが、本件訪問調査記録には原告の署名等はされておらず、原告がその内容を争う陳述書を提出し、その内容に特段不自然な点もないことに照らせば、本件従業員が在庫管理に関与していた事実を認めることはできない。

また、被告は、本件丁てん末書を根拠として、本件アパートに本件受注システムが組み込まれたパソコンが設置され、本件販売事業の管理を担っていたという趣旨の主張をしているが、本件丁てん末書においても、原告が米国に居住している間において、上記パソコンが本件アパートに設置されていたことを直接裏付ける記載はなく、丁が、本件丁陳述書により、本件丁てん末書の記載内容を一部訂正していることを併せ考えれば、被告の主張する事実を認めることはできない。

しかしながら、既に検討したとおり、本件企業は、本件アパート等を販売拠点(事業所)として、本件販売事業における販売活動を行っていたのであり、通信販売の特質に鑑みても、本件従業員が本件アパート等で行っていた業務が「準備的又は補助的な性格の活動」であるということはできない(ある業務が準備的又は補助的な性格のものであるか否かは、事業全体における役割・機能に鑑みて判断すべきものであり、本件従業員の業務が機械的な単純作業であったことは上記判断を覆す事情には当たらない。)。

さらに、原告は、本件倉庫の使用状況について、「当初から、作業の簡素化を考えていましたので、平成18年以前と変わりません。私が、日本に居たか、米国に居たかの違いです。」と説明しているところ、原告が本件販売事業の効率化、合理化を進めた結果として、本件従業員が定型的な業務を行えば足りる人的・物的体制が構築されたものと解することもできる。

よって、本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格の活動」に該当する旨の原告の主張を採用することはできない。

以上によれば、本件アパート等は、本件各係争年において、本件販売事業の全部又は一部を行う一定の場所(日米租税条約5条1項)であり、かつ、同条4項各号のいずれにも該当しないから、同条の規定する「恒久的施設」に該当するというべきである。

東京高裁/平成28年1月28日判決(富田善範裁判長)/(棄却)(上告受理申立て)

当裁判所も、①本件アパート等は日米租税条約5条4項各号に該当せず、同条1項の「恒久的施設」に該当し、②控訴人の所得のうち日米租税条約7条に基づき本邦において課税対象とされる所得は、同条2項及び3項に基づき、本件アパート等を控訴人と独立の立場にある企業(本件擬制企業)と擬制した上で、本件販売事業により生じた国内源泉所得を本件擬制企業に配分することにより算定すべきであり、本件擬制企業が本件アパート等を販売拠点として事業活動(販売活動)をした場合に取得したとみられる利得が、本件擬制企業に配分されるべき国内源泉所得であるが、③本件擬制企業に配分されるべき所得金額は、控訴人が本件販売事業における所得金額等を申告せず、税務署職員の帳簿書類提出要求を拒絶した等の事情から、実額で計算することができないため、推計する必要があり、処分行政庁が推計した所得金額は、合理的な推計方法によるものであるから適正であり、本件各所得税決定処分及びこれらを前提とする本件各賦課決定処分は、いずれも適法であって、控訴人の請求をいずれも棄却すべきであると判断する。

日米租税条約5条4項は、OECDモデル租税条約5条4項と同文であり、OECDモデル租税条約に準拠して定められたものであるところ、控訴人は、日米租税条約5条4項(a)号に該当するためには当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であることを要するとする原審の解釈は、OECDモデル租税条約5条4項各号に関する国際的に一般的な解釈に反し誤ったものであるとし、その根拠の一つとして、2012年報告書の見解を挙げ、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号及び日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の解釈に当たっては、2012年報告書を、OECDコメンタリーと同様に、条約法に関するウィーン条約32条の「解釈の補足的な手段」として参照すべきであると主張する。

しかしながら、①2012年報告書は、OECDが、OECDモデル租税条約5条(恒久的施設)の解釈及び適用に関する討議草案の改訂版について、関連当事者に追加コメントを求めることを目的として公表したものであって、上記討議草案の改訂版は、OECD及びOECD加盟国の最終意見を必ずしも反映したものではなく、これに対する関連当事者の追加コメントを2013年3月の作業部会会合において検討し、検討結果を2014年のOECDモデル租税条約に改訂事項として盛り込むことが予定されていたこと、②2012年報告書には、OECDの租税委員会の下に設置された第1作業部会が作成したOECDモデル租税条約5条の解釈と適用に関する勧告に係る修正版が記載されており、同修正版には、同条4項(e)号及び(f)号で明示されている準備的又は補助的な性格の活動でなければならないとの条件を満たすことが、同項(a)号ないし(d)号を適用するためにも必要であるという解釈は、(a)号ないし(d)号の条文と適合しないため、OECDコメンタリーを改定し、同項(a)号ないし(d)号を適用するために「準備的又は補助的な性格を有する活動」であることという追加的な条件は該当しない旨を明らかにすべきであるとの意見が述べられていること、③上記討議草案(改訂版)の検討を経て改定された2014年のOECDモデル租税条約及びOECDコメンタリー(2014年)には、上記②の意見は反映されず、OECDコメンタリー(2014年)におけるOECDモデル租税条約5条4項各号に関する記述は、OECDコメンタリー(2003年)のそれと同文であって、同項各号につき、準備的又は補助的な性格の活動であることを要するとの解釈を示していることが認められる。

上記認定のとおり、OECDコメンタリーは、OECDモデル租税条約5条4項各号につき、平成15年(2003年)から平成26年(2014年)まで一貫して、準備的又は補助的な性格の活動であることを要すると解する立場を採り続けており、これと異なる2012年報告書の上記②の意見は、OECDの租税委員会の作業部会が、平成24年当時行われていたOECDモデル租税条約及びコメンタリーの改訂のための検討作業において、コメンタリーの改訂案として、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号に関する従来の解釈を変更することを提案したものであるが、上記意見は、その後の検討の結果、採用されなかったのであるから、同項(a)号ないし(d)号及びこれに倣った日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の解釈に当たり、2012年報告書ないし上記意見を、OECDコメンタリーと同様に、条約の準備作業等に匹敵するものであり、条約法に関するウィーン条約32条の「解釈の補足的な手段」に当たるものと評価することはできない。

