ガーンジー島事件
目次
法人税に相当しないということは困難
概要
納税者(原告・控訴人・上告人)の子会社が負担した税率の選択可能な外国税は、外国法人税に該当するとされた事案。
相関図
概要
- ■概要
- ■納税者の子会社が負担した税率の選択可能な外国税は、外国法人税に該当しないものとして、タックスヘイブン対策税制(措置法66条の6)の適用があるとされた事案。
■納税者は、ガーンジー島に本店を有する保険会社を100%子会社とする内国法人である。
■ガーンジー島では、本件子会社のようなキャプティブ保険会社に対する法人税については、①免税法人となる、②20%の定率課税を受ける、③定率の段階税率による課税を受ける、④0%から30%の間の一定の税率による課税を受けるという4つの中から適用される税制を選択することができ、納税者は26%の税率を適用して所得税を納付した。
■これに対して課税当局は、このようなガーンジーの法人所得税制は到底租税というに値しないため、法人税法 69 条 1 項に規定する外国法人税には該当しないとし、本件子会社は、ガーンジーでは法人税負担を負っていないことになるため、納税者はタックス・ヘイブン対策税制の適用を受けるとして課税処分等を行った。
■地裁は、ガーンジー島においては、同一の法人の同一の収入に対して、基本的性格を異にする4つの税制が当該法人の選択によって適用され得る、という極めて不自然な事態が生じているとし、外国法人税に当たらないとした課税庁の判断を認めた。高裁も地裁の判断を支持したが、最高裁は判断を覆し、納税者の主張を認め、納税者逆転勝訴させた。租税法律主義の代表判例。 - ■裁判所
- 東京地方裁判所 平成18年9月5日判決(鶴岡稔彦裁判長)(却下・棄却)(控訴)
東京高等裁判所 平成19年10月25日判決(青柳馨裁判長)(棄却)(上告・上告受理申立て)
最高裁判所 平成21年12月3日判決(甲斐中辰夫裁判長)(破棄自判・一部認容・却下)(確定)(納税者勝訴)
争点
判決
東京地方裁判所
→納税者敗訴
東京高等裁判所
→納税者敗訴
最高裁判所
→納税者勝訴
外国法人税と外国子会社合算税制
法人税法69条(外国税額の控除)
法人税法施行令141条(外国法人税の範囲)
これを受けて、法人税法施行令141条2項は、外国法人税に含まれる場合として同項1号ないし4号を列挙するとともに、同条3項において、外国法人税に含まれない場合として同項1号ないし5号を列挙している。
外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)
わが国の内国法人等が、実質的活動を伴わない外国子会社等を利用する等により、わが国の税負担を軽減・回避する行為に対処するため、外国子会社等がペーパー・カンパニー等である場合又は経済活動基準(事業基準、実体基準、管理支配基準)のいずれかを満たさない場合には、その外国子会社等の所得に相当する金額について、内国法人等の所得とみなし、それを合算して課税(会社単位での合算課税)することを規定した税制。
租税特別措置法66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)に規定されている。
外国法人税
キーワード
■キーワード
ガーンジー島、外国関係会社、外国税額控除、外国法人税、軽課税国、限定列挙、タックスヘイブン対策税制、特定外国子会社
■重要概念
外国税額控除制度
東京地裁/両者の主張
納税者の主張
外国法人税の意義本件において、B社が措置法66条の6第1項で規定する特定外国子会社等に該当するか否かは、本件外国税が法人税法69条1項の定める「外国法人税」に該当するか否かにかかわるところ、外国法人税に該当するというためには、まず「租税」でなければならない。
租税とは、「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」と解されている。
また、租税の特色及び他の国家収入との相違として、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とするものであり、それ以外の目的で課される罰金・科料・過料・交通反則金等のような違法な行為に対する刑事上・行政上の制裁の性質をもつ金銭給付と区別されること、②国民の富の一部を強制的に国家の手に移す手段であるから、一方的・権力的課徴金の性質を持ち、国家の財産収入や事業収入のように、いわゆる経済活動に基づく収入と区別されること(租税の強行性)、③特別の給付に対する反対給付の性質を持たない点で各種の使用料・手数料・特権料等と区別されること、④国民にその能力に応じて一般的に課される点で、特定の事業の経費に充てるために、その事業に特別の関係にある者から、その関係に応じて徴収される負担金と区別されること、⑤金銭給付であることを原則としていることの5点を指摘することができる。
本件外国税は、ガーンジー政府が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で課するものであり、また、ガーンジー政府が、法律の定めに基づいてB社に課する金銭給付であるから、前記租税の定義に該当する。
さらに本件外国税は、前記の租税の特色及び他の国家収入との相違として挙げられている①ないし⑤の特色をすべて満たしている。
すなわち、本件外国税は、罰金等の違法な行為に対する刑事上・行政上の制裁の性質を持つ金銭給付ではなく、公共のサービスの提供に必要な資金を調達することを目的とするものであり(①)、国家の財産収入や事業収入のように、いわゆる経済活動に基づく収入とは区別される一方的・権力的課徴金の性質を持つものであり(②)、各種の使用料・手数料・特権料等のように特別の給付に対する反対給付の性質を持たず(③)、特定の事業の経費に充てるために、その事業に特別の関係のある者から、その関係に応じて徴収される負担金のようなものとは異なり、住民に一般的に課される(④)、金銭給付である(⑤)。
したがって、本件外国税が租税に該当することは明らかである。
仮にガーンジー所得税法に規定する要件を満たす会社については、税率の選択が認められているとしても(なお、B社が適用を受けている26%という税率は、ガーンジー税務当局に対しての申請が承認されたことに基づくもので、課税庁との合意によるものではないが、その点は措くものとする。)、それは我が国において青色申告の承認を受けた法人のみに認められている租税特別措置法における特典享受の場合と同じく、特定の要件を充足した者に対してのみ特典が付与されているものであるから、そのことによって本件外国税の租税の本質である強行性が失われるわけではない。
この点、被告は、納税者が措置法その他の法令の規定の適用を選択することにより実効税率が軽減されることがあることと、納税者と課税庁が合意した税率を適用することとは異なる旨主張するが、有利な税制の適用を選択して法人税の実効税率が軽減されることと、納税者が選択した税率により法人税の課税を受けることは、実質においてなんら変わるところはない。
すなわち、ガーンジー島の税法は、日本の税法と比較して、税率自体を選択させるか(ガーンジー島)、それ以外の要件において選択の幅を与えるか(日本)という、選択の幅を与えるための法令の構造が若干相違しているに過ぎず、両者は、全く異質なものではなく、納税者の選択により納付すべき税額が異なることがあるという結果をもたらすものとしては、むしろ同一の効果をもたらす、同種の法令であるということができる。
また、被告は、我が国の法人税に関する法令には、法定の税率を超える税率の適用を認める規定はなく、納付すべき税額は法令の規定そのものにより定まるのであって、本件外国税のように納税者の選択あるいは納税者と課税庁の合意に応じて定まるものではなく、納税者によって納付すべき税額や納税時期などに差異が生じることはない旨主張する。
しかし、ガーンジー島において、国際課税資格を取得した居住法人が資格申請書に記載する税率については、ガーンジー所得税法〔188C条(4)〕において、「本法律の本編で言及されている規定税率は、ゼロ%を上回り30%以下の百分率でなくてはならない。」と明記されているのであり(甲10)、ガーンジー所得税法においても、法定の税率を超える税率(例えば30%を超える税率)の適用を認める規定はなく、その点で我が国の法人税法とガーンジー所得税法の間に差異はない。
法人税法施行令141条3項1号及び2号の定める租税が外国法人税に該当しないこととされたのは、これらの税は、①「実質的には法人税負担がない税」であり、いずれも国際的な二重課税の調整という制度本来の目的からはずれるものであること、②納付や還付に関し納税者の裁量が広範であり、その点で、我が国の法人税に相当しないことを考慮した結果であるところ、本件外国税は、原告が選択し、ガーンジー税務当局が承認した税率について、原告は実質的に税負担を負っているのであり、同条項1号及び2号が規定する税とは明らかにその性質が異なり、本件外国税においては、B社が申請し、ガーンジー税務当局が承認した税率の税額が、同税務当局によって強制的に徴収されるのであるから、本件外国税は租税としての強行性を有している。
法人税法施行令141条3項は、最大では自国の法人税を完全に放棄することになるという外国税額控除制度の特性にかんがみ、控除対象となる外国法人税を自国の法人税に相当するものに限定するために設けられた規定であり、ここで規定されているのは、外国政府に課される税であっても、特定のものについては、外国法人税に含まないものとして取り扱うことにするという立法者の意図(政策目的)を明らかにしたものである。
その意味で、同規定は、確認規定ではなく、二重課税の救済範囲を限定した創設規定と解すべきである。
また、同条項は、「外国法人税に含まれないものとする。」と規定しているが、「ものとする」という文言は、ものごとの建前、原則を表したものであり、本来断定的に規定してもよいところを、言葉のあや、ないし語呂からそのように表現したに過ぎない場合もあるとされていること、同項5号が、「外国法人税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税」と規定しているのに対し、同条1号ないし4号においては、その文末に同様の文言はなく、5号とは明確に区別されていることからすると、同項各号は、5号を除き、外国法人税に該当しない場合を限定的に列挙した規定であると解すべきである。
被告の行った課税処分は、二重課税をもたらすもので、タックスヘイブン対策税制及び外国税額控除制度の趣旨からも違法である。
タックスヘイブン対策税制は、税率の低い国に外国子会社を設立することによって行われる租税回避に対処するための税制であるが、その趣旨は、低税率国における所得についても我が国の課税所得と同視し、我が国の法人税と同額の法人税を課すことにあり、タックスヘイブン国と我が国において、二重に課税を行うことにあるわけではない。
そのため、措置法66条の7において、タックスヘイブン国で納付した外国法人税は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上算出された法人税額より控除することが可能となっている。
ところがB社の課税所得については、ガーンジー島で26%の税率による税額を納付し、既に課税がなされた状態であるのに、更に本件各更正処分が行われたことにより、日本においても、再び、原告の益金に算入され、30パーセントの法人税が課されることとなった。
すなわち、ガーンジー島における税率26%と、日本における税率30%が二重に課税されており、そのうえ、我が国の法人税に該当しないとの理由で外国税額控除も認められていない結果となっている。
なお、英国法人のガーンジー島における子会社が支払った法人所得税は、タックスヘイブン対策税制の適用を受けることとなると同時に、英国において外国税額控除の適用を受けることができる。
すなわち、デザイナー・レート・タックス制度により、ガーンジー島における子会社は、日本における特定外国子会社等に相当する法人に該当することになるが、現地において支払われた税のうち、間接税や保険料に対する税以外の法人の所得に対して課された税(本件外国税も含む)については、本国での税と現地における税の二重課税排除の観点から、原則として外国税額控除の適用を受けることができるとされている。
このようにB社が納付したガーンジー島の法人所得税が外国法人税でないとされた場合には、日本とガーンジー島においてそれぞれ課された税の負担が全く解消されずに、二重課税として存在したままとなることが明らかであるから、本件各処分は違法である。
被告は、課税の段階で納税者の広範な裁量が認められる税は、納税者が自らの裁量によって実質的な負担を軽減することができ、その後の納付、還付の段階における強行性の有無にかかわらず、強行性を欠くところ、本件外国税は課税の段階で納税者の広範な裁量が認められる税であるから、租税の特色である強行性を有するものとはいえない旨主張する。
しかし、そもそも、租税とは、国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付をいい、法律の定めに基づいて課税されることは租税の要素であるといえるが、強行性を有することは租税であることの必須の要素ではなく、被告の上記主張は失当である。
コンメンタール法人税法においても、租税に該当しない例として挙げられているのは、国債を購入した負担金、景気対策のために課徴された金額で後日還付されるものであり、強行性とは関係がない。
また、本件外国税は、申請する適用税率が申請者にとって適しており、ガーンジー島の経済的利益の観点からも妥当な水準であることの情報を記載した資格申請書をガーンジー税務当局に提出し、当局は、申請者に国際課税資格の取得要件が満たされている場合に資格申請を承認し、資格証明書を発行するのであり、当局は、自由裁量により資格申請を拒絶して、申請者にその旨を通知することができるが、その拒絶理由は一切示す必要はなく、また、申請者はその拒絶に対して一切の異議申立てはできないことからすると、本件外国税が課税の段階で納税者の広範な裁量が認められる税であるとの前提が誤っている。
なお、被告は、B社の取締役が作成した資格申請書及びガーンジー金融当局及びガーンジー税務当局によるガーンジー島税制の解説文に記載された用語(「Negotiate」「Agreement」)を自説の論拠としているが、それらに記載されている単語の1つや2つにそれほど重要な意義は認められない。
また、外国法人税該当性の判断に当たっては、強制的に徴収されるという税の特性は、納付や還付といった税の徴収の場面で問題となるのであり、税率決定等の課税の段階では問題とされていないのであるから、課税の場面で納税者の裁量が広範な税が租税の強行性を欠くとはいえない点でも被告の上記主張には理由がない。
被告は、原告が「一方的・権力的課徴金」(強行性)ではない場合とは、国家の財政収入や事業収入のように経済活動に基づく収入であると主張するのに対し、法人税法や同法施行令が国家の経済活動に基づく収入ではなくても納税後に任意に全部又は一部の還付を受けられるもの等について、我が国の法人税に相当する租税ではないとしていることは明らかであるから、原告の上記主張は、租税法の理解を誤っているものといわざるを得ない旨主張する。
しかし、被告が指摘していると思われる法人税法施行令141条3項1号は、国家の経済活動に基づく収入でなく、租税に該当するものであっても、同号に該当する租税は外国法人税には該当しないと規定しているだけであって、何ら原告の主張と矛盾しない。
被告は、租税の特徴は、契約等によってではなく、法定の課税要件の充足により租税債務が成立するところにあるのであって、納税者の任意若しくは納税者と課税庁との合意により租税債務が成立するのではない点に租税の強行性が認められる旨主張する。
しかし、本件外国税は、申請者の適用税率の申請に対して、ガーンジー税務当局は、その適用税率の決定について全面的な自由裁量を有しており、その決定に理由を示す必要はなく、申請者は申請の拒絶に対して一切の異議申立てができないことから明らかなように、そもそも納税者の任意若しくは納税者と課税庁との合意により租税債務が成立する税ではない。
また、コンメンタール法人税法において、法人税法施行令141条3項1号、2号について、「税の特性である強制的に徴収される性格に着目するもので、納付や還付に関し納税者の裁量が広範であり、その点で、我が国法人税に相当しないものと考えられる。」と記載されていることからも明らかなように、法人税法69条1項の外国法人税該当性が問題となる場面で想定されている租税の強行性とは、徴収の場面での強制性を指すものであるとするのが通常の理解なのであり、この点においても被告の主張は誤りである。
被告は、原告がガーンジー島にキャプティブ保険会社を設立したのは、タックスヘイブン対策税制の適応を回避したいからである旨主張している。
しかし、原告のような損害保険会社がキャプティブ保険会社を設立するのは、保険リスクの回避のためであり、原告がガーンジー島をその設立地として選択したのは、①再保険マーケットの中心地であるロンドンに近いこと、②ガーンジー島は、オフショア金融センターで銀行も多数進出し、さまざまな通貨を扱っていること、③ガーンジー島においては、生損保の兼営が可能であること、④ガーンジー島においては、グループ以外の第三者からの再保険契約の再受も可能であること、⑤ガーンジー島には、当時、約330社のキャプティブ保険会社が存在し、キャプティブ保険会社設立の実績があったこと等を考慮した結果であり、タックスヘイブン対策税制の適用を回避したいがためではない。
被告は、ガーンジー所得税法は、保険会社に対して課税を受ける方式として、①免税法人となる、②標準税率に比べて極めて低い段階税率課税を選択する、③標準税率課税(20%)を選択する、④国際課税資格の申請をして、0%超30%以下の税率を選ぶという4つの選択肢を用意しており、同法は、納税者が任意に税率を選択できる税制である旨主張する。
しかし、保険会社が④の方式を選択するためには、ガーンジー税務当局に対し、国際課税資格の申請をし、当局の承認(当局の自由裁量により決定される)を得ることがその条件となるのであって、納税者が任意に④の方式を選択できるわけではなく、被告の主張は前提を誤っている。
また、被告は、上記①の免税を選択した免税法人と②の段階税率課税を選択した法人との間では、対象となる課税年度終了後3年以内であれば当該課税年度の課税方式を遡及して変更できるとしており、当該課税年度に係る納付済み税額があれば、変更後の課税方式で再計算し、過大納付額は還付される仕組みになっているから、ガーンジー所得税法における税は、法人税法施行令141条3項1号の「税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税」に該当するなどと主張する。
しかし、B社に適用される本件外国税は、上記④の課税方式であり、④の課税方式を選択した場合には、被告の指摘する3年以内の課税方式の遡及変更による過大納付額の還付を受けることはできないのであるから、本件外国税が、法人税法施行令141条3項1号の「税の納付後、任意に還付を請求することができる税」に該当する余地はない。
また、①及び②の課税方式を選択した法人は、課税方式の遡及適用により過大納付額の還付を受ける余地はあるが、それは、遡及的に課税方式を変更できるからであり、再計算の結果、過大納付額が発生すれば、それが還付されるのは当然である。
これに対し、法人税法施行令141条3項1号が規定しているのは、税の納付後、任意にその金額の全額又は一部の還付を請求することができる税であり、課税方式の遡及適用による再計算という過程を経ずに、納税者の意思のみで、任意に還付請求することができる税のことである。
したがって、①及び②の課税方式を選択した法人の税も法人税法施行令141条3項1号には該当しない。
被告は、ある外国における税が法人税法69条1項に定める外国法人税に該当するためには、我が国の租税の特性である強行性を有していることが必要であり、自力執行力を有することも我が国の租税の特性に属するところ、本件外国税は自力執行力を有しておらず、我が国の租税の特性たる強行性を欠いており、租税とは異なるものといわざるを得ず、法人税法69条1項に定める外国法人税に該当しない旨主張する。
しかし、そもそも強行性は租税であることの必須の要素とはいえない点は措くとしても、租税の強行性の意義については、様々な見解があり、租税義務の設定、その内容が法規によって定められていることと解する見解(乙13)によれば、本件外国税の納税義務もガーンジー所得税法によって設定され、その内容が決定されているのであり、強行性を有しているということができる。
少なくとも、自力執行力を有しないことの一事をもって強行性を欠くとする見解は見当たらない。
また、自力執行力を有するかどうかは、租税法律関係の本質的要素ではなく、これを認めるかどうかは立法政策の問題であり、現に自力執行権を有しない税制を採る国もあり、また自力執行力を有する国の間でも、その内容は様々であり、決して同一ではない。したがって、被告の上記主張には理由がない。
中里教授の論文である「法人税の税率の法理論」(甲39)において、「法人税とは、①法人の、②所得に対して課される租税である(中略)ということができるから、その定義において、税率の問題はあまり重要なものとは考えられていないといえよう。
なぜなら、たとえ法人税の税率構造や、税率の水準が劇的に変化しても、必ずしも法人税の本質自体が変化するわけではないと思われるからである。」と述べられているように、我が国の法人税は、法人の所得に対して課される租税である点にその本質的要素が存するのであって、税率如何によりその法人税の本質自体が変化するものではなく、被告が強調する税率の違いは、本件外国税を外国法人税と認定することとは全く関係がない。
国税庁の主張
外国法人税は、法人税法69条1項による外国税額控除の対象となる外国の租税であり、同条は、外国法人税の意義について、外国の法令により課される法人税に相当する税で政令に定めるものをいうと規定するところ、ある外国の租税が外国法人税に該当するか否かは、我が国の外国税額控除の可否に直結するものであるから、外国法人税の意義の解釈に当たっては、この外国税額控除の制度趣旨を踏まえる必要がある。