したがって、控訴人の上記主張は、採用することができない。また、上記認定事実に照らすと、2012年報告書が引用する2004年報告書の記述を根拠として、OECDがOECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号につき2004年当時から準備的又は補助的な性格の活動であることを要しないと解していたとの控訴人の主張も、採用することができない。

控訴人は、原審の日米租税条約5条4項(a)号の解釈につき、1963年のOECDモデル租税条約草案5条3項(e)号の規定及びその後のOECDモデル租税条約が定められた経緯に照らし、誤りであるとも主張する。

証拠及び弁論の全趣旨によれば、1963年のOECDモデル租税条約草案5条3項(a)号ない(d)号の規定は、OECDモデル租税条約5条4項(a)号ないし(d)号の規定とほぼ同文であり、上記草案5条3項(e)号は「企業のためもっぱら広告、情報の提供、科学的調査又はこれらに類する準備的若しくは補助的性質の活動を行うため事業を行う一定の場所を保有すること」と規定していたことが認められるが、上記草案5条3項(a)号ないし(d)号の意義や同項(e)号との関係につき、控訴人主張の解釈が一般的であったことをうかがわせる証拠はなく、むしろ、証拠(乙36)によれば、上記草案のコメンタリー及びその解説書は、上記草案5条3項(e)号の「これらに類する準備的若しくは補助的性質の活動」との文言につき、同号の規定を、恒久的施設の一般規定である1項に対する一般化された除外規定たらしめるものであると解していたことが認められ、上記草案5条3項についても、恒久的施設から除外されるためには、その場所で行われる活動が準備的又は補助的な性質の活動でなければならないことを規定するものであるとの解釈が一般的であったことが認められる.

したがって、控訴人の上記主張も、上記認定事実に照らし、採用することができない。

控訴人は、原審の解釈によれば、発展途上国の課税権限を広く認めるために物品又は商品の「引渡し」を行う施設(倉庫)を恒久的施設から除外しないこととした国連モデル租税条約5条4項(a)号の適用範囲と、OECDモデル租税条約5条4項(a)号の適用範囲とが、(e)号が同文であるために、同じになり、上記差異が設けられた意味が失われ、また、日米租税条約の締結に当たり、あえてOECDモデル租税条約型の条文を選択した我が国及び米国の課税権の範囲に関する政策的合意に反するとも主張する。

しかしながら、発展途上国の課税権限を広く認めるという趣旨目的に資する解釈かどうかは、上記目的を掲げる国連モデル租税条約5条4項の解釈適用について検討すべき事柄であって、上記目的のための規定ではないOECDモデル租税条約5条4項の解釈において考慮すべき事柄ではない。

また、OECDコメンタリーがOECDモデル租税条約5条4項各号につき、一貫して、準備的又は補助的な性格の活動であることを要するとの解釈を採り続けてきたことは、上記のとおりであって、我が国及び米国が、日米租税条約の締結に当たり、OECDコメンタリーの上記解釈を参照しこれを前提としていることは、いうまでもないから、原審の解釈が、日米租税条約締結時に両国間で成立した課税権の範囲に関する政策的合意に反するとの控訴人の主張は、採用の余地がない。

控訴人は、国際租税法及び租税条約に関する重要かつ基本的な文献である新ベーカー文献及びフォーゲル文献には、原審の解釈に反する記載があると主張するが、証拠(及び弁論の全趣旨によれば、新ベーカー文献のうち控訴人が指摘する部分は、その前の部分も含めて読むと、OECDモデル租税条約5条4項につき、原審の解釈に反する見解を記述するものではないこと、フォーゲル文献も、控訴人の指摘する部分の前後の部分も含めて読むと、原審の解釈に反する見解を記述するものでないことが認められる。

上記認定事実に照らすと、上記各文献に原審の解釈に反する記載があることを理由に、原審の解釈がOECDモデル租税条約5条4項各号に関する国際的に一般的な解釈に反するとの控訴人の主張も、採用することができない。

控訴人は、原審の日米租税条約5条4項(a)号の解釈は文理解釈の限界を超えるものであり、条約法に関するウィーン条約31条1項に反しており、OECDコメンタリーにも上記解釈を支持する記載はないと主張する。

しかしながら、原審は、日米租税条約5条4項(e)号の「その他の」準備的又は補助的な性格の活動という規定振りに加えて、同項(f)号が、同項(a)号ないし(e)号所掲の活動を組み合わせた活動について、あえて「準備的又は補助的な性格」のものである場合に限ると限定を付していることを根拠として、同項(a)号ないし(d)号は「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であり、同項(f)号ただし書きは、同項(a)号ないし同項(e)号所掲の活動が「準備的又は補助的な性格」の活動であることを前提として、各号の活動を組み合わせた活動全体が「準備的又は補助的な性格」を超える場合につき、恒久的施設の対象から除外しない旨を規定したものと解したものであって、その文理解釈に、文理に反し又は文理を超えた不合理的な点はない。

したがって、原審の解釈が条約法に関するウィーン条約31条1項に反するとの控訴人の主張は、採用することができない。

そして、課税当局は、OECD理事会の勧告により、日米租税条約の解釈適用においてOECDコメンタリーに従うべきものとされており、また、OECDコメンタリーは、日米租税条約の解釈適用に当たり、条約法に関するウィーン条約32条の「解釈の補足的な手段」として、同条約31条の規定の適用により得られた意味を確認するなどのために依拠することができるものであるところ、上記で説示したとおり、原審の日米租税条約5条4項各号の解釈は、OECDコメンタリーに示されているOECDモデル租税条約5条4項各号の解釈と符合するものといえるから、原審の上記解釈は、この点からしても正当なものといえる。

OECDコメンタリーに原審の解釈を支持する記載がないとの控訴人の主張は、上記認定説示したところに照らし、採用することができない。

控訴人は、本件アパート等において行われていた活動〔①商品の受取り・保管業務、②商品の梱包・発送業務、③返品された商品の受取り・代替品の発送業務等、④商品写真の撮影(平成20年4月頃以降のみ)〕は、日米租税条約5条4項(a)号の「商品の保管」又は「引渡し」に当たり、販売活動には当たらず、販売活動に当たる行為は、販売事業において最も重要な過程である商品に対する顧客の関心を引き、注文をさせ、契約を締結させることを含めて、全て、米国の事務所において控訴人自身によって行われていたから、本件アパート等を本件販売事業における販売拠点(事業所)であるとした原審の判断は、事実の評価ないし同号の適用を誤ったものであると主張する。

しかしながら、前記説示のとおり、日米租税条約5条4項(a)号に該当するためには、当該場所で行われる活動が「準備的又は補助的な性格の活動」であることを要すると解されるのであって、原審は上記解釈を前提として、本件アパート等における活動が「準備的又は補助的な性格の性格(ママ)」のものかどうかという観点から、本件アパート等の同号該当性を検討しているのであるから、本件アパート等で行われる物理的な行為が「商品の保管」又は「引渡し」であることを根拠として本件アパート等の同号該当性に関する原審の判断の誤りをいう控訴人の主張は、誤った解釈を前提とするものであり、失当といわざるを得ない。

OECDコメンタリー(2003年)は、パラグラフ24において、準備的又は補助的な性格を有する活動とそうでない活動とを区別する決定的基準は、事業を行う一定の場所での活動が、本来、企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否かであるとしており、その一般的な目的が当該企業全体の一般的目的と同一であるような事業を行う一定の場所は、準備的又は補助的な活動を行うわけではないとしていることが認められるから、日米租税条約5条4項各号を適用するに当たり、ある場所における活動が「準備的又は補助的な性格を有する活動」かどうかを判断するに際しても、当該活動が企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成しているかどうかという観点から検討するのが相当である。

業務が準備的又は補助的な性格のものであるか否かを、事業全体における役割・機能に鑑みて判断する立場に立つものである。

そして、上記の観点から、本件アパート等において行われていた活動が本件販売事業の全体において果たしていた役割・機能、重要性についてみる場合、確かに、原判決の「事実及び理由」第4の1の認定事実によれば、控訴人が米国に居住するようになった平成16年10月以降、本件販売事業においては、仕入れ、顧客の注文に対し商品の在庫を確認した上で受注確認のメールを送信する行為、商品発送の指示のメールを送信する行為、在庫管理等は、米国において控訴人により行われていたことが認められるが(なお、控訴人が上記行為等を行ったと主張する米国の事務所の所在地は明らかでなく、上記事務所の存在を認めるに足りる証拠はない。)、その一方で、上記認定事実によれば、控訴人は、原告ホームページには本件企業の所在地及び連絡先等として本件アパートの所在地及び本件電話番号等を表示し、控訴人の米国の住所等は記載していなかった上、商品の発送元としても本件アパートを表示し、商品の返品先についても本件アパートを指定していたものであって、本件販売事業の事業主体の所在地として顧客が認識できる場所は、本件アパートのみであったことが認められる。

そして、インターネットの通信販売という本件販売事業の特質に照らせば、顧客にとって本件企業の所在地及び連絡先が日本国内(本件アパート)にあることは、取引を行うかどうかを決定する際の考慮要素である当該企業の信用性の程度、万一取引をめぐってトラブルが生じた場合の交渉や責任追及の便宜等に影響を及ぼす事項であって、取引を行う際の重要な判断要素の一つであるといえる。

また、楽天市場は日本国内に事業所があることを出品の条件とし、ヤフーオークションは日本国内の事業者が出品していることをヤフー補償制度を利用するための条件としていたのであるから、楽天市場及びヤフーオークションを通じて販売活動を行っていた本件企業にとって、本件企業の所在地が日本国内(本件アパート)であることは、これらのインターネット市場を利用して集客を行うために満たしておかなければならない不可欠な条件であって、販売活動を行う上で相当に重要な要素であったといえる。

そして、本件企業においては、本件倉庫を賃借し商品の保管、梱包、発送等を本件倉庫で行うようになった後も、原告ホームページ等において本件企業の所在場所として本件アパートを掲載し、商品の発送元としても本件アパートを表示し、顧客が返品を希望した場合には本件アパート宛てに商品を発送させ、転送届により本件アパートから転送された商品を本件倉庫において受け取っていたのであって、これらの事実からすれば、本件アパートは、本件倉庫が賃借され、控訴人及び本件従業員による具体的な作業の場所が本件倉庫に移転した後においても、本件倉庫と一体となって、本件企業としての活動を行う場所としての機能・役割を担っていたということができる。

以上のとおり、本件アパートは、顧客にとって本件販売事業の事業主体(本件企業)の所在地として認識できる唯一の場所であり、本件企業にとって、その所在地を日本国内(本件アパート)とすることは、顧客からの信頼を得る上でも、インターネット市場を利用した集客を行う上でも不可欠の条件であって、販売活動に(ママ)行う上で極めて重要な要素であったところ、本件企業は、このように販売活動上極めて重要な意味を持つ場所である本件アパートと本件倉庫とを一体的に利用して本件販売事業に不可欠な商品の受取り、保管、梱包、発送、返品された商品の受取り、代替品の発送といった業務を行い、併せて商品写真の撮影をも行っていたのであるから、そこで行われていた具体的な活動が基本的には「商品の保管」及び「引渡し」を中心とするものであることや、本件販売事業上重要なその他の業務(仕入れ、受注ないし受注確認、商品発送指示、在庫管理等)が本件アパート等以外の場所(米国)で行われていたこと等、控訴人が指摘する事実を勘案してもなお、本件アパート等で行われる活動が本件販売事業全体において果たす役割、機能は、本質的で重要なものであると評価することができる。