外国税額控除の制度は、国際的二重課税の排除の制度の1つであり、国内に源泉のある所得と国外に源泉のある所得との間の課税の公平の維持に役立つのみでなく、投資や経済活動を国内において行うか、それとも国外において行うかについて税制の中立性を維持すること(資本輸出の中立性)に寄与するものである。
このような外国税額控除制度の趣旨や、外国税額控除が単に損金算入を認めるものではなく、自国の法人税額を直接相殺する仕組みをとっており、自国の課税権を放棄する制度であることを踏まえれば、法人税法の解釈上、外国の租税が外国法人税であるか否かを決定する基準となるのは我が国の所得税及び法人税であると解すべきである。
そして、ある外国の租税が仮に制度上租税の名をもって呼ばれていても、それが租税に該当しない場合には、二重課税が存在するとはいえないから、外国法人税に該当し、我が国で外国税額控除の対象とされ得るためには、それが我が国で通用している租税の概念に該当することが必要である。
租税の意義租税とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付をいい、①公共サービスのための資金調達を目的とする、②一方的・権力的課徴金の性質をもつ(租税の強行性)、③特別の給付に対する反対給付の性質をもたない、④納税者の能力に応じて一般的に課される、⑤金銭給付であることを原則とするといった特色を有している。
このように、租税は、国民の富の一部を強制的に国家の手に移す手段であることから、国民の財産権への侵害の性質を持たざるを得ず、「一方的・権力的課徴金」(租税の強行性)の性質を持つことになる。
換言すれば、国や地方公共団体は、税法に定める特定の要件に該当するときは、一方的に納税義務の実現を求めるということであり、その義務は法規によって設定され、かつ、法規によって義務の内容が定められるのであって、租税法律関係においては、契約によって法律関係が形成されるような任意性を原則的に欠いている。
すなわち、租税法上の法律関係は、租税法の規定によって決定されるのであって、納税者と国又は地方公共団体との間で、合意によってその内容を定める余地は残されていないし、法律に定められている権利義務の内容が、同様の事実については一様のものとして画一的に与えられ、行政機関の裁量又は行政機関と納税者との合意によって変更することは許されない。
我が国の法人税の強行性我が国の法人税についてみると、法人税法において、課税標準、税率、申告時期、納付時期、還付額の算定方法などが法定されており、同じ条件であれば、同じ額の法人税が課され、給付又は還付される仕組みになっていて、納税者の選択により、あるいは納税者と課税庁との合意により課税標準の範囲や計算方法、税率、納付時期、還付額などが個別に決定されることはなく、また、法定の税率を超える税率の適用を認める規定はないし、課税庁が任意に税率を定めることができる旨の規定も存在しない。
このように、我が国の法人税は、税額の計算から納付、還付に至るまで、すべてが法定されており、納税者と課税庁の合意によって法律関係が形成され得るという任意性はなく、租税の特性である強行性を有しているといえるから、ある外国の租税が法人税法上の外国法人税に該当するか否かの判断に当たっては、当該外国の租税が、上記に述べた強行性を有しているか否かについて検討されなければならない。
法人税法施行令141条3項の趣旨我が国の法人税が、外国法人税について、我が国の租税概念に沿って、強行性を要件の1つとしていることは、法人税法施行令141条の規定及びその改正経緯からも明らかである。
平成13年政令135号により法人税施行令141条3項が改正され、外国又はその地方公共団体により課される租税であっても、①税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税(同項1号)、及び②税の納付が猶予される期間を、その税の納付をすることとなる者が任意に定めることができる税(同項2号)は、外国法人税に該当しないことが明らかにされた。
このような租税が外国法人税に該当しないとされたのは、納付や還付に関して納税者の裁量が広範であり、その点で、我が国の法人税に相当する税には該当しないものと考えられるからである。
前記改正規定は、制度の趣旨、取扱いを明確化したものであり、これまでの解釈、取扱いを変更するものではない。
すなわち、課税の中立性、公平性の維持に必要な外国税額控除制度の対象となる外国法人税は、我が国の法人税に相当する税に該当することを要するところ、この改正前の外国税額控除制度においては、文言上、制度の対象となる外国法人税の定義の外延が必ずしも明確でなかったことから、これを明確にするために、当時タックス・ヘイブンにおいてよく行われていた制度で外国法人税に相当しない例を明記することにしたものである。
したがって、法人税法施行令141条3項は、明らかに外国法人税に含まれない租税を例示したものとみるべきであるから、同項各号に掲げる租税のみが外国法人税に含まれないものであるとはいえず、同項各号に列挙されていないものであっても、強行性がないなど、我が国の法人税概念に該当しないものであれば、形式的には所得税、法人税等の名称が使用されていたとしても、外国法人税には該当しないと解すべきである。
原告は、法人税法施行令141条3項各号は、外国法人税に該当しない場合を限定的に列挙した規定である旨主張する。
しかし、規定の形式上、法人税法69条1項が「外国法人税」について「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」と規定し、外国法人税に該当するためには「法人税に相当する税」であることが前提であることが法律上明確に規定され、その上でいかなる「法人税に相当する税」が外国法人税に該当するかという点についての具体的な定めが政令に委任されているのであるから、この「法人税に相当する税」という要件に該当しない場合を政令が限定列挙するということは考えられない上、実質的に検討しても、諸外国において採られている、又は今後採られるであろう我が国の法人税に相当しない租税の形態を網羅的に列挙することは不可能であることは明らかである。
また、外国税額控除制度は、資本輸出の中立性確保という政策的判断から課税を減免する国家による一方的な恩恵的措置であり、このような外国税額控除に関する課税減免規定である法人税法69条については、その趣旨、目的に即した限定解釈を行うことが許されるところ、法人税法69条の規範内容は、我が国の所得税及び法人税を基準にして、控除対象となる外国法人税該当性を判断し、これに該当しない場合には外国税額控除を受けることがないということを含意しているのであって、外国法人税に該当しないものがあらかじめ明示的に列挙されなければ、外国の租税がすべて外国法人税に該当することになるという見解が、外国税額控除制度の本質に反する不合理な解釈であることは明らかである。
したがって、原告の上記主張には理由がない。
原告は、法人税法施行令141条3項1号及び2号の定める租税が外国法人税に該当しないこととされたのは、実質的には法人税負担がない租税であるからであり、B社は、本件外国税について実質的に税負担を負っているから、同項1号及び2号が規定する場合とは性質が異なる旨主張する。
しかし、課税の段階で納税者の広範な裁量が認められる租税は、納税者が自らの裁量によって実質的な負担を軽減することができ、その後の納付、還付の段階における強行性の有無にかかわらず、強行性を欠いていることは明らかである。
課税の段階で納税者が税率を任意に選択できたり、納税者と課税庁の合意によって税率が定まる場合と、税率自体は法令の規定によって一義的に定まっていても納税後に納税者が任意に還付を求めることができる場合では、たとえ納税者が実質的な負担を負っていたとしても、強行性を欠き、我が国の法人税に相当する税の負担を負っているとはいい難い点においては何ら異なるところはなく、原告の上記主張は理由がない。
外国法人税に該当するか否かの判定基準のまとめ法人税法施行令141条3項は、我が国の法人税に該当しないものとして、納付、還付の段階において納税者の裁量が認められるものを挙げているが、課税の段階で納税者の広範な裁量が認められるものは、納付、還付の問題を生じるまでもなく、そもそも強行性を欠いていることは明らかである。
したがって、ある税が外国法人税に該当するか否かを判定するために、その税が租税としての特質である強行性を有しているか否かについて検討する場合、給付の強行性の観点からばかりでなく、税額の決定など、課税そのものの強行性の有無の観点からも検討する必要があり、法人税法施行令141条3項が明示するような納付又は還付に関する納税者の裁量が広範な税だけでなく、課税に関する納税者の裁量が広範な税も、租税の特性としての強行性を欠き、外国法人税に該当しない。
また、租税の特性である強行性は、仮に納付及び還付について納税者の裁量を認めると、結果として租税債務自体が存在しないのと同様の状態になることからすると、徴収段階においても認められるべきである。
そして、租税については、租税の公共性にかんがみ、租税の確実かつ能率的な徴収を図るため、その存在及び金額を確定する権限(確定権)と、任意の履行がない場合に自らの手で強制的実現を図る権限(強制徴収権・自力執行権)とが租税債権者たる国及び地方団体に与えられているのであって、自力執行力を有することも我が国の租税の特性に属するというべきである。
本件外国税は、ガーンジー所得税法に基づき法人の所得を課税標準として課されたものではあるが、税額計算の重要な要素である税率を0%超30%以下の範囲において納税者の選択にかからしめているという点で、課税に関する納税者の裁量が広範な税であるといえる。
これは、ガーンジー金融当局が、保険会社に対するガーンジー島の税制等の説明書(以下「本件説明書」という。)において、ガーンジー島の税制が保険会社にとって有利かつ柔軟なものであり、国際課税資格を取得する納税者に適用される税率についてはガーンジー税務当局と交渉することができる旨明言していることからも明らかである。
したがって、本件外国税は、課税に関する納税者の裁量が広範であり、租税の特性としての強行性を欠き、外国法人税に該当しない。
ガーンジー所得税法は、保険会社に対して、課税を受ける方式として、①年間500ポンドの申請料を支払い免税法人となる(同法40A条)、②標準税率に比べて極めて低い段階税率課税を選択する(同法187A条)、③標準税率課税20%を選択する(同法5条)、④国際課税資格の申請をして、0%を超え30%以下の税率を選択する(同法188条)という4つの選択肢を用意しているところ、保険会社は、上記①の免税を選択することもできるし、仮に④の国際課税資格の申請をしても、税率については0%超30%以下の範囲で自由に選択できるから、結局、上記税率の範囲内で、納税額を自由に決定できることになる。
そうすると、ガーンジー所得税法は、納税者が任意に税率を選択できる税制であるということができる。
また、ガーンジー免税団体所得税法2条(1)及び3A条(1)の規定によれば、対象となる課税年度終了後3年以内であれば、上記①の免税を選択した法人は、当該課税年度の課税方式を②の段階税率課税に遡及的に変更することができ、上記②の段階税率課税を選択した法人は、遡って免税申請することができることとしており、当該課税年度に係る納付済税額があれば、変更後の課税方式で再計算し、過大納付額は還付される仕組みとなっており、還付に関し納税者の裁量が広範である点で我が国の法人税に相当しないことを確認的に明らかにした法人税法施行令141条3項1号の規定する「税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税」に該当する。
このように、本件外国税は、我が国の法人税法のように、同一の課税標準であれば同額の税額を納付しなければならないという強行性を有する租税とは本質を異にするものといわざるを得ず、むしろガーンジー島という国に対するいわば寄附金の性質を有するものというべきであり、我が国の法人税に相当する税として二重課税の排除を目的とする外国税額控除の対象となる外国法人税に該当するとはいえない。
ガーンジー所得税法83条は、「本法律の第81A条の規定に基づき控除されたか、控除される税金を含む、いずれかの税金または罰金が支払期日までに支払われない場合、行政官は、その支払い金額が民事上の債務であるかのように、支払いを強制できる」(甲10)と規定するのみで、我が国の国税徴収法に相当する法律は見当たらない(乙33、34)から、本件外国税は、自力執行力を付与されていないと認めるほかない。
そうすると、本件外国税は、そもそも課税の段階で納税者の広範な裁量が認められるものであるため、納付、還付の問題を論じるまでもなく、そもそも強行性を欠いているものであることを措くとしても、課税方式を遡及的に変更できることにより、還付に関する納税者の裁量も広範である上、自力執行力も有していないと認められるのであるから、我が国の租税の特性たる強行性を欠いており、租税とは異なるものといわざるを得ず、法人税法69条1項に定める外国法人税には該当しない。
原告は、本件外国税について、租税の一般的意義に合致し、さらに「一方的・権力的課徴金」(強行性)の性質を有する他、租税の特色ないし他の国家収入との相違点として指摘される5つの特色をすべて満たしているから租税に該当する旨主張する。
しかし、本件外国税は、課税に関する納税者の裁量が広範な税であり、納税者が自ら税負担をコントロールすることが可能であり、納付の段階では強行性があるとしても、全体としては租税の特性である強行性を欠くものである。
すなわち、B社の取締役が作成した資格申請書(甲11の1)には、「新会社(B社)はInternationalBusinessCompanyとして、26%の税率の選択を希望しています。
当該税率は日本の税務当局にも受け入れられ、日本で新たな税負担をせずに済むということです。税率の選択期間は1年間とするそうです。その理由は、日本の法人税法の改正があった場合、B社(B社)で支払う税を変更できるようにです。」との記載があること、ガーンジー金融当局及びガーンジー税務当局によるガーンジー島税制の解説をみても、税率の決定について、「Negotiate」(交渉する、乙3)、Agreement」(合意・協定)などの用語が使用されていることからすると、本件外国税の税率がガーンジー税務当局と納税者との話し合いで決定される実態が明らかである。
そして、B社は、何ら課税上の特典を享受できない場合であっても適用税率は20%(標準税率)にすぎないところ、ガーンジー税務当局と交渉し、我が国のタックスヘイブン対策税制が軽課税国の判定基準としている税率25%をわずかに超える26%の税率を選択し、税務当局と合意したのである。
以上の事実を踏まえれば、本件外国税が租税の強行性の性質を有するものとはいえない。
これに対し、原告は、本件説明書等に「Negotiate」、「Agreement」などの用語が記載されている点について、こうした用語に重要な意義があるとはいえない旨主張する。
しかし、実際に交渉や合意によって税率が決まる運用がなされているからこそ、ガーンジー金融当局等が外国企業の誘致などの目的のもとにガーンジー所得税法の概要を解説した文書にそうした表現が用いられているというほかない。
また、これらの記載内容が事実であることは、設立準備中のB社の代理人が適用税率についてガーンジー税務当局と交渉していたことからも明らかである。
なお、原告は、租税の強行性がない場合とは、国家の財産収入や事業収入のように経済活動に基づく収入の場合であると主張するようであるが、法人税法や同法施行令が、国家の経済活動に基づく収入ではなくても、納税後に任意に全部又は一部の還付が受けられるもの等について、我が国の法人税に相当する税ではないとしていることは明らかであるから、原告の主張は誤りである。
原告は、国際課税資格の取得に当たっては、資格申請書を提出し、本件外国税の適用税率がガーンジー島の経済的利益の観点から妥当な水準であること等の取得要件が満たされている場合にこれが承認されるのであり、その申請を承認するかどうかはガーンジー税務当局の自由裁量の下にあるとして、本件外国税が、課税の段階で納税者が任意に税率を選択でき、若しくは納税者と課税庁との合意によって税率が定まる税ではない旨主張する。
しかし、「適用税率がガーンジー島の経済的利益の観点から妥当な水準であること」などという極めて抽象的で無内容な基準が、実際に資格申請に対する審査において機能し、申請が拒絶される場合があるなどということは到底考えられず、上記規定は、我が国や各国のタックスヘイブン対策税制への対抗措置として、あたかも任意に税率を選択できる税制でないかのように装うため置かれた名目的規定であることは明白である。
また、ガーンジー所得税法の条文上、「Negotiate」、「Agreement」の記載がなく、適用税率の決定において当局が自由裁量を有しているとしても、標準税率の20%を超える26%の税率の適用を求めてきた場合、通常はガーンジー島にとって経済的に有利であることは自明のことであり、当局において、その申請を拒絶するようなことは考え難いといわなければならないから、ガーンジー所得税法の規定そのものからも、適用税率を任意に選択できる仕組みがとられていることは明らかである。
さらに、キャプティブ保険会社は、事業会社が自己の保険契約を引き受けさせるために設立する保険子会社であるが、キャプティブ保険会社を設立することにより、保険料を第三者である保険会社に支払うのでなく、自社のペーパカンパニーに積み立てることによってグループ内に留保することができる一方、当該保険料は経費として処理することができ、キャプティブ保険会社の資本金、準備金という形で留保された資産についても、タックスヘイブンにキャプティブ保険会社を設立することによって、課税を回避軽減することができる。
ところが、我が国のタックスヘイブン対策税制により、現地税率が所得金額の25%以下の軽課国に設立されたキャプティブ保険会社における留保金は、我が国で合算課税されることになり、上記スキームによる課税額減少効果が減殺されてしまうことから、原告はタックスヘイブン対策税制の適用を回避する目的で26%という税率を選択したものであることは明らかであり、もし、その任意の選択が可能でなければ、原告がガーンジー島にキャプティブ保険会社を設立するはずがないのである。
したがって、原告の上記主張には理由がない。
原告は、仮にガーンジー所得税法に規定する要件を満たす会社については税率の選択が認められ、結果的に税負担割合がB社の申請した割合になったとしても、我が国において、青色申告の承認を受けた法人のみに認められている措置法における特典享受の場合と同じく、特定の要件を充足した者に対してのみ特典が付与されているものであるから、租税の本質である強行性が失われるわけではない旨主張する。
しかし、納税者が措置法その他の課税の特例を定めた法令の規定の適用を選択することにより、いわゆる実効税率が法定の税率に比べて軽減されることがあるとしても、これは法定の要件を満たすことにより課税の特例が適用されるためであって、納税者が任意に選択した税率を適用したものでも、納税者と課税庁とが合意した税率を適用した結果でもない。
また、法人税に関する法令には、法定の税率を超える税率の適用を認める規定はない。
換言すれば、我が国の法人税に関する法令においては、納付すべき税額は法令の規定そのものにより定まるのであって、納税者の選択あるいは納税者と課税庁の合意に応じて定まるものではなく、納税者によって納付すべき税額や納付時期などに差異が生じることはないのである。
これに反して、本件外国税は、特定の要件を満たす納税者については0%超30%以下の範囲で任意の税率の選択が認められ、当該税率に基づいて納付するものであるから、我が国の法人税に相当する強行性があるとは認められない。
原告は、英国法人のガーンジー島における子会社が支払った法人所得税は、タックスヘイブン税制の適用を受けることになると同時に、英国において外国税額控除の適用を受けることができるのに対し、本件外国税を外国法人税ではないとした本件各処分は、外国税額控除を受けることができず、二重課税が排除されていないから違法である旨主張する。
しかし、ガーンジー島と英国との間では租税条約が締結されており、同条約第1条において、双方の所得税法を指定して「税」として合意しているという特殊な関係が基盤にあるのに対し、我が国とガーンジー島は、租税条約もその他租税に関する合意もなく、むしろガーンジー島は、我が国が加盟するOECDから有害税制を有すると指定された国家又は地域(乙29)の一つであり、英国との間で取扱いに差異が存することは当然である。
すなわち、我が国のタックスヘイブン対策税制上、外国法人税に当たらず、租税条約もその他の合意もないガーンジー島の所得税なるものは、外国法人税に該当しないため、現行法上は、外国税額控除の対象とはならず、そもそも排除されるべき二重課税が存在しない。
したがって、原告の主張は、その前提を誤っており失当である。
原告は、中里教授の見解(甲39)を引用し、被告がB社が任意に選択しうると主張し、強調する税率については、租税の賦課要件としては副次的な意味しかなく、本件外国税を外国法人税と認定することとは関係がない旨主張する。
しかし、原告が引用する上記見解は、法人税の税率に関する一般的性質について、国会を通じ立法された我が国の法人税は、たとえ税率をどのように改正しても、その法人税としての性格は変わらないことを述べているものであり、本件外国税のように、課税を受ける前段階において納税者による税率の選択が可能な税法について述べているものではない。
したがって、原告の上記主張は、中里教授の論文の一部をその文脈を無視して不適切に引用するもので失当である。
東京高裁/両者の主張
納税者の主張
タックス・ヘイブン対策税制の趣旨・目的タックス・ヘイブン対策税制は、昭和53年度の税制改正により、租税特別措置法の一部改正という形で導入された。
同制度の導入の経緯については、我が国経済の国際化の進展に伴い、内国法人が、法人の所得等に対する税負担が全くないか、又は極端に低い国又は地域(いわゆるタックス・ヘイブン)に子会社を設立して経済活動を行いながら、本来内国法人に帰属すべき所得をその子会社に留保することによって、税負担の不当な回避ないし軽減を図る事態が生じるようになった。
これに対し、課税当局においては、従来から法人税法11条の実質所得者課税の規定により、それを適用し得る範囲において規制してきたが、適用に当たっての所得の実質的な帰属についての具体的な判定基準が明示されていないため、課税執行面での安定性に必ずしも問題なしとしない面があった。