したがって、本件アパート等で行われる活動は「準備的又は補助的な性格」もの(ママ)にとどまらないとした原審の事実の評価に誤りはなく、本件アパート等は日米租税条約5条4項各号に該当しないとした原審の判断に同号の適用の誤りはないというべきである。

なお、控訴人は、日本語取説書の同梱作業、不良品の返品受取り及び代替品の発送は、商品の「引渡し」の範囲を超える活動とはいえず、また、商品の写真撮影は商品の「保管」に当たるとも主張するが、これらの活動について、単なる「保管」又は「引渡し」の範囲を超えるものであるとの原審の評価に誤りはない。

また、上記までに説示したところに照らせば、これらの活動が「商品の引渡し」や「保管」に当たるとしても、そのことによって、本件アパート等で行われる活動の本件販売事業全体において果たす役割、機能の重要性が失われるものではなく、控訴人の上記主張は、本件アパート等で行われる活動が「準備的又は補助的な性格」もの(ママ)にとどまらないとした原審の事実の評価、本件アパート等は日米租税条約5条4項各号に該当しないとした原審の判断を左右するものではない。

東京地方裁判所 判示要旨

1.
■日米租税条約5条4項(a)号ないし(d)号は、「準備的又は補助的な性格の活動」の例示であり、ある場所が同項各号に該当するとして恒久的施設から除外されるためには、当該場所での活動が準備的又は補助的な性格であることを要するものと解すべきである。したがって、本件アパート等が恒久的施設に該当するためには、同条1項に該当し、かつ、同条4項各号に当たらないことを要するというべきである。

■本件アパート等は、原告が米国に居住している間も、①本件販売事業の商品を保管しておき、②顧客の注文を受けて、個別に商品を梱包した上で顧客向けに発送し、また、③顧客からの返品があった場合には、返品された商品を受け取り、代替商品を発送するなどの業務を行う場所であったのであるから、本件アパート等が販売事業の全部又は一部を行う一定の場所であることは明らかであり、本件アパート等は、日米租税条約5条1項の規定する「恒久的施設」に該当する。

■原告が営む企業は、本件アパート等を販売拠点(事業所)として販売活動を行い、かつ、従業員が、事業所において、通信販売である本件販売事業にとって重要な業務(商品の保管、梱包、配送、返品の受取り等)を実際に行っていたことに鑑みれば、本件アパート等が「準備的又は補助的な性格の活動」を行っていた場所であるということはできないから、本件アパート等は、日米租税条約5条4項各号のいずれにも該当しない。

■以上によれば、本件アパート等は、日米租税条約5条1項に該当し、かつ、同条4項各号のいずれにも該当しないから、同条の規定する「恒久的施設」に該当する。

東京高等裁判所 判示要旨

1.
■当裁判所も、①本件アパート等は日米租税条約5条4項各号に該当せず、同条1項の「恒久的施設」に該当すると判断する。

■OECDコメンタリーは、OECDモデル租税条約5条4項各号につき、平成15年から平成26年まで一貫して、準備的又は補助的な性格の活動であることを要すると解する立場を採り続けており、控訴人の原審の解釈は国際的に一般的な解釈に反し誤ったものであるとの主張は、採用することができない。

■OECDコメンタリーは、準備的又は補助的な性格を有する活動とそうでない活動とを区別する決定的基準は、事業を行う一定の場所での活動が、本来、企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成するか否かであるとしており、その一般的な目的が当該企業全体の一般的目的と同一であるような事業を行う一定の場所は、準備的又は補助的な活動を行うわけではないとしていることが認められるから、日米租税条約5条4項各号を適用するに当たり、ある場所における活動が「準備的又は補助的な性格を有する活動」かどうかを判断するに際しても、当該活動が企業の全体としての活動の本質的かつ重要な部分を形成しているかどうかという観点から検討するのが相当である。

■本件アパートは、顧客にとって販売事業の事業主体(本件企業)の所在地として認識できる唯一の場所であり、本件企業にとって、その所在地を日本国内(本件アパート)とすることは、顧客からの信頼を得る上でも、インターネット市場を利用した集客を行う上でも不可欠の条件であって、販売活動に行う上で極めて重要な要素であったところ、本件企業は、アパートと倉庫とを一体的に利用して販売事業に不可欠な商品の保管、梱包、発送等といった業務を行っていたのであるから、本件アパート等で行われる活動が販売事業全体において果たす役割、機能は、本質的で重要なものであると評価することができる。したがって、原審の判断に誤りはないというべきである。

認定事実

■原告は、平成14年以降、インターネットを通じ、本件販売事業を営んでおり、本件販売事業の内容は、概要、①米国で自動車用品(カーセキュリティ用品及びカーオーディオ用品)を仕入れて本邦に輸入し、日本国内において保管する、②原告ホームページ等を運営し、インターネット(原告ホームページ、楽天市場ウェブページ、ヤフーオークション等)を通じて、上記自動車用品の注文を受ける(なお、商品代金の決済は、日本国内にある銀行への振込み又は代金引換の方法により行う。)、③顧客の注文を受けて、日本国内の保管先から顧客に対し、佐川急便を介して、注文商品を配送するというものであった。

■原告は、平成16年4月15日付けで、加古川市長に対し、同月12日に米国籍の女性と婚姻した旨の届出書を提出し、同年10月23日、本件出国をして、同日以降少なくとも平成20年末までの間、米国に居住していたが、本件販売事業の内容は、原告が米国に居住している間においても同様であった。

■なお、原告の平成16年6月6日から平成22年9月11日までの間における本邦への入国及び本邦からの出国の状況は、別表3「原告の日本への入出国状況」記載のとおりであった。