このため、租税法律主義を維持しつつ課税の執行の安定性を確保するという観点からも、租税回避対策のための明文規定の整備が強く要請されていた。
このようにタックス・ヘイブン対策税制は、我が国の内国法人がタックス・ヘイブンに設立した子会社を利用して、「税負担の不当な回避ないし軽減」を図ることに対処し、「国際的な租税回避」を防止するという政策目的を持った税制である。
軽課税国指定制度タックス・ヘイブン対策税制は、当初は、軽課税国指定方式が採られていた。すなわち、措置法66条の6第1項は、規制の対象となる「特定外国子会社等」を「次に掲げる内国法人に係る外国関係会社で、本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して法人のすべての所得又は特定の所得に対して課される税の負担が著しく低い国又は地域としてすべての所得又は特定の所得の区分ごとに政令で定める国又は地域に本店又は主たる事務所を有するもの」と規定し、この規定を受けて措置法施行令39条の13第1項では、軽課税国とされる国又は地域について、「法第66条の6第1項に規定する政令で定める国又は地域は、次の各号に掲げる所得に対して税を課さない国若しくは地域又は当該各号に掲げる所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低い国若しくは地域として当該各号に掲げる所得の区分ごとに大蔵大臣が指定する国又は地域とする。」と規定し、これを受けて、昭和53年3月31日付大蔵省告示第38号により、「軽課税国」とされるべき国又は地域が指定された。
その後、軽課税国が追加指定されるなどした結果、軽課税国の合計は41の国又は地域とされたが、平成4年の税制改正において、軽課税国指定制度は廃止された。
この廃止の趣旨について、「DHCコンメンタール法人税法」9巻4987頁は「これまで軽課税国は、大蔵大臣が指定、告示することとされていたが、租税回避に利用されやすい課税上の措置を講じる国があとを絶たず、諸外国の税制改正のめまぐるしい動きを洩れなく適時適切に把握することは非常に困難となっていた。
指定洩れが生じると、結果として課税上の不公平が生じることにもなる。
最近では、わが国と極めて密接な経済関係にある国もそうした措置を講じるようになっていた。こうした事情にかんがみ、軽課税国の指定制度を廃止し、外国関係会社が特定外国子会社等に該当するかどうかの判定は、個々の法人ごとにおこなうこととされた」と述べる。
具体的には、措置法施行令39条の14第1項は、措置法66条の6第1項に規定する政令で定める外国関係会社(特定外国子会社等)は、法人の所得に対して課される税が存在しない国等に本店等を有する外国関係会社(同項1号)及びその各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社(同項2号)と規定されたのである。
現行のタックス・ヘイブン対策税制の規制の対象以上に述べたタックス・ヘイブン対策税制の制度趣旨、軽課税国の指定基準、及び軽課税国指定制度が廃止された趣旨にかんがみれば、現行のタックス・ヘイブン対策税制は、外国関係会社の所得に対して課される租税の額が25%以下か否かをメルクマールとして、それが25%以下の場合には、「税負担の不当な回避ないし軽減」、「国際的な租税回避」が存するとみなして、子会社の所得を内国法人の所得に合算して課税することとしたものであり、特定外国子会社等に該当するか否かの判断に当たっては、当該外国関係会社の「当該事業年度」において具体的に適用される税率によって個別に判断することとされているというべきである。
本件において、B社は、ガーンジー税務当局からその所得に対し26%の税率で算出される本件外国税を課されているのであり、そこには現行のタックス・ヘイブン対策税制が規制の対象としている「税負担の不当な回避ないし軽減」、「国際的租税回避」は存しない。
なお、ガーンジー島は平成12年6月にはOECDにより「タックス・ヘイブン・リスト」に掲載され、本件外国税は「有害税制」と指定されたにもかかわらず、本件外国税に該当する税は平成13年の税制改正において、法人税法施行令141条3項各号には明記されなかった。
同年の税制改正において同法施行令141条3項1号ないし4号が追加されたのは、当然、上記の有害税制指定がその背景にあったと思われるところ、立法担当者はあえて本件外国税を同改正において同項各号に追加しなかったのであり、このことは、立法担当者が本件外国税を外国法人税に該当すると考えていたことの証左である。
そして、同改正において、以上のように明確化しようと思えばできたにもかかわらず、実際にその明確化を行わなかった以上、解釈によって本件外国税を外国法人税に該当しないとすることは、侵害規範であり文理解釈が強く要請される租税法の分野において、納税者の予測可能性を著しく損なうものであり、租税法律主義に反するものといわざるを得ない。
政策目的税制の目的的解釈による射程範囲限定の可否タックス・ヘイブン対策税制は、前述のとおり、昭和53年度の税制改正により租税特別措置法の一部改正という形で導入された制度であるところ、租税特別措置とは、担税力その他の点で同様の状況にあるにもかかわらず、何らかの政策目的の実現のために、特定の要件に該当する場合に、税負担を軽減しあるいは加重することを内容とする措置のことであり、タックス・ヘイブン対策税制も国際的租税回避の防止という政策目的のために立法された租税特別措置である。
そして、このような一定の政策目的のために採用された政策税制については、その目的的解釈によりその射程範囲が限定される余地がある。
すなわち、金子宏「租税法」(11版)130頁ないし131頁は、次のように述べる。「なお、一定の政策目的を実現するために税負担を免除ないし軽減している規定に形式的には該当する行為や取引であっても、税負担の回避・軽減が主な目的で、その規定の本来の政策目的の実現とは無縁であるという場合がある。
このような場合には、その規定がもともと予定している行為や取引には当たらないと考えて、その規定の縮小解釈ないし限定解釈によって、その適用を否定することができると解すべきであろう。
これはアメリカのグレゴリー事件の判決によって認められた法理(プロパー・ビジネス・パーパスの法理)であるが、わが国でも、解釈論として同じ法理が認められてしかるべきであろう。」最高裁平成17年12月19日判決・民集59巻10号2964頁は、被上告人たる銀行が、自己の外国税額控除の余裕枠を外国法人である第三者に利用させて対価を得ることを目的として、本来は外国法人が負担すべき外国税額について手数料その他の対価を得て引き受け、外国法人税を納付した上で、国内において納付すべき法人税の額から同外国法人税の額を控除して申告をしたのに対し、上告人たる税務署長が同控除は認められないとして法人税の更正及び過少申告加算税の賦課決定をしたので、同銀行がこれを争った事案において、次のとおり判示して、原判決を被棄し、被上告人の請求を棄却した。
「本件取引は、全体としてみれば、本来は外国法人が負担すべき外国法人税について我が国の銀行であるXが対価を得て引き受け、その負担を自己の外国税額控除余裕枠を利用して国内で納付すべき法人税額を減らすことによって免れ、最終的に利益を得ようとするものであるということができる。
これは、我が国の外国税額控除制度をその本来の趣旨目的から著しく逸脱する態様で利用して納税を免れ、我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上、この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が享受するために、取引自体によっては外国法人税を負担すれば損失が生ずるだけであるという本件取引をあえて行うというものであって、我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものというほかない。
そうすると、本件取引について生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることは、外国税額控除制度を濫用するものであり、さらには、税負担の公平を著しく害するものとして許されないというべきである。」
また、最高裁平成18年2月23日判決・判例時報1926号57頁も上述した判決と同様に、外国税額控除の制度を、「我が国の企業の海外における経済活動の振興を図るという政策的要請の下に、国際的二重課税を防止し、海外取引に対する課税の公平と税制の中立性を維持することを目的として設けられたものである。」とした上で、以下のように判示して、この制度を本来の趣旨および目的から著しく逸脱する態様で利用する場合については、当該制度の適用される射程範囲の外であるとしている。
「本件各取引は、これを全体として見ると、本来は内国法人が負担すべきでない外国法人について、内国法人である本件銀行が対価を得て引き受け、これを自らの外国税額控除の余裕枠を利用して我が国において納付されるべき法人税額を減らすことによって回収することを内容とするものであることは明らかである。
これは、我が国の外国税額控除の制度をその本来の趣旨及び目的から著しく逸脱する態様で利用することにより納税を免れ、我が国において納付されるべき法人税額を減少させた上、この免れた税額を原資とする利益を取引関係者が分け合うために、本件銀行にとっては外国法人税を負担することにより損失が生ずるだけの取引をあえて行うものというべきであって、我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図るものにほかならない。
そうすると、本件各取引は、外国税額控除の制度を濫用するものであり、これに基づいて生じた所得に対する外国法人税を法人税法69条の定める外国税額控除の対象とすることはできないというべきである。」すなわち、外国税額控除制度が政策目的で特別に導入された制度である以上、当該政策目的に沿っていない極端な利用形態の場合には、当該制度の射程外とされるのである。これは、上述の金子宏名誉教授の考え方を正面から採用したものである。
丙東京大学教授も述べるとおり(甲48)、外国税額控除に関する法人税法69条のような課税減免規定ではなく、一定の政策目的から設けられた課税規定についても、当該課税規定の目的的解釈を行うことにより、当該政策目的との関連で規定の射程範囲に関する検討を行うべきことは法解釈として当然のことである。
本件で問題となっているタックス・ヘイブン対策税制は、法人税法11条の所得の帰属に関する定めでは十分に対応しきれない場合があることを考慮して、国際的租税回避に対処する等の目的を実現するために設けられた政策税制の一類型であるから、同制度の射程範囲は、その政策目的に応じて考えられるべきである。
したがって、国際的な租税回避の防止というタックス・ヘイブン対策税制の政策目的を踏み越えて、同制度を納税者に対する懲罰的なものとして適用すべきではないし、また、国際的な租税回避が存在しないような場合においてまで同制度を適用すべきでもない。
本件においては、B社が26%の税率により租税として納付しているにもかかわらず、それは外国法人税に該当しないとして、タックス・ヘイブン対策税制が適用されている。しかし、B社がガーンジー政府に対して、租税として26%の支払を現実に行なっている本件においては、いずれの国の課税権も及ばないという状況は存在しないのであるから、タックス・ヘイブン対策税制の対象となるべき国際的租税回避は存在せず、したがって、本件においてタックス・ヘイブン対策税制を適用する必要はない。
そうであるにもかかわらず、本件において所得の合算課税を行なうことは、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨目的を逸脱したもの(あるいは、タックス・ヘイブン対策税制の適用範囲を拡大するもの)であって許されない。本件は、タックス・ヘイブン対策税制の射程の範囲外と考えるべきである。
すなわち、本件においては、26%の税率で租税が支払われていて、タックス・ヘイブン対策税制は適用しないという方針が法律上明らかにされている以上、タックス・ヘイブン対策税制が本来予定していたような所得の国外流出は存在せず、タックス・ヘイブン対策税制が封じようとしていたような国際的租税回避は存在しなかった。
平成13年の税制改正が行なわれた時期において、本件におけるような税率の選択を可能とする規定が存在していたにもかかわらず、法律上の手当は何らされなかったという点も、このことを裏付けている。
政策目的税制について、当該政策目的からかい離する事実関係においてその射程範囲を限定すべきであるという考え方は、上記のように、課税減免規定であれ、課税規定であれ成立する。
そして、特に課税規定の場合については、課税規定の射程範囲をむやみに拡大すべきではない。すなわち、納税者の側における濫用の有無にかかわらず、本件におけるように課税庁が課税規定の射程範囲を拡大することは、租税法律主義の観点から許されるものではない。
本件においては、B社もガーンジー政府も、B社からガーンジー政府に対してなされた支払を、法的に租税として構成している。
この点、丙教授も述べるように、両者の関係が公的なものであるにもかかわらず、日本の裁判所が、当事者間の法形式を無視して、それをあたかも契約であるかのように見て、事実認定・契約解釈の一環として、本件支払をサービスの対価と認定することは、法的に許されるものではない。
外国の納税者が外国の政府に対して租税として支払ったものを、その法形式を無視して日本の裁判所が租税ではないと認定することは許されるものではないし、仮に一定の場合にこれが許されるとしても、本件においてそのような認定が許されるとする法的根拠はない。
そもそも、外国に、納税者による税率の選択を認める制度が存在することが明らかであった平成13年の税制改正においても、そのような税率選択制度が採用されている場合にもタックス・ヘイブン対策税制を適用するという定めは導入されなかったのであり、それは、立法担当者もかかる税は、法人税法施行令141条3項1号及び2号の「実質的に税負担がない」税とは異なり、外国法人税に該当しないとは考えていなかったことの証左である。以上のとおり、本件においては、本件各更正処分等におけるようにタックス・ヘイブン対策税制の拡大適用を行うべきではない。
むしろ、タックス・ヘイブン対策税制の射程範囲は限定的に解釈されなければならない。すなわち、タックス・ヘイブン対策税制は、国際的租税回避の否認という政策目的実現のために設けられた特別な制度である。しかし、本件においては、B社は26%を租税としてガーンジー政府に支払っており、その意味で、いずれの国の課税権も及ばないという状況は存在しない。
また、支払った租税がキックバックされるような制度にもなっておらず、濫用も存在しない。したがって、本件においてタックス・ヘイブン対策税制を適用する必要性は全く存在しないのである。
本件各更正処分等によると控訴人は不当な二重課税を受けることになること(ア)課税対象留保金額に係る外国税額控除措置法66条の7第1項は、前条1項各号に掲げる内国法人が同項の規定の適用を受ける場合には、当該内国法人に係る特定外国子会社等の所得に対して課される外国法人税の額のうち当該特定外国子会社等の課税対象留保金額に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額は、政令で定めるところにより、当該内国法人が納付する控除対象外国法人税の額とみなして、法人税法69条に規定する外国税額控除を適用すると規定する。
この規定の趣旨は次のようなものである(「DHCコンメンタール法人税法」第9巻5082頁)。
「タックス・ヘイブン立法は、我が国の企業が、タックス・ヘイブンに所在する子会社等を利用して行う租税回避行為に対処するものであり、法律的には我が国の企業とは別の独立した人格を有する特定外国子会社等のうち一定の条件を満たすものの留保所得を、その株主たる居住者又は内国法人の所得に合算して課税するものである。
このように別人格の法人の所得を合算して我が国で課税を行う場合には、その合算の対象となる所得に対してすでに特定外国子会社等の所在地国等において税が課されていれば、同一所得に対し外国の税と我が国の税とが二重に課されることになる。
このような二重課税を調整するために、特定外国子会社等の所得に対して課された税のうち、合算課税が行われる内国法人の課税対象留保金額に対応する部分の金額を当該内国法人が納付した外国法人税額とみなして、法人税法第69条に規定する外国税額控除を適用するものである。」このように、措置法66条の6第1項により内国法人が特定外国子会社等の合算課税を受ける場合には、所得も合算するのであるから、その外国子会社等が現地国において低率であるにせよ課税されている外国法人税があるときは、合算課税のいわば「見合い」として、これを親会社であるその内国法人の外国法人税とみなして、内国法人の外国税額控除の対象とするものとしているのである。
ところが、本件外国税が外国法人税に該当しないという解釈を採用すると、措置法66条の6第1項により、B社の課税対象留保金額に相当する金額が控訴人の収益の額に合算される一方、本来であれば、それと「見合い」で認められるべき措置法66条の7第1項による外国税額控除が認められず、控訴人は、本来、タックス・ヘイブン対策税制が予定していない二重課税を負担するということになる。
しかし、上記のような解釈は、タックス・ヘイブン対策税制の立法担当者も、ガーンジー島は、「無税国」(タックス・パラダイス)ではなく、「軽課税国」であると考えていたことと矛盾する。
すなわち、昭和53年にタックス・ヘイブン対策税制が導入された当時におけるガーンジー島の税率はすべての納税者について標準税率20%であり、「無税国」ではなく「軽課税国」であると考えられていた。
わが国の立法担当者も、標準税率20%で軽課税国指定されたガーンジー島に本店を置く外国関係会社の所得については、タックス・ヘイブン対策税制の適用により、親会社である内国法人が合算課税を受ける一方、当然、外国税額控除が認められると考えていたのであり、この点でも、上記の解釈が立法担当者の考えに反していることが明らかである。
それをさておいても、例えば、B社が国際課税資格を取得せず、その所得に対し20%の標準税率で課税された場合にはどのような結果になるかを検討すると、上記の解釈の不当性が明らかとなる。
この場合には、控訴人には措置法66条の6第1項によりB社の所得が合算課税される一方、措置法66条の7第1項により外国税額控除が認められるはずである。
とすると、B社がその所得に対し20%の課税を受けた場合には、合算課税の適用がある一方、法人税法69条の外国税額控除の適用も認められるが、同社がその所得に対し26%の課税を受けた場合には、合算課税の適用はあるが、法人税法69条の外国税額控除の適用は認められないという極めて不自然な結果となるのである。
国税庁の主張
控訴人は、タックス・ヘイブン対策税制については、国際的な租税回避の防止という政策目的から導入されたものであり、B社は対象事業年度においてその所得に対し税率26%の税負担をしているから「国際的租税回避」は存せず、タックス・ヘイブン対策税制(措置法66条の6第1項)の射程範囲ではない旨主張する。
しかしながら、本件外国税が、我が国の法人税概念とはおよそかけ離れたものであり、一般的な租税概念に照らしても到底その概念の範疇に含まれるものでなく、むしろ、税という名称にもかかわらず、その実質は、外国法人に本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるサービスを提供するための対価といい得るものであり、B社が「税負担をしている」という控訴人の上記主張の前提そのものが成り立たないというべきなのである。
また、タックス・ヘイブン対策税制の目的に照らしてみても、B社において、ガーンジー島の「税制」のメニューから、20%の標準税率課税でも、免税法人でもなく、国際課税資格の取得を任意に選択したのは、その結果として発生する税名目の経済的負担(本件外国税)の額と、我が国の実効税率が適用された場合の税額との差額に相当する税負担を免れることで、「親会社の全世界所得税負担を最小化」することが目的であったことは動かし難いというべきであり、このような行為がタックス・ヘイブン対策税制が防止しようとする行為の範疇に含まれていることは明らかである。
経済活動のグローバル化が進む一方で、OECD報告書が「有害な税の競争」と呼び、それが「いかに金融およびサービス活動の場所に影響を与えるか、またその他の諸国の課税ベースをいかに侵食するか‥貿易と投資パターンをいかにゆがめ、租税制度全般の公平性、平等性および租税制度に対して社会が幅広く容認するような基盤をいかに傷つけているか‥そのような有害な税の競争は全世界的に富を減少させ、租税制度の統一性に対する納税者の信頼の基盤をそこねるものである。」と指弾する状況が現出している。
タックス・ヘイブンであるガーンジー島においては、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるため税率が「0%超30%以下」の範囲で納税者と税務当局との合意により決定され、納税者が税率を自由に選択する機能を果たす制度が設けられ、控訴人はこれを利用してC子会社を設立し、これに資産を留保するとともに、経済的には、合算課税を免れ、我が国における実効税率と選択税率26%の間の開差に相当する利益を得ているのであって、本件はこうした現実を踏まえ、その文脈から把握される必要がある。
控訴人は、現に本件外国税を支払っている以上国際的租税回避行為は行れていないと主張するが、真実は、我が国のタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避し、我が国の課税権を侵食することを目的とする制度を利用することによって、B社に所得を流出させて資金を留保し、経済的には、我が国における実効税率との開差に相当する利益を得る意図の下に行動し、現にその利益を得ているのである。
このような行為が我が国のタックス・ヘイブン対策税制が防止しようとする国際的租税回避行為の範疇に含まれることは明らかというべきである。
本件外国税のように、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避して有害税制を維持しようとする意図の下に仕組まれた企て、すなわち、我が国の存立の基盤である課税権を侵食しようとする企てから経済的利益を享受することは、まさに、「我が国ひいては我が国の納税者の負担の下に取引関係者の利益を図る」(前記最高裁平成17年12月19日判決参照)ことにほかならない。
我が国のタックス・ヘイブン対策税制の解釈適用に当たって、上記のような現実を見ないでこれを座視することが同税制の法意に背馳することは明らかである。
本件外国税を外国法人税と扱うことによって我が国が失う課税ベース(B社の課税対象留保金額の加算漏れ額。本件外国税は損金処理済み。)は、平成12年3月期■■■■■■■■■■■■、平成13年3月期■■■■■■■■■■■■、平成15年3月期■■■■■■■■■■■■に上る。
租税回避行為の問題に対する司法介入につき著しく消極的な態度を採るとすれば、それは現実には、タックス・ヘイブンによって仕組まれた有害税制により、本来我が国の課税ベースとされるべき所得の流出を追認するものに等しく、ひいては我が国に巨額の損失を与えかねないものである上、到底、適正な納税を行い、我が国の租税収入を支えている一般国民の理解を得られるものではない。
一般に、立法者は、法令を制定するに当たり、一定の事態を想定するが、さりとて、あらゆる事態を想定することは不可能である。
立法者は、想定された事態を前提にして、それに社会的評価を加え、一定の価値的立場から望ましい社会的結果の招来を意図して、それに沿うような内容の規範を条文の形で表明する。
したがって、条文の形式で表明される法規範は、自ずと、一般的・抽象的規範とならざるを得ない。しかるに、時の経過による社会情勢の変化によるものだけではなく、特に法令の間隙をつくようにして新たなスキームが構築される場合があるが、その一例が、国際的租税回避行為である。
国際的取引における租税回避行為は、ますます巧妙化してきており、タックス・ヘイブンの利用、租税条約の濫用による方法など様々な形態を用いて、各国の国内法、租税条約、外国為替管理法、金融事情、会社設立手続、地理的・政治的・経済的環境等を徹底的に研究し、各種の方法を組み合わせ、企業全体の全世界的租税負担を極少とするように高度な国際的租税回避戦略が採られているのである。
我が国においては、明文の租税回避否認規定がなければ原則として租税回避行為を否認し得ないとして、ともすれば、硬直的、形式的に租税法を解釈・適用することに流れやすく、国際的租税回避行為を狙われやすい面がある。
そして、立法による解決を過度に重視する見解からは、課税逃れの防止は新たな立法によって対応すれば足りるとするのであるが、平成12年7月の政府税務調査会中期答申が、外国税額控除制度に関し「本制度の対象となる外国で所得に対して課される税は外国の制度に基づくものであり、その性格を把握することは容易ではありません」としているとおりであり、特にタックス・ヘイブンにおいては税制度が不透明であり、その実態を把握して適時的確に対応することは一層困難である。
また、めまぐるしく新たなスキームが構築される国際的租税回避の分野にあっては、事後的に新たな立法を行うことで租税回避防止を図ることには自ずと限界があるのであり、公平課税の原則上租税回避行為の問題の解決を立法のみに依存することはできない。裁判所は、一般的・抽象的法規範から具体的法規範を定立して、法律上の争訟を解決すべき権限と責務がある。
立法は、上記のとおり、もともと裁判所の具体の事案における解釈適用を不可欠なものとして予定するのであって、裁判官の行う法律解釈には必然的に法創造機能が含まれる。このような裁判官の法創造機能の理は租税法の解釈においても異なることはない。
もとより租税法律主義の原則に背馳することなく、また、あくまでも法による裁判の性格を失うことのないような裁判官の法創造機能でなければならないことはいうまでもないが、本件のような事案において具体的妥当な解決を図ることは、租税法律主義の原則に背馳せず、むしろ、法による裁判の性格を失うことのない司法に求められる役割と考える次第である。
なお、控訴人は、平成12年にOECDによりガーンジー島が有害税制を有する国・地域に指定されたにもかかわらず、その直後の平成13年の税制改正において、本件外国税に該当する税が法人税法施行令141条3項各号にあえて明記されなかったのであり、これは立法担当者が本件外国税を外国法人税に該当すると考えていたことの証左であるとし、また、実際に明文をもって外国法人税に該当しない旨を明確にしなかった以上、本件外国税が外国法人税に該当しないとすることは、納税者の予測可能性を著しく損ない、租税法律主義に反する旨主張する。
しかしながら、外国法人税に相当しない例を網羅的に把握してこれを明文化することが困難であることは、平成12年7月の政府税務調査会中期答申が、外国税額控除制度に関し、「本制度の対象となる外国で所得に対して課される税は外国の制度に基づくものであり、その性格を把握することは容易ではありません」としているとおりであって、特にタックス・ヘイブンにおいては税制度が不透明であり、国際的な情報交換のルートが確立されていないこともあり、一層困難である。
平成13年の税制改正においては、当時把握し得る範囲の制度から、外国法人税に相当しない例を同項1号及び2号で明文化したものにすぎないのであって、このことをもって立法担当者が本件外国税を外国法人税に該当すると考えていたものと論ずることは失当である。
また、外国税額控除制度の本質が、資本輸出の中立性確保という政策判断から課税を減免する国家による一方的な恩恵的措置であり、その趣旨目的に照らして各規定を合理的に解釈し、その控除対象を画することは当然というべきであって、このことはタックス・ヘイブン対策税制の解釈についても同様である。
したがって、タックス・ヘイブン対策税制が引用する外国税額控除の規定の合理的解釈により、本件外国税が「外国法人税」に該当しないと判断される限り、納税者の予測可能性を損なうということはできないし、租税法律主義に反するものではないというべきである。
控訴人は、①本件各更正処分等によると、「措置法66条の6第1項により、B社の課税対象留保金額に相当する金額が控訴人の収益の額に合算される一方、本来であれば、それと見合いで認められるべき措置法66条の7第1項による外国税額控除が認められず、控訴人は、本来、タックス・ヘイブン対策税制が予定していない二重課税を負担するという不都合な結果を招来してしまう」とか、②「例えば、B社が国際課税資格を取得せず、その所得に対し20%の課税標準税率で課税された場合には、合算課税の適用がある一方、法人税法69条の外国税額控除の適用も認められるが、同社がその所得に対し26%の課税を受けた場合には、合算課税の適用はあるが、同法69条の外国税額控除の適用は認められないという極めて不自然な結果となる」と主張する。
控訴人の上記の主張は、本件外国税が「外国法人税」(措置法66条の6第1項等)に該当することを前提としている点において既に失当である。仮にこの点をおくとしても、控訴人も認めるとおり、本件各更正処分等(合算課税)をするに当たっては、B社の所得の金額の計算上、本件外国税の額については、現に一定の経済的負担を負っていることを考慮し、これを損金の額に算入したところで課税対象留保金額を計算している。
我が国のタックス・ヘイブン対策税制の性質が、特定外国子会社等の留保所得を親会社の所得とみなすことにより租税回避行為を否認するものであることからすれば、特定外国子会社等の課税対象留保金額の計算に当たり本件外国税の損金算入を認めることで調整は済んでいるということができる。
こうして、実質的にみても、本件において不当な二重課税と評すべき事態は生じていない。
さらにいえば、法人税法69条の定める外国税額控除の制度は、内国法人が外国法人税を納付することとなる場合に、一定の限度で、その外国法人税の額を我が国の法人税額から控除するという制度であり、これは、同一の所得に対する国際的二重課税を排斥し、かつ、事業活動に対する税制の中立性を確保しようとする政策目的に基づく制度である(前記最高裁平成17年12月19日判決参照)。
ところが、本件においては、我が国等のタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避するため、保険会社に対し、0%を超え30%までの範囲で、その適用を免れるような税率を選択することを認めるという、およそ公平ないし中立性の原則と相容れない有害「税制」が設定されており、控訴人は、これを利用して26%の「税率」を選択することにより、その利益を特定外国子会社たるB社に逃避させ、我が国の法人税の実効税率36.09%により計算される税額との差額に相当する経済的利益を得ていたものであって、このような活動は、国際的二重課税を排除することによって確保しようとする正当な国際的経済活動のらち外であり、資本輸出中立性とは無縁のものというべきである。
ガーンジー島の税制とその運用の実態に照らして、C保険会社がガーンジー島において徴収される「税」なるものは、その名称にもかかわらず、その実態は、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスを提供するための対価であるということも可能なものであり、控訴人のいう「20%の標準税率で課税された場合」(正確には、20%の標準税率課税を保険会社が任意に選択した場合というべきである。)においても、外国税額控除制度が適用される外国法人税には該当せず、その適用は認められないというべきであるから、控訴人が主張するような「極めて不自然な結果」が生じることはない。
さらに、B社が20%の「標準税率課税」を選択せず、0%を上回り30%以下の範囲で税率を選択できる「国際課税資格」の取得を選択して、26%の税率を選択したのは、我が国のタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避することによりグループの税負担を軽減することを目的としたものと認めるのが相当であって、B社において20%の標準税率課税を選択する余地はなかったのであるから、控訴人の上記主張は実際には生じ難い非現実的な例を持ち出すものにすぎず、失当というべきである。
なお、措置法66条の7第1項は「前条第1項各号に掲げる内国法人が同項の規定の適用を受ける場合には、当該内国法人に係る特定外国子会社等の所得に対して課される外国法人税(法人税法第69条第1項に規定する外国法人税をいう。
次項において同じ。)の額のうち当該特定外国子会社等の課税対象留保金額に対応するもの(当該課税対象留保金額に相当する金額を限度とする。)として政令で定めるところにより計算した金額は、政令で定めるところにより、当該内国法人が納付する控除対象外国法人税の額(同法第69条第1項に規定する控除対象外国法人税の額をいう。以下この節において同じ。)とみなして、同法第69条第1項から第7項まで、第10項及び第15項から第18項までの規定を適用する。」と規定し、法人税法69条16項は、「第1項の規定は、確定申告書に同項の規定による控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載があり、かつ、控除対象外国法人税の額を課されたことを証する書類その他財務省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する。
この場合において、同項の規定による控除をされるべき金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。」と規定している。
したがって、特定外国子会社等の所得に関して課される外国法人税の額のうち、課税対象留保金額に対応する金額について、当該内国法人が納付したものとみなして外国税額控除の適用を受けるためには、同条18項の「やむを得ない事情」がない限り、同項の定める申告要件を充足(自己否認)することを要するのである。
一方、法人税法41条は、「内国法人が第69条第1項(外国税額の控除)に規定する控除対象外国法人税の額につき同条‥(略)‥の規定の適用を受ける場合には、当該控除対象外国法人税の額は、その内国法人の各事業年度の計算上、損金の額に算入しない。」と規定し、内国法人が外国税額控除の方法を選択せず、特定外国子会社等の課税対象留保金額の計算に当たり当該外国法人税の額を損金の額に算入する方法を選択することを認めている〔金子宏「租税法」(11版)414頁参照〕。
すなわち、特定外国子会社等が(本件とは異なり)外国法人税に該当する外国税を課せられた場合であっても、法は、二重課税の排除方法として外国税額控除と外国法人税の額の損金算入のいずれを選択するかを当該内国法人の選択にゆだねているのである。
付言すれば、外国税額控除の方法による場合でも、法人税額から控除される外国税額(控除対象外国法人税額)は、法人税額にその年度分ないし計算期間分の所得の金額のうちに国外源泉所得の占める割合を乗じて計算した金額(控除限度額)を限度とし(法人税法69条1項、同法施行令141条)、なお、控除限度額を超える部分の金額は更に一定の限度額の範囲で住民税の額から控除される。)、控除対象外国税額がその年度の控除限度額と地方税控除限度額との合計額を超える場合は、前3年以内の各事業年度の控除限度余裕額をその年に繰り越して、その金額(繰越控除限度額)を限度としてさらにその年度の税額から控除する(法人税法69条2項、同法施行令143条、144条)が、繰越控除できる控除限度額と、その額に相当する控除余裕額は、その適用を受けることができる事業年度後の事業年度においては、いずれもないものとみなされ、税額控除は打ち切られることになる(同法施行令145条3項、4項、)。
すなわち、外国税額控除の制度は、もともと常に外国法人税の額を100%控除することを保証するものではないのである。
最高裁/両者の主張
納税者の主張
(※アークリー社=納税者がガーンジー島に設立した100%子会社)
原審判決は、上述のように、「外国法人税であるためには、我が国の法人税に類するものでなければならない」との要件を実質的に付加して、納税者(本件であれば上告人)の法人税納税義務を増加させるものであるが、これにつき、法律又は法律の定める条件によっていない。
原審判決はまた、法人税法施行令141条3項を例示列挙であると解して、同項の拡張解釈を図って、ガーンジー所得税法の定める法人所得税を外国法人税から排除している。このように安易な拡張解釈は、あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するものであるが、これも、法律又は法律の定める条件によっていない。
また、同項の制定が行われた平成13年の当時、既にガーンジーの所得税は、現行の形式をとっていたにもかかわらず、同項の規定ぶりを整えることによってガーンジーの所得税を外国法人税から排除する措置を講じていないのであるから、この時点でガーンジーの所得税を外国法人税から排除する立法意思がなかったと認めざるを得ず、原審によるこのような要件の実質的な付加は、立法者意思を完全に無視し、納税者の負担を加重して、「法の支配」に反するものと言わざるを得ない。
以上述べたとおり、原審判決の判断は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更する」にもかかわらず、法律又は法律の定める条件によっていないものであるので、憲法84条に違反する。
他の主権国家又は管轄地域が、その民主的議会の制定する法律によって租税とするものを、他国において、それは税でないとすることは、およそ国際法規に反するものであって、憲法第98条第2項に違反して違憲であることについては、既に第一部で述べたとおりである。ここでは、念のため、原審が定立する租税一般についての定義についての欠陥を指摘することとする。
原審判決は、「一般的に、『租税』とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」と判示している(原審判決30頁)。
この定義は、昭和60年3月27日最高裁大法廷判決における「租税は、国家が、その課税権に基づき、特別の給付に対する反対給付としてでなく、その経費に充てるための資金を調達する目的をもつて、一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付である」との定義にほぼ従うものであるようにも見えるが、原審判決の判示には、実際には次のような問題が含まれている。
すなわち、原審判決は、上記「租税」の定義に引き続き、「そして、租税の特性としては」と述べて、①租税の公益性、②租税の強行性、③租税の非対価性、及び、④応能負担性の4点をまず挙げている(原審判決30頁)。続けてさらに、⑤法律の根拠に基づいて行われなければならない租税法律主義、⑥担税力に即した公平性、⑦平等性が必要であるとしている(同30~31頁)。
そして、ガーンジーの所得税が、これら租税の特性ないし属性を備えているか否かのあてはめを行い、ガーンジーの所得税はこれらの特性ないし属性を有しないから、「税」ではないとした(同31~34頁)。2.原審判決の誤謬しかしかかる原審判決の論旨は、幾重もの誤謬を含むので、逐次論駁する。
まず、この論旨は、①から⑦までを、租税の「特性」(①ないし④)及び「属性」(⑤ないし⑦)として掲げながら、実際には引き続く議論の中においては、①から⑦を租税の「定義」にすりかえて、ガーンジー所得税は、その特性及び属性の全てを備えているものではないから、「税」でないと判断している。これは、敢えて「特性ないし属性」と「定義」とをすりかえているものであり、端的に言えば論理の運びの誤りであり、詭弁である。
また、判示の①から④として掲げられた租税の「特性」は、金子教授が、金子宏「租税法(第12版)」(弘文堂)8頁以下において租税の意議として述べたところにほぼ忠実に従っているように見受けられるが、同書同頁の直前において、金子教授は、「*租税の意義」として、「もっとも、租税を実質的に定義することは、租税法の解釈・適用上、ほとんど実益を持たない。
租税の学問上の定義に該当しない課徴金であっても、実定法上租税とされている場合には、関係の租税法が適用されるからである。逆に、実質的には租税であっても、実定法上租税とされていない場合には、租税法規は直接には適用されない。
要するに適用法規を決定するうえで、租税であるかを実質的に判断する必要は、ほとんど生じない。」とされているのであって、特に重要な意義を持たないものとして簡単に叙述をされた金子教授による「租税の意義」を、あたかも絶対的な定義であるかのごとく提示して、かつ「特性」ないし「意義」と「定義」をすりかえるような議論によって、ガーンジー所得税を「税」でないとした原審判決は、法律論以前の日常言語のレベルにおいて破綻していることが認められる。
個別論に入ると、まず租税の「特性」の④として挙げられた応能負担性であるが、一般に、租税には応能負担と応益負担との分類を認めることができる。財政学の古典的教科書であるマスグレイブ「財政理論Ⅰ~Ⅲ」(TheTheoryofPublicFinance)(木下和夫監訳・有斐閣)のほとんど冒頭に出て来る叙述である。原審の判示は、租税の「特性」の④において、応益負担の要素を全く排除しており、そのような不完全な「特性」によりつつ、必ずしもつながってはいない論理によって、ガーンジーの所得税を租税の範疇から排除している点も、上述のような金子教授による議論の位置づけを理解しないで、適用していることによって生じた誤りである。
次に原審判示は、ガーンジー所得税法〔TheIncomeTax(Guernsey)Law,1995〕について、強行性(租税の「特性」の②)の欠如を指摘するが、実際には、同法の第18部ペナルティー(PartXVIIIPenalties)には、我が国の租税法規に引き直して言えば、各種加算税、延滞税、罰金刑、懲役刑など、租税法規でなければあり得ない強行規定が多数おかれている。このように、ガーンジー所得税法は、脱税などの悪質な場合を懲役刑を含む刑罰で威嚇し、そのほか所得税法に違反する多くの行為を行政手続で課徴金(加算税)の対象として、税の執行を強制しているわけで、自力執行力の議論など関係なく、強行性があることは明らかである。すると、これらを看過して、ガーンジー所得税制の強行性を認定しなかった原審は、審理不尽の誤りをも犯している。
さらに、原審判示の34頁に記載のある、⑥担税力に即した公平性、及び、⑦平等性の要請であるが、これらが租税の属性として望ましいことは言うまでもないが、だからと言って、「公平性ないし平等性」に欠けると、それは租税ではなくなるという言明は、論理として全く体裁をなしていない。
原審判示のうちとりわけて不適切ないし、敢えて言えば陳腐な判示は、③租税の非対価性に関連して判示された次の判示である(原審判決34頁)。「ガーンジー島において徴収される「税」なるものは、税という形式はとるものの、その実質は、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスを提供するための対価ないし一定の負担としての性格を有するものと評価することができるというべきである。」かかる言明には、納税者もガーンジー政府も狐につままれた思いであろう。
以下さらに述べると、金子教授が金子宏「租税法(第12版)」8頁以下において述べた「租税の非対価性」とは、納税義務者は、なんらかの意味で国家のサービスの受益者であるとしても、それは間接的な関係にとどまり、直接的に反対給付を受ける関係にない、ということを言い表したに過ぎない。もっと端的に言えば、手数料・使用料・特権料とは異なる、ということに過ぎない。
本件においてアークリー社は、ガーンジー政府に法人税を納付する。ガーンジー政府は、アークリー社をはじめとする法人から得た税収をもって、肯定的な保険環境の提供(thepositiveinsuranceenvironmentthatGuernseyprovides)〔甲第29号証3枚目右側。訳文2頁。(注13)〕のための様々な施策を実施する。アークリー社は、この結果ガーンジー政府が提供する「肯定的な保険環境」の利益を享受する、という関係にあり、アークリー社は、国家のサービスの受益者であるが、それは間接的な関係に過ぎない。原審は、このようなことについて、何も触れるところがない。原審の審理不尽はいよいよ明らかである。