■本件企業は、原告ホームページ等を運営して、インターネット上の電子商店街である楽天市場やヤフーオークションに出品するなどの方法により、本件販売事業を行っていたが、①楽天株式会社は、楽天市場について、日本国内に事業所がない場合には出店することができないこととし(なお、外国に居住する個人が日本国内に事業所を持つ場合であっても、外国の住所を基に出店することはできない。)、②ヤフー株式会社は、外国居住者であっても、18歳以上の日本語を理解し、読み書きができる者であって、利用規約を順守することを約束した者であれば、ヤフーオークションに出品することができることとしているが、「日本国外との間で商品発送または代金支払が行われた取引または行われることが予定されていた取引」については、同社の設けるトラブル発生時の補償制度(以下「ヤフー補償制度」という。)に基づく補償金支払の対象外としていた。

■本件企業が運営する原告ホームページ等は、全て日本語で作成されており、本件企業の所在地、連絡先等について、次の内容が掲載されていた(なお、原告が米国に居住している間も、原告ホームページ等の上記掲載内容に変更はなかった。)。

■本件企業は、原告ホームページ等において、取扱商品を他の業者より低い価格で販売している旨を宣伝しており、例えば、原告ホームページには、「当店では定期的に価格チェックを実施し、ほとんどの商品を国内最安値に設定しています。ご注文予定の商品一式を消費税、送料込みで当方より安く販売しているところがあればメールにてご連絡ください。可能な限り検討させていただきます。」などと掲載されていた。

■本件企業は、原告ホームページ等において、国内から国内各地の顧客に配送した際に要する通常の期間内に取扱商品を引き渡すことを、本件販売事業の条件として表示しており、例えば、原告ホームページには、「在庫有りと記載された商品は基本的にご注文の翌日発送いたします。」と掲載され、楽天市場ウェブページには、「代引きの場合は注文確認後3日以内、銀行振込の場合は入金確認後3日以内に配送します」と掲載されていた。

■また、本件企業は、原告ホームページ等において、取扱商品の送料を顧客が負担する旨を表示し、例えば、楽天市場ウェブページには、①個別に送料を設定している商品を除き、送料を「全国一律800円」とし、②「まとめ買い時の扱い」について「1配送先につき、送料別の商品を複数ご注文いただいた場合、送料は上記料金表1個分送料になります。」と掲載されていた。

■本件企業は、原告ホームページ等において、配送した商品に初期不良があった場合には、本件企業が送料を負担した上で、顧客からの返品に応じる旨を表示していた。なお、原告は、(本件出国後である)平成19年3月19日、返品を検討している旨を連絡してきた顧客に対し、電子メールにより、キャンセルする場合には本件アパート宛てに着払いで発送してもらいたい旨を申し入れ、本件アパートの住所及び本件電話番号を連絡していた。

■本件企業の取扱商品の中には、自動車への取付けに専門的な知識を要し、日本語の取扱(取付)説明書がなければ、取付けが困難なものも含まれていた。原告は、顧客満足度の向上(販売促進)の観点から、そのような商品に日本語取説書を添付することとし(ただし、日本語取説書を添付しない商品もある。)、原告ホームページ等において、商品に日本語取説書を無料で添付することを宣伝していた。

■本件企業は、例えば、原告ホームページにおいて、「もともと英文取説しかついていません。ただし商品名の横に日本語取説つきと記載のあるものは、当方作成のオリジナル日本語取説をつけており、取り付け、調整、使用方法などをわかりやすく記載しております。(コピー、転売等はご遠慮ください。)」と掲載し、最新情報欄に商品発売の告知と併せて、当該商品の日本語取説書が本件企業独自のものであり、日本初であることを宣伝するなどしていた。

■原告は、平成13年11月16日、本件アパートを賃借し、平成14年以降、本件販売事業における商品の保管、梱包、発送等の業務を行う場所として、本件アパートを使用していた。なお、原告は、本件アパートに本件電話番号等を設置した。

■原告は、平成16年頃、丁に対し、本件販売事業の効率化を図るため、本件受注ソフトの作成を依頼し、同年4月頃、本件アパートにあるデスクトップパソコンに本件受注ソフトが組み込まれた。

■なお、原告は、その後、丁に対し、複数回にわたり、本件受注ソフトの修正、本件販売事業に使用する別のシステムの作成等を依頼し、丁は、原告に対し、電子メールにより、修正プログラムや新しいシステムファイルを送信していた。

■原告は、取扱商品が増加したことなどから、(本件出国後である)平成18年11月29日、本件倉庫に係る賃貸借契約を締結し、本件企業は、この頃以降、商品の保管、梱包、発送等の業務を行う場所として、本件倉庫を使用していた。なお、原告は、上記賃貸借契約に係る入居申込書において、勤務先の会社名を「A」と記載し、原告の住所地及び勤務先(本件企業)の所在地として、本件アパートの住所を記載していた。

■本件倉庫には、ファックス機能付電話機(本件ファックス番号を本件アパートから本件倉庫に移設したもの)、パソコン、プリンター、商品撮影用のカメラ機器、商品運搬用のフォークリフト、商品の陳列棚、梱包に用いる材料(緩衝材)等が備え付けられていた。

■原告は、本件販売事業における商品の保管、梱包、発送等の業務に従事させるため、勤務時間を13時から15時として、パートタイマー(本件従業員)を二、三人雇用しており、原告が米国に居住している間も同様であった。

■本件従業員は、本件倉庫が賃借された後は、本件倉庫において、商品の保管、梱包、発送等の業務に従事していた。なお、本件倉庫には、監視カメラが設置され、原告は、同カメラにより、本件従業員が業務に従事している状況を確認し得るようになっていた。