原審の判示を前提とすると、ガーンジー政府は、アークリー社から、「税」の納付を受けて、「タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスを提供」していることになるが、かかる「タックス・ヘイブン対策税制の適用の回避」という恩典を得るのは、「税」を納付したアークリー社ではなく、その親会社である上告人である。また、「サービスを提供」するのは、「税」の納付を受けたガーンジー政府ではなく、26%以上の外国法人税を納めた場合は、タックス・ヘイブン税制の適用外と定めている日本国である。このことだけ取ってみても、アークリー社とガーンジー政府が、「直接的に反対給付を受ける関係」、つまり「租税の非対価性」を否定する関係がないことは明らかである。
結局、アークリー社がガーンジー政府に税を納付することで、上告人に対し、日本においてタックス・ヘイブン対策税制が適用されないのは、全くの反射的利益であって、アークリー社がガーンジー政府に税を納付することと対価関係にはあり得ない。
国税庁の主張
追加主張無し
両者の主張まとめ
- 国税庁
- ■原告は、本件外国税について、租税の一般的意義に合致し、さらに「一方的・権力的課徴金」(強行性)の性質を有する他、租税の特色ないし他の国家収入との相違点として指摘される5つの特色をすべて満たしているから租税に該当する旨主張する。しかし、本件外国税は、課税に関する納税者の裁量が広範な税であり、納税者が自ら税負担をコントロールすることが可能であり、納付の段階では強行性があるとしても、全体としては租税の特性である強行性を欠くものである。以上の事実を踏まえれば、本件外国税が租税の強行性の性質を有するものとはいえない。
- 納税者
- ■租税とは、「国家が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付である」と解される。
■租税の特色及び他の国家収入との相違として、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とするものであり、それ以外の目的で課される罰金・科料・過料・交通反則金等のような違法な行為に対する刑事上・行政上の制裁の性質をもつ金銭給付と区別されること、②租税の強行性、③特別の給付に対する反対給付の性質を持たない点で各種の使用料・手数料・特権料等と区別されること、④国民にその能力に応じて一般的に課される点で、特定の事業の経費に充てるために、その事業に特別の関係にある者から、その関係に応じて徴収される負担金と区別されること、⑤金銭給付であることを原則としていることの5点が挙げられる。
■本件外国税は、ガーンジー政府が、法律の定めに基づいてB社に課する金銭給付であり、前記の租税の特色及び他の国家収入との相違として挙げられている①ないし⑤の特色をすべて満たしているため、租税に該当することは明らかである。
■原判決は、法人税法施行令141条3項を例示列挙と解し、ガーンジー所得税法の定める法人所得税を外国法人税から排除している。これらの判断は憲法84条に違反する。また、他国の租税を税でないとすることは、国際法規に反し、憲法第98条第2項に違反ている。
■原判決は、租税の特性と属性をすり替えて、ガーンジー所得税はこれらを有しないから、「税」でないと判断している。これは論理の運びの誤りであり、詭弁である。
関連する条文
法人税法
69条(外国税額の控除)
法人税法施行令
141条(外国法人税の範囲)
租税特別措置法
66条の6(内国法人の外国関係会社に係る所得の課税の特例)
東京地裁/平成18年9月5日判決(鶴岡稔彦裁判長)/(却下・棄却)(控訴)
法人税法施行令141条3項各号は限定列挙か例示列挙かア前記のとおり、法人税法69条1項は、外国法人税について、「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」をいうと規定し、法人税法施行令141条2項は、外国法人税に含まれる場合として同項1号ないし4号を列挙するとともに、同条3項において、外国法人税に含まれない場合として同項1号ないし5号を列挙しているところ、原告は、同項は、外国法人税に当たらない場合を限定列挙したものである旨主張するのに対し、被告は、例示列挙である旨主張しており、仮に原告の上記主張が認められるならば、本件外国税が同項に列挙された場合のいずれにも当たらないことは明らかであるから、その余の点を検討するまでもなく、本件外国税は外国法人税に該当することになる。そこで、まずこの点について検討を加えることとする。
法人税法施行令141条3項は、従来、同項は、外国法入税に含まれないものとして現行の施行令同項5号に当たる附帯税を挙げるのみであったところ、平成12年7月の政府税制調査会「中期答申」において、外国税額控除制度の対象となる外国で所得に課される税は外国の制度に基づくものであり、その性格を把握することは容易ではない上、我が国の企業の国際的な活動の多様化に伴い控除対象となる外国の税の範囲についてどのように考えるのかという問題が一層難しくなっているといった状況の中で、控除対象となる外国の税の範囲について、二重課税の排除という制度の趣旨を踏まえて、明確化することが求められると提言されたことを受けて、平成13年政令135号により、同項1号ないし4号が追加されたものであり、改正の趣旨は、制度の趣旨、取扱いの明確化にあり、これまでの取扱いを変更する趣旨ではないと考えられる。
また、規定の形式面を見ると、法人税法69条1項が、外国法人税の意義を「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。」と定めたのを受けて、同法施行令141条1項が、「法69条1項(外国税額の控除)に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税(以下この款において「外国法人税」という。)とする。」と定め、更に同条2項が、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれるものとする。」として1号から4号までを定め、同条3項が、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれないものとする。」として1号から5号までを定めている。
これらの規定ぶりからすると、法人税法69条1項を受けて、外国法人税の意義を定めた政令の規定とは、明らかに同法施行令141条1項なのであって、外国法人税に当たるかどうかは、最終的には同項に該当するかどうかによって判断することが予定されているものである。
そうすると、同条2項、3項の規定は、同条1項の規定と同格の規定であるとは考えられず、同条1項に該当するかどうかを判断するための、一種の解釈規定として位置付けられるべきものなのであるから、同条2項、3項各号の定めは、このような規定の性質上、例示列挙と解するのが素直である。
そうではなく、これらを限定列挙であると解釈し、例えば、同条1項に照らしてみれば、外国法人税には当たらないと解される税があった場合、それにもかかわらず、それが同条3項各号の列挙事由に含まれないから外国法人税に当たると解するのは本末転倒の議論であるといわなければならない。
さらに、実質的にみても、外国法人税に該当しない場合を網羅的に限定列挙することは不可能であることは明らかであるにもかかわらず、外国法人税に該当しないものがあらかじめ明示的に列挙されていなければ、外国の租税がすべて外国法人税に該当し、外国税額控除を受けることができることになるという結論は、国内企業の外国での活動を課税によって阻害せず、資本輸出の中立性を確保するという政策的判断に基づいて設けられた外国税額控除制度本来の趣旨・目的に沿うものとは考えられないのであって、この点でも原告の主張する解釈は採用することはできない。
この点、原告は、法人税法施行令141条3項が、①「外国法人税に含まれないものとする」という表現を用いていること、及び②同項5号が「外国法人税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税」と規定しているのに対し、同項1号ないし4号においてはその文末に同様の文言がないことを理由に、同項各号は5号を除き外国法人税に該当しない場合を限定列挙した規定である旨主張するが、①については、上記表現をもって、同条項各号が例示列挙と解することが否定されるわけではなく(原告の論法によれば、同条2項各号も限定列挙の規定というべきことになるが、その結果、同条2項の限定列挙にも、同条3項の限定列挙にも該当しないものはどのように取り扱われるべきなのか、という問題も生じざるを得ない。)、②についても、同条5号は、附帯税に相当するものを一括して定めるために、原告主張のような規定の仕方をしたのにすぎないと解することができるから、このことによって、本税に相当するものを定める同項1号ないし4号の規定が限定列挙なのか例示列挙なのかが左右されるものではないというべきであり、いずれも上記結論を覆すに足りるようなものではない。
本件外国税が、法人税法施行令141条3項各号に該当しないから、外国法人税に当たるとする原告の主張を採用することはできないから、本件外国税が外国法人税に当たるかどうかは、同条1項等の規定に照らして判断するほかないところ、税制というものは、国ごとにある程度の違いが生じることが当然に予想されるのであるから、それにもかかわらず外国法人税の控除を認めるということは、対象となる外国税と我が国の法人税との間にある程度の違いがあったとしても、そのような違いは許容するということを制度の前提にしているものと考えざるを得ないのであって、我が国の法人税との類似性を殊更強調することは、制度の趣旨にもそぐわないものと考えられる。
他方、上記の各規定が、「税」という概念によって、控除の対象を限定しようとしていることも明らかなのであるから、結局、上記各規定は、先進諸国において通用している一般的な租税概念を前提とし、そのうち、「法人税」、「法人の所得を課税標準として課される税」に相当するものを、控除の対象にしているものと解するのが相当である。
そして、我が国の租税も、このような一般的な租税概念の範疇に属するものといえるから(上記各規定も、そのことを前提にしているものと解される。)、我が国の法人税とおよそかけ離れた内容、性質を有するものは、一般的な租税概念の範疇にも含まれない可能性が高いものというべきであり、我が国の法人税との類似性は、このような意味で、外国法人税に該当するかどうかの判断の参考となるものと考えられる。
ところで、一般的に「租税」とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付であると解されている。
そして、租税の特性及び他の国家収入との違いとして、租税は、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とし(租税の公益性)、それ以外の目的で課される罰金・科料・過料・交通反則金等のような違法行為に対する刑事上・行政上の制裁の性質を持つ金銭給付とは区別され、②国民の富の一部を一方的・強制的に国家の手に移す手段であり(租税の強行性)、租税が国民の財産権の侵害の性質を有することから、租税の賦課・徴収が必ず法律の根拠に基づいて行われなければならない(租税法律主義)とされ、③特別の反対給付の性質を持たない点で、各種の使用料・手数料・特権料等と区別され、④国民にその能力に応じて一般的に課される点で、特定の事業の経費に充てるために、その事業に特別の関係のある者から、その関係に応じて徴収される負担金と区別され、⑤金銭給付であることを原則とする点を挙げることができ、以上のような租税概念及び租税の特性については、当事者間にほぼ争いがないところである(なお、原告は、租税の強行性について、これは、租税の必須の要素とはいえない旨の主張をしているが、租税の特性の1つであることについては当事者間に争いがないところである。)。
したがって、本件外国税が外国法人税に含まれるかどうかの判断に当たっては、本件外国税が上記租税概念等に当てはまるのかどうかについて検討を加える必要があるが、我が国の法人税との比較も、前記のような意味においては、判断の一要素となり得るものといえるから、以下、このような観点から、本件外国税が外国法人税に該当するかどうかを検討する。
本件外国税ガーンジー所得税法及び免税団体所得税法の規定の内容は、既に認定したとおりであるが、証拠によれば本件外国税に関して以下の事実が認められる。
本件説明書(乙3)ガーンジー金融当局が保険会社に対するガーンジー島の税制等を説明した本件説明書(乙3)には、「ガーンジー島の税制が保険会社にとって有利かつ柔軟な税制構造(aFavourableandFlexibletaxstructure)を有しており、キャプティブ保険会社は、20%の税率で所得課税を受けること(標準税率課税)、無税(免税法人)か段階的な税率で課税を受けること(段階税率課税)、適用税率を0%超30%以下の範囲で交渉すること(国際課税資格)のいずれかを選択できる。」旨記載されている(なお、税率の決定について「Negotiate」(交渉)という用語が使用されている。)。
また、本件説明書のガーンジー島の税制に関する項において、「重要なことは、ガーンジー島の税制の下では、キャプティブ保険会社を、親会社に本国での課税問題が生じない方法で設立できること、そして、キャプティブ保険会社が設立され管理される地域において留保利益を蓄積できることである。」旨記載されている。
ガーンジー金融当局が作成したパンフレットである「国際課税法人へのガイド」(「a Guide To The International Company」)には、「(国際課税資格)の申請に先立って、国際課税資格を取得しようとする法人の事業計画がガーンジー税務当局担当官と議論される(又は当該担当官に書面で連絡される。)。
これにより、適用税率の設定が可能となる。
申請者とガーンジー税務当局との間で仮に合意された諸条件は、正式な国際課税資格の取得申請におけるガーンジー税務当局の承認を必要とする。」旨記載されている。
ガーンジー税務当局が作成したガーンジー所得税法の解説文には、「所得税を支払う際の税率は、合意(Agreement)によって決めることができる。」旨記載されている。
元英国財務省高官が作成した金融制度の調査レポートには、「国際課税資格を取得する法人は、通常は0から2%の間でガーンジー税務当局と税率の交渉をしているが、たまには、その親会社の全世界所得税負担を最小化するために、より高い税率で交渉する場合もある。」旨記載されている。
B社が設立される前の1998年(平成10年)9月25日付けで担当者がガーンジー税務当局にあてた文書(以下「本件文書」という。)には以下の記載がある。
すなわち、「9月15日にJohnStuartから上記名称(B社)の新会社が設立予定だということをお話ししたかと思います。」との記載に引き続き、「新会社(B社)は、International Business Company(国際課税資格)として、26%の税率の選択を希望しています。当該税率は日本の税務当局にも受け入れられ、日本で新たな税負担をせずに済むとのことです。税率の選択期間は1年間とするそうです。その理由は、日本の法人税法に改正があった場合、B社で支払う税を変更することができるようにです。」と記載されている。
本件外国税に係る徴収制度については、ガーンジー所得税法83条で、「本法律の第81A条の規定に基づき控除されたか、控除される税金を含む、いずれかの税金又は罰金が支払期日までに支払われない場合、行政官は、その支払い金額が民事上の債務であるかのように、支払いを強制することができる。」と規定しているほかは、我が国の国税徴収法に相当する法律は見当たらず、ガーンジー税務当局は自力執行力を有していない。また租税に対する一般的優先権を認める制度も見当たらない。
以上認定した事実も併せ検討してみると、本件外国税を含むガーンジー島における「法人税」については、次のような問題点を指摘することができる。
第1に、ガーンジー島において、B社のようなキャプティブ保険会社は、①免税法人となる、②20%の定率課税を受ける、③低率の段階税率による課税を受ける、④0から30%の間の一定の税率による課税を受けるという4つの中から適用される税制を選択できることになっている(なお、④の適用を受けるためには、国際課税資格を取得することが必要であり、そのためには、資格申請者が、資格申請書に適用すべき税率を明記するとともに、当該税率が申請者にとって適しており、ガーンジー島の経済的利益の観点からも妥当な水準であることに関する情報を記載した上、ガーンジー税務当局から資格申請の承認を受けることを要するが、このような要件が、実際に要件として機能するものと考えられないことは、後述のとおりである。)。
しかも、これらの制度が、それぞれ基本的性格を大きく異にするものであることは明らかなのであるから、ガーンジー島においては、同一の法人の同一の収入に対して、基本的性格を異にする4つの税制が、当該法人の選択によって適用され得る(別の言い方をすれば、同種の法人の同種の収入に対して、基本的性格を異にする税制に基づく課税が行われ得る)という極めて不自然な事態が生じているのであり、これを特例規定の適用を受けるかどうかを納税者の選択に委ねるといった、税制における調整的な選択制度と同質のものとして理解することは到底困難であるといわざるを得ない。
そうすると、このような制度は、我が国の法人税においてはおよそ考えられない制度であるのみならず、租税の一般的概念の観点からしても、税の強行性(更には、税において一般的に要請されると考えられる平等性)の概念とは相容れないところがあるものといわざるを得ない。
第2に、本件外国税の根拠となる上記④の制度との関係でみると、ガーンジー島の法令上は、その適用を受けるためには、国際課税資格を取得することが必要であり、そのためには、資格申請者が、資格申請書に適用すべき税率を明記するとともに、当該税率が申請者にとって適しており、ガーンジー島の経済的利益の観点からも妥当な水準であることに関する情報を記載した上、ガーンジー税務当局から資格申請の承認を受けることを要することとされているものの、上記において認定した諸事実に照らしてみれば、その実態としては、0ないし30%という枠の中で、申請者である法人とガーンジー税務当局とが交渉を行い、その結果成立した合意に基づいて課税が行われていると考えざるを得ない。
そうすると、本件外国税は、税率という重要な課税要件が、納税者とガーンジー税務当局との合意により決定されるものであって、課税に関する納税者の自由が広範に認められる租税といわざるを得ないのであり、この点において、納付や還付に関し納税者の裁量が広範に認められている税として法人税法施行令141条3項1号、2号に掲げられた租税に類似した側面を有するものというべきであるし、租税の特質である強行性と相容れない面があることも否定し難いところである。
なお、OECD(経済協力開発機構)は、1998年(平成10年)に公表した報告書(HARMFULTAXCOMPETITION。)において、「もし、税率と(又は)課税ベースが交渉可能であるか又は投資家が居住者である場合に依存している税制であるならば、主催国の税制で創設された課税規定は、潜在的に有害である。
(中略)すると自国は外国税額控除を許可するか、または納税者に自国のタックスヘイブン対策税制が課せられることから逃れることを許可することになり、タックスヘイブン対策税制の適用は主催国の税率に依存することとなる。税率と(又は)課税ベースの交渉可能性は、実際に納税者の課税所得を決める不透明な税制として問題を起こしている。」と指摘しており、上に指摘した点は、先進諸国において共通に認識されているところであるということができる。
これに対し、原告は、本件外国税の税率は、ガーンジー税務当局が決定するものであるから、法律に基づくものであると強調するのであるが、その前提に疑問があることは上記のとおりであるのみならず、本件外国税は、法律で規定されているといっても、その前提となる国際課税資格による課税制度は、税率の一定枠(上限及び下限)を決めているだけで、その幅は広範であり、重要な課税要件である税率の確定について、その際によるべき基準が示されておらず(なお、ガーンジー所得税法188C条には「適用税率が申請者にとって適切でかつガーンジー島の経済的利益の観点から妥当な水準であること」が要件とされているが、その内容が一義的に明らかになるようなものではなく、これがよるべき基準になり得ないことは明らかであるし、不服申立てを許さないとしている点において、その恣意性はより強度なものとなっていると評さざるを得ない。)、実質的には白地規定であるといわざるを得ず、課税権者に広範な裁量の余地を許容するもので、租税法律主義(課税要件明確主義)に反するものであると評価せざるを得ない。
したがって、原告の主張を前提としても、本件外国税は、我が国の法人税はもとより、一般的な租税概念にも相反するものといわざるを得ないのである。
第3に、本件外国税には自力執行力がなく、かつ租税に対する一般的優先権を承認する制度も存しないため、税の徴収手段において実効性に欠ける点があることも否定し難い。
原告も主張しているように、自力執行力を有するかどうかは、租税であることの必須の要素とまでは断定できないとしても、本件外国税においては、それに止まらず租税に対する一般的優先権を承認する制度も存しないのであるから、このことが、租税該当性の判断にマイナスに働く要素になることは否定し難いところである。
以上のとおり、本件外国税を含むガーンジー島における法人税制は、我が国における法人税制とはおよそかけ離れた制度になっていることはもとより、一般的な租税概念を前提に照らしてみても、不自然なものであると評さざるを得ないものである。
そして、上記に認定した諸事実をも照らし合わせてみると、ガーンジー島においてこのような「税制」が採用されているのは、外国法人に対し、本国におけるタックスヘイブン税制の適用を回避するためのメニューを提供するためではないかと疑わざるを得ないのであり、この観点からすると、ガーンジー島において徴収される「税」なるものは、その名称にもかかわらず、その実質は、タックスヘイブン税制の適用を回避させるというサービスを提供するための対価であるということも可能なのであって(このような強い誘因を持つ制度であるからこそ、自力執行力等、徴収のための実効性担保措置を必要としないと考えることもできなくはない。)、この点からしても、一般的な租税の概念(特定のサービスに対する対価ではないこと。)に反するものであるといわざるを得ない。