■原告が米国に居住している間における本件販売事業の流れ等ア 原告が米国に居住している間における本件販売事業の流れ(顧客が原告ホームページ等を通じて商品を注文し、本件企業が顧客に対して商品を発送するまでにおける具体的業務の内容)は、概要、以下のとおりである。

■原告ホームページ等において、顧客が注文ボタンをクリックすると、注文票画面が表示される。顧客(購入者)が、住所、氏名、電話番号、支払方法、配達希望日等を入力し、「注文する」ボタンをクリックして注文内容を確定させると、①原告に対しては、注文が入ったことを知らせる電子メールが送信され、②顧客に対しては、注文された商品の在庫を確認した上で確認メールを送信する旨の電子メールが自動送信される。

■原告は、上記電子メールを受信した後、本件受注システムを用いて、本件倉庫に在庫があることを確認の上、顧客に対して確認メールを送信するとともに、本件倉庫にあるパソコンに対し、発送指示を行う(上記指示により、本件倉庫にあるパソコンの印刷ボタンを押せば、注文された商品に係る送り状〔配送伝票〕を印刷することができる状態となる。)。

■本件従業員は、本件倉庫にあるパソコンの印刷ボタンを押して、注文された商品に係る送り状(配送伝票)を印刷する。なお、この送り状には、配達依頼主である本件企業の住所等として、本件アパートの住所及び本件電話番号が記載されている。

■本件従業員は、印刷された送り状(配送伝票)に対応する商品を、本件倉庫の陳列棚から取り出して、緩衝材で包み、発送用の段ボールで梱包する。本件従業員は、その際、日本語取説書のある商品については、日本語取説書を同梱する。

■本件従業員は、送り状(配送伝票)が印刷された全ての商品の梱包を終えた後、本件倉庫にあるパソコンを用いて、本件倉庫における在庫状況が記載された紙(以下「在庫一覧書面」という。)を印刷し、在庫一覧書面の内容と実際の在庫状況を突き合わせることによって、梱包作業に誤りがなかったかを確認する。

■本件従業員は、佐川急便に対し、発送準備を整えた全ての商品を引き渡し、その後、本件倉庫の施錠をして、その日の業務を終了する。

■なお、本件販売事業における注文の多くは、原告ホームページ等を通じてされていたが、顧客がファックス(本件ファックス番号)により注文をした場合には、当該ファックスの内容が自動的に電子データ化され、電子メールにより原告に送信される仕組みとなっていた。

■また、顧客が本件電話番号に電話を掛けた場合、当該電話は、インターネット回線を通じて、原告の電話に転送された上、常に留守番電話が対応するように設定されており、原告又は本件従業員が本件電話番号等を通じて顧客と直接やりとりをすることはない。

■本件従業員が本件倉庫において行っていた主な業務の内容は、概ね次のとおりである。なお、本件従業員が本件出国後に本件倉庫で行っていた業務は、本件出国以前と比較して特段の変更点はない。

■商品の受取り・保管業務本件従業員は、国際航空宅急便等により日本に輸入され、ヤマト運輸株式会社が本件倉庫に配送した商品を受け取り、本件倉庫の陳列棚に並べて保管する。

■商品の梱包・発送業務本件従業員は、①本件倉庫のパソコンを用いて、発送すべき商品の送り状(配送伝票)を印刷し、②この送り状に従い、商品を緩衝材で包み、日本語取説書のあるものについては日本語取説書を同梱するなどして梱包作業を行い、③在庫一覧書面を用いて梱包作業に誤りがないかを確認し、④梱包した全ての商品を佐川急便に引き渡して、商品を発送する。

■返品された商品の受取り、代替商品の発送業務等本件企業は、顧客が商品を返品する場合、本件アパートに向けて商品を返品してもらうようにしており、本件従業員は、転送届に基づき本件アパートから転送された商品を受け取り、また、顧客が代替商品を希望している場合には、代替商品を陳列棚から取り出して、上記bの業務を再度行う。なお、顧客から返品された商品は、国際航空宅急便を利用して原告に配送する。

■商品写真の撮影本件従業員は、原告が取扱商品の写真(原告ホームページ等に掲載するためのもの)を撮影し忘れた場合には、これを撮影して、当該写真データを原告に送信する。なお、原告は、平成20年3月頃、本件従業員が上記撮影に使用するための照明器具等を購入して本件倉庫に郵送しており、本件従業員は、同年4月頃以降、必要に応じ、商品の撮影業務を行っていた。

■原告が、米国に居住している間、本件販売事業について行っていた主な業務の内容は、概ね次のとおりである。なお、本件販売事業は、全て日本国内の顧客を相手にしたものであり、米国内に顧客はいない。また、原告は、米国において、本件販売事業に係る所得(本件各係争年分)を申告していなかった。

■市場動向の調査等原告は、日本のヤフーオークションに出品されている自動車用品の種類と落札記録をインターネットから取り込んで集計し、市場動向を調査し、その結果を踏まえて、商品の販売価格を決定する。

■商品の仕入れ及び支払業務原告は、米国の仕入れ業者を訪問し、仕入価格等についての交渉を行い、商品の仕入れ及び仕入れた商品の代金の決済を行う。

■なお、仕入れた商品は、原則として、仕入業者が国際航空宅急便を利用して日本国内に輸入し、本件倉庫に配送していたが、原告自身が国際航空宅急便等を利用して本件倉庫に配送することもあった。

■原告ホームページ等の管理(記事掲載等)原告は、商品の写真を加工し、商品説明とともに原告ホームページ等に掲載するなどして、商品の宣伝を行う(なお、原告は、原則としてメーカーから商品写真を入手していたが、写真のないものは独自に写真を撮影して原告ホームページ等に使用していた。)。

■原告は、顧客から注文が入った場合には、本件受注システムを用いて、本件倉庫における在庫を確認した上、確認のメールを顧客に送信し、本件倉庫のパソコンに対して発送指示を行う。