そうすると、本件外国税は、我が国の法人税概念とはおよそかけ離れたものであるばかりでなく、一般的な租税概念に照らしてみても、到底その概念の範疇に含まれるものであるとはいい難いのであるから、これを外国法人税に当たらないとした被告の判断に誤りはないものというべきである。
原告は、仮に本件外国税が納税者に税率の選択が認められる租税であるとしても、それは、我が国において、法令を適用して青色申告の承認を受けた法人にのみ認められる特典享受を受ける場合と何ら異なることはなく、いわば、税率自体を選択させるか(ガーンジー島)、それ以外の要件において選択の幅を与えるか(日本)という選択の幅を与えるための法令の構造が若干相違しているのにすぎない旨主張する。
しかし、本件外国税を巡る問題点を、特例措置の適用を受けるかどうかの問題と同視することはできないことは既に指摘したとおりであって、原告の主張は採用することができない。
原告は、法人税法施行令141条3項1号及び2号の定める租税が外国法入税に該当しないこととされたのは、実質的に法人税負担がない租税であるからであり、これに対し、B社は、本件外国税について実質的に税負担を負っているから、同項1号及び2号が規定する租税とは性質が異なること、また、仮に本件外国税を外国法人税に当たらないとすると、原告は実質的に税負担をしているにもかかわらず外国税額控除を受けることができず、二重課税が排除されないから違法である旨主張する。
しかし、本件においては、本件外国税が「税」の概念に含まれるかどうかが問題となっているのであるから、これを税であると決めつけて、既に税負担を負っているとか、二重課税の問題が生じていると主張するのは、結論先取りの議論であって、成り立たないものといわざるを得ない(原告の主張を、原告が、現に一定の経済的負担を負っていることを問題とする趣旨であると理解したとしても、それが実際に問題であるかどうかは、当該経済的負担の意味内容によるのであるから、やはり上記の結論を左右するものではない。)。したがって、この点に関する原告の主張も失当である。
原告は、中里教授の論文である「法人税の税率の法理論」を引用して、我が国の法人税とは、法人の所得に対して課される租税である点にその本質的な要素が存するのであって、税率如何によって法人税の本質自体が変化するものではなく、税率の違いは、本件外国税を外国法人税と認定することとは関係がない旨主張する。
しかし、上記見解は、我が国の法人税について、税率を改正してもその法人税についての性格は変わらないことを述べているものにすぎず、本件外国税のような納税者による税率の選択が可能な租税を想定して述べているものではないことは明らかであるから、原告の上記主張は、採用することができない。
B社が原告の外国関係会社(措置法66条の6第1項1号)に該当することは当事者間に争いがないところ、以上の検討結果によれば、本件外国税は法人税法69条1項の外国法人税に該当しないから、B社の本件各事業年度における措置法施行令39条の14第1項2号に規定する租税負担割合は零であり、100分の25以下ということになる。したがって、B社は原告の特定外国子会社等に該当し、これを前提とした本件各事業年度の更正処分等はいずれも適法である。
東京高裁/平成19年10月25日判決(青柳馨裁判長)/(棄却)(上告・上告受理申立て)
当裁判所も、本件外国税は法人税法69条1項の外国法人税には該当せず、B社の本件各事業年度における措置法施行令39条の14第1項2号に規定する租税負担割合は零であり、100分の25以下となるから、被控訴人が本件更正処分等において、B社が控訴人の特定外国子会社等(措置法66条の6第1項)に該当するとして、B社に係る課税対象留保金額に相当する額を益金の額に算入して控訴人の所得を計算したことに違法な点はないと判断する。
措置法66条の6第1項に規定する特定外国子会社等とは、法人の所得に対して課される税が存在しない国又は地域に本店又は主たる事務所を有する外国関係会社(措置法施行令39条の14第1項1号)、又はその各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社(同項2号)であって、外国法人税賦課の有無やその税率が問題となるところ、措置法施行令39条の14第2項1号が、外国法人税は、「法人税法69条1項に規定する外国法人税をいう。」と規定していることから、B社が、控訴人の特定外国子会社等に該当するか否かの判断に当たっては、本件外国税が法人税法69条1項の外国法人税に該当するか否かが問題となる。
法人税法69条1項は、外国法人税の意義を「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。」と定めており、これを受けて、同法施行令141条1項が、「法69条1項(外国税額の控除)に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税(以下、この款において「外国法人税」という。)とする。」と定め、さらに同条2項が、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれるものとする。」として1号から4号までを定め、同条3項が、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれないものとする。」として1号から5号までを定めている。
従来、法人税法施行令141条3項の規定は、外国法人税に含まれないものとして現行の同項5号に当たる附帯税を挙げるのみであったところ、平成12年7月の政府税制調査会「中期答申」において、外国税額控除制度の対象となる外国で所得に課される税は外国の制度に基づくものであり、その性格を把握することは容易ではない上、我が国の企業の国際的な活動の多様化に伴い控除対象となる外国の税の範囲についてどのように考えるのかという問題が一層難しくなっているといった状況の中で、控除対象となる外国の税の範囲について、二重課税の排除という制度の趣旨を踏まえて、明確化することが求められると提言されたことを受けて、平成13年政令135号により、同項1号ないし4号が追加されたものであり、この改正の趣旨は、制度の趣旨、取扱いの明確化にあり、これまでの取扱いを変更する趣旨ではないと考えられる。
こうした改正の経緯及び上記の規定の内容に照らしてみれば、法人税法69条1項を受けて外国法人税の意義を定めた政令の規定は同法施行令141条1項であって、同条2項、3項の規定は、同条1項に該当するかどうかを判断するための一種の解釈規定として位置付けられるべきものであり、同条2項、3項各号の定めは、このような解釈規定の性質上、例示列挙と解するのが相当である。
したがって、外国法人税に当たるかどうかは、同法施行令141条2項、3項の例示を参酌しつつ、同条1項の規定に該当するものであるか否かによって判断すべきものであり、本件外国税が同条3項の規定する列挙事由に該当しないからといって、それが外国法人税に該当するといえないことは明らかというべきである。
本件外国税が外国法人税に当たるかどうかは、法人税法施行令141条1項等の規定に照らして判断するほかないところ、上記の各規定が「税」という概念によって控除の対象を限定しようとしていることも明らかなのであるから、結局、上記各規定は、我が国を含め先進諸国で通用している一般的な租税概念を前提とし、そのうち、「法人税」、「法人の所得を課税標準として課される税」に相当するものをいうと解するのが相当である。
このように解さなければ、外国税額控除の可否は全面的に外国の税制に依存することになって、納税者間の平等ないし税制の中立性の維持が不可能になり、我が国の財政主権が損なわれる結果となるが、そのような結果が容認できないことは明らかである。
ところで、一般的に「租税」とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付であると解されている。
そして、租税の特性としては、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とし(租税の公益性)、②国民の富の一部を一方的・強制的に国家の手に移す手段であり(租税の強行性)、③特別の反対給付の性質を持たず(租税の非対価性)、④国民にその能力に応じて一般的に課される点が挙げられる。
そして、我が国を含め先進諸国においては、近代法治主義に基づいて、国民の財産権の侵害の性質を有する租税の賦課・徴収は、必ず法律の根拠に基づいて行われなければならない(租税法律主義)とされ、また、近代法の基本原理である平等取扱の原則に基づいて、公共サービスの資金となる租税の負担は国民の間の担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税関係において国民は平等に取り扱われなければならない(租税公平主義ないし租税平等主義)とされているところである。
なお、国家が産業振興、地域振興等の政策目的を実現するため一定の要件の下に税を軽減する特例措置を設けることがあるが、このような制限的な税の調整は、上記の法人税等の基本的な租税の性質に変更をもたらすものとはいえない。
そこで、本件外国税についてみると、前記引用にかかる原判決に認定のとおり、ガーンジー島の税制とその運用の実態として次の事実が認められる。aガーンジー所得税法は、保険会社に対して、課税を受ける方法として、①年間500ポンドの申請料を支払い、免税法人となる(同法40A条)、②標準税率20%を選択する(同法5条)、③標準税率に比べて極めて低い段階税率課税を選択する(同法187A条)、④InternationalTaxStatus(国際課税資格)の申請をして、0%を超え30%以下の税率を選択する(同法188条)の4つの選択肢を用意している。
ガーンジー金融当局によるガーンジー島の税制等を説明した説明書では、国際課税資格の税率の決定について「Negotiate」(交渉)という用語が使用され、国際課税法人へのガイドでは、「(国際課税資格)の申請に先立って、国際課税資格を取得しようとする法人の事業計画がガーンジー税務当局担当官と議論される(又は当該担当官に書面で連絡される。)。これにより、適用税率の設定が可能となる。申請者とガーンジー税務当局との間で仮に合意された諸条件は、正式な国際課税資格の取得申請におけるガーンジー税務当局の承認を必要とする。」旨記載されている。
また、ガーンジー所得税法の解説文には、「所得税を支払う際の税率は、合意(Agreement)によって決めることができる。」旨記載されている。
ガーンジー金融当局が作成したパンフレットである「国際課税法人へのガイド」(「A Guide To The International Company」、)には、「(国際課税資格)の申請に先立って、国際課税資格を取得しようとする法人の事業計画がガーンジー税務当局担当官と議論される(又は当該担当官に書面で連絡される。)。これにより、適用税率の設定が可能となる。申請者とガーンジー税務当局との間で仮に合意された諸条件は、正式な国際課税資格の取得申請におけるガーンジー税務当局の承認を必要とする。」旨記載されている。
また、ガーンジー税務当局が作成したガーンジー所得税法の解説文には、「所得税を支払う際の税率は、合意(Agreement)によって決めることができる。」旨記載されている。
さらに、元英国財務省高官が作成した金融制度の調査レポートには、「国際課税資格を取得する法人は、通常は0から2%の間でガーンジー税務当局と税率の交渉をしているが、たまには、その親会社の全世界所得税負担を最小化するために、より高い税率で交渉する場合もある。」旨記載されている。
B社が設立される前の1998年(平成10年)9月25日付けで担当者がガーンジー税務当局にあてた文書(甲11の1)には、「9月15日に乙から上記名称(B社)の新会社が設立予定だということをお話ししたかと思います。‥新会社(B社)は、International Business Company(国際課税資格)として、26%の税率の選択を希望しています。当該税率は日本の税務当局にも受け入れられ、日本で新たな税負担をせずに済むとのことです。税率の選択期間は1年間とするそうです。その理由は、日本の法人税法に改正があった場合、B社で支払う税を変更することができるようにです。」と記載されている。
以上のような、ガーンジー島の税制度とその運用の実態に照らせば、ガーンジー島の外国法人は、同一の法人の同一の収入に対して、上記の基本的性格を異にする4つの税制のいずれかを選択できるものであるが、納税者にかかる選択を認める税制は、我が国を含む先進諸国の一般の租税概念とはかけ離れた不自然なものであり、これを国家の産業振興、地域振興等の政策目的の実現のために設けられた税軽減措置等の特例の適用を受けるかどうかを納税者の選択にゆだねるという種類の税制における調整的な選択制度と同質のものとして理解することは困難である。
そうした税の選択肢の中でも、上記の国際課税資格の制度は、これを利用するについて、国際課税資格を取得することが必要であり、そのためには、資格申請者が、資格申請書に適用すべき税率を明記するとともに、当該税率が申請者にとって適しており、ガーンジー島の経済的利益の観点からも妥当な水準であることに関する情報を記載した上、ガーンジー税務当局から資格申請の承認を受けることを要することとされているものの、上記において認定した諸事実に照らしてみれば、その実態としては、0ないし30%という枠の中で、申請者である法人とガーンジー税務当局とが交渉を行い、その結果成立した合意に基づいて課税が行われていると考えざるを得ない。
上記のとおり、本件外国税は、税率という重要な課税要件が、納税者とガーンジー税務当局との合意により決定されるものであって、課税に関する納税者の選択裁量が広範に認められる租税と認めるほかない。
そうすると、ガーンジー島の上記「法人税」税制は、我が国を含む先進諸国の租税概念の基本である強行性、公平性ないし平等性と相容れないものであるといわざるを得ず、上記税制の実態に照らせば、ガーンジー島において上記のような「税制」が採用されているのは、外国法人に対し、本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避するためのメニューを提供するためであり、それ故、ガーンジー島において徴収される「税」なるものは、税という形式をとるものの、その実質は、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスの提供に対する対価ないし一定の負担としての性格を有するものと評価することができるというべきである。
そして、上記による法人税を外国法人税と認めることは、外国税額控除の可否がガーンジー島の税制に依存することになり、また、同税制を利用する結果として発生する税名目の経済的負担の額と、我が国の実効税率が適用された場合の税額との差額に相当する税負担を免れるいわゆる租税回避を許容することになって、納税者間の平等ないし税制の中立性の維持が不可能になり、我が国の財政主権が損なわれる結果を招来するが、このような結果が許容できないことは明らかである。したがって、本件外国税は法人税法69条1項の外国法人税には該当しないというべきである。
控訴人は、タックス・ヘイブン対策税制については、国際的な租税回避の防止という政策目的から導入されたものであるところ、B社は対象事業年度においてその所得に対し税率26%の税負担をしているから「国際的租税回避」は存在せず、タックス・ヘイブン対策税制(措置法66条の6第1項)の射程範囲ではない旨主張する。
しかし、本件外国税は、我が国の法人税概念とはおよそかけ離れたものであり、むしろ、税いう名称にもかかわらず、その実質は、外国法人に本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるサービスを提供するための対価ないし負担と評価できるものであることは既に説示したとおりであるから、B社が税を負担しているとの前提に立つ控訴人の上記主張はその前提を欠くものである。
また、B社が20%の「標準税率課税」を選択せず、0%を上回り30%以下の範囲で税率を選択できる「国際課税資格」の取得を選択して、26%の税率を選択したのは、我が国のタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避することによりグループの税負担を軽減することを目的としたものであることが優に認められる。
すなわち、控訴人は、ガーンジー島において設定された変則的な税制を利用し、国際課税資格の26%の「税率」を選択することにより、我が国の法人税の実効税率36.09%により計算される税額との差額に相当する経済的利益を得ようとしたものということができるが、タックス・ヘイブン対策税制の目的に照らせば、このような行為は、まさに同税制が防止しようとする国際的租税回避行為の範疇に含まれているというべきであって、控訴人の上記主張は理由がない。
なお、控訴人は、決して、タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避するためだけにガーンジー島を選択したわけではなく、B社のような再保険会社を設立し、同社に再保険を引き受けさせることは、現在では、控訴人のような損害保険会社のリスク・マネジメントに重要な意義を有するものであり、ガーンジー島ではC保険会社の設立が容易であるなど、B社をガーンジー島に設立したことには合理性がある旨主張する。
しかし、識者の間では、C保険会社は単に親会社の資産を子会社という形に変えただけのものであり、結局は、親会社の資産でリスクを処理するということと変わりないから、リスクの移転がないのではないかという疑問があることが指摘され、また、C保険会社の利点として、「保険料の損金処理など保険としての利点が享受できる」点が挙げられている一方で、欠点として、「C保険会社の資金や剰余金(準備金)などの額が一般の保険会社に較べ小さく、リスクの保有能力も小さく、安定性も脆弱である」点が挙げられていることが認められるのであって、C保険会社が損害保険会社のリスク・マネジメントに重要な意義を有するという控訴人の主張はたやすく首肯できない。
このほか、控訴人はB社について措置法66条の6第3項が規定するタックス・ヘイブン対策税制の適用除外要件に該当する旨の主張をしてないことをも考え併せると、ガーンジー島にC保険会社であるB社を設立した目的が主として控訴人のリスク・マネジメントにあるかのようにいう控訴人の主張は採用できない。
控訴人は、本件各更正処分等によれば、「措置法66条の6第1項により、B社の課税対象留保金額に相当する金額が控訴人の収益の額に合算される一方、本来であれば、それと見合いで認められるべき措置法66条の7第1項による外国税額控除が認められず、控訴人は、本来、タックス・ヘイブン対策税制が予定していない二重課税を負担するという不都合な結果を招来してしまう」と主張する。
しかし、本件外国税が外国法人税に該当しないことは既に説示したとおりであり、したがって、B社が税を負担しているとの前提に立つ控訴人の上記主張はその前提を欠くものである。
また、弁論の全趣旨によれば、被控訴人は、本件各更正処分(合算課税)をするに当たっては、B社の所得の金額の計算上、本件外国税の額については、現に一定の経済的負担を負っていることを考慮し、これを損金の額に算入したところで課税対象留保金額を計算していることが認められる。
したがって、本件において、実質的にみても不当な二重課税と評価すべき事態は生じていないというべきである。
次に、控訴人は、「例えば、B社が国際課税資格を取得せずその所得に対し20%の課税標準税率で課税された場合には、合算課税の適用がある一方、法人税法69条の外国税額控除の適用も認められるが、同社がその所得に対し26%の課税を受けた場合には、合算課税の適用はあるが、同法69条の外国税額控除の適用は認められないという極めて不自然な結果となる」と主張する。
しかし、B社は20%の「標準税率課税」を選択せず、0%を上回り30%以下の範囲で税率を選択できる「国際課税資格」の取得を選択して、26%の税率を選択し、本件外国税を負担したものであるところ、本件外国税が外国法人税に該当しないことは、既に説示したとおりである。
控訴人主張のとおり、B社が20%の標準税率課税を選択した場合、外国税額控除の可否について控訴人主張のような相違が生じるか否かは、その標準税率による税が外国法人税に該当するか否かにかかわるのであり、仮に外国法人税に該当すると解されれば、控訴人主張のとおりの相違が生じるが、そうでなければ相違は生じないというだけのことであり、いずれにしても控訴人主張のような不自然な結果が生じることはないというべきである。
なお、控訴人は、平成12年にガーンジー島がOECDにより有害税制を有する国・地域に指定されたにもかかわらず、その直後の平成13年の税制改正において、本件外国税に該当する税が法人税法施行令141条3項各号にあえて明記されなかったのであり、これは立法担当者が本件外国税を外国法人税に該当すると考えていたことの証左であるとし、また、実際に明文をもって外国法人税に該当しない旨を明確にしなかった以上、本件外国税が外国法人税に該当しないとすることは、納税者の予測可能性を著しく損ない、租税法律主義に反する旨主張する。
しかし、外国法人税に該当しない例を網羅的に把握してこれを明文化することは困難であり、特にタックス・ヘイブンにおいては税制度が不透明であり、国際的な情報交換のルートが確立されていないこともあり、一層困難であると考えられる。
そこで、平成13年の税制改正においては、当時において的確に把握し得た範囲と租税の一般概念にかんがみて、外国法人税に該当しない例を法人税法施行令141条3項で明文化したにすぎないと解されるのであって、本件外国税のような例が外国法人税に該当しない旨が明文化されていないからといって、当時の立法担当者が本件外国税を外国法人税に該当すると考えていたものと断ずることはできない。
そして、本件外国税が外国法人税に該当するか否かは、外国税額控除制度、タックス・ヘイブン対策税制の趣旨目的を踏まえ、法人税法施行令141条1項等の規定に照らして合理的に解釈するほかないのであって、その解釈の結果、本件外国税が外国法人税に該当しないと判断される以上、これをもって、納税者の予測可能性を損ない、租税法律主義に反するということはできない。