■原告は、顧客からの問合せ、見積依頼等については、全て電子メ一ルで受け付けることとし、これらの問合せ等に対し、電子メールで回答する。

■日本語取説書の作成業務原告は、一部の商品について、日本語取説書を作成する。なお、原告は、日本語取説書について、日本国内の印刷業者に依頼し、同業他社が日本語取説書をコピーして使用できないような加工(コピーすると「○○○○○○○○○○」の文字が表示される加工)を施したものを本件倉庫に納入させていた。

■原告は、本件各係争年において、本件販売事業による所得があったにもかかわらず、処分行政庁に対し、本件各係争年分の所得税の確定申告書を提出しなかった。

■本件調査担当職員は、平成20年10月8日から平成21年11月9日までの間、本件税務調査を行い、原告に対し、繰り返し、帳簿書類の提示等を要請した。しかしながら、原告は、本件訪問調査において、本件調査担当職員の質問に応じたものの、それ以外の協力はせず、帳簿書類の提示も拒否した。

■処分行政庁は、前記アの経緯において、本件各係争年分に係る原告の所得金額等を実額により把握することができなかったため、原告の平成16年分の事業所得に係る青色申告書類に基づき原告所得率を算定し、本件税務調査により把握した原告の事業所得の総収入金額に原告所得率を乗じて原告の所得金額を推計した。

■処分行政庁は、平成22年6月30日付けで、上記推計の結果に基づき、本件各処分を行った。

■原告は、本件異議申立て後、平成22年10月13日に実施された質問調査において、本件調査担当職員に対し、原告が、本件企業の開業以来、帳簿書類を付けており、日本国内と米国内の経費についても帳簿に付けていること、本件販売事業に係る帳簿書類を提出する用意もあることなどを説明したが、結局、帳簿書類を提出しなかった。

■原告は、本件異議申立て後、原告の米国における経費が控除されないことは不当であるという趣旨の主張もしていたが、米国における経費を算定するための客観的資料等を提出しなかった。

■原告は、平成24年3月16日、本件訴訟を提起した。

■被告は、原告に対し、平成24年12月14日付け書面により、①原告が米国において所得税の申告を行っているか否か、②原告が米国において事業を行う上での何らかの登録等を行っているか否かについて釈明を求め、当裁判所が上記釈明に応じるよう促したが、原告は、これに応じなかった。

(補足)倉庫PE事件とは

デジタル経済にどのように対応するか

■倉庫PE事件とは、非居住者であるインターネット販売業者の倉庫等が日米租税条約上の恒久的施設(PE)に該当するとして、その販売収益相当額が日本において課税された事案である。

■非居住者が稼得する事業所得については、多くの租税条約(及び国内法)で「PEなければ課税無し」の原則が定められているが、インターネット販売は、国内に必ずしも物理的な販売拠点がなくともインターネット上で商品を販売することが可能であるという特性がある。これは、物理的な商品ではなくデジタル商品であればなおさらであり、現在、このような「デジタル経済」にどのように課税するかが国際的な問題となっている。

■本事案では、商品そのものは物理的なものであり、その保管及び引き渡しのために日本の国内の倉庫を使用していたことから、そのPE該当性が問題となった。これが租税条約上のPEに該当しなければ、例え国内法上は課税の対象になるとしても日本での課税は認められない。

概要

■本事案では、米国の居住者である原告がインターネットを通じて日本の顧客に商品を販売する事業を営み、商品の保管及び引渡しのために日本国内の倉庫を賃借し、自らは米国にいながら日本のパート従業員に当該倉庫での商品の発送業務等を行わせていた。

■原告が日本での申告納税をしなかったところ、課税庁は、販売収益相当額が日本で課税対象になるとして課税処分を行った。原告は、本件の倉庫は日米租税条約上のPEに該当せず、日本に課税権はないことを主張して争った。

■具体的には。倉庫はPEとなりうる物理的な施設であるものの、商品の保管や引渡しのみに用いられる施設については、条文上、PEの範囲から明示的に除外されており、本件の倉庫がPEには該当しない旨を主張した。また、仮に、PEに該当するとしても、倉庫に帰属する所得は販売収益相当額ではなく倉庫業務から生じた収益相当額である旨を主張した。

■これに対して、課税庁は、倉庫であってもそこでも活動が補助的なものにとどまらない場合にはPE除外認定の適用はない旨を主張した。その上で、本件の倉庫は販売拠点であって補助的な活動にとどまらず、また、帰属する所得は販売収益相当額であると主張した。

編集者コメント

商品の保管や引渡しのみに使用する施設は、明示的にPEから除外

■当事案では、日米租税条約のように特典制限条項(LOB条項)を有する租税条約に基づいて所得税の免除を受けようとする場合、国内法上、必要書類を添付した届出書の提出が必要とされたが、原告はその提出は行っていなかった。そこで、届出書の提出がなければ租税条約の適用を受けられないか、という点も争われた事案であった。

■先述の通り、日米租税条約を含めて、一般に租税条約上のPE(物理的PEに帰属)に該当するには、事業を行う一定の場所であって、その場所を通じて企業がその事業の全部又は一部を行っている必要がある(5条①)。具体的には、次の通りとなる。
<物理的PEに該当するための要件>
①事業を行う「場所」であること
②その場所が地理的に「一定」していること
③その場所が時間的に「一定」していること
④自己の場所であること
⑤その場所を「通じて」
⑥自己の事業は行われること

本家の倉庫がこの要件を満たすことは特段の問題ではない。本件で問題となっているのは、この要件を満たすとしても、商品の保管や引渡しのためのみ使用する施設については、明示的にPEの範囲から除外されているという点であった(日米租税条約5条4項(a))。
これは、準備的・補助的活動にのみ使用される施設については、例外的にPEの範囲から除外することを定めたものである。