最高裁/平成21年12月3日判決(甲斐中辰夫裁判長)/(破棄自判・一部認容・却下)(確定)(納税者勝訴)
まず、外国法人税といえるためには、それが租税でなければならないことはいうまでもないから、外国の法令により名目的には税とされているものであっても、実質的にみておよそ税といえないものは、外国法人税に該当しないというべきである。原審は、前記のとおり、本件外国税は、強行性、公平性ないし平等性と相いれないものであり、その実質はタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスの提供に対する対価としての性格を有するものであって、そもそも租税に該当しないと判断した。
確かに、前記事実関係等によれば、本件外国税を課されるに当たって、本件子会社にはその税率等について広い選択の余地があったということができる。
しかし、選択の結果課された本件外国税は、ガーンジーがその課税権に基づき法令の定める一定の要件に該当するすべての者に課した金銭給付であるとの性格を有することを否定することはできない。
また、前記事実関係等によれば、本件外国税が、特別の給付に対する反対給付として課されたものでないことは明らかである。したがって、本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。
次に、本件外国税の外国法人税該当性について検討する。法人税法69条1項は、外国法人税について、「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」をいうと定め、外国の租税が外国法人税に該当するといえるには、それが我が国の法人税に相当する税でなければならないとしている。
これを受けて、法人税法施行令141条は、1項において外国法人税の意義を「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」と定めるほか、外国又はその地方公共団体により課される税のうち、外国法人税に含まれるものを2項1号から4号までに列挙し、外国法人税に含まれないものを3項1号から5号までに列挙している(ただし、平成13年政令第135号による改正前の同項は、同改正後の同項5号に規定するもののみを挙げて、これが外国法人税に含まれないものとすると規定していた。)。
以上の規定の仕方によると、外国法人税について基本的な定義をしているのは同条1項であるが、これが形式的な定義にとどまるため、同条2項及び3項において実質的にみて法人税に相当する税及び相当するとはいえない税を具体的に掲げ、これにより、同条1項にいう外国法人税の範囲を明確にしようとしているものと解される。
前記事実関係等によれば、本件においては、本件外国税が同条3項1号に規定する「税を納付する者が、当該税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税」又は2号に規定する「税の納付が猶予される期間を、その税の納付をすることとなる者が任意に定めることができる税」に該当するか否かが検討の対象になり得るところ、以上の理解を前提にすると、同項1号又は2号に該当する税のみならず、該当しない税であってもこれらに類する税、すなわち、実質的にみて、税を納付する者がその税負担を任意に免れることができることとなっているような税は、法人税に相当する税に当たらないものとして、外国法人税に含まれないものと解することができるというべきである。
しかし、租税法律主義にかんがみると、その判断は、飽くまでも同項1号又は2号の規定に照らして行うべきであって、同項1号又は2号の規定から離れて一般的抽象的に検討し、我が国の基準に照らして法人税に相当する税とはいえないとしてその外国法人税該当性を否定することは許されないというべきである。
前記事実関係等によれば、本件外国税は、本件子会社の平成11年から同14年までの各事業年度において、ガーンジーの法令に基づきガーンジーにより本件子会社の所得をそれぞれ課税標準として課された税に当たるということができ、形式的に同条1項にいう外国法人税の定義に該当するものというべきである。
そこで、本件外国税が実質的にみて外国法人税に含まれないものとされる同条3項1号又は2号に規定する税に該当するかをみると、まず、前記事実関係等によれば、ガーンジーにおいて国際課税法人が納付した税については、標準税率課税又は段階税率課税による税とは異なり、納付後、さかのぼって免税の申請をすることができるとはされておらず、また、これについて還付請求をすることができるともされていない。
そうすると、本件外国税は、同項1号に規定する税に該当するということはできない。また、前記事実関係等によれば、本件外国税は、納付が猶予される期間を本件子会社が任意に定めることができたとはされていないから、同項2号に規定する税にも該当しない。
さらに、本件外国税が実質的にみて同項1号又は2号に規定する税に類するような任意にその税負担を免れることができることとなっている税といえるかについて検討する。
前記事実関係等によれば、本件外国税は、その税率が納税者と税務当局との合意により決定されるなど、納税者の裁量が広いものではあるが、その税率の決定については飽くまで税務当局の承認が必要なものとされているのであって、納税者の選択した税率がそのまま適用税率になるものとされているわけではない。
また、ガーンジーにおいて、所定の要件を満たす団体が免税の申請をした場合(標準税率課税又は段階税率課税を受けた法人がさかのぼって免税の申請をした場合を含む。)に、常にそれが認められるという事実は確定されていない。
したがって、本件子会社は、その任意の選択により税負担を免れることができたのにあえて国際課税資格による課税を選択したということもできない。
むしろ、前記のとおり、本件子会社は、税率26%の本件外国税を納付することによって実質的にみても本件外国税に相当する税を現に負担しており、これを免れるすべはなくなっているものというべきである。
そうすると、本件外国税を同項1号又は2号に規定する税に類する税ということもできないというべきである。結局、前記事実関係等の下において、本件外国税が法人税に相当する税に該当しないということは困難である。
以上のとおり、本件外国税は、ガーンジーの法令に基づきガーンジーにより本件子会社の所得を課税標準として課された税であり、そもそも租税に当てはまらないものということはできず、また、外国法人税に含まれないものとされている法人税法施行令141条3項1号又は2号に規定する税にも、これらに類する税にも当たらず、法人税に相当する税ではないということも困難であるから、外国法人税に該当することを否定することはできない。
以上と異なる見解に立ち、本件各処分はいずれも適法であるとした原審の前記判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決のうち本件各処分の取消請求に関する部分は破棄を免れない。同部分について第1審判決を取り消し、これをいずれも認容すべきである。
なお、上告人は、上告人からの更正の請求に対して被上告人がした更正をすべき理由がない旨の通知の取消請求に関する上告については、上告受理申立て理由を記載した書面を提出しないから、この部分に関する上告は却下すべきである。よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
東京地方裁判所 判示要旨
- 1.
- ■法人税法69条1項(外国税額の控除)を受けて、外国法人税の意義を定めた政令の規定とは、明らかに同法施行令141条1項(外国法人税の範囲等)なのであって、外国法人税に当たるかどうかは、最終的には同項に該当するかどうかによって判断することが予定されているものである。そうすると、同条2項、3項の規定は、同条1項の規定と同格の規定であるとは考えられず、同条1項に該当するかどうかを判断するための、一種の解釈規定として位置付けられるべきものなのであるから、同条2項、3項各号の定めは、このような規定の性質上、例示列挙と解するのが素直である。
東京高等裁判所 判示要旨
- 1.
- ■法人税法69条1項を受けて外国法人税の意義を定めた政令の規定は同法施行令141条1項であって、同条2項、3項の規定は、同条1項に該当するかどうかを判断するための一種の解釈規定として位置付けられるべきものであり、同条2項、3項各号の定めは、このような解釈規定の性質上、例示列挙と解するのが相当である。
■外国法人税に当たるかどうかは、法人税法施行令141条1項等の規定に照らして判断するほかないところ、上記の各規定が「税」という概念によって控除の対象を限定しようとしていることも明らかなのであるから、結局、上記各規定は、我が国を含め先進諸国で通用している一般的な租税概念を前提とし、そのうち、「法人税」、「法人の所得を課税標準として課される税」に相当するものをいうと解するのが相当である。
■一般的に「租税」とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付であると解されている。そして、租税の特性としては、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とし(租税の公益性)、②国民の富の一部を一方的・強制的に国家の手に移す手段であり(租税の強行性)、③特別の反対給付の性質を持たず(租税の非対価性)、④国民にその能力に応じて一般的に課される点が挙げられる。
最高裁判所 判示要旨
- 1.
- ■外国法人税といえるためには、それが租税でなければならないことはいうまでもないから、外国の法令により名目的には税とされているものであっても、実質的にみておよそ税といえないものは、外国法人税に該当しないというべきである。
■外国法人税について基本的な定義をしているのは、法人税法施行令141条1項であるが、これが形式的な定義にとどまるため、同条2項及び3項において実質的にみて法人税に相当する税及び相当するとはいえない税を具体的に掲げ、これにより、同条1項にいう外国法人税の範囲を明確にしようとしているものと解される。
■租税法律主義にかんがみると、同項1号又は2号の規定から離れて一般的抽象的に検討し、我が国の基準に照らして法人税に相当する税とはいえないとしてその外国法人税該当性を否定することは許されないというべきである。
■本件外国税は、ガーンジーの法令に基づきガーンジーにより本件子会社の所得を課税標準として課された税であり、そもそも租税に当てはまらないものということはできず、また、外国法人税に含まれないものとされている法人税法施行令141条3項1号又は2号に規定する税にも、これらに類する税にも当たらず、法人税に相当する税ではないということも困難であるから、外国法人税に該当することを否定することはできない。
認定事実
■本件は、グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国領チャネル諸島ガーンジー(以下「ガーンジー島」という。)に本店を有し、再保険を業とする法人であるB(以下「B社」という。)の発行済株式の全てを保有している原告に対し、B社が、租税特別措置法(以下「措置法」という。)66条の6第1項所定の特定外国子会社等に該当するとして、同項に規定する課税対象留保金額に相当する金額を原告の所得の金額の計算上、益金の額に算入して本件各事業年度の更正処分等及び本件通知処分(以下、これらを併せて「本件各処分」という。)がされたため、これを不服とした原告が、本件各処分の取消しを求める事案である。
■原告は、国内に本店を置き、損害保険等を業とする株式会社である。
■B社は、平成10年12月にガーンジー島において設立された再保険を業とする外国法人であり、同社は設立以来、その発行済株式の全てを原告に所有されており、措置法66条の6第2項1号が規定する外国関係会社に該当する。
■関係法令には次のような定めがある。
■特定外国子会社等の留保金課税(措置法66条の6)
措置法66条の6第1項は、その有する外国関係会社(外国法人であって、居住者及び内国法人によって発行済株式等の50%超を直接又は間接に保有されているものをいう。以下同じ。)の直接及び間接保有の株式等(株式及び出資をいう。以下同じ。)の当該外国関係会社の発行済株式の総数又は出資金額(以下「発行済株式等」という。)に占める割合が5%以上である内国法人に係る外国関係会社のうち、本店又は主たる事務所(以下「本店等」という。)の所在する国又は地域(以下「国等」という。)におけるその所得に対して課される税の負担が本邦における法人の所得に対して課される税の負担に比して著しく低いものとして政令で定める外国関係会社に該当するもの(以下「特定外国子会社等」という。)が、昭和53年4月1日以降に開始する各事業年度において、その未処分所得の金額(措置法66条の6第2項2号に規定する「未処分所得の金額」をいう。以下同じ。)から留保したものとして、政令で定めるところにより、当該未処分所得の金額につき当該未処分所得の金額に係る税額及び利益の配当又は剰余金の分配の額に関する調整を加えた金額(以下「適用対象留保金額」という。)を有する場合には、その適用対象留保金額のうち、当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等に対応するものとして政令で定めるところにより計算した金額(以下「課税対象留保金額」という。)に相当する金額は、当該内国法人の収益の額とみなして当該特定外国子会社等の各事業年度の終了の日の翌日から2月を経過する日を含む当該内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定している。
■租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)39条の20第1項は、外国法人が外国関係会社に該当するかどうかの判定については、当該外国法人の各事業年度終了の時の現況によるものとし、内国法人が措置法66条の6第1項各号の内国法人に該当するかどうかの判定については、当該各号に規定する外国関係会社の各事業年度終了の時の現況によるものとする旨規定している。
■措置法施行令39条の14第1項は、措置法66条の6第1項に規定する政令で定める外国関係会社は、法人の所得に対して課される税が存在しない国等に本店等を有する外国関係会社(同項1号)及びその各事業年度の所得に対して課される租税の額が当該所得の金額の100分の25以下である外国関係会社(同項2号)とする旨規定している。
■措置法施行令39条の14第2項1号は、外国関係会社が同条1項2号の外国関係会社に該当するかどうかの判定における「所得の金額」は、当該外国関係会社の当該各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、その本店等の所在する国等(以下「本店所在地国」という。)の外国法人税(法人税法69条1項に規定する外国法人税をいう。以下同じ。)に関する法令(以下「本店所在地国の法令」という。)の規定により計算した所得の金額に、本店所在地国の法令により外国法人税の課税標準に含まれないこととされる所得の金額等を加算し、還付を受ける外国法人税の額で益金の額に算入している金額を控除した残額とする旨規定している。
■措置法施行令39条の14第2項2号は、外国関係会社が同条1項2号の外国関係会社に該当するかどうかの判定における「租税の額」は、当該外国関係会社の当該事業年度の決算に基づく所得の金額につき、その本店所在地国又は本店所在地国以外の国等において課される外国法人税の額(同号イ)及び租税条約の規定により納付したものとみなされる外国法人税の額(同号ロ)の合計額とする旨規定している。
■措置法66条の6第2項2号は、「未処分所得の金額」の意義について、特定外国子会社等の各事業年度の決算に基づく所得の金額につき、法人税法及び措置法による各事業年度の所得の金額の計算に準ずるものとして政令で定める基準により計算した金額を基礎として政令で定めるところにより当該各事業年度開始の日前5年以内に開始した各事業年度において生じた欠損の金額に係る調整を加えた金額をいう旨規定している。
■措置法施行令39条の16は、措置法66条の6第1項に規定する適用対象留保金額とは、特定外国子会社等の各事業年度の未処分所得の金額から、当該各事業年度において納付することとなる法人所得税の額及び当該各事業年度に係る利益の配当又は剰余金の分配の額の合計額を控除した残額をいう旨規定している。
■措置法施行令39条の19は、措置法66条の6第1項に規定する課税対象留保金額とは、同項各号に掲げる内国法人に係る特定外国子会社等の各事業年度の適用対象留保金額に、当該特定外国子会社等の当該各事業終了の時における当該内国法人の有する当該特定外国子会社等の直接及び間接保有の株式等の占める割合を乗じて計算した金額をいう旨規定している。
■外国法人税の意義
措置法施行令39条の14第2項1号においては、外国法人税の定義につき法人税法69条1項を引用するところ、同条同項は、外国法人税について、「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものをいう。」と規定している。
■法人税法施行令141条1項は、「法人税法69条1項に規定する外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるものは、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税とする。」と規定している。
■法人税法施行令141条2項は、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれるものとする。」と規定している。
■超過利潤税その他所得の特定部分を課税標準として課される税(同項1号)
■所得又は所得の特定の部分を課税標準として課される税の附加税(同項2号)
■所得を課税標準として課される税と同一の税目に属する税で、特定の所得につき、徴税上の便宜のため、所得に代えて収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課されるもの(同項3号)
■特定の所得につき、所得を課税標準とする税に代え、収入金額その他これに準ずるものを課税標準として課される税(同項4号)エ法入税法施行令141条3項は、「外国又はその地方公共団体により課される次に掲げる税は、外国法人税に含まれないものとする。」と規定している。
■税を納付する者が、その税の納付後、任意にその金額の全部又は一部の還付を請求することができる税(同項1号)
■税の納付が猶予される期間を、その税の納付をすることとなる者が任意に定めることができる税(同項2号)(ウ)合併、減資払戻しその他みなし配当(法人税法24条1項)の発生事由により交付を受ける金銭の額又はその他の資産の価額に対して課される税(その交付の基因となった株式の取得価額を超える部分に対して課される部分を除く。同項3号)(エ)租税条約に基づく政府間協議により移転価格合意があったことにより我が国の法人税について減額更正があった場合に、その減額分の所得を相手方の国外関連者に支払わないことを理由にこれを利益の配当とみなして課される税(同項4号)(オ)外国法人税に附帯して課される附帯税に相当する税その他これに類する税(同項5号)。
■更正の理由付記
法人税法130条2項は、税務署長は、内国法人の提出した青色申告書に係る法人税の課税標準又は欠損金額の更正をする場合には、その更正に係る国税通則法28条2項に規定する更正通知書にその更正の理由を付記しなければならない旨規定している。
■前提事実等
ガーンジー島に本店を置く法人(以下「居住法人」という。)については、原則として、その全所得に対して標準税率による所得税が課される(以下「標準税率課税」という。)。
■標準税率は、ガーンジー議会の議決により定めることとされており、当該議決により定められた標準税率は20%である〔ガーンジー所得税法5条(1)(2)〕。
■キャプティブ保険会社による免税法人の選択ガーンジー税務当局は、法令の規定に基づく免税申請があった場合において、当該申請をした団体が法令所定の要件を満たすときは、当該団体を免税とすることができ、キャプティブ保険会社(企業等が、自らの保険を専門に引き受けさせるために自ら設立する再保険会社)は、上記の法令所定の要件を満たす団体に該当する。
■また免税を認められた団体(以下「免税法人」という。)は、法令で定める料金を支払うこととされており、具体的には毎年500ポンドの申請料を支払う必要がある(ガーンジー所得税法40A条)。
■段階税率課税ガーンジー所得税法所定の要件を満たす法人は、株主持分から生じる投資所得及び保険非関連所得のみを課税対象所得として課税され、段階的な税率による課税(以下「段階税率課税」という。)を受けることを選択することができる。
■国際課税資格居住法人は、International Tax Status(以下「国際課税資格」という。)という税制上の資格を、申請により、ガーンジー税務当局から取得することができる。
■国際課税資格を取得した居住法人の所得に対して適用される税率は、当該居住法人が、資格申請において、0%を上回り30%以下の百分率により申請し、承認された税率となる(ガーンジー所得税法188C条)。
■資格申請は、ガーンジー税務当局に対する書面(以下「資格申請書」という。)の提出により行うものとし、資格申請書には、適用を申請する税率(0%超30%以下の百分率)を明記するとともに、当該税率が申請者にとって適しており、ガーンジー島の経済的利益の観点からも妥当な水準であることの情報を記載し、ガーンジー税務当局は、国際課税資格の取得要件が満たされている場合には、資格申請を承認し、国際課税資格の証明書(以下「資格証明書」という。)を発行することができる。
■なお、ガーンジー税務当局は、資格申請を拒絶することについて全面的な自由裁量権を有しており、資格申請を拒絶する場合には、申請者にその旨を通知するが、その拒絶理由を示す必要はなく、また、申請者は、その拒絶に対して異議を申し立てることができない(ガーンジー所得税法188C条、同法188D条)。