補助的活動にとどまらない場合にはPE除外規定は適用されない

■よって、ここでの問題は、2つに分けられる。まず、商品の保管や引渡しの為のみに使用する倉庫であっても、それが補助的活動にとどまらない場合にはPE除外規定は適用されないと解すべきかという法令解釈の問題である。2つめに、そのような場合はPE除外規定が適用されないとして、本件の倉庫での活動が補助的活動と言えるかという事実認定の問題である。この事実認定の問題は、どのような基準で補助的活動に該当するかを判断するかという判断基準の問題と、本件の事実関係を同基準に当てはめるという事実評価の問題に分けられる。

■東京高裁は、東京地裁の判断をそのまま維持した。まず、条文の文言及びOECDモデル租税条約コメンタリーを根拠に、補助的活動にとどまらない場合にはPE除外規定は適用されないとの解釈を示した。その上で、事実認定としては、補助的活動については特段の判断基準を示すことなく、本件の倉庫は販売拠点としての役割・機能を有しており、また、通信販売では発送業務が重要な業務であることから、結論として補助的活動には該当しない旨を判示した。

■この判決は妥当であったと考える。文理解釈上はいずれの解釈もありうるところ、5条4項の文脈及び趣旨目的からすれば、同項は準備的・補助的活動との実質を有するものをPEの範囲から除外することが明らかであり、形式的に要件を満たすからと言って同項が適用されるものではないだろう。このことは、例えば、PEに当たるものを例示列挙した5条2項の要件を形式的に充足するからといって、実質が伴わない場合にはPEには該当しないことと同様である。なお、2017年改正後のOECDモデル租税条約では、実質的な観点から準備的・補助的な活動とはいえない場合にはPE除外規定の適用がないことが明確にされている点は特筆すべきであろう。

どのような場合に補助的と言えるかは、事業全体から見た当該活動の必要性や重要性の程度を考慮

■裁判所の判断には、疑問も残る。PE除外規定が商品の保管や引渡しをあえて個別に列挙しているのは、これらの活動は一般に補助的活動にとどまる性質を有するものであることが含意されているからではないだろうか。これらが補助的活動には該当しないと認定すること自体には、慎重である必要があると考える。

■一般に、ある活動がどのような場合に補助的と言えるかは、事業全体から見た当該活動の必要性や重要性の程度が考慮される。具体的には、経済的観点から観察して、所得の源泉となるべき本質的な機能とそれに付随する従属的な機能を区別し、第三者によって代替すること(業務委託すること)が容易であるものは従属的な機能というべきと思われる。反対に、そのような代替が困難な機能こそ本質的な機能であり、所得の源泉となるべきものと解される。

■通常、販売事業では、商品を仕入れて販売することが主たる事業であり、保管や引渡しはそれに付随する従たる業務と言えよう。インターネット販売の場合、インターネット上での情報提供や申込みの誘因が重要であり、商品の発送等は、それが配送網の構築などの高い付加価値を生むような性質のもので無い限り、やはり代替が容易な付随的な業務にとどまるものというべきである。本件のインターネット販売事業の本質的な機能はあくまでも原告が米国にいながらインターネット上で果たしており、日本のパート従業員は付随的な機能を担うに過ぎないと考えることもできる。

■そもそも、PE課税は、デジタル経済が進展する以前、100年以上前の社会・経済状況を前提として構築された制度であるため、今般のグローバル化にはもはや通用しない時代錯誤な税制である、という根本的な問題が当事案の根底には横たわっている。

重要概念/帰属所得

販売拠点はあくまでもインターネット上とも

■PEに帰属する所得の算定につき、OECDが採用する独立企業アプローチ(AOA)によれば、機能分析に基づき、経済的な観点から、企業全体の中でPEが果たす役割、使用する資産、管理するリスクを踏まえて、PEが「独立した企業であれば有したであろう所得」が帰属することになる。その実質は、移転価格税制における独立企業原則に従った関連企業間の適正な収益の配分に相当するものである。

■日米租税条約ではAOAそのものは採用されていないが、その背景にある独立企業原則の考え方は共通する。仮に倉庫がPEであると認められたとして、当該倉庫に帰属する所得を算定するに当たっては、当該倉庫が果たしていた機能と米国で原告が果たしていた機能を分析することが重要である。

■裁判所は、倉庫が販売拠点であったとの事実認定の下、当該倉庫には販売収益相当額が帰属するとの判断をした。販売拠点はあくまでもインターネット上であり、倉庫は販売拠点ではないと考えるにが自然であるように思われる。そうであるならば、倉庫に帰属する所得はあくまでも倉庫業収益相当額にとどまるとする原告の主張にも、一理ある。

併せて読みたい/アドビ事件

【移転価格税制/独立企業間価格】(東京高判平成20年10月30日判決)

独立企業間価格の算定につき役務提供取引について、課税庁が主張する再販売価格基準法に準ずる方法の適用を否定した事例。

コンピュータソフトウェア製品の販売支援、マーケティング、製品サポート事業等を業とする株式会社である納税者(アドビ社)の国外関連者との取引につき、移転価格税制における独立企業間価格が争われた。
地裁では、納税者が行う役務提供取引に対する独立企業間価格の算定方法について、再販売取引における再販売者の機能及びリスクと類似しているとして、課税庁の主張する再販売価格基準法に準ずる方法を採用。
しかし高裁は、納税者と比較対象法人とがその果たす機能において看過し難い差異があり、また、納税者の国外関連者との契約による報酬額が必要経費の額を割り込むリスクを負担していないものであるから、比較対象法人とはその負担するリスクにおいても差異がある認定。そして、課税庁が採用した方法が、基本3法の考え方から乖離した方法であると認め、原判決を取り消し、更正処分を違法であると判断しています。高裁で確定。納税者勝訴。

本件では、課税庁は移転価格税制を適用したが、その他の選択肢として、親会社にPE課税することが考えられた事案である。すなわち、親会社のために活動する子会社が親会社の代理人PEに該当すれば、当該PEに帰属する所得について親会社に課税することが可能となる。