■ガーンジー所得税法は、国際課税資格を取得した居住法人について、段階税率課税を選択できない旨規定しており、国際課税資格を取得した居住法人の所得に対して適用される税率は、当該居住法人が申請し、承認を受けた税率となる(ガーンジー所得税法188E条。
■免税団体所得税法の規定の要旨
ガーンジー所得税法40A条を適用して免税を選択した免税法人は、ガーンジー税務当局管理官へ課税年度終了後3年以内に書面で通知することで、同法187A条の段階税率課税を選択できる。
■免税法人は、ガーンジ税務当局管理官へ課税年度終了後3年以内に書面で通知することで標準税率課税を選択できる。
■なお、免税法人が上記の選択をするとき、関係する当該課税年度に支払われた年間料金は、当該課税年度に関し当該団体により支払われることになる税金の支払又は税金のための支払と扱われ、また、当該料金が当該税金の額を超える場合は、その差額は同団体に還付される。
■ガーンジ所得税法187A条の段階税率課税を選択している法人又は標準税率課税を選択している法人は、課税年度終了後3年以内にいつでも、遡って免税申請することができる。
■なお、当該課税年度に係る納付済税額があれば、過大納付額の還付を受けることができる。
■B社は、平成10年(1998年)9月25日付け、平成12年(2000年)4月14日付け、同年12月13日付け、及び平成14年(2002年)1月31日付けの資格申請書において、いずれも、適用期間を1年間とし、適用税率を26%とする資格申請をしている。
■そして、ガーンジー税務当局がB社に対して発行した平成10年(1998年)10月8日付け、平成12年(2000年)4月20日付け、同年12月21日付け、及び平成14年(2002年)2月7日付けの各資格証明書(甲12の1ないし3、甲27)には、各資格申請及び26%の適用税率を承認する旨と、その適用期間がそれぞれ平成11年(1999年)12月31日、平成12年(2000年)12月31日、平成13年(2001年)12月31日、及び平成14年(2002年)12月31日をもって終了する旨が記載されている。
■B社の課税状況
B社は、平成11年分、平成12年分、平成13年分及び平成14年分の各課税年度について、適用税率26%の国際課税法人として賦課決定され(以下「本件外国税」という。)、本件外国税を納付している。
(補足)ガーンジー島事件とは
租税法律主義で納税者が逆転勝訴 外国税額控除に係わる代表的な訴訟
■ガーンジー島事件は、租税法律主義で納税者が逆転勝訴した有名判例であるとともに、外国税額控除に係わる代表的な訴訟である。
■ガーンジー政府に納付した金員の「外国法人税」該当性が争われた。本件は、「外国法人税」の該当性について、最高裁において一定の解釈が示された重要な判例である。
■概要損害保険業を営む内国法人である納税者は、イギリス領チャネル諸島のガーンジーにキャプティブ保険会社であるアークリー社を設立し、ガーンジー政府の定める法人所得税に関する所得税法の規定に定められる4つの課税方式の中から、法人所得税の税率を0%から30%の範囲内で選択して申告できる国際課税法人の資格を申請し、26%の税率を適用して所得税を納付した。
■これに対して課税当局は、このようなガーンジーの法人所得税制は到底租税というに値しないから、法人税法69条1項に規定する外国法人税には該当しないと判断。子会社たるアークリー社は、ガーンジーでは法人税負担を負っていないことになるため、課税当局が納税者はタックス・ヘイブン対策税制の適用を受けるとして課税処分等を行った。
■ガーンジー政府の定める4つの課税方式とは、下記の通りであり、このうち④が本件で問題となった国際課税法人の資格を取得して納付する法人所得税である。
①20%の標準税率課税を受ける。ガーンジー島に本店を置く居住法人に対する課税の原則形態である。
②免税法人となる。免税申請をガーンジー島税務当局が認めた場合であり、毎年500£の申請料を科す。
③段階税率課税を受ける。一定の所得について、段階的な低減税率の適用を受けられる。
④国際課税資格を取得して、0%を超え30%以下の税率による課税を受ける一定の要件を満たす居住法人は、国際課税資格を取得できる。その場合、居住法人が税率を選択して申請し、承認を得られた税率により、課税される。
■本件の争点は、本件各更正処分等において、アークリー社が、納税者の特定外国子会社等(措置法66条の6第1項)に該当するとして、納税者の所得金額の計算上、アークリー社に係る課税対象留保金額に相当する額を益金の額に算入したことが適法か否かである。実質的には、納税者がガーンジー政府と同意して26%の税率を選択して納付した本件外国税が、法人税法69条1項の外国法人税に該当するか否かが争点である。すなわち「外国法人税」の意義が問題となった。
強行性については明示なし
■最高裁は、下記の通り判示して、一審判決を取り消し、原審を破棄し、本件外国税が外国法人税に該当するとした。
“外国法人税といえるためには、それが租税でなければならないことはいうまでもないから、外国の法令により名目的には税とされているものであっても、実質的にみておよそ税といえないものは、外国法人税に該当しないというべきである。本件外国税は、ガーンジーがその課税権に基づき法令の定める一定の要件に該当するすべての者に課した金銭給付であるとの性格を有することを否定することはできない。また、本件外国税が、特別の給付に対する反対給付として課されたものでないことは明らかである。したがって、本件外国税がそもそも租税に該当しないということは困難である。法人税法69条1項は、外国法人税について、「外国の法令により課される法人税に相当する税で政令で定めるもの」をいうと定め、外国の租税が外国法人税に該当するといえるには、それが我が国の法人税に相当する税でなければならないとしている。法人税法施行令141条は、1項において外国法人税の意義を「外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税」と定めるほか、外国又はその地方公共団体により課される税のうち、外国法人税に含まれるものを2項1号から4号までに列挙し、外国法人税に含まれないものを3項1号から5号までに列挙している。以上の規定の仕方によると、外国法人税について基本的な定義をしているのは同条1項であるが、これが形式的な定義にとどまるため、同条2項及び3項において実質的にみて法人税に相当する税及び相当するとはいえない税を具体的に掲げ、これにより、同条1項にいう外国法人税の範囲を明確にしようとしているものと解される。”
(中略)
”しかし、租税法律主義に鑑みると、その判断は、あくまで同項1号又は2号の規定に照らして行うべきであって、同項1号又は2号の規定から離れて一般的抽象的に検討し、我が国の基準に照らして法人税に相当する税とはいえないとしてその外国法人税該当性を否定することは許されないというべきである。本件外国税は、その税率が納税者と税務当局との合意により決定されるなど、納税者の裁量が広いものではあるが、その税率の決定についてはあくまで税務当局の承認が必要なものとされているのであって、納税者の選択した税率がそのまま適用税率になるものとされているわけではない。本件外国税は、ガーンジーの法令に基づきガーンジーにより本件子会社の所得を課税標準として課された税であり、そもそも租税に当てはまらないものということはできず、外国法人税に含まれないものとされている法人税法施行令141条3項1号又は2号に規定する税にも、これらに類する税にも当たらず、また、法人税に相当する税ではないということも困難であるから、外国法人税に該当することを否定することはできない。”
■タックス・ヘイブン対策税制は、特定外国子会社等の範囲を画するにあたり、外国関係会社が支払った外国法人税の額を基準としている。そのため、本件では、アークリー社が特定外国子会社等に該当するか否かを巡り、法人税法69条1項に規定する「外国法人税」の意義が問題となり、同項の委任を受けた法人税法施行令141条の解釈が問題となった。タックス・ヘイブン対策税制の適用対象とされる国又は地域は、従来は個別に指定されていたが、平成4年改正により法人の所得に対する税負担がないか著しく低い国又は地域とされたため、この点についての判断は、法人税法69条1項、同施行令141条に規定する外国法人税を基準として行われる。したがって、たとえ外国子会社が相手国に一定の金銭を納付していても、それが外国法人税に該当しなければ同制度の適用を免れることはできないことになる。ここで、外国法人税の意義を厳格にとらえるべきか、それとも相手国に一定の金銭を納付している限りは広く外国法人税として認めるべきかという論点が生じるが、この点に関して、本件の最高裁判決は外国法人税に該当する事例の一つを示したものとして意義を有する。
編集者コメント
ガーンジーの法人所得税は、特別の給付に対する反対給付として課されたものではない
■本事案では、租税の意義が問題となったが、東京高裁判決では、次の通り判示している。
”一般的に「租税」とは、国又は地方公共団体が、特別の給付に対する反対給付としてではなく、公共サービスを提供するための資金を調達する目的で、法律の定めに基づいて私人に課する金銭給付であると解されている。そして、租税の特性としては、①公共サービスの提供に必要な資金を調達することを目的とし(租税の公益性)、②国民の富の一部を一方的・強制的に国家の手に移す手段であり(租税の強行性)、③特別の反対給付の性質を持たず(租税の非対価性)、④国民にその能力に応じて一般的に課される点が挙げられる。そして、我が国を含め先進諸国においては、近代法治主義に基づいて、国民の財産権の侵害の性質を有する租税の賦課・徴収は、必ず法律の根拠に基づいて行われなければならない(租税法律主義)とされ、また、近代法の基本原理である平等取扱の原則に基づいて、公共サービスの資金となる租税の負担は国民の間の担税力に即して公平に配分されなければならず、各種の租税関係において国民は平等に取り扱われなければならない(租税公平主義ないし租税平等主義)とされているところである。”
■そして、ガーンジーの法人所得税がこれら租税の特性ないし属性を備えているか否かの当てはめを行い、ガーンジー島の法人税税制は、我が国を含む先進諸国の租税概念の基本である強行性、公平性ないし平等性と相容れないものであるといわざるを得ず、ガーンジーの税制は、外国法人に対し本国におけるタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避するためのメニューを提供するためであり、それ故、ガーンジー島において徴収される「税」なるものは、税という形式をとるものの、その実質はタックス・ヘイブン対策税制の適用を回避させるというサービスの提供に対する対価ないし一定の負担としての性格を有することから、法人税法69条1項の外国法人税には該当しないと判断した。
■ここで、東京高裁判決は、租税の意義と租税の特性(公益性、強行性、非対価性、応能負担性、公平性ないし平等性)とを区別しておきながら、事案への当てはめの段階でこれらを混同しており、租税の特性を租税の該当性における必須要件であるかのように判示している点に問題があると言われる。
■特に、「強行性」要件については、本件外国税について、納税者はガーンジー税務当局により賦課決定された税の納付義務を負い、自力執行権こそないものの民事上の債務と同様に強制執行が可能であり、且つ未払いの場合には罰則によってその納付が担保されていて、強行性がないとはおよそ言い難いものであったにも拘わらず、「強行性と相容れない」と判示していた点は問題であった。
■そこで、最高裁判決では、東京高裁が、ガーンジーの法人所得税制は先進諸国の一般の租税概念とはかけ離れた不自然なものであり、強行性、公平性ないし平等性とは相容れない、さらにはサービスの提供に対する対価である、と判示した部分について明確に排斥した。その上で、本件外国税は、「ガーンジーがその課税権に基づき法令の定める一定の要件に該当するすべての者に課した金銭給付であるとの性格を有することを否定することはできない。」、「特別の給付に対する反対給付として課されたものでないことは明らかである。」と判示し、ガーンジーの法人所得税が租税に該当し得るという旨を示した。
■この判示は、大島訴訟や旭川国民健康保険料訴訟の最高裁判決で示された、租税の意義にかかる判示であった。東京高裁が、ガーンジーの法人所得税は外国法人税ではないと判示する根拠の一つとなった「強行性」要件について、最高裁は強行性があると認めたのか、そもそも租税の要件としないのかということについては明示しなかったが、強行性の要件と相容れない、サービスの提供に対する対価であるといった判示を明示的に排斥した点は大きな意味がある。
税でなければ何なのか
■他の主権国の税が「租税」に当たるかどうかの判断に関しては、租税ではないと言い得るかという問題がある。この点につき、ガーンジー島事件の東京高裁判決後に提出された鑑定意見書では、ガーンジー政府の所得税について、次のように指摘している。
”ガーンジーは、英国王室直轄の王領であるガーンジーに所在する主権を有する政府であり、その主権の一環として、その住民に対して課税権を有している。アークリー社がガーンジー政府に納付した税は、ガーンジー政府の立法府が立法した、ガーンジー所得税第1部第1章1以降の諸規定によって「税」として記載されている。そうすると、ガーンジー政府が、その所得税法の規定により「税」としているものは税であるというのが国際慣習法である。”
■つまり、ガーンジー政府は主権を有し、課税権を有しているのであるから、それを租税に該当しないと言うことは主権侵害となるということである。OECDの「有害な税の競争」報告書及びそれ以降のプログレス・レポートにおいては、「有害であるからそもそも税ではない」といった記述はおよそない。
■即ち、先進諸国やタックス・ヘイブンの税制について、それが税であるかどうかまでは論じていないのである。これは主権侵害の問題を生じるおそれがあるからであろう。東京地裁及び東京高裁は、「税ではない」という判断をした結果、「税でなければ何なのか」という問題を惹起し、これに対して「タックス・ヘイブン対策税制の適用を回避されるというサービスの提供に対する対価ないし一定の負担」という不可解な解を出さざるを得なくなったのであり、このことは、東京地裁及び東京高裁の判断枠組みの欠陥の証左であるとする見解もある。
租税法律主義に鑑みた厳格な判断
■最高裁判決は、ガーンジー島の法人所得税は租税に当たることを前提に、これが外国法人税に該当するか否かを判示するにあたり、法人税法施行令141条の規定の仕方という点に触れている。同条は、1項の規定が形式的な定義にとどまり、2項、3項で具体例を挙げて外国法人税の範囲を明確にしようとしているものと解されるとした上で、このような理解を前提とすると、施行令141条3項1号、または2号に該当しない税であっても、これらに類する税、すなわち「実質的にみて、税を納付する者がその税負担を任意に免れることができることとなっているような税は、法人税に相当する税に当たらないものとして、外国法人税に含まれないものと解することができる」と判示している。
■最終的には、ガーンジー島の法人所得税が「実質的にみて同項1号又は2号に規定する税に類するような任意にその税負担を免れることができることとなっている税」に該当するか否かという点を検討し、ガーンジー島の法人所得税はそのような税に該当せず、従って、外国法人税に該当するとした。最高裁は、3項各号以外にも「法人税に相当する税」に該当しない税があることを認めたわけだが、その要件である類似性の判断基準には注釈が付いており、「租税法律主義に鑑みると、その判断は、あくまで同項1号又は2号の規定に照らして行うべきであって、規定から離れて一般的抽象的に検討し、我が国の基準に照らして法人税に相当する税とはいえないとしてその外国法人税該当性を否定することは許されない。」とされている。
■また、最高裁は、「1号又は2号との類似性」、「任意にその税負担を免れることが可能な税」という2つの側面を、租税法律主義に鑑みた厳格な判断基準の下で検討した上、例外的に、外国法人税に該当しない税の範囲を拡大したと言える。これは、東京高裁判決が、外国政府から税を課された場合、それが外国法人税かどうかを判断するためには当該税が先進諸国の一般の租税概念とはかけ離れた不自然なものかどうかを判断しなければならず、予測可能性が害されていたことに比べると、十分限定的で、予測可能性も確保されていると評価してよいと考えられている。
■本件の最高裁判決は、租税法律主義に基づいて、事実関係を確定した後に課税要件に当てはめるという基本的な作業が重要であることを改めて確認する判決であったといえる。
重要概念/外国税額控除制度
国際的二重課税の適切な排除
■外国税額控除制度は、我が国の内国法人が外国で納付した租税を、二重課税が生じる場合に、一定の範囲内で我が国で納付する税額から控除できる仕組みであるが、外国で納付した租税のすべてを控除できるわけではなく、その控除対象となる外国税は、我が国の租税法上の「外国法人税」に該当する必要がある。
■「外国法人税」は、法人税法69条及び施行令141条でその範囲が定義されているが、その定義は抽象的で、外国で納付した租税の「外国法人税」該当性を判断するためには解釈を要する。国際的二重課税は、納税者の税負担を過度にし、国際的経済活動を抑制させてしまうため、適切に排除されねばならないが、その排除制度として国内法に定められている外国税額控除制度のうち、控除対象とされる「外国法人税」が抽象的であることは、法的安定性・予測可能性の観点から問題である。
■我が国の外国税額控除制度は、第2次世界大戦後、米国との租税条約の締結のために創設されたが、昭和37年度改正により、法人税法69条として整備された外国税額控除の種類外国税額控除は、大きく分けて、
①直接外国税額控除、
②租税条約に定めるみなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)、
③外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)の適用がある場合の外国税額控除、
④コーポレート・インバージョン対策合算税制の適用がある場合の外国税額控除の4つの制度から成る。
■①直接外国税額控除
「直接外国税額控除」は、我が国の内国法人が、国外で納付した税について、我が国において納付すべき税額から控除する制度のことである。自己が外国で納付した税を自己が我が国で納付することになる税から控除する方法により国際的二重課税を排除する制度なので、外国税額控除制度としては最も基本的な制度といえる。
■②みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)
「みなし外国税額控除(タックス・スペアリング・クレジット)」は、租税条約の規定により、源泉地国において特別措置等により軽減又は免除された税額について、本来の課税がなされたものとみなして外国税額控除を認める制度のことである。直接税額控除制度に拠った場合、税額が軽減又は免除された所得については我が国の税率で課税されることになるため、実質的には源泉地国における特別措置等の特典の効果を享受することができなくなるため、その効果を実質的に享受することを可能にするようにという観点から措置された制度であり、新興国に対する支援を目的とした措置と考えられる。
今日では、タックス・スペアリング・クレジットは縮減の方向にあり、一定の期間が経過すると適用を終了するいわゆるサンセット・クローズを条約に定める例もある。
■③外国子会社合算税制に係る外国税額控除制度
「外国子会社合算税制に係る外国税額控除制度」は、外国子会社合算税制により益金の額に算入された金額がある内国法人について、その適用対象となった特定外国子会社等が納付した外国法人税のうち益金の額に算入された金額に対応する部分の金額を、その内国法人が納付した外国法人税の額とみなして、我が国において納付すべき税額から控除する制度のことである。この制度は、外国子会社合算税制の適用を受ければ特定外国子会社等の所在地国と我が国における国際的二重課税が発生するため、これを排除するための制度である。
■④コーポレート・インバージョン対策合算税制に係る外国税額控除制度
「コーポレート・インバージョン対策合算税制に係る外国税額控除制度」は、コーポレート・インバージョン対策合算税制により益金の額に算入された金額がある内国法人について、その適用対象となった特定外国法人が納付した外国法人税のうち益金の額に算入された金額に対応する部分の金額を、その内国法人が納付した外国法人税の額とみなして、我が国において納付すべき税額から控除する税度のことである。
■これら4つの制度は各々が独立して存在するのではなく、直接外国税額控除制度に乗せて、外国法人税、控除限度額、控除対象外国法人税の計算をする仕組みとなっている。
併せて読みたい/米国デラウェア州LPS事件
デラウェア州法LPSは、我が国の租税法上の法人に該当(最判平成27年7月17日)
米国デラウェア州LPS事件は、米国デラウェア州の法律に基づいて組成されたリミテッド・パートナーシップ(LPS)について、日本の租税法上の法人該当性が争われた事案。
納税者(原告・被控訴人・被上告人)は、外国信託銀行との信託契約を介して投資し、米国デラウェア州LPS法により設立されたリミテッドパートナーシップ(以下「本件LPS」)が行う不動産賃貸事業に参加。納税者は、本件LPSは我が国の租税法上の法人には該当しないと考え、本件LPSが行う不動産賃貸に係る所得は自己の不動産所得に当たるものとして、減価償却等による損失金額を他の所得と損益通算して所得税の確定申告を行った。
これに対して課税庁が、本件LPSは租税法上の法人に該当し、その所得は納税者の不動産所得には当たらない旨の更正処分等を行ったため、納税者が国を相手取って訴訟を提起した。争点は、本件LPSは我が国の租税法上の法人に該当するか否かである。
地裁は、本件LPSは我が国の租税法上の法人には該当しないとして納税者の主張を認め、高裁もこれを支持。しかし、 最高裁は判断を覆し、本件LPSは自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果がLPSに帰属するものということができるから、権利義務の帰属主体であると認められると述べ、本件LPSは所得税法の定める外国法人に該当し、不動産賃貸事業により生じた所得も本件LPSに帰属すると判示して、課税庁の主張を認めた